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2021年12月26日 (日)

hamachanブログ2021年ランキング発表

今年も年末が近づいてきたので、恒例のhamachanブログ今年のエントリPVランキングの発表を行います。

昨年は10位までのうち6つが「ジョブ型」ネタでしたが、今年は打って変わって、「ジョブ型」自体のネタは一つもなく、裏側から「メンバーシップ型」を論じたものが一つあるだけです。

まず1位は、10月の「自治体は雇用契約を結べないけれど、偽装請負だと雇用になってしまう件について」です、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-e1d197.html(ページビュー数:6,014)

これはある裁判例をめぐるやや専門的な話題なのですが、導入がちょうど話題になっていた増田で、なぜか結構受けたようなんです。

こういう増田が話題になっていて、

https://anond.hatelabo.jp/20211014160920(埼玉県ワクチン接種センターで働いていたのに労働者ではないと言われた話)

謝金扱いだから労働契約がないとのことだったが、時間や勤務場所が拘束されていること・この仕事をしろと指示されていることなどから、「使用従属関係」が発生するのではないか。

こういう応答がされているのですが、

https://anond.hatelabo.jp/20211015101356

自治体が人を雇う場合、一般的な雇用契約をすることができない。少し前までは曖昧にされてたが、総務省が古い解釈を今更示したせいで、一時的であれ短時間であれ、明確に公務員として任用せねばならなくなった。令和2年度4月から施行された会計年度任用職員てやつだ。

いや、それは教科書レベルの回答であって、も少しディープな話があるんだな。

確かに、使用者が労働者に指揮命令する雇用契約については、自治体は民法上の雇用契約を締結することはできず、正規であれ非正規であれ任用による公務員という形で使用しなければならない。それは確かなんですが、一方で、契約上は雇用契約じゃなく請負だの準委任だといった非雇用契約の形をとっていても、その実態が指揮命令していれば契約の文言に関わらず雇用とみなされるという法理もちゃんとある。問題は、これが自治体にも適用されるのか、それとして締結することはできない雇用契約が、偽装請負だという理由で結果的にできてしまうことがあるのか?という点にあるわけです。

そして、この点について「然り」と判断した裁判例がちゃんとあるのですよ。私が昨年6月に東大の労働判例研究会で評釈した浅口市事件判決です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-e462a4.html(浅口市事件評釈@東大労判) 

第2位は、あるtwitterが炎上した事件をつかまえて、そもそも論をぶってみた「セレブバイトと派遣法」ですが、派遣法が作られたのももう40年近く前になるという時代の流れを感じさせる話題でした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-64c70f.html(ページビュー数:5,976)

なにやら主婦の通訳がセレブバイトだったとかいう話が炎上しているようですが、実のところ、1985年に労働者派遣法ができた時に、相当程度虚構でありながら表面的に「専門業務」のポジティブリストだと言ってごまかしていた時の素材の一つが、この通訳とか秘書といったいかにも女性職っぽい専門職であったのですね。そして、表面のロジックでは専門職だから派遣でいいのだという議論の裏に、暗黙の裡に家計補助的な女性の仕事だから派遣でいいのだという隠れたロジックが潜んでいて、同じ年に男女均等法ができて女性の活躍という雰囲気がごくごくわずかながらちらりと顔を出しながら社会の大勢はなおほぼ完全に女性の役割はアシスタント役という風潮がどっぷりあるという時代の感覚の中で、何となくみんなを納得させていたわけです。

もちろん、当時も派遣の大部分は一般事務の普通のOLだったのであって、それをファイリングという職業分類表にもない専門業務をでっちあげてごまかしたのであって、セレブバイト云々はしょせんごく一部の話に過ぎないのですが、それでもマスコミが報道する際にはほぼ必ず、派遣は通訳や秘書のような専門業務であって云々と書かれていたのも確かです。この実態と言説のずれ自体が、この時期の意識のありようをよく示しているとも思えます。

このあたり、労働市場構造と社会のジェンダー構造の絡み合いと時代の推移によるその変貌の全てを踏まえながら議論しないと、ただ気に入らないのを殴り付けるだけの議論になりがちなのですが、うまく論じれば過去数十年くらいの日本社会の動きというものが浮かび上がってくる素材でもあります。

第3位はピケティがらみの「バラモン左翼と商売右翼への70年」ですが、もともと私がピケティのバラモン左翼論を紹介したのが2018年の4月でしたが、その後これが結構あちこちで人口に膾炙するようになりました。今年5月のこのエントリで紹介したのは、バラモン左翼の形成史を7枚のグラフで雄弁に物語ってくれる論文で、これが今年中に翻訳が出るはずだった彼の大著『資本とイデオロギー』の重要な一部なんですが、残念ながらまだ出てませんね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-3616d9.html(ページビュー数:5,785)

そのピケティが、今月3人の共著という形で、「Brahmin Left versus Merchant Right:Changing Political Cleavages in 21 Western Democracies, 1948-2020」という論文を公表しています。

https://wid.world/document/brahmin-left-versus-merchant-right-changing-political-cleavages-in-21-western-democracies-1948-2020-world-inequality-lab-wp-2021-15/

これ戦後70年間にわたるバラモン左翼の形成史を追ったものですが、事態を何よりも雄弁に物語ってくれるのが、表A10から表A16までの7枚のグラフです。

縦軸に所得をとり(上の方が高所得)、横軸に学歴をとると(右のほうが高学歴)、1950年代には右派政党は高学歴で高所得、左派政党は低学歴で低所得のところに集まっていました。

ところがそれから10年間ごとにみていくと、あれ不思議、右派政党はだんだん左側の低学歴のほうに、左派政党はだんだん右側の高学歴のほうにシフトしていき、

かくして、直近の2010年代には若干の例外を除き、どの国も右派は低学歴、左派は高学歴に移行してしまいました。

かくして、ピケティ言うところのバラモン左翼対商売右翼という70年前とはがらりと変わった政治イデオロギーの舞台装置が出来上がったわけです。 

第4位は、これはもう皆さん忘れている人も多いかも知れませんが、森元総理が女性蔑視発言をしたとして炎上した事件があったでしょう。世間の議論があまりにも表層的だったので、ちょいとばかり突っ込んでみたのがこの「森元首相発言の雇用システム論的理解」です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/02/post-4f081d.html(ページビュー数:5,161)

もう世間は「女性蔑視発言」で炎上しているわけですが、おそらく本人の主観的意図はそのようなものではなく、組織における意思決定機関と公式的には位置づけられている「会議」なるものにおける女性陣の行動様式に接してのものすごく率直な感想を述べただけだったのであろうと思われます。

これはもう昔から言い古されていることではありますが、日本的な組織においては、公式の組織規則でフォーマルな意思決定のためのものと位置づけらている「会議」っていうのは、実はそこで一から率直な意見の交換なんぞをする場所ではなく、実質的な意見のすり合わせというのはもっとインフォーマルな場で、多くの場合、5時以降の飲食を伴う場において行われ、そこでおおむねの合意が成り立ったうえで、最終的な確認のために昼間にフォーマルな会議を開くというパターンが多い、あるいは少なくとも多かった、わけです。「平場(ひらば)」なんていう言葉も、この日本的慣行を前提にしないと、どういう意味なのかさっぱり分からないでしょう。

で、森元首相は、こういう日本的慣行にどっぷりつかり、それに完全に適応する形で今まで来られた方なのであってみれば、「平場」でああだこうだと延々やらかす人々の行動様式に辟易していたのであろうことは想像に難くありません。

一方、かつては男性中心であった日本の組織も男女均等法以来徐々に女性が増え、フォーマルな意思決定機関である「会議」に出席する女性の数も増えてきましたが、女性はそもそもかつての5時から飲食を伴う場で実質的な意思決定というのとは縁遠いわけで、そんなこんなで日本の組織の「会議」のありようも、徐々に「平場」で議論が出るようになってきたわけで、おそらくそれはスポーツ界でも同様なんだと思われます。

その意味では今回の炎上発言は、確かに文字面では「女性蔑視」ではあるのですが、その一枚皮をめくると、むしろ平場での議論を嫌い、インフォーマルな場での意見調整を好む(かつての、あるいは今でも結構残っている)日本的な組織のありようと、そこに新参者として進出してきたためにそうした慣行に縁遠い女性陣たちとの文化摩擦の一帰結と評することが適切であるような気がします。

第5位の「典型的にメンバーシップ型の「退職処分」」は、転売をめぐるSNSへの書き込みで「退職処分」という意味不明の処分を受けた編集者の事件をネタに論じてみたものです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-c6384e.html(ページビュー数:3,721)

数日前からネット上で騒ぎになっていたようですが、『ホビージャパン』という雑誌の編集者がSNSで転売について書き込んだことが炎上したため、「退職処分」とやらになったようです。 

「退職処分」というのは意味不明ですが、「処分」というのは相手方の意思の如何を問わない一方的行為を指す言葉ですから、少なくとも本人の一方的意思に基づく辞職でもなければ、双方の意思の合致に基づく合意退職でもなく、会社側の一方的意思に基づく雇用終了である解雇であることは間違いなく、かつ「弊社社員のSNS等での不適切発言に関する社内処分」として、他の解雇以外の懲戒処分と並んでいることからも、(退職金の支給の如何といった非本質的なことに一切関わらず)これは懲戒解雇であることは明らかです。
そして、こういう会社外部での個人の言動が(他のいかなる根拠にもまして)懲戒解雇のもっともな対象になるということに、ジョブ型ではないメンバーシップ型の日本の姿が良く現われていると言えましょう。 

第6位の「勝谷誠彦氏死去で島田紳助暴行事件を思い出すなど」は、昨年も第5位でしたが、そもそもエントリ自体2018年のものであるだけでなく、このエントリ自体は勝谷勝彦氏の訃報に接して上げたものですが、その実質的中身は7年前の2014年に東大の労働判例研究会で報告したある事件の判決の評釈であり、さらに言えば、そこで問題となった事件は今から13年前の2008年に起きた事件なので、そういう意味では大変古い話ということもできますね。 それがこうしていつまでも読まれ続けているというのは、やはり島田紳助という特異なキャラクターのなせる業なのでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-dd55.html(ページビュー数:3,263)

ほとんど限りなく雑件です。
勝谷誠彦氏が死去したというニュースを見て、

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181128-00000060-spnannex-ent(勝谷誠彦氏 28日未明に死去 57歳 公式サイトが発表)

吉本興業で勝谷氏担当のマネージャーだった女性が島田紳助に暴行された事件の評釈をしたことがあったのを思い出しました。
これは、東大の労働判例研究会で報告はしたんですが、まあネタがネタでもあり、『ジュリスト』には載せなかったものです。
せっかくなので、追悼の気持ちを込めてお蔵出ししておきます。 

そして第7位も過年度エントリで、昨年に続いて今年もランクインした2016年の船員労働法関係の「1日14時間、週72時間の「上限」@船員法」。なぜこういうニッチな玄人向けのエントリが長年にわたって人気なのか、書いた私にも謎です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/11472-bfad.html(ページビュー数:2,496)

先日都内某所である方にお話ししたネタですが、どうもあんまり知られていなさそうなのでこちらでも書いておきます。といっても、六法全書を開ければ誰でも目に付く規定なんですが。 

第8位も過年度エントリなんですが、話は去年から今年にも続いているので、そういう意味ではアクチュアルではあります。首都圏青年ユニオンと紛らわしい首都圏青年ユニオン連合会という団体が、東京都労委からお前なんかまっとうな労働組合じゃねぇ!といわれた話です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-50e58d.html(ページビュー数:1,956)

昨日、東京都労委はグランティア事件という不当労働行為救済申し立て事案について、却下するという決定を下しましたが、その理由を見ると、そもそも申し立て組合つまり首都圏青年ユニオン連合会はまっとうな労働組合じゃないと一刀両断されていて、私の知る限りこういうケースって初めてなんじゃないでしょうか。 

労働組合の資格審査なんて、労働法の教科書ではどちらかというとあんまり力が入っていない部分ですよね。だいたい、不当労働行為事件で労働組合の適合性が問題になっても、「ここをちゃんと直してね」と親切に勧告して、規約を直してくればそれでOKというのが一般的なパタンなので、ここまではっきりと労組法第2条の要件を欠くから駄目じゃ!と蹴飛ばしたのはほとんど例がないと思います。
一体、そこまで駄目出しされた「組合」とはいかなるものなのか、有名な「首都圏青年ユニオン」じゃなくって、こちらの「首都圏青年ユニオン連合会」で検索してみると、・・・・・

 第9位は、これはまだ記憶に新しい事件ですね。例の呉座勇一さんがクローズのtwitter上で好ましからぬ発言を繰り返したということが世の多くの学識者の皆様から強烈に非難され、ついに無期契約の内定を取り消すという形で事実上の解雇処分を受けるに至った事件について、労働法的観点から若干のコメントをしたものです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-fa4a02.html(ページビュー数:1,803)

 一歴史好きの読者としても大変面白く読ませていただいた本の著者でもあるんですが、それはそれとして人間文化研究機構(国際日本文化研究センター)vs呉座勇一事件は有期雇用契約についての大変興味深い論点を提起しているように思われるので、こういう裁判沙汰をやっていると肝心の歴史の研究が進まないのかも知れませんが、それはそれとして是非徹底的に判決に至るところまでやり抜いていただきたいと切望しております。

今年10月から無期契約になると今年1月に決定を受けた有期契約労働者というのは、その間の期間は有期なのか無期なのか、有期であると同時に無期の内定状態でもあるのか、その間の期間に無期に転換するという決定を取り消されることはどういう法的な性質があるのか、単なる期待の消滅に過ぎないのか、それとも内定状態の無期契約の解除すなわち解雇であって、解雇権濫用法理の対象であるのか。うわぁ、これって、採用内定の法的性質の応用問題のようにも思われるのですが、皆さんどう考えますかね。

第10位は、これも過年度エントリで、しかも昨年はランクインしていないのに、今年は読まれたということで、私にもなぜかよくわかりません。中身は、割と単純な誤訳の指摘に過ぎないんですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/contractor-9595.html(ページビュー数:1,787 )

ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版に、英文記事の邦訳が載っていて、内容はなかなか興味深いのですが、タイトルが完璧に間違っているのでどうしようもない。
http://jp.wsj.com/articles/SB10663294989566513588704583403403159054028 (米国の契約社員、キャリアには遠い「二流」)
え!?アメリカに「契約社員」だって? 

・・・おいおい、それを「契約社員」という、法律用語ではないけれども労働関係ではもっともポピュラーな直接雇用有期契約労働者を指す日本語で呼ぶんじゃないよ。
無期契約労働者といえども解雇自由なアメリカでは、わざわざ期間を定めたれっきとした労働者を雇う意味はあんまりありません。有期だから斬りやすいわけではないとはいえ、雇用労働者としての労働者保護や社会保険負担はかかってくるので。なので、労働者じゃない個人請負にしたがるインセンティブが働くわけです。
そういう話を全部すっ飛ばして、いきなりタイトルから「契約社員」と言われたのでは情けなくって涙が出ます。

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