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2021年12月27日 (月)

EUのプラットフォーム労働指令案@『労基旬報』2022年1月5日号

『労基旬報』2022年1月5日号に「22年新春特別寄稿」ということで、「EUのプラットフォーム労働指令案」を寄稿しました。

 数年前から世界中で労働問題の大きな焦点となり、昨年来のコロナ禍で日本でも注目されるようになってきたプラットフォーム労働について、EUは昨年初めからその立法化に向けた動きを加速化させてきました。本紙でも昨年3月25日号で「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」を解説し、9月25日号では「EU諸国におけるプラットフォーム労働政策」を概観したところです。昨年12月9日にはいよいよ欧州委員会から「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」が提案され、立法への最終段階に入りつつあります。そこで今回は、本紙新年号向けにその世界的に注目されているプラットフォーム指令案の内容を詳しく見ていきたいと思います。
  第1条は趣旨と適用範囲を記述しています。本指令の目的はプラットフォーム労働者の労働条件を改善することですが、それを主に雇用上の地位(employment status)の正しい決定を確保することと、アルゴリズム管理の透明性、公正性及び説明責任を促進することによって達成しようとするところに特徴があります。前者はいわゆる労働者性の問題ですが、これが本指令第2章(第3条~第5条)で規定されます。後者は昨年提案されたAI規則案とも重なる問題意識ですが、プラットフォーム労働に特に顕著に現れるアルゴリズム管理について第3章(第6条~第10条)で規定されます。これに加えて、プラットフォーム労働の透明性(第4章)、救済と執行(第5章)に関する規定も盛り込まれています。
 適用対象は「その事業所の場所や適用法の如何を問わず、EU域内において遂行されるプラットフォーム労働を編成するデジタル労働プラットフォーム」です。つまり、アメリカのプラットフォーム企業でもEU域内のプラットフォーム労働者を使っていれば適用されるのです。
 第2条は用語の定義です。まず「デジタルプラットフォーム」とは、①ウェブサイトまたはモバイルアプリなどの電子的手段を通じた遠距離で、②サービス受領者の依頼に基づき、③必要不可欠の要素として、オンラインであれ特定の場所であれ、個人によって労働が遂行される、という要件を充たす商業的サービスを提供する自然人又は法人をいいます。「プラットフォーム労働」とは、デジタル労働プラットフォームを通じて編成され、デジタル労働プラットフォームと個人との間の契約関係に基づきEU域内で個人によって遂行される全ての労働を意味し、当該個人とサービス受領者の間に契約関係が存するか否かに関わりません。「プラットフォーム労働遂行者」とは、プラットフォーム労働を遂行する全ての個人を意味し、当該個人とデジタル労働プラットフォームとの間の関係の契約如何に関わりません。これに対し、「プラットフォーム労働者」とは、雇用契約を有するプラットフォーム労働遂行者です。定義上はそうですが、ここが第2章における主戦場になります。
・雇用上の地位の法的推定と反証可能性
 本指令案の最も注目を集める部分である第2章(雇用上の地位)について逐条的にみていきましょう。まず第3条(雇用上の地位の正しい決定)は、加盟国がプラットフォーム労働遂行者の雇用上の地位の正しい決定を確保する適切な手続きを有し、彼らが労働者に適用されるEU法上の諸権利を享受しうるようにすべきこと、雇用関係の存否の決定に当たっては、まずなによりもプラットフォーム労働の編成におけるアルゴリズムの利用を考慮に入れて、実際の労働の遂行に関する事実によるべきであり、その関係が当事者間でいかなる契約に分類されているかには関わらず、事実に基づき雇用関係の存在が確認されれば使用者責任を負うべき当事者が国内法制度に従って明確に措定されるべきことを述べています。これはまだ一般論を述べているだけで、本指令の本丸ではありません。
 次の第4条(法的推定)が本丸です。同条第2項に該当するような労働の遂行をコントロールするデジタル労働プラットフォームとプラットフォームを通じて労働を遂行する者との間の契約関係は、雇用関係であると法的に推定されます。この法的推定はあらゆる行政及び司法手続に適用されます。権限ある当局は、この推定に依拠しうるべき関係法令の遵守と執行を確認しなければなりません。
 その要件として同条第2項は5つの項目を挙げ、この5要件のうち少なくとも2つが充たされていれば、プラットフォーム労働遂行者については雇用関係であるとの法的推定がされるという法的構成となっているのです。
①報酬の水準を有効に決定し、又はその上限を設定していること、
②プラットフォーム労働遂行者に対し、出席、サービス受領者に対する行為又は労働の遂行に関して、特定の拘束力ある規則を尊重するよう要求すること、
③電子的手段を用いることも含め、労働の遂行を監督し、又は労働の結果の質を確認すること、
④制裁を通じても含め、労働を編成する自由、とりわけ労働時間や休業期間を決定したり、課業を受諾するか拒否するか、再受託者や代替者を使うかといった裁量の余地を有効に制限していること、
⑤顧客基盤を構築したり、第三者のために労働を遂行したりする可能性を、有効に制限していること。
 これらはいずれも、プラットフォーム労働の特徴として指摘されることですが、これら全てではなく、5つのうち2つが充たされれば雇用関係であると推定するというのは、かなり緩やかな要件であるといえます。
 同条第3項は加盟国に対して、この法的推定の有効な実施を確保する措置として、具体的に次の措置をとるべしとしています。
①法的推定の適用に関する情報が明確、包括的かつ容易にアクセスしうるやり方で一般に入手可能にすること、
②デジタル労働プラットフォーム、プラットフォーム労働遂行者及び労使団体がこの法的推定(後述の反証手続も含め)を理解し、実施するためのガイダンスを策定すること、
③遵守しないデジタル労働プラットフォームを積極的に追及する施行当局向けのガイダンスを策定すること、
④労働監督機関や労働法の施行に責任を有する機関による実地監督を強化するとともに、当該監督が比例的かつ非差別的であるようにすること。
 このように、プラットフォーム労働に対してはかなり包括的に雇用関係であるとの法的推定がまずなされるのですが、推定は「みなし」ではないので、当然事実を挙げて反証する(rebut)ことができます。それが次の第5条(法的推定を反証する可能性)です。
 加盟国は当事者のいずれもが第4条の法的推定に対して、司法ないし行政手続において反証する可能性を確保しなければなりません。デジタル労働プラットフォームの側が問題の契約関係を雇用関係ではないと主張する場合には、その挙証責任はデジタル労働プラットフォームの側にあります。そしてかかる手続が進行しているからといって、雇用関係であるという法的推定の適用が停止することはありません。これに対してプラットフォーム労働遂行者の側が問題の契約関係を雇用関係ではないと主張する場合には、デジタル労働プラットフォームは関係情報を提供することにより手続の解決を支援しなければなりません。
・アルゴリズム管理の規制
 本指令案のうち、プラットフォーム労働にとどまらない大きなインパクトを秘めているのが第3章(アルゴリズム管理)です。近年の人工知能(AI)の発展によって、採用から昇進、評価、退職に至るまで労務管理の広い分野にわたってアルゴリズムの活用が広がっています。この問題については、EUのAI規則案が昨2021年4月に提案されており、別途紹介もしています(「AI時代の労働法政策」『季刊労働法』275号)。本指令案はそのうちプラットフォーム労働に関して突出した形で法規制を提起していますが、同様の問題意識はプラットフォーム労働以外の労働者についても当てはまるところでしょう。とはいえ、ここでは指令案の文言に沿って見ていきます。
 まず第6条は自動的なモニタリングと意思決定システムの透明性について規定します。加盟国はデジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働者に対し、①電子的な手段によりプラットフォーム労働者の労働遂行を監視、監督、評価するために用いられる自動的なモニタリングシステムと、②プラットフォーム労働者の労働条件、とりわけ作業割当、報酬、労働安全衛生、労働時間、昇進、契約上の地位(アカウントの制限、停止、解除を含む)に重大な影響を与える決定をしたり支援するのに用いられる自動的な意思決定システム、について情報提供するよう求めなければなりません。
 提供すべき情報は、自動的なモニタリングシステムについては、①かかるシステムが用いられるか又は導入過程にあること、②かかるシステムにより監視、監督、評価される行動類型(サービス受領者による評価を含む)についてであり、自動的な意思決定システムについては、①かかるシステムが用いられるか又は導入過程にあること、②かかるシステムにより行われ又は支援される意思決定の類型、③かかるシステムが考慮に入れる主要なパラメータと、自動的意思決定システムにおけるかかる主要パラメータの相対的重要性(プラットフォーム労働者の個人データや行動がその意思決定に影響を及ぼす仕方を含む)、④プラットフォーム労働者のアカウントを制限、停止、解除したり、プラットフォーム労働者の遂行した労働への報酬の支払を拒否したり、プラットフォーム労働者の契約上の地位に関わる意思決定の根拠、です。デジタル労働プラットフォームは上記情報を電子媒体を含む文書の形で、遅くとも労働の開始日までに簡潔かつ分かりやすい文言で提供しなければなりません。この情報はプラットフォーム労働者の労働者代表や国内当局者にも要請に応じて提供されます。
 また、デジタル労働プラットフォームはプラットフォーム労働者に関する個人データのうち、両者間の契約の遂行に本質的に関係があり、厳密に必要なものでない限り、取り扱ってはなりません。とりわけ、①プラットフォーム労働者の感情的又は心理的な状態に関する個人データ、②プラットフォーム労働者の健康に関係する個人データ(一般データ保護規則による例外を除く)、③労働者代表との意見交換を含め、私的な会話に関する個人データ、を取り扱ってはならず、④プラットフォーム労働者が労働を遂行していない間に個人データを収集してはなりません。
 次の第7条は人間によるモニタリングの原則です。加盟国は、デジタル労働プラットフォームが定期的に労働条件に関する自動的なモニタリングと意思決定システムによってなされたり支援される個別の意思決定の影響をモニターし、評価するよう確保しなければなりません。労働安全衛生に関しても、デジタル労働プラットフォームは、①自動的なモニタリングと意思決定システムのプラットフォーム労働者の安全衛生に対するリスク、とりわけ作業関連事故や心理社会的、人間工学的リスクに関して評価し、②これらシステムの安全装置が作業環境の特徴的なリスクに照らして適切であるかを査定し、③適切な予防的、防護的措置を講じなければなりません。自動的なモニタリングと意思決定システムがプラットフォーム労働者に不当な圧力を加えたり、その心身の健康を損なうような使い方は許されません。加盟国はデジタル労働プラットフォームが上記個別の意思決定の影響をモニターするための十分な人員を確保するよう求めなければなりません。このモニタリングの任務を負った者は、必要な能力、訓練、権限を持たなければならず、自動的な意思決定を覆したことによって解雇、懲戒処分その他の不利益取扱いから保護されなければなりません。
 これとよく似た発想ですが、第8条は重大な意思決定の人間による再検討を要請しています。加盟国は、上述のプラットフォーム労働者の労働条件に重大な影響を与える自動的な意思決定システムによってなされたり支援されたいかなる意思決定についても、プラットフォーム労働者がデジタル労働プラットフォームから説明を受ける権利を確保し、特にデジタル労働プラットフォームがプラットフォーム労働者に対して当該意思決定に至る事実、状況及び理由を明らかにする窓口担当者を指名し、この窓口担当者が必要な能力、訓練、権限を有するようにしなければなりません。
 デジタル労働プラットフォームはプラットフォーム労働者に対し、そのアカウントを制限、停止、解除したり、プラットフォーム労働者の遂行した労働への報酬の支払を拒否したり、プラットフォーム労働者の契約上の地位に関わるいかなる自動的な意思決定システムによる意思決定についても、書面でその理由を通知しなければなりません。
 プラットフォーム労働者がその説明や書面による理由に納得しない場合や、その意思決定が自らの権利を侵害していると考える場合は、デジタル労働プラットフォームに対してその意思決定を再検討するよう要請する権利があります。デジタル労働プラットフォームはかかる要請に対し、遅滞なく一週間以内(中小零細企業は二週間以内)に実質的な回答をしなければなりません。その意思決定がプラットフォーム労働者の権利を侵害していた場合には、デジタル労働プラットフォームは遅滞なくその意思決定を是正しなければならず、それが不可能な場合には十分な補償をしなければなりません。
 第9条はプラットフォーム労働者の労働者代表への情報提供と協議を確認的に規定しています。その次の第10条は重要な規定で、以上第6条~第8条の諸規定は雇用関係を有するプラットフォーム労働者だけではなく、雇用関係のないプラットフォーム労働遂行者にも適用されます。これはもちろん、第4条の法的推定が第5条によって反証された純粋の個人請負業者ということになります。アルゴリズム管理の規制は、雇用労働者だけではなく自営業者についても適用すべき規制なのだということなのでしょう。ここは、厳密に言えば狭義の労働法の範囲を超えている部分だと言えます。
・その他の規定
 以上が本指令案の核心的な部分です。以下第4章(プラットフォーム労働の透明性)では、使用者たるデジタル労働プラットフォームが労働・社会保障当局にプラットフォーム労働を申告すべきこと(第11条)、プラットフォーム労働者数やその労働条件などの情報をこれら当局や労働者代表に提供すべきこと(第12条)を定めています。
 第5章(救済と執行)では、有効な紛争解決機関と権利侵害の場合の救済(第13条)、プラットフォーム労働遂行者のために活動する機関(第14条)、プラットフォーム労働遂行者のコミュニケーション・チャンネル(第15条)、証拠開示(第16条)、不利益取扱いからの保護(第17条)、解雇からの保護(第18条)、監督と罰則(第19条)などが規定されていますが、詳細は省略します。
 まだ指令案が提案されたばかりで、いつ指令として採択されるかは不明ですが、施行期日(正確に言えば国内法への転換期限)は公布の2年後なので、もし今年中に採択されれば施行は2024年ということになります。
 採択の見込みはどれくらいあるかですが、本指令案提案の数日前の11月29日、ベルギー、スペイン、ポルトガル、ドイツ、イタリアの労働相に加え、欧州労連事務局長、その他の国選出も含めた欧州議会議員らの連名による、フォン・デア・ライエン委員長宛の公開状が公表され、予定通りプラットフォーム労働指令案を提出するよう求めたことからすると、積極派の勢力はかなり大きいようです。EU労働立法には消極的な姿勢であったイギリスがEUを脱退してしまったことも考え合わせると、本指令案が採択される可能性はかなり高いようにも思われます。

 

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