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2021年11月10日 (水)

宮本太郎提言は“神聖なる憎税同盟”の壁を打ち破れるか@『季刊・現代の理論』

Taidan_s というわけで、『季刊・現代の理論』秋号が本日刊行(アップ)されたようで、宮本太郎さんとわたくしの対談も読めるようになっています。

http://gendainoriron.jp/vol.28/feature/taidan.php(宮本太郎提言は“神聖なる憎税同盟”の壁を打ち破れるか)

『貧困・介護・育児の政治――ベーシックアセットの福祉国家へ』をめぐって宮本・濱口桂一郎さんが徹底討論

この対談は、自分で言うのもなんですが、大変面白いものに仕上がっていると思います。ちょうど自民党の総裁選挙の時にリモートでやったのですが、その辺の雰囲気もちらりと出ています。

冒頭近くでのわたくしの発言部分だけちょい見せしておきましょう。

濱口:私が読んですごく同感した点と違和感を抱いた点を述べていきたいと思います。この本で一番、我が意を得たりと思った点は、「磁力としての新自由主義」です。この言葉は宮本さんの中では社会保障に着目したかたちで議論されていますが、雇用システムの観点から見るともっと根深いものがあって、まさに「磁力としての新自由主義」がずっと働いている、というのが私が感じてきたことです。宮本さんの本では、大枠としては自民党政権が新自由主義であり民主党はそれを批判する側という枠組だと思うのですが、私の目から見るとかなり違う光景が見えてきます。

2009年の民主党政権は、小泉政権と同じくらい「磁力としての新自由主義」を撒き散らしていたのではないか。宮本さん自身も詳しく書いていますが、2000年代前半の小泉政権は、確かに小泉・竹中の新自由主義路線でした。しかし第1次安倍政権から、福田、麻生政権と進むにつれ、自公政権は徐々に社会民主主義的な傾向を現してきました。それが民主党政権になってもっと社民主義になったというふうに、『現代の理論』の読者は考えているかもしれませんが、私の目から見るとむしろ民主党政権で小泉政権に戻ったのです。構造改革だ、事業仕分けだと言って、無駄を全部切ればお金はいくらでも出てくると主張し、それまで自公政権末期3代で少しずつ積み上げられてきた社会民主主義的な方向が、個々の政策ではつまみ食い的に社会民主主義的な政策はあるものの、大きな流れでいうとむしろ断ち切られてしまった。

鳩山政権はそれとは別の面で失敗して参議院選挙で与野党が逆転してしまい、やむを得ず菅直人は自公政権末期の社民的な政策を徐々に復活させていきました。その社民政策復活を象徴する人物が二人います。一人は財務大臣になった与謝野馨さんですが、もう一人は宮本太郎さんです。皮肉なことに、2000年代から2010年代への変わり目の中で、民主党政権というのは一時期小泉的な構造改革路線に逆流し、それが難しいことが分かって再び福田・麻生政権時代の社民的な政策に復帰して、野田政権で税と社会保障の一体改革に結実したのだと見ています。

こうした流れの中で見ると、第二次安倍政権というのは実に複雑な構造です。新自由主義的なものも部品レベルで見れば確かにあります。民主党政権で排除されていた竹中さんが復活したのはそれを象徴しています。一方で、それまでの社会民主主義的な流れも維持していますし、官製春闘などそれまでにない社民的政策も登場しました。この対立軸とは別の次元で、宮本さんの言う「日常的現実という保守主義」ではなく、頭の中でこしらえられた妙にイデオロギー的な、本来の保守主義とは異なるので私はカタカナで「ホシュ主義」と言ってますけれども、ある種の右翼的アイデンティティ・ポリティクスも強烈に打ち出された。

こういう様々なものがないまぜになったのが安倍政権だったのではないか。しかしここでは第2次安倍政権の正確な位置づけが大事なのではなく、福田・麻生政権で徐々に拡大し、鳩山政権でいったん断ち切られて後期民主党政権で復活した社会民主主義が、現在の安倍・菅政権まで流れてきているということの方が大事だと思います。この辺は社会政策の周りをうろちょろしている私の目から見ると自然にそのように見えるのですが、また宮本さんの見解ともおそらく一致すると思うのですが、世の多くの人にはそのように見えてない人が多いと思います。

ちょうど今自民党の総裁選挙の中で、岸田さんから「新自由主義からの脱却」といった議論が出てくる一方で、かつて民主党政権が唱えていた年金改革論が、規制改革を唱える河野さんから出てくるという、大変興味深い様相になっています。これは、いわば野党側が出してくるであろうカードを先回りして自民党の側が打ち出している形です。あえて社民的な政策を打ち出して見せる一方で、意識せざる新自由主義的な議論を振り回して、自民党としては混合したメッセージになっています。そうした事態の分析を、イデオロギー的に裁断するのではなく、現実の流れに沿った仕分けの仕方が大事である、というのが宮本さんの本を読んだ感想です。

 

 

 

 

 

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コメント

全くの素人の感想ですが、新自由主義(リベラル)と社会民主主義(ソーシャル)の関係が日本と欧米では異なるように感じます。欧米(とくにアメリカ)では、新自由主義(リベラル)は社会民主主義(ソーシャル)と対立していると思います(働かない奴に配る金があるなら俺の税金を減らせ!) しかし日本では新自由主義が対立しているのは伝統(?)だと思います。
日本では権力のある人やそのお友達(いわゆる「上級国民」)が特別扱いされたり地位や既存の仕組みを利用して利益を得る事に批判的だと思います。最近でも高級官僚だった人が自動車で死傷事故を起こしても逮捕されなかった事やコロナ対策を担当官庁と関係の深い会社が請け負って管理費だけ取って事業をほとんど下請けに丸投げした事は批判されました。
新自由主義(構造改革,規制緩和)というと、「上級国民」が美味しい思いをする仕組みをぶち壊し弱きを助けて強きを挫く、まるで悪代官やお友達の越後屋を成敗する、水戸黄門や暴れん坊将軍のようなイメージを持つ人も多かったと思います。
また日本では新自由主義(構造改革,規制緩和)は社会民主主義(社会保障)を実現する手段(身を切る構造改革で得た財源で社会保障を強化する)だと思っている人も多いと思います。

>2000年代前半の小泉政権は、確かに小泉・竹中の新自由主義路線でした。

小泉政権の郵政民営化は新自由主義政策だと思いますが小泉氏が民営化が必要な理由として挙げたのは、
 小さな郵便局の局長は年収1000万円だが、ほとんど世襲になっている
という事でした。大きな政府や社会民主主義を支持する人でも、年収1000万の準公的地位が世襲で決まる仕組みは廃止すべきだ という考えに賛成する人は多いと思います。また小泉氏は郵政民営化に関して ”抵抗勢力は排除する” と発言して話題になりましたが、小泉氏の言う”抵抗勢力”とは 年収1000万の準公的地位を世襲で決める仕組み を擁護する勢力であって、国営郵政事業の従業員や労働組合ではなかったと思います。
このため小泉・竹中の新自由主義路線を暴れん坊将軍による世直しのように感じて支持する人も多かったと思います。

>私の目から見るとむしろ民主党政権で小泉政権に戻ったのです。

私の目から見ると民主党政権で小泉政権に戻ったのではなく、むしろ小泉政権が民主党の主張の一部を取り入れたように思えます。
小泉政権以前の自民党は、「上級国民」が美味しい思いをする仕組み を擁護する政党(森喜朗氏のイメージ)だと思われていました。これに対して民主党は新自由主義(構造改革)によってそのような仕組みをぶち壊す事を主張していたと思います。例えば当時は公共事業費が社会保障費に近い額で人口の少ない地域でも立派な道路が作られました。また談合により競争が少なく工事は高い価格で発注されました。このため自民党の支持団体である建設業者は多くの利益を上げていました。これに対して民主党は公共事業を削減して社会保障に充てる事(コンクリートから人へ)を提唱していました。


>鳩山政権はそれとは別の面で失敗して参議院選挙で与野党が逆転してしまい、

以前の記事のコメントで申し上げましたが、参議院選挙で与野党が逆転したのは鳩山の後継の菅直人氏が選挙直前に消費税増税を発言したからだと思います。仰るように鳩山政権は色々と問題があり支持率が低下しましたが菅氏が就任すると支持率は回復しました。また野党自民党の支持率は低いままだったので消費税増税を発言するまでは民主党が優勢でした。私は菅氏が消費税増税を発言しなければ参議院選挙は民主党が勝って以後も支障なく政権を運営できたと思います。その意味で菅氏の責任は重大だと思います。


>こうした流れの中で見ると、第二次安倍政権というのは実に複雑な構造です。

政治家には政策に関して思い入れが強い分野と弱い分野があるそうです。第二次安倍政権の経済政策が複雑な構造に見えるのは安倍晋三氏は経済分野に思い入れが弱いからだと思います。
私は安倍晋三氏が思い入れの強い分野は経済ではなくホシュ主義(戦後レジームからの脱却, 慰安婦問題での日本の名誉回復等)だと思います。例えば第一次安倍政権では、前任の小泉政権が(あえて)行わなかった防衛省の昇格や教育基本法の改訂を行い、郵政民営化に反対して自民党を公認されなかった議員の復帰を認めました。ホシュ分野を重視し経済分野を軽視する第一次安倍政権は国民の評価が高かった小泉政権と真逆だったので国民の評価を得られず短期間で退陣しました。
これを教訓に第二次安倍政権ではホシュ主義政策の実施に必要な国民の支持を得るために経済分野の政策も重視するようになったと思います。第二次安倍政権の政策に関して
  以前に好きなお肉(ホシュ主義)ばかり食べて叱られたので
  好きなお肉を食べるために野菜(経済政策)も我慢して食べる子供のようだ
と言った人がいたそうです。安倍氏は経済分野には思い入れが弱かったので国民に評価される(支持率が上がる)と考えた経済政策はこれまでの経緯や整合性にとらわれず実施したと思います。このため第二次安倍政権の経済政策には整合性がなく複雑な構造に見えたのだと思います。

hamachan先生は維新の会についてどのようにお考えでしょうか?
今回の選挙では立憲民主党は金融所得に対する増税を主張しましたが、維新の会は増税を全く主張しなかったと思います。その意味で維新の会は立憲民主党と違って 神聖なる憎税同盟 の有力なメンバだと思います。
維新の会は今回の選挙で
  大坂では身を切る改革で得た財源で税金も借金も増やさず私立高校の授業料や大阪市立小中学校の給食費を無償化した
と述べたそうです。選挙演説なので盛っている部分もあると思いますし、改革で身を切りすぎて保健所や病院の従事者が不足し春のコロナ第4波では大阪では多数の方が亡くなりました。しかし大阪では首長、地方議会、国会議員の選挙で維新の会はずっと勝っています。これは大阪では維新の会が主張する
  社会民主主義実現の手段としての新自由主義(増税ではなく身を切る改革で得た財源による社会保障強化)
に基づく行政を評価する有権者が多数だからだと思います

>Alberich さん

「参議院選挙で与野党が逆転したのは鳩山の後継の菅直人氏が選挙直前に消費税増税を発言したからだと思います」について、前にも指摘しましたが、相変わらず認識が間違っています。確かに増税に言及した直後は支持率が減少しましたが、その後、小沢一郎との代表選を経て一時的に内閣支持率は持ち直してます。Alberich さんの認識だと、増税反対を堅持していた小沢一郎のほうが国民に支持されてなければおかしいですが、そんなことは全くありません。小沢はできもしないマニフェストに固執して無責任だと、もっと批判されていたと思います。政権内部の内輪揉めとワイドショーのバッシング報道に(当時は毎日のように「早くやめろ」と言われていました。その言葉は安倍政権では最後まで一度も聞きませんでした)、何の効果的な対応もできなかったのが菅直人政権の失敗の大原因であって、増税は「マニフェスト失敗」のエピソードの一つにすぎません。

いち社会的左派殿

>「参議院選挙で与野党が逆転したのは鳩山の後継の菅直人氏が選挙直前に消費税増税を発言したからだと思います」について、前にも指摘しましたが、相変わらず認識が間違っています。

私は
 ・菅直人氏が増税に言及する以前は菅内閣の支持率は高く民主党の支持率も野党自民党の支持率より高かった。
 ・参議院選挙は菅直人氏が増税に言及した直後の内閣支持率が大幅に減少した時に行われたため与野党が逆転した。
という事実から「参議院選挙で与野党が逆転したのは菅直人氏が選挙直前に消費税増税を発言したからだ」と認識しています。


>確かに増税に言及した直後は支持率が減少しましたが、
>その後、小沢一郎との代表選を経て一時的に内閣支持率は持ち直してます。

菅氏と小沢氏の代表選は参議院選挙の後なので代表選が参議院選挙に影響する事はないと思います。また支持率は参議院選挙の後は代表選の前から持ち直していたと思います。


>Alberich さんの認識だと、増税反対を堅持していた小沢一郎のほうが国民に支持されてなければおかしいですが、そんなことは全くありません。

参議院選挙の敗北後に菅氏は消費税増税を取り下げたと思います。このため代表選では消費税増税は争点にならなかったと思います。


>小沢はできもしないマニフェストに固執して無責任だと、もっと批判されていたと思います。

仰るように小沢氏には 自分の意見に固執する という批判がありました。しかし小沢氏はずっと以前からぞの様に批判されており参議院選挙の直前に批判が強くなったわけではありません。このため小沢氏が自分の意見に固執していると批判されていた事と参議院選挙の与野党逆転は無関係だと思います。


>政権内部の内輪揉めとワイドショーのバッシング報道に(当時は毎日のように「早くやめろ」と言われていました。その言葉は安倍政権では最後まで一度も聞きませんでした)、何の効果的な対応もできなかったのが菅直人政権の失敗の大原因であって、

私の印象では、菅直人政権成立後から消費税増税発言までの内閣支持率が高かった時期にはワイドショーのバッシング報道や「早くやめろ」という声は少なかったと思います。菅政権がバッシングされ何の効果的な対応もできなかった大きな原因は参議院で野党が多数になり与党独自の政策遂行が困難になったからだと思います。民主党の菅政権だけでなく自民党の福田政権や麻生政権も参議院で野党が多数だったため、与党独自の政策遂行が困難になりバッシングされ毎日のように「早くやめろ」と言われても何の効果的な対応もできなかったと思います。
また安倍政権は参議院も与党が多数だったのでこれらの政権よりずっと有利でしたが、それでも加計学園の問題や都議会選挙での「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という発言に対して批判が強く支持率が下がりました。当時はワイドショーはバッシング報道を行い「早くやめろ」と言う人も多かったと思います。


>増税は「マニフェスト失敗」のエピソードの一つにすぎません。

消費税増税は民主党のマニフェストには記載されてなかったと思います。

 不勉強な大人様
境家先生の疑問については、『季刊・現代の理論』第28号、「宮本太郎提言は“神聖なる憎税同盟”の壁を打ち破れるか」の中で、宮本太郎 先生とhamachan先生が解明なさろうとしていますね。私は何度も読み返していますが、非常に味わい深い対談だと思います。 http://gendainoriron.jp/vol.28/feature/taidan.php

企業内福祉(特殊な賃金)の充実を規範とする意識が社会的に広がっていることが、
例外状況(保育、貧困など)への対応を阻害しているというのはそうなのでしょう。
他にも、処罰感情の行き先が企業内福祉から追い出すこと(使用者が賃金を支払わ
ないこと)をコンプラなどと言って求めることになるということでもあるでしょう。

> 国家の社会保障で提供されるようなサービスは、企業内ですでに提供されているので、それを超えるようなものはいらないという実感がある。
> 子供を抱えて男性正社員型の働き方ができるかと言うとできるはずがありません。
> 日本社会や日本企業は女性のポテンシャルを十分使えていないのです。
> パート・アルバイトの中に家計維持型の労働者が大量に入ってきたために、最低賃金ではまともな生活ができないという問題が浮かび上がってきたのが、実は十数年前の第一次安倍内閣の時です。
> 家計補助的な労働力をフルに活用することを前提に形成されてきてしまった。そのことが社会保障にも影響しており、年金や医療保険など社会保険の適用を拡大しようとすると、そういう流通関係の事業団体が猛然たる大反対運動をやる。
https://gendainoriron.jp/vol.28/feature/taidan.php

> 職種ごとに賃金を決めようとすると、企業別労働組合の内部で利害の対立が起きてしまうことです。
> 女性と非正規の犠牲の上に成り立っていましたし、時代とともにマイナス面が目立つようになってきた。
> 以前から、パートやアルバイトのような雇用柔軟型はそれなりの分量存在しており、そこのところに大きな変化があったわけではありません。むしろ、そこで大きく打ち出された高度専門能力活用型がほぼ不発に終わり、本来そこに所属すべきであったはずの人々がひっくるめて雇用柔軟型に放り込まれたしまったことが、この30年の歴史の最大の問題点であったのでしょう。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2025/05/post-76342d.html

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