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2021年9月

2021年9月30日 (木)

EU委員長が強制労働産品の輸入禁止案を予告

Yrs 拙著が刊行されるなど雑事に紛れて気が付かなかったのですが、9月15日に欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が施政方針演説の中で、強制労働による産品の輸入を禁止する提案を予告していたことに気が付きました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/ov/SPEECH_21_4701

And let me be very clear: doing business around the world, global trade – all that is good and necessary. But this can never be done at the expense of people's dignity and freedom.

There are 25 million people out there, who are threatened or coerced into forced labour. We can never accept that they are forced to make products – and that these products then end up for sale in shops here in Europe.

So we will propose a ban on products in our market that have been made by forced labour.

Human rights are not for sale – at any price.

それゆえ我々は強制労働によって作られた産品を我々の市場において禁止する提案をするつもりだ。

人権は売り物ではない-いかなる値段でも

という一節ですが、これって、間違いなく中国の新疆ウイグル自治区の新疆綿のことを念頭に置いていますよね。

最近のデューディリジェンスの動向については本ブログでもたまに取り上げたりしていますが、かなり動きが速いようです。

 

 

正社員の雇用は既得権益?

岩波新書編集部さんがさっそくこういうポスターを作ってくれました

Fac3aoevcag46nj

https://twitter.com/Iwanami_Shinsho/status/1443182699141742597

https://twitter.com/Iwanami_Shinsho/status/1443164259953766406

正社員は既得権益? 雇用は守られすぎている? 正規雇用と非正規雇用の関係はどう改善すべき?
過激な言葉が飛び交う労働政策ですが、おさえるべき基本的な視点は、「正社員体制の矛盾と転機」というサブタイトルをもつ濱口桂一郎さんの新刊『ジョブ型雇用社会とは何か』から得られます。

 

 

広田照幸『陸軍将校の教育社会史』(上)(下)ちくま学芸文庫の書評

61gxemfwrqs283x400 『労働新聞』の毎月一回の書評、今回は広田照幸『陸軍将校の教育社会史』(上)(下)ちくま学芸文庫です。

https://www.rodo.co.jp/column/113917/

 本書は1997年に刊行された学術書の24年ぶりの文庫版である。しかし、今読んでもワクワクするほど面白い。著者の広田照幸は教育社会学者で、その関心は軍人さんの「滅私奉公」イデオロギーは本気だったのか?を確認することにある。とはいえ、いやいや本音は「立身出世」主義だったんだよという結論を導き出すために次々に繰り出される、さまざまな歴史資料のディテールのあれこれがたまらなく面白いのだ。それは、著者の問題関心からは少しずれるかも知れないが、いわば「陸軍将校のキャリアデザイン史」としての面白さである。
 将校の地位が約束された陸軍士官学校、幼年学校は、いうまでもなく戦前期日本のエリートコースの一つだった。しかし、旧制高校→帝国大学というエリートコースと比べると、少し違いがあった。それは「大学を出るには少なくとも一万円は用意しなければなるまい。専門学校でも三千や五千の金はかゝる筈である。(中略)現在家貧にして身を立てる方面と言へば軍部方面、商船方面、教育界以外にはない。陸海軍ならば、いかに貧しくても家系が正しくて人間が良ければ思ふまゝに活躍できる」と当時の受験案内書にあるように、より低い社会階層の若者の上昇ルートであったという点だ。貴族や富豪が軍人になった欧州諸国と違うところである。
 将校という組織幹部の調達方式として、明治初期には下士官から将校への昇進という道があった。彼ら下士官上がりの将校は尉官で終わっても嬉しいだけで文句はない。ところが1880年代以降はその道はほぼ閉ざされ、士官学校卒業生が初めから将校になるのが当たり前のコースになる。彼らにとって出世できずに尉官で終わるというのは面白くない。しかも軍人はかなり早期退職で、予備役になると元々資産がないものだから恩給だけでは生活が苦しくなる。ヨーロッパ各国の軍隊の将校は貴族や富豪が多いので、尉官で辞めても資産があるし、議員や重役になれるが、学力試験のみで選抜してきた資産なき日本の将校は辞めたら惨めなのだ。近代化の先生の筈のヨーロッパよりももっと近代的な人材選抜方式を採用したことが、かれらに現役としての地位にしがみつくことを強制する。これこそ軍国主義イデオロギーの形而下的実体である。広田は「これまで封建的後進性と批判されてきた軍隊組織の諸問題は、実は経済的基盤を欠いた将校の保身という観点から理解されるべき」と喝破する。
 そうした彼らが軍縮と称して軍人のクビを切りたがる文官・文民エリートに敵意を持つのは当然だろう。そして彼らにとっての干天の慈雨が満州事変であったのもよく理解できる。昇進が停滞し、俸給水準が相対的に低下し、早期退職を迫られたら生活難に直面していた軍人たちは、満州事変から日中戦争、大東亜戦争と戦線が拡大していく中で、「天皇への献身」「聖戦」の名の下で野心を実現する機会を与えられたのだ。評者は本書を読んで、「日本版メリトクラシーの興亡」と名付けたい衝動に駆られる。

 

 

2021年9月29日 (水)

『Japan Labor Issues』10-11月号

Jli_20210929163301 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』10-11月号がアップされました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2021/034-00.pdf

Trends:MHLW's Guidelines for Promoting and Establishing High-quality Telework 

Research:Wage Compensation during Leave in the COVID-19 Crisis and Its Impacts on Workers' Careers TAKAHASHI Koji

Judgments and Orders:Illegality of the Disparity in Working Conditions between Hourly Paid Fixed-term Contract Employees and Monthly Paid Regular Employees The Osaka Medical and Pharmaceutical University (former Osaka Medical University) Case ZHONG Qi

Series: Japan's Employment System and Public Policy Labor Unions in Japan OH, Hak-Soo

冒頭、テレワークガイドラインの解説があり、その後高橋康二さんのコロナ休業時の賃金補償の論文(邦文はJILPTのリサーチアイに)、仲琦さんの大阪医科薬科大学事件の判例評釈、呉学殊さんの労働組合論が並んでいます。

このうち、呉さんのは、現状を淡々と紹介するにとどまらず、特に最後の節で、他の先進諸国と比べて日本だけが賃金上昇していないことを取り上げ、こう問いかけます。

Why does Japan have the lowest wages among the G7 nations, and why has it  also been overtaken by South Korea? What kinds of changes do Japanese labor unions need to make to their approaches to the spring wage offensive in order to increase their capacity to negotiate wage increases? To what extent are enterprise unions as an organizational form effective in raising the capacity to negotiate?

 

賃上げ与党に減税野党という構図でいいのかね?いいらしいね

こう問いかけたのが3か月前ですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/06/post-cc06c4.html(賃上げ与党に減税野党という構図でいいのかね?)

 このままいくと、賃上げ与党対減税野党という奇妙きてれつな構図になっていくんだけど、それでいいのかね。ま、いいんだろうね。こういう長い歴史があるわけだし。

この段階では、まださすがにそうはなってほしくないんだけどな、という気分がちょびっとくらいはあったんだけど、今現在、まさしく完璧に「賃上げ与党に減税野党という構図」になってしまっている現状を目の当たりにして、もう何も言う気になれませんな。神聖なる憎税同盟の磁力線はかくも強力であったというわけです。

 

2021年9月28日 (火)

草野隆彦『雇用システムの生成と変貌』

Koyosystem 故草野隆彦さんの『雇用システムの生成と変貌』(JILPT)が刊行されました。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/koyosystem.html

草野さんが生前資料シリーズとしてまとめていた『雇用システムの生成と変貌』ⅠⅡに、菅野前理事長が手を入れて一般書として刊行したものです。

解説
年表
第1編 前史:江戸時代:幕藩体制下の労働関係(1603-1868)
第2編 明治期~アジア太平洋戦争期の雇用システム(1868-1945)
第3編 アジア太平洋戦争期後の復興期と雇用システム(1945-54)
第4編 高度経済成長期と雇用システム(1955-73)
第5編 経済調整・安定成長期:日本的経営・雇用システムの成熟(1973-85)
第6編 労働市場の構造・環境変化期:日本的経営・雇用システムの変容開発(1985-91)
巻末 図で見る雇用システムの変化─戦後経済社会のダイナミズム

冒頭の「解説」の最後のところで、菅野前理事長はこのように述べていますが、ここは多くの人の議論を呼ぶところでしょう。

・・・最後に、日本の雇用システムの最大の特色は、企業内の人材育成活用の仕組み(内部労働市場)が発達し、企業外の転職市場(外部労働市場)が未発達であるという内部労働市場が他の雇用社会となったことである。本書の歴史分析からは、このような特色形成の出発点となったのは、第1編前史:江戸時代の職人の世界において、親方の同職組織が幕府や領主の統制下で職人の技能形成や入職につき十分な統制力を築き上げないまま、親方による徒弟制が江戸末期から弛緩し衰退していったことのように見える。そのような前史のゆえに、第2編第2章明治後期~大正初期における労働組合の結成は、鉄工組合、日本鉄道矯正会、活版工組合など一見職業別組合の形態をとりながら、実際上は欧州のクラフト・ユニオンのような職人の入職・技能基準や共済制度などにつき統制力を持った自律的団体となり得なかった。そして、この初期労働運動における横断的統制力の欠如の状況が、その後の第2編第3章第一次大戦~昭和初期における「友愛会」結成に始まる労働組合の再生においても、第3編アジア太平洋戦争後の復興期における占領政策と新憲法下の労働運動再出発においても継承され、企業に根を張りつつ、産業・国レベルでは緩やかな連合組織を持つだけの企業別組合組織にとどまることとなった由来のように推察される。・・・・

 

 

 

 

 

日本における最近のAI政策@WEB労政時報

WEB労政時報に「日本における最近のAI政策」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 去る4月21日、EUの行政府たる欧州委員会は新たな立法提案として「人工知能(AI)に関する規則案」(COM(2021)206)を提案し、世界中で大反響を巻き起こしています。その概要については別途簡単に紹介していますが*1、では日本ではAIに関する政策はどうなっているのか、雇用労働関係ではあまりきちんと取り上げられることは少ないようです。そこで、今回はごく簡単に日本における最近のAI政策を紹介しておきたいと思います。・・・・

 

 

『ビジネス・レーバー・トレンド』2021年10月号

202110 『ビジネス・レーバー・トレンド』2021年10月号は「コロナ禍で女性が置かれた状況と課題」が特集です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2021/10/index.html

労働政策フォーラム
新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方
【研究報告1】コロナ禍での女性雇用――マクロ統計とミクロ統計の両面から
周 燕飛 JILPT客員研究員/日本女子大学 人間社会学部 教授
【研究報告2】コロナ禍のジェンダー格差
白波瀬 佐和子 東京大学大学院 人文社会系研究科 教授
【報告】コロナ下の女性への影響と課題について――「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」報告書より
矢野 正枝 内閣府 男女共同参画局 調査室長
【事例報告1】コロナ禍での生活困窮者の状況――もやいの活動から―
大西連 認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい 理事長
【事例報告2】新型コロナによる非正規職女性への影響――横浜市男女共同参画センターの取り組みから
植野 ルナ 公益財団法人 横浜市男女共同参画推進協会 事業企画課 課長
【事例報告3】コロナ禍のひとり親支援――就労・生活支援の事例報告
赤石 千衣子 認定NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長
【パネルディスカッション】コーディネーター:濱口 桂一郎JILPT 研究所長 

既に本ブログでも何回も紹介しているように、6月29日に開催した労働政策フォーラムの講演とパネルディスカッションの記録です。

Jilforum

濱口 パネルディスカッションを始めます。新型コロナと女性雇用という問題について、キーワードになるのはおそらく、周さんが報告のなかで紹介した「Shecession(シーセッション)」という言葉ではないかと思います。今回がシーセッションだとすると、十数年前のリーマン・ショックは「He-cession(ヒーセッション)」であり、それを象徴したのが、当時のもやいの湯浅誠さんが中心になって行った「年越し派遣村」で、若者から中高年までの主に男性が、日比谷公園にどやどやと入っていくというイメージでした。
 今回は、そういったまとまったイメージではないのですが、特に飲食サービス業などで働く不利な立場にある女性たちが、表から見えない形で不利益を被っている。この特定の業種の状況は世界共通かもしれませんが、同時に、日本の雇用のあり方や社会のあり方、男女の社会のあり方というものが、それを増幅させている面もあるのだろうと思います。
 そこで本日のパネルディスカッションの進め方ですが、まず、「なぜこんな事態になってしまったのか」について話し合いたいと思います。各パネリストからすでに報告がありましたが、「ここに問題がある」と、あらためてそこを追求するような形でお話しいただければと思います。では、シーセッションという言葉を日本に持ち込んだ周さんからお願いします。・・・

 

2021年9月27日 (月)

春田吉備彦+全駐留軍労働組合中央本部『基地労働者から見た日本の「戦後」と「災後」と「今後」』

20210917173401180_18 春田吉備彦+全駐留軍労働組合中央本部『基地労働者から見た日本の「戦後」と「災後」と「今後」』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

これ、新書版の割と薄いちっぽけな本ですが、中身はとても詰まっていて、すごい充実感があります。

なんといっても、基地労働者という戦後日本の「死角」からいろんな物事が浮かび上がってくる感じがすごいです。

知っている人は少ないでしょうが、基地労働者は指揮命令するのは米軍ですが、雇用するのは日本政府という労働者派遣システムで、派遣法ができるずっと前から占領下で形作られた仕組みが維持されてきたのですね。

このため、基地内は日本の法律が通用しないアメリカの一部のような面もあり、それがいろいろな問題を引き起こしていることが詳しく語られます。

一方で、これはやや私の視点に引き付けた読み方ですが、近ごろはやりのインチキな「キラキラ」系ジョブ型論とは対照的な、まことに地味なしかしいかにもアメリカ的なジョブ型の世界が広がってもいるんですね。

伊原亮司さんの執筆した一節から引用すると、

・・・現在の賃金制度は、一職種一等級が原則である。職種は1200余りあり、そのうち900職種が実際に使用されている。職種別に、職務内容が定義され、基本給表と等級が適用される。国家公務員のような職務階層制度はとっておらず、年功序列的な昇格制度はない。勤務実績に基づく特別昇給制度もない。従業員の多くは、退職するまで同一等級にとどまる。現状より高い等級に移りたければ、該当職場に空きが出た時に自分で応募する。・・・・組長や班長といった現場職制には日本人が就くものの、管理職や・・・専門職は原則、米国の軍人あるいは軍属に限られる。このような制度、処遇、慣行に対して、労働者に不満がないわけではないが、日本人労働者は全員が組合員になりうる立場にあるため、対米軍という形で団結を守りやすい。特筆すべきは査定の拒否である。査定は労働者間の競争をあおり、労働者を分断する。労働組合はそれを拒んできたのだ。・・・

・・・しかし結果的にではあるが、未締結であるがゆえに米軍は時間外労働を強要できない。残業が必要な場合には、従業員に「お願いして、協力を求める」という形をとり、労働者は断ることも可能である。ちなみに、兼業も認められてきた。

米軍基地は、実質的に米国の支配下にあり続けている。日本の法律が及ばぬ世界であり、いわゆる「日本的経営」が成り立たない世界である。それゆえに、基地で働く人たちは多大な苦労を強いられてきたが、米軍の言いなりになってきたわけではない。・・・

やたらに一知半解の「ジョブ型」を振り回す人は、アメリカに行く必要はないので、日本の米軍基地に行って基地労働者の働き方を見てきた方がいいかも知れませんね。

 

 

 

『労働法律旬報』9月下旬号はシフト制労働者が特集

591323 『労働法律旬報』9月下旬号はシフト制労働者が特集です。

https://www.junposha.com/book/b591323.html

[特集]シフト制労働者―新型コロナ禍における実態を通して
飲食産業におけるシフト制労働の実態と『シフト制労働黒書』=栗原耕平…………07
シフト制労働者の法律問題=川口智也…………15
[資料]シフト制労働黒書(首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団、2021.5)…………35

本ブログでも何回か取り上げたシフト制労働ですが、労旬が特集を組みました。事実上首都圏青年ユニオンの活動報告という感じですが、第一次接近としてこんなものでしょうか。

ややフライング気味ですが、少し先にこういった問題についての海外事情みたいな特集も予定されているようなので、だんだん話が膨らんでいくのでしょう。

あと、シルバーハート事件の簡単な評釈も某所に準備していますので、それが出たらまたその時に。

 

 

 

 

安藤至大,高橋亮子『就活最強の教科書』

31118619_1 安藤至大,高橋亮子『経済学部教授とキャリアコンサルが教える 就活最強の教科書』(日経新聞出版)をお送りいただきました。

何から始めればいい? 自分に合った仕事はどうやって見つけるの? 労働経済学の人気教授とキャリアコンサルタントが、就職活動のルールをストーリー形式で楽しく解説。ワークシート付き。

副題から就活現象に経済学的な切り込みが結構あるのかと思いますが、むしろキャリアコンサルによる実践的なアドバイス本に徹底している感じです。エントリーシートの具体的な書き方からまことに懇切丁寧に説明してくれていくのですが、安藤さんの名前に期待して読み進めていくとちょっと肩透かしを食らった感を抱くかもしれません。

第1話 就職活動、不安です。
第2話 エントリーシートを完成させるには?
第3話 就職活動これからどうする?
第4話 就職活動、始まりました。
第5話 働く会社が選べません。
最終話 僕、決めました。就職活動、始めます。

 

 

2021年9月26日 (日)

いや無視してないし、むしろ取り上げてる方なんだが

拙著に関わって、こういうつぶやきが目に入ったので

https://twitter.com/culloss/status/1442128216311795725

そういえば『ジョブ型雇用社会とは何か』でも徹底して無視されてたけどなんで濱口先生は全日本海員組合とか全日本港湾労働組合を無視するのだろう?

いやわかるのよ、日本でもあれらがかなり特殊だから一般化できないしとりあげるだけ無駄ってのは

いやいや、『ジョブ型雇用社会とは何か』は日本的メンバーシップ型とジョブ型を理念型にして論じているので、そこからあまりにも離れすぎている船員だの港湾だのは取り上げられていないけど、労働法政策の議論においては、おそらく日本の労働法研究者としては極めて例外的に、船員だの港湾だのをやたらに突っ込んで取り上げている方だと思います。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/255-f29a.html

255_hp_20210926231701 なお、わたしの「船員の労働法政策」はいかにもニッチな分野に見えますが、陸上労働法だけ見ていると見えてこないいろんな視角がちらちらと垣間見える領域でもあるので、もし時間があればじっくりと読んでいただけると有り難いです。

はじめに
1 船員法制の形成期
(1) 西洋型商船海員雇入雇止規則
(2) 商法と旧船員法
2 労働力需給調整システムと集団的労使関係システムの形成
(1) ILOの影響
(2) 船員職業紹介法
(3) 海事協同会による集団的労使関係システム
3 戦前期船員法政策の展開と戦時体制
(1) 1937年船員法
(2) 船員保険法
(3) 船員と傷病
(4) 戦時体制下の船員法政策
(5) 終戦直後期における船員管理
4 終戦直後期における船員法制の改革
(1) 労使関係法政策
(2) 1947年船員法
(3) 船員法の労働時間・有給休暇等
(4) 災害補償と船員保険
(5) 労働市場法政策
5 その後の船員労働条件法政策
(1) 1962年船員法改正
(2) 船員の最低賃金
(3) 1988年船員法改正(労働時間関係)
(4) 2004年船員法改正
(5) 2008年改正
6 その後の船員労働市場法政策
(2) 1990年改正(船員労務供給事業)
(3) 2004年改正(船員派遣事業)
7 船員保険の解体
8 船員労働委員会の廃止
9 ILO海事労働条約の国内法化

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/239-58be.html

Tm_i0eysjizovvxi6ggxmoyplolmwbeg 港湾労働の法政策
労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎

はじめに
1 港湾労働法以前の世界
2 港湾労働法への動き
3 旧港湾労働法
4 1973年法案
5 1979年改正
6 新港湾労働法
7 2000年改正

いずれも、船員労働法制、港湾労働法制についてこれほど包括的かつ突っ込んで論じたものはほかにあまりないのではないかと思っています。特に、船員労働法については、たぶん(この時点では)誰の言っていないような議論も展開していますし。

 

 

『ジョブ型雇用社会とは何か』短評さらに

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https://twitter.com/kou1675/status/1441340192229507080(kou)

濱口 桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機』を読んだ。歴史をたどり、源流という高見から現在を俯瞰して見させてくれる。推理小説のようにワクワクさせられる。 ①ルール、②契約、③実態のそれぞれをメンバーシップ型かジョブ型かを判別することで、ねじれ箇所を発見できる。 

https://twitter.com/kirinnnn/status/1441300053474250756(中嶌 聡)

基本的にはほぼ正確に理解していると思っているので答え合わせのつもりで読む。加えて、木下武男さんの「労働組合とは何か」におけるジョブの4つの特徴の指摘や、ジョブは労組が押し付けるもの、との指摘を濱口さんがどう解釈してるのか(触れてるかわからないが)を知りたいのもある。 

https://twitter.com/culloss/status/1441709948572897287(神行太保)

『ジョブ型雇用社会とは何か』は濱口桂一郎先生の著作としてはこれまでの総決算というか、入門書としておすすめしやすいし、2021年の日本の労働事情のパラダイムとして後世読み返すのも面白いかも 

https://twitter.com/futtaya/status/1442001724110032897(藤田聡(サブカル私立高校教員))

濱口桂一郎氏の新著『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と限界』(岩波新書)を読む。メンバーシップ型の職場環境の居心地悪さに明晰な言葉をもらって、改めてそれに反抗してるんだなと自覚する。 教育で培う同調力と仲間づくり力がないと日本型正社員では生きづらい。 

 

 

 

 

いよいよ神聖なる憎税同盟の枢軸たらんと

いよいよ神聖なる憎税同盟の枢軸たらんとしているのかな?

もう勝手にさらせとしか

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-61de80.html(神聖なる憎税同盟再び)

==============================================

結局、反緊縮だの弱者のためだのがことごとく減税ニッポンにからめとられていき、もう一方のあれもやりますこれもやりますとの矛盾を「事業仕分けで無駄をたたき切れば財源なんてなんぼでも出てくる」でごまかした挙げ句の果ての泥沼をもう一度再演したいのかな。

ま、国民の側が神聖なる憎税同盟のおまじないにころりといかれる性癖が直らないのだから、どうしようもないわな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-c764.html(「憎税」りふれはのアイドル クーリッジ)

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どうもある種のりふれはの人が、緊縮財政を批判するツイートのつもりで、アメリカのクーリッジ大統領の「必要以上の税を集めるのは合法的強盗である」という台詞を引用していたらしいのですが、もちろんクーリッジ大統領は「緊縮財政の守護天使のような存在」であり、「大恐慌以前の市場原理主義者、シバキの代表」であります。『ただひたすらに「頑張る」というスローガンだけで、たいていの問題は解決できる』と言う名言が残っているんだそうです。
その昔世界史の教科書で読んだのを思い出していただければ、クーリッジの次のフーバー大統領のときにあの大恐慌が起こり、それでルーズベルトのニューディール政策が始まったわけです。思い出しましたか?
あんこれさんはこの歴史感覚の欠如した自分に都合の良い言葉尻だけに条件反射する愚かさをあざ笑っている訳なんですが、もうすこしつっこむと、ここにある種の「りふれは」の本性-ただひたすらに「憎税」-がにじみ出ているということもできるように思われます。
その帰結は、もちろん言うまでもなく、クーリッジ大統領の経済政策の追求以外の何物でもないわけで、その意味ではむしろ、あんこれさんの皮肉は皮肉ですらなく、この手のりふれはの明白な本性を明らかにしたというだけだったのかもしれません。 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-972110.html(「憎税」左翼の原点?)

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その文脈はそういう政治話が好きになひとに委ねて、ここでは違う観点から。と言っても、本ブログでは結構おなじみの話ですが。よりにもよって「ジャパン・ソーシャリスト・パーティ」と名乗り、(もちろん中にはいろんな派閥があるとはいえ)一応西欧型社民主義を掲げる社会主義インターナショナルに加盟していたはずの政党が、こともあろうに金日成主席が税金を廃止したと褒め称えるマンガを書いていたということの方に、日本の戦後左翼な人々の「憎税」感覚がよく現れているなぁ、と。そういう意味での「古証文」としても、ためすすがめつ鑑賞する値打ちがあります。
とにかく、日本社会党という政党には、国民から集めた税金を再分配することこそが(共産主義とは異なる)社会民主主義だなんて感覚は、これっぽっちもなかったということだけは、このマンガからひしひしと伝わってきます。
そういう奇妙きてれつな特殊日本的「憎税」左翼と、こちらは世界標準通りの、税金で再分配なんてケシカランという、少なくともその理路はまっとうな「憎税」右翼とが結託すると、何が起こるのかをよく示してくれたのが、1990年代以来の失われた30年なんでしょう。 
いまさら井出英策さんがどうこう言ってもどうにもならない日本の宿痾とでもいうべきか。

 

2021年9月25日 (土)

先週末出たばっかの本がどうやって経年劣化してるんだよ

71cahqvlel_20210925161901 先週末刊行された『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)は幸い温かい評価をいただいておりますが、いつものことながらamazon界隈に生息する転売屋諸氏の常識では測りがたい価格付けに驚嘆の念を禁じ得ません。

https://www.amazon.co.jp/dp/4004318947/ref=olp-opf-redir?aod=1&ie=UTF8&condition=used

いうまでもなく、先週出たばっかのこの本の定価は本体1020円、税込み1122円ですが、なぜかamazonには中古品(!)が2805円という値段で出品されていて、そこには「コンディションは経年劣化は見られますが綺麗な状態です」などと書かれているんですが、一週間も経たない間に経年劣化させるとは、さては時空を超える超秘密兵器でも持っているんですかね。

11021851_5bdc1e379a12a_20210925162601 ついでながら、老婆心で申し上げますが、amazonの闇は限りなく深いようで、3年前に刊行し、今でもいくらでも定価ないし割引価格で手に入る『日本の労働法政策』(本体3889円、税込み4278円)が、5841円から始まりはては12406円で売られているのを見ると、まるで悪党に誘拐された我が子が道端で乞食をさせられているのを見るようで胸が痛みます。

https://www.amazon.co.jp/dp/4538411647/ref=olp-opf-redir?aod=1&ie=UTF8&condition=new&qid=1632554946&sr=1-8

 

 

日本ILO協会を潰したのも民主党政権

こたつさんが、どこかから聞きかじってきたようで、

https://twitter.com/ningensanka21/status/1441357008695746565

日本ILO協会も事業仕分けにより廃止に追い込まれていたとの情報に接した。

その話題についても、ちゃんと本ブログで取り上げておりました。10年ひと昔といいますから、今となっては知らない人も多いかも知れませんので、全文再掲しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-e3a6.html(中村正『ガイドブックILO国際労働基準』)

標記の冊子をお送りいただきました。ありがとうございます。

・・・

と、いつもと変わらぬ謝辞をここに書くだけでは済まされないでしょうね。

なぜなら、この本の刊行元の日本ILO協会は、去る4月30日を以て解散させられてしまっているからです。労働組合が選挙で一生懸命応援して成立したはずの政権の手によって、そんな団体は要らないと潰されてしまったからです。

「りべらる」なみなさんが熱狂的に待ち望んでおられた民主党政権にとっては、こういうILOの国際労働基準を労働者に、企業に、そしてすべての国民に啓発するというようなことは、潰すべき「無駄」の最たるものだったのでしょうね(微苦笑)としか言えませんが。

この本の奧付けを見ると、2011年4月30日発行とあります。

無駄だと言われて潰された日本ILO協会の最後の刊行物というわけです。

中身は、中村正さんが同協会の今は亡き月刊誌『世界の労働』に連載したものに大幅に加筆修正したもので、第Ⅰ部が「ILOの歴史と機構」、第Ⅱ部が「ILO国際基準」です。まあ、一般向けの簡単な解説として、初心者にとってはとての便利な本だと思います。

しかし、関係者にとっては、中村さんの国際労働行政を綴ったやや長めのあとがきが興味深いでしょう。

>・・・しかし、2011年3月、『世界の労働』最終号で背景・経緯を述べたように、ILO協会は公益法人に対する一般的批判の強まる中で、財政的支援を絶たれ、自主的収入努力の道も否定されて、残念・無念2011年4月30日を以て60年の歴史を閉じることになってしまった。新しいILO協会の基石にと思った本書は、消え去ったILO協会の遺跡、そして私の社会人人生の遺言となってしまった

この本は中村さんと日本ILO協会にとっては遺言になってしまったわけですが、それが日本における国際労働基準の断末魔となることのないよう、労働関係者にとっては責任は重大だと思います。

ちなみに、事業仕分けで仕分けられるという経験をした人々が共通に抱いている、民主党政権こそが小泉政権時代と並ぶネオリベ全開政権だったという客観的な認識は、肝心のその後継者の皆さんやその支持者の方々にはこれっぽっちも共有されていないようで、一貫して自民党のネオリベと戦ってきたみたいな自己欺瞞を本気で信じているらしい姿が、私からするとそのことが不思議でならないのですが。

というような話が、ちょっと先(数か月後)にそういう界隈のメディアに面白い形で載ると思いますので乞うご期待。

 

 

連合の次期会長候補にJAM芳野氏浮上 初の女性会長の可能性@朝日

既にいくつかのメディアが報じていますが、

https://www.asahi.com/articles/ASP9T02QVP9SULFA034.html

Yoshino 労働組合を束ねる中央組織、連合の次期会長に、芳野友子副会長(55)が昇格する案が浮上した。週明けにも会長候補を決める連合内部の委員会にはかられる。芳野氏に決まれば、連合初の女性会長となる。・・・

締め切りになってもだれも手を上げないから、見合いに見合ったあげく、だれも想定していなかった人が瓢箪から駒で押し出されて出てきたという経緯なんでしょうが、結果的には怪我の功名というか、大変いい選択肢になったように思われます。経済界と並んで「おじさん」族の集まりという印象の強い労働界のトップに、こういう現場の働く女性の代表が就くのは、素直に評価すべきことでしょう。というか、正式にはまだ未定で、「浮上」という段階なんでしょうけど。

完全なダークホースだったこともあり、彼女についての情報は限られていますが、今から10年以上前にJUKI労組の副委員長として、埼玉大学の連合寄付講座で喋った記録が、その人となりをよく伝えていると思います。

https://www.rengo-ilec.or.jp/seminar/saitama/2008/youroku05.html

(2)新入社員時代
 企業に入りますと、まず、新入社員教育が始まります。女性は、電話の取り方や名刺交換、お茶の出し方などの接遇教育が中心でした。一方男性は、製造現場に入って、組立や溶接などを一通り経験していきました。現場実習が終わると、今度は企画部門に行ったり、全国の営業所を回って上司と一緒に縫製工場に行ったりしていました。要するに男性は、実際の仕事に根ざしたことを教育課程の中でやっていくわけです。
 このように、男女で研修カリキュラムが全く違う中でのスタートでした。しかし、私はその当時は、そのことに何の疑問も抱かず、むしろお茶汲みやコピー取りといったサポート的なことは、女性の役割だと思っていました・・・・

(5)職場での男女差に対する疑問
 ある時、同期の女性が相談に来ました。当時、残業規制があり、既婚男性と独身女性とで対応に違いがありました。この対応の違いに疑問を持った女性組合員が相談にきたのです。
 それを聞いて、私もそれは納得がいかないことだと思い、当時の書記長にその意見をあげました。すると書記長は、「A係長は妻子を養っていて生活が大変だから、それは当然ではないか。」と言うのです。私は、同じように残業をしていながら、それぞれの個人的な事情で勝手に判断がされるのは、やはりおかしいと思いました。しかし、私がおかしいと思ったことが、当時の男性役員には男女異なる扱いについて、全然響いていなかったわけです・・・・

 

510fduhbcl_20210925094501 まさに『働く女子の運命』のただなかを生き抜いてきた方というわけです。

 

 

 

 

 

2021年9月24日 (金)

『ジョブ型雇用社会とは何か』短評続き

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https://twitter.com/harahirohire/status/1440969750608166912(はらひろひれはら)

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』読了。たぶん、本当のタイトルは「メンバーシップ形雇用とは何か」だろう。論じているのはメンバーシップ型とはジョブ型(=世界標準)の視点から見ればどのようなものか、なのだから。 個別の論点は本当に勉強になったが、特に健康管理措置の部分は考えされた。

そもそも使用者による一般健康診断が日本独自のものだとすら知らなかったのだが、メンバーたる労働者の健康情報を収集する関係が本当に対等な関係なのか?という疑問は持っておきたい。 安全衛生配慮義務からすれば、結局労働者の開示度合いに応じて責任に軽重がつけられていくのだと思うが。 

https://twitter.com/shabababa0609/status/1440985887857283087(シャバこば)

濱口桂一郎著「ジョブ型雇用社会とは何か」読んだ。これまで「どういうこと?」と思ってきた人事とか労務管理だとかの理屈がストンと腹に落ちた気がする。まあ~俺は社会人13年やってて社会のことを何にも知らねえなという事実を改めて叩きつけてくれた一冊。

https://twitter.com/saeki_sr/status/1441231893492424711(佐伯博正)

濱口桂一郎著『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)が今日の書店にはあった。早速「適用除外制度をめぐるねじれた経緯」等の項を確認したが、高プロは書いていたが裁量労働制問題にはふれられていなかった。裁量労働制対象拡大は6月に閣議決定された規制改革実施計画にもある重要論点のはずだが?

敢えて言えば、今日ただ今の政策課題というレベルでの意味と、日本の雇用システム全体にとっての意味とでは軽重が異なるということです。

274_h1hp_20210924151101 実際にはまったく触れていないわけではなく、191ページから192ページに、企画業務型裁量労働制に対する必要にして十分な評言が7行にわたって書かれています。もう少し詳しく論じたものとしては、先週刊行されたばかりの『季刊労働法』2021年秋号(274号)に書いた「専門職の労働法政策」の218ページから219ページにかけて、1ページ半にわたって論じています。

https://twitter.com/culloss/status/1441289027185872902(神行太保)

濱口桂一郎先生、相変わらず遠慮なく辛辣でおもろい

御意。それを狙ってます

 

 

 

 

未だに・・・

この期に及んで、未だに労働契約法第16条を削除すれば解雇権濫用法理がこの世から消えてなくなると思い込んでいる一知半解無知蒙昧がまったく治癒されていないのを見るのは味わい深い

法律をやみくもに敵視する人間ほど無知ゆえの法律万能主義を演じてしまうという典型というべきか

2021年9月23日 (木)

労働組合法第18条による労働協約の地域的拡張適用

労働組合法施行以来75年を閲してなお両手で数えて足りてしまう労働協約の地域的拡張適用ですが、UAゼンセンのヤマダ電機等3組合により今般決定がされたようです。

朝日の澤路記者の記事と

https://www.asahi.com/articles/ASP9Q3GT4P9QULZU008.html(茨城の大型家電量販社員の休日111日に 30年ぶりに労働協約拡張)

ある会社の労働組合が会社と交渉して決めた労働条件が、同じ地域の同じような会社すべてに一律で適用される――。労働協約の「地域的拡張適用」といわれる決定が22日、厚生労働省から出た。茨城県内の大型家電量販店は、正社員の年間休日数を最低でも111日にしなければならない。地域的拡張適用の決定は約30年ぶり。

 拡張適用になるのは、家電量販のヤマダ電機(現ヤマダホールディングス、群馬県高崎市)、ケーズホールディングス(水戸市)、デンコードー(宮城県名取市)と、3社の労組が2020年4月に結んだ労働協約。正社員の年間の所定休日数を最低111日としている。3社の労組の申し立てを受けた中央労働委員会が8月に承認。9月22日に厚労相名で決定した。 

その官報への告示

https://kanpou.npb.go.jp/20210922/20210922h00580/20210922h005800009f.html

そもそも欧米型の産業別労働組合を前提に設けられたこの制度を、企業別組合主体の日本の労働組合が使えるところまでもっていったということ自体が大変な快挙でしょう。口先だけは勇ましいけれどこういう実行力は乏しい左派組合に比べて、UAゼンセンの底力はこういうところに現れてくるのですね。

 

 

 

 

 

 

2021年9月22日 (水)

『働く女子の運命』が第6刷

510fduhbcl 文春新書から6年前に刊行した『働く女子の運命』ですが、今なお読み継がれているようで、第6刷がかかったというご連絡をいただきました。

https://twitter.com/umeboshibancha/status/1440613861548183553

濱口桂一郎さん『働く女子の運命』に重版がかかり、6刷に。働く女性と企業側の相克が垣間見える裁判資料などを読み解きながら、「働く女子の運命」を歴史的に描き出した一冊。今読んでも古びません。岩波新書から出たばかりの『ジョブ型雇用社会とは何か』とあわせてぜひ。

読者の皆様には心より御礼申し上げるとともに、今般岩波新書から出した『ジョブ型雇用社会とは何か』のなかでも、第5章「メンバーシップの周縁地帯」第1節の「女性活躍というけれど」で女性労働問題にも切り込んでおりますので、併せて宜しくお願いします。

 

 

 

 

水町勇一郎『詳解 労働法 第2版』

61ivdifs8al 水町勇一郎さんの『詳解 労働法 第2版』(東京大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。初版の1429ページをさらに超え、はしがき・目次・凡例抜きで1478ページという、ほとんど凶器の沙汰(おまえがいうか)に達しております。

http://www.utp.or.jp/book/b586917.html

ありとあらゆることがことごとく書き尽くされている教科書という無理難題を実現してしまっている点は初版と同様です。冒頭が「律令制下の労働関係」からはじまり、最初に引かれている文献が瀧川政次郎というところで度肝を抜くということも初版時に書きました。

働き方のルールを定めた労働法制のすべてが分かる概説書.法令や告示・通達など制度の枠組みを分かりやすく解説するとともに,裁判など実際の紛争事例を多数採り上げ基準や潮流を鮮やかに示す.育児介護休業法の改正(2021年6月)やテレワークガイドラインの改定(2021年3月)など法令改正のほか,「『同一労働同一賃金』最高裁判決」(2020年10月)など重要判例を詳しく紹介,最新の動向を踏まえた待望の改訂版.

ここでは、この版元の売り文句の最後のところについて、『ジョブ型雇用社会とは何か』で突っ込みを入れた点に関わって、ちょびっと一言。

版元は「『同一労働同一賃金』最高裁判決 」と、世間一般の用語法で宣伝するわけですが、その「同一労働同一賃金」を大いにリードした水町さんは自らのテキストでは、これら昨年の最高裁判決を決してそのようには呼んでいません。政府の作ったそういう名前のガイドライン以外では、地の文で生の「同一労働同一賃金」という言葉が出てくるのは、男女平等と賃金制度のところだけであって、非正規労働者のところではないのですね。その意味では労働法学者としてはまことに誠実な姿勢ではあるんですが。

第1編 総 論
第1章 労働法の歴史
 労働法生成の前史/戦前の労働関係と労働法/戦後の労働法制の確立と展開
第2章 「労働者」
 総説――「労働者」概念の意義と種類/労働基準法上の「労働者」/労働組合法上の「労働者」/労働契約(法)上の「労働者」
第3章 「使用者」
 総説――「使用者」概念の意義と種類/労働契約上の「使用者」/労働基準法上の「使用者」/労働組合法上の「使用者」――概要
第4章 強行法規
 労働関係を規律する法源(総論)/憲法,条約と労働法/労働法規の規制枠組
第5章 労働協約
 労働協約の意義と法的性質/労働協約の効力発生要件/労働協約の効力/労働協約の拡張適用(一般的拘束力)/労働協約の終了
第6章 就業規則
 就業規則の意義/就業規則の手続き――労基法上の作成・変更手続/就業規則の効力
第7章 労働契約
 労働契約の意義/労働契約の基本原則/労働契約の成立要件/労働契約の解釈枠組み/労働契約上の権利義務

第2編 個別的労働関係法
第8章 労働者の人権保障
 労働者の人権保障の経緯と背景/労働憲章/人格権の保護/内部告発の保護
第9章 雇用差別の禁止
 雇用差別禁止法制の状況/均等待遇原則(労基法3条)/男女賃金差別の禁止(労基法4条)/賃金以外の男女差別の禁止(男女平均取扱法理と男女雇用機会均等法など)/女性活躍推進法
第10章 非正規労働者
 正規・非正規労働者間の待遇格差に関する学説・裁判例の展開/パートタイム労働者をめぐる立法――パートタイム・有期雇用労働法など/期間の定めのある労働契約をめぐる立法/労働者派遣をめぐる立法――職業安定法44条,労働者派遣法など/フリーランス等をめぐる法的対応
第11章 労働関係の成立
 採用の自由/労働契約の成立と労働条件の明示/労働契約の締結過程――採用内定・採用内々定/試用期間
第12章 教育訓練
 教育訓練の概要と背景/教育訓練を命じる権利/教育訓練を受ける権利
第13章 昇進・昇格・降格
 人事考課(査定)/昇進・昇格・昇級/降格
第14章 配転・出向・転籍
 配転/出向・転籍
第15章 休職
 意義/法的規則
第16章 企業組織の変動
 合併/事業譲渡/会社分割/会社の解散
第17章 懲戒
 服務規律と「企業秩序」論/懲戒の意義と根拠/懲戒権の法的規制の枠組み/懲戒の種類/懲戒の事由
第18章 賃金
 賃金の形態と法制度/賃金請求権/賃金の法規制
第19章 労働時間
 労働時間規制の意義と展開/労働時間制度の基本的枠組み/労働時間制度の特則――労働時間の柔軟化
第20章 年次有給休暇
 年次有給休暇制度の意義と展開/年次有給休暇の権利の構造/年休権の発生/年休の時期の特定/年休の使途/年休取得に対する不利益取扱いと年休取得の妨害/年休権の消滅
第21章 労働安全衛生
 労働安全衛生法制の経緯と展開/労働安全衛生法の基本枠組み・性格/安全衛生管理体制/危険・健康障害の防止措置/機械・有害物等に関する規制/労働者の就業にあたっての措置/健康の保持増進のための措置/規制の実施方法
第22章 労働災害の補償
 労災補償制度の経緯と展開/労災保険制度――労災保険法による給付/労働災害と損害賠償――労災民訴/労災上積み補償制度
第23章 年少者の保護
 年少者保護の経緯/労働契約の締結に関する規制/賃金・労働時間に関する規制/安全衛生に関する規制/帰郷旅費
第24章 女性の保護(母性保護)
 女性保護政策の経緯と目的/危険有害業務・坑内業務の就業制限/産前産後の保護/育児時間/生理日の休暇
第25章 育児・介護等の支援
 育児介護休業法の意義と展開/育児を行う労働者の支援/介護を行う労働者の支援/育児・介護支援措置を理由とする不利益取扱いの禁止/育児・介護に関するハラスメントの防止措置義務/育児・介護支援措置に関する紛争解決制度/次世代育成支援――次世代育成支援対策推進法
第26章 外国人雇用
 外国人労働者の受入れ政策/外国人労働者への労働法等の適用
第27章 障害者雇用
 障害者雇用政策の経緯と展開/障害者雇用促進法の目的と枠組み/障害者雇用の促進/障害者差別の禁止
第28章 知的財産・知的情報の保護
 職務発明等と労働者の権利/労働者の秘密保持義務と競業避止義務
第29章 労働関係の終了
 解雇/辞職と合意解約/当事者の消滅/労働契約終了後の権利義務
第30章 高齢者・若者雇用
 高齢者雇用/若者雇用

第3編 集団的労働関係法
第31章 労働組合
 労働組合法制の経緯と枠組み/労働組合の類型と実態/労働組合の意義と要件/組合自治と法的規制/組合への加入・脱退・組織強制/労働組合の統制権/労働組合の組織の変動
第32章 団体交渉
 団体交渉の意義と機能/団体交渉の主体――「当事者」と「担当者」/団体交渉義務/団体交渉拒否の救済
第33章 団体行動
 団体行動の法的保護の枠組み/団体行動の正当性/正当性のない団体行動と法的責任/争議行為と賃金/使用者の争議対抗行為
第34章 不当労働行為
 不当労働行為制度の沿革と目的/不当労働行為の成立要件/不当労働行為の救済

第4編 労働市場法
第35章 雇用仲介事業規制
 雇用仲介事業規制の趣旨と経緯/職業紹介事業の規制/労働者の募集の規制/労働者供給事業の規制
第36章 雇用保険制度
 制度の背景と展開/制度の基本的枠組み/失業等給付/育児休業給付/雇用保険二事業
第37章 職業能力開発・求職者支援
 背景と経緯/職業能力開発――職業能力開発促進法/求職者支援制度――求職者支援法
第38章 特定分野の雇用促進政策
 高年齢者の雇用促進――高年齢者雇用安定法/障害者の雇用促進――障害者雇用促進法/特定地域の雇用開発促進――地域雇用開発促進法/生活困窮者の自立支援――生活困窮者自立支援法/若者の雇用促進――若者雇用促進法

第5編 国際的労働関係法
第39章 適用法規と裁判管轄
 適用法規の決定/国際裁判管轄
第40章 国際労働基準
 国連条約/ILO条約

第6編 労働紛争解決法
第41章 行政による紛争解決
 企業内での紛争解決の意義と限界/行政による紛争解決制度の概要と経緯/都道府県労働局長による個別労働紛争の解決促進/労働委員会による紛争解決
第42章 裁判所による紛争解決
 裁判所による紛争解決制度の概要と経緯/労働審判/民事通常訴訟/保全訴訟/少額訴訟/民事調停

 

 

 

2021年9月21日 (火)

時折辛辣ワードのビーンボール

71cahqvlel_20210921195701 『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)への短評集続き

おなじみ焦げすーもさんに言わせると、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1439972431427301381

hamachan先生の新刊では、序章はジャブ。
1章でメンバーシップ型/ジョブ型の基本事項を説明しつつ、後続章の話題をこまめに頭出し。
2章以降は、章ごとに切り口を変えて体系的にまとめあげられた重厚な構成。

にもかかわらず、時折辛辣ワードのビーンボールを織り交ぜてくるのはhamachan先生らしい。

「時折辛辣ワードのビーンボールを織り交ぜてくる」のが私らしいそうで、いやそれは全くその通り。ていうか、岩波書店の校正の方が心配し、「こういう言い方をしていいんですか?」と言ってくるのを、「いや、これはこれでいいんです」とあえて残した表現なので。

日によってカピバラになったり猫になったり鹿になったりしているこの方は、

https://twitter.com/pandadnap9999/status/1439972165747576841

ジョブ型賛美の人にとっては「そんな魔法の杖みたいに都合のいいスキームがあったら今まで苦労してねえわ」という示唆があるし、ジョブ型が怪しいなと思っている人にとっても「メンバーシップ型と比較した際に異なってくる周辺の考え方」の示唆があると思うので、とても勉強になるな。

はい、これもまさに狙い通りの趣旨です。素朴に「ジョブ型」とかいう新商品を売り込んでると思い込んでる人の思い込みをひっくり返すのが第一の目的。返す刀で「ほら見ろ、ジョブ型なんかじゃダメなんだ」と言いたがる人の思い込みを叩き潰すのが第二の目的。

https://twitter.com/YamTapas/status/1440136501749161990

近所の本屋に濱口桂一郎さんの新刊売ってたんで買ってきた。

詳しくは本書に譲りますが、どこそこのファームから出されているジョブ型の本を読む前にこちらを先に読んだ方が良いと思います。

まあ、どっちが先でもいいんです。「(ぼくのかんがえたさいきょうの)ジョブ型はこんなに素晴らし」というたぐいの(いかにも実践的めかした)本を読んで脳内に構築されたものを叩き潰す快感も捨てがたいものがあるはず。

 

 

 

 

 

2021年9月20日 (月)

『ジョブ型雇用社会とは何か』への短評が出始めました

71cahqvlel_20210920210501 9月17日に刊行された『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)に対して、ツイッターやネット書評サイトにぼちぼち短評が載り出しました。

https://twitter.com/T10000nen/status/1439384555262124035(田中萬年)

濱口桂一郎さんから『ジョブ型雇用社会とは何か』を戴きました。有難うございました。
「アカディズムの幻想と職業訓練の世界」の節もありますが、私なら「教育への幻想と学問観の錯誤」としますね(^0^)
職業訓練がきちんと評価される社会にならねばジョブ型雇用にはならない、と云うことですね。

https://twitter.com/hakennohakeko/status/1439547406199058433(派遣のハケ子@あなたの隣の派遣社員 )

 ジョブ型雇用社会とは何か - 正社員体制の矛盾と転機/濱口桂一郎 著/岩波新書 著者…捻じ曲げられ広まるジョブ型雇用に怒っていらっしゃる…。読んでみると、ジョブ型の典型である派遣社員としては「あ、そうそうこれがジョブ型だよ」と腹に落ちる。非正規雇用や女性労働者への視点もあって勉強になる

https://bookmeter.com/books/18523605読書メーター

昨年からよく聞く言葉となった「ジョブ型」について、提唱した濱口氏が解説したもの。いわば第一人者が世間の誤解をとくために出版されたものと言える。 ジョブ型とメンバーシップ型の基本概念から、雇用と解雇、賃金、労働時間、組合など、それぞれの角度から昨近問題となっている話題について解説がなされている。 分析はなるほどとと思うことも多く、日本版同一労働同一賃金は、呼称と中身が合っていない。 文章が昔より回りくどくなった気がするが気のせいか。(Yuichi Tomita)

うーむ、回りくどいですか?自分では新書の一冊にあれもこれも片っ端から詰め込もうとしたため、特に後半の諸テーマについてはあまり十分に展開できず、いささか舌っ足らず気味になっているくらいかな、と思っていたんですが・・・。

 

 

 

 

 

2021年9月19日 (日)

渡辺輝人『新版 残業代請求の理論と実務』

591784 渡辺輝人『新版 残業代請求の理論と実務』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b591784.html

 前作を大幅改訂! 残業代請求の第一人者による最強の実務書
・最新の最高裁判決(2020年)と学説動向を分析
・最先端の理論で、残業代請求実務がさらに確実に
・残業代計算ソフト「給与第一」「きょうとソフト」解説付き

タイトルの通り、残業代に関する恐らく最高レベルの実務書であり、考えられる様々な論点が事細かに論じられています。後半の実務編では、渡辺さん自身が開発した残業代計算ソフトの詳しい使い方が解説されており、「残業代といえばこの一冊」であることは間違いありません。

新版はしがき
初版はしがき
凡例
用語法・言葉の定義

第1部 割増賃金制度の理論

第1章 法定の計算方法と法定外の支払方法の許容性
第1 割増賃金制度の概略
 1 労基法における労働時間規制の概略
 2 割増賃金制度の趣旨
 (1)最高裁判決
 (2)労働行政の見解
 (3)学説状況
 (4)まとめ
 3 法定の計算方法の概略
 (1)根拠条文
 (2)具体的計算方法
 (3)賃金形態別の賃金単価の算出方法の概略
 (4)賃金形態別の賃金単価の合算
第2 法定外の支払方法の許容性
 1 労基法37条の強行的・直律的効力の範囲(法定外の支払方法の許容)
 2 最高裁判決によりただちに違法ではないとされたこと
第3 通常の労働時間の賃金
 1 概念整理の必要性
 2 「通常の労働時間の賃金」という文言の特定
 3 除外賃金との関係での通常の労働時間の賃金の定義
 4 25%説の「通常の賃金」と通常の労働時間の賃金の関係
 5 判別要件との関係での論点設定

第2章 判別要件(法定外の支払方法の有効要件)
第1 法定外の支払方法全般と全種の割増賃金を対象に
 1 「固定残業代」の定義
 2 当初の判別対象
 3 康心会事件最高裁判決での対象の根本的拡大
 4 従前の学説の問題点
 5 小括:判別要件を法定外の支払方法全般へ拡大
 6 すべての種類の割増賃金を判別要件の対象に
 (1)深夜早朝割増賃金についての従前の労働行政、裁判例の状況
 (2)ことぶき事件最高裁判決
 (3)康心会事件最高裁判決で判別要件へ編入
 (4)小括
第2 「判別」することの内容の深化
 1 高知県観光事件最判の「判別」
 2 テックジャパン事件での月給制への射程拡大
 3 国際自動車事件第一次判決で賃金の計算過程まで射程を拡大
 4 康心会事件最高裁判決の「すら」
 5 国際自動車事件第二次最高裁判決での「置き換え」=判別不能の判示
第3 法37条の「趣旨による判別」
 1 国際自動車事件第一次判決の投げかけた問題点
 2 康心会事件最高裁判決以降の「趣旨による判別」
 3 国際自動車事件第二次最高裁判決の「趣旨を踏まえた」対価性検討
 4 小括
第4 対価性要件を判別要件の下に位置づけたこと
 1 日本ケミカル事件の概要
 2 対価性要件と判別要件の関係
 3 担当調査官の見解
 4 国際自動車事件第二次最高裁判決での対価性要件の位置付けの明確化
第5 判別要件は契約の定めにつきなされるものと位置付けられたこと
第6 まとめ:判別要件及び通常の労働時間の賃金の意義
 1 判別要件の意義
 (1)強行的・直律的効力のある「基準」としての判別要件の射程
 (2)判別要件の目的
 (3)誰にとっての「判別」可能性か
 (4)判別可能性の立証責任
 2 通常の労働時間の賃金の意義:客観説
 3 まとめ

第3章 判別要件を基本とする対価性要件の具体的内容
第1 対価性要件の固有の意義
 1 不定形性の指摘との関係での固有の意義
 2 弁済との関係での対価性の範囲
 (1)問題の所在
 (2)固定残業代による対価性の時間的範囲
 (3)同時に2種以上の割増賃金の支払対象となる労働時間を引き当てにする手当
 (4)小括
第2 日本ケミカル事件の事案の詳細
 1 入職2ヶ月前の雇用契約書で合意された週の各曜日の所定労働時間等
 (1)週所定労働時間
 (2)休日
 (3)月平均所定労働時間数
 2 賃金に関する契約書面の記載内容
 (1)入職2ヶ月前の雇用契約書
 (2)本件雇用契約に係る採用条件確認書
 (3)賃金規定
 3 業務手当について、会社と他の労働者の間で作成された確認書の記載
 4 労働実態
 (1)時間外労働時間
 (2)残業代に関する給与明細書の記載
第3 対価性要件の具体的当てはめ内容
第4 対価性要件の考慮要素の検討
 1 3つの要素の関係と意義
 2 事例への当てはめの特徴
 (1)労働契約上の所定労働時間の範囲と対価性の関係
 (2)実際の残業時間と対価性の関係
 (3)その他の事情の取り扱い
 3 小括

第4章 固定残業代の具体的要件
第1 賃金算定期間と賃金締切期間
第2 時給制による支払の要件
 1 時給制の賃金と通常の労働時間の賃金
 2 時給制の賃金による割増賃金支払い
第3 日給制による支払いの要件
 1 日給制の賃金の性質と通常の労働時間の賃金との関係
 2 「休日手当」(労基則19条2項)
 3 裁判例の状況
 4 限界的事例の検討
第4 月給制(狭義の固定残業代)の要件
 1 「通常の月給制」の原則
 2 給与明細書による「明確区分」
 3 就業規則で基準外賃金とされていること
 4 賃金の性質が問題になる場面ごとの展開
 (1)入職時
 (2)賃金改定時
 (3)昇給・昇進時
 5 労働契約書(就業規則)に「残業代として支払う」と明記してある
 (1)募集広告、求人票の記載やそれとの矛盾の追及
 (2)労働契約に関する文書での記載の不備や文書同士の齟齬の追及
 (3)労働契約における固定残業代の位置付けの不合理性
 (4)労働時間と固定残業代の関係
 (5)賃金増額を伴う場合
 (6)通常の労働時間の賃金の減額を伴う場合
 6 固定残業代を認めた裁判例の評価
 (1)関西ソニー販売事件
 (2)名鉄運輸事件
 (3)ユニ・フレックス事件
 (4)東和システム事件
 (5)ワークフロンティア事件
 (6)泉レストラン事件
 (7)コロワイドMD(旧コロワイド東日本)事件
 (8)結婚式場運営会社A事件
 7 固定残業代の合意が無効になる場合
 (1)時間外労働等に罰則付きの上限値の導入
 (2)上限を超える固定残業代の契約の無効
 (3)無効になる範囲
 (4)無効の場合の具体的な計算方法
 (5)制限値をどう考えるか
 (6)三六協定未締結の場合
 (7)公序良俗違反による無効

第5章 請負制(歩合給)による割増賃金の支払いの可否
第1 労基法24条との関係での請負制賃金の法的性質
 1 請負制の意義
 2 請負制賃金からの経費控除
第2 請負制の賃金の性質と通常の労働時間の賃金との関係
 1 請負制の通常の労働時間の賃金
 2 請負制の賃金該当性そのものが争点になった事例
第3 月決めの請負制の賃金全体を割増賃金とする場合
第4 月決めの出来高払制賃金の中に割合による仕切を設定する例(仕切説)
第5 通常の労働時間の賃金からの割増賃金相当額等の控除
 1 割増賃金相当額の控除
 (1)国際自動車事件第二次最高裁判決の要旨
 (2)通常の労働時間の賃金の意義に言及がなかったことについて
 (3)法37条の趣旨の実現の程度
 (4)出来高制の定義がされたこととの関係での「置き換え」の意義
 2 過去の平均割増賃金額の控除
 3 定率・定額の控除
 4 小括
第6 日決めの出来高払制等を用いて時間外労働等の時間帯のみの水揚げに対する歩合給
第7 時間決めの請負制賃金の場合
第8 まとめ

第6章 法定外の支払方法に関する学説
第1 時間賃率の未成熟
第2 固定残業代等の制度の由来
 1 法定外の計算方法
 2 深夜早朝割増賃金を含める所定賃金
 3 日給制の手当による支払い
 4 請負制の計算方法による支払い
 5 狭義の固定残業代
 6 狭義の固定残業代の幅広い普及経緯についての仮説
第3 必要性の乏しさ(固定残業代のメリット論批判)
 1 メリットがないこと
 2 使用者側から語られる社会的なメリットの検討
 (1)使用者側が主張する社会的なメリット
 (2)事務負担について
 (3)負のインセンティブについて
 (4)採用上の訴求力向上について
 (5)ホワイトカラーエグゼンプションの代替について
第4 許容性と有効要件に関する学説の流れ
 1 手当型の固定残業代が学説に位置付けられる経過(1990年台初頭まで)
 (1)許容する学説の登場
 (2)通常の労働時間の賃金との関係の考察
 (3)計算過程を「基準」外とする学説の登場
 2 明確区分性説の盛衰
 (1)「明確に区分」を求める裁判例
 (2)学説化
 (3)「明確に区別」説の定式化
 (4)仕切説
 (5)その後の学説の状況
 (6)国際自動車事件第一次最高裁判決のあとの議論の活性化
 (7)最高裁判所による明確区分性説の否定
第5 差額清算(合意)の位置付けに関する議論
 1 肯定説での位置付けの変化
 2 不要説とその問題点
 3 テックジャパン事件最高裁判決の櫻井補足意見
 4 国際自動車事件第一次最高裁判決での「時間による増額」文言の消失の意義
 5 判別要件の一部としての差額清算合意ないしその実態
第6 125%説に対する25%説
 1 125%説の概要
 2 25%説の概要
 3 裁量労働制の割増率
 4 大星ビル管理事件と25%説
 5 国際自動車事件第一次最高裁判決と25%説
 6 国際自動車事件第二次最高裁判決と25%説
 7 「仕切説」と25%説
 8 まとめ

第7章 割増賃金制度の諸理論
第1 算定基礎賃金と除外賃金等
 1 算定基礎賃金(労基法37条5項)
 2 除外賃金の不算入
 (1)除外賃金の意義
 (2)除外賃金の要件
 (3)除外賃金を潜脱する例
 3 割増賃金自体の不算入
 4 法内残業代の不算入
第2 賃金単価をめぐる諸問題
 1 通常の労働時間の賃金と賃金単価の関係
 (1)最低賃金と賃金単価の関係
 (2)通常の労働時間の賃金の分割算定の可否
 (3)賃金額が減額された場合の賃金単価
 2 所定労働時間数と賃金単価の関係
 (1)就労実態が労働契約を下回る場合
 (2)月平均所定労働時間数を特定できない場合
 (3)月平均所定労働時間数が法律上の上限値より高い値の場合
 (4)月平均所定労働時間数の算定期間と賃金算定期間のずれ
 (5)賃金単価算定のため契約で過小な所定労働時間数が定められている場合
 (6)変形労働時間制が無効となった場合の労働時間数の算定
 (7)労働時間の継続と終了
第3 割増率
 1 法案起草時の割増率の設定に関する議論
 2 8時間超の規制と40時間超の規制の関係
 3 法定休日労働の割増率と割増率加算説
 (1)学説の割増率不加算説と加算説
 (2)労働行政の別立て時間計算を前提にした不加算
 (3)加算説の現代的意義
 4 深夜早朝労働の割増率、請負制の割増率、裁量労働制の割増率
 5 労働契約上の割増率と労基法37条の関係

第2部 残業代請求の実務

第1章 労働時間とその立証
第1 「労働時間」の意義
 1 「労働時間」の意義
 (1)労基法の「労働時間」とは何か
 (2)「労働時間」該当性における実際の当てはめ
 2 裁判所によって労働時間と認定された行為の類型
 (1)総論
 (2)不活動時間(仮眠時間、滞留時間、手待時間)
 (3)準備時間、朝礼(体操)、後片付け、終礼等
 (4)本務外の活動(研修、QCサークル活動等の小集団活動)
 (5)接待が労働時間になる場合もあり得る
 (6)移動時間
 3 休憩時間不取得の場合の労働時間性
 (1)休憩付与義務
 (2)非労働時間たる休憩の判断要素
 (3)裁判例
 4 持ち帰り残業の労働時間性
第2 労働時間の立証責任とその軽減
 1 主張・立証責任は原則労働者にある
 2 労働時間の推計自体は最高裁判所も認めている
 (1)使用者の労働時間適性把握義務
 (2)労働時間の推計、概括的認定、割合的認定
第3 労働時間を証明する様々な証拠
 1 「これじゃなきゃだめ」という決まりはない
 2 タイムカード、コンピューター上の出退勤管理システム
 (1)タイムカード
 (2)コンピューター上の出退勤管理システム
 3 業務上使用する業務日報等
 4 事業所の警備記録または警備システムの作動・解除の記録
 5 コンピューター上の様々な時刻の記録
 6 タコグラフ
 7 労働者が作成したメモ類
 8 勤務形態そのものからの労働時間認定
 9 公共交通機関の利用記録
 (1)IC乗車券の記録
 (2)契約駐車場の利用履歴
 (3)ETCの利用履歴
 (4)駅の駐輪場の入庫時刻の記録
 10 様々な証拠の信用性をどう考えるべきか
 (1)類型的な証拠価値の分析
 (2)様々な事情による修正
 11 完全な証拠が揃わなくても諦めない
 12 証拠保全の必要性の有無
第4 訴訟上の主張立証のポイント
 1 検討の要点
 2 居残り残業
 (1)勝手に残業していた
 (2)ダラダラ残業をしていた、遊んでいた、喫煙のために離席することがあった
 (3)残業を命じていない、承認制になっていた
 (4)残業してもやることがなかった
 3 早出を命じていない
 4 休憩時間は所定どおり取得していた

第2章 残業代の計算
第1 賃金単価の算出
 1 請求原因事実の特定方法
 2 賃金単価の意義
 (1)法定計算で契約により定まるのは賃金単価のみ
 (2)時間比例性
 (3)賃金単価は計算上の概念であり「通常の労働時間の賃金」ではない
第2 月給制の賃金単価の算出方法(労基則19条1項4号)
 1 問題の所在
 2 そもそも月給制なのかのチェック
 3 賃金単価算出の分母となる月平均所定労働時間の計算式
 4 賃金単価算出の分母となる月平均所定労働時間数の算出
 (1)月平均所定労働時間数に関する経験則
 (2)不特定や上限値超の場合の処理
 (3)使用者側が173.8時間を使用する問題点
 5 賃金単価計算の分子となる月給額(算定基礎賃金)の算出
 (1)一方的な減給は無視して元の賃金を算入
 (2)「休日手当」等や判別不能な固定残業代の算入
 (3)除外賃金の除外
 (4)法内残業代の控除
第3 他の賃金算定期間別の賃金単価の算出方法
 1 時給制の賃金単価(労基則19条1項1号)
 2 日給制の賃金単価(労基則19条1項2号)
 3 賃金算定期間が非典型的な場合の労基則19条1項5号の賃金
第4 請負制の賃金の賃金単価(労基則19条1項6号)
 1 そもそも請負制の賃金なのかのチェック
 2 請負制の賃金単価の計算方法
 3 賃金締切日(締め日)が設定されている場合
第5 時間外労働等の時間数の算出方法
 1 法定時間外労働の時間数
 (1)法概念と計算の関係
 (2)1日8時間超の時間数
 (3)週40時間超の時間数
 (4)月60時間超の時間数
 2 週40時間制と法内残業の関係
 (1)週40時間制と週5日勤務制の下での所定休日労働の関係
 (2)週40時間制と週6日労働制の所定時間外労働の関係
 3 法定休日労働の時間数
 (1)計算の前提となる法定休日の事後的な特定
 (2)休日の振替
 (3)時間概念としての法定休日の範囲
 4 深夜早朝労働の時間数
 5 法内残業の時間数
 (1)法内残業が生じる場合
 (2)所定休日労働が24時を超えた場合の扱い
 6 まとめ
第6 割増賃金の計算

第3章 計算ソフトの活用
第1 開発経緯
 1 ソフト開発の経過(ソフトの必要性)
 2 どのソフトを使うべきか
第2 ソフトを使用するうえでの共通した留意点
 1 前提となる法的知識を身につけること
 2 新しいバージョンのMicrosoft Excelを使用すること
 3 ソフト上の始業時刻、終業時刻、休憩時間の概念
 4 各週について労働日、(法定)休日の日の検討を行うべきこと
 5 ソフトの保護を解除しようと思わないこと(ソフトを改変したいと思わないこと)
 6 1事例1ファイルの原則(ファイルの使い回し禁止)
 7 時刻データとして認識させること
 8 計算に関する共通した特徴、制約
 (1)計算上の四捨五入
 (2)変形労働時間制には対応しないこと
 (3)賃金締切期間は月のもののみであること
第3 給与第一の使用方法
 1 ソフトの特性
 2 計算の前提となる諸条件の設定(「計算規則」シート)
 (1)計算期間の設定
 (2)賃金締め日の設定
 (3)賃金支払日の設定
 (4)月の表示の設定
 (5)1週間の起点となる曜日設定
 (6)月60時間超の150%割増賃金の適用の有無
 (7)所定労働時間の設定
 (8)残業代の計算方法の設定
 (9)法内残業の割増率の設定
 (10)時間、法定の割増率の設定
 3 賃金単価、既払金の計算(「単価・既払金計算書」シート)
 (1)月給制の賃金単価の算出
 (2)日給制の場合の賃金単価計算
 (3)時給制の場合の賃金単価計算
 (4)請負制の賃金(歩合給)の賃金単価の計算
 (5)既払金の計算
 4 時間外労働等の時間の計算(時間計算書シート)
 (1)時間と時刻の記入のルール
 (2)始業時刻、終業時刻、休憩時間の記入
 (3)「始業時刻前日」の列
 (4)日属性の特定
 (5)休憩時間の記入
 (6)事業所所定労働時間数の修正・月末日の修正
 (7)週6日労働の事案への対応
 5 残業代、既払金、遅延損害金、付加金の計算(割増賃金計算書シート)
 (1)遅延損害金に関係する入力
 (2)法内残業割増率の設定、既払金の控除
 (3)付加金について
 6 「詳細計算書」による割増賃金、既払金の詳細な計算
 (1)「詳細計算書」でできること
 (2)入力方法
 (3)各ケースへの対応方法
 7 当事者の主張の対照(労働時間認否・認定書シート)
 8 「『きょうとソフト』へ出力」シートの活用方法
第4 きょうとソフトの使用方法
 1 ソフトの特性
 2 計算の前提となる諸条件の設定(要素シート:XY共通)
 (1)表を作成する期間
 (2)法定休日(原則)
 (3)週労働時間の制限時間数
 (4)週労働時間制限の起算曜日
 (5)1日の所定労働時間(原則)
 (6)賃金の支払方法
 (7)賃金月度の表示形式
 (8)月60時間規制の適用
 (9)付加金請求の日
 (10)確定遅延損害金計算の終期(A)
 (11)遅延損害金の利率(年○%)(B)
 (12)退職日(C)
 3 賃金単価の計算(単価シート:XY別)
 4 時間外労働等の時間の計算(時間シート:XY別)
 (1)時間と時刻の記入のルール
 (2)始業時刻・終業時刻、休憩時間の入力
 (3)始業時刻の前日指定
 (4)法定休日の例外形、所定労働時間の例外形の記入
 (5)週6日労働の事案への対応
 5 残業代の計算(金額シート:労使別)
 (1)賃金単価
 (2)歩合給額
 (3)法内残業代の割増率が100%ではない場合
 (4)既払金額
 (5)遅延損害金の計算
 6 当事者の主張の対照(対照シート)

第4章 相談から請求まで
第1 時効の完成猶予
 1 残業代請求における「消滅時効は2年」の意味
 2 締め日と支払日
 3 まずは時効を止める
 (1)催告のために債権額の特定は必須ではない
 (2)当初の計算額が結果として過少でも問題はない
 (3)交渉過程と時効の関係
 (4)実際の催告のやり方
 4 付加金と時効の関係
第2 証拠の類型、使用方法、入手方法
 1 証拠収集の経路
 2 労働時間に関するもの
 (1)タイムカードなど労働時間証明の資料
 (2)変形労働時間制に関する資料
 3 労働契約、労働実態に関するもの
 (1)ハローワーク求人票、労働者募集広告
 (2)労働条件通知書、労働契約書
 (3)就業規則、賃金規定、労働協約書
 4 賃金の実態に関するもの
 (1)給与明細書
 (2)賃金台帳
 (3)三六協定書
 5 「周知されていないこと」に関する証拠
第3 打ち合わせで順次確認すべき事項
 1 全体を通じて
 2 労働時間、職務について
 (1)職務内容(管理監督者に該当する可能性の有無)
 (2)労働契約上の始業・終業時刻、休憩時間、所定労働時間数(休日数)
 (3)大ざっぱな残業時間と理由
 (4)労働時間の証拠の有無、入手の可否、証明力の検討
 (5)就労場所、就労パターンの変遷
 3 賃金について
 (1)賃金形態、賃金支払実態
 (2)締め日、支払日
 (3)給与明細書上の賃金と契約上の賃金の対応関係の有無
 (4)賃金減額や天引きの理由
 4 その他のことについて
 (1)労働時間以外の証拠の収集方法の検討
 (2)代表者の氏名、会社のFAX番号
 (3)事業所の存続可能性
 (4)付加金について期待を持たせる発言をすべきではないこと
第4 請求
 1 示談交渉
 2 法的手続きの選択
 (1)労働審判
 (2)訴訟

第5章 頻出論点への対応
第1 問題の所在
第2 労働者性
 1 立証責任は労働者側
 2 使用従属性の判断基準
第3 変形労働時間制
 1 対応検討の要点
 (1)制度のイメージ
 (2)制度の種類
 (3)対応の要点(抗弁事由であること)
 2 変形制の有効要件
 (1)1ヶ月以内単位
 (2)1年以内単位
 3 労働契約書に記載がない
 4 制度に具体性がない
 5 起算日の不特定
 6 労働日、各労働日の労働時間、始業時刻・終業時刻の不特定
 (1)1ヶ月以下単位の場合
 (2)1年以下単位の場合
 7 労働時間制限違反
 (1)1ヶ月以下単位の場合
 (2)1年以下単位の場合
 8 対象期間に入ってからの労働日の変更
 (1)1ヶ月以下単位の場合
 (2)1年以下単位の場合
 9 労使協定の締結手続きの瑕疵
 (1)労働者代表の選出手続きの瑕疵
 (2)締結時期の瑕疵
 10 制度を周知していない
 11 労基署への届出がない
第4 事業場外のみなし労働時間制
第5 裁量労働制
 1 検討の要点
 2 要件
 (1)専門業務型
 (2)企画業務型
第6 管理監督者(適用除外 )
 1 検討の要点
 2 「実態に基づく判断」の要素
 3 裁判例とその概観
第7 他の適用除外
 1 農業・畜産・水産業
 2 監視又は断続的労働
 (1)要件
 (2)監視に従事する者
 (3)断続的労働に従事する者
 (4)断続的労働としての宿日直労働
第8 週44時間制の特例
 1 検討の要点
 2 事業所性の判断基準
第9 付加金
 1 制度概要
 2 制度趣旨
 3 口頭弁論終結前の弁済
 (1)付加金発生時に関する最高裁の見解
 (2)最高裁の判決時説に対する度重なる批判
 (3)いつの「未払額」なのか
 4 判決確定前の弁済
 5 付加金の認定割合
 6 一部弁済の場合の充当関係
第10 割増賃金不払いの不法行為性
関連条文
判例一覧

そうなんですが、そもそものところで、私は残業代の議論というものに、あまり重要な意義を感じられないので、素晴らしい力作だとは思うのですが、やや斜め方面からのコメントになってしまうことをあらかじめお詫びしておきます。

残業代が重要でないとは何事だと怒り出す人がいるかもしれません。いや確かに、使用者と労働者の間の賃金問題として極めて重要です。そして、労使間の紛争に法的に取り組む弁護士の皆さんにとっても極めて重要であることも否定しません。しかし、国家が労働条件の最低基準を定め、その最低基準を下回るような非人間的な劣悪な労働条件に対しては刑罰を以て禁止しなければならないという労働基準法政策の観点からすると、最低賃金を下回るような低賃金を払うとか、最長労働時間を超えて働かせるというような意味での「最低労働基準」なのか、という大きな疑問があります。

これはもう十数年前から繰り返し言い続けてきていることですが、時給1000円の薄給の人が1時間残業したら1250円しか払えと言わないのに、月給100万円近くで時給換算して5000円の高給の人が1時間残業したら6000円払えというのは、もちろん民事契約上はまことに正当ですし、弁護士がそう主張するのも当然ですが、国家権力が刑罰を以て強制する原理としてまで正当なのかどうかは、私は深い疑問を抱いています。

そんな金持ち労働者の権利なんか、民事上の問題で十分じゃないか、国家権力がわざわざ出張ってまで強制しなければならないのは、もっと厳しい状況に置かれている労働者の権利なのではないか、という問題意識に、きちんと答えてくれた人はいままでいません。

なぜそうなったかももちろん明らかであって、労働基準法に最長労働時間規制があると言いながらそれはほとんど空文化し、2018年に過労死水準の上限規制が設けられるまでは、管理監督者でも裁量制でもなんでもないヒラ社員でも残業代さえ払えば無制限の長時間労働が可能であったからで、本来賃金規制に過ぎない残業代規制が、あたかもそれだけが労働時間規制であるかのようなでかい顔をしてしゃしゃり出るようになってしまったわけです。

Posse というような話は、実は本書の著者である渡辺輝人さんと2014年に『POSSE』で対談しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/07/posse242014-fd3.html


濱口:先ほど学者対実務者の枠組みとおっしゃっていましたが、私は自分を純粋な学者とは思っていません。実際に労働法学者と呼ばれる方々のほとんどが行っているのは労働法解釈学であって、その方々の感覚の基本的な土俵は渡辺さんと同じだと思います。私自身は、いま渡辺さんがおっしゃったようなもの(本号では省略)が労働時間規制であるという発想自体に対して批判的な立場です。特に「1日8時間1週間40時間を超えたら残業代を払わなければならない」というのが日本の労働時間規制だとする見解でくくれば、労働弁護士も経営法曹も労働法学者も同じ労働法サークルに属していて、そこに対して私が孤立的な立場に立っているという認識です。
 日本の労働時間規制は条文を素直に読めば物理的な時間を規制しているので、制度的にみれば実はヨーロッパ型であると言えます。1日8時間、週40時間を超えて働かせてはならず、超過して働かせた場合には刑事罰まであります。これに対してアメリカの公正労働基準法は、週40時間を超えた場合には50%割増しの規定があるのみで、それさえ守ればいくらでも長く働かせることができる。そのような違いがあるにもかかわらず、労働法サークル内外のほとんどの人は日本の労働時間規制はアメリカ型の残業代規制だと思っている。皮肉な言い方をすれば、一方にサルを神様だと思い込んで拝んでいる人がいて、その傍らにはサルを悪魔だといって叩こうとしている人々がいるというような状況です。たとえば変形労働時間制といっても、1日10時間に達したときに、そこで強制的に労働を終わらせる義務はなく、それ以降は割増しを払う必要があるというだけです。時間外労働や休日出勤といった際、日本人には時間外手当や休日手当を払うべき時間という以上の意識がない。そのため、法定休日か否かという議論も、単に割増率が25%か35%かという議論に還元されてしまいます。そんなものが休日規制の名に値するのかが問題ですが、実務家からも学者からも提起されることはありません。ここに最大の問題があるというのが私の問題意識です。
 労働時間規制でないものを労働時間規制だとするこのような発想は、マスコミや政治家など労働法サークルの外部にまで浸透しています。ここでも残業代ゼロが是か非かという議論に現れているように、サルを拝んだり叩いたりしているだけで、本質的な部分がすっぽりと抜け落ちているわけです。第一次安倍内閣のWEの議論の際からその流れがずっと続いていて、ようやく最近になって残業代とは切り離して労働時間の物理的な上限規制を設けるべきだという議論が出てきました。規制改革会議が明確にそれを提起し始めていますし、骨抜きになっているとはいえ産業競争力会議もリップサービスとしては言及しています。
 
濱口:そのように議論すること自体が、サルの話になってしまっています。35%が良いか悪いかではなく、そもそも法定休日とは仕事をさせてはいけない日なんです。EU指令の法定休日とはまさにそういう意味です。それがいつの間にか加算するかしないかの話になってしまうのが今の日本の状態で、労働時間の問題がお金の問題に還元されてしまっている。法定休日に働かせているだけで刑罰の対象になるという感覚が全くないんですね。もっとも、法学者や実務家は実際に出てきた判例を評釈しなければならず、サルしかいないところでサルばかり相手にしているので、いつの間にか本来の神がみえなくなってしまっているわけです。
 
濱口:そのような議論も、法定休日をお金の問題としかとらえていません。日本の法律の仕組みは本来はあくまでもヨーロッパ型です。お金ではなく物理的な時間規制です。つまり、物理的労働時間を規定する32条こそ重要なはずですが、現実には32条は空洞化していて、割増賃金を規定する37条こそが労働時間規制の本質だと思われているのです。
 第一次安倍内閣の時にも、労働時間規制を抜本的に変えようという議論がありましたが、エコノミスト、経済評論家、マスコミ、経営者、政治家などほとんどが、労働時間規制とはすなわち残業代規制であるという、労働法の世界から発信されている主張をそのまま受け取って議論していました。たしかに現在の残業代規制は不合理な面をもっていますが、それよりも議論の土俵自体が間違っているところにより大きな問題があります。
 
濱口:しかし、そのような主張は結局のところ、過労死するほど働かせても残業代さえきちんと支払っていれば問題ないという発想に吸収されてしまうと思います。EUの労働時間指令は残業代の話を一切抜きにして時間だけを規制しており、また日本も昔は女性に対して1日2時間、年150時間以という物理的な時間外労働の上限がかけられていました。一方でアメリカはお金で間接的に規制しようという立場です。
 いまの立法論の議論は、工場法・労働基準法以来の物理的な労働時間規制の建前が運用のなかで実質的に空洞化されてきたところを、さらに建前の部分も空洞化しようとしています。実務家として残業代請求が主戦場だと思うのはよく理解できますが、立法論の基本からいえば、残業代だけに集中した議論は、100年前から続く天守閣をやすやす明け渡して、二の次に作っていた小さな櫓にしがみついている、と言わざるを得ません。主たる天守閣が空洞化している中では櫓しか闘う拠点がないので、現実にそれが役に立っているのは確かですが、その櫓が攻撃されている理由は天守閣との関係ではなく、櫓そのものにあります。城を守る方の立場からすると天守閣をそっちのけにして櫓だけ守ってみても意味をなさないわけですが、攻める方からみると、櫓だけが邪魔者に見えるのです。具体的には、櫓に対する攻撃にあたっては、天守閣との関連でではなく、櫓そのもの、つまり賃金制度としての合理性に対して批判がなされるわけです。もっとも典型的なのは、時間と比例した賃金制度はおかしいという主張ですね。そのため、櫓だけしか目に入らない議論をしていると、賃金制度の基準を時間に置くべきか成果に置くべきかという狭い議論に陥ってしまうので、まさに櫓だけが攻防の場となってしまいます。労働法の実務家も解釈学者も含めたすべての人に対して、そのような議論をしていていいのかと問いかけたい最大の理由がここにあります。

 

濱口:マスコミも労働法のプロではないので、残業代による間接的な規制ではなく、過労死させないという観点から労働時間そのものを規制することが重要なんだと、櫓と天守閣を峻別した議論を理解してもらうことが必要です。ところが前回も今回も、批判派の議論はもっぱら、残業代を払わせることが長時間労働・過労死を防止している、すなわち櫓が天守閣の代わりに闘っているからいいんだという言説です。でもから見ると、なぜ天守閣ではなく櫓だけを大事にするのかという印象を受けます。実務家の立場としてはよくわかりますが、一国のルールをゼロベースで作るとなった際に、その議論では天守閣の姿がまったく見えてきません。残業代ゼロは過労死の促進だと強調したところで、結局それは労働法サークルの中でしか通用しない話です。一歩その外に出て、天守閣と櫓についての事情を知らない人に対してそのように打ち出したところで、妙な櫓を守れという話しかしていないように思われてしまう
今の情勢はゼロベースで労働時間規制をどうするべきかという議論ができるまたとない絶好の機会で、しかも規制改革会議は部分的に私の主張を取り込んでいます。36協定も終戦直後はそれなりに抑制力のあるものでしたが、50年代に数回にわたって行われた省令改正によって空洞化されてしまった歴史があります。細かいところは後々詰めていけばいい話ですが、天守閣がなくなった跡地に再度小さなものでもいいので天守閣を作ろうという議論がまず第一になされるべきであり、もともと殿様がいるわけでもない櫓を守ることばかりに全力を注がないほうがいいのではないかと思っています。
 
濱口:バーター論と言っても、こちら側の合理性である長時間労働規制を何としてでも手に入れるためにしぶしぶ経営側の合理性である残業代規制の緩和を認めざるをえない、という捉え方は少し誤解があります。先ほども申したように、経営側は、天守閣がないなかで成果に基づいて報酬を支払いたいというロジックなので、一定の合理性があるわけです。そこに、現在長時間労働を間接的に防いでいる櫓を壊すのであれば、その代わりに新しい天守閣を作らなければいけないというこれまた合理性のあるロジックを持ち出すことになるので、このバーター論ではそれらの合理性を前提にした、話し合いの余地が十分にあります。
 
濱口:経営側のいう残業代規制の矛盾が顕著に現れている例としては、モルガンスタンレーサービスリミテッド事件があります。
 
濱口:まともな労働法学者が評釈したら疑う余地もなく判旨反対となりますが、一般の意見としてはそんなの当たり前だろうと捉えられてしまう。世の中の大半の人がこれ以外の結論はないと思うことが違法になってしまうような仕組みはおかしいわけです。この例の場合は年収3000万円ですが、これが1000万や800万に引き下げられた場合はどうなのか。そのあたりになると世間の常識がせめぎ合うようになるわけです。高給取りであれば残業代規制に守られていなくても仕方がないという常識による攻撃に櫓がさらされたとき、単に判旨反対では守れません。そこで生きてくるのがバーター論です。物理的な労働時間以外の領域における線引きをどのように釣り合わせていくかという政治的な判断の領域においてはそのような議論が必要になってくると思います。

 

 

 

2021年9月18日 (土)

『ジョブ型雇用社会とは何か』の冒頭20ページほどが試し読み可能に

71cahqvlel 昨日刊行され、今日あたりから本屋さんに並びつつある『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)の冒頭20ページほどが、岩波書店のサイトで試し読み可能になっているようです。

https://www.iwanami.co.jp/book/b589310.html

https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/tachiyomi/4318940.pdf

試し読みして興味をそそられた方は、ぜひGo To 書店!

2021年9月17日 (金)

EU諸国におけるプラットフォーム労働政策@『労基旬報』2021年9月25日号

『労基旬報』2021年9月25日号に「EU諸国におけるプラットフォーム労働政策」を寄稿しました。

 本紙3月25号に「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」を書いた後、6月15日には労使団体への第2次協議が行われました。その中ではプラットフォーム事業者とそれを通じて就労する者との間の契約が雇用関係であるという反証可能な推定規定とか、司法手続きにおける立証責任の転換(プラットフォーム事業者を通じて就労する者は自動的に雇用関係とみなされるわけではないが、雇用関係が存在する証拠となるごくわずかな基本的事実(プリマ・ファシ)を提示すればよく、その場合その者が真に自営業者であることを立証すべきはプラットフォーム事業の側となる)といった提案がなされており、今年中にも欧州委員会からプラットフォーム労働指令案の提出が見込まれています。
 この第2次協議文書(C(2021)4230)には分厚い職員作業文書(SWD(2021)143)が付いており、加盟各国におけるプラットフォーム労働に対する諸施策や国内裁判所の判決の動向がまとめられています。今後予想される日本における議論にも参考になると思われるので、その一端を紹介しておきましょう。
 プラットフォームを通じて就労する者を対象とした立法を有するのはフランスだけで、2016年のエル・コムリ法により、プラットフォーム企業の保険料負担による任意労災補償、労働組合の権利、教育訓練の権利が認められています。さらに2019年のモビリティ法により、適切な労働条件を定める憲章を作成すれば、運輸業のプラットフォーム就労者を自営業者と認めるという誘導策もとっていましたが、後述のように破毀院(最高裁)は労働者性を認める判決を出しています。
 イタリアでは2019年、フードデリバリーの自営業者に対し、労働条件の通知、出来高給の禁止(時給は労働協約によること)、夜間休日割増などの権利を認める法律が成立しています。スペインの2021年5月の新法は、食料・荷物のデリバリーのプラットフォーム就労者を労働者と推定し、プラットフォーム側に立証責任を転換するとともに、その用いるアルゴリズムやAIについて労働組合に情報提供することを求めるもので、今年末に予想されるEU指令案の先行型と言えます。
 ドイツでも、2020年11月に連邦労働社会省が出した「プラットフォーム経済における公正な労働」において、プラットフォーム就労者の潜在的誤分類に対して挙証責任の転換を検討しているようです。オランダ政府は2020年10月、プラットフォーム就労者を労働者と法的に推定する規定を提起しました。ポルトガルも2020年11月の「労働の未来緑書」で、労働者の地位の法的推定と集団的代表の権利などを提案しています。
 加盟国の国内裁判所の判例の動向も見ておきましょう。こちらもフランスの破毀院(最高裁)が先行していて、2018年11月28日のTake Eat Easy事件判決でフードデリバリーのプラットフォーム就労者を労働者と認めた後、2020年3月4日のUber事件判決でタクシー型旅客運送のプラットフォーム就労者の労働者性も認めました。
 スペインでも2020年9月23日のGlovo事件最高裁判決で労働者性を認めており、さらに同年12月1日にはドイツの連邦労働裁判所がRoamler事件判決で、ガソリンスタンドの商品陳列のマイクロタスクを遂行するクラウドワーカーの労働者性を認めるに至っています。一方、イタリア破毀院(最高裁)は2020年1月24日のFoodora事件判決で、フードデリバリーのプラットフォーム就労者を、労働者でも自営業者でもない第三のカテゴリーの「lavoro eteroorganizzato(異種組織労働)」と判断しています。 既に最高裁判決に至ったのはこれら諸国ですが、ベルギーやオランダでもDeliveroo事件が最高裁に係っており、判決が出るのも間近なようです。
 なおもはやEU加盟国ではありませんが、イギリスの貴族院(最高裁)も2021年2月19日にUber事件判決で自営業者ではなく、(employeeとは異なるイギリス独特の概念である)workerであるとの判断を下しています。ちなみに、アメリカのカリフォルニア州では労働者性を認める最高裁判決の後、それを法制化したギグ法の制定、それをひっくり返す住民投票、さらにそれを違法と断じる高裁判決・・・と、自体が二転三転していますが、ここでは省略しておきます*1
 日本では今年3月に『フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン』を策定し、自営業者(フリーランス)であることを前提にした公正取引委員会による「優越的地位の濫用」規制で進め、労災保険の特別加入で補うという方向に進んでいますが、世界の潮流は必ずしもそれとは一致しない方向に進んでいるようです。 

*1「カリフォルニア州のギグ法」(本紙2020年2月25日号)

 

私たちはいま、どこにいるのか?@岩波新書

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2021年9月16日 (木)

第一東京弁護士会 労働法制委員会『懲戒をめぐる諸問題と法律実務』

H1scaled_20210916122801 第一東京弁護士会 労働法制委員会『懲戒をめぐる諸問題と法律実務』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/9692/

なぜ使用者は労働者に対して<懲戒処分>できるのか
企業社会における”古くて新しい”「懲戒をめぐる問題」について
働き方改革や価値観の変化などで複雑・多様化する最近の事案も分析した
懲戒をめぐる最新の解説書

リンク先を見ればわかるように、安西愈、山口浩一郎という大御所から始まって、木下潮音、石井妙子,倉重公太朗等々のビッグネームが並び、力の入った本です。

巻頭言 なぜ使用者は労働者に対し懲戒処分できるのか
コラム ジョブ型雇用と懲戒処分
コラム 外国における懲戒処分――イタリアの場合
コラム 二重処分禁止の原則
第1章 懲戒権の根拠と限界
第2章 懲戒事由
懲戒事由⑴ 職務懈怠
懲戒事由⑵ 業務命令違反
懲戒事由⑶ 業務妨害
懲戒事由⑷ 服務規律違反
懲戒事由⑸ ハラスメント
懲戒事由⑹ 私生活上の非行
懲戒事由⑺ 兼業・競業
第3章 懲戒手続
第4章 懲戒の手段
懲戒の手段⑴ ~戒告・けん責・減給~
懲戒の手段⑵ 出勤停止、降格
懲戒の手段⑶ 諭旨解雇、懲戒解雇
第5章 懲戒の告示と個人情報保護
第6章 懲戒権濫用(労契法15条)の訴訟における攻撃防御
第7章 全体討議
第8章 まとめ
資料 

第7章の全体討議が90ページにわたって論客たちが議論をしていて、これだけでも読む値打ちがあります。

 

 

2021年9月15日 (水)

溝上憲文「いま求められるフリーランス保護の拡充」@『賃金事情』9月20日号

A20210920 『賃金事情』9月20日号に溝上憲文さんの「いま求められるフリーランス保護の拡充」が載っていまして、その中に私も登場しています。6月にJILPTのリサーチアイに書いたEUのプラットフォーム労働に関する第二次協議の内容の解説です。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20210920.html

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/066_210622.html

解説の後の感想めいた喋りとして、こんなことを喋っています。

「第2次協議は建前上、労使で話し合って協約を結びましょうというものだが、労働団体は早く指令案を出せと言っている。予定表ではEU委員会が指令案を今年12月までに作成し、立法府である欧州議会と閣僚理事会に提出することはほぼ確定だろう。立法府でどうなるかは分からないが、欧州議会は基本的に推進の方針だ。加盟国の政府代表で構成される閣僚理事会の協議では、結構揉めることも多い。ただし、いつも断固反対を唱え,議論の停滞を招いていたイギリスがEUを抜けたことで、物事が動きやすくなっているのが事実だ」

その他、フリーランス協会の平田茉莉さん、ウーバーイーツユニオン代理人の川上資人さんも登場しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両方の旗を取られて・・・

もともと旧民主党には、小泉よりももっと構造改革!という(ネオ)リベラルな方向性と、格差是正だネオリベ反対だというソーシャルな方向性が、統一することなくねじれて併存していて、それこそ「敵の出方論」で都合良く出したり引っ込めたりしていたけれども、こういう事態になって、自民党の中の総裁候補が新自由主義からの転換を掲げたり、規制改革を掲げたりすると、どっちにしても埋没するんですね。

本音で言えば、もうひとりのナショナリズム全開でアベノミクス堅持の方に総裁になっていただいた方が選挙対策的にはありがたいんでしょうが、さすがにそれは・・・

2021年9月14日 (火)

「最低賃金近くで働く人が10年で倍増」した理由は

東京新聞が、「最低賃金近くで働く人が10年で倍増 非正規や低賃金正社員にコロナ禍も追い打ち」という記事を載せています。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/130718

 最低賃金(最賃)に近い低賃金で働く人の割合が最近10年ほどで倍増していることが、賃金に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算で分かった。最賃の全国平均の1.1倍以下で働く人の割合は2020年に14.2%となり、09年の7.5%から急伸した。非正規労働者や低賃金の正社員が増えたのが要因の1つで、コロナ禍が脆弱な雇用構造に追い打ちを掛けている。(山田晃史)

今の日本の最低賃金の水準が西欧主要国に比べればなお低いことは確かですが、とはいえ、この記事のとりわけ見出しの台詞は、この10年間に賃金水準が下がってきたかのように受け取られかねない、というかわざとそれを狙っているようにも見えるいささかミスリーディングなもののように思われます。

言うまでもなくこの10年、というか正確には第一次安倍内閣の2006年以来ほぼコンスタントに最低賃金は上昇し続けてきているので、「最低賃金近くで働く人が10年で倍増」するのは当然なのです。

これは、2009年と2021年の中央最低賃金審議会目安小委員会に提出された都道府県別の賃金分布のグラフを見れば一目瞭然ですが、

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0714-4d.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000800128.pdf

2009

2021

この12年間で東京都の最低賃金が739円から1013円に上がっているので、その分最低賃金近くで働く人が増えているのですが、少なくとも12年前に今時点の最低賃金より低い賃金で働いていた多くの人が(それでも若干残ってますけど)激減してその上の最低賃金を上回るその近くに移っていることだけは間違いないのです。

 

 

 

 

 

 

2021年9月13日 (月)

「働かないおじさん」は年齢差別か?

一昨日、慶應義塾大学産業研究所HRM研究会の35周年シンポジウムに参加し、報告と討論をしてきましたが(zoomで)、その中身はそのうち中央経済社から出版されるとのことなので、詳しくはそちらをどうぞなのですが、その最後あたりでややトリビアな、というかトリビアに見えるエピソードがあり、たぶん本には出てこないと思うので、ちょっと紹介しておきます。

https://www.sanken.keio.ac.jp/behaviour/HRM/

私は例によって「ジョブ型VSメンバーシップ型と労働法」という話しをしたのですが、そのなかで私自身もマスコミから何回も取材されたトピックである「働かないおじさん」云々という言葉を使ったんですが、パネルディスカッションの最後のあたりで、フロア(といってももちろんzoomの聴衆)の方から「働かないおじさんという言い方は差別的じゃないか、政治的に正しくないぞ」というような意見があったようです。

司会の八代さんからそういう意見があったと紹介されたので、その場でお答えしたのは、「働かないおじさん」とだけ言って「働かないおばさん」と言わないのは男女差別的だったかも知れない。かつての日本型雇用では女性正社員は結婚退職が前提なので「働かないおばさん」は存在しえなかったけれども、均等法後は「働かないおばさん」も出てきたので。

しかし、もし働かない「おじさん」という言い方が年齢差別的だという趣旨ならば、それはそもそも日本型雇用システムそのものが入口から出口まで年齢を最も重要な基準とする仕組みであるがゆえに発生する現象なので、言葉だけポリコレで叩いても意味がない。というようなことを喋った記憶があります。

日本型雇用で得をするのは若い男性であり、損をするのは中高年と女性だという話は報告の中でしておいたつもりなので、最後にポリティカルコレクトネスで批判を受けるとは意外でした。世の中、結構表層的な脊髄反射でものを言う人が多いんですね。

40歳定年だの、45歳定年だのといった妄言が繰り返しなされる所以もまさにそこにあるわけですから。

 

2021年9月11日 (土)

『ジョブ型雇用社会とは何か』は来週刊行されます

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『ジョブ型雇用社会とは何か』は来週刊行されます。一足先に、見本が届きました。今回実物を見て、帯の「一刀両断!」の字の後ろにうっすらと、間違いだらけのジョブ型論をぶった切る「刃」が描かれていたことに気が付きました。

2021年9月10日 (金)

45歳定年のデジャビュ

なにやら、サントリーの新浪剛史社長が45歳定年制を主張したとかで、

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090901120

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は9日、経済同友会の夏季セミナーにオンラインで出席し、ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」と述べた。新浪氏は政府の経済財政諮問会議(議長・菅義偉首相)の民間議員を務めるなど論客として知られる。 

常見陽平さんは早速、まずはサントリーで「やってみなはれ」とコメントしていますが、

https://news.yahoo.co.jp/profile/author/tsunemiyohei/comments/posts/16312256039939.78ab.02880/

新浪さん、まずはサントリーで「やってみなはれ」。これでメリット・デメリットが明らかになります。

個人的には、今からもう9年前、民主党政権末期の断末魔の如く、政府のフロンティア分科会とやらが40歳定年制なるものをぶち上げたときのデジャビュがよみがえりますね。

201212 この年の『中央公論』12月号で、海老原嗣生さんと「「四十歳定年制」より大事なこと 管理職を目指さない自由を 」という対談をしたんですが、その時の論点とまあ、殆ど何も変わっていないんだな、これが。

「四十歳定年制」より大事なこと 管理職を目指さない自由を 対談 濱口桂一郎×海老原嗣生

濱口 企業のミクロの人事管理のロジックからすれば、年金支給の時点まで賃金カーブを持続することは不可能です。結果的に、六十歳定年後は再雇用で、賃金を半分以下に落とすということにならざるを得ない。賃金の基本構造を変えずに、五十五歳なり六十歳から先は変えていいですよ、というのは木に竹を接ぐような対応です。でも、現実に多くの企業が欧米のような賃金制度に変える気がない以上、これが唯一可能な対応になる。
 
濱口 でも、それは局所的な合理性に過ぎないとも言える。働いている側からすれば、やはり不合理でしょう。とりわけ五十代の人が自分をどう認識しているかを考えたらわかります。他人からは大して働いていないのに高い給料貰っているように見える人であっても、主観的には自分はそれだけの値打ちのある仕事をしていると思っているものです。そういう人の処遇を落とせば、自分の本来あるべき地位から許し難い水準に落とされたと思うでしょう。数日前に高齢者の雇用状況報告が発表されましたが、再雇用を会社に拒否された人は一・六パーセントしかいません。経済学者たちは高齢者雇用義務化によって失業が増えるなどと言っていましたが、すでに六十五歳までの再雇用は量的にはほとんど達成されています。会社に拒否された一・六パーセントは、その賃金でも会社として雇いたくない人なのです。ところが同時に二〇パーセント以上が自主的にやめている。もちろんそこにはさまざまな理由があるでしょうし、自分からもう働きたくないと思ってもいいわけですが、たぶんその多くは、そんな賃金水準だったら働きたくないという理由だったのではないでしょうか。それによって二〇パーセント以上の人たちが労働市場から退出してしまっているのだとすれば、マクロ社会的にはマイナスをもたらしている可能性があると思います。

濱口 四十歳定年制という提言は、政府が進めている六十歳定年後六十五歳までの再雇用、子会社や関連会社への転籍という政策と正反対に位置するものに見えて、実は同じことをより低い年齢でやろうとしているだけではないでしょうか。提言した側は、これまでの日本の在り方を変えるつもりかも知れませんが、むしろ本質的には何も変わらないことを前提にした議論のような気がします。
 
濱口 日本は正社員であればエリートがデフォルト(初期設定)という特異な国です。欧米はノンエリートがデフォルト。そこを認識しておかないと、おかしなことになります。四十歳定年制に限らずそうですが、ここ数年の諸々の議論の基本的なイメージは、日本のサラリーマンはもっと欧米のエリートを見習って頑張れ、というものです。最近はそこにアジア諸国、特に中国のエリートが加わった。そんな階級社会の上澄みだけ取ってきて、同世代の半分以上を占める日本の大卒がすべてエリートであるかのように比較する。日本の正社員はノンエリートがエリートまがいの期待を背負わされて無茶苦茶に働かされているのです。でも、係員島耕作がみんな課長島耕作になって、社長島耕作になれるわけではない。

濱口 人間の職業人生を、ある時期までは一種の育成期と捉え、それ以降をフラットなノンエリートとして粛々と七十五歳ぐらいまで働けるよう生きていくというイメージで考えるのであれば、それはこれからの働き方を考える上で非常に意味があると思う。みんなが管理職にならなくてもいいのです。
 
濱口 私なら、最初からエリートがデフォルトではなくて、ノンエリートが途中でエリートになりうる社会の方がいい。つまり、特に何もなければノンエリートの道だけれど、本人が思い立ってがんばればエリートになる道も開かれている。もっとも、本当に世界レベルのグローバルエリートは入り口から分けた方がいいかも知れませんが。係員島耕作は大体係長島耕作止まりだが、中には課長島耕作、部長島耕作と階段を駆け上っていく者もいるというイメージです。そこが今までと違う。要は人事管理の多様化であり、それが年とともに明確化されるのです。
 
濱口
 日本はこれまでみんなをエリートにすることでホワイト化してきました。これからはホワイトなノンエリートを作っていくことを考えた方がみんなが幸せになるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

神聖なる憎税同盟再び

結局、反緊縮だの弱者のためだのがことごとく減税ニッポンにからめとられていき、もう一方のあれもやりますこれもやりますとの矛盾を「事業仕分けで無駄をたたき切れば財源なんてなんぼでも出てくる」でごまかした挙げ句の果ての泥沼をもう一度再演したいのかな。

ま、国民の側が神聖なる憎税同盟のおまじないにころりといかれる性癖が直らないのだから、どうしようもないわな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-c764.html(「憎税」りふれはのアイドル クーリッジ)

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どうもある種のりふれはの人が、緊縮財政を批判するツイートのつもりで、アメリカのクーリッジ大統領の「必要以上の税を集めるのは合法的強盗である」という台詞を引用していたらしいのですが、もちろんクーリッジ大統領は「緊縮財政の守護天使のような存在」であり、「大恐慌以前の市場原理主義者、シバキの代表」であります。『ただひたすらに「頑張る」というスローガンだけで、たいていの問題は解決できる』と言う名言が残っているんだそうです。
その昔世界史の教科書で読んだのを思い出していただければ、クーリッジの次のフーバー大統領のときにあの大恐慌が起こり、それでルーズベルトのニューディール政策が始まったわけです。思い出しましたか?
あんこれさんはこの歴史感覚の欠如した自分に都合の良い言葉尻だけに条件反射する愚かさをあざ笑っている訳なんですが、もうすこしつっこむと、ここにある種の「りふれは」の本性-ただひたすらに「憎税」-がにじみ出ているということもできるように思われます。
その帰結は、もちろん言うまでもなく、クーリッジ大統領の経済政策の追求以外の何物でもないわけで、その意味ではむしろ、あんこれさんの皮肉は皮肉ですらなく、この手のりふれはの明白な本性を明らかにしたというだけだったのかもしれません。 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-972110.html(「憎税」左翼の原点?)

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その文脈はそういう政治話が好きになひとに委ねて、ここでは違う観点から。と言っても、本ブログでは結構おなじみの話ですが。よりにもよって「ジャパン・ソーシャリスト・パーティ」と名乗り、(もちろん中にはいろんな派閥があるとはいえ)一応西欧型社民主義を掲げる社会主義インターナショナルに加盟していたはずの政党が、こともあろうに金日成主席が税金を廃止したと褒め称えるマンガを書いていたということの方に、日本の戦後左翼な人々の「憎税」感覚がよく現れているなぁ、と。そういう意味での「古証文」としても、ためすすがめつ鑑賞する値打ちがあります。
とにかく、日本社会党という政党には、国民から集めた税金を再分配することこそが(共産主義とは異なる)社会民主主義だなんて感覚は、これっぽっちもなかったということだけは、このマンガからひしひしと伝わってきます。
そういう奇妙きてれつな特殊日本的「憎税」左翼と、こちらは世界標準通りの、税金で再分配なんてケシカランという、少なくともその理路はまっとうな「憎税」右翼とが結託すると、何が起こるのかをよく示してくれたのが、1990年代以来の失われた30年なんでしょう。 
いまさら井出英策さんがどうこう言ってもどうにもならない日本の宿痾とでもいうべきか。

 

2021年9月 9日 (木)

【GoTo書店!!わたしの一冊】ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』

9784492503317_1_2 『労働新聞』にかわるがわる月1回のペースで連載している【GoTo書店!!わたしの一冊】ですが、今回私が取り上げたのはショシャナ・ズボフの『監視資本主義』(東洋経済新報社)です。

https://www.rodo.co.jp/column/112340/

 今日、私たちはグーグル、アップル、アマゾンなどのプラットフォームを使うことなく、1日たりとも過ごすことはできなくなっている。これらはとても便利だ。だが、私たちがこれらを使うたびに、その情報が蓄積され、加工され、利用されている。

 これらの側からみれば、私たちは便利さという餌に引き寄せられてきた原材料に過ぎない。検索したり、確認したり、購入したり、というクリック行動から抽出された「行動余剰」が、これらの営利の元になる。生産過程における剰余価値の搾取に産業資本主義の本質を見出したマルクスに対し、ズボフは21世紀にGAFAが作り出した新たな資本主義の本質をこの「行動余剰」の搾取に求める。

 ここで思い出すのが7月12日号で紹介したポズナー&ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』だ。利用者からタダで得た膨大なデータを使い、AIの機械学習で作成されたサービスによって巨万の富を得ている巨大IT企業に対し、不払い労働の正当な対価を取り返すために「万国のデータ労働者は団結せよ」と論じていた。しかし、問題はデータ労働の不払い価値だけではない。そのデータが秘かに私たちに不利益に使われる恐れがあるのだ。

 日本の新卒就職市場という狭い範囲ながら、そのリスクを露わにしたのが一昨年のリクナビ事件であった。学生たちは便利さに引き寄せられて、というよりも、リクナビやマイナビを使わずに就職活動ができないような状況下で、そのクリック行動から推計された辞退可能性を秘かに求人企業に売り渡されていたのである。渡したつもりのない自分に関するデータが作り出され、商品化されている。これまでの個人情報やプライバシーの議論の想定外のほの暗い領域が垣間見えた一瞬であった。

 邦題の「監視資本主義」からは、常にビッグブラザーの監視の目が光っている『1984年』風の全体主義国家を想像するかもしれない。しかし、両者は対極的だ。暴力装置による恐怖支配ではなく、計測と予測に基づき行動修正(behavioral modification)が誘導される。「監視(surveillance)」しているのは全体主義的独裁者(ビッグブラザー)ではなく、道具主義的管理者(ビッグアザー)というわけだ。

 これに限らず、ズボフの用語法は鮮やかなものが多い。分業(division of labor)に対して知の分割(division of learning)とか、ポランニーの土地、労働、貨幣に続く第4の疑似商品たる「人間の経験(human experience)」とか、クーデター(国家の転覆)ならぬクーデ・ジャン(人々の転覆)とか。

 本書にもインスパイアされて、EUを先頭に世界的な動きとしてプラットフォーム規制やAI規制の声が高まりつつあり、労働法政策の観点からも無視し得なくなりつつある(その一端は筆者もJILPTのホームページなどで紹介している)。その思想的根拠を考えるうえでも、本書は必読の書だ。700ページを超す分厚さと、税込み6160円という高価さが唯一の欠点だが。 

この最後のところで触れているEUのAI規制についての簡単な紹介は:

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/060_210430.html(JILPTリサーチアイ 第60回 EUの新AI規則案と雇用労働問題)

 

 

2021年9月 7日 (火)

第二東京弁護士会 労働問題検討委員会編著『フリーランスハンドブック』

H1scaled 第二東京弁護士会 労働問題検討委員会編著『フリーランスハンドブック』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/9649/

~“フリーランス・トラブル110番”で最前線を知る弁護士が解説~
フリーランスが直面するさまざまな問題を類型ごとに整理!
関連法令をふまえてどのように対処すべきかわかる!
【フリーランスの法的問題には、こう対応する】 

今労働法界隈で最も注目されているテーマの一つですが、本書は多くの弁護士たちによる徹底した実務書です。何が徹底した実務書なのかといえば、十分な報酬を支払ってくれない場合とか、募集段階・契約締結前のトラブルとか、契約条件の一方的変更とか、20章を超えるトピックごとに、それぞれに「第1節 労働者性が認められる場合」「第2節労働者性に疑義がある場合」と、全て二段構えで使える武器を総ざらえしていることです。

その辺が、理路整然とした理屈を捏ねることが大事な学者と違うところなのでしょう。

 

 

 

 

 

奴隷とサラリーマン

こんなツイートを見つけて、

https://twitter.com/Asaoki_UN/status/1434807400985411584

世界ふしぎ発見でローマ時代の奴隷について、東大の教授が「貴重な働き手としてそれなりの待遇を受けていた。生かさず殺さず、働き手を増やすために子どもも作って欲しいという待遇。今で言えばサラリーマンみたいな存在」って結構凄いことをサラッと言ってた

いやこの、奴隷とサラリーマンの関係については、も少し詳しく、法制史的知見をもって語らないと、誤解を招きかねないところなんで、かつてヨニウム氏とイケノブ氏のそれぞれ片面的な議論をつかまえて論じたエントリを再掲しておきます。

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http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-53fc.html(ジョブとメンバーシップと奴隷制)

世の中には、ジョブ型雇用を奴隷制だと言って非難する「世に倦む日々」氏(以下「ヨニウム」氏)のような人もいれば、

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/283122128201609216


本田由紀とか湯浅誠とか、その亜流の連中が、そもそも正規労働を日本型雇用だと言ってバッシングし、正規雇用を非正規雇用の待遇に合わせる濱口桂一郎的な悪平準化を唱導している時代だからね。左派が自ら労働基準法の権利を破壊している。雇用の改善は純経済的論理では決まらない。政治で決まる問題。

https://twitter.com/yoniumuhibi/status/290737267151077376


資本制の資本-賃労働という生産関係は、どうしても古代の奴隷制の型を引き摺っている。本田由紀らが理想視する「ジョブ型」だが。70年代後半の日本経済は、今と較べればずいぶん民主的で、個々人や小集団の創意工夫が発揮されるKaizenの世界だった。創意工夫が生かされるほど経済は発展する。

それとは正反対に、メンバーシップ型雇用を奴隷制だと言って罵倒する池田信夫氏(以下「イケノブ」氏)のような人もいます。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51870815.html(「正社員」という奴隷制)


非正社員を5年雇ったら正社員(無期雇用)にしなければならないという厚労省の規制は、大学の非常勤講師などに差別と混乱をもたらしているが、厚労省(の天下り)はこれを「ジョブ型正社員」と呼んで推奨している

・・・つまりフーコーが指摘したように、欧米の企業は規律=訓練で統合された擬似的な軍隊であるのに対して、日本の正社員はメンバーシップ=長期的関係という「見えない鎖」でつながれた擬似的な奴隷制なのだ。

もちろん、奴隷制とは奴隷にいかなる法的人格も認めず取引の客体でしかないシステムですから、ジョブ型雇用にしろメンバーシップ型雇用にしろ、奴隷制そのものでないのは明らかですが、とはいえ、それぞれが奴隷制という情緒的な非難語でもって形容されることには、法制史的に見て一定の理由がないわけではありません。

著書では専門的すぎてあまりきちんと論じていない基礎法学的な問題を、せっかくですから少し解説しておきましょう。

近代的雇用契約の源流は、ローマ法における労務賃貸借(ロカティオ・オペラルム)とゲルマン法における忠勤契約(トロイエディーンストフェアトラーク)にあるといわれています。

労務賃貸借とは、奴隷所有者がその奴隷を「使って下さい」と貸し出すように、自己労務所有者がそれを「使って下さい」と貸し出すという法的構成で、その意味では奴隷制と連続的な面があります。しかし、いうまでもなく最大の違いは、奴隷制においては奴隷主と奴隷は全く分離しているのに対し、労務賃貸借においては同一人物の中に存在しているという点です。つまり、労働者は労務賃貸人という立場においては労務賃借人と全く対等の法的人格であって、取引主体としては(奴隷主)と同様、自由人であるわけです。

この発想が近代民法の原点であるナポレオン法典に盛り込まれ、近代日本民法も基本的にはその流れにあることは、拙著でも述べたとおりです。

このように労務賃貸借としての雇用契約は、法的形式としては奴隷制の正反対ですが、その実態は奴隷のやることとあまりかわらないこともありうるわけですが、少なくとも近代労働法は、その集団的労使関係法制においては、取引主体としての主体性を集団的に確保することを目指してきました。「労働は商品ではない」という言葉は、アメリカにおける労働組合法制の歴史を学べばわかるように、特別な商品だと主張しているのであって、商品性そのものを否定するような含意はなかったのです。

労務賃貸借を賃金奴隷制と非難していた人々が作り出した体制が、アジア的専制国家の総体的奴隷制に近いものになったことも、示唆的です。

一方、ゲルマンの忠勤契約は日本の中世、近世の奉公契約とよく似ていて、オットー・ブルンナー言うところの「大いなる家」のメンバーとして血縁はなくても家長に忠節を尽くす奉公人の世界です。家長の命じることは、どんな時でも(時間無限定)、どんなことでも(職務無限定)やる義務がありますが、その代わり「大いなる家」の一員として守られる。

その意味ではこれもやはり、取引の客体でしかないローマ的奴隷制とは正反対であって、人間扱いしているわけですが、労務賃貸借において最も重要であるところの取引主体としての主体性が、身分法的な形で制約されている。妻や子が家長の指揮監督下にある不完全な自由人であるのと同様に、不完全な自由人であるわけです。

ドイツでも近代民法はローマ法の発想が中核として作られましたが、ゲルマン的法思想が繰り返し主張されたことも周知の通りです。ただ、ナチス時代に指導者原理という名の下に過度に変形されたゲルマン的雇用関係が強制されたこともあり、戦後ドイツでは契約原理が強調されるのが一般的なようです。

日本の場合、近世以来の「奉公」の理念もありますが、むしろ戦時中の国家総動員体制と終戦直後のマルクス主義的労働運動の影響下で、「家長」よりもむしろ「家それ自体」の対等なメンバーシップを強調する雇用システムが大企業中心に発達しました。その意味では、中小零細企業の「家長ワンマン」型とはある意味で似ていながらかなり違うものでもあります。

以上を頭に置いた上で、上記ヨニウム氏とイケノブ氏の情緒的非難を見ると、それぞれにそう言いたくなる側面があるのは確かですが、そこだけ捕まえてひたすらに主張するとなるとバランスを欠いたものとなるということが理解されるでしょう。

ただ、ローマ法、西洋法制史、日本法制史といった基礎法学の教養をすべての人に要求するのもいかがなものかという気もしますし、こうして説明できる機会を与えてくれたという意味では、一定の意味も認められないわけではありません。

ただ、ヨニウム氏にせよ、イケノブ氏にせよ、いささか不思議なのは、理屈の上では主敵であるはずのそれぞれジョブ型そのものやメンバシップ型そのものではなく、その間の「ほどほどのメンバーシップとほどほどのジョブ」(@本田由紀氏)からなる「ジョブ型正社員」に異常なまでの憎悪と敵愾心をみなぎらせているらしいことです。

そのメカニズムをあえて憶測すればこういうことでしょうか。

ヨニウム氏にとっては、(イケノブ氏が奴隷と見なす)メンバーシップ型こそが理想。

イケノブ氏にとっては、(ヨニウム氏が奴隷と見なす)ジョブ型こそが理想。

つまり、どちらも相手にとっての奴隷像こそが自分の理想像。

その理想の奴隷像を不完全化するような中途半端な「ジョブ型正社員」こそが、そのどちらにとっても最大の敵。

本田由紀さんや私が、一方からはジョブ型を理想化していると糾弾され、もう一方からはメンバーシップ型を美化していると糾弾されるのは、もちろん人の議論の理路を理解できない糾弾者のおつむの程度の指標でもありますが、それとともに理解することを受け付けようとしないイデオロギー的な認知的不協和のしからしむるところなのでもありましょう。

あらぬ流れ弾が飛んでこないように(いや、既に飛んできていますが)せいぜい気をつけましょうね。

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ついでにいうと、このへんについてまともなセンスを持って語っているのは実は稲葉振一郎氏です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/10/post-7d5745.html(ジョブとメンバーシップと奴隷制再掲(稲葉振一郎『AI時代の労働の哲学』に触発されて))

9784065171806_w_20210907094701 毎月HRWatcherを連載しているWEB労政時報の髙橋さんより、「講談社選書メチエの『AI時代の労働の哲学』に、濱口先生の『日本の雇用と労働法』が参考文献として挙げられておりました」とのご連絡をいただき、早速読んでみました。稲葉振一郎さんのなかなかの意欲作です。

タイトルは今風に売れ線狙いで「AI時代の」と謳っていますが、中身はむしろ哲学と歴史から労働とは何かを深く沈潜して考えようとするもので、とりわけ第2章での議論が、古めかしいが故に現代の問題を考えるのにふさわしい枠組みになっています。

で、そこに私の本も出てくるんですが、その文脈が「奴隷制と自由な契約」なんですね(p51)。

・・・かつての奴隷・奉公人はメンバーシップ型雇用の原型に当たるわけですが、奴隷にもさまざまなタイプがありました。家事労働や危険な肉体労働に酷使され、消耗品扱いをされる者もいれば、主人のビジネスのアシスタントとして重要な意思決定にコミットし、場合によっては解放奴隷として主人の仕事や家を継承する者もいる。そのような幅の広さは、現代のメンバーシップ雇用にも引き継がれている、といえるでしょう。

ジョブ型の幅広さは、ある意味でそれ以上です。高度専門職の雇用は、請負どころかむしろ委任にさえ近づく一方で、定型化された単純作業は取り替えがいくらでも可能な没個性的な商品、いわばコモディティとして取り扱うことができます。つまりここでもまた外部か可能で、やはり請負に近づきますが、かといって委任に近づくことは決して考えられません。あくまでそれを「使用」する権利は雇い主の方に保持されるからです。・・・・

いやいや、これくらいきちんと概念の広がりをわきまえて使ってくれる人ばかりならいいんですけどね。

・・・結論としては、まことに表層的な情緒論を振り回すヨニウム氏やイケノブ氏と違い、稲葉振一郎さんがローマ法、西洋法制史、日本法制史といった基礎法学の教養をきちんと踏まえて議論を展開しているところが立派である、ということになりましょうか。

 

 

 

 

 

 

2021年9月 6日 (月)

左翼の緊縮政策の選挙の帰結

Damianrass200x200 もう何回も聞き飽きた話ではありますが、ソーシャル・ヨーロッパはやはりこのテーマが気になるようです。

https://socialeurope.eu/left-wing-austerity-during-international-crises-its-the-financial-markets-stupid

Surprisingly, left governments adopted more conservative fiscal policies than right governments in recent economic crises. These appear to have dire electoral consequences.

驚いたことに、近年の経済危機において、左派政府は右派政府よりももっと保守的な財政政策を採用した。それが悲惨な選挙結果を生み出したように見える。

Left and right governments used to pursue distinct macroeconomic policies, with left governments associated with fiscal profligacy (and redistributive policies). Over the past few decades, however, left and right have converged, with no notable differences in their fiscal policies.

左派と右派の政府ははっきり異なるマクロ経済政策を追求してきた。左派政府は財政的放蕩(及び再分配政策)と関連している。ところが過去数十年にわたって、左派と右派は収斂し、その財政政策に違いはなくなった。

Even in times of crisis, when we might expect divergence, left and right fiscal policies appear indistinguishable. For instance, in reaction to the global financial crisis of 2007-08, both left and right governments endorsed austerity policies. While the news is already bad for the core constituencies of left parties, the reality is even worse. 

危機の時代においても、我々は分岐を期待したけれども、左派と右派の財政政策は区別しがたいように見える。たとえば、2007-08年のグローバル金融危機に対する反応において、左派政府も右派政府も緊縮政策を支持した。このニュースはすでに左派政党のコア支持層にとって悪いけれども、現実はもっと悪い。

・・・I find that, over the course of the business cycle in the two last crises, left governments pursued more restrictive fiscal policies than their right-wing counterparts. This amounts to no less than a reversal of traditional partisan effects. 

私が見出したところ、過去2回の危機における景気循環の中において、左派政府は右派のカウンターパートよりももっと緊縮的な財政政策を追求した。これは伝統的な党派的な影響の逆転も同然である。

 

 

 

 

 

 

 

2021年9月 5日 (日)

日本労働法学会第138回大会

Headerimg01 日本労働法学会第138回大会は2021年11月6日(土)・11月7日(日)の両日、完全オンラインで開かれます。

https://www.rougaku.jp/contents-taikai/138taikai.html

初日の大シンポジウムはプラットフォーム経済です。

<1日目・土曜日>
大シンポジウム報告
統一テーマ:「プラットフォームエコノミーと社会法上の課題」
司会:沼田 雅之(法政大学)、米津 孝司(中央大学)
報告:
1.沼田 雅之(法政大学)
「報告の趣旨「プラットフォームエコノミーが現代企業に与えるインパクトと社会法上の課題」」
2. 鈴木 俊晴(早稲田大学)
「プラットフォームワーカーに対する個別法上の保護」
3. 藤木 貴史(帝京大学)
「プラットフォームワーカーに対する集団法上の保護」
4. 滝原 啓允(労働政策研究・研修機構)
「プラットフォームを介して働く者に対する『評価』に係る諸問題」
5. 井川 志郎(山口大学)
「プラットフォーム就労と通則法12条 ~労働抵触法上の重要概念の機能性を問う~」
6.沼田 雅之(法政大学)
「プラットフォームワークと社会保障」

報告 9:00~11:10
休憩 11:10~11:40
報告 11:40~13:00
休憩・昼食 13:00~14:30
大シンポジウム討論 14:30~17:00 

この面々、『季刊労働法』でクラウドについて調査研究して連載していたグループですね。JILPTの滝原さんも入っています。最近の大シンポジウムはややもすると眠気を誘うテーマが多かったのですが(失礼)、今回は大変アクチュアルなテーマなので、朝から晩まで気を抜けそうもありません。

<2日目・日曜日>
個別報告 9:00~10:00
第一会場
テーマ「日本の合理的配慮提供義務の範囲について:雇用率制度を中心とした雇用促進策が合理的配慮に与える影響」
報告者:西田 玲子(東京大学)
司 会:川田 琢之(筑波大学
第二会場
テーマ:「ドイツにおける労働のデジタル化と解雇法理」
報告者:佐々木 達也(名古屋学院大学)

第三会場
テーマ:「〈生活保障システム〉の構築と法の役割 −−−−イギリス労働市場の形成と社会保障・労働法制の史的展開−−−−」
報告者:林 健太郎(慶應義塾大学)
司 会:石田 眞(早稲田大学名誉教授)

ワークショップ 第一部 10:30~12:30
第一会場
テーマ:「外国人労働法制の新たな課題」
司 会:早川 智津子(佐賀大学)
報告者:山脇 康嗣(弁護士)、斉藤 善久(神戸大学)
コメンテーター:早川 智津子(佐賀大学)、木下 洋一(未来入管フォーラム代表)
第二会場
テーマ:「労働立法における労使団体の関与とイニシアティヴ ―EU 指令の制定・国内法化プロセスを素材として―」
司 会:濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構) 報告者:井川 志郎(山口大学)、岡村 優希(同志社大学)
コメンテーター:濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構)
第三会場
テーマ:「新しい年休法制の理論的・実務的検討」
司 会:野川 忍(明治大学)
報告者:町田 悠生子(弁護士)、中井 智子(弁護士)
コメンテーター:水口 洋介(弁護士)、山川 隆一(東京大学)
総会 13:20~14:00
ワークショップ 第二部 14:30~16:30
第一会場
テーマ:「『非正規』公務員をめぐる現代的課題」
司 会:早津 裕貴(金沢大学)
報告者:早津 裕貴(金沢大学)、役田 平(人事院・非会員)、上林 陽治(地方自治総合研究所)、下井 康史(千葉大学)
第二会場
テーマ:「健康情報の取扱い法理と産業医の役割」
司 会:水島 郁子(大阪大学)
報告者:三柴 丈典(近畿大学)、河野 奈月(明治学院大学) コメンテーター:林 剛司(産業医)
第三会場
テーマ:「労働社会の変容と労働時間法制の展望」
司 会:島田 陽一(早稲田大学)
報告者:毛塚 勝利(労働法研究者)、大内 伸哉(神戸大学) 

ワークショップの第一部では、私の司会により「労働立法における労使団体の関与とイニシアティヴ ―EU 指令の制定・国内法化プロセスを素材として―」を論じます。大シンポにも登場して大忙しの井川志郎さんと最近AIの問題に首を突っ込んでいる岡村優希さんが報告して、私がコメントします。EU労働法の研究者も少しづつ層が厚くなってきています。

 

独禁法抵触の恐れを理由の団交拒否

労働新聞に、日本港運協会の不当労働行為事件の東京都労委命令の記事が載っています。

https://www.rodo.co.jp/news/111970/(産業別最低賃金 団交応諾を命令 「独禁法違反」と主張も 都労委)

0a150152524e351bb86b65307c51ae7de1523498 東京都労働委員会(金井康雄会長)は、産業別最低賃金に関する団体交渉について、独占禁止法に抵触する恐れがあるとして応じなかった一般社団法人日本港運協会(東京都港区)の対応を不当労働行為と認定した。団交応諾を命じている。
 救済を申し立てたのは、ともに産別労組の全国港湾労働組合連合会(東京都大田区)と全日本港湾運輸労働組合同盟(同)。・・・ 

日本で不当労働行為を問題にするのはほとんどすべて少数派企業別組合か、最近はむしろ個別紛争解決型企業外ユニオンであって、産業別組合が産別交渉をめぐって産別使用者団体を相手取ってやるなんてほとんど見たことがない世界ですが、それが現実の世界が、港湾労働という特殊な世界では実現していたのですね。

さっそく都労委のHPを覗いてみると、

https://www.toroui.metro.tokyo.lg.jp/image/2021/meirei2-25_besshi.html

 申立人両組合(以下両組合を併せて「組合」という。)は、毎年度、被申立人法人と産業別最低賃金(最低賃金法に基づく特定最低賃金のことではなく、組合と法人との労働協約に基づき、法人に加盟する使用者と同使用者に雇用される港湾労働者との間に適用される最低賃金のことである。)について、団体交渉を行い、労働協約を締結してきた。
平成28年度以降、法人は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に抵触するおそれがあるとして、団体交渉において産業別最低賃金について回答しなくなった。組合は、公正取引委員会(以下「公取委」という。)事務局との面談や、中央労働委員会(以下「中労委」という。)のあっせんなども経て、産業別最低賃金について団体交渉を行うことは独禁法に抵触しないとして法人に回答を要求したが、法人は、これを拒否し続けた。
本件は、法人が、産業別最低賃金に関する団体交渉について、独禁法に抵触するおそれがあるとして、組合の要求に回答しないことは、正当な理由のない団体交渉の拒否又は不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われた事案である。

いま、EUの最低賃金指令案がもめているのは、使用者側の反対よりも、労働組合側の中に、法定最低賃金を強制するのはけしからん、我々は産別協約だけでちゃんとやっているぞという北欧労働運動があるからなんですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/11/post-014505.html(EU最低賃金指令案@『労基旬報』2020年11月25日号)

・・・前回も述べたように、このEU最低賃金指令案は昨年末に欧州委員会トップに就任したウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長のイニシアティブによるもので、彼女は法定最低賃金と団体交渉との複雑微妙な関係についてあまりきちんと理解していなかった可能性があります。近年新自由主義的だと批判されているEUの政策方向を、もっと労働者寄りにシフトさせようという程度の考えで提起したのではないでしょうか。最低賃金は労働問題なんだから、経営側は反対でも労働側は全面的に賛成だろうと思っていたら、あに図らんや北欧諸国の労働組合は自力で団体交渉を通じて高い賃金水準を勝ち取ってきていることを誇りに思っており、法定最低賃金などという国家権力のお情けにすがるような仕組みは断固拒否するという態度だったわけです。 

自分たちの力で最低賃金を勝ち取ってきた日本ではまことに希少種に属する産別組合が、なんで労働委員会などという国家権力に頼るはめになったかというと、相手方の産業別使用者団体が、産別最賃協約は独禁法に違反するかもしれないからと言い出して、団交を拒否しだしたからだったんですね。

都労委の判断の要旨は次の通りですが、

ア 法人は、産業別最低賃金の団体交渉に応ずることは、公取委が公表している資料に記載されているホームヘルパーの事例と同様に、事業者団体の会員企業の賃金を決めることによって、会員企業のサービス提供料金に目安を与えるおそれがある場合に当たり、独禁法に抵触するから、産業別最低賃金の団体交渉には応じられないと主張する。

 しかし、産業別最低賃金を決めることが、上記事例のサービス提供料金の目安を与えるおそれがある場合に直ちに該当するとはいい難く、実際、同様の見解が官公庁等から指摘されたりした事実は認められない。

イ 法人は、国交省から指摘があった、また公取委に関係する弁護士に相談したら独禁法に抵触するおそれがあるとの見解が示されたとも述べているが、そもそも国交省の指摘は、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に関するもので、発言者や発言内容も明らかではないし、法人が相談した公取委に関係する弁護士の見解についても、具体的な情報は何ら明らかにされていない。

ウ 組合は公取委事務局に面談に行き、法人が産業別最低賃金について回答することは一般論では独禁法の問題とはならないとの見解を得ており、組合は、そのことを法人に説明している。

 そして、30年2月15日付けで公取委の競争政策研究センターが公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」には、「労働組合法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も、原則として独占禁止法上の問題とはならないと解される。」と記載されており、この記載から、中労委は、あっせん案において、産業別最低賃金の団体交渉が独占禁止法上の問題とはならないと解されることを指摘しているところである。

エ 組合は、長年にわたり、ほぼ毎年度、産業別最低賃金に係る労働協約を締結してきた経緯があることに加え、公取委事務局の見解や、「人材と競争政策に関する検討会報告書」を踏まえた中労委のあっせん案をも根拠として、法人に対し、産業別最低賃金の要求に係る回答を求めたのであるから、組合の要求には相応の理由があるということができる。

 これに対し、法人が、独禁法に抵触するおそれがあるとして回答を拒否した根拠は、産業別最低賃金の要求に直ちに該当するとはいい難いホームヘルパーの事例に係る公取委の見解や、港湾運送料金の算定基礎、モデル原価計算等に係る発言者や発言内容の明らかでない国交省の指摘、及び立場や氏名が具体的に明らかでない弁護士の見解だけであり、これら以外に独禁法に抵触する可能性について、官公庁から指摘を受けたことも、公取委が調査を開始した等の事情も認められない。

 そうすると、法人が産業別最低賃金の要求に係る回答を拒否し、ひいては、産業別最低賃金に関する団体交渉を拒否したことに、正当な理由があったということはできない。

ここは評釈じゃないので、ざっくりした感想になりますが、そもそも労働運動にとって独禁法というのは敵対的なものであるという世界の常識が、産別交渉がほとんど存在せず、もっぱら企業内交渉・協議だけでやってきた日本では、すっぽり抜け落ちてしまい、独禁法を使って労働者を保護するみたいな議論がわりと当たり前みたいに通用してしまう傾向にありますが、いやいや独禁法というのは本来企業を超えた団体交渉を嫌がる使用者側にとってこそ絶好の武器なんだという常識を、もう少しみんなわきまえた方がよろしいのではないかと常々思っていたところなので、この都労委命令はちょうどいい一服の清涼剤になるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

2021年9月 4日 (土)

建設安全と派遣禁止問題

Sankei_20210904214101 一昨日の産経新聞が「多発する建設現場の死亡事故 「安全軽視」脱却を」という記事を載せていて、全国紙がこういう記事を載せること自体珍しいので、大変いいことだと思うのですが、中にちょっと気になる記述がありました。

https://www.sankei.com/article/20210902-MZW42XNSFNI2XNOBM6DP66QVG4/

・・・構造的な問題もあるとされる。建設業では労働者の派遣が禁止され、元請けが下請けに対して作業の手順など細かい指示を出すことは認められていない。蟹澤教授は「会社を超えた情報や知識の共有が難しいことも背景にある」と話す。

いや、派遣との関係で指揮命令したら偽装請負だというのが流行したのは2000年代の製造業であって、建設業ではずっと長い間労務下請が普通に行われてきたし、労働基準政策もその実態を前提に、労働安全衛生法において、元請会社が下請やその労働者に必要な指示をしろ、下請側はその指示に従えという風にやってきたのであって、いまさら派遣が禁止だから元請が下請に指示できないなんて何馬鹿なことを言ってるんだろう、という話だと思うんですが、なまじそういう経緯をよく知らないと、単純に派遣はいけなくて請負だから指示しちゃいけないんだというおかしな発想が広がってしまうのかもしれません。

Isbn9784589031891_20210904215301 この問題については、2009年のまぼろしの労働法学会(神戸大学)で報告予定だった「請負・労働者供給・労働者派遣の再検討」で簡単に論じていますが、最近は偽装請負論じたいが火が消えたような状態なので、誰もあんまり真面目に考えなくなってしまっているようです。

Ⅰ 歴史的考察
1 労務請負としての労務供給事業
2 戦前期労働者保護法制における請負・労務供給
3 職業安定法と請負4要件
4 戦後労働者保護法制の盲点と労働者派遣法
5 建設労働法制という特異点

6 請負を前提にした労働安全衛生法制
 この点は労働災害補償法制と裏腹の関係にある労働安全衛生法制にも反映している。1964年の労働災害防止団体法は、重層下請関係で行われる事業(建設業と造船業)について、統括管理者の選任や協議組織の設置、作業間の連絡調整、安全巡視など元方事業者の義務を規定するとともに、注文者にも労働災害防止義務を課した。1972年の労働安全衛生法はこれを受け継ぎ、元方事業者による統括安全衛生責任者の選任が規定した。そして2005年の労働安全衛生法改正により、これが製造業一般に拡大された。すなわち、製造業等の事業の元方事業者に対しても、混在作業によって生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡調整、合図の統一等必要な措置を講ずる義務を課すとともに、分割発注の場合の発注者にも、この措置を講ずるべき者を一人指名することとされている。
 
Ⅱ 請負・労働者供給・労働者派遣の統一的理解に向けて
1 「偽装請負」の再検討
2 登録型派遣の本質
3 労働組合の労働者供給事業
4 臨時日雇型有料職業紹介事業
5 労働力需給システムの再構成

252_hp また建設労働法制の詳しい中身については、『季刊労働法』252号(2016春号)に載せた「建設労働の法政策」で紹介しているので、関心のある方はぜひ読んでみてほしいと思います。労働法に相当詳しいと思っている人でも、これも知らなかった、あれも知らなかった、という話がいっぱい出てくるはずです。

1 労災補償から始まった建設労働政策
2 その他の戦前・戦中の建設労働政策
3 労働者供給事業の全面禁止と建設業界
4 労務下請の復活
5 労働基準法と労災保険法
6 失業保険法・雇用保険法
7 災害防止と労働安全衛生法
(1) 建設業労働災害防止協会
(2) 建設業の特別安全規制

(3) 労働安全衛生法
・・・安全衛生管理体制(第3章)は綿密に規定されています。建設業と造船業で重層請負で作業が行われる事業の「特定元方事業者」には「総括安全衛生責任者」を選任する義務が課せられました(第15条)。災防団体法の統轄管理者は法律上は誰でも良かったのですが、今回は「当該場所においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならない」ので、概ね所長クラスとなります。また職務も請負人が行う安全衛生教育の指導援助が加えられました。これに対し、請負人の側では「安全衛生責任者」を選任して統轄安全衛生責任者との連絡調整等に当たらせる必要があります(第16条)。
 事業者の講ずべき危険防止措置のうち、建設業に関係するところを見ていくと、「元方事業主の講ずべき措置等」(第29条)が、関係請負人及び関係請負人の労働者が当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に「違反しないよう指導を行わなければなら」ず(第1項)、「違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならない」(第2項)上に、その「指示を受けた関係請負人又はその労働者は、当該指示に従わなければならない」(第3項)と規定しました。職業安定法施行規則第4条第1項は変更なく生きており、そこには「作業に従事する労働者を指揮監督するもの」は契約の形式が請負であっても労働者供給事業になると書かれていますので、さすがに労基研報告のように「指揮監督」とは書けず、「指導」とか「指示」と規定したのでしょう。しかしむしろ労務下請が実態であることを前提として、事実上安全衛生面に限って「指揮監督」させることを目指したものと見るべきでしょう。・・・

(4) 労働安全衛生法の改正
8 建設業退職金共済組合
9 改正建設業法
10 雇用関係近代化への検討
(1) 政府の検討
(2) 建設業界の検討
(3) 労働組合サイドの建設労働法案
11 建設雇用改善法
12 その後の建設労働に関する検討
13 労働者派遣・有料職業紹介のネガティブリスト
14 有料職業紹介事業と労働者派遣事業の部分的導入

 

 

 

 

そういうお前がブルシット

時たま気になるつぶやきをする「女性」さんが、

https://twitter.com/ssig33/status/1431931645280542723

A3vlrwm_400x400 ブルシットジョブ、この世の仕事はよく知らないけどほとんど価値がない、俺がやってる大学教員って仕事は最高に価値があるよって書いてあってマジでやばいんだけど真に受けてるひと多いし、俺も多分その気になれば大学教員の権威で制圧とかやれるのだと思われるし絶対にそれをやる人になりたくない

ふむ、似たような感想を持ってるな、と。

実は4月に、ピョンヤンじゃない『労働新聞』にこの本の書評を寄稿していまして、ややひねりすぎてるきらいもありますが、気分は似ているような。

https://www.rodo.co.jp/column/103943/

51iadqon5kl282x400_20210904145301 コロナ禍さなかの2020年7月に刊行され、その直後の9月に著者が急逝したこともあり、かなり評判を呼んだ本である。そこで列挙されている取り巻き(flunkies)、脅し屋(goons)、尻ぬぐい(duct tapers)、書類穴埋め人(box tickers)、タスクマスター(taskmasters)というブルシット・ジョブの5類型をみて、そうだそうだ、こいつらみんなクソだと、心中快哉を叫んだ人も少なくないだろう。とはいえ、すべてのブーメランは自分のもとに戻ってくる。

 「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」というその定義は、従事者本人がブルシットだと感じているという主観的要件にのみ立脚しているわけだが、この分厚い本におけるその立証はもっぱら、彼のもとに届けられた共感のお手紙に基づいている。

 グレーバーが目の仇にする“なんとかコンサルタント”の多くが、自分の仕事をブルシットだと思っているかどうかは定かでないし、おそらくご立派な仕事だと思っているだろう。グレーバー自身の文化人類学者という仕事と同様に。そして文化人類学者の中には、自分の仕事がいかにブルシットかを切々と訴える手紙を書いている人もいるかも知れない。グレーバー宛にではないにせよ。

 ブルシット・ジョブの対極に位置付けられる低賃金で労働条件も劣悪だが社会に有益な「シット・ジョブ(きつい仕事)」は、様ざまなケア労働、いわゆるエッセンシャルワークを意味する。彼にいわせれば、「人のためになる仕事ほど、賃金が下がる」のだ。改めて脚光を浴びたそれらの仕事が貴重なのは論を俟たないが、コロナ禍を経験した我われは、エッセンシャルでない不要不急の仕事はブルシットなのか? という問いにたじろがざるを得ない。むしろ、我われの多くがいかに不要不急の仕事で生計を立てているのかを思い知らされたのが昨年の経験ではなかったか。自分の狭い経験から人様の仕事の値打ちを裁断することにかくも大胆不敵であり得ることに、いささか驚かざるを得ない。

 という本格的な批判はいくらでも出てくるのだが、ここではややトリビアな話題を。近年流行の「ジョブ型」論でいえば、ブルシット・ジョブといえどもジョブ型社会の「ジョブ」なので、ジョブ・ディスクリプションが必要なのだ。本書88ページ以下には、中身のない仕事の職務記述書をもっともらしくでっち上げるという究極のブルシット・ジョブが描写されている。日本にも山のようにブルシットな作業やら職場やらがあるのだろうが、ただ一つ絶対に存在しないのは、ブルシット・ジョブのジョブ・ディスクリプションを事細かに作成するというブルシットな作業であろう。

 なぜなら、日本ではそんなめんどくさい手続きなど一切なしに、もっともらしい肩書き一つで「働かないおじさん」がいくらでも作れてしまうのだから。もっとも、それが良いことなのか悪いことなのかの評価はまた別の話ではある。

 

 

法政大学公共政策研究科の授業「雇用労働政策研究」について

もう10年近くやっている法政大学公共政策研究科における「雇用労働政策研究」の授業ですが、今年は9月23日(秋分の日)から11月11日までの予定です。

昨年は完全オンラインでしたが、今年は昨日まで大学院棟でリアルにやるということだったんですが、昨日事務局から連絡が来て、とりあえず10月2日まではオンラインでやれということになりました。9月23日と30日の2回分がオンラインになります。その後のことは未定で、9月24日にお知らせするということです。

https://www.hosei.ac.jp/info/article-20210902105848/

東京都に緊急事態宣言(7月12日から9月12日まで)が発出され、全国的にも新型コロナウイルスの変異株(デルタ株)による感染が拡大している状況です。本学では学生の皆さんの安全を守るとともに、人の移動に伴う感染拡大を抑えるために、秋学期授業開始日となる9月17日から10月2日までの約2週間は、原則として授業はオンライン形式とし、実験・実習科目、少人数科目、講義科目の一部を対面形式で実施することとします。

なお、10月4日以降については、対面形式を基本とする授業実施方針に移行し、順次オンライン授業を対面授業に切り替えてゆくことを想定していますが、正式な決定は9月24日頃にお知らせする予定です。

 

 

『季刊労働法』2021年秋号(274号)の予告

274_h1hp 労働開発研究会のホームページに、『季刊労働法』2021年秋号(274号)の予告が出てます。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/9659/

特集は「テレワークの拡大と法的課題」とのことで、 

介護との両立が難しいなどと報じられ、急拡大したようにみえる一方で運用面に難しさの残るテレワーク。昨年から急速に広まったように見えているとはいえ、もともと重要な政策課題にはなっていた「テレワーク」。特集ではその法的課題を探ります。 

テレワークを論じる―技術革新と社会的価値― 神戸大学大学院法学研究科教授 大内 伸哉
雇用型テレワークに係る労働法上の課題 横浜国立大学准教授 石﨑 由希子
テレワークにおけるプライバシーの法的課題 弁護士 松尾 剛行
フランスのテレワーク法制の現状 明治学院大学准教授 河野 奈月 

テレワークについては、私自身厚労省のテレワーク検討会に参加したり、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/10/post-5b86c8.html

Booklet02210603_20210904090101 概観するような冊子を書いたり、

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/booklet/02.html

271_h1scaled_20210904090301 その前に、この『季刊労働法』の2020年冬号(271号)に「テレワークの法政策」を書いたりしてましたので、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/12/post-bccd69.html

これらの方々がどんな観点からテレワークに取り組んでいるのか、大変楽しみです。

第2特集は、「育児休業取得の進展」とのことです。

第2特集では育児休業を取り上げます。男性の育児休業取得拡大が叫ばれる中、実質的な取得を可能とするために何が必要なのかなど、最近の実態に触れながら検討します。 

男女平等から見た2021年育児介護休業法改正の意義と課題 専修大学教授 長谷川 聡
女性のワーク・ライフ・バランスと育休の分割取得 ―2021年育介法改正の課題 福岡大学教授 所 浩代
育児休業に関する最近の判例動向―ジャパンビジネスラボ事件を振り返って 北海道教育大学教授 菅野 淑子 

その他の記事をざっと見ていくと、

■論説■
退職後の競業避止義務と労働法・独占禁止法 ―労働法と競争法の交錯― 同志社大学大学院博士前期課程修了 松本 恵里・同志社大学教授 土田 道夫・同志社大学教授 瀬領 真悟
労働契約法(旧)20条をめぐる裁判例の理論的到達点(2) 労働政策研究・研修機構副主任研究員 山本 陽大
団体交渉義務違反の判断視角―合意達成可能性模索義務の提言― 弁護士 ベロスルドヴァ・オリガ

■文献研究労働法学 第22回■
労働者のプライバシー権 神戸大学大学院後期課程 劉 子安

■イギリス労働法研究会 第37回■
クラウドワーカーの労働者性と労働者の脆弱性を起点とした目的論的解釈 ―イギリスUber事件最高裁判決 専修大学教授 石田 信平

■アジアの労働法と労働問題 第45回■
香港の社会情勢と労働問題~「一国二制度」の変質のなかで~ 日本ILO協議会企画委員 熊谷 謙一

■労働法の立法学 第62回■
専門職の労働法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎

■判例研究■
キャリア形成に対する労働者の期待と配転命令の有効性 安藤運輸事件(名古屋高判令和3年1月20日労判1240号5頁、名古屋地判令和元年11月12日労判1240号12頁) 小樽商科大学教授 國武 英生
一人親方等への労働安全衛生法に基づく国の規制権限不行使の違法性 建設アスベスト神奈川1陣訴訟(最一小判令和3年5月17日裁判所時報1768号2頁)東洋大学名誉教授 鎌田 耕一

■重要労働判例解説■
コロナ禍における契約中途解雇の「やむを得ない事由」と雇調金 センバ流通(仮処分)事件・仙台地決令2・8・21労判1236号63頁 東洋大学法学部専任講師・特定社労士 北岡 大介
未就労重度知的障害者の死亡による逸失利益 社会福祉法人藤倉学園事件・東京地判平31・3・22労判1206号15頁 東洋大学講師 田中 建一

■追悼■
外尾健一先生を偲ぶ 山形大学名誉教授 髙木 紘一 

最近主要国で最高裁判決が相次いでいるプラットフォーム労働に関して、イギリスのUber事件最高裁判決についての石田さんの論説は興味をそそられます。ちなみに、ドイツ連邦労働裁の判決については、今号にも出ている山本陽大さんがJILPTのリサーチアイで取り上げています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/061_210507.html(クラウドワーカーは「労働者」か?─連邦労働裁判所2020年12月1日判決)

それから、昨年急展開した香港情勢に関わって、熊谷さんが香港の社会情勢と労働問題を取り上げているのもとても時宜に適しています。

04021351_6066a2d0a83c9_20210904091601 今年3月に刊行した『団結と参加』では、前の労働政策レポート版には入っていなかった香港の節をあえて設けて、香港の労使関係システムについても概略を解説しておいたのですが、それがいまわの際の墓碑銘になってしまわないことを願っています。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/danketsusanka.html

第14章 中国 

第3節 香港
 アヘン戦争の結果、1842年の南京条約により香港島が清朝からイギリスに割譲され、1860年の北京条約により九龍半島も割譲された後、1998年には新界及び周辺の島嶼が1997年6月30日までの99年間イギリスの租借地となりました。これら香港ではイギリスの植民地としてコモンローが適用されるとともに、女王の任命する総督が立法会議の助言と同意に基づき条例(オーディナンス)を制定します。
 そのうち、1948年に制定され、1961年に改正された職工会条例(トレイド・ユニオンズ・オーディナンス)は、労使双方の団体をトレイド・ユニオンとして登録を義務づけ、登録組合に刑事免責と民事免責を認めています。同条例には団体交渉や労働協約に係る規定はありません。なお雇用条例(エンプロイメント・オーディナンス)は基本的に労働条件法規ですが、1974年改正により組合員となる権利、組合を結成する権利、組合活動をする権利を保障し、使用者がこれを妨げることを禁止しました。また1975年の労資関係条例(レイバー・リレイションズ・オーディナンス)は、労働争議の調停を調停員による調停、特別調停員による特別調停、仲裁裁判所による裁定等の手続きを用意しています。なお、個別紛争解決機関として労資審裁処(レイバー・トリビューナル)が設けられ、解雇予告手当や賃金未払いなど雇用条例違反の紛争を処理しています。
 1984年の中英共同声明により、1997年7月1日にイギリスの香港植民地を一括して中国に返還することが合意され、返還後50年間は現行の制度を維持することとされました。これを一国両制といいます。返還後の香港を規律するのは1990年4月の中華人民共和国香港特別行政区基本法ですが、その第8条は基本法に抵触するか改正されない限り従来の法律が保持されると定めています。また第27条は香港住民に、言論、報道及び出版の自由、結社、集会、行進及びデモンストレーションの自由、労働組合を組織し、これに参加し、ストライキを行う権利及び自由を保障しています。これにより、上述の職工会条例、雇用条例、労資関係条例等は返還後もそのまま適用されています。ただ、返還直前の1997年6月に、香港労組同盟出身議員によって5つの条例案(組合差別からの保護、情報提供・協議の権利、団体協約の法的効力等)が成立しましたが、翌7月に凍結され、10月に廃止されるという一幕がありました。
 ところが2014年の雨傘運動や、2019年の逃亡犯罪人条例案が反対デモで撤回されたことに危機感を抱いた中国当局は、2020年5月香港国家安全維持法(中華人民共和国香港特別行政区維護国家安全法)を制定しました。組織や個人による権利と自由の行使は香港特別行政区基本法の規定に違反してはならないとされ、さらに現行法と国家安全維持法が矛盾する場合は国家安全維持法が適用されるので、事実上これら権利や自由は空洞化することになります。

わたくしの「労働法の立法学」は、今回は「専門職の労働法政策」です。

はじめに
1 有料職業紹介事業の対象職業
2 労働者派遣事業の対象業務
3 有期労働契約の特例
(1) 労働契約期間の上限の特例
(2) 無期転換ルールの特例
4 労働時間規制の特例
(1) 専門業務型裁量労働制の対象業務
(2) 企画業務型裁量労働制の虚実
(3) ホワイトカラーエグゼンプションの蹉跌
(4) 高度プロフェッショナル制度
(5) 時間外・休日労働の上限規制の特例
(6) 女子保護規定の例外としての専門職
5 外国人在留資格の専門職
(1) 技術・人文知識・国際業務
(2) 高度専門職
6 専門職大学院と専門職大学

 

 


 

 

 

2021年9月 3日 (金)

スペインのライダー法

例によってソーシャル・ヨーロッパの最新記事の紹介です。スペインで先月施行されたライダー法について。

https://socialeurope.eu/platforms-put-a-spoke-in-the-wheels-of-spains-riders-law

Shutterstock_1520233316 On July 21st, after less than a month of debate, the Spanish Congress approved the ‘riders’ law’, which presumes riders to be employees entitled to access to work-regulating algorithms, without any amendments to the initial government proposal. Enterprises were given three months to adjust to the legislation, which officially entered into force on August 12th. 

去る7月21日、1か月足らずの審議を経て、スペイン国会は「ライダー法」を承認したが、これは当初の政府案に何ら修正を加えることなく、ライダーに作業を規制するアルゴリズムへのアクセスの権利のある労働者と推定するものである。プラットフォーム企業は8月12日の施行日から法に適合するために3か月の猶予がある。

ここのところ、欧州各国の最高裁でこれっらプラットフォーム労働者の労働者性を認める判決が相次いでいること、欧州委員会が労働者性を推定するプラットフォーム労働指令案を準備していること、などこの問題の展開は早いですが、この記事は日本にあまり伝わらないスペインの近況を詳しく伝えてくれます。

 

『月刊連合』8/9月号

Covernew_20210903123501 『月刊連合』8/9月号が届きました。特集は「民主主義と人権」と大上段に振りかぶっております。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

その冒頭で、神津会長と早稲田の篠田徹さんの特別対談というのが載っていますが、 

https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/fullswing/data/202108-09.pdf?3630

20210809_p23

香港、ミャンマー、ウイグルといったアジアにおける人権や民主主義に対する攻撃に対して、日本の労働組合に何ができるのか、簡単な答はないがゆえに、じっくり考えるべきテーマでしょう。

まあ、「人権といい権利といい、個別の法によって定められているのだ。「世界」や「人類」という法制定権者はない。ただ主権国家と国民があるだけだ。 」と共産党指導部よろしく嘯いている人には馬の耳に念仏でしょうが。

202108_09_20210903124901リードの文章にもあるように、近年欧米諸国ではこのサプライチェーンと人権の問題が続々と立法化されつつあります。詳しくは、『ビジネス・レーバー・トレンド』8/9月号を見ていただければと思います。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html

ビジネスと人権――アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの取り組みの状況(PDF:624KB)
アメリカ 「責任ある企業行動」を支援(PDF:654KB)
イギリス 他国に先がけ2013年に国別行動計画、2015年に現代奴隷法を制定(PDF:1.0MB)
ドイツ 「サプライチェーン・デューデリジェンス法」連邦議会で可決(PDF:534KB)
フランス 人権デューデリジェンス法制化のパイオニア――企業による行動計画の策定とNGOによる告発・提訴(PDF:486KB) 

その次には、いま引っ張りだこの台湾のデジタル担当政務委員オードリー・タン(唐鳳)さんの特別講演が載ってますが、一昨日発足した日本のデジタル庁にも、彼くらいの立派な民間人をトップに引っ張ってこれたら、もう少し評判が良かったかも知れませんね。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/data/202108-09_seminar.pdf?3631

いやまあ、誰がどうとかこうとかいってるわけでは・・・。

 

 

ウーバーイーツに就業規則?

最近あまり見かけなくなっていた糸井重里さんが、こんな呟きで注目を集めているようですが、

https://twitter.com/itoi_shigesato/status/1432568669951774722

Nooyer58_400x400 ウーバーイーツ?って頼んだことないんだけど、配達してくれる人の服装の清潔感とかサンダル履き禁止とか自転車の汚れ方とかについてのルールはないみたいだね。

いやそれは配達する人は独立自営業者なんであって、服装からサンダルから自転車に至るまで全て独立自営業者の業務用設備なんであって、一取引先に過ぎないウーバー社がとやかく言うべきものではないからなんですが、とはいえ顧客の皆さんがそういう点を心配しているということであれば、服装から履き物から自転車に至るまでルールを作って守らせるというやり方もあるかも知れませんが、そうするとそれはまさしくワークルール(就業規則)となり、配達する独立自営業者は雇われている配達員ということになる可能性が高まりますが、もちろん糸井さんにとってそんなことはどうでもいいことでしょうけど・

 

 

2021年9月 2日 (木)

『法曹時報』8月号

31157702_1 毎年『法曹時報』8月号には、最高裁判所事務総局行政局による「労働関係民事・行政事件の概況」が載りますが、今年も載りました。コロナ禍で労働事件がどういう状況になっているのか、一番使われる指標である地方裁判所における労働関係民事通常訴訟事件新受件数は、2019年の3619件から3960件に増えています。また労働審判事件の新受件数も3670件から3907件に増えています。

労働裁判のうち解雇関係がどれくらいかを見ると、雇用関係存否確認請求が1053件と激増していますね。また労働審判でも1853件をかなり増えています。

これはもちろん統計データだけなので、その中身は見えませんが、コロナ禍で解雇を中心とする雇用紛争がかなり増えていることは窺われます。

 

2021年9月 1日 (水)

吉田寿『社員満足の経営』

1934_shainmanzokukeieithumb1166x1654476 経団連出版の輪島忍さんより、吉田寿『増補新装版 社員満足の経営 ES調査の設計・実施・活用法』をお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat/ef9ae444c09cfaaf66c79eb584a9b7d4f2eb3c2c.html

企業の社会的責任(CSR)、サスティナビリティ、SDGs等が重視される今日、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックも生じる中で、これまでの企業経営のあり方を根底から問い直し、単なる株主重視のみならず、企業を取り巻く利害関係者(ステークホルダー)を重視する方向へと舵が切られつつあります。
企業の長期的・持続的な成長循環を実現していくためには、社員満足経営を実践していくことが特に重要です。
本書では、ゲーム業界における経営統合という架空のケースを取り上げ、社員満足経営の考え方をストーリー仕立てで解説するとともに、ES(社員満足度)の現状を具体的に測定する手法、調査の実務、有効活用法を紹介しています。
ES(社員満足度)調査がなぜ大切なのか、CS(顧客満足)やSS(株主満足)を満たし、企業業績、組織活力向上に結び付ける調査とは? 調査票作成から集計・分析、測定結果の活用までを具体的に詳述しています。

企業小説風の「ビジネスストーリー」が各章とも結構長くて、なかなか楽しめます。

 

メンバーシップ型正規職員とボランティアしかいない世界

夏野剛さんの11年前のこのツイートが話題になっていますが、

https://twitter.com/tnatsu/status/20171540595

児童福祉センターの職員の半数はボランティアにしたらどうだろうか。配属で「たまたま」担当になった人だけではいざというときに子どもは救えない。使命感を持った「子どもを救いたい人」が行政側にいるべき。余計なことだがそれぐらいの「おせっかい」がないと、社会の財産である子どもを救えない。

ただ働きさせるのか云々という批判が山のように付いていますが、実はこういう議論が出てくる背景には、専門性を否定するメンバーシップ型正規職員と、十把一絡げの非正規職員しか存在し得ない現在の公務員制度、というか日本の雇用システムのあり方の問題があるわけです。

もちろん、終戦直後に制定された公務員法は、もともとは徹底したジョブ型であったはずですが、職階制も施行されることなく、民間よりも完璧なメンバーシップ型世界になってしまいました。その結果、正規職員は専門性を持たず、何でもできるけれども何にもできない、人事異動でいろんな部署をぐるぐる回る人となり、当該部署にずっといて専門的な仕事をする人は非正規職員化して行くという事態になっていったわけです。

当該ジョブに使命感を持って入職した本来のジョブ型正規職員という発想が欠落したまま、この惨状を見てぱっと思いつくのが、当該ジョブに「使命感を持った」ボランティアを持ち出すことでしかない、というのは、しかし実のところ大部分の人たちだって五十歩百歩ではないでしょうかね。

今回のオリンピックでも、一番大事な専門性を求められるところで平然とボランティア頼みみたいな話しになっていましたし。

そもそも配属でたまたま担当になった人がやるというメンバーシップ型の仕組み自体には手をつけずに、アドホックに非正規職員やボランティアで済ませようというやり方でやっていくと、挙げ句の果てはどうなるかという問題意識をもてるかどうかですが。

 

 

 

これが21世紀の海瑞罷官か

今中国で話題の李光满『每个人都能感受到,一场深刻的变革正在进行!』を見ると、たしかにこれは半世紀以上昔の姚文元『评新编历史剧「海瑞罢官」』の再来ですな。

https://news.cctv.com/2021/08/29/ARTIxl8Av6UFOXTXhydLvzTD210829.shtml

  从蚂蚁上市被叫停,到中央整顿经济秩序、反垄断,到阿里被罚182亿元和滴滴被查,到中央隆重纪念建党100周年,提出走共同富裕道路,以及最近对娱乐圈乱象的一系列整治动作,都在告诉我们,中国正在发生重大变化,从经济领域、金融领域、文化领域到政治领域都在发生一场深刻的变革,或者也可以说是一场深刻的革命。这是一次从资本集团向人民群众的回归,这是一次以资本为中心向以人民为中心的变革。因此,这是一场政治变革,人民正在重新成为这场变革的主体,所有阻挡这场以人民为中心变革的都将被抛弃。这场深刻的变革也是一次回归,向着中国共产党的初心回归,向着以人民为中心回归,向着社会主义本质回归。
  这次变革将荡涤一切尘埃,资本市场不再成为资本家一夜暴富的天堂,文化市场不再成为娘炮明星的天堂,新闻舆论不再成为崇拜西方文化的阵地,红色回归,英雄回归,血性回归。因此我们需要治理一切文化乱象,建设鲜活、健康、阳刚、强悍、以人民为本的文化,我们需要打击资本市场上大资本操纵、平台垄断通吃、劣币驱逐良币的乱象,引导资金流向实体企业、流向高科技企业、流向制造业,当前正在进行的从治理培训机构、学区房开始的治理教育乱象,让教育真正回归平民化、公平性,使普通人有向上流动的空间,未来还要治理高房价、高医疗费,彻底铲平教育、医疗、住房三座大山。虽然我们不搞杀富济贫,但需要切实解决富者愈富、贫者愈贫的收入差距越来越大的问题,共同富裕是要让普通劳动者在社会财富分配中能够获得更多收入。这次变革将给我们社会带来一系列新的气象,当前对娱乐圈、文艺圈、影视圈的整治力度还远远不够,要使用一切手段打击当前社会上存在的各种追星、饭圈现象,彻底杜绝社会性格中的娘炮和小鲜肉现象,真正让娱乐圈、文艺圈、影视圈风正、气正,我们的各类文学艺术工作者、影视工作者都要下基层,让普通劳动者、普通老百姓成为文学艺术的主人翁和主角。
  当前中国面临着越来越严峻复杂的国际环境,美国正在对中国实施越来越严厉的军事威胁、经济及科技封锁、金融打击、政治及外交围剿,正在对中国发动生物战、网络战、舆论战、太空战,力度越来越大地通过中国内部的第五纵队对中国发动颜色革命。如果这个时候,我们还要依靠那些大资本家作为反帝国主义、反霸权主义的主力、还在迎合美国的奶头乐战略,让我们的青年一代失去强悍和阳刚的雄风,那么我们不用敌人来打就自己先倒下了,就像当年苏联一样,任国家崩溃、任国家财富被洗劫、任人民陷入深重灾难。因此当前我们中国正在发生的这场深刻变革,正是为了应对当前严峻而复杂的国际形势,正是为了应对美国已经开始对中国发动的野蛮而凶猛的攻击。
  我们每个人都能感受到,一场深刻的社会变革已经开始,不仅资本圈,也不仅娱乐圈,不仅要摧枯拉朽,而且要刮骨疗伤,还要清扫屋子,清新空气,让我们社会更加健康,让社会主体能够感到身心愉悦。

中国共産党の熱烈な擁護者である「中国」さんも、日本の下らないことどもにかかずりあっている閑はないんじゃないのかな。

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