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2022年2月 9日 (水)

関家ちさと『日本型人材育成の有効性を評価する―企業内養成訓練の日仏比較』

9784502401619_430 関家ちさと『日本型人材育成の有効性を評価する―企業内養成訓練の日仏比較』(中央経済社)をいただきました。関家さんは現在JILPTの研究員をしていますが、本書は学習院大学時代の博士論文がもとになっています。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-40161-9

日仏企業の人材育成について、両国企業へのインタビュー調査により、どのように違いがあり、その違いはどのように生まれているか、また強みや課題は何かを明らかにしている。

 わたしは4年前に元になった博士論文を読んでいますが、その時の感想と特に変わりはありませんでした。日本企業の人材養成・人事管理システムをフランスの人材養成・人事管理システムと比較し、日本企業の今後の方向性を考察しています。企業内養成訓練の比較調査は、就業1年目は日5名、仏4名、初期キャリア(~10年目)は日9名、仏8名、課長職は日6名、仏5名、人事管理は日7社、仏7社への聞き取りに基づくものです。また養成訓練の日仏比較のための「ものさし」として、仕事の幅、難易度(職群、業務、作業)、裁量度(業務、作業)を測定する詳細な枠組を設計し、これにより両国の基幹職労働者が新規採用時から課長職に至るまでに、どのように仕事の幅と難易度、裁量度が変化していくかを、定量的に示すことができるようにしています。
 その結論として、両国の違いは次の通りです。
①日本は就職後から養成訓練が始まるが、フランスは在学中から学生個人によって養成訓練が始まる。
②日本は多能工型で、10年間の前半に仕事の幅が拡大し、後半に重要度が高まるが、フランスは専門職型で、前半は特定の範囲に限定してキャリアを築き、課長に昇進する後半に仕事の幅が急拡大する。
③日本は初期能力が低いため、企業が主体となりOJT,OffJT等豊富な訓練機会を提供するが、フランスは在学中の養成訓練により即戦力に育った人材を採用するため、就職後の訓練機会は限定的。なお、仕事の深さで見ると、日本の5年目がフランスの1年目、日本の10年目がフランスの5年目、日本の課長(17.5年目)がフランスの課長(10年目)に相当し、人材養成スピードに差がある。
 この結論は、世上常識的に語られていることを確認したに過ぎず、それほど新たな知見ではない、と考える人がいるかも知れませんが、そうではありません。世上語られていることであっても、その実証的根拠は意外に乏しいことがよくあるし、定性的にはある程度の根拠をもって語られていることであっても、定量的な根拠は乏しいということは多いのです。とりわけ、人事管理の国際比較に関わることについては、誰もがクリシェとして語りながら、その根拠は個人的な経験の断片であることが少なくありません。
 その意味で、この研究が日仏それぞれ20~30人近くに及ぶ丁寧な聞き取り調査に基づいて、それぞれの国の人材養成、人事管理のありようをその細かなひだに至るまで浮き彫りにしていることの意義は、人事労務管理という学問分野に対する貢献としても極めて高く評価すべきものでしょう。
 また研究手法としては、日仏の人材養成、人事管理の比較という、それ自体としては決して壮大ではなく、中くらいの規模の研究課題に対して、聞き取り調査結果を適切に分析するための「ものさし」を構築するために、仕事の幅、難易度(職群、業務、作業)、裁量度(業務、作業)を測定する詳細な枠組を設計している点が好感が持てます。そして、これだけの緻密な調査結果から、きちんと間違いなく言えることだけを結論として提示するという誠実さも好感が持てます。

 なお、博士論文ではその約半分以上がインタビュー記録であり、これが大変面白かったのですが、さすがに商業出版ベースには乗らないと見えて、本書ではばっさりと切られています。

日本型人材育成の有効性を評価する
■企業内養成訓練の日仏比較
目次

はしがき

第1章 研究の背景と目的
第1節 企業内養成訓練とは何か
第2節 研究の目的とフレームワーク
第3節 比較対象にフランス,人事スタッフを選んだ理由
第4節 分析方法〈仕事内容と訓練内容をどう評価するか)
第5節 本書の構成

【第1編 日仏の企業内養成訓練の特徴】

第2章 日本の企業内養成訓練
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験と訓練経験
第3節 課長職の仕事内容
第4節 仕事経験と訓練経験からみた日本型企業内養成訓練の特徴

第3章 フランスの企業内養成訓練
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験と訓練経験
第3節 課長職の仕事内容
第4節 仕事経験と訓練経験からみたフランス型企業内養成訓練の特徴

第4章 企業内養成訓練の日仏比較
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験
第3節 10年目までの訓練経験
第4節 課長職の仕事内容
第5節 両国の企業内養成訓練の特徴

【第2編 日仏の人事管理の特徴】
第5章 日本の人事管理
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理
第6節 まとめ

第6章 フランスの人事管理
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理
第6節 個別事例から見るフランスの人事管理
第7節 まとめ

第7章 人事管理の日仏比較
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理

【第3編 結論】

第8章 多能型人材育成策をとる日本と、
     専門職型人材育成策をとるフランス
-本研究の成果と課題-
第1節 日仏の企業内養成訓練と人事管理の関係性
第2節 日仏の企業内養成訓練の強みと課題
第3節 本研究の貢献
第4節 本研究の課題
 

 

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