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2021年8月20日 (金)

ジョブなき里のインターンシップ@『労基旬報』2021年8月25日号

『労基旬報』2021年8月25日号に「ジョブなき里のインターンシップ」を寄稿しました。

 去る2021年5月、文部科学省高等教育局は「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組)実施方針(ガイドライン)」を策定しました。インターンシップにわざわざ「ジョブ型」という形容詞をつけているということは、ほかのインターンシップはジョブ型ではないということなのでしょう。しかし、インターンシップという言葉の語源からすると、ジョブ型でないインターンシップというのは語義矛盾です。語源のインターンというのは、医学部を卒業して医師国家試験に合格した医者の卵が、病院という医療の現場でそれまでの畳の上の水練を実地に試す機会ですし、教育学部の教員実習というのも、座学で学んだ教育理論を生徒たちの前で試す機会です。こういう言葉の正確な意味におけるジョブ型教育システムにおけるインターンシップとはかけ離れたところで、特殊日本的な「いんたーんしっぷ」は発展してきました。
 日本におけるインターンシップの出発点に位置するのは、1997年9月の文部省・労働省・通商産業省による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(三省合意)ですが、そこではインターンシップを「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義しました。この定義の中に、ジョブなき社会にインターンシップを持ち込む無理が凝縮されています。「自らの専攻」と「将来のキャリア」の間にさりげなく打たれた「、」(てん)は、「及び(and)」という意味なのでしょうか、それとも「又は(or)」という意味なのでしょうか。
 ジョブ型社会の本来のインターンシップであれば、前者に決まっています。大学で学んだ専門知識の延長線上にその専門知識を使った職業キャリアがあるのが前提だからです。ところが、日本の大学生の大部分、とりわけ文科系の学生たちにとって、入社したら全部忘れてこいといわれるような大学の授業と、入社後に上司や先輩からOJTで叩き込まれることの間にはほとんど内容的関連がありません。私のいう「教育と職業の密接な無関係」の世界です。とすると、この「、」は「又は」でしかなく、ごく一部のジョブ型職業を除けば、「、」の前の「自らの専攻」は無視しても良いということにならざるを得ません。
 こういう特殊日本的「いんたーんしっぷ」がガラパゴス的に進化していった挙げ句の果ての姿が、「ワンデイ・インターンシップ」と呼ばれる一日職場見学会ですが、別にワンデイでなくても、よくある1週間のインターンシップであっても、素人さん相手の職場見学会でしかないことに何の変わりもありません。重要なのは期間の長短というよりも、「自らの専攻」と「将来のキャリア」につながりがあるかどうかなのですが、そういう正論を持ち出すと、圧倒的大部分のインターンシップがインチキだということになってしまうので、ワンデイだけ槍玉に挙げて見せたのでしょう。
 実のところ、日本の企業にとってインターンシップとは、採用選考指針によって縛られた在学生の青田刈りを正々堂々と行うための抜け穴でしかなかったのでしょう。だからこそ文部科学省や大学側は「インターンシップは教育目的であって、採用目的ではない」という建前を振りかざしてきたわけです。ジョブ型社会であれば、インターンシップで実習する内容は「自らの専攻」なのですから、当然教育目的です。その教育目的のインターンシップが実習先の企業にとっては同時に採用目的になりますし、大学生本人にとっては就職目的になるわけで、「自らの専攻」と「将来のキャリア」をつなぐのがインターンシップということで、その間に何の矛盾もありません。それがジョブなき里では矛盾の塊になるというわけです。
 経団連の故中西会長は2018年、それまでの採用選考指針をやめると宣言し、翌2019年には大学関係者との間に「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」を立ち上げました。その2020年度報告書「ポスト・コロナを見据えた新たな大学教育と産学連携の推進」では、第Ⅲ章「Society 5.0 の採用・インターンシップの実現に向けて」において、「模擬的な作業を含め、業務を体験する場面が全くないものもインターンシップとされていることや、多くの学生が就職活動に直接的なメリットをもたらすと期待される短期のインターンシップへの参加を偏重する傾向にある点が最近のインターンシップをめぐる混乱につながっている」ことと、「国際的に見ると、現在のわが国におけるインターンシップのあり方は諸外国のそれとは内容を異にするものであり、優秀な人材が自ら活躍する場を求めてグローバルに移動する Society 5.0 にあっては、インターンシップを通じて、優秀な外国人材を日本企業に呼び込むためにも、わが国のインターンシップのあり方を国際標準に合わせる必要がある」との現状認識に基づき、「インターンシップとは、学生が、その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を体験すること)を行う活動」と定義しました。
 この報告書に掲載されている「学生のキャリア形成支援における産学協働の取組み」の図は以下の通りですが、タイプ1(オープン・カンパニー)とタイプ2(キャリア教育)がインターンシップではないと排除しつつも、ジョブ型インターンシップのタイプ4だけではなく、一般大学生向けのタイプ3もインターンシップに含めています。

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 もちろん、それまで排除してしまうと現実には何も残らないからでしょうが、このタイプ3「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」の説明は、なかなか苦労の跡が見えます。「主に大学学部の高学年学生や大学院生を対象とし、学生は、その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか見極めることを目的に、一方、企業は、主として採用選考を視野に入れた評価材料を得ることを目的に、企業の職場等で学生が一定期間、実際の業務に従事するプログラム」ということなので、大学での専攻とは必ずしも一致していなくてもいいという点では日本的なメンバーシップ型に片足を置きつつ、「学生は、実際に職場等で業務や研究に携わり、その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的とする」という点で、辛うじてインターンシップに含めているわけですが、拠り所になるべき専門性が欠如しているのであれば、これは限りなく採用選考のための一過程に過ぎなくなる可能性があります。
 本来の意味でのインターンシップに相当するのは、ここでは「大学院生向け」の「試行」として登場するタイプ4「高度専門型インターンシップ」ですが、その説明は「高度な専門性を有する大学院生を主な対象として、学生が自身の専門知識や能力を研究開発などの実践で活かし、向上させるとともに、ジョブ型の採用を見据えてその業務(ジョブ)が自身の能力や意向にうまくマッチするかを見極めることを目的とするプログラム」とされています。そのモデルになっているのが、本稿の冒頭で取り上げた文部科学省のジョブ型研究インターンシップです。その後文部科学省は2020年9月に経団連とともにジョブ型研究インターンシップ推進委員会を設置し、2021年5月にガイドラインをとりまとめたというわけです。
 このジョブ型研究インターンシップは以下の要件を全て満たすもので、当面の間、博士課程学生であって、学生の専攻分野は自然科学系を対象とし、修士課程学生については、引き続き検討とされています。
• 研究遂行の基礎的な素養・能力を持った大学院学生が対象
• 長期間(2ヶ月以上)かつ有給の研究インターンシップ
• 正規の教育課程の単位科目として実施
• 本ガイドラインに沿ったジョブディスクリプション(業務内容、必要とされる知識・能力等)を提示
• インターンシップ終了後、学生に対し面談評価を行い、評価書・評価証明書を発行
• インターンシップの成果は、企業が適切に評価し、採用選考活動に反映することが可能
 ジョブ型研究インターンシップの類型(契約形態)には、直接雇用型と共同研究型があります。前者では企業と学生の間に雇用契約が結ばれるのに対し、後者では大学と学生の間に雇用契約が結ばれます。大学と企業の間は、前者では必要に応じてインターン実施契約であるのに対し、後者では共同研究契約になります。
 またジョブ内容としては、テーマ探索型(企業・大学からはインターンシップ募集時に学生に研究開発テーマを具体的に提示せず、学生が新しい研究開発テーマを提案・探索)、テーマ付与型(企業・大学がインターンシップ募集時に学生に研究開発テーマを提示)、研究開発支援型(企業・大学はインターンシップ募集時に学生に特定の研究開発支援業務を提示)の3つがあります。
 今後、大学と企業からなるジョブ型研究インターンシップ推進協議会(コンソーシアム)を設立し、その事務局がマッチング支援を行うことになりますが、この事務局は有料職業紹介事業者ということになります。
 これが今後どのように進展していくのか、労働サイドからも一定の注意を持って見守っていく必要があるでしょう。

 

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