それは労働者性ではなく利益代表者性の認定
今年2月にまとめた報告書『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』は、実務的にはなかなか興味深い内容のものだと思っているのですが、判例に目が行きがちな研究者の方々にはあまり関心を呼ばないようで、ようやく大内伸哉さんに取り上げていただきました。
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2021/0206.html(労働政策研究報告書 No.206 労働者性に係る監督復命書等の内容分析)
労働基準監督署において取り扱った労働者性に係る事案の内容分析を通じて、1985年労基研報告の労働者性判断基準の運用実態を明らかにする。
http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/amoristaumorista/2021/04/post-399877.html(労働者性について)
もう一つが,労働政策研報告書No. 206『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』です。これは濱口桂一郎さんが担当しています。労働者性をめぐって現場でどのような問題が起きているのかを,行政の文書である監督復命書と申告処理台帳を分析して解明しようとするものです。行政の現場では,労働者性の判断を実際に求められることがあるわけですよね。実は私の提案する事前認証手続の一つは,そうした行政での労働者性の判断をフォーマルな手続として整備し,その判断をファイナルなものとすることです。これにより紛争防止ができればというのが狙いです。・・・
憲法の保障する裁判を受ける権利が保障されている以上、行政の行為をファイナルにするのは難しいとは思いますが、もっとフォーマルな手続にするという発想はあり得るとは思います。
さて、大内さんはそれに続けてこう述べるのですが、これはいささか誤解されているようです。
実は,現行法でも,労働者性の判断についてのフォーマルな事前手続を定めたとみられるものがあります。一つは,労組法関係ですが,地方公営企業等の労働関係に関する法律5条2項は,「労働委員会は,職員が結成し,又は加入する労働組合……について,職員のうち労働組合法第二条第一号に規定する者の範囲を認定して告示するものとする」となっています(労働委員会規則28条以下)。実際にこのような認定・告示がされているのか,よく知りませんが,こういう手続があること自体,興味深いです。・・・
この「労働組合法第二条第一号に規定する者 」というのは、「役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者 」であり、世間で言うところの管理職ですね。実際、これに基づいて制定されている地方労働委員会告示では、局長とか次長とか所長といったのが並んでいます。これらは労働者性とは関係がありません。
さらにそれに続けてこう書かれていますが、
あるいは,実態がよくわかってないのですが,生活困窮者自立支援法16条に基づく生活困窮者就労訓練事業では,いわゆる中間的就労として雇用型と非雇用型とがあり,そのどちらに該当するかは,「生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業の実施に関するガイドライン」によると,「対象者の意向や,対象者に行わせる業務の内容,当該事業所の受入れに当たっての意向等を勘案して,自立相談支援機関が判断し,福祉事務所設置自治体による支援決定を経て確定する」となっています。「非雇用型の対象者については、労働者性がないと認められる限りにおいて、 労働基準関係法令の適用対象外となる」とされているので,この手続で労働者性の判断が確定するわけではないのでしょうが,行政が労働者性の判断の前さばきをしているとみることができそうですね。こうした行政実務の実態がどのようになっているのかも知りたいところですね。・・・
これもやや誤解があるのではないかと思うのは、福祉行政も行政に違いはないでしょうが、労働者性の判断に関する権限は何ら与えられているわけではなく、労働基準行政から見れば一般民間企業における業所管官庁と何ら変わらないと言うことです。製造業の工場現場の労働者性の判断に経済産業省が何ら権限を持たず、建設現場の一人親方の労働者性の判断に国土交通省が何ら権限を持たないのと全く同じです。仮に何か「前さばき」まがいのことをしたからといって、それが権限を有する労働基準行政の判断を(事実上はともかく)法制的には左右するものではありません。
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