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2021年7月19日 (月)

シングルマザーの労働法政策@『労基旬報』2021年7月25日号

『労基旬報』2021年7月25日号に「シングルマザーの労働法政策」を寄稿しました。

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 昨年例のコロナ禍に対してはさまざまな雇用労働政策がなされてきていますが、その中で特に困難な状況にあるシングルマザーなどのひとり親世帯に対して、繰り返し給付金の支給がされています。シングルマザーは、日本型雇用システムにおいて正社員たる成人男性の被扶養者と位置付けられてきた母親が、家計維持者として子どもの養育費用をも稼がなければならないという矛盾した位置付けに置かれてきた存在であり、それゆえ以前から一定の対策が講じられてきましたが、今なおその困難な状況にあまり変わりがないことが、今回のコロナ禍で改めて露呈しました。
 もっとも拙著『日本の労働法政策』に「母子家庭の母」という言葉は出てきません。政策が存在しないわけではなく、労働施策総合推進法に基づく職業転換給付金の中の訓練手当と、雇用保険法に基づく特定求職者雇用開発助成金の助成対象の中に、母子家庭の母というのが出てきます。とはいえ、わざわざ項目を立てるほどの政策ではありません。しかしながら、同じ厚生労働省の子ども家庭局が所管する母子家庭の母に対する福祉政策の中には、雇用就業の促進政策も位置付けられています。今回はその流れをざっと概観してみましょう。
 「母子」を対象とした政策の出発点は戦時体制下の1937年に制定された母子保護法で、「十三歳以下ノ子ヲ擁スル母貧困ノ為生活スルコト能ハズ又ハ其ノ子ヲ養育スルコト能ハザルトキ」に生活扶助、生業扶助等を行うものでした。戦後生活保護法に統合されましたが、母子家庭の生活困難は厳しく、1949年に母子対策要綱が閣議了解され、より手厚い施策が講じられました。その後も未亡人団体等から陳情がなされ、1952年には議員立法により母子福祉資金の貸付等に関する法律が制定されました。これにより、20歳未満の児童を扶養する母子家庭の経済的自立を助成するために、(事業開始時の)生業資金、(就職時の)支度資金、技能習得資金、(技能習得中の)生活資金、事業継続資金、(扶養児童のための)就学資金及び就業資金といった必要な資金を貸し付けるほか、公共施設内の売店設置、たばこ(専売品)販売の許可などが規定されました。なおこれは母子家庭の子の方ですが、1955年には厚生省児童局と労働省職業安定局の連名で「両親又は片親を欠く児童の就職援護について」が通達されました。
 1959年の国民年金法により拠出制母子年金のほかに死別母子世帯向けに母子福祉年金が設けられましたが、離婚による生別母子世帯にも所得保障すべきとの議論が起き、1961年に児童扶養手当法が制定されました。1964年には母子福祉法が制定され、その第4条は「母子家庭の母は、みずからすすんでその自立を図り、家庭生活の安定と向上に努めなければならない」と自立を前面に打ち出しました。もっとも、施策としては母子福祉資金の貸付等に関する法律のものとあまり変わらず、雇用に関しては次の規定があるだけでした。
(母子家庭の母及び児童の雇用に関する協力)
第十九条 母子相談員その他母子家庭の福祉に関する機関及び公共職業安定所は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、相互に協力しなければならない。
 さて子が成人すると母子福祉法の対象ではなくなりますが、「長年の子育てに疲れ果てた老いたる母」も対象に含めるべきとの声を受けて、1981年に母子及び寡婦福祉法に改正されましたが、併せて第19条に次の項が設けられました(上記規定は第2項に)。
(雇用の促進)
第十九条 国及び地方公共団体は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、職業訓練の実施、就職のあつせん等必要な措置を講ずるように努めるものとする。
 この時、国会では雇用対策の充実を求める附帯決議がつけられています。
一、母子家庭の母等の雇用を促進するため、職業相談員の増員等職業紹介体制の整備、職業訓練の機動的な実施について積極的な推進を図ること。
二、母子家庭等の生活の安定を図るため、雇用対策法及び雇用保険法に基づく雇用援護措置の積極的な活用に努めること。
三、事業内託児施設その他の福祉施設の設置又は利用の促進に努めること。
 これに先だって、1974年の雇用保険法に基づき、母子家庭の母を対象とした雇用助成金が設けられていました。まず雇用改善事業として寡婦等雇用奨励金が作られ、1979年には特定求職者雇用奨励金の一部となり、1981年には給付金の整理統合により雇用安定事業の特定求職者雇用開発助成金の一部となって、以後今日までほぼ変わっていません。また、1977年には雇用対策法の職業転換給付金の中の訓練手当の支給対象にも追加されています。しかし、雇用対策としてはせいぜいこれくらいしかなかったとも言えます。
 もっともこの時期、1977年には野党(社会党、公明党、共産党等)から母子家庭の母等である勤労婦人の雇用の促進に関する特別措置法案が提出されていました。これは、障害者雇用対策に倣って母子家庭の母等について雇用率を設定し、国、地方公共団体等に雇用義務を課すとともに、一般事業主にも努力義務を課し、必要に応じて雇入れ計画の作成を命令できるという法案ですが、政府は否定的でした。
 一方、1985年に男女雇用機会均等法(努力義務法)が制定され、1997年にはこれが差別禁止規定に強化されます。もともと母子家庭の母を特に保護の対象とすること自体、父親が家計維持責任を負い、母親が子供の世話をするという性別役割分業を前提とする政策でした。主たる稼ぎ手であるべき父親が不在であることが、母親への保護を正当化していたのですが、その前提が徐々に崩れていくことになります。とはいえ、現実社会は依然として性別役割分業が強く残ったままで、専業主婦やパート主婦を抱えた男性正社員の無制限な働き方に変わりはなく、子供を抱えたシングルマザーには同様の働き方は困難で、その間の矛盾が以後の政策のジグザグをもたらしていきます。
 時代が下がって2002年には母子家庭等自立支援対策大綱が策定され、自立の支援という名の下に、就労促進と福祉の厳格化を組み合わせた欧米のワークフェア政策を母子家庭の母に適用されていくことになります。これを受けて同年には児童扶養手当法と母子及び寡婦福祉法の改正が行われました。前者では就労を拒否した場合の支給停止が規定されるとともに、児童扶養手当の受給期間が5年を超えると減額されることとしました。これと対応する形で、後者ではいくつもの就労による自立支援策が設けられました。上記第19条は第29条となり、国の責務が強められました。
(雇用の促進)
第二十九条 国及び地方公共団体は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、事業主その他国民一般の理解を高めるとともに、職業訓練の実施、就職のあつせん、公共的施設における雇入れの促進等必要な措置を講ずるように努めるものとする。
2 公共職業安定所は、母子家庭の母の雇用の促進を図るため、求人に関する情報の収集及び提供、母子家庭の母を雇用する事業主に対する援助その他必要な措置を講ずるように努めるものとする。
3 母子自立支援員その他母子家庭の福祉に関する機関並びに児童福祉法第四十四条の二に規定する児童家庭支援センター、同法第三十八条に規定する母子生活支援施設及び母子福祉団体並びに公共職業安定所は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、相互に協力しなければならない。
 これを受けて、第30条が国と都道府県の事業を規定していますが、重要なのは第2項の母子家庭就業支援事業です(第35条には寡婦就業支援事業)。
第三十条 (第1項略)
2 都道府県は、就職を希望する母子家庭の母及び児童の雇用の促進を図るため、母子福祉団体と緊密な連携を図りつつ、次に掲げる業務を総合的かつ一体的に行うことができる。
一 母子家庭の母及び児童に対し、就職に関する相談に応じること。
二 母子家庭の母及び児童に対し、職業能力の向上のために必要な措置を講ずること。
三 母子家庭の母及び児童並びに事業主に対し、雇用情報の提供その他母子家庭の母及び児童の就職に関し必要な支援を行うこと。
 さらに雇用促進と能力開発のための給付金が規定されました。
(母子家庭自立支援給付金)
第三十一条 都道府県等は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものの雇用の安定及び就職の促進を図るため、政令で定めるところにより、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているもの又は事業主に対し、次に掲げる給付金(以下「母子家庭自立支援給付金」という。)を支給することができる。
一 配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものの求職活動の促進とその職業生活の安定とを図るための給付金
二 配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものの知識及び技能の習得を容易にするための給付金
三 前二号に掲げる給付金以外の給付金であつて、政令で定めるもの
 これに基づく具体的な給付金は、まず第1号のものとして常用雇用転換奨励金があります。これは、非常勤職員等で雇用された母子家庭の母に対し必要な研修・訓練を実施した後、常用雇用に移行し、一定期間経過した場合には、事業主に対し奨励金(母子家庭の母1人当たり30万円)を支給するものですが、2007年に廃止されました。
 第2号の給付金は二つあり、自立支援教育訓練給付金は雇用保険の教育訓練給付の受給資格を有していない母子家庭の母が教育訓練講座を受講し、修了した場合、当該母子家庭の母に対し経費の40%(20万円を上限)を支給するもので、対象となる教育訓練講座は、①雇用保険制度の教育訓練給付の指定教育訓練講座、②(財)21世紀職業財団の再就職希望登録者支援事業の指定教育訓練講座、③別に定める就業に結びつく可能性の高い講座、④その他上記に準じ都道府県等の長が地域の実情に応じて国に協議して対象とする講座です。
 さらに、介護福祉士、保育士などの資格は、母子家庭の母の就職の促進に効果が高く、取得促進が求められていますが、他方、これらの資格の取得を目的とする養成機関においては、一定期間、昼間に授業を受けることが多いため、生計の担い手でありその収入が途絶えると生活を維持することが難しくなる母子家庭の母にとっては受講が難しい状況にあることから、母子家庭の母の受講期間中の生活の不安を解消し、安定した修業環境を提供するために高等技能訓練促進費が設けられました。これは、保育士等の養成機関で2年以上修業する場合に一定期間(修業期間の最後の3分の1の期間(12か月を上限))月額10万3千円)を支給するものです。なお支給期間は2009年から徐々に延長され、2012年からは全修業期間(3年を上限)が対象となっています。
 これらいずれも実施主体は地方公共団体(都道府県、市及び福祉事務所設置町村)であり、費用負担は国が4分の3、地方公共団体が4分の1です。
 その翌年の2003年には、議員立法として母子家庭の母の就業の支援に関する特別措置法が5年間の時限立法として制定されています。その内容は、母子及び寡婦福祉法に基づく基本方針及び自立促進計画について就業支援に特別の配慮をすること、母子福祉資金貸付金の貸付けについて就業が促進されるように特別の配慮をすること、国が民間事業者に対して母子家庭の母の就業の促進を図るために必要な協力を求めるよう努めることといったことにとどまりますが、政府に毎年就業支援策とその実施状況の報告を義務づけており、これにより2004年度以降毎年報告書が作成されています。
 同法が2008年に失効した後、2012年には再び議員立法として母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の支援に関する特別措置法が制定されましたが、今回は時限法ではなく恒久法です。内容は似たようなものですが、就業促進措置に当たってIT技術の活用が特記されている点が目を引きます。
第三条 国及び地方公共団体は、母子家庭の母及び父子家庭の父の就業の促進を図るための措置を講ずるに当たっては、情報通信技術等に関する職業能力の開発及び向上並びに情報通信ネットワークを利用した在宅就業等多様な就業の機会の確保並びにこれらに関する業務に従事する人材の養成及び資質の向上に留意しなければならない。
 なおこれに先立ち、2010年には児童扶養手当法が改正され、父子家庭の父も支給対象となりました。さらに2014年には、次世代育成支援対策推進法の改正に併せて母子及び寡婦福祉法が改正されて母子及び父子並びに寡婦福祉法となり、父子家庭に対する支援が拡充されました。また、母子家庭自立支援給付金と父子家庭自立支援給付金の規定が明確化されるとともに、公課の禁止や受給権の保護も規定されました。
(母子家庭自立支援給付金)
第三十一条 都道府県等は、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものの雇用の安定及び就職の促進を図るため、政令で定めるところにより、配偶者のない女子で現に児童を扶養しているもの又は事業主に対し、次に掲げる給付金(以下「母子家庭自立支援給付金」という。)を支給することができる。
一 配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものが、厚生労働省令で定める教育訓練を受け、当該教育訓練を修了した場合に、その者に支給する給付金(以下「母子家庭自立支援教育訓練給付金」という。)
二 配偶者のない女子で現に児童を扶養しているものが、安定した職業に就くことを容易にするため必要な資格として厚生労働省令で定めるものを取得するため養成機関において修業する場合に、その修業と生活との両立を支援するためその者に支給する給付金(以下「母子家庭高等職業訓練促進給付金」という。)
三 前二号に掲げる給付金以外の給付金であつて、政令で定めるもの
 こうした動きの背景には、2010年頃から子どもの貧困問題が政策課題としてクローズアップされ、2013年には議員立法として子どもの貧困対策の推進に関する法律が成立したことがあります。その中には、教育の支援、生活の支援等と並んで、保護者に対する就労の支援も含まれています。父子家庭の父も、貧困な子どもの保護者として就労支援の対象となるのです。
(保護者に対する就労の支援)
第十二条 国及び地方公共団体は、貧困の状況にある子どもの保護者に対する職業訓練の実施及び就職のあっせんその他の貧困の状況にある子どもの保護者の自立を図るための就労の支援に関し必要な施策を講ずるものとする。
 2020年初からのコロナ禍の中で、子育てと仕事を一人で担う低所得のひとり親世帯には子育て負担の増加や収入の減少などにより特に大きな困難が心身等に生じていることから、令和2年度補正予算により、同年12月にはひとり親世帯臨時特別給付金として1回5万円が支給されることとされました。さらに翌2021年4月には、低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金(ひとり親世帯分)として児童1人あたり5万円が支給されることとなりました。もっとも5月にはひとり親世帯以外の低所得の子育て世帯分も追加され、貧困子育て世帯対策となっています。

 

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