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2022年2月

2022年2月28日 (月)

これぞジョブ型、丸亀製麺@アメリカ

Inside2 インチキジョブ型論への解毒剤として、昨日はアカデミックな自動車産業労働研究を紹介しましたが、も少し下世話なレベルでジョブ型ってものの本質がよく分かる記事がありました。

https://blog.btrax.com/jp/japan-dx-challenges/(アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由)

Inside7 ・・・そこであることに気づいた。

「めっちゃ人多くない?」と。それも、お客さんだけではなくて、従業員の数が。

従業員がめっちゃいる。列に並んでいる客と同じぐらいに。そして、それぞれのスタッフが “一つ” の作業しかしていない。

・・・そう、それぞれの工程がきっちりと分業されており、それぞれの “担当者” が決まっている。言い換えると、一人につき一つの作業が割り当てられているのだ。

Inside13 ざっと見ただけでも下記が担当で分かれてる。

  • オーダーを取る人
  • 麺を準備する人
  • 麺を茹でる人
  • 茹でた麺を渡す人
  • 麺を冷やす人
  • 麺をお椀に入れる人
  • お椀に汁を入れる人
  • お椀にトッピングを入れる人
  • お椀をお客さんに渡す人
  • 天ぷらを揚げる人
  • 揚げた天ぷらを並べる人
  • 会計をする人

これだけでも12人。

Inside10 つまり、一杯のうどんがお客さんの手元に渡るまでに12人のスタッフが関わっていることになる。これは凄い。F1のピットストップを彷彿とさせる超分業スタイルだ。

これに加え、テーブルを片付ける人や後ろのキッチン、マネージャーなどを含めると相当の従業員数になるだろう。

これはもちろん、最低賃金レベルで雇うシングルタスクの労働者の話であって、もっと上の方のクラスに行けば、このタスク、あのタスクと書き並べたジョブ・ディスクリプションってものがでてくるわけです。でも、ものごとの本質はこういうこと。

リンク先でも嘆息しているように、同じような最低賃金レベルで雇うカジュアル労働力に対する要求水準が日本では超絶的に高くなる。

・・・これが日本だとどうだろう?例え決して時給の高くないコンビニのバイトであったとしても、少人数で超マルチタスクが求められる。

レジ業務はもちろん、棚卸しや各種支払い、宅配便の手配、簡単な調理、清掃などなど、数十種類のタスクを、一人のバイトがまかなうことも少なくはない。

言い換えると、コンビニは一人の人間が超マルチタスクで運営している。

いやいやそれどころか、雇われたばかりで教えられてもいないことを現場で即座に判断して店舗を回すことすら求められるわけですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/ojtposse25-bdaa.html(すき家流究極のOJT?@『POSSE』25号)

・・・その後、実際に店舗に入りましたが、商品の作り方については全く教わっていない状態で、入ってからも、時々優しい先輩が教えてくれる程度で基本的にはあまり教えてもらえません。そのような状況にもかかわらず、5回目くらいの勤務で深夜帯の「ワンオペ」をやることになりました。その日に出勤したらマネージャーがいて、「今日ワンオペね」といきなりいわれたんです。それで、いつ何をしたら良いかよくわからない状態のままワンオペになって・・・・・・・。商品の盛りつけ方がわからず、仕方がないのでメニューを客席から取って、メニューの写真を見ながら盛りつけをしました。後で知り合った大学1年生のアルバイトは、2日目でワンオペになったらしく、電話でマネージャーに聞きながら盛りつけをしたと言ってましたね。

一番ピンチだったのは、初日に「牛丼ライト」を注文されたときです。作り方がわからなくて、どうしようかと焦りました。・・・どうしようもなくて、インターネットで「すき家 牛丼ライト 作り方」というようなキーワードで検索してみたところ、「ヤフー知恵袋」で同じような質問をしているような人を見つけました。・・・

世界広しといえども、現場の労働者に何も教えず、ヤフー知恵袋で調べさせるほどにまでOJTをとことんつきつめた企業はすき家くらいではないでしょうか。

仕事の技は先輩から盗めということわざはありますが、ヤフー知恵袋で調べて対応しろというのは、まことに究極のOJTといえましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年2月27日 (日)

いんちきジョブ型論への最良の解毒剤

4121022750 「ジョブ型」なる言葉を能力主義やら成果主義のさらに輪をかけたすっごい奴みたいに売り込むいんちき論者がはびこる中で、一昨年来「ジョブ型は古くさいぞ、硬直的だぞ、だけど労働者にとって楽なんだぞ」と百万回繰り返してもなかなか伝わらないわけですが、本場アメリカのジョブ型の最も典型的な自動車産業の現場の姿をリアルに描き出したのが篠原健一『アメリカ自動車産業』(中公新書)です。もう8年前に出された本書を、今この時点で改めて紹介しているのは、書評家ブロガーの山下ゆさん。

https://merkmal-biz.jp/post/6461

・・・そして、本書は近年日本でも話題になっている「ジョブ型」と呼ばれる働き方がいかなるものであるのかを教えてくれる本でもある。日本では、ジョブ型という働き方を今までの日本的な働き方(メンバーシップ型)より新しいものとして捉える向きもあるが、本書を読めばそうした誤解も解けるはずである。・・・・

出来れば本書をじっくりと読まれるといいと思いますが、この山下ゆさんの的確な要約を一瞥するだけで、世にはびこる「ジョブ型」論がいかにものごとを正反対に取り違えたインチキな代物であるかがよくわかると思います。

・・・ただ、本書の面白さはそこだけにとどまらず、

・アメリカ = 能力主義
・日本 = 年功序列

という一般的なイメージを覆してくれるところにもある。生産現場においては、アメリカでは「公正ではない」と退けられた能力主義が日本では受け入れられているのである。

 また、本書はここ最近日本でも話題になっているジョブ型の働き方がどのようなものであるかを、わかりやすく実感させてくれるものとなっている。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-389a48.html(「ジョブ型」の典型は、アメリカ自動車産業のラインで働くブルーカラー労働者である)

・・・・・こういうのを見ていると、この日経記者さんは、日米欧の過去100年以上にわたる労働の歴史なんていうものには何の関心もなく、そういう中で生み出されてきた「ジョブ型」システムというものの社会的存在態様なんかまったく知る気もなく、ただただ目の前の成果主義ということにしか関心がなく、それに都合よく使えそうならば(実は全然使えるものではないのだが)今受けてるらしい「ジョブ型」という言葉をやたらにちりばめれば、もっともらしい記事の一丁上がり、としか思っていないのでしょう。

最近のときならぬ「ジョブ型」の流行で、ちゃんとした労働関係の本なんかまったく読まずにこの言葉を口ずさんでいる多くの人々に、とにかく一番いい清涼剤を処方しておくと、

「ジョブ型」の典型は、アメリカ自動車産業のラインで働くブルーカラー労働者である

これ一つ頭に入れておくと、今朝の日経記事をはじめとするインチキ系の情報にあまり惑わされなくなります。

世界の労働者の働き方の態様は実に千差万別です。その中で、アメリカ自動車産業のラインで働くブルーカラー労働者は、そのあまりにも事細かに細分化された「ジョブ」の硬直性により有名です。

間違えないでください。「ジョブ型」とはまずなによりもその硬直性によって特徴づけられるのです。

だってそうでしょ。厳格なジョブ・ディスクリプションによってこれは俺の仕事、それはあんたの仕事と明確に線引きされることがジョブ型のジョブ型たるゆえんなんですから。

数か月後に刊行される『働き方の思想史講義』(仮題、ちくま新書)の中でも引用していますが、監督者がごみを拾ったといって組合が文句をつけてくるのが本場のジョブ型なんですよ。

そういうジョブの線引きの発想はホワイトカラーにも適用され、雇用契約というのは契約の定めるジョブの範囲内でのみ義務を負い、権利を有するという発想が一般化したわけです。それがジョブ型労働社会の成立。おおむね20世紀半ばごろまでに確立したと言われています。

一方、賃金支払い原理としての成果主義か時間給かというのは、一応別の話。

一応といったのは、むしろジョブ型が確立することで、それまで一般的だった出来高給が影を潜め、時間給が一般化していったからです。

これも、不勉強な日経記者をはじめ、圧倒的に多くの日本人が逆向きに勘違いしているようですが、ジョブ型の賃金制度とは、ジョブそのものに値札が付いているのであり、ということは、人によって値段が違うということはそもそもあり得ないのです。

そもそもジョブ型ではなく、人に値札が付くのがあまりにも当たり前に思っている日本人には意外に思えるかもしれませんが、日本以外の諸国では、ブルーカラーはもとより、ホワイトカラーでもクラーク的な職務であれば、成果による差というのは原則的になく、まさにジョブにつけられた値札がそのまま賃金として支払われます。

ホワイトカラーの上の方になると、そのジョブディスクリプション自体が複雑で難しいものになりますから、その成果実績でもって差がつくのが当たり前になりますが、それは労働者全体の中ではむしろ少数派です。末端のヒラのペイペイまで査定されるなんてのは、人に値札が付くのを不思議に思わない日本人くらいだと思った方がいいくらいです。まあ、日本の「査定」ってのは大体、成果なんかよりもむしろ「情意考課」で、「一生懸命頑張ってる」てのを評価するわけですが、そういうのは日本以外ではないって考えた方がいい。やったら差別だと言われますよ。

で、欧米のジョブ型でも上の方は成果主義で差が付きます。はい、日本の最近のにわか「ジョブ型」論者は、なぜかそこだけ切り出してきて、それよりはるかの多くの労働者を(頑張りで査定している)疑似成果主義の日本を、あたかも純粋時間給の社会であるかのように描き出して、ジョブ型にして成果主義にしようといい募るんですね。いや純粋時間給は欧米の一般労働者の方ですから。

そうじゃないのがいわゆるエグゼンプトとかカードルで、彼らは初めからそういう高い地位で就職します。そういうハイエンドのジョブ型は、日本みたいに頑張りで情意評価なんてのはなくて業績で厳しく査定されますから、多分そこだけ見れば日本が甘くて欧米が厳しいみたいな感想が出てくるのでしょう。

 

 

 

2022年2月26日 (土)

ウクライナ危機にドミニク・リーベン『帝国の興亡』を読む(再掲)

ほんの12日前のエントリですが、再掲します。 

S_01014636230 原著は2000年、翻訳も2002年ともうふた昔も前の本ですが、ここ数日のウクライナ危機で改めてドミニク・リーベン『帝国の興亡』〔日本経済新聞社〕を読みました。

本書が刊行されたのはまさにプーチンが大統領になるころであり、まさに本書で言う「帝国以後」、ソビエト帝国崩壊後のぐちゃぐちゃの時代から、プーチン流のロシア再興戦略が発動されようとする頃であったことを思うと、今眼前で進みつつある事態は大変興味深いものがあります。

第10章「帝国以後」の最後のパラグラフにこう書かれていたことは、著者の予見性の欠如などではなく、いったん完膚なきまでに崩壊した帝国が疑似国民国家として再建しようとするときの攻撃性-本書ではオスマン帝国崩壊後のトルコにおいて活写されていたーが、エリツィン時代にはまだ表に現れていなかったということなのでしょう。

・・・ロシアが、旧ソ連の臣民だった数百万人ものムスリムの将来に再び責任を負ったり、あるいはクリミアやハリコフを手に入れようと崩壊しつつあるウクライナに介入して再び大国になる、などという考えは全くのナンセンスである。そのような政策は、西暦2050年の時点でロシアがトルコより軍事的に勝っているかと心配しているロシアの将軍たちを安心させるのが関の山だ。そのようなものは、壮大な帝国のビジョンではなく、ロシア史、あるいは過去の多大な人的犠牲に見合った達成とは言えない。現在の基本的な現実とは、帝国の理念が今や破綻し、しかもポスト帝国時代の少なくとも一世代か恐らくそれ以上にわたって、ロシア人に甚大な損害を与えながら、その理念が破綻したという事実をソ連が示したことである。

プーチンの22年は、このリーベンの結論に反証しようとする22年だったのかも知れません。

(追記)

ちなみに、このどさくさに紛れて「希望は戦争」(©赤木智弘)という言葉が、とんでもなく捩じ曲げられて「侵略万歳」という意味で使われているらしいですね。ひでぇもんだな。

 

 

 

 

『社会法のなかの自立と連帯』

600711 北海道大学社会法研究会50周年記念論集の『社会法のなかの自立と連帯』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b600711.html

編著者は、道幸哲也、加藤智章、國武英生、淺野高宏、片桐由喜という方々ですが、これは実は、編著者の一人という扱いになっている道幸さんの研究者50周年記念論集ですね。

今から50年前の1972年に、道幸さんが北海道大学の助手になり、その5年前に助教授として来ていた保原さんと始めたのが北海道大学社会法研究会で、それ以来同研究会を彩ってきた方々23人を加えた大変膨大で分厚い論集になっています。

第Ⅰ部 労働法における集団的側面
 労働組合法の見直し 道幸哲也
 労使自治・小論―集団的自治としての労使自治 唐津 博
 就業形態の多様化と労働者代表のあり方をめぐる現状と課題 國武英生
 労働契約法12 条の「就業規則」の意義 倉茂尚寛
 アメリカにおける労働者のSNS 活動に対する保護の可能性―使用者批判の投稿へのconcerted activity による保護に焦点を当てて―  松田朋彦


第Ⅱ部 労働法の基本概念とエンフォースメント
 専門職者の労働者性判断基準の検討 島田陽一 
 労働者概念の相対性について―橋本陽子『労働者の基本概念』に学ぶ―  本久洋一
 労働法におけるキャリア権の意義  鎌田耕一
 男性の育児休業取得に関する研究 菅野淑子
 会社の賃金不払いと取締役の責任  南 健悟
 統治機構問題としての公務員の労働基本権・覚書  渡邊 賢
 山梨県民信用組合事件の手続法的意義―意思表示の成否の検討過程と処分証書の位置付け─ 加藤正佳

第Ⅲ部 労働条件をめぐる現代的課題 
 解雇の金銭救済立法を考える―不当な雇用終了全般を視野に─  小宮文人 
 労働時間管理義務の現在と今後の課題  淺野高宏
 同一労働同一賃金原則の適用関係を中心とする非正規公務員の処遇改善に関する考察  迫田宏治
 均等・均衡待遇の理論的検討―労契法旧20 条の法解釈における差別禁止法理の相克─  中川 純
 男女平等賃金の実現における労働者の参加権―カナダ・ペイ・エクイティ法の経験に学ぶ― 所 浩代
 企業倒産手続における労働者の引留め―米国連邦倒産法におけるKey Employee Retention Plans の規制を参考に― 池田 悠
 フランスにおける倒産時賃金立替払いとその範囲 戸谷義治 

第Ⅳ部 社会保障法の理論課題 
 働き方に中立的な社会保険制度について  加藤智章
 社会保障政策形成における社会保障法学の意義―審議会での議論を通した一視点―  菊池馨実
 職住一体保障の再考―普遍的住宅保障に向けて―  片桐由喜
 高齢者の「功績」再考  関ふ佐子
 精神障害の発症過程における労災保険法上の法的課題―発症日を中心に 北岡大介
 家庭的保育事業の法的位置づけの変化と市町村の義務  川久保 寛
 公的年金制度における受託者責任の立法過程に関する覚書  川村 行論
 低所得稼働層への「在職給付」の意義と課題―イギリスUniversal Credit と全国最低賃金を巡る法政策を題材に― 林健太郎
 ドイツ社会扶助における「助言」議論の一側面  嶋田佳広

第Ⅴ部 北海道大学社会法研究会50 周年座談会 

典型的な論点から極めて周縁的な論点まで実にアラベスクな感じです。個人的に今の関心にピタッと合ったのは國武さんの「就業形態の多様化と労働者代表のあり方をめぐる現状と課題」ですが、中川さんの「均等・均衡待遇の理論的検討―労契法旧20 条の法解釈における差別禁止法理の相克─」も、大事なことを言っているなと感じました。

最後の座談会には、毎週土曜日の午後に研究会をやっていたことについて、こんなセリフも出てきます。

・・・・院生に人権はないっていうのがこれはもう完全に刷り込まれました(一同笑い)

 

 

 

2022年2月25日 (金)

成果給は男女賃金格差を拡大するという記事

Shutterstock_264458309 未だにジョブ型は労働時間じゃなく成果で評価するものだなどという妄言が撒き散らされている日本で、いやいやジョブ型の基本形は椅子に値札が付けられている査定のない固定価格制なんだ、ということを説明するだけで2年間が過ぎてしまいましたが、ジョブ型社会にも成果給というのはあります。

工場労働者や現場事務員レベルにはほとんどありませんが、上級クラスに行けば行くほどパフォーマンス・ペイが広がっていますし、過去数十年にわたってそれは下方にじわじわと拡大してきました。その辺の議論は日本とやや似ていて、同じジョブだからといって、働きの悪い奴と良い奴に同じペイでは不公平じゃないか、というわけです。

そういうジョブ型社会の成果給に対して、ジョブに基づく定価制を求める労働組合サイドは批判するわけですが、でも日本でよくある「お前は成果を出していないから引き下げる」というネガティブ成果主義と違って、欧米の成果主義って、「お前は成果を上げているからプレミアムを付けてやる」というポジティブ成果主義なので、なかなか批判が難しい。で、その批判のやり方のひとつとして、成果給は男女賃金格差を拡大する-からケシカランのだ、というのがあります。

本日紹介するのは、ソーシャル・ヨーロッパの「Performance-related pay and the gender pay gap」という記事。

https://socialeurope.eu/performance-related-pay-and-the-gender-pay-gap

データによると、成果主義が適用されてプレミアムをもらっているのは男性が多くて女性が少ない。ジョブベースであればもっと男女均等になるはずなのに、成果主義のせいで男性にプレミアムが上乗せされて男女格差が拡大してるじゃないか、これはケシカランね。というわけです。

The use of performance pay is likely to increase further and its contribution to gender inequality should not be ignored. More effective measures should be developed to fill the gaps in policy and legal frameworks. These could include provisions in statute or collective agreements to ensure that performance-pay schemes are transparent and gender-sensitive, awareness-raising on the gendered effects of performance pay, and data collection and research to understand these effects better.

成果給の利用はさらに拡大し、それが男女賃金格差に貢献していることは無視すべきではない。政策と法制でこのギャップを埋めるより有効な対策が必要だ。その中には、法律や労働協約で成果給が透明でジェンダーセンシティブであることを確保し、成果給の性別により異なる影響について意識啓発する等が含まれる。

なかなか難しい論点です。

 

 

 

2022年2月24日 (木)

EUのデューディリジェンス指令案

欧州委員会が昨日「企業の持続可能なデューディリジェンスに関しかつ公益通報者保護指令を改正する欧州議会と理事会の指令案」(Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on Corporate Sustainability Due Diligence and amending Directive (EU) 2019/1937)(COM(2022)71)を正式に提案しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1145

詳細はまた別稿で解説しますが、対象がかなりの大企業に限定された点が、労組やNGOから批判されているようです。

まず原則として、従業員500人超かつ全世界での売上高が直近年度で1億5千万ユーロ超の大企業が対象となります。ただし、とりわけバリューチェーンの人権侵害が問題とされる業種についてはその対象がやや中規模企業にも拡大されています。すなわち、①繊維、皮革とその関連の製造業、これらの卸売業、②農林漁業、食品製造業とこれらの卸売業、③石油、ガス、石炭、金属その他の鉱山採掘業、金属・鉱物の製造業とこれらの卸売業の3業種については、従業員250人超かつ全世界での売上高が直近年度で4千万ユーロ超の企業まで対象となります。さらに、非EU企業、つまり第三国の法律によって設立された企業であっても、EU域内で直近年度で1億5千万ユーロ超の売上があるか、売上の半分以上が上記3業種に属して4千万ユーロ超である場合には適用されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョブ型でなくなるのはベアじゃなくて定昇

依然としてジョブ型をめぐって混乱した話が飛び交っていますが、ジョブ型になったらベアがなくなるというのは、厳密な議論をすれば別ですが概ねウソです。

もちろん、「ベア」(ベースアップ)というのは、ベース賃金という日本独特の概念に基づくものなので、厳密にはジョブ型社会には対応しませんが、でもジョブ型社会でも産別組合が団体交渉して各職種の賃金額を引き上げるわけで、その総計の平均をベアみたいなものだといってそれほど間違いではない。それは確かに労働組合が交渉で勝ち取った賃上げ分なのですから。

これに対して、ジョブ型社会ではありえないのが「定昇込みいくら」という賃上げの表示方法です。定昇(定期昇給)というのは、その労働者本人にとっては確かに自分の賃金が上がることですが、労働者全体の入れ替わりを考えたら概ね高給の人が出ていって低給の人が入ってくるので平均したらとんとんであって、マクロ的には全然賃金は上がっていないのです。

マクロには賃金が上がっていないのに、ミクロ(本人)にとっては昇給してるからまあいいや、というごまかしの賃上げを「定昇込みいくら」という言い方で積み重ねてきたのが日本であって、そういうのは確かにジョブ型社会ではあり得ないんですね。

2022年2月23日 (水)

国立学校には給特法は適用されない件又はさいたま地裁裁判官の勘違いについて

Ym_20220222572oyt1i50131l_thum800 読売新聞に、国立大学の付属校で残業代未払で是正勧告という記事が載っていて、

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220222-OYT1T50196/

国立大が法人化した2004年以降、24法人で付属学校の教員に対する時間外労働などの割増賃金(残業代)の未払いが生じ、遡って15億円超を支払っていたことが22日、文部科学省の初調査でわかった。各法人は労働基準監督署から是正勧告などを受けていた。・・・

法人化後の国立大は、労働基準法に基づき、付属校の教員に残業代を支払うことが義務付けられた。一方で法人化より前は、公立校と同じく、月給の4%相当の「教職調整額」を残業代の代わりに支給していた。法人化後もこの対応を変えなかったため、残業代の未払いが生じたという。

細かな法律の適用構造については以前本ブログで詳しく解説したのでここでは省略しますが、要するに、

1.国立学校であれ公立学校であれ私立学校であれ、全ての学校の教員には労働基準法が適用されている。

2.ところが1971年の給特法により、上記3種類の学校のうち、国立学校と公立学校の教員については労働基準法37条が適用除外され、残業代は払われない代わりに4%の調整額が払われることになった。私立学校は従前と何ら変わらず労働基準法がフル適用のまま。

3.ところが2004年の国立大学法人化により、上記3種類のうち、国立学校は私立学校扱いとなり、給特法は適用されず、労働基準法37条が適用されるので、残業代を払わないと違法となる。公立学校は給特法適用のまま、残業代を払わなくても合法。私立学校は労働基準法フル適用のまま。

という3か条に尽きます。

こういう(それ自体としては極めて明快な)法律の適用関係を少しでもわきまえていれば、到底かけないような信じられないような判決を下したのが、昨年10月1日のさいたま地裁の判決なんですね。いや、結論自体は正しい。公立学校の教師である原告には残業代は払われないというのは、立法それ自体の当不当は別として、法律の適用関係からすれば当然の結論です。

しかし、この判決は、何を取り違えたのか、給特法で残業代を払わないことの理由付けを、教員の職種としての特殊性に求めているんですね。

・・・教員の職務は,使用者の包括的指揮命令の下で労働に従事する一般労働者とは異なり,児童・生徒への教育的見地から,教員の自律的な判断による自主的,自発的な業務への取組みが期待されるという職務の特殊性があるほか,夏休み等の長期の学校休業期間があり,その間は,主要業務である授業にほとんど従事することがないという勤務形態の特殊性があることから,これらの職務の特質上,一般労働者と同じような実労働時間を基準とした厳密な労働管理にはなじまないものである。・・・

このような業務は,上司の指揮命令に基づいて行われる業務とは,明らかにその性質を異にするものであって,正規の勤務時間外にこのような業務に従事したとしても,それが直ちに上司の指揮命令に基づく業務に従事したと判断することができない。・・・・

教員の業務は,教員の自主的で自律的な判断に基づく業務と校長の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われているため,これを正確に峻別することは困難であって,管理者たる校長において,その指揮命令に基づく業務に従事した時間だけを特定して厳密に時間管理し,それに応じた給与を支給することは現行制度下では事実上不可能である。・・・

・・・このように給特法は、教員の職務の特殊性を踏まえ,一般労働者と同じ定量的な労働時間の管理にはなじまないとの判断を基礎として,労基法37条の適用を排除した上で,時間外で行われるその職務を包括的に評価した結果として,教職調整額を支払うとともに,時間外勤務命令を発することのできる場合を超勤4項目に限定することで,同条の適用排除に伴う教員の勤務時間の長期化を防止しようとしたものである。・・・

実をいえば、こういうロジック自体はそんなにおかしなものではありません。現実の学校の教員の仕事の実態がそうであるかどうかは別として、教育という職種についてこういう議論を展開すること自体は十分可能です。しかしながら、現在の実定法としては3種類の学校のうち公立学校にしか適用されておらず、国立学校にも私立学校にも適用されていない給特法の理屈付けを、ここまで平然と教員という職種の在り方に求めていられる神経が正直信じられないものがあります。

法律の適用関係になんかあんまり関心のない教育哲学者とかならともかく、六法全書の条文が判断の根拠でなければならないはずの裁判官が、「教員の職務の特殊性」などという無造作で雑駁な言葉一つで公立学校の教員のみにしか適用されない給特法を説明した気になれるのか、不思議でなりません。国立学校の教員であれ私立学校の教員であれ公立学校の教員と何ら職務内容において異なるところがないはずですが。

というわけで、公立学校の教員とまったくその自主性や自律性において変わるところがなく、それ故このさいたま地裁の裁判官の理屈からすれば「一般労働者と同じ定量的な労働時間の管理にはなじまない」から「時間外で行われるその職務を包括的に評価した結果として 」残業代を払ってこなかったのに、それが労働基準法違反だと𠮟りつけられるのですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年2月22日 (火)

職業安定法の本格的改正@『労基旬報』2022年2月25日号

『労基旬報』2022年2月25日号に「職業安定法の本格的改正」を寄稿しました。

 去る2月1日、政府は雇用保険法等の一部を改正する法律案を国会に提出しました。経済政策の観点からは、保険料率の引上げなど雇用保険法の改正部分が重要ですが、法政策の観点からは職業安定法の改正部分が極めて重要です。というのも、労働市場ビジネスの規制対象を古典的な職業紹介事業やそれに類するものから大きく拡大する内容だからです。「募集情報等提供事業」がその新たなフロンティア領域です。正確に言えば、2017年改正によりこの概念は法律上に導入されていましたが、今回届出制の下に置かれることとなったのです。しかし、この問題を遡るともっと昔の話につながってきます。今回は、その歴史を概観しつつ、今回の法案の中身を吟味しておきましょう。
 まず、職業紹介事業以外の雇用仲介事業に対して労働行政が関心を寄せた出発点は、1985年の労働者派遣法制定に伴って職業安定法を改正した際に、就職情報誌への規制を試み、業界の強い反発で諦めたことに遡ります。この問題は政官界を揺るがせたリクルート事件の1つの原因でもありました。その後1999年改正で有料職業紹介事業はポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に変わりましたが、情報提供事業への規制はなされないままでした。ただ、この1999年改正で求職者等の個人情報保護規定が設けられたことは重要です。これは2003年の個人情報保護法に先行する規定であり、個人情報保護委員会とは別に独自の指針を有しています。
 
 さて、募集情報提供事業が再び労働政策の議論の俎上に上ってきたのは、2017年の職業安定法改正に向けての議論においてでした。これはもともと内閣府の規制改革会議の提言から始まったもので、2015年3月から雇用仲介事業等の在り方に関する検討会(学識者7名、座長:阿部正浩)で審議され、翌2016年6月に報告書をとりまとめ、同年9月から労政審労働力需給制度部会で審議し、同年12月の建議を経て翌2017年3月に職業安定法が改正されました。これにより、同法に「募集情報提供」の定義規定が置かれるとともに、「第3章の2 労働者の募集」に若干の規定が置かれました(第42条、第42条の2)。ただし、第5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)の対象には、募集情報等提供事業者は含まれていません。これは、この改正が主としていわゆる求人詐欺に対する求人者規制の一環として行われたことによるものです。
 もっとも、改定された「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針」には、「募集情報等提供事業を行う者は、労働者となろうとする者の個人情報の収集、保管及び使用を行うに当たっては、第四の一を踏まえること。また、募集情報等提供事業を行う者は、第四の二を踏まえ、秘密に該当する個人情報の厳重な管理等、労働者となろうとする者の個人情報の適正な管理を行うこと」と書き込まれています。ところが、この問題については改正後数年を経ずして募集情報提供事業者による個人情報の取扱いの問題が炎上することになりました。
 2019年8月、募集情報等提供事業であるリクナビを運営するリクルートキャリアが、募集企業に対し、募集に応募しようとする者の内定辞退の可能性を推定する情報を作成し提供したと報じられ、大きな社会問題となりました。この事件の詳細については、日本経済新聞データエコノミー取材班『データの世紀』日本経済新聞出版社(2019年)が詳しく記述しています。これに対して翌9月、厚生労働省が業界団体に対して「募集情報等提供事業等の適正な運営について」(令和元年9月6日職発0906第3号・第4号)を発しました。そこでは、本人同意なく、あるいは仮に同意があったとしても同意を余儀なくされた状態で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業に提供することは、募集企業に対する学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働く恐れが高いと述べ、職業安定法第51条第2項(守秘義務)違反の虞もあると指摘しています。
 さらに同年12月には、経団連等経済団体に対しても「労働者募集における個人情報の適正な取扱いについて」(令和元年12月13日職発1213第5号~第7号)を発し、指針の遵守を求めるとともに、「本人同意なく、応募する事業主への就職を希望する学生等にとっては同意しないことも現実に難しい状況で、学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で合否決定前に第三者から収集することは、学生等の立場を弱め、学生等の不安を惹起し、就職活動を萎縮させるなど学生等の就職活動に不利に働くおそれが高いものであるので、こうした個人情報の収集のための第三者によるサービスの利用は控えること」と述べています。ここまでが、今回の法改正に向けた動きの前史にあたります。
 
 2021年1月、厚生労働省は労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会(学識者7名、座長:鎌田耕一)を開催し、①IT化等による新しい事業モデル・サービスに対応した制度の在り方、②有料職業紹介事業及び募集情報等提供事業等をより適正かつ効果的に運営するための制度の在り方、③働き方や職業キャリアの在り方が多様化する中で、需要サイドと供給サイド双方にとって機能的な労働市場を実現するための制度や官民連携の在り方、について検討を開始し、7月に報告書をとりまとめました。
 同報告書は、民間職業紹介事業者の取り扱う職種・年収の下限が拡大する一方で、求人メディアが紙からインターネット化して幅広い職種・年収を取り扱うようになり、さらにIT技術の進展により、人材データベース、アグリゲーター、SNS、スポットマッチング、クラウドソーシングなど多様な雇用仲介サービスが登場してきたとし、情報の的確性の確保、個人情報の保護、さらには仕事を探す者の保護について今後の規制の在り方を提起しています。
 その後同年8月からは労働政策審議会労働力需給制度部会(公労使各4名、部会長:山川隆一)で雇用仲介事業等の在り方についての審議が始まり、12月8日に報告書をとりまとめ、建議に至りました。
 具体的措置の第1は雇用仲介事業者が依拠すべきルールの拡充です。まず募集情報等の的確性については、現行の第42条が求人者についてのみ募集内容の的確な表示を求めているのを雇用仲介事業者全般に拡大し、職業紹介事業者、求人者、募集情報等提供事業者などは、雇用形態等の労働条件が実際と異なることがないよう、募集情報等や事業に関する情報を提供する際に、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはならないこと等を提示しました。次に現行第5条の4の対象に募集情報提供事業者が含まれていないのを拡大し、募集情報等提供事業者を含め雇用仲介事業者は、業務上取り扱ったことについて知り得た他人の秘密を漏らしたり、業務上知り得た個人情報等について濫りに他人に知らせてはならないこと等を示しました。
 もう一つの柱が募集情報等提供についての新たな規定です。現行法では、労働者となろうとする者や募集者からの依頼を受けないで、労働者となろうとする者に関する情報や募集に関する情報を提供する場合などは、募集情報等提供に該当しません(第4条第6項)が、そうした場合も募集情報等提供に該当することとし、細かな場合分けをしています。また、現行法では他の雇用仲介事業と異なり、募集情報提供等事業者は許可も届出も必要なく、緩やかな努力義務がかかっているだけですが、これを改めて届出制を導入しようとしています。さらに、職業紹介事業者と横並びで、募集情報等提供事業者も苦情処理の体制を整備しなければならず、募集に応じた労働者から報酬を受領してはならないことを規定するとともに、事業情報の公開の努力義務、ルール違反への対応として現行の助言・指導、報告徴収に加え、改善命令、停止命令、立入検査を規定し、上記届出義務や公衆衛生・公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、虚偽の広告で募集情報等提供を行うことへの罰則も設けるべしとしています。
 
 年明けて2022年1月に法案要綱について諮問答申を受け、去る2月1日に雇用保険法の改正案等と束ねて職業安定法の改正案が国会に提出されたわけです。
 そこではまず、「募集情報等提供」の定義に、「労働者の募集に関する情報を、労働者になろうとする者の職業の選択を容易にすることを目的として収集し、労働者になろうとする者等(=労働者になろうとする者又は職業紹介事業者等)に提供すること」(第4条第6項第2号)、「労働者になろうとする者等の依頼を受け、労働者になろうとする者に関する情報を労働者の募集を行う者、募集受託者又は他の職業紹介事業者等に提供すること」(同第3号)、「労働者になろうとする者に関する情報を、労働者の募集を行う者の必要とする労働力の確保を容易にすることを目的として収集し、労働者の募集を行う者等に提供すること」(同第4号)を追加し、これらも官民協力の対象と位置付けました。これらのうち、特に労働者になろうとする者に関する情報を収集して行うものを「特定募集情報等提供」と呼んでいます。
 これまで求人者のみの努力義務に過ぎなかった第42条の代わりに、新第5条の4として「求人等に関する情報の的確な表示」が設けられ、公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者に対し、刊行物に掲載する広告、文書の掲出や頒布等により、求人、募集に関する情報、求職者や労働者になろうとする者に関する情報等を提供するときは、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、その情報を正確かつ最新の内容に保つための措置を講じなければならないないという一般的な義務規定が設けられました。また旧第5条の4の個人情報保護規定は新第5条の5となり、特定募集情報等提供事業者も対象に含められました。逆に言うと、それ以外の募集情報提等提供事業を行う者はここでの個人情報保護規定の対象ではありません。
 改正法案では「労働者の募集」の次に新第3章の3として「募集情報等提供事業」を置き、特定募集情報等提供事業者に届出義務を課しています(第43条の2)。特定募集情報等提供事業者には、その情報提供による労働者募集に応じた労働者からの報酬受領の禁止と事業停止命令、事業報告書の提出が規定され、それ以外も含む募集情報等提供事業を行う者には苦情処理体制の整備のほか、事業情報の公開等の規定が設けられています。その他にも、職業紹介事業者と募集情報等提供事業を行う者からなる事業者団体の規定が設けられています。
 この法案は来る4月1日が施行日とされており、今後3月末までになんとか国会を通過して法律が成立しても、実はほとんど施行準備期間というのはありません。世の中にかなり大きな影響を与える可能性のある法改正であるだけに、もっと注目される必要があります。

 

韓国の全国民雇用保険@WEB労政時報

WEB労政時報に「韓国の全国民雇用保険」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 前回は、今国会に提出された雇用保険法改正案の中の、事業を開始した受給資格者等に係る受給期間の特例についてその経緯を解説しました。極めて部分的ではありますが、これは今日世界的に重要な政策課題になりつつあるフリーランスのためのセーフティネットの一環として理解することができるのです。その最後の部分で、お隣の韓国がかなり積極的な政策展開を進めており、コロナ禍の真っただ中の2020年の5月に、文在寅大統領が全国民雇用保険というスローガンを掲げて、勤労基準法の適用されない特殊形態勤労従事者に順次雇用保険を拡大適用するという方向に向かいつつあるということに言及しておきました。
 今回はその韓国における近年の政策展開をやや詳しく見ておきたいと思います。・・・・・

2022年2月21日 (月)

産業経理協会の経理部長会で講演

Logo_sangyokeri 本日、産業経理協会の経理部長会例会で「雇用システムをめぐる誤解を正す」と題して講演をしました。

https://www.sangyoukeiri.or.jp/A/2021K-20220221.html

この産業経理協会という団体、これまで全く知らなかったのですが、初代会長はあの伍堂卓雄さんだったんですね。

https://www.sangyoukeiri.or.jp/aboutus02.html

歴代の会長

伍堂 卓雄 1941年 9月 就任

Takuo_god え?伍堂卓雄って誰?と思ったあなた。もう一度『ジョブ型雇用社会とは何か』の142ページを読み直してくださいね。

・・・戦後確立した日本の賃金制度の基本的な思想は生活給にありました。生活給とは、賃金は労働者の家族も含めた生活を賄うべきものであるという考え方です。その出発点は第1次大戦直後の1922年、呉海軍工廠のトップだった伍堂卓雄中将が、『職工給与標準制定ノ要』の中で生活給思想を打ち出したことにあります。労働者が左翼思想に走らないように、家族も含めた生活を賄えるようにすべきだという発想でした。・・・・

 

 

 

2022年2月20日 (日)

北陸経済研究所でジョブ型について講演

065c7516d55a4162a230d49f4afdcc7b 一昨日(18日)、北陸経済研究所の講演会で「ジョブ型雇用の誤解とメンバーシップ型雇用の矛盾」と題してお話をしましたが、それが地元の北日本新聞に載っていたようです。

https://webun.jp/item/7828393

 北陸経済研究所の新春講演会は18日、富山市のカナルパークホテル富山であり、労働政策研究・研修機構(東京)の濱口桂一郎労働政策研究所長が「ジョブ型雇用」をテーマにリモートで講演した。オンラインを含め北陸3県の企業経営者ら約100人が参加した。

 濱口氏はジョブ型雇用について「産業革命以降の企業における基本的な雇用形態であり、日本を除く諸外国で取り入れられている」と説明。その上で「ジョブ型は成果主義ではなく、さまざまな問題が即座に解決するものでもない」とし、まず正しく理解することの大切さを訴えた。

 ジョブ型雇用は、職務内容をあらかじめ明確にし、そのスキルを持つ人を採用する雇用形態を指す。一方、日本企業では、スキルを持たない人を採用して育てる「メンバーシップ型雇用」が主流になっている。

 

2022年2月19日 (土)

不払いインターンシップは欧州社会憲章違反

本日付のPOLITICO紙に、「Belgium violates charter over unpaid internships, human rights body says」(ベルギーは不払いインターンシップについて憲章違反だと人権機関が言った)という記事が載っています。

https://www.politico.eu/article/belgium-violates-social-rights-charter-unpaid-internships-human-rights/

Belgium’s failure to crack down on problematic internships violates a key human rights charter, the European Committee of Social Rights (ECSR) said in a ruling published Wednesday.
The human rights body said Belgium breached elements of the European Social Charter, a Council of Europe treaty guaranteeing fundamental socio-economic rights, because its labor inspectorate is not sufficiently effective in detecting and preventing “bogus internships” — disguised employment involving real work for the benefit of the employer. 

ベルギーが問題のあるインターンシップを摘発しないのは人権憲章の違反だ、と欧州社会権委員会が水曜日に公表した決定は言う。この人権機関によれば、ベルギーは労働監督機関が「名ばかりインターンシップ」を十分効果的に探索し防止しなかったために、基本的社会経済的権利を保証する欧州評議会の欧州社会憲章に違反している。これは、使用者の利益のために本当は労働に従事している偽装された雇用だ。

これを訴えていたのは欧州若者フォーラムという団体で、その団体の副代表曰く:

“This decision should signal the end of unpaid internships not just in Belgium, but across Europe,” said EYF’s Vice President Frédéric Piccavet. “Unpaid internships are an exploitative practice.”

この決定はベルギーだけではなく欧州全体の不払いインターンシップの終わりを告げるべきだ。不払いインターンシップは搾取的慣行だ。

日本でインターンシップというと、見学会みたいなワンデーインターンシップか、せいぜい1週間くらいのままごとみたいな「いんたーんしっぷ」が大勢ですが、何にもできない素人を潜在力で採用するメンバーシップ型雇用社会と違い、具体的なジョブの募集にそのジョブを遂行しうるスキルがあることを証明してはじめて採用されるジョブ型社会では、インターンシップという名のもとに何年も無給で労働に従事させられるという状況が広範に広がっています。

採用されるためにはその仕事をできることを証明しなければならず、そのためにはその仕事に実際について実習しなければならない、というジョブ型社会故の状況を逆手にとって、いつまでも「お前は実習生であって労働者じゃない、だから給料はないからな」という建前で実習という名の無給労働がまかり通るというのは、おそらく圧倒的に多くの日本人には理解できないジョブ型社会の「闇」の側面でしょう。

もちろん、採用されるためにはその仕事をできることをいくら証明しても何の意味もなく、どんな仕事でも喜んでやり抜きますという「人間力」を売り込まなければならないというメンバーシップ型社会も、圧倒的に多くの欧州人には理解できないでしょうが。

今年に入ってからもマスコミやネット上では毎日のように見当はずれのジョブ型論が量産され続けていますが、ジョブ型社会の最大の特徴は、こういう雇用の入口に関わる部分にあるのだということを、本当に理解して喋っている人は暁天の星よりも少ないであろうことだけは間違いありません。

 

 

 

2022年2月18日 (金)

森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現』

598922 森ます美・浅倉むつ子編著『同一価値労働同一賃金の実現』(勁草書房)をお送りいただきました。

https://www.keisoshobo.co.jp/book/b598922.html

大手家電量販店の賃金データ、労働時間データ調査から、「職務評価システムの構築」の上に、家電量販業界を対象に職務評価に基づく「同一価値労働同一賃金制度」を設計し提案。カナダのペイ・エクイティ法を先進事例として参照し、日本の企業において同一価値労働同一賃金を実行できる法的枠組みと職務評価・賃金制度を提起する。

森さんら社会政策研究者と浅倉さんら労働法研究者によるタイトル通りの本です。

なんですが、読んでいくと正直何とも言われぬ苛立たしさみたいなものを感じざるを得ません。

そもそも、タイトルになっている「同一価値労働同一賃金」とは、同一労働同一賃金原則が(少なくとも規範としては立派に)確立していることを大前提に、しかしそれだけでは女性差別を真になくすことはできない、という問題意識から生み出されたものです。そのことは、本書冒頭の「はじめに」にはっきり書かれています。

この原則は、同一労働なら同一賃金を払うけれども、異なる労働なんだから賃金に格差があっても当然だろう、といって、女性を低賃金職種に押し込めてきたことに対するジョブ型社会ならではの批判なのであって、そもそも同一労働同一賃金原則なるものが、欧米社会の常識のような意味で、つまりジョブをベースにした概念としては全く確立していない、どころかそもそも存在すらしていないような日本のメンバーシップ型社会においては、実のところ(本書の執筆にあたっているようなごくごく限られた特定分野の知識を有しているような人々を除けば)ほぼ誰からもまともに理解されていないのです。

以前、『働く女子の運命』を書いたときに、経団連がそのころ言ってた「同一価値労働同一賃金」なるものが、「見かけ上同一労働に見えても、将来的な人材活用の要素も考慮して」云々というものであったことを指摘しましたが、とにかく、同一労働同一賃金というジョブ型の原則すら否定するために「同一価値労働」を持ち出してくるような話がまかり通るこの社会で、本書は非常に多くの人にとっては何を言っているのかほぼ理解されないような本であり続けているように思われます。

それほど、本来の意味の「ジョブ型」からかけ離れた日本で、ほんの数年前までその意味を最も理解していなかった経済界が唱道する「ジョブ型」が、同一労働同一賃金とも、いわんや同一価値労働同一賃金ともほとんど縁のないものであるのはあまりにも当然なのかもしれません。

 

 

 

 

財務総研で講演しました

1080x360 財務総合政策研究所(財務総研)で講演しました。

https://twitter.com/PRI_MOF_Japan/status/1494558240012894208

濱口 桂一郎様(独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)に「ジョブ型雇用の真実」について、ご講演いただきました。 

 

佐藤博樹・武石恵美子・坂爪洋美『多様な人材のマネジメント』

9784502409813_430 佐藤博樹・武石恵美子・坂爪洋美『シリーズ ダイバーシティ経営/多様な人材のマネジメント』(中央経済社)をお送りいただきました。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-40981-3

日本企業が直面している課題を踏まえ、多様な人材の能力発揮を経営価値の向上につなげるために不可欠な人事管理、求められる社員像やそれに関連する取組みを紹介する。

佐藤さんが書かれている第3章の「ダイバーシティ経営に適合的な人事管理システム」では、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用をめぐる議論を整理されています。

また、武石さんと坂爪さんが書かれている第6章の「欧州企業のダイバーシティ経営:人事管理制度と管理職のマネジメント」は、大変面白いんですが、ダイバーシティ云々以前に、そもそも欧州では採用解雇の権限を有する者を管理職と呼ぶのであって、そう簡単に日本への示唆とか言えるような話なのかな、という気もしました。

 

昨日、ハラスメントで労働政策フォーラム

20220217flier 昨日、ハラスメント対策をテーマに労働政策フォーラムを開催しました。

わたくしはパネル・ディスカッションの司会を務めただけですが、なかなか面白いやりとりになったと思います。アドバンスニュースさんが速報してくれているので、そちらを引用させていただきます。

https://www.advance-news.co.jp/news/2022/02/post-3775.html

労働政策研究・研修機構(JILPT)の労働政策フォーラム「職場環境の改善~ハラスメント対策」が10、17の両日、オンラインで開かれた。パワーハラスメントについては労働施策総合推進法の改正により、20年6月から大企業に適用され、この4月から中小企業にも適用される。企業は防止に向けた義務を負うが、パワハラと「指導」「教育・訓練」との線引きに苦慮する職場が多く、関心は高い。

・・・・・

17日のパネルディスカッションでは、「線引き問題」が主要論点となったが、「寸劇、事例動画、ロールプレーなどを通じて社員に理解してもらう」(長井氏、鴨下氏、ベルシステム24の井木尚洋氏)手法が有効な点を示唆。しかし、「基本的に人が不快になるようなコミュニケーションは是正が必要」(森内氏)、「当事者のプライバシーに配慮して事例を公開する」(長井氏)、「具体事例を積み上げていくしかない」(鴨下氏)など、パワハラ特有の解決のむずかしさを示唆する発言が相次いだ。

 

 

 

2022年2月17日 (木)

守銭奴経済

守銭奴というのはパラドクシカルな存在。

本来お金というのはその金を使ってモノやサービスを買って贅沢して愉しい生活ができることが目的のはずなのに、お金を貯め込むことばかりをひたすら追い求め、爪に火をともす貧しい生活を送りながら、預金通帳の上で増え続ける数字を飽かず眺めてはニタニタ笑っている不思議な存在。

のはずなんだが、現代経済というのはほっとくとそういう風になりがちだ、ってのが小野善康さんのいっていることなんだろうな。

そういう守銭奴経済の罠にはまってしまった日本では、政治家も学者も評論家もみんな脳みそが守銭奴化してしまっているものだから、「分配」という本来望ましい政策すらもが、モノやサービスをみんなにばらまこうという話には向かわず、ひたすらゼニカネをばらまくことにしか頭がいかない。その結果、預金通帳の残高ばかりがひたすら増えていき、肝心のGDPの構成要素であるモノやサービスの付加価値にはつながらないという笑劇ばかりが繰り返されるという一幕。

守銭奴から金を取り上げてモノやサービスの形にしてみんなにばらまけば、その一つ一つがGDPを引き上げることになるんだが、そういうのを無駄の極みと目の仇にするんだからどうしようもねぇや。

2022年2月16日 (水)

『ジョブ型雇用社会とは何か』第6刷決定

71cahqvlel_20220216000201 おかげさまで、『ジョブ型雇用社会とは何か』の第6刷が決まりました。昨年9月に刊行されてから半年足らずでここまでこられたのも、ひとえに読者の皆様の熱いご支援の賜物と感謝に堪えません。ありがとうございます。

この間、『週刊東洋経済』のベスト経済・経営書では第2位、『日本経済新聞』のベスト経済書では第4位、『中央公論』の新書大賞では第6位に選んでいただきました。これらで推薦していただいた方々にも心より感謝申し上げます。

マスメディアやネットメディア上では、わたしが「8割方間違っている」と批判したインチキなジョブ型論が依然として氾濫し続けていますが、でもこれだけ心ある多くの方々が本書を読んでいただいているのですから、じわじわと少しずつでも正しい認識が広がっていっていると信じております。

売り上げには直接つながらないかもしれませんが、例えば東京都の図書館で本書の貸し出し状況を検索してみると、

https://calil.jp/book/4004318947/search?pref=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD

東京都下の非常に多くの図書館で、本書が貸出中のマークがついており、多くの方が読まれていることが窺われます。

 

 

2022年2月14日 (月)

ウイグル族の労働環境@ILO条約勧告適用専門家委員会報告

Wcms_836654 こういう記事があったので、さっそくILOのサイトに行って、条約勧告適用専門家委員会の年次報告書を見てみました。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/160177

【ジュネーブ共同】国際労働機関(ILO)は各国によるILO条約履行状況を検証した年次報告書を14日までに公表し、中国新疆ウイグル自治区でウイグル族が置かれている労働環境に「深い懸念」を表明、ウイグル族などの少数民族が雇用機会や待遇で差別的扱いを受けないよう、中国に改善を求めた。

https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_836653.pdf

中国については、国際労連の訴えをもとに、514ページから521ページにかけて詳しく取り上げています。

China
Discrimination (Employment and Occupation) Convention, 1958 (No. 111)
(ratification: 2006)
With reference to its previous comments, the Committee recalls the observations by the
International Trade Union Confederation (ITUC) received on 16 and 28 September 2020 and notes that
additional observations by the ITUC were received on 6 September 2021 reiterating and supplementing
its previous observations. The Committee also notes the Government’s reply received on 19 November
2020 and the additional information communicated by the Government on 30 August 2021 in reply to
the Committee’s direct request.・・・

中国

差別(雇用と職業)条約、1958年(第111号)

(2006年批准)

以前のコメントに参照して、委員会は2020年9月16日と28日に受け取った国際労連(ITUC)による意見を想起し、以前の意見を補完する2021年9月6日に受け取ったITUCによる追加的意見を記録する。委員会はまた2020年11月19日に受け取った政府の回答と委員会の直接請求への回答として2021年8月30日に政府から通知された追加的情報を記録する。・・・・

というわけで、実は中国はILOの差別禁止条約を2006年に批准してるんですね。その頃は批准しても大丈夫だと思っていたのか、その辺はよくわかりませんが、とにかく前政権時に批准しているものだから、本当に守っているのかと、こうしていろいろ突っつかれるネタにもなるわけです。自分で守りますと宣言しているんだから、戦狼よろしく内政干渉だと蹴飛ばすわけにはいかないのですね。

さて、ここに縷々書かれていることはリンク先をじっくり読んでいただければと思うのですが、この一節をぱらぱらと見ていて、あれ?と思ったのが、ウイグル族の綴りでした。

519ページのこのパラグラフを見ていると、

The Committee recalls that, in its previous comment, it referred to the concluding observations by the United Nations Committee on the Elimination of Racial Discrimination (CERD) regarding the situation in the Xinjiang Uyghur Autonomous Region. It notes that the CERD was alarmed, inter alia, by: (1) “numerous reports of the detention of large numbers of ethnic Uighurs and other Muslim minorities, held incommunicado and often for long periods, without being charged or tried, under the pretext of countering religious extremism”; (2) “reports of mass surveillance disproportionately targeting ethnic Uighurs”; and (3) “reports that all residents of the Xinjiang Uighur Autonomous Region are required to hand over their travel documents to police and apply for permission to leave the country, and that permission may not come for years”. ・・・・

わかりますか?UighurとUyghurが入り混じっているんですね。ぱっと見、新疆ウイグル自治区の方はUyghurで、民族としてのウイグル族はUighurかと思ったけど、そうでもなさそうです。この辺、詳しい人に聞いてみたい気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウクライナ危機にドミニク・リーベン『帝国の興亡』を読む

S_01014636230 原著は2000年、翻訳も2002年ともうふた昔も前の本ですが、ここ数日のウクライナ危機で改めてドミニク・リーベン『帝国の興亡』〔日本経済新聞社〕を読みました。

本書が刊行されたのはまさにプーチンが大統領になるころであり、まさに本書で言う「帝国以後」、ソビエト帝国崩壊後のぐちゃぐちゃの時代から、プーチン流のロシア再興戦略が発動されようとする頃であったことを思うと、今眼前で進みつつある事態は大変興味深いものがあります。

第10章「帝国以後」の最後のパラグラフにこう書かれていたことは、著者の予見性の欠如などではなく、いったん完膚なきまでに崩壊した帝国が疑似国民国家として再建しようとするときの攻撃性-本書ではオスマン帝国崩壊後のトルコにおいて活写されていたーが、エリツィン時代にはまだ表に現れていなかったということなのでしょう。

・・・ロシアが、旧ソ連の臣民だった数百万人ものムスリムの将来に再び責任を負ったり、あるいはクリミアやハリコフを手に入れようと崩壊しつつあるウクライナに介入して再び大国になる、などという考えは全くのナンセンスである。そのような政策は、西暦2050年の時点でロシアがトルコより軍事的に勝っているかと心配しているロシアの将軍たちを安心させるのが関の山だ。そのようなものは、壮大な帝国のビジョンではなく、ロシア史、あるいは過去の多大な人的犠牲に見合った達成とは言えない。現在の基本的な現実とは、帝国の理念が今や破綻し、しかもポスト帝国時代の少なくとも一世代か恐らくそれ以上にわたって、ロシア人に甚大な損害を与えながら、その理念が破綻したという事実をソ連が示したことである。

プーチンの22年は、このリーベンの結論に反証しようとする22年だったのかも知れません。

 

 

 

 

2022年2月12日 (土)

EUデュー・ディリジェンス指令案は2月23日に提案予定?

もともと昨年夏に提出すると言われていたEUのデュー・ディリジェンス指令案ですが、延期に次ぐ延期の末、ようやく今月下旬、2月23日に提案されるとの情報に接しました。

ソーシャル・ヨーロッパでもここ数日この話題が取り上げられていますが、

https://socialeurope.eu/corporate-due-diligence-its-in-short-supply

Rosiemonaghan115x115 The EU must enforce robust human-rights due diligence in company supply chains. 

EUは企業のサプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスを実行しなければならない。

去る2月8日には、100以上の主要企業等が、デュー・ディリジェンス指令案の早急な提出を求める公開状を公表しています。

https://media.business-humanrights.org/media/documents/EU_Business_Statement_February_2022.pdf

We, the undersigned, are deeply concerned by the serious delay in the publication of the EU Commission’s proposal for mandatory human rights and environmental due diligence (mHREDD), within the Sustainable Corporate Governance initiative. We therefore urge the European Commission to adopt a legislative proposal without further delay.

以下に署名した我々は、欧州委員会の持続可能な企業統治イニシアチブの一環としての義務的人権及び環境デュー・ディリジェンス指令案の公表の深刻な遅延を深く懸念している。我々はそれゆえ、欧州委員会にこれ以上遅延することなく立法提案を行うよう求める。

どんな企業がサインしているのかというと:

Due

この問題については、昨年5月に『労基旬報』に若干の解説をしております。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-982cd4.html

 近年、「デューディリジェンス」という言葉がよく聞かれます。文字通りの意味では「企業に要求される当然に実施すべき注意義務および努力」を指しますが、とりわけ今日問題となっているのは、そのグローバルなサプライチェーンにおいて労働者,人権,環境といった側面で有害な影響を与えていないかをきちんと監視すべきという点です。ごく最近も、中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿を使った繊維製品が強制労働によるものとして人権団体から批判され、強硬な中国との間で板挟みになった企業がありました。
 この問題を公的な立法政策として進めようとしているのがEUです。その近年の動きを簡単に跡づけておきましょう。出発点は2020年4月、欧州委員会のレインダース司法担当委員が、欧州議会の責任あるビジネスワーキンググループのウェブ会議で、人権と環境に関するデューディリジェンスを義務化する法案を2021年中に提出すると発言したことです。これは多くの人権団体から喝采をもって迎えられました。
 同年7月、欧州委員会は持続可能な企業統治に関する端緒的影響評価文書を公表しました。そこでは企業と取締役に対し、そのバリューチェーンにおける活動による気候変動、環境、人権(労働者や児童労働を含む)への悪影響を明らかにし、リスクを防止し、悪影響を緩和する義務を課し、取締役にはすべての利害関係者を考慮に入れて、これら義務を実施し、必要なら救済も含めた仕組みを設けることを求めています。
 同年10月には、持続可能な企業統治に関する一般協議を開始しました。協議期間は翌2021年2月までです。協議文書では、EUにおける法規制の必要性、取締役の義務、デューディリジェンスの義務、その他の施策、影響の測定について意見を広く聴いています。
 一方、立法府である欧州議会も、同年9月から法務委員会においてこの問題の審議を始めました。そこに提出された「企業デューディリジェンスと企業説明責任に関する欧州委への欧州議会勧告案」は、欧州委員会が提出すべき指令案の原案自体を添付しており、事実上欧州議会による指令案になっています。法務委員会は翌2021年1月に報告をまとめ、同年2月の総会に提出され、同年3月に「企業デューディリジェンスと企業説明責任に関する欧州委への勧告を伴う決議」が採択されました。その内容は大変興味深いのでやや詳しく見ていきましょう。
 冒頭の第1条の3つの項で、本指令案の目的がこう謳われています。
第1条 対象事項と目的
1 本指令は、域内市場で操業する企業が人権、環境、良好な企業統治を尊重し、それ自身の活動又は事業関係やバリューチェーンによってその操業、製品、サービスに直接リンクされた活動を通じて、人権、環境、良好な企業統治に対して潜在的ないし現実的な悪影響をもたらし又は貢献することがなく、そのような悪影響を防止し緩和するその責務を完遂することを確保することを目的とする。
2 本指令は、企業のバリューチェーンのデューディリジェンスの義務、すなわちそのバリューチェーンにおいて発生する人権、環境、良好な企業統治への悪影響を防止し、起こった場合はかかる悪影響を適切に対処するべきあらゆる比例的な措置をとる義務を定める。デューディリジェンスの遂行は企業に対して、その活動及びバリューチェーンと事業関係がもたらす人権、環境、良好な企業統治への潜在的又は現実的な悪影響を、明らかにし、評価し、防止し、止めさせ、緩和し、監視し、通信し、説明し、対処し、修復することを要求する。人権、環境、良好な企業統治の保護のためのセーフガードを調整することにより、これらデューディリジェンスの要件は域内市場の機能の改善に資する。
3 本指令はさらに、企業がもたらし又はそのバリューチェーンにおいて貢献する人権、環境、良好な企業統治への悪影響について国内法に従って説明責任を果たし製造責任を果たすことを確保することを目指し、その被害者が法的救済を得られるように確保することを目指す。
 第2条の適用範囲では、大企業のみならず株式が公開されている中小企業やハイリスクの中小企業にも適用され、とりわけEU以外の第三国で設立された企業でも、その製品やサービスをEU域内で販売しているならば本指令の義務を果たさなければならないという点が重要です。
 第4条(デューディリジェンス戦略)では、企業に対してデューディリジェンス戦略を樹立し効果的に実施することを求めていますが、その具体的内容は以下の通りです。
(i) その操業やビジネス関係に存在しうる人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響並びに、その深刻さ、可能性、緊急性の度合、さらには関係するデータと情報、方法論を特定し、
(ii) そのバリューチェーンを跡付け、商業秘密に考慮しつつ企業のバリューチェーンに関わる情報を一般に公開し、その中には供給される製品とサービスの名称、位置、タイプその他の子会社、供給業者及び事業パートナーに関する情報を含め、
(iii) 人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響を止め、防止し、緩和する観点で、あらゆる比例的で釣合の取れた政策と措置を採択し、示し、
(iv) 同時にすべての潜在的ないし実際の悪影響に対処する立場にない場合には、国連のビジネスと人権に関する指導原則第17項に基づいて優先順位をつけ、企業は人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の異なる悪影響の深刻さ、可能性、緊急性の水準、地理的な面を含めその操業の性質と文脈、リスクの範囲、どれくらい回復不可能なのかを考慮しなければならない。
 第5条(関係者の関与)では、デューディリジェンス戦略の樹立、実施に当っては、「産業別、全国レベル、EUレベル及びグローバルレベルの労働組合と労働者代表」が関与するよう確保しなければならず、適切に議論を行うことが必要です。
 このほか、デューディリジェンス戦略の公表と通知(第6条)、非財務的多様性情報の公開(第7条)、デューディリジェンス戦略の評価と再検討(第8条)、苦情処理手続(第9条)、裁判外手続による救済(第10条)等々、詳細な規定が設けられています。加盟国政府による監督や調査(第12,13条)、指針(第14条)、制裁(第18条)といった規定と並んで、第19条(民事責任)では、「企業がデューディリジェンスの義務を尊重しているという事実は、企業からいかなる責任をも免除するものではない」(第1項)とか、「加盟国は、企業がそのコントロール下にある企業も含め、その行為または怠慢によって引き起こされた人権、環境、良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響から生じたいかなる危害に対しても責任を有し、改善を提供するような責任体制を確立すること」(第2項)、「加盟国は、企業が本指令に従い、問題の危害を避けるべくあらゆる適切な配慮を講じたことを証明するか、その危害はあらゆる適切な配慮を講じても発生したであろうことを証明すべき責任体制を確立すること」(第3項)といった規定まで設けられており、なかなか追及を逃れるのは難しくなっています。
 欧州委員会の方は、上記一般協議を終了し、現在具体的な指令案を検討中です。2021年第2四半期には提出すると予告されているので、おそらく今年6月に公表されると思われます。主要加盟国では、イギリスが2015年に現代奴隷法(Modern Slavery Act)を、フランスが2017年にデューディリジェンス法(Loi de Vigilance)を制定しており、ドイツも2021年3月にサプライチェーン法案(Lieferkettengesetz)を閣議決定したばかりです。労働法の世界ではまだほとんど関心を持たれていませんが、今後の動向を注目していく必要があります。 

 

ギグワーカーの現状と労働法制の今後について@日本CSR普及協会

Photo3 日本CSR普及協会 2022年度 第1回研修セミナー「ギグワーカーの現状と労働法制の今後について~多様な働き方に望ましい労働法制を検討する~」のご案内です。

https://www.jcsr.jp/seminar.html

 多様な働き方を提供するプラットフォームの拡大に伴って、従来の『自営』ではなく『労働者』と同様に自己の労働力を提供して収入を確保する『ギグワーカー』または『フリーランス』と呼ばれる個人が増加しています。雇用される労働者のなかにも、自己の能力の活用や発展を目指す、あるいは賃金収入の不足を補うなど様々なニーズから兼業副業としてギグワーカーやフリーランスを選択する人が出ています。
 この様な多様な働き方に現在の労働法制は適合しているのか、労働側からも企業側からもその再検討が求められているところです。
 本セミナーでは、労使それぞれの立場でギグワーカーの現状等に詳しい弁護士2名と労働政策研究の第一人者であり、多数の情報発信を行われている濱口桂一郎氏をお招きして最先端の議論を展開していただきます。 

というわけで、詳しくは以下の通りです。

日時 2022年4月6日(水)午後2時~午後5時
場所 ZOOMによるオンライン開催
内容
1) 「労働側から見るギグワーカー・フリーランスの現状と問題点」
【講師】 川上 資人(弁護士・早稲田リーガルコモンズ法律事務所)
2) 「企業側から見るギグワーカー・フリーランスの活用と法的課題」
【講師】 倉重 公太朗(弁護士・倉重・近衛・森田法律事務所)
3) 「EUから見るギグワーカー・フリーランスの法政策」
【講師】 濱口  桂一郎(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)
4) パネルディスカッション 「多様な働き方に望ましい労働法制を検討する」
【司会】 木下潮音(弁護士・日本CSR普及協会理事)
【パネリスト】濱口 桂一郎、倉重 公太朗、川上 資人
主催 日本CSR普及協会    後援 日本弁護士連合会
参加費 2000円
申込締切日 2022年4月1日(金)

このメンツはなかなかすごいでしょう。

 

 

 

2022年2月10日 (木)

『ジョブ型雇用社会とは何か』が新書大賞で6位に入ったようです

4910061010329_1_3 本日発売の『中央公論』3月号は例年恒例の新書大賞というのをやっていて、1位は小島庸平さんの『サラ金の歴史』だそうです。この本は本ブログでも取り上げましたが、新書大賞にふさわしい本ですね。

https://chuokoron.jp/shinsho_award/

で、ずーっと見ていくと、わたくしの『ジョブ型雇用社会とは何か』が6位にはいっているようです。

並んでいる本はいずれも高名な方々の名著で、その中に並べていただいて感謝申し上げます。

拙著を推薦していただいた方々の言葉はどれも有難いものですが、とりわけ、常見陽平さんの

https://twitter.com/yoheitsunemi/status/1491632812918992896

雇用・労働関係図書の金字塔であり、日本の労働社会を語る上で避けては通れない1冊。本来、古くて硬直した働き方であるはずの「ジョブ型雇用」がなぜ日本で、あたかも新しい、多様な働き方として期待され礼賛されてしまうのか? その二重、三重にもこじれた問題を圧倒的な知識と慧眼、筆力で読み解く傑作。日本の会社員とは何か。政治家、経営者の発言から、居酒屋での愚痴までその謎を解き明かす理論がここにすべて書かれている。

という言葉は嬉しい限りです。

また、『日本社会のしくみ』の小熊英二さんも、身に余る表現をしていただいています。

日本で雇用問題を論じる際の「北極星」ともいうべき筆者が、近年流行の論調を原理的に批判。時代が彼に追いついたのか、それとも日本型雇用が変わらなさすぎたのか。

ほかにも、朝日新聞で書評していただいた酒井豊貴さん、増田寛也さん、ブログで高く評価していただいた山下ゆさんなど、ありがとうございます。

ちなみに、投票者別ランキングでは、有識者では4位、編集者・記者では2位、書店員では・・・選外という落差があったようで、ふむ、書店で働く皆様にはあんまりおもしろくなかったということでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

【本棚を探索】ニコラス・レマン『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』

81yki3cp7s 『労働新聞』で月1回廻ってくる書評コラム【本棚を探索】ですが、今回はニコラス・レマン『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』です。

https://www.rodo.co.jp/column/121854/

 なんだかよく分からないタイトルだけど、過去100年のアメリカの経済社会を、ハイレベルな思想と末端の現実の両方から描き出した、思想史とルポルタージュがまだら模様になった奇妙な味わいの本だ。経済思想史のキーマンはアドルフ・バーリ、マイケル・ジェンセン、リード・ホフマンの3人だが、この3人をいずれもよく知っているという人は少ないだろう。

 バーリは、バーリ&ミーンズの『近代株式会社と私有財産』のあのバーリだ。『経営者革命』のジェームズ・バーナムと並ぶ20世紀型大企業資本主義の唱道者だが、本書では彼がルーズベルト大統領のブレーンとして活躍した姿を描く。その章のタイトルは「組織人間」で、ウィリアム・ホワイトの名著『組織の中の人間』を思い出させるが、同書の舞台となったシカゴの街の自動車ディーラーが序章に出てきて、後のストーリーの伏線になる。そう、本書は思想史と現場ルポが絡み合っているのだ。「組織の時代」と題された第2章では、バーリの後継者としてピーター・ドラッカーが描かれると同時に、GMなど自動車メーカーが全国にディーラー網を張り巡らせ、ローカルな貯蓄貸付組合が彼ら20世紀型中産階級に住宅ローンを貸し付ける牧歌的な時代が描かれる。これも後への伏線だ。

 やがて時代は暗転(立場が違えば明転)する。新自由主義の旗手として有名なのはフリードリヒ・ハイエクなどだが、本書が狂言回しとして登場させるのは、日本ではあまり知名度の高くないジェンセンという経済学者だ。なぜか、単に市場原理を唱道するのみならず、企業とは株主がご主人(プリンシパル)であり、経営者はその利益を実現すべく奉仕する下僕(エージェント)だと主張するエージェンシー理論を唱え、バーリ流の組織資本主義をひっくり返す思想的原動力となったからだ。

 彼を描いた第3章のタイトルは「取引人間」で、本書の原題でもある。株主価値最大化とかM&Aといった80~00年代にかけて猛威を振るった金融資本主義の時代は、貯蓄貸付組合の子孫のサブプライムローンに端を発するリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機でその欠陥を露呈する。平和な生活を送っていたシカゴの自動車ディーラーのニック・ダンドレアが、破産したGMからディーラー契約の解除を通知されたのはこの時だ。人種問題も絡むシカゴの荒廃した映像がそこに重ね焼きされる。

 「組織人間」「取引人間」の次にやってきたのは「ネットワーク人間」で、狂言回しはリンクトインのホフマンで、有名なスティーブ・ジョブズでもイーロン・マスクでもないのはやや違和感がある。情報通信技術の急速な発展でかつてロナルド・コースが企業の存在理由とした取引費用が劇的に縮小したことによるが、かつて組織の時代をもたらした「規模の経済」が、「ネットワークの経済」として復活し、いわゆるGAFAの時代を生み出した。ホフマンはウーバーノード(優れた結節点)たらんとしたそうだが、この「ウーバー」を名乗るプラットフォーム企業が、世界中で不安定低報酬の偽装請負就業を生み出していると批判の的になっているのも、めぐる因果の糸車なのかもしれない。

(ニコラス・レマン著、日経BP刊、税込3080円)

 

 

 

 

 

 

2022年2月 9日 (水)

関家ちさと『日本型人材育成の有効性を評価する―企業内養成訓練の日仏比較』

9784502401619_430 関家ちさと『日本型人材育成の有効性を評価する―企業内養成訓練の日仏比較』(中央経済社)をいただきました。関家さんは現在JILPTの研究員をしていますが、本書は学習院大学時代の博士論文がもとになっています。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-40161-9

日仏企業の人材育成について、両国企業へのインタビュー調査により、どのように違いがあり、その違いはどのように生まれているか、また強みや課題は何かを明らかにしている。

 わたしは4年前に元になった博士論文を読んでいますが、その時の感想と特に変わりはありませんでした。日本企業の人材養成・人事管理システムをフランスの人材養成・人事管理システムと比較し、日本企業の今後の方向性を考察しています。企業内養成訓練の比較調査は、就業1年目は日5名、仏4名、初期キャリア(~10年目)は日9名、仏8名、課長職は日6名、仏5名、人事管理は日7社、仏7社への聞き取りに基づくものです。また養成訓練の日仏比較のための「ものさし」として、仕事の幅、難易度(職群、業務、作業)、裁量度(業務、作業)を測定する詳細な枠組を設計し、これにより両国の基幹職労働者が新規採用時から課長職に至るまでに、どのように仕事の幅と難易度、裁量度が変化していくかを、定量的に示すことができるようにしています。
 その結論として、両国の違いは次の通りです。
①日本は就職後から養成訓練が始まるが、フランスは在学中から学生個人によって養成訓練が始まる。
②日本は多能工型で、10年間の前半に仕事の幅が拡大し、後半に重要度が高まるが、フランスは専門職型で、前半は特定の範囲に限定してキャリアを築き、課長に昇進する後半に仕事の幅が急拡大する。
③日本は初期能力が低いため、企業が主体となりOJT,OffJT等豊富な訓練機会を提供するが、フランスは在学中の養成訓練により即戦力に育った人材を採用するため、就職後の訓練機会は限定的。なお、仕事の深さで見ると、日本の5年目がフランスの1年目、日本の10年目がフランスの5年目、日本の課長(17.5年目)がフランスの課長(10年目)に相当し、人材養成スピードに差がある。
 この結論は、世上常識的に語られていることを確認したに過ぎず、それほど新たな知見ではない、と考える人がいるかも知れませんが、そうではありません。世上語られていることであっても、その実証的根拠は意外に乏しいことがよくあるし、定性的にはある程度の根拠をもって語られていることであっても、定量的な根拠は乏しいということは多いのです。とりわけ、人事管理の国際比較に関わることについては、誰もがクリシェとして語りながら、その根拠は個人的な経験の断片であることが少なくありません。
 その意味で、この研究が日仏それぞれ20~30人近くに及ぶ丁寧な聞き取り調査に基づいて、それぞれの国の人材養成、人事管理のありようをその細かなひだに至るまで浮き彫りにしていることの意義は、人事労務管理という学問分野に対する貢献としても極めて高く評価すべきものでしょう。
 また研究手法としては、日仏の人材養成、人事管理の比較という、それ自体としては決して壮大ではなく、中くらいの規模の研究課題に対して、聞き取り調査結果を適切に分析するための「ものさし」を構築するために、仕事の幅、難易度(職群、業務、作業)、裁量度(業務、作業)を測定する詳細な枠組を設計している点が好感が持てます。そして、これだけの緻密な調査結果から、きちんと間違いなく言えることだけを結論として提示するという誠実さも好感が持てます。

 なお、博士論文ではその約半分以上がインタビュー記録であり、これが大変面白かったのですが、さすがに商業出版ベースには乗らないと見えて、本書ではばっさりと切られています。

日本型人材育成の有効性を評価する
■企業内養成訓練の日仏比較
目次

はしがき

第1章 研究の背景と目的
第1節 企業内養成訓練とは何か
第2節 研究の目的とフレームワーク
第3節 比較対象にフランス,人事スタッフを選んだ理由
第4節 分析方法〈仕事内容と訓練内容をどう評価するか)
第5節 本書の構成

【第1編 日仏の企業内養成訓練の特徴】

第2章 日本の企業内養成訓練
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験と訓練経験
第3節 課長職の仕事内容
第4節 仕事経験と訓練経験からみた日本型企業内養成訓練の特徴

第3章 フランスの企業内養成訓練
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験と訓練経験
第3節 課長職の仕事内容
第4節 仕事経験と訓練経験からみたフランス型企業内養成訓練の特徴

第4章 企業内養成訓練の日仏比較
第1節 入社時点で備えている能力と仕事内容
第2節 10年目までの仕事経験
第3節 10年目までの訓練経験
第4節 課長職の仕事内容
第5節 両国の企業内養成訓練の特徴

【第2編 日仏の人事管理の特徴】
第5章 日本の人事管理
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理
第6節 まとめ

第6章 フランスの人事管理
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理
第6節 個別事例から見るフランスの人事管理
第7節 まとめ

第7章 人事管理の日仏比較
第1節 社員区分制度と社員格付け制度
第2節 評価制度
第3節 賃金制度
第4節 教育訓練
第5節 人事スタッフの人事管理

【第3編 結論】

第8章 多能型人材育成策をとる日本と、
     専門職型人材育成策をとるフランス
-本研究の成果と課題-
第1節 日仏の企業内養成訓練と人事管理の関係性
第2節 日仏の企業内養成訓練の強みと課題
第3節 本研究の貢献
第4節 本研究の課題
 

 

2022年2月 8日 (火)

荻野進介『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』

202201hikariwomizuni_2313x452 荻野進介さんから『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/17717

荻野さんといえば、海老原さんとコンビを組んでいろいろと書かれている雇用ジャーナリストで、私もかなり長いおつきあいですが、今回は趣をがらりと変えて小説です。それも評伝風の伝記小説。

電力王と呼ばれた明治・大正期の実業家、福沢桃介(1868~1938)。埼玉の貧農の次男として生まれた桃介は金持ちになることを夢見て慶應義塾に通い、福沢諭吉の娘婿となる。念願の米国留学も果たし、一流企業に就職、すべては順調にいくかと思いきや、行く手を病魔が立ちふさぎ、長期入院を与儀なくされる。ところが病床で株を覚え、大金持ちになる。その金を元手に自分の会社をつくるものの、義父である諭吉の裏切りに遭い、会社を畳む。そこから一転、相場の世界にはまり、兜町の風雲児となるが、相場師という虚業に嫌気がさし、電力事業という実業に目覚める。弟分の松永安左エ門、日本最初の世界的女優、川上貞というパートナーの助けも借り、木曾川に東洋一のダムを築く。

桃介は直感や感性の人で、物事を論理からのみ考えない。「二と二が合わさって四になるんじゃない、時には五にもゼロにもなるんだ」と言うのが口癖。水力発電を主戦場と決めたのも、事業の将来性はもちろんだが、生き物を殺さず、土や岩を苛め抜くだけで済む、という理由からであった。本書は、桃介の稀代の事業家、イノベーターとしての機略縦横の活躍ぶりにスポットをあて、その生涯を描く。

主人公の福沢桃介といえば、もうだいぶ昔のNHKの大河ドラマ「春の波濤」で風間杜夫が演じていた記憶がかすかにありますが、松坂慶子が演じていた川上貞奴とのからみももちろん一つの軸ですが、水力発電に邁進するビジネス・ロマンが話の主たる軸で、荻野さんはどっちに主力があるんだろうか、と思いつつ読んでいました。タイトルの「水を光に変えた男」ってのはもちろんビジネスロマンなんですが。

このビジネスロマンの部分も一筋縄ではいかないので、木曽谷に水力発電所を作ろうとして地元の島崎広助(これがあの島崎藤村の兄貴)の反対運動にぶつかり、あの手この手で切り崩し工作を仕掛けるあたり、桃介がヒール役のノワールな味わいもあります。

あの「電力の鬼」こと松永安左エ門が桃介の弟分としてなんとなく軽っぽい感じで出てくるのも、ちょっと変な感じです。

それから、電力事業を始める前の相場師として活躍するあたり、やや突飛ですが笹川良一の話を思い出しました。故佐藤誠三郎さんの『正翼の男』にも、戦前の笹川良一がなぜか株で大儲けするシーンが出てきますが、桃介にしろ笹川良一にしろ、なにか超能力を持っていたのかという感じです。

 

 

 

 

 

2022年2月 7日 (月)

日経にも「労働協約拡張適用」の記事が

今朝の日経はどうしたのか、妙に労働関係の記事が満載ですが、特に例のUAゼンセンがやった茨城県の家電量販店の労働協約拡張適用について法税務面の大部分を充てて報じています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD181NU0Y2A110C2000000/(他社にも同じ労働協約、32年ぶり適用 茨城の家電量販)

4月から茨城県内のすべての大型家電量販店で正社員の年間休日数が111日以上になる。当時のヤマダ電機など大手3社の労使が結んだ労働協約が、同業他社にも適用される「地域的拡張」が32年ぶりに実行されるためだ。企業ごとに別々に労使交渉が進む日本ではあまり使われてこなかった。今後欧州に似た「ジョブ型」雇用が広がれば適用例が増え、企業横断型で労使関係の見直しが進む可能性もある。...

さすが日経、この話題を「ジョブ型」につなげて論じていますが、これは(日経にはめずらしく)まことに正当な本来の「ジョブ型」という言葉の使い方なので、褒めておきます。

なお、記事の最後の方で、ドイツの労働協約制度についてJILPTの山本陽大さんが登場していますので、最後までちゃんと読むこと。

Https___imgixproxyn8sjp_dsxzqo1514665024

 

日経新聞「複眼 多様な働き方に労組は」に登場

今朝の日経新聞のオピニオン欄「複眼 多様な働き方に労組は」に4人のうちの一人として登場しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD058L40V00C22A1000000/

Https___imgixproxyn8sjp_dsxzqo1560939004 多様な働き方加速、労組の針路は 識者に聞く
中畑英信氏/難波淳介氏/濱口桂一郎氏/神吉知郁子氏

私のインタビュー記事はこれですが、

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79909150W2A200C2TCS000/(賃金・問題解決、別組織で)

こうやって紙面で並べて読むと、隣で神吉知郁子さんが言ってる中身とほとんど変わり映えがしませんね。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79909210W2A200C2TCS000/(「正社員の代表」脱する時)

 

 

2022年2月 6日 (日)

メタバースは労働問題である

Pics2115x115 例によってソーシャル・ヨーロッパから、ステファノ氏ら3人による「メタバースは労働問題である」(The Metaverse is a labour issue)を。

https://socialeurope.eu/the-metaverse-is-a-labour-issue

The Metaverse has been talked about only in terms of gee-whiz technologies—but it raises very serious labour concerns.

メタバースはすっげぇ技術という面でばっかり語られるけれども、とても深刻な労働問題を引き起こすのだ。

ってどういうこと?

The Metaverse will have its users but it will also be a ‘workplace’ for many.  

メタバースにはユーザーがいるけれども、多くの人にとってそこは「職場」でもあるのだ。

 ・・・Moreover, if these ‘Metaverse offices’ were really to spread, the risk of ‘contractual distancing’ for the workers involved would soar. If businesses are able to have virtual offices which persuasively mimic physical ones and, at the same time, have access to a worldwide workforce of prospective remote workers, their ability to outsource office work towards countries with much lower salaries and weaker labour protection—and to engage in mass misclassification of employment status—will increase enormously.

さらに、もしこれら「メタバース・オフィス」が広まったら、それに関わる労働者の「契約的遠隔化」のリスクも高まる。もしビジネスがリアルなオフィスを真似たバーチャル・オフィスを設け、同時に世界中の労働力をリモートワーカーとしてアクセスすることができれば、オフィスワークをもっと低賃金で労働保護の弱い諸国にアウトソースし、彼らは労働者じゃないよということにしてしまう危険性は計り知れないくらい高まるだろう。

・・・It will not only affect work already done remotely. Big chunks of activity in retail and ‘in-person’ customer care could be moved online if the virtual experiences are sufficiently convincing and smooth. Why leave home to go to a shop and seek advice about an item, if one can speak satisfactorily with a shop assistant, through an avatar, and buy the item online? 

これはすでにリモートでされている仕事だけの話ではない。膨大な量の小売業や対人サービス業での活動は、バーチャルな経験が十分に説得的でスムーズならオンラインに移行できる。アバターを通じて売り子と十分に話ができ、オンラインで買い物ができるのなら、なぜ買い物や相談のために家を離れるのか?

Then, alongside all the risks identified, the question will be: what employment and labour regulations will apply to these working activities? Those of the countries where the platforms are located—and, again, where is that? Those where the employer is based (ditto)? Or those where the workers are based? And how to build solidarity and foster collective action among a globally dispersed workforce which can only ‘meet’ via proprietary, business-owned platforms? 

というわけで、問題はこうだ、これら労働活動にはいかなる雇用労働規制が適用されるのか?プラットフォームの所在国か。とすればそれはどこだ?使用者の所在国か。それとも労働者の所在国か。そして私有のプラットフォーム上でのみ「会える」世界中に散らばった労働者たちの間で連帯や集団行動なんてどうやってできるのか。

ふうううむ、これはかなり真剣に考えないといけない問題のようです。

 

 

2022年2月 5日 (土)

ダークサイドに落ちた生存競争の落伍者

隠岐さや香氏と東浩紀氏の間の半ば感情的な一連のやりとりに関わる気は毛頭ありませんが、隠岐氏の恐らく無意識に漏らした片言隻句がどういう人々の心にぐさぐさと刺さったのだろうかということを考えると、第一線で活躍中の東氏なんかよりも百万倍、非正規労働でその日を支えながら暮らしているテニュアをとれないまま中高年化した人文系知識人の人々にであろうし、これは位相をすこしずらすと(もう15年も前のことになりますが)赤木智弘氏が当時の『論座』で「丸山眞男をひっぱたきたい」と叫んだことにつながり、さらには戦前の帝国議会で斉藤隆夫がいわゆる粛軍演説の中で、当時の右翼的革新運動を「生存競争の落伍者、政界の失意者ないし一知半解の学者」と罵っていたことにまでつながっていきますね。

松尾匡さんの言うレフト2.0、格差や貧困を糾弾するレフト1.0とは対照的に、もっぱら政治的に正しいアイデンティティポリティクスやダイバーシティを追求するレフト2.0が、まさにダークサイドに落ちた生存競争の落伍者に対して投げかける侮蔑的眼差しが、どういうどろどろした「魔」を水底から引きずり出してくるのかといういい実例かもしれません。

ピケティの言うバラモン左翼に踏みつけられた者が商売右翼の培養土となっていくという因果応報の世界。その意味では、このつぶやきは(そのまなざしの冷酷さまで含めて)それ自体がその構図を的確に描き出している。

https://twitter.com/okisayaka/status/1489455501968830467

ところで最近、2000−2010年代に大学改革の犠牲になった(ようにみえる)人文系論客がダークサイドに落ちてオルタナ右翼っぽい論調でダイバーシティを叩いて客集めをしているようで、なんともディストピア。是非本来の敵に立ち向かってほしいのだが、はけ口がそっちに行っちゃうんだな…

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2af2.html(赤木智弘氏の新著その2~リベサヨからソーシャルへ)

>男性と女性が平等になり、海外での活動を自己責任と揶揄されることもなくなり、世界も平和で、戦争の心配が全くなくなる。
>で、その時に、自分はどうなるのか?
>これまで通りに何も変わらぬ儘、フリーターとして親元で暮らしながら、惨めに死ぬしかないのか? 

>ニュースなどから「他人」を記述した記事ばかりを読みあさり、そこに左派的な言論をくっつけて満足する。生活に余裕のある人なら、これでもいいでしょう。しかし、私自身が「お金」の必要を身に沁みて判っていながら、自分自身にお金を回すような言論になっていない。自分の言論によって自分が幸せにならない。このことは、私が私自身の抱える問題から、ずーっと目を逸らしてきたことに等しい。

 

 

 

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