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2021年12月 4日 (土)

高木郁朗『戦後革新の墓碑銘』

595602 高木郁朗著・中北浩爾編『戦後革新の墓碑銘』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.junposha.com/book/b595602.html

「戦後革新」は昔の夢なのか!?

1945
年8月15日に始まる日本現代史の形成に大きな役割を果たした「総評・社会党ブロック」の

シナリオを書いた著者による自伝的「戦後革新」史。

「戦後革新」には総評というかたちで労働組合が中軸的な位置を占めてきたし、リベラル勢力の結集という点でも連合に参加する労働組合への期待が大きかった。つまり戦後革新といえ、リベラルといえ、その中軸には「労働」がすわっていた。

高木さんとは、直接お目にかかったことは数えるほどしかありませんが、その関わってこられたいろんな枠組みとは結構接触が多かったという関係です。

しかし改めてこうしてその一代記を通読してみると、ほぼ二回りほどの年齢差が、いかに大きいものであるかを感じます。貧しい少年時代から安保闘争、三池闘争の学生時代、社会党スタッフとして成田委員長のゴーストライターを務め、国労の反マルセイ運動に関わるといった波乱の人生行路は、私にとっては歴史時代です。国鉄分割民営化、社会党新宣言、連合の結成、そして村山内閣というあたりになると自分自身の記憶とも交叉してきますが、逆に高木さんの記述の筆致がなんだかもやがかかったような感じが漂ってきます。

21世紀のいまの観点からあれこれを批評することに何の意味があるのかという声が聞こえてくるような気もしつつ、こういう途しかなかったのかなあ、というつぶやきがこぼれてくるような、そんな「墓碑銘」なのでしょうか。

読んでいくと、本筋ではないところにいくつも記憶に残るような小さなエピソードがころがっています。

その一つに、連合結成に至る全段階で、総評の全国金属と新産別の全機金が合併して金属機械になったのに高木さんがかかわった話がありますが、その中で「争議屋」平沢栄一全金書記長が、「僕は総評の全電通よりも同盟の金属の方に親近感を感じるんだよ」と語ったというエピソードがあり、それがのちに同盟のゼンキン連合と合体してJAMの結成につながるわけですが、この台詞は、前に紹介した桝本純さんのオーラルヒストリーに出てきた「総同盟的なるものと民同的なるもの」を思い出させるものでした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/02/post-ba9276.html

・・・で、桝本さんの言いたいのは、連合結成は決して同盟の勝利なんかではなく、実は民同的なるものの勝利であり、総同盟的なるものの敗北なんだということ。
そして、やたらにイデオロギーで喧嘩していた全国金属と全金同盟がJAMとして元のさやに納まったら、実は似たような体質であったことがお互いに分かった云々という笑い話みたいなことがおこるわけです。

もひとつ、これは本当にトリビアなネタですが、太田薫さんの死後、壊れかかっていた太田さんの自宅の書庫の整理をした際に、

・・・書庫に入ってびっくり仰天した。労働問題に関する著作や資料はほとんどない。主なものは、労働省編『資料労働運動史』の何年かの版が一冊と、ドイツ社会政策学派のA・ワーグナーの著作が一冊だけだった。後は大量の歴史小説・時代小説のヤマだった。・・・いったい太田さんは労働問題の勉強をどうやってしたのだろうという疑問もわいた。・・・

まあ、太田薫本人に言わせれば、労働問題は書庫の中で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ、ということなのかもしれません。

 

 

 

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コメント

戦後革新を代表する知識人といえば清水慎三、その自伝的回想録は『戦後革新の半日陰』でしたね。高木郁朗の自伝的回想録は『戦後革新の墓碑銘』ですか。これにて戦後革新の歴史はついに幕を閉じた、ということになるのでしょうか。それでは次はどうなるのか。連合や立憲民主党の動向も併せて何か出てこないものかと。

本書にも清水慎三さんはキーパースンとして登場します。
その清水さん編著の『戦後労働組合運動史論―企業社会超克の視座』に高木さんが書かれた「日本労働組合運動における「右派」の系譜」こそは、私はある意味最高傑作だと思っています。繰り返し本書で持ち出す桝本純の認識枠組みとも接するものがありますね。

https://www.asahi.com/articles/DA3S15430445.html

高木郁朗先生が亡くなったそうです。本書が文字通り墓碑銘となってしまいました。個人的には明石書店から出版していた『現代労働運動史』シリーズが気になるのですが、とても執筆が進んでいたとは思われないので未完のままで終わりそうです。

高木先生の訃報が朝日新聞に載っています。
hamachan先生ご自身による高木先生の回想もいずれ書かれるのでしょう。
ご冥福をお祈りいたします。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15430445.html

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