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2021年6月 6日 (日)

セレブバイトと派遣法

なにやら主婦の通訳がセレブバイトだったとかいう話が炎上しているようですが、実のところ、1985年に労働者派遣法ができた時に、相当程度虚構でありながら表面的に「専門業務」のポジティブリストだと言ってごまかしていた時の素材の一つが、この通訳とか秘書といったいかにも女性職っぽい専門職であったのですね。そして、表面のロジックでは専門職だから派遣でいいのだという議論の裏に、暗黙の裡に家計補助的な女性の仕事だから派遣でいいのだという隠れたロジックが潜んでいて、同じ年に男女均等法ができて女性の活躍という雰囲気がごくごくわずかながらちらりと顔を出しながら社会の大勢はなおほぼ完全に女性の役割はアシスタント役という風潮がどっぷりあるという時代の感覚の中で、何となくみんなを納得させていたわけです。

もちろん、当時も派遣の大部分は一般事務の普通のOLだったのであって、それをファイリングという職業分類表にもない専門業務をでっちあげてごまかしたのであって、セレブバイト云々はしょせんごく一部の話に過ぎないのですが、それでもマスコミが報道する際にはほぼ必ず、派遣は通訳や秘書のような専門業務であって云々と書かれていたのも確かです。この実態と言説のずれ自体が、この時期の意識のありようをよく示しているとも思えます。

このあたり、労働市場構造と社会のジェンダー構造の絡み合いと時代の推移によるその変貌の全てを踏まえながら議論しないと、ただ気に入らないのを殴り付けるだけの議論になりがちなのですが、うまく論じれば過去数十年くらいの日本社会の動きというものが浮かび上がってくる素材でもあります。

(参考)

派遣法の生みの親ともいわれる故高梨昌氏が、後年『大原社会問題研究所雑誌』に寄せた文章で、その辺の消息をこう語っています。

https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/604-01.pdf

・・・派遣法の当初に試案として提案した業務は13業務で,これらの業務は専門的職業別労働市場として外部労働市場を形成しており,終身雇用・年功制で形成されている企業内労働市場とは競合しない市場として棲み分けたことを指摘したい。つまり,外部と内部のそれぞれの労働市場は相互に交流する重ね合わさった市場ではないから,いわゆる「常用代替」は起きえないことに着目したことが,ポジティブリスト方式を採用するに当たって専門的知識・経験を必要とする業務に限定した理由である。・・・

もともと専門職の業務は,相対的に高賃金の市場を形成しており,したがって派遣会社は,高付加価値の業務であるため収益率も高く,良好かつ健全な派遣市場の形成に役立つと考え,ポジティブリスト方式を提案し,かつ年功制に立つ長期安定的雇用システムの正社員の労働市場とは棲み分けているから派遣期間制限は提案しなかったのである。・・・

ところで,「登録型派遣」を事務処理派遣で認めた理由について触れなければならない。それは,これらの専門的業務に従事しているのは専ら女子労働者であることに着目したからである。労働者派遣法の立法化問題が審議されていた当時は,いま一つ男女雇用機会均等法の立法化が重要な労働政策の課題として審議されていた。均等法の最大の争点の一つは,女子労働者の職業生活と家庭生活との関連のつけ方にあった。・・・

派遣システムは,中途採用市場での求人と求職のマッチングに役立つ需給システムであると考えてきた私は,派遣に当って「登録型」を認める必要があると考えた。その理由は,次の事実に注目したからである。求職者のニーズは,フルタイマーとして正社員と同様の勤務形態を望むものは少数派で,自己のライフスタイルや家庭生活との調和を考えて働きたいという女性が多数派であった。
また,専門的知識と経験を必要とする専門職への求人には,通訳や速記など単発的なアドホックな求人があること。また書記的事務でも,複数の者が交替しても仕事が処理できる性質の仕事であることなど,必ずしも「常用雇用形態」である必要性は少ないことに注目したからである。
労働者派遣法では,私は,こうした女子労働者の職業選択行動を念頭において,専門的知識と経験を必要とする業務に限定するポジティブリスト方式の採用と,これに登録型派遣制度をとり入れた派遣法案を労働大臣に建議したのである。・・・

ちなみに、同じ雑誌の同じ号で、私はこう論じておりました。

https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/604-03.pdf

・・・そこで,労働者派遣法においても「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を考慮する」(第25条)ことが求められるとともに,そのような雇用慣行に影響を及ぼさないような業務,具体的には専門的な知識経験を要する業務と特別の雇用管理が行われている業務に限って労働者派遣事業を認めるという理屈が構築された。専門的な知識経験を要する業務であれば,日本的雇用慣行に縛られず個人の専門能力によって労働市場を泳ぎ渡っていけるであろうし,そもそも日本的雇用慣行の外側の外部労働市場にいるような人々は派遣就労でもかまわないということであろう。しかしながらそれを「業務」という切り口で制度設計することにはかなり無理があった。日本のように個々人の職務が不明確で,会社の命ずることが即ち職務であるような在り方が一般的な社会において,個々の作業を「業務」で切り分けてこちらは認めてこちらは禁止というのは,職場の現実からはかなり無理のある仕組みであったように思われる。
その無理が特に露呈していたのが「ファイリング」なる専門業務であった。当時の産業分類にも職業分類にも,ファイリング業務なるものは見当たらないし,当時の事務系職場において,ファイリング業務が専門的な知識経験を要する業務として特定の専門職員によって遂行されていたという実態にもなかった。実態から言えば,既に事務処理請負業として行われていた労働者派遣事業のかなりの部分が,当時オフィスレディといわれていた事務系職場の女性労働者の行う「一般事務」であったにも拘わらず,それでは上記の対象業務限定の理屈付けに合致しないので,現実社会に存在しない「ファイリング」なる独立の業務を法令上創出したのだと理解するのが,もっとも事実に即しているように思われる。これは,実態は一般事務であるものを「ファイリング」などと称して対象業務にしたのが間違っていたという意味ではない。派遣事業の対象にするべき一般事務を対象業務にできないような無理のある業務限定基準を設けたことに,その原因があるのである。この矛盾は,1999年改正でそれまでのポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に移行したことで,一応は決着したということもできるが,今なお法律上は旧ポジティブリスト業務とそれ以外の業務では規制に様々な差がつけられている。・・・

(追記)

ちなみに、この後に及んで今ごろ、「新たな可能性、「プロフェッショナル派遣」は日本を救えるか?」とか寝ぼけたことをいっている向きもあるようですけど、いやいや、そもそも36年前に派遣法作ったときに、「派遣はプロフェッショナル」という触れ込みだったんですよ。上っ面だけね。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2106/11/news022.html

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コメント

> 「専門業務」のポジティブリストだと言ってごまかしていた時の素材の一つが、この通訳とか秘書といったいかにも女性職っぽい専門職であった

表向きは「高い専門能力」が必要(かつ、充分?)な職業である、と言いながら、その実、そんなに高く評価はしていない、ってのが裏にあるのは明らか、ですよね。
司書、介護、看護も似たところがあるでしょう。まず、認識すべきことは、直接的に女性が差別されている訳ではないってことです。その職業である限り、男も同様に差別されるんですから。

専門職は 雇われたサムライ であり、決して農民にはなれない、ということですね。

> 表面のロジックでは専門職だから派遣でいいのだという議論の裏に、暗黙の裡に家計補助的な女性の仕事だから派遣でいいのだという隠れたロジック

派遣法は

> 低賃金労働者は看護、介護、調理、保育といったねえちゃんずジョブ
> 技能水準の高いねえちゃんずジョブが低い賃金に甘んじているのは女性差別の残存のため
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-8da892.html

の極めて特殊な事例なんでしょう。このジョブは「まさに技能水準が高いから、差別していいんだ」みたいな理屈になっているところが特異ですね。

> 家計補助的な女性の仕事だから派遣でいいのだ
> 今なお法律上は旧ポジティブリスト業務とそれ以外の業務では規制に様々な差がつけられている
> 直接的に女性が差別されている訳ではないってことです。その職業である限り、男も同様に差別されるんですから

法律については「そういう差別的な法律はダメだ」という話をするべきだし、直接的な女性差別(例えば、医大不正入試)はもし発覚すれば集団訴訟すればいいんですが、

 その仕事(通訳?秘書?)は家計補助的な求職者が多いために、低賃金でも求人が埋まる

については

 低賃金が嫌なら、(男女問わず)別のことをしましょう

としか、言えないのではないでしょうか

初めまして。
同時通訳は会議ではアシスタント役ではありますが、かなり評価されている技能職です。
市場でも評価されていて、元ツイートの国際アカデミア会議に出席するようなレベルだと年収1000万を超える例が珍しくありません。

大学教授の平均給与が1000万くらいですので、その学会に来ている中で、彼女たちの年収が一番上だった可能性すらあります。

『低賃金と女性の働き方』として議論するときに、最もかけ離れた職種だと思います。

いや、通訳とかは本当の専門職で、けっして低賃金ではありません。ただしそれは少数派。
上記エントリの趣旨は、そういう本当の専門職を表向きのダシにして、実は専門職じゃない派遣女性たちを専門業務だと言いくるめて派遣法を作ったんだということです。

ご返信ありがとうございます。
まさにその少数派の女性の話だと思います。
そして、元ツイの先生が低賃金の職業だと勘違いしていて、議論してる人も勘違いしてる。
それが、ちょっと気になるのです。

同時通訳、と言う職業に対して誤解させてしまうのではないかと。
(多くの通訳者がそう言う論点でコメントしてるので)

なので他の方のコメント内の『その仕事(通訳?秘書?)は家計補助的な求職者が多いために、低賃金でも求人が埋まる』
は、ちょっと違うかなと思って、ついコメントしてしまいました。

でも、hamachanさん自体はそう考えてはおられないと言うことで、安心いたしました。

「専門職としての同時通訳」は(普通は)高賃金でしょうね。一方、

   > その仕事(通訳?秘書?)は家計補助的な求職者が多いために、
   > 低賃金でも求人が埋まる

っていうのは、別に「専門職としての同時通訳」のことではないっていうだけで。
「普通の通訳」も高賃金だというなら間違ったことを言ってることになりますが。

因みに、「専門職としての同時通訳」の市場規模ってかなり小さくて、大勢には、
ほとんど影響しない(故に炎上でも想定されていない)のではないかと思います。
そういう意味で、誤解の下で炎上した、ということではあるのかもしれませんが。

すみません。追加です。

因みに、一般的には「国際アカデミア会議」と言っても色々でしょう。
大勢は、同時通訳どころか、普通の通訳もいないでしょう。

元ツイの通訳が「本当に同時通訳」だとしたら、普通の学者先生に
とってはレアな体験だったのでしょうね。

元ネタは、勤務医だった女性が実家の太い次男坊と職場結婚して専業主婦をやってるんだけど、ときどき医療技術を生かした(セレブ)ボランティアをやっています、みたいな話なんだけど、医者と比較して同時通訳は馴染みのない存在なので、主婦の薬剤師が薬局でアルバイトをしている話みたいに誤解されて、「そんなのセレブじゃない!」という炎上が生じたということでしょう

セレブボランティアという表現だったら、あんまり炎上しなかったんだろうな、というのがちょっと面白いところではないかと

> 低賃金が嫌なら、(男女問わず)別のことをしましょう
> 学会に来ている中で、彼女たちの年収が一番上

少しツイートを追ってみたところ

 同時通訳の仕事を安定的に確保するのは、それほど容易ではない

みたいな指摘があったので、仮に、これが本当なのであれば、

 安定した収入を求めるのなら、同時通訳を目指すのは通常は得策ではない

ということになります。技術(あるいは、資格)があれば、安定した収入が得られる仕事なのか?、それとも、そうでないか?、によって、性質が全く異なるのですが、実際はどっちなのでしょう?前者であればセレブという表現は適切な選択であり、後者であれば不適切ですが。ただ、後者ではあるが彼女たちは例外的に確保できているという可能性はあるかもしれませんが、恐らく、それはなさそうな気がします

ジェンダーに絡んだ感想になります

日本で「安定的に高収入が得られる仕事」はほとんど男性的な働き方が要求される。そこで、男性的な働き方は嫌だと思う多くの女性は、たとえ、高学歴ではあっても、安定的な高収入を得るのは容易ではないが、自分のペースで仕事の調整がしやすい仕事を選ぶ。フリーの通訳はその一つである

高学歴女性の中には「安定的な高収入(≒キャリア志向)」と「自分のペースで仕事の調整がしやすい」のどちらを選ぶのか?、の選択に強い思い入れがある方も多くいるのだろうな、と思いました

あくまで、現在の日本では、ということですが、
弁護士ですら、その多数派は高収入であるという
訳には行かない訳ですから、通訳はその多数派は
高収入であるなんてことはないように思うんです
けどね。収入は(普通は、それほど)高くありま
せんが、専門能力を生かしつつ、自分のペースで
働くことができます、ということは、ありそうな
気はいたしますけれども

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