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2021年5月20日 (木)

EUのデューディリジェンス指令案への動き@『労基旬報』2021年5月25日号

というわけで、例のユニクロのウイグル製シャツがアメリカで輸入禁止になったというニュースの醒めやらぬ中ですが、「EUのデューディリジェンス指令案への動き」というのを寄稿していた『労基旬報』5月25日号が届いたので、どういう話になっているのかごく簡単に紹介しておきましょう。

 近年、「デューディリジェンス」という言葉がよく聞かれます。文字通りの意味では「企業に要求される当然に実施すべき注意義務および努力」を指しますが、とりわけ今日問題となっているのは、そのグローバルなサプライチェーンにおいて労働者,人権,環境といった側面で有害な影響を与えていないかをきちんと監視すべきという点です。ごく最近も、中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿を使った繊維製品が強制労働によるものとして人権団体から批判され、強硬な中国との間で板挟みになった企業がありました。
 この問題を公的な立法政策として進めようとしているのがEUです。その近年の動きを簡単に跡づけておきましょう。出発点は2020年4月、欧州委員会のレインダース司法担当委員が、欧州議会の責任あるビジネスワーキンググループのウェブ会議で、人権と環境に関するデューディリジェンスを義務化する法案を2021年中に提出すると発言したことです。これは多くの人権団体から喝采をもって迎えられました。
 同年7月、欧州委員会は持続可能な企業統治に関する端緒的影響評価文書を公表しました。そこでは企業と取締役に対し、そのバリューチェーンにおける活動による気候変動、環境、人権(労働者や児童労働を含む)への悪影響を明らかにし、リスクを防止し、悪影響を緩和する義務を課し、取締役にはすべての利害関係者を考慮に入れて、これら義務を実施し、必要なら救済も含めた仕組みを設けることを求めています。
 同年10月には、持続可能な企業統治に関する一般協議を開始しました。協議期間は翌2021年2月までです。協議文書では、EUにおける法規制の必要性、取締役の義務、デューディリジェンスの義務、その他の施策、影響の測定について意見を広く聴いています。
 一方、立法府である欧州議会も、同年9月から法務委員会においてこの問題の審議を始めました。そこに提出された「企業デューディリジェンスと企業説明責任に関する欧州委への欧州議会勧告案」は、欧州委員会が提出すべき指令案の原案自体を添付しており、事実上欧州議会による指令案になっています。法務委員会は翌2021年1月に報告をまとめ、同年2月の総会に提出され、同年3月に「企業デューディリジェンスと企業説明責任に関する欧州委への勧告を伴う決議」が採択されました。その内容は大変興味深いのでやや詳しく見ていきましょう。
 冒頭の第1条の3つの項で、本指令案の目的がこう謳われています。
第1条 対象事項と目的
1 本指令は、域内市場で操業する企業が人権、環境、良好な企業統治を尊重し、それ自身の活動又は事業関係やバリューチェーンによってその操業、製品、サービスに直接リンクされた活動を通じて、人権、環境、良好な企業統治に対して潜在的ないし現実的な悪影響をもたらし又は貢献することがなく、そのような悪影響を防止し緩和するその責務を完遂することを確保することを目的とする。
2 本指令は、企業のバリューチェーンのデューディリジェンスの義務、すなわちそのバリューチェーンにおいて発生する人権、環境、良好な企業統治への悪影響を防止し、起こった場合はかかる悪影響を適切に対処するべきあらゆる比例的な措置をとる義務を定める。デューディリジェンスの遂行は企業に対して、その活動及びバリューチェーンと事業関係がもたらす人権、環境、良好な企業統治への潜在的又は現実的な悪影響を、明らかにし、評価し、防止し、止めさせ、緩和し、監視し、通信し、説明し、対処し、修復することを要求する。人権、環境、良好な企業統治の保護のためのセーフガードを調整することにより、これらデューディリジェンスの要件は域内市場の機能の改善に資する。
3 本指令はさらに、企業がもたらし又はそのバリューチェーンにおいて貢献する人権、環境、良好な企業統治への悪影響について国内法に従って説明責任を果たし製造責任を果たすことを確保することを目指し、その被害者が法的救済を得られるように確保することを目指す。
 第2条の適用範囲では、大企業のみならず株式が公開されている中小企業やハイリスクの中小企業にも適用され、とりわけEU以外の第三国で設立された企業でも、その製品やサービスをEU域内で販売しているならば本指令の義務を果たさなければならないという点が重要です。
 第4条(デューディリジェンス戦略)では、企業に対してデューディリジェンス戦略を樹立し効果的に実施することを求めていますが、その具体的内容は以下の通りです。
(i) その操業やビジネス関係に存在しうる人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響並びに、その深刻さ、可能性、緊急性の度合、さらには関係するデータと情報、方法論を特定し、
(ii) そのバリューチェーンを跡付け、商業秘密に考慮しつつ企業のバリューチェーンに関わる情報を一般に公開し、その中には供給される製品とサービスの名称、位置、タイプその他の子会社、供給業者及び事業パートナーに関する情報を含め、
(iii) 人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響を止め、防止し、緩和する観点で、あらゆる比例的で釣合の取れた政策と措置を採択し、示し、
(iv) 同時にすべての潜在的ないし実際の悪影響に対処する立場にない場合には、国連のビジネスと人権に関する指導原則第17項に基づいて優先順位をつけ、企業は人権、環境及び良好な企業統治への潜在的ないし実際の異なる悪影響の深刻さ、可能性、緊急性の水準、地理的な面を含めその操業の性質と文脈、リスクの範囲、どれくらい回復不可能なのかを考慮しなければならない。
 第5条(関係者の関与)では、デューディリジェンス戦略の樹立、実施に当っては、「産業別、全国レベル、EUレベル及びグローバルレベルの労働組合と労働者代表」が関与するよう確保しなければならず、適切に議論を行うことが必要です。
 このほか、デューディリジェンス戦略の公表と通知(第6条)、非財務的多様性情報の公開(第7条)、デューディリジェンス戦略の評価と再検討(第8条)、苦情処理手続(第9条)、裁判外手続による救済(第10条)等々、詳細な規定が設けられています。加盟国政府による監督や調査(第12,13条)、指針(第14条)、制裁(第18条)といった規定と並んで、第19条(民事責任)では、「企業がデューディリジェンスの義務を尊重しているという事実は、企業からいかなる責任をも免除するものではない」(第1項)とか、「加盟国は、企業がそのコントロール下にある企業も含め、その行為または怠慢によって引き起こされた人権、環境、良好な企業統治への潜在的ないし実際の悪影響から生じたいかなる危害に対しても責任を有し、改善を提供するような責任体制を確立すること」(第2項)、「加盟国は、企業が本指令に従い、問題の危害を避けるべくあらゆる適切な配慮を講じたことを証明するか、その危害はあらゆる適切な配慮を講じても発生したであろうことを証明すべき責任体制を確立すること」(第3項)といった規定まで設けられており、なかなか追及を逃れるのは難しくなっています。
 欧州委員会の方は、上記一般協議を終了し、現在具体的な指令案を検討中です。2021年第2四半期には提出すると予告されているので、おそらく今年6月に公表されると思われます。主要加盟国では、イギリスが2015年に現代奴隷法(Modern Slavery Act)を、フランスが2017年にデューディリジェンス法(Loi de Vigilance)を制定しており、ドイツも2021年3月にサプライチェーン法案(Lieferkettengesetz)を閣議決定したばかりです。労働法の世界ではまだほとんど関心を持たれていませんが、今後の動向を注目していく必要があります。

 

 

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