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2022年2月22日 (火)

職業安定法の本格的改正@『労基旬報』2022年2月25日号

『労基旬報』2022年2月25日号に「職業安定法の本格的改正」を寄稿しました。

 去る2月1日、政府は雇用保険法等の一部を改正する法律案を国会に提出しました。経済政策の観点からは、保険料率の引上げなど雇用保険法の改正部分が重要ですが、法政策の観点からは職業安定法の改正部分が極めて重要です。というのも、労働市場ビジネスの規制対象を古典的な職業紹介事業やそれに類するものから大きく拡大する内容だからです。「募集情報等提供事業」がその新たなフロンティア領域です。正確に言えば、2017年改正によりこの概念は法律上に導入されていましたが、今回届出制の下に置かれることとなったのです。しかし、この問題を遡るともっと昔の話につながってきます。今回は、その歴史を概観しつつ、今回の法案の中身を吟味しておきましょう。
 まず、職業紹介事業以外の雇用仲介事業に対して労働行政が関心を寄せた出発点は、1985年の労働者派遣法制定に伴って職業安定法を改正した際に、就職情報誌への規制を試み、業界の強い反発で諦めたことに遡ります。この問題は政官界を揺るがせたリクルート事件の1つの原因でもありました。その後1999年改正で有料職業紹介事業はポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に変わりましたが、情報提供事業への規制はなされないままでした。ただ、この1999年改正で求職者等の個人情報保護規定が設けられたことは重要です。これは2003年の個人情報保護法に先行する規定であり、個人情報保護委員会とは別に独自の指針を有しています。
 
 さて、募集情報提供事業が再び労働政策の議論の俎上に上ってきたのは、2017年の職業安定法改正に向けての議論においてでした。これはもともと内閣府の規制改革会議の提言から始まったもので、2015年3月から雇用仲介事業等の在り方に関する検討会(学識者7名、座長:阿部正浩)で審議され、翌2016年6月に報告書をとりまとめ、同年9月から労政審労働力需給制度部会で審議し、同年12月の建議を経て翌2017年3月に職業安定法が改正されました。これにより、同法に「募集情報提供」の定義規定が置かれるとともに、「第3章の2 労働者の募集」に若干の規定が置かれました(第42条、第42条の2)。ただし、第5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)の対象には、募集情報等提供事業者は含まれていません。これは、この改正が主としていわゆる求人詐欺に対する求人者規制の一環として行われたことによるものです。
 もっとも、改定された「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」には、「募集情報等提供事業を行う者は、労働者となろうとする者の個人情報の収集、保管及び使用を行うに当たっては、第四の一を踏まえること。また、募集情報等提供事業を行う者は、第四の二を踏まえ、秘密に該当する個人情報の厳重な管理等、労働者となろうとする者の個人情報の適正な管理を行うこと」と書き込まれています。ところが、この問題については改正後数年を経ずして募集情報提供事業者による個人情報の取扱いの問題が炎上することになりました。
 2019年8月、募集情報等提供事業であるリクナビを運営するリクルートキャリアが、募集企業に対し、募集に応募しようとする者の内定辞退の可能性を推定する情報を作成し提供したと報じられ、大きな社会問題となりました。この事件の詳細については、日本経済新聞データエコノミー取材班『データの世紀』日本経済新聞出版社(2019年)が詳しく記述しています。これに対して翌9月、厚生労働省が業界団体に対して「募集情報等提供事業等の適正な運営について」(令和元年9月6日職発0906第3号・第4号)を発しました。そこでは、本人同意なく、あるいは仮に同意があったとしても同意を余儀なくされた状態で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業に提供することは、募集企業に対する学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働く恐れが高いと述べ、職業安定法第51条第2項(守秘義務)違反の虞もあると指摘しています。
 さらに同年12月には、経団連等経済団体に対しても「労働者募集における個人情報の適正な取扱いについて」(令和元年12月13日職発1213第5号~第7号)を発し、指針の遵守を求めるとともに、「本人同意なく、応募する事業主への就職を希望する学生等にとっては同意しないことも現実に難しい状況で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に第三者から収集することは、学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働くおそれが高いものであるので、こうした個人情報の収集のための第三者によるサービスの利用は控えること」と述べています。ここまでが、今回の法改正に向けた動きの前史にあたります。
 
 2021年1月、厚生労働省は労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会(学識者7名、座長:鎌田耕一)を開催し、①IT化等による新しい事業モデル・サービスに対応した制度の在り方、②有料職業紹介事業及び募集情報等提供事業等をより適正かつ効果的に運営するための制度の在り方、③働き方や職業キャリアの在り方が多様化する中で、需要サイドと供給サイド双方にとって機能的な労働市場を実現するための制度や官民連携の在り方、について検討を開始し、7月に報告書をとりまとめました。
 同報告書は、民間職業紹介事業者の取り扱う職種・年収の下限が拡大する一方で、求人メディアが紙からインターネット化して幅広い職種・年収を取り扱うようになり、さらにIT技術の進展により、人材データベース、アグリゲーター、SNS、スポットマッチング、クラウドソーシングなど多様な雇用仲介サービスが登場してきたとし、情報の的確性の確保、個人情報の保護、さらには仕事を探す者の保護について今後の規制の在り方を提起しています。
 その後同年8月からは労働政策審議会労働力需給制度部会(公労使各4名、部会長:山川隆一)で雇用仲介事業等の在り方についての審議が始まり、12月8日に報告書をとりまとめ、建議に至りました。
 具体的措置の第1は雇用仲介事業者が依拠すべきルールの拡充です。まず募集情報等の的確性については、現行の第42条が求人者についてのみ募集内容の的確な表示を求めているのを雇用仲介事業者全般に拡大し、職業紹介事業者、求人者、募集情報等提供事業者などは、雇用形態等の労働条件が実際と異なることがないよう、募集情報等や事業に関する情報を提供する際に、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはならないこと等を提示しました。次に現行第5条の4の対象に募集情報提供事業者が含まれていないのを拡大し、募集情報等提供事業者を含め雇用仲介事業者は、業務上取り扱ったことについて知り得た他人の秘密を漏らしたり、業務上知り得た個人情報等について濫りに他人に知らせてはならないこと等を示しました。
 もう一つの柱が募集情報等提供についての新たな規定です。現行法では、労働者となろうとする者や募集者からの依頼を受けないで、労働者となろうとする者に関する情報や募集に関する情報を提供する場合などは、募集情報等提供に該当しません(第4条第6項)が、そうした場合も募集情報等提供に該当することとし、細かな場合分けをしています。また、現行法では他の雇用仲介事業と異なり、募集情報提供等事業者は許可も届出も必要なく、緩やかな努力義務がかかっているだけですが、これを改めて届出制を導入しようとしています。さらに、職業紹介事業者と横並びで、募集情報等提供事業者も苦情処理の体制を整備しなければならず、募集に応じた労働者から報酬を受領してはならないことを規定するとともに、事業情報の公開の努力義務、ルール違反への対応として現行の助言・指導、報告徴収に加え、改善命令、停止命令、立入検査を規定し、上記届出義務や公衆衛生・公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、虚偽の広告で募集情報等提供を行うことへの罰則も設けるべしとしています。
 
 年明けて2022年1月に法案要綱について諮問答申を受け、去る2月1日に雇用保険法の改正案等と束ねて職業安定法の改正案が国会に提出されたわけです。
 そこではまず、「募集情報等提供」の定義に、「労働者の募集に関する情報を、労働者になろうとする者の職業の選択を容易にすることを目的として収集し、労働者になろうとする者等(=労働者になろうとする者又は職業紹介事業者等)に提供すること」(第4条第6項第2号)、「労働者になろうとする者等の依頼を受け、労働者になろうとする者に関する情報を労働者の募集を行う者、募集受託者又は他の職業紹介事業者等に提供すること」(同第3号)、「労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者等に提供すること」(同第4号)を追加し、これらも官民協力の対象と位置付けました。これらのうち、特に労働者になろうとする者に関する情報を収集して行うものを「特定募集情報等提供」と呼んでいます。
 これまで求人者のみの努力義務に過ぎなかった第42条の代わりに、新第5条の4として「求人等に関する情報の的確な表示」が設けられ、公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者に対し、刊行物に掲載する広告、文書の掲出や頒布等により、求人、募集に関する情報、求職者や労働者になろうとする者に関する情報等を提供するときは、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、その情報を正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならないないという一般的な義務規定が設けられました。また旧第5条の4の個人情報保護規定は新第5条の5となり、特定募集情報等提供事業者も対象に含められました。逆に言うと、それ以外の募集情報提等提供事業を行う者はここでの個人情報保護規定の対象ではありません。
 改正法案では「労働者の募集」の次に新第3章の3として「募集情報等提供事業」を置き、特定募集情報等提供事業者に届出義務を課しています(第43条の2)。特定募集情報等提供事業者には、その情報提供による労働者募集に応じた労働者からの報酬受領の禁止と事業停止命令、事業報告書の提出が規定され、それ以外も含む募集情報等提供事業を行う者には苦情処理体制の整備のほか、事業情報の公開等の規定が設けられています。その他にも、職業紹介事業者と募集情報等提供事業を行う者からなる事業者団体の規定が設けられています。
 この法案は来る4月1日が施行日とされており、今後3月末までになんとか国会を通過して法律が成立しても、実はほとんど施行準備期間というのはありません。世の中にかなり大きな影響を与える可能性のある法改正であるだけに、もっと注目される必要があります。

 

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