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« 梅崎修『日本のキャリア形成と労使関係』 | トップページ | 『季刊労働法』2021年冬号 »

2021年12月12日 (日)

雇用調整助成金に業種限定がなくなったのは・・・

石原伸晃元自民党幹事長が、自らが代表を務める党支部の雇用調整助成金受給を理由に内閣官房参与を辞職したというニュースを見て、

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211210/k10013383721000.html

そもそもなんで、企業活動をしているわけでもない党支部が雇用調整助成金を受給できるような立て付けになっているんだろうと思った人はいないでしょうか。

確かに現行制度上は、およそ人を雇っている以上はその適用対象に含まれるので、支給要件に該当する限り申請を拒否することもできない立て付けになっているのですが、始めからそうだったわけではないのです。

雇用調整助成金については、『季刊労働法』2013年冬号(243号)に「雇用助成金の半世紀」を書いたことがあるので、それを引用していきますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-1ed0.html

・・・創設時の雇用調整給付金はかなりシンプルな造りでした。労働大臣が原則として6か月の期間を定めて指定する業種(中分類、小分類、細分類)に属する事業を行う事業主で、労使協定に基づき休業を実施したものについて、休業労働者に支払った休業手当の3分の2(中小企業の場合)または2分の1(大企業の場合)が支給されます。
 指定業種は、法施行当初の1975年1月に39業種(細分類238業種)で始まり、同年8月に158業種(細分類291業種)とピークに達し、その後徐々に減少していきました。

1975年にオイルショックの真っただ中で創設されたときの雇用調整給付金は、対象業種が限定される制度だったのです。

ところが、2001年の改正により、重点は雇用維持から労働移動促進に移り、それに伴い、雇用調整助成金は業種に基づくものから個別事業所ごとの相対的に小さい制度に移行したのです。

・・・このとき雇用保険法の雇用安定事業に第2号が追加され、「離職を余儀なくされる労働者に対して・・・労働者の再就職を促進するために必要な措置を講ずる事業主」への助成が明記されました。まだ第1号に雇用調整助成金の根拠規定がありますが、継子扱いから堂々たる弟の地位に出世したわけです。一方、長らく総領息子の地位を享受してきた兄の雇用調整助成金の方は、業種に基づくものではなく、個別事業所ごとに、急激な事業活動の縮小を余儀なくされた場合の一時的な雇用調整への助成として生き残りましたが、その重要性は明らかに下落したと言えます。

が、ご承知の通り、その後リーマンショックで莫大な額の雇用調整助成金が支給され、さらに今次のコロナショックではそれをも遥かに上回る額が支給されたわけです。

この間、雇用調整助成金の立て付けは、2001年改正により業種限定がなくなったままで、それゆえ今回のように政党支部が受給することも可能なままになっていたのですね。

この2001年改正の元になった中央職業安定審議会の建議「経済・産業構造の転換に対応した雇用政策の推進について」には、この改正の理由がこう書かれています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/kisya/syokuan/20001205_01_sy/20001205_01_sy_houkoku2.html

まず、そもそも業種単位で政策を考えるんじゃなくって、と論じ、

イ 今後業種を問わず労働移動の増加が見込まれる中で、職業生活の安定を図るためには、業種の枠組みを超えて、真に支援の必要な事業主や労働者に対して対策を講ずることが必要であり、それに合わせて業種法の見直しも必要である。
ロ 特に、事業転換等を図っていく場合の教育訓練や失業なき労働移動を支援するための対策が、業種にとらわれず展開されることの重要性が増している 

円滑な労働移動のための政策が必要だと論じたうえで、雇用調整助成金にコメントして曰く、

ロ 雇用調整助成金について、個々の事業主が急激な事業活動の縮小を余儀なくされた場合に一定の業種に属するか否かを問わず支援が受けられるようにするとともに、産業政策の観点から特に業種に着目した支援が講じられる場合には配慮することが必要である。 

ざっくりいうと、雇用維持から労働移動へという政策転換の文脈で「業種にとらわれず」という方針が打ち出され、それがそれまで業種指定方式でやっていた雇用調整助成金にも影響して、まあこれはもはや労働移動よりも重要性の乏しい二の次の政策だからという気持ちも若干あったのではないかと思いますが、雇用調整助成金も業種にとらわれず支給するよということになったとみてよいでしょう。

まあ、今回のコロナ禍を考えると下手に業種指定方式なんかとっていたらそれゆえに支給が遅れるとまた批判をあびていたでしょうし、風俗営業を除外していたことには批判が集中して、急遽支給することにしたなどということもありましたから、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-b631f8.html

雇用助成金の時には、風俗営業だからと言って排除するのは職業差別だとあれほど騒いだ人々が、岡村発言の直後にはだれも文句を言わなくなってしまっているというあたりに、その時々の空気にいかに左右される我々の社会であるのかがくっきりと浮かび上がっているかのようです。

業種にとらわれなくてよかったのかもしれませんが、性質上「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合において、労働者を休業させる事業主」ではありえないような業種業態は、除外しておいた方が良かったのかもしれません。

(追記)

https://twitter.com/ex_kanryo_mochi/status/1469927896278237185

「政治団体は雇用調整助成金を受給してはならない」が、特に議論されず暗黙の了解になろうとしているの、割と怖いことだと思います。こういう時のために保険料を払っていて、いざという時に支給されないなら、保険料を払う意味が無くなる。感情論に迎合するのは、ただのポピュリズムでしかありません。

納められている雇用保険料のほとんどが、雇用調整助成金に費やされている中で、これを事実上受給できないなら、政治団体は雇用保険が適用されない(少なくとも事業主負担は無くす)といった制度改正をしないと筋が通らない。ここまで見据えて批判している政治家が見当たらず、先が暗いように思います。

これはちょっと短絡的ですね。雇用保険のうち本体の失業給付であれば、「保険料を払っているのに・・・」という理屈はありえますが、雇用保険2事業の方は、もともと特定の要件に該当する場合にのみ給付される建付けであって、事業主が2事業分の保険料を払っていればどんな助成金ももらえるはずというわけにはいかない。雇用調整助成金も上述のように2001年改正までは業種指定が要件でした。

ただ現在の支給要件では政治家の団体を除外するようにはなっていないので、その意味では合法的な行為であり、あたかも違法な受給であるかのようなフレームアップは不適切であることは確かです。

 

 

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コメント

雇用調整助成金の実務をやっている人は、雇用保険料を払っていませんね。どれだけ高額になっているのか実感を持っていないでしょう。コロナ禍で「各省対策出せ!」と言われたのでメニューに乗っけた、資金が底をつきそうなので保険料率を上げる。そんな簡単なお仕事、民営化してはどうですかね。

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