シフト制の裁判例(有限会社シルバーハート事件)
『労働経済判例速報』5月20日号(2443号)に、有限会社シルバーハート事件(東京地判令2/11/25)という裁判例が載っていますが、これは今話題のシフト制におけるシフト削減が論点になった裁判ですね。
これ、会社側(介護事業所)が原告で、被告の労働者側が反訴しているという事案ですが、シフト制でも所定労働時間が合意していたという主張は退けているんですが、シフトの削減はシフト決定権限の濫用に当たり違法であるという判断をしています。
・・・シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり、違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金につい、民法536条2項に基づき、賃金を請求しうると解される。・・・
一見すると、シフトの大幅削減は収入の減少に直結して労働者の不利益が著しいからという理由でシフト削減を違法だといったかのようですが、「合理的理由なく」とか「不合理に」という副詞が重要で、実は本件は、被告労働者が会社側と揉めていて、地域ユニオンに加入して団体交渉をし、勤務体制に異議をとどめながら働いていたケースなので、景気後退でシフトを減らさざるを得ないというような事例ではありません。判決では「原告はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していない」といっています。
なので、残念ながら、首都圏青年ユニオンが問題視しているコロナ禍でのシフト削減には使えそうもありません。むしろ、労働者側の主張している勤務時間の合意の存在を退けていることを考えれば、シフト制は労働日/労働時間不確定であり、シフト削減が不合理でない限り休業補償は難しいということになりそうです。
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コメント
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小さい会社で総務をやっています。いつも勉強させていただいています。
この裁判の直接の内容からは離れてしまいますが・・・
教科書では「労働条件通知書には始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇を明示せよ」と習いました。
本当は労働日数や労働時間をある程度具体的に書けるはずなのに、面倒だから「シフトによる」の一言だけの契約書も見かけます。
こういう「シフトによる」の一言だけで労働日数・労働時間が不確定な契約書・労働条件通知書でも、別段『違法』ではないのですか。
日本の法律は、「所定労働時間」「所定労働日数」が基準になっているものが多いと思います。
「所定」が不確定な契約な場合、雇用保険の加入基準・週20時間を満たしているか否かはどう判断しているのか。
有給休暇の付与日数も、比例付与の1日~4日のどのコースに該当するか不明確です。
たぶん過去6カ月、過去1年の勤務実績で決めているのだろうとは思いますが。
出勤率もきちんとカウントされているのでしょうか。
自分にとって不利益な契約だと思うならサインしなければいいだけ、と言われればそれまでなのでしょうけど。
投稿: ゴキゲン中飛車 | 2021年11月 7日 (日) 11時07分