森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現』
森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現』(勁草書房)をお送りいただきました。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b598922.html
大手家電量販店の賃金データ、労働時間データ調査から、「職務評価システムの構築」の上に、家電量販業界を対象に職務評価に基づく「同一価値労働同一賃金制度」を設計し提案。カナダのペイ・エクイティ法を先進事例として参照し、日本の企業において同一価値労働同一賃金を実行できる法的枠組みと職務評価・賃金制度を提起する。
森さんら社会政策研究者と浅倉さんら労働法研究者によるタイトル通りの本です。
なんですが、読んでいくと正直何とも言われぬ苛立たしさみたいなものを感じざるを得ません。
そもそも、タイトルになっている「同一価値労働同一賃金」とは、同一労働同一賃金原則が(少なくとも規範としては立派に)確立していることを大前提に、しかしそれだけでは女性差別を真になくすことはできない、という問題意識から生み出されたものです。そのことは、本書冒頭の「はじめに」にはっきり書かれています。
この原則は、同一労働なら同一賃金を払うけれども、異なる労働なんだから賃金に格差があっても当然だろう、といって、女性を低賃金職種に押し込めてきたことに対するジョブ型社会ならではの批判なのであって、そもそも同一労働同一賃金原則なるものが、欧米社会の常識のような意味で、つまりジョブをベースにした概念としては全く確立していない、どころかそもそも存在すらしていないような日本のメンバーシップ型社会においては、実のところ(本書の執筆にあたっているようなごくごく限られた特定分野の知識を有しているような人々を除けば)ほぼ誰からもまともに理解されていないのです。
以前、『働く女子の運命』を書いたときに、経団連がそのころ言ってた「同一価値労働同一賃金」なるものが、「見かけ上同一労働に見えても、将来的な人材活用の要素も考慮して」云々というものであったことを指摘しましたが、とにかく、同一労働同一賃金というジョブ型の原則すら否定するために「同一価値労働」を持ち出してくるような話がまかり通るこの社会で、本書は非常に多くの人にとっては何を言っているのかほぼ理解されないような本であり続けているように思われます。
それほど、本来の意味の「ジョブ型」からかけ離れた日本で、ほんの数年前までその意味を最も理解していなかった経済界が唱道する「ジョブ型」が、同一労働同一賃金とも、いわんや同一価値労働同一賃金ともほとんど縁のないものであるのはあまりにも当然なのかもしれません。
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「労働生産性の計量」とも大きく絡むと思いますが、
> 同一労働なら同一賃金を払うけれども、異なる労働なんだから賃金に格差があっても当然だろう、といって、女性を低賃金職種に押し込めてきた
って、例えば、ヨーロッパでどれだけ実証されているのでしょう。まあ、「女性が多い仕事だから、低賃金で良いだろう」(価格付け)の話ではなくて、「君は女性だから、低賃金職種の職業訓練をお薦めします」という話なのかもしれませんが。後者については、かなり解消されていると推察します。前者の実証は、極めて興味深いですね
投稿: フェミ姫 | 2022年2月19日 (土) 10時43分