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2021年6月18日 (金)

産業雇用安定助成金の様々なる前史@『労基旬報』2021年6月25日号

『労基旬報』2021年6月25日号に「産業雇用安定助成金の様々なる前史」を寄稿しました。

 去る2月5日より、2020年度第3次補正予算によって産業雇用安定助成金が創設され、新型コロナウイルス感染症によって一時的に雇用過剰となった企業が在籍型出向によって雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方に対して助成金を支給することとされました。これはもともと令和3年度予算に盛り込まれていたものですが、4月の実施を数か月前倒しにする形で設けられました。根拠規定は雇用調整助成金と同じく雇用保険法第62条第1項第1号で、コロナ対策の暫定措置として雇用保険法施行規則附則第15条の4の5に規定されています。
(法第六十二条第一項第一号に掲げる事業に関する暫定措置)
第十五条の四の五 法第六十二条第一項第一号に掲げる事業として、第百二条の二に規定するもののほか、当分の間、産業雇用安定助成金を支給するものとする。
2 産業雇用安定助成金は、次の各号に定める事業主に対して支給するものとする。
一 新型コロナウイルス感染症に伴う経済上の理由により、事業所において、急激に事業活動の縮小を余儀なくされた事業主であつて、あらかじめ出向をさせた者を雇い入れる事業主(以下この条において「出向先事業主」という。)と出向に関する契約を締結し、雇用する被保険者(出向計画期間の初回の出向をした日の前日において当該事業所の事業主に被保険者として継続して雇用された期間が六箇月未満である被保険者、解雇を予告された被保険者等(解雇を予告された被保険者その他これに準ずる者(当該解雇その他離職の日の翌日において安定した職業に就くことが明らかな者を除く。)をいう。以下この条において同じ。)及び日雇労働被保険者を除く。以下この条において「出向元事業所被保険者」という。)について次のいずれにも該当する出向をさせ、出向をした者に係る出向の状況及び出向をした者の賃金についての負担状況を明らかにする書類を整備しているもの(以下この条において「出向元事業主」という。)。
イ 出向先事業主が行う事業に当該出向した者が最初に従事する事業所(以下この条において「出向先事業所」という。)における当該従事する期間が一箇月以上の期間であり、出向をした日から起算して二年を経過する日までの間に終了し、当該出向の終了後出向元事業主の当該出向に係る事業所に復帰するものであること。
ロ 出向をした者の出向先事業所において行われる事業に従事する期間(以下この条において「出向期間」という。)における通常賃金の額が、おおむねその者の出向前における通常賃金の額に相当する額であること。
ハ 出向の時期、出向の対象となる労働者の範囲その他出向の実施に関する事項について、あらかじめ出向元事業主と当該出向元事業主の当該出向に係る事業所の労働組合等との間に書面による協定がなされ、当該協定の定めるところによつて行われるものであること。
ニ 出向をした者の同意を得たものであること。
ホ 都道府県労働局長に届け出た出向計画に基づくものであること。
二 あらかじめ出向元事業主と出向に関する契約を締結した出向先事業主であつて、雇い入れた者に係る出向の状況及び雇い入れた者の賃金についての具体的状況を明らかにする書類を整備しているもの。
 第3項以下に規定する助成率・助成額は、出向運営経費(出向元事業主および出向先事業主が負担する賃金、教育訓練および労務管理に関する調整経費など出向中に要する経費)と、出向初期経費(就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備などの出向の成立に要する措置を行った場合)についてそれぞれ以下のようになっています。なお、加算額とは、「出向元事業主が雇用過剰業種の企業や生産性指標要件が一定程度悪化した企業である場合、出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合」に加算されます。
表1:出向運営経費
Roukijunpo210625_fig1
 
表2:出向初期経費
Roukijunpo210625_fig2
 さて、このような雇用維持を目的とした出向助成金というのは、今回の雇用安定助成金が初めてなのでしょうか。実は雇用政策の歴史を紐解くと、雇用維持型助成金の元祖である雇用調整給付金が石油ショックただ中の1974年末に誕生してからさほど経たない時期に、同じような助成金が生まれていたのです。今回は過半世紀近くにわたる雇用助成金の歴史の中から出向助成金の系譜を跡づけてみたいと思います。
 
 雇用調整給付金は、1974年末に成立した雇用保険法の第62条第1項第4号に基づき、「景気の変動、国際経済事情の急激な変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合における失業を予防するために必要な助成」として設けられましたが、この時の給付対象は休業のみであって、教育訓練や出向は含まれていませんでした。これらを含めたのは1977年5月の雇用保険法改正です。同改正では、雇用保険法の目的に初めて「失業の予防」という言葉を明記するとともに、雇用改善事業から雇用調整給付金を取り出してきて雇用安定事業として独立させ、いくつもの新助成金を設け、雇用安定事業に必要な財源として労働保険特別会計の雇用勘定に雇用安定資金を設置し、給付対象も休業から教育訓練や出向にまで広げられました。
 政策思想の観点からは、雇用安定事業の目的がそれまでの景気変動への対応から産業構造の変化への対応にまで拡大された点が重要です。「産業構造の変化その他の経済上の理由により事業の転換又は事業規模の縮小を余儀なくされた場合」のための事業転換等雇用調整事業には、事業転換等訓練給付金、事業転換等休業給付金、事業転換等訓練費助成金及び事業転換等出向給付金が設けられ、この最後のものが本邦初の出向助成金です。
(事業転換等出向給付金)
第百二条の十五 事業転換等出向給付金は、次の各号のいずれにも該当する事業主に対して、支給するものとする。
一 第百二条の十第一項第一号及び第二号に該当する事業主であること。
二 第百二条の十第一項第一号の事業所の対象被保険者について次のいずれにも該当する出向(失業することなく他の事業主に雇い入れられることをいう。以下この条において同じ。)をさせる事業主(以下この条において「出向元事業主」という。)であること。
イ 当該事業転換等に伴い行われるものであること。
ロ 出向をした者を雇い入れた事業主(以下この条において「出向先事業主」という。)が行う事業に当該出向をした者が最初に従事する事業所(設置後一年を経過している事業所に限る。以下この条において「出向先事業所」という。)における当該従事する期間が一年未満の期間でないこと。
ハ 出向をした者の出向先事業所における通常賃金の額が、概ね出向元事業主の当該出向に係る事業所(以下この条において「出向元事業所」という。)における通常賃金の額に相当する額であること。
ニ 出向の時期、出向の対象となる労働者の範囲その他出向の実施に関する事項について、あらかじめ出向元事業主と労働組合等との間に書面による協定がなされ、当該協定に定めるところによって行われるものであること。
ホ 出向をした者の同意を得たものであること。
三 前号に規定する出向の実施について、あらかじめ、出向元事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に届け出た事業主であること。
四 あらかじめ出向先事業主と締結した出向に関する契約に基づき、当該事業主に対して、出向をした者の賃金について補助を行う事業主であること。
五 出向をした者に係る出向の実施の状況及び前号の補助の状況を明らかにする書類を整備している事業主であること。
2 事業転換等出向給付金の額は、前項第二号に規定する出向をした者に係る当該出向をした日から起算して一年間における賃金について出向元事業主が同項第四号の契約に基づいて出向先事業主に対して補助した額(その額が当該出向をした者の出向元事業所における通常賃金の額に百五十を乗じて得た額を超えるときは、当該通常賃金の額に百五十を乗じて得た額)の二分の一(中小企業にあっては三分の二)の額(その額が基本手当日額の最高額に三百を乗じて得た額を超えるときは、基本手当日額の最高額に三百を乗じて得た額)とする。
 この本邦初の出向規定を見て驚くのは、出向を「失業することなく他の事業主に雇い入れられること」と安易かつ曖昧に定義してしまっていることです。これでは、再就職の斡旋によって失業することなく他の事業主に転籍させてしまう場合も排除できません。転籍によって雇用関係は切れても、転籍先に対して賃金の一部を補助することは十分あり得ます。この出向助成金はあくまでも出向元に対する助成金であり、出向元が出向先に補助した額の一部を助成するものなので、そういう法律関係がどうなっているかということにはあまり関心が向けられていなかったということなのでしょう。
 その後雇用関係給付金は大幅な変動が続きます。1980年には2つの雇用調整事業が再び1つにまとめられ、給付金も休業と教育訓練を対象とする雇用調整給付金と出向給付金の2つとなりました。この出向給付金においても、出向は安易に「失業することなく他の事業主に雇い入れられること」という定義のままです。さらに、1981年4月に雇用にかかる給付金等の整備充実を図るための関係法律の整備に関する法律によって雇用保険法等の関係法が改正され、雇用関係給付金が大幅に整理統合されました。これにより、雇用調整関係の給付金はすべて雇用調整助成金に統合されました。これ以後は現在に至るまで、雇用調整助成金という名称が使われ続けています。
 こうしてほぼ完成した雇用調整助成金の規定の中に、出向に係るものも組み込まれました。大筋は変わっていませんが、細かな要件はかなり変わっています。
(雇用調整助成金)
第百二条の三 雇用調整助成金は、次の各号のいずれにも該当する事業主に対して、支給するものとする。・・・
二 次のいずれかに該当する事業主であること。・・・
ハ 前号の事業所の被保険者(出向(失業することなく他の事業主に雇い入れられることをいう。以下この条において同じ。)をした日の前日において当該事業所の事業主に被保険者として継続して雇用された期間が六箇月未満である被保険者、解雇を予告された被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下この条において「出向対象被保険者」という。)について次のいずれにも該当する出向(前号ニの事業所にあっては、(2)から(5)までに該当する出向)をさせ、あらかじめ出向をさせた者を雇い入れる事業主(以下この条において「出向先事業主」という。)と締結した出向に関する契約に基づき、当該事業主に対して、出向をした者の賃金について補助を行った事業主(以下この条において「出向元事業主」という。)であること。
(1) 当該出向をした日が指定期間内にあること。
(2) 出向先事業主が行う事業に当該出向をした者が最初に従事する事業所(設置後三箇月を経過している事業所に限る。以下この条において「出向先事業所」という。)における当該従事する期間が六箇月以上の期間であること。
(3) 出向をした者の出向先事業所における通常賃金の額が、概ね出向元事業主の当該出向に係る事業所(以下この条において「出向元事業所」という。)における通常賃金の額に相当する額であること。
(4) 出向の時期、出向の対象となる労働者の範囲その他出向の実施に関する事項について、あらかじめ出向元事業主と労働組合等との間に書面による協定がなされ、当該協定の定めるところによって行われるものであること。
(5) 出向をした者の同意を得たものであること。
 この出向に係る雇用調整助成金とは別に、1983年には特定不況業種に係る雇用調整助成金というのが設けられましたが、奇妙なことにこちらは特定不況業種事業主が行った再就職の斡旋により対象労働者を雇い入れる側の事業主に支給されます。雇入れ助成金としては既に特定求職者雇用開発助成金があり、その中に特定不況業種離職者を雇い入れた場合も含まれていたのですが、それとは別に「失業することなく」企業間を移動するケースを雇用調整助成金の中に含めてしまったわけです。
 その後1988年には特定不況業種関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法の改正に伴って、この特定不況業種に係る雇用調整助成金が産業雇用安定助成金という名前になりました。は?どこかで聞いたことのある名前だと思ったら、今回コロナ禍で設けられた助成金とまったく同じ名前ではありませんか。しかしその内容は出向ではなく(出向に係る雇用調整助成金はそのまま変わらず)、同改正法による雇用維持計画に基づいて職業転換訓練、配置転換、出向、再就職斡旋をした場合に、前二者についてはその特定不況業種事業主に、後二者についてはその特定不況業種事業主からの出向や再就職斡旋を受入れた側の事業主に支給されるというのです。だんだん頭が混乱してきました。
 その旧産業雇用安定助成金の出向に係る規定を見てみましょう。
(産業雇用安定助成金)
第百二条の三の二 ・・・
2 ・・・
一 次のいずれかに該当する事業主であること。
ハ 次のいずれにも該当する事業主であること。
(1) 計画認定事業主が認定計画に含まれる措置として行った次のいずれにも該当する出向またはあっせんにより、指定期間内において、当該計画認定事業主に雇用されていた計画対象被保険者を雇い入れる事業主であること。
(i) 出向またはあっせんの時期、出向またはあっせんの対象となる労働者の範囲その他出向またはあっせんの実施に関する事項について、あらかじめ、当該計画認定事業主と当該認定計画に係る事業所の労働組合等との間に書面による協定がなされ、当該協定の定めるところによって行われるものであること。
(ii) 出向またはあっせんの実施について、当該計画認定事業主が、あらかじめ、当該認定計画に係る認定をした公共職業安定所長に届け出たものであること。
(iii) 出向の実施の場合にあっては、出向をした者の出向の時期その他出向の実施に関する事項について、あらかじめ、当該計画認定事業主と出向先事業主との間に出向に関する契約が締結され、当該契約の定めるところによって行われたものであること。
(iv) 出向の実施の場合にあっては、当該出向をした者が、出向先事業所に継続して雇用する労働者として雇い入れられるものであることまたは出向先事業所における従事する期間が三箇月以上の期間のものであること。
 要件は異なるとは言え、出向元には雇用調整助成金、出向先には産業雇用安定助成金が支給されるという分業体制になっていたわけですが、後者は1995年には廃止され、変わって労働移動雇用安定助成金等が創設されました。これは当時盛んに唱道されていた「失業なき労働移動」のための政策ですが、内容的には前者を受け継いでいます。この助成金の支給要件は雇用保険法施行規則ではなく、支給業務を担当する雇用促進事業団(現在の高齢・障害・求職者雇用支援機構)の一般業務方法書に規定されていました。やや継子扱いのような感じです。
(助成対象)
第百二条の四十九の四 労働移動雇用安定助成金は、認定計画に基づき、計画対象被保険者(認定計画に係る事業規模の縮小等に伴い配置の転換、出向(失業することなく他の事業主に雇い入れられることをいう。以下この章において同じ。)または離職を余儀なくされる雇用保険の被保険者(・・・)をいう。以下この章において同じ。)に対して、失業の予防に特に資すると認められる措置を講ずる事業主であって、その種類ごとに定める要件に該当するものに対して支給するものとする。
 しかし、「雇用維持から労働移動促進へ」という政策の転換は、この中途半端な助成金も洗い流し、2001年には雇用対策法の改正に伴い、新たな花形政策として労働移動支援助成金が創設されるとともに、雇用調整助成金は重要度を下げ、業種に基づくものではなく、個別事業所ごとに、急激な事業活動の縮小を余儀なくされた場合の一時的な雇用調整への助成として生き残りました。この労働移動支援助成金は、再就職援助計画の対象労働者に求職活動のための休暇を付与するとか、職業紹介事業者に対象労働者の再就職支援を委託する(アウトプレースメント)といったことに対する助成であって、出向助成金ではなくなりました。
 ただ、その縮小した雇用調整助成金には依然として出向のケースが残っています。意外に思うかも知れませんが、現在でもそうです。では一体、出向に係る雇用調整助成金が既にあるのに、それに積み重ねるように産業雇用安定助成金という(昔の名前で出ています的な)新た助成金を作った意味はどこにあるのでしょうか。両者を見比べていくと、明らかに異なるのは前者が出向元による賃金負担額に対する助成であるのに対して、後者は出向元と出向先の双方に対するより手厚い助成であるという点です。賃金に対する助成率がより高く設定されるとともに、賃金以外の諸経費も助成対象です。しかし、それほどの新機軸というわけではなさそうです。
 ちなみに、長らく変わらなかった「出向」の定義ですが、2004年の改正でさりげなく消えています。出向元と出向先の双方と雇用関係を有することという労働法学的な定義が設けられたわけでもなく、無定義用語になってしまった形ですが、ひるがえって考えれば、旧産業雇用安定助成金を作った際に、出向と再就職の斡旋とを並列させて助成対象にしたことによって、出向は在籍出向に限られることになったのかも知れません。
 
 

 

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