エリック・ポズナー&グレン・ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』@『労働新聞』
例によってピョンヤンじゃない『労働新聞』の「Go To 書店!わたしの一冊」に、エリック・ポズナー&グレン・ワイル『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』を紹介しました。
https://www.rodo.co.jp/column/108042/
世間の一次元的な思想測定器では、左右のどこに位置付けたら良いのか頭を抱えるだろう一冊だ。ある面では本書はすべてを市場メカニズムに委ねるべきと主張する過激な市場原理主義の書である。しかし、ある面では私有財産を悪しき独占とみなし、それを共有化しようとする最も過激な平等主義の書でもある。絶対に混じり合いそうもない両者を一体化させているのがオークションという秘伝の妙薬なのだ。その結果、どこからみてもラディカルな主張が生み出される。
本書の第1章のタイトルは「財産は独占である」という過激なスローガンである。ならばその独占を打破するためにどうしようというのか。彼らの処方箋は、世の中のすべての財産を共有化して、使用権をオークションに掛けるというものだ。具体的には、自分の財産評価を自己申告制にして税金を支払い、より高い財産評価をする人が現れたらその人に所有権が移転する。これは実はかつて孫文がヘンリー・ジョージの影響を受けて三民主義のなかで唱えたものなのだが、市場メカニズムの基底をなしている私有財産権自体をオークションという市場メカニズムによって突き崩してしまうというあっと驚くアイデアである。
そのほかにも、1人1票の代わりに、投票しないで貯めておいた票をここぞという大事なときにまとめて投票できる二次投票システムとか、左右どっちからみても過激な、言葉の正確な意味でラディカルな提案が並ぶ。
そのなかでも、労働の観点から興味をそそられるのは第3章の「移民労働力の市場を創造する」だ。ここで提唱されるのは、移民のビザをオークションに掛け、政府ではなく個人と共同体が移民の受入れを判断する仕組みである。これにより、「自国民と移民が個人的にコンタクトし、移住を成功させる責任は自国民が負」い、両者間に「建設的な関係が築かれる」だろうというのだ。
第5章の「労働としてのデータ」では、今はやりのAI議論に一石を投ずる。現在グーグルやフェイスブックなどの巨大IT企業は、利用者からタダで得た膨大なデータ(ビッグデータ)を使い、人工知能の機械学習によって作成されたサービスによって巨万の富を得ている。これはかつてマルクスが描いた搾取の構図そのものではないか。この不払い労働の正当な対価を取り返すために、「万国のデータ労働者が団結」し、テクノロジー封建主義を打倒せよと著者らはいう。
データ労働組合がデータに対する報酬を引き上げることを主張して多数を結集し、フェイスブックやグーグルにストライキを決行すると通告する。データ労働者はサービスの消費者でもあるので、ストライキはボイコットでもあるのだ。
「ラディカル」という言葉には、「過激な、急進的な」という意味と、「根本的な、徹底的な」という意味がある。本書結論のタイトルどおり、まさに「問題を根底まで突き詰め」た結果としての過激・急進的な提案の数々は、我われの脳みそを引っ掻き回すのに十分な素材であろう。
« 世に倦む日々の亜流かと思ったら首都圏青年ユニオン連合会でした | トップページ | 労働図書館企画展示「渋沢栄一と「労働」~関連所蔵資料より~」 »
« 世に倦む日々の亜流かと思ったら首都圏青年ユニオン連合会でした | トップページ | 労働図書館企画展示「渋沢栄一と「労働」~関連所蔵資料より~」 »
コメント