数合わせがやりやすいメンバーシップ型社会
『労働新聞』にこんな記事が出ていて、思わず昔書いたエントリを思い出さざるを得ませんでした。
https://www.rodo.co.jp/news/109115/(女性限定で副部長職新設 兼務含め23人を任命 三井住友海上)
三井住友海上火災保険㈱(東京都千代田区、舩曵真一郎取締役社長)は今年7月、女性副支店長・副部長のポストを新設し、計23人を任命した。兼務のかたちも含めて既存の部長職をサポートする役割を任せ、業務経験を積むことでライン部長への登用を促す。2025年度までの時限的な措置とし、26年度以降は性別を問わず運用する予定。課長以上の女性管理職比率が16.5%まで高まってきているなか、課題となっていたライン長比率、役員比率の向上につなげる。・・・
女性活躍ということで管理職比率を上げるために、ジョブ型社会では考えられないようなやり方が、メンバーシップ型社会では可能になるという話です。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-0c48.html(メンバーシップ型社会では数合わせがやりやすい)
ここらで少し、本質的なことも言っておきましょうか。
そもそも欧米で一般的なジョブ型社会では、募集採用も昇進も同じことであり、あるジョブディスクリプションのポストが空席になったときに、それに応募してきた男女から適格な人を選び出すということですから、そのジョブディスクリプションに適合しているにもかかわらず差別的に排除したりすることが差別なのであって、それが出発点です。
次に、応募者の複数名がいずれも当該ジョブに相応しいときに、アンダーリプリゼンテッドな性(普通は女性)を優先的にそのポストにつけようというのが、ポジティブアクションとかアファーマティブアクションとか言われるものですね。欧米の裁判例なんか見るとよく出てきます。
どっちも昇進する資格があるけれども、オレの方が優秀なのに何であの女を昇進させるんだ、みたいな話ですね。
で、数値目標というのも、このジョブ型ルールを大前提にした上のことであって、ある病院で医者が男性ばかりだから看護師から女性を昇進させて数合わせしようなんてことはあり得ないわけです。
そういうジョブセグレゲーションを解消するためには、まずは女子が医学部にどんどん進学して資格のある女性をたくさん作らないといけない。日本も医療界はジョブ型ですからそういうことになります。
ところが、そういうジョブ型ルールで動いていない社会では、話がまったく違う様相を呈します。
そもそも同じ職業資格を持っているのに差別される云々というところがそんなもので採用しているわけじゃないので、はなはだ一般的な人間力になってしまい、差別を差別と立証しにくいという面が間違いなくあります。
その一方で、とにかく数合わせさえすればいいという無茶な要求でも、そもそもそのジョブに相応しいとか何とかいう基準で採用したり昇進させたりしてきていないので、何でもありでやれてしまう面があります。
実際には暗黙のルールとして年次昇進があり、いやいやまだまだ女性が育っていませんので・・・というのが言い訳になっていたわけですが、そもそも論としてはそれでなければならない絶対的な理由はない。ジョブ型社会で当該ジョブに応募できるだけの資格がないというのとは話が違います。
それに、ジョブ型にするという意図もないまま、年功制解消とかもてはやしている人や新聞もあることだし、そういう流行に素直に乗ってしまうと、女性活躍のためという大義名分で数合わせがやりやすいのです。
そう、かつては何回当選で大臣というそれなりにルールがあった閣僚ポストも、いまや何でもありでしょう。そこに女性登用という至上命題が来ると・・・。
ジョブディスクリプションなきメンバーシップ型社会は、ジョブ型からすれば不当な差別を差別と言いにくい社会であると同時に、ジョブ型からすれば信じられないような数合わせだってやれちゃう社会でもあるのです。
その辺のリスクをわかっているのかな・・・と。
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> はなはだ一般的な人間力になってしまい、差別を差別と立証しにくい
普通科高校で
「高校ごと」に見れば男女の定員に大きな差がある
からと言って
「普通科高校の全体」で見れば大して差がない
ときに「一体、何が差別なんだよ?言ってみろ!」も似たような話ですね
> 信じられないような数合わせだってやれちゃう
何なら、入学定員はほぼ同数にして、「入学後に本人の進路の希望なども考慮して、クラス分け」なんてことも可能ですね
投稿: 都立高校 | 2021年7月25日 (日) 19時01分
和光も(何か、適当な名目で)クラス分けしておけば、
いじめを回避できたかもしれませんね
> 入学定員はほぼ同数にして、「入学後に本人の進路の希望なども考慮して、クラス分け」
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-2e1629.html#comment-120248617
> 健常者も障がい者も共生するスバラ式インクルーシブな世界だ
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-c59654.html
投稿: アンチ小山田 | 2021年7月26日 (月) 05時00分
管理職の女性を増やせ、は身分制の下では、
管理職という身分を持っている女性を増やせ
になる訳ですが、管理職の女性を増やせ、と要求してる方の多くは、まさに身分に関心があると思われるので、そういう解決方法でOKなんじゃないでしょうか。
問題は、ジョブ型管理職のみでは、その解決は不可能なので、(日本企業では今のところ、少ないですが、)ジョブ型管理職しか、いないような企業では、新たに、身分制の管理職ポストを作る必要が発生することでしょう。もしかしたら、こうやって、社会に身分制が浸透していくのかもしれませんね。
投稿: はまーず | 2021年8月30日 (月) 07時07分
露骨ですね。
下っ端だった人が上がってくにつれて、
メンバーの社会的身分、組織の威信が
低下してく訳ですかね。
http://apmath.jp/professors
投稿: barikawa | 2022年3月 7日 (月) 08時23分