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2021年5月 2日 (日)

中国の左翼は日本の右翼または張博樹『新全体主義の思想史』

452526 アメリカがバイデン政権になって、米中対立が本格的に専制対民主の対立になりつつある今、前から気になっていながらそのままになっていた張博樹『新全体主義の思想史』を通読しました。

https://www.hakusuisha.co.jp/book/b452526.html

習近平体制を「新全体主義」ととらえ、六四以後の現代中国を壮大なスケールで描く知識社会学の記念碑的著作。天安門事件30年を悼む

著者の張博樹さんは、中国社会科学研究院を解雇され、コロンビア大学で現代中国を講じている言葉の正確な意味でのリベラル派中国知識人ですが、そのリベラル派から新左派、毛左派、紅二代、ネオナショナリズムに至るまで、現代中国の9大思潮を、時にはそのインチキなロジックを赤裸々に分析しながら描き出した大著です。

著者を含むリベラル派については、訳者の石井知章、及川淳子さんらによる紹介がされていますし、妙にポストモダンめいたレトリックを駆使して中国共産党政権を擁護する汪暉ら新左派についても、なぜか日本にファンが多いようで、やはり結構翻訳されていますが、それ以外の種々様々な思想ないし思想まがいについては、これだけ包括的に描き出したものはちょっとないでしょう。そして、本書に描かれた時に精緻めかした、時にやたらに粗雑な「左派」という名のロジックの数かずを読み進んでいくと、なんだか似たようなロジックを日本語でも読んだ記憶があるなという感想が浮かんできます。

それは、意外に思われるかもしれませんが、『正論』とか『WILL』とか『hanada』といったいわゆる右翼系オピニオン雑誌によく出てくるものとよく似ていて、そうか、中国の左翼というのは日本の右翼の鏡像みたいなものなんだな、ということがよくわかります。

まあ、それは不思議ではなく、普遍的な近代的価値観を目の敵にするという点では、日本の右翼と中国の左翼は全く同じであって、ただどちらもそれがストレートではなくねじれている。

日本の右翼は、本音ではアメリカ占領軍に押しつけられた憲法をはじめとする近代的価値観が大嫌いなのだが、(ほんとはよく似た)中国共産党と対決するために、アメリカの子分になって、アメリカ的価値観に従っているようなふりをしなければならない。

中国の左翼は、本音は中華ナショナリズム全開で、欧米の思想なんて大嫌いなのだが、肝心の中国共産党が欧米由来のマルクス主義をご本尊として崇め奉っているので、論理めちゃくちゃなマルクス神学のお経みたいな議論をやっている。

というのは、もちろん著者の意図とはかけ離れた、日本の一読者の斜め下からの感想に過ぎませんけど。

 

 

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コメント

この度は、拙訳書をご紹介戴き、誠にありがとうございます。

いつもながら、平易な言葉で、日中間の複雑な思想状況をとても分かり易く解説していただき、たいへんうれしく思いました。

いま新たな翻訳書(栄剣『盛世危言――栄剣時政評論録:2012-2020』博登書屋、Bouden House, New York, November 2020)を同じ白水社から準備しております。中国国内で奪われたリベラル派の言説は、いまや香港や台湾でも完全に抑圧されてしまい、ついにアメリカ本土に中国語の出版社を設立し、細々と言論活動を継続しています。次回の本では、その抑圧された中国における言説空間の実態を紹介したいと考えております。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

石井知章
明治大学

わざわざ拙ブログにまでおいでいただき恐縮です。
その栄剣さんは、張さんの本にも何箇所かに登場していますが、ちょっと意見が違うようです。
それにしても、アメリカで中国語の本を出さなければならないところまで追いつめられているというのはすさまじいですね。


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