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2021年9月 5日 (日)

独禁法抵触の恐れを理由の団交拒否

労働新聞に、日本港運協会の不当労働行為事件の東京都労委命令の記事が載っています。

https://www.rodo.co.jp/news/111970/(産業別最低賃金 団交応諾を命令 「独禁法違反」と主張も 都労委)

0a150152524e351bb86b65307c51ae7de1523498 東京都労働委員会(金井康雄会長)は、産業別最低賃金に関する団体交渉について、独占禁止法に抵触する恐れがあるとして応じなかった一般社団法人日本港運協会(東京都港区)の対応を不当労働行為と認定した。団交応諾を命じている。
 救済を申し立てたのは、ともに産別労組の全国港湾労働組合連合会(東京都大田区)と全日本港湾運輸労働組合同盟(同)。・・・ 

日本で不当労働行為を問題にするのはほとんどすべて少数派企業別組合か、最近はむしろ個別紛争解決型企業外ユニオンであって、産業別組合が産別交渉をめぐって産別使用者団体を相手取ってやるなんてほとんど見たことがない世界ですが、それが現実の世界が、港湾労働という特殊な世界では実現していたのですね。

さっそく都労委のHPを覗いてみると、

https://www.toroui.metro.tokyo.lg.jp/image/2021/meirei2-25_besshi.html

 申立人両組合(以下両組合を併せて「組合」という。)は、毎年度、被申立人法人と産業別最低賃金(最低賃金法に基づく特定最低賃金のことではなく、組合と法人との労働協約に基づき、法人に加盟する使用者と同使用者に雇用される港湾労働者との間に適用される最低賃金のことである。)について、団体交渉を行い、労働協約を締結してきた。
平成28年度以降、法人は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に抵触するおそれがあるとして、団体交渉において産業別最低賃金について回答しなくなった。組合は、公正取引委員会(以下「公取委」という。)事務局との面談や、中央労働委員会(以下「中労委」という。)のあっせんなども経て、産業別最低賃金について団体交渉を行うことは独禁法に抵触しないとして法人に回答を要求したが、法人は、これを拒否し続けた。
本件は、法人が、産業別最低賃金に関する団体交渉について、独禁法に抵触するおそれがあるとして、組合の要求に回答しないことは、正当な理由のない団体交渉の拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

いま、EUの最低賃金指令案がもめているのは、使用者側の反対よりも、労働組合側の中に、法定最低賃金を強制するのはけしからん、我々は産別協約だけでちゃんとやっているぞという北欧労働運動があるからなんですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/11/post-014505.html(EU最低賃金指令案@『労基旬報』2020年11月25日号)

・・・前回も述べたように、このEU最低賃金指令案は昨年末に欧州委員会トップに就任したウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長のイニシアティブによるもので、彼女は法定最低賃金と団体交渉との複雑微妙な関係についてあまりきちんと理解していなかった可能性があります。近年新自由主義的だと批判されているEUの政策方向を、もっと労働者寄りにシフトさせようという程度の考えで提起したのではないでしょうか。最低賃金は労働問題なんだから、経営側は反対でも労働側は全面的に賛成だろうと思っていたら、あに図らんや北欧諸国の労働組合は自力で団体交渉を通じて高い賃金水準を勝ち取ってきていることを誇りに思っており、法定最低賃金などという国家権力のお情けにすがるような仕組みは断固拒否するという態度だったわけです。 

自分たちの力で最低賃金を勝ち取ってきた日本ではまことに希少種に属する産別組合が、なんで労働委員会などという国家権力に頼るはめになったかというと、相手方の産業別使用者団体が、産別最賃協約は独禁法に違反するかもしれないからと言い出して、団交を拒否しだしたからだったんですね。

都労委の判断の要旨は次の通りですが、

ア 法人は、産業別最低賃金の団体交渉に応ずることは、公取委が公表している資料に記載されているホームヘルパーの事例と同様に、事業者団体の会員企業の賃金を決めることによって、会員企業のサービス提供料金に目安を与えるおそれがある場合に当たり、独禁法に抵触するから、産業別最低賃金の団体交渉には応じられないと主張する。

 しかし、産業別最低賃金を決めることが、上記事例のサービス提供料金の目安を与えるおそれがある場合に直ちに該当するとはいい難く、実際、同様の見解が官公庁等から指摘されたりした事実は認められない。

イ 法人は、国交省から指摘があった、また公取委に関係する弁護士に相談したら独禁法に抵触するおそれがあるとの見解が示されたとも述べているが、そもそも国交省の指摘は、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に関するもので、発言者や発言内容も明らかではないし、法人が相談した公取委に関係する弁護士の見解についても、具体的な情報は何ら明らかにされていない。

ウ 組合は公取委事務局に面談に行き、法人が産業別最低賃金について回答することは一般論では独禁法の問題とはならないとの見解を得ており、組合は、そのことを法人に説明している。

 そして、30年2月15日付けで公取委の競争政策研究センターが公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」には、「労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も、原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。」と記載されており、この記載から、中労委は、あっせん案において、産業別最低賃金の団体交渉が独占禁止法上の問題とはならないと解されることを指摘しているところである。

エ 組合は、長年にわたり、ほぼ毎年度、産業別最低賃金に係る労働協約を締結してきた経緯があることに加え、公取委事務局の見解や、「人材と競争政策に関する検討会報告書」を踏まえた中労委のあっせん案をも根拠として、法人に対し、産業別最低賃金の要求に係る回答を求めたのであるから、組合の要求には相応の理由があるということができる。

 これに対し、法人が、独禁法に抵触するおそれがあるとして回答を拒否した根拠は、産業別最低賃金の要求に直ちに該当するとはいい難いホームヘルパーの事例に係る公取委の見解や、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に係る発言者や発言内容の明らかでない国交省の指摘、及び立場や氏名が具体的に明らかでない弁護士の見解だけであり、これら以外に独禁法に抵触する可能性について、官公庁から指摘を受けたことも、公取委が調査を開始した等の事情も認められない。

 そうすると、法人が産業別最低賃金の要求に係る回答を拒否し、ひいては、産業別最低賃金に関する団体交渉を拒否したことに、正当な理由があったということはできない。

ここは評釈じゃないので、ざっくりした感想になりますが、そもそも労働運動にとって独禁法というのは敵対的なものであるという世界の常識が、産別交渉がほとんど存在せず、もっぱら企業内交渉・協議だけでやってきた日本では、すっぽり抜け落ちてしまい、独禁法を使って労働者を保護するみたいな議論がわりと当たり前みたいに通用してしまう傾向にありますが、いやいや独禁法というのは本来企業を超えた団体交渉を嫌がる使用者側にとってこそ絶好の武器なんだという常識を、もう少しみんなわきまえた方がよろしいのではないかと常々思っていたところなので、この都労委命令はちょうどいい一服の清涼剤になるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

産別合意の基準に賃金が貼りついてしまう場合、高収益企業の労働者や高度人材にとってはむしろ不利益なんじゃない?

米ハイテクが、高度技術者の賃金を抑えるためのカルテルを結んでいたことが独禁法で問題となったが、これは独禁法が労働者を救う事例。

同じ業界だからと言って企業規模や利潤が全く異なるのに、産別で賃金を決めるというのは理解に苦しむ。

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