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2021年11月 4日 (木)

柯隆『「ネオ・チャイナリスク」研究』@【GoTo書店!!わたしの一冊】

9784766427479266x400 『労働新聞』の【GoTo書店!!わたしの一冊】という書評欄はほぼ月1回廻ってくるので、次に何を取り上げようかと迷うのですが、今回は中国本にしました。小口彦太『中国法』も面白かったのですが、さすがに法学部的素養がないと短い紹介文では中国法のどこがどうおかしいのかが理解しにくいかな、という気がして、在日30年以上に及ぶ中国人エコノミストによる本書にしたわけです。

https://www.rodo.co.jp/column/116101/

 最近、「中国の動向がやばい」と感じる事件が多発している。香港、ウイグル、チベット、モンゴルといった民族弾圧問題は以前からだが、これまで中国経済を牽引してきた先端産業の経営者に対して弾圧とも取れる政策が矢継ぎ早に取られ、文革を礼賛するかの如き評論が掲載されるなど、中国はこれからどうなるんだろうと感じている人は多い。書店に行けば中国関連書籍は棚に溢れているが、その大部分はハイテク中国は凄いぞと煽るか、独裁中国は酷いぞと叫ぶかで、冷静に今日の中国の姿を論じたものは多くない。

 その中で、今年5月に出た本書は、日本の民間シンクタンクで30年以上中国経済の分析に携わってきた中国人による、中国人として育った実体験の吐露と経済研究者としての客観的な分析がほど良く混じり合って、極めて納得的な記述に仕上がっている。

 中華人民共和国の歴史は毛沢東の時代、鄧小平とその弟子の時代、習近平の時代に分けられる。大躍進と文革で数千万人が殺された毛沢東の時代に対し、改革・開放でGDPが100倍になった鄧小平らの時代は、しかし政治改革は断固拒否し、共産党独裁の下で腐敗と貧富の格差が拡大した。そして今日の「中国の特色ある習近平新時代」は、毛沢東の時代に逆戻りしつつあると著者は言い、その原因を習政権の紅衛兵世代としてのDNAに求める。

 …元紅衛兵たちは今、だいたい60代である。習政権執行部のほとんどは元紅衛兵である。彼らはそれまでの世代と比較して権力を人一倍崇拝する傾向が強い。結論をいえば、元紅衛兵出身の指導部が国家運営を主導している間は、中国社会が民主化する見込みはほとんどないと思われる。元紅衛兵たちは毛時代に憧れ、社会と知識人に対する統制を強めようとする傾向にあるからだ。…

 その結果、40年前に鄧小平らが始めた改革・開放、経済自由化路線に対しても、共産党指導体制を揺るがしかねないとの猜疑心から、経済統制を強化しようとしているのだという。アメリカのGAFAに対抗する中国のプラットフォーマー「BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)」は民営企業だが、これらが共産党直属の国営企業の分野にまで拡大しようとしてきたのを叩くため、独占禁止法違反と称して罰金を科された。

 その先にあるのは何か。著者は「国家資本主義から国家社会主義へ」舵が切られ、中国経済は成長が急速に鈍化する可能性が高いという。

 …中国社会において、これまでの40年間の経済成長の果実の一部が貯蓄として残っているため、当面は成長が少々鈍化しても、恐慌に陥ることはなかろう。しかし、改革・開放のレガシーが食い尽くされれば、1970年代の毛沢東時代末期のような状態の中国が再来する可能性は小さくない。…

 本書は中国共産党指導部に対しては極めて厳しい批判を投げかけるが、その底には(中共版ではない)真の愛国心がみなぎっており、祖国が再び衰退の道を辿ろうとしていることに対する憂国の思いが溢れている。

 

 

 

 

 

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コメント

中国関係の話題が出てきたので、ここでhamachan先生も以前とりあげられていた(2014年9月20日)、香港の不屈の労働運動家、區 龍宇 氏の近著『香港の反乱2019 抵抗運動と中国のゆくえ』(寺本勉訳、柘植書房新社)についての、梶谷 懐神戸大教授(中国経済)の紹介文をとりあげさせていただきます。WEDGE Infinity「政治・経済」または「国際」(または、BLOGOS「社会」)の 2021年11月3日付『 「北京対香港」を乗り越え連帯を訴える不屈の左派論客 中国を変える 〝中国人〟』、という記事になります。

 以下は、余談です。
 香港の財界と結託して民主化運動に大弾圧を加える、中国共産党=習近平がマルクスの銅像をマルクスの生地、トリーア市に寄贈したというシュールレアルな現実についての記事がhamachan先生の2018年5月6日付ブログ「マルクス200年で中国が銅像っていう話」でとりあげられていましたが、中国共産党がドイツに寄贈するなら、マルクス先生の全くの同時代人にあたる、鉄血宰相ビスマルクの銅像の方がずっとお似合いだと私は思うのですが…。

 鉄血政策:中国の統一は、演説や多数決によってではなく、鉄と血によってのみ実現・維持され、可能となるものである。

 文化闘争:ダライ=ラマ法王を信奉するチベット族とモンゴル族、ムスリムであるウイグル族と回族(中国語を第一言語とするムスリム)及びキリスト教徒を文化的に抑圧し、「中国化」する。

 社会主義者鎮圧法:中国共産党の指導下にない、自主的な労働運動や社会主義運動は決して許されない(2019年1月6日ブログ「中国左翼青年の台頭と官憲の弾圧」など)。

 全部、ビスマルク以上に徹底して実行していますからね(苦笑)。
 
 私としては、いつになるかは判りませんが、今の中国共産党のようなやり方での、中国の世界的台頭が、いずれ第一次~第二次世界大戦以上の世界的大惨事の遠因となるのではないかと、本気で心配しております。

 
 

>そして今日の「中国の特色ある習近平新時代」は、毛沢東の時代に逆戻りしつつあると著者は言い、その原因を習政権の紅衛兵世代としてのDNAに求める。
>習政権執行部のほとんどは元紅衛兵である。

習政権執行部で私が知っているのは習近平氏だけですが習氏は元紅衛兵なのでしょうか?習氏の父親は中国建国時の共産党幹部でした。このため幼少時は恵まれた環境でしたが文革で下放させられ大変な苦労をしたそうです。私は習氏は紅衛兵世代であっても紅衛兵ではなく紅衛兵につるし上げられる側ではなかったかと思います。
私は
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24330
習近平の大革命 毛沢東の「文革」とはここが違う
という記事の以下の記述が印象に残っています。

今般の動きについて、毛沢東の文革とは異なる展開をたどり、毛時代、改革開放に次ぐ中華人民共和国の第三の局面を見せ始めたものと考える。それは、AI・IT時代における「中国化」の名のもとでゆっくりと萎縮してゆく中国の姿である。

 習や同世代の中共のエリートにとって、文革は彼らからまともな教育の機会を奪い、中国の「発展」に必要な知識の普及を妨げた災厄でしかない。

 習近平の政治は、その可能性を深く警戒する立場から、中国の主流な社会の価値観に照らして概ね「正しい」見方を大音量で提供し、異論が生じる可能性をなるべく周到に摘み取ろうとする点に特徴がある。

 このような政治の背後にあるのは、習近平をはじめ今の中共の政策決定に関わる60代の人生経験であろう。この世代は、文革に同時代人として巻き込まれ、若さゆえに翻弄された。

 習のみるところ、個々の中国人の前向きな奮闘=「正能量(プラスのエネルギー)」が中国を豊かにし、中国の国際的な地位を大いに向上させた。その核にあるのは、「中国の特色ある社会主義」によって時代に適応し、中国の伝統と新たな事物を集大成した中共であり、そんな「発展」の経験を凝縮した「中国の智慧」こそ尊い

 黄土高原での苦闘から人生形成をした習には、自らと改革開放中国が歩んできた奮闘と「発展」の成果に関心が薄く、さらには背を向ける人々がいること自体が信じられない。


>アメリカのGAFAに対抗する中国のプラットフォーマー「BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)」は民営企業だが、これらが共産党直属の国営企業の分野にまで拡大しようとしてきたのを叩くため、独占禁止法違反と称して罰金を科された。

アメリカでも本家のGAFAに対して規制を強化する動きがあるそうです。
アメリカと中国は政治体制は全く異なりますが、経済(特にIT分野)では規制が少ないという点では共通していると思います。ITの分野では規制が少ないと少数の優秀な人によって短期間で大きく発展する事が可能と思います。
しかしこれらの分野では従来の分野に比べると少数の人が多大な利益を得る事になるので、これらの分野を放置しておくと経済全体としては成長しても一部の人だけに利益が集中して中長期的には国がトップヘビーになって倒れてしまう恐れがあると思います。この状況はアメリカも中国も同じで、それへの対応として両国ともこれらの分野の規制を強化してでも国の足腰である中間層を増やそうとしていると思います。バイデン大統領は”中間層が米国を作った”と演説していますし、習主席は”共同富裕”を提唱しています。

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