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2021年5月30日 (日)

バラモン左翼と商売右翼への70年

Images_20210530130701 トマ・ピケティの「バラモン左翼」は、私が紹介したころはあまり人口に膾炙していませんでしたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-83eb.html(バラモン左翼@トマ・ピケティ)

21世紀の資本で日本でも売れっ子になったトマ・ピケティのひと月ほど前の論文のタイトルが「Brahmin Left vs Merchant Right」。「バラモン左翼対商人右翼」ということですが、この「バラモン左翼」というセリフがとても気に入りました。・・・ 

その後日本でもやたらにバズるようになり、その手の本も結構並んでいます。この言葉、対句になる「商売右翼」とセットなんですが、こちらはあんまりバズってないようです。

そのピケティが、今月3人の共著という形で、「Brahmin Left versus Merchant Right:Changing Political Cleavages in 21 Western Democracies, 1948-2020」という論文を公表しています。

https://wid.world/document/brahmin-left-versus-merchant-right-changing-political-cleavages-in-21-western-democracies-1948-2020-world-inequality-lab-wp-2021-15/

これ戦後70年間にわたるバラモン左翼の形成史を追ったものですが、事態を何よりも雄弁に物語ってくれるのが、表A10から表A16までの7枚のグラフです。

縦軸に所得をとり(上の方が高所得)、横軸に学歴をとると(右のほうが高学歴)、1950年代には右派政党は高学歴で高所得、左派政党は低学歴で低所得のところに集まっていました。

A10

ところがそれから10年間ごとにみていくと、あれ不思議、右派政党はだんだん左側の低学歴のほうに、左派政党はだんだん右側の高学歴のほうにシフトしていき、

A11

A12

A13

A14

A15A15
かくして、直近の2010年代には若干の例外を除き、どの国も右派は低学歴、左派は高学歴に移行してしまいました。

A16

かくして、ピケティ言うところのバラモン左翼対商売右翼という70年前とはがらりと変わった政治イデオロギーの舞台装置が出来上がったわけです。

 

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コメント

こういう反論があるのご存知ですか?
https://doi.org/10.1111/1468-4446.12834

ご教示ありがとうございます。
これはピケティへの批判論文ですが、必ずしも全面的な反論というよりは、1950年代型の再分配が論点の左右対立よりも、緑の党や左派リバタリアンと急進右翼との対立が中心になったんだと指摘しているのであって、ピケティからすればまさにそれを問題にしているんだよ、という話のような気がします。

本ブログのこねくり上げた用語法でいえば、戦後70年かけて左翼と右翼の対立は、リベサヨとネトウヨの対立軸にシフトしてしまったというわけですね。

富と所得の不平等が拡大していることの説明の一部として、選挙政治が右派の「持てる者」と左派の「持たざる者」との戦いだけを中心としたものではなくなったことにあるはずだというPiketyの信念を共有したいと思います。また、1940年代後半から1960年代前半にかけての再分配政治の「黄金時代」は、政治の多元的な構造の中では例外的な時代であると言えるかもしれません。ピケティは、左派政党が高学歴層を代表するようになり、中道左派政党が再分配政策への支持を控えめにすることで、これらの層の支持を得ていることを示すことで、選挙政治が再分配の対立から離れていった理由を説明しようとしている。これは、クリントン、ブレア、シュローダー、ジョスピン、プロディ、コックなどの政治家が率いる中道左派政党が1990年代後半に多くの先進国のポスト工業化社会で政権を握っていたとき、経済的不平等は増加し続けたか、あるいは大きく減少しなかったという観察結果と一致するように思われる。

www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。

(高学歴者の少数派である)貧しい高学歴者は「バラモン左翼が主張する社会」の実現を望んでいる一方で、(高学歴者の多数派である)富める高学歴者は「他者に対する自己正当化の道具」として人前ではバラマン左翼を支持しているかのような振る舞いをしている、ということでしょうな。バラモン左翼への投票が意外に伸びない理由ですね。

ふむ、批判論文では1970年代以降の産業構造の変化にともない、中道左派政党が新中間層やマイノリティに接近したが、彼らは再分配や福祉国家を支持しているので、中道左派が伝統的な労働者階級を代表しなくなったからといって問題なしとしているようですね。

たしかにこの批判はピケティに対するものとしては、ずれていると言わざるを得ませんね。ピケティの議論に精密さが欠けているきらいもあるが。

そもそも伝統的な労働者階級が求めているのは再分配、単なる銭金の問題なのかというのが根本的な問題でしょう。そうではなくて、自らの労働によって社会に参加し自らの生活を支え尊重されるという存在のあり方自体を問題としているのであって、それらが社会経済的構造の変化によって脅かされていること、一方で中道左派政党はそのような変化にただ追従して、新たに台頭した新中間層のアイデンティティ・ポリティクス的志向に迎合して伝統的な労働者のライフスタイルを棄損するような政策ばかり推進し、労働者階級は極右に追いやられているということ、これら総体をピケティは問題にしていると考えるべきでしょう。

このような問題提起に対し、批判論文は末尾でこのように答えるのみだ

経済、社会、技術の劇的な変化の結果、選挙政治は、もはや経済的再分配をめぐる戦いに支配されるのではなく、他の形態の解放、平等、アイデンティティをめぐる戦いにもなっています。つまり、再分配のための連合を構築するためには、左派政党はこれらの問題についても有権者の好みに訴える必要があるということである(Abou-Chadi & Wagner, 2019)。多くの世論とは対照的に、民主的な競争を何らかの形で再び経済的な次元に落とし込むことは、左派の目標にはなりえない。むしろ、より多くのジェンダー平等を求める声、気候変動に取り組む声、人種差別に立ち向かう声、より包括的で開かれた社会を求める声を真剣に受け止める必要がある。これらは、経済的な再分配と同様に、21世紀の社会民主主義の理想の一部である。左派は、しばしば「アイデンティティ・ポリティクス」と非難されるこれらの進歩的な価値観を取り入れてこそ、経済的、社会的、政治的不平等を持続的に削減するために必要な制度的変化を起こすのに十分な幅広い連合体を形成することができるのです。(DeepLで翻訳)


うむ、まさにバラモン的お説教というべきでしょう。自らの特殊な、ここ数十年の社会変動を反映しているにすぎない、時代制約のもとにある偶有的な価値判断を普遍的必然的な歴史的運命と信じて何も疑問に感じていない。バラモンのお告げによるとアイデンティティ・ポリティクスに帰依することではじめて不平等は減少し、労働者は救われるということになる。しかしこれを真に受けると、多くの労働者は低賃金で社会を支えつつ、はした金(ベーシックインカム?)を与えられて満足するだけのシュードラ的存在となり、その上に強欲なネオリベ・ヴァイシャや意識高い系クシャトリアが跋扈して、ポリコレ教説を唱えるだけのバラモンが君臨するカースト社会になりかねませんね。

マックス・ヴェーバーは西洋は一歩間違えばインドと同じ道を歩んでいたと主張していましたが、まさにそちらの方向に向かいつつあるのかもしれません。だとすれば現在はまさに文明史的転換点に位置しているのかもしれない。興味深いことです。


> 富める高学歴者は「他者に対する自己正当化の道具」
> 意識高い系クシャトリアが跋扈して、ポリコレ教説を唱えるだけ

この辺りはサンデルなんかも指摘しているのだ、と思うのですが、
そうであれば、それは言行不一致のような形で現れる場面も多く、
例えば

 鳥越さん、前川さん、広河さん、あるいは、直近のトレンドで
 SNS啓発団体の小竹さん

みたいな「言っていること(もしくは、思っていること)とやって
いること違うね。彼らが好む教説はむしろ、有害でないのか?」と
啓発していく必要があるのではないですかね

この例の中に女性が含まれないのは、日本では、今までのところは
女性は高学歴でも、高収入の人は比較的、少なかったという事情が
ありそうです

> 言っていること(もしくは、思っていること)とやっていることが違う
> 日本では、今までのところは女性は高学歴でも、高収入の人は比較的、少なかった

なるほど

> 娘たちは、子どもなら誰でも持っている翼を折られてきた
> 男性の価値と成績のよさは一致しているのに女性の価値と成績のよさとのあいだにはねじれがある
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html
> 目標が結局は強者男性と肩を並べること
https://twitter.com/chutoislam/status/1282526639524507648

> サンデルは、人種だけでなく多様な社会的階層に大学の門戸を開くことや、生涯学習の重要性、またエリート校での多様性教育などに未来の解決策を見る。
https://www.vogue.co.jp/change/article/vogue-book-club-jitsuryokumo-unnouchi

「大学の門戸を開く」というハーバード大の偉い先生が示す解決策とやらは、奇妙ですね。解決である「経済的流動性が高まる」、もしくは、「経済的格差が縮小する」こととは特に関係していません

むしろ、「大学の門戸を開く」ということは「学歴は努力や才能の証である」という主張に説得性を持たせるために必要とされていることのように思われます

この図によると、50年代は右上と左下つまり学歴と収入の両方ある人と両方ない人の対立でしたが、70年後は右下と左上つまり学歴だけある人(バラモン左翼?)と収入だけある人(商売右翼?)の対立となり、両方ある人と両方ない人は無視されているようです。
両方ある人はともかく両方ない人が無視されるのは問題だと思います。
右翼にも左翼にも無視された左下の両方ない人々(忘れられた人々)に注目したのがトランプ氏だったと思います。ヨーロッパはどうか分かりませんが、アメリカではトランプ氏以降はバラモン左翼と商売右翼という構図が変わった様に思います。
ヒラリー氏は典型的なバラモン左翼だと思いますが、そのヒラリー氏が(従来は支持してくれていた)左下の人々の支持をトランプ氏に奪われて負けたので民主党はバイデン氏の様に左下の人々の支持を集めやすい人を候補にしました。そのバイデン氏は当選後はBLM等のバラモン政策も行っていますが、給付金や失業手当で何百兆円も国民にばらまいたり(大統領のできる範囲で)最低賃金を上げたりする左下の人々を対象とする政策(シュードラ政策?)も行っています。
バラモン左翼だった民主党に対して共和党が商売右翼だったがは分かりませんが、共和党もトランプ氏以降は変化していると思います。トランプ氏は共和党の予備選に出馬した時は当時の共和党主流とはかけ離れた泡沫候補でした。しかし予備選挙や本選挙で(従来民主党を支持していた)左下の人々がトランプ氏を支持したため、トランプ氏の考えが共和党の考えになりました。選挙後のトランプ氏の言動を大多数の共和党議員が支持したように、この状況は現在でも続いています。現在ではバイデン民主党とトランプ共和党が左下の人々の支持を奪い合っているように思います。
バラモン左翼と違って商売右翼のイメージが湧かないのですが、経済のグローバル化を推進する立場だとすると、就任初日にTPPの参加を否定したり中国からの輸入品に関税をかけた共和党トランプ氏の政策を民主党バイデン氏も継承しているので、しばらくは商売右翼が復活する事はないような気がします。

リベラルフェミニズムと社会主義の落差とそれへの無感覚
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-5924c7.html

詰まるところ、例の祝辞の問題は「前段と後段の両者は親和的であると誤導をする」ことが目指されている(ように思われる)ことなんですよね

> 「大学の門戸を開く」というハーバード大の偉い先生が示す解決策とやらは、奇妙ですね。解決である「経済的流動性が高まる」、もしくは、「経済的格差が縮小する」こととは特に関係していません

差別に反対する自由主義と格差に反対する社会主義は別物で、
差別に反対すると、「それでは格差を拡大する」と批判される
格差に反対すると、「それでは差別を拡大する」と批判される
ことを甘受するべきだと思う訳です。ところが、特段、日本に
限らず、あくまで、これは一例ですが

   女性エリートを増やすことが、弱者保護でもある

みたいなデマを撒き散らす集団が市民権を得てしまった訳です

> 二つの全く異なる立場からの議論が混在している
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-5924c7.html

「3回目接種停止を」 WHO、低所得国の供給不足受け:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASP8525WWP85UHBI003.html

低所得国の未接種者は、典型的な「本物の弱者」だろうと思いますが、先進国で

 リベラル:=ポリコレとネトウヨ:=同胞の利益優先の争い

は果たして起こるのでしょうか?まさか、同胞の範囲が違うだけ、なんてことはないはずですよね

これ、ピケティのデータが事実とすると、「大衆の高学歴化と中流化で低所得・低学歴という層がもはやボリュームゾーンではなくなった」という話ではないのかい?
左派が労働者を捨てたというのではなく、労働者が比較的裕福になって旧左派を捨てたと言える。

他の方が言うように、どっちも「ある」またはどっちも「ない」層が最近のデータではゴソっと抜け落ちているので。

だとすると、ピケティが懐かしむような、高学歴高所得の右翼と低学歴定収入の左翼が対決する「分配問題を本質とした政治対立」は、この時代には実現し得えないのではないか。

   香港の労働運動家 區 龍宇氏の著作「香港の反乱 2019」(柘植書房新社)の75ページに記載があって、気が付いたのですが、昨2021年に亡くなったアメリカの政治学者、ロナルド・イングルハート(Ronald Inglehart)が中心となって全世界的に実施していた「世界価値観調査」に基づいて、近年の世界の人々の政治意識の変動についてまとめた、一連の著作(1970年代の「静かなる革命」⦅東洋経済新報⦆から晩年の「文化的進化論」「宗教の凋落?」⦅いずれも勁草書房⦆まで)は、このバラモン左翼化現象が生じた原因を解明しようとしたものになっていますね。
 
 特に「文化的進化論」の第9章「静かなる『逆革命』」は直接このテーマを扱っています。ピケティ先生のほか、ブランコ・ミラノヴィッチのような、hamachan先生のブログでお馴染みの面々も出てきますので、興味のある方は是非とも一読されることをお勧めいたします。

  ピケティ先生の母国、フランスで今年の大統領選挙の第一回投票が終了したところで、さっそく、投票者の社会学的分析が行われたようです(遠藤 乾 東大法学部教授のtwitter,4月12日付より)。 

 マクロン(現職、中道・新自由主義)への投票者はマクロン本人を思わせる、高学歴かつ高所得の有権者が中心なのに対して、低所得者の選好は学歴によって二分され、低学歴の者はルペン(極右)に、高学歴の者はメランション(左翼)に投票したとのこと。とりあえず、ご報告まで。

>マクロン(現職、中道・新自由主義)への投票者はマクロン本人を思わせる、高学歴かつ高所得の有権者が中心なのに対して、低所得者の選好は学歴によって二分され、低学歴の者はルペン(極右)に、高学歴の者はメランション(左翼)に投票したとのこと。とりあえず、ご報告まで。

フランスではメランション氏はどのように評価されているのでしょうか?今回の選挙では、1位マクロン氏、2位ルペン氏、3位メランション氏 でしたが、2位と3位の差は僅差(1位と2位の差より少ない)でした。
決選投票がマクロン氏とルペン氏では
  マクロンは大嫌いだが、いくらなんでもルペンは無い
という理由でマクロン氏に投票する人も多いそうです。
ルペン氏とメランション氏の得票数を合計するとマクロン氏よりずっと多いです。メランション氏がルペン氏ほど嫌われていないのであれば、メランション氏がもう少し頑張って決選投票がマクロン氏とメランション氏になっていればマクロン氏が負ける可能性は高かったのでしょうか?

(特に欧米の)大学でポリコレが吹き荒れる背景として、

   大学教員は「高学歴者の中」では所得という
   観点からは最下層である

というのがあるでしょうね

  マクロン大統領の議会解散による、フランス国民議会選挙の第一回投票(2024年6月30日)の分析結果がすでに出ています。
 
( https://x.com/inlaforet?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor )

 学歴および職種との間に明確な相関関係があり、学歴では、低学歴であればあるほど、極右への投票者が多くなり、高学歴になるほど、左翼への投票者が多くなる。職種では、肉体労働者は過半数が極右に投票しているのに対し、知的専門職とカードル(幹部職、彼らは最初に就職したときからカードルとして採用されている点で、日本の管理職とは全く異なることは、hamachan先生のブログの読者なら、よくご存じの通り)では、左翼投票者が、極右投票者を上回っています。

 その他、はっきりした相関関係があるのは年齢で、若い世代であればあるほど、左翼への投票者が多くなる傾向にあります。逆に、現在の所得との相関関係は明確ではありません。

 引き続き、この論点には注目していきたいですね。

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