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2021年4月 4日 (日)

ほぼ年刊、川口美貴『労働法〔第5版〕』

Roudouhou5 川口美貴さんより1000ページを超えるテキスト『労働法〔第5版〕』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10000028.html

って、確か去年も書いてなかったっけ。一昨年も、その前の年も・・・。

というわけで奥付けを確認すると、

2015年11月 第1版

2018年3月 第2版

2019年3月 第3版

2020年3月 第4版

2021年3月 第5版

と、第2版以来ほぼ年刊化していますね。糸井重里じゃないけれどタイトルに「ほぼ年刊」と入れたくなる頻度です。しかも1000ページを超える分厚さですからね。

というわけで、どこを突っ込もうかと考えたのですが、初版以来の本書の一つの特徴であるはじめの方で40ページ近くに亘って「労働法の形成と発展」というタイトルで労働法の歴史を叙述しているところに疑問を呈しておきたいと思います。

細目次ではこんな感じですが。

第2章 労働法の形成と発展
第1節 明治維新(1868年)からILO創立(1919年)まで
 1 労働法の前提となる近代的法基盤の整備
  (1) 所有権制度
  (2) 契約自由の原則と合意原則
 2 官営事業における労働法制の初期形成
  (1) 官営事業における労使関係
   ア 官吏と「雇員」「傭人」等
   イ 「使用者」と「労働者」の形成/1870(明治3)年
  (2) 「職工規則」「服務心得」/1872(明治5)年~
  (3) 労働関係法令の制定
   ア 災害扶助制度/1875(明治8)年
   イ 退職金制度/1876(明治9)年頃
  (4) 民営化に伴う労働条件承継と民営化後の就業規則制度
   ア 官営事業の組織と労働条件の承継
   イ 民営化後の職工採用時における労働条件決定
   ウ 民営企業における就業規則制度の確立/1890(明治23)年
   エ 就業規則制度の法制化/1890(明治23)年
 3 憲法、刑罰法規、一般民事法令による労働分野の規律
  (1) 結社の自由と労働組合の結成
   ア 大日本帝国憲法の規定/1889(明治22)年
   イ 労働組合の結成、団体交渉・労働協約/1904(明治37)年頃
  (2) 民法・民事訴訟法による雇用全般の規律
   ア 民事訴訟法による労働債権保護/1890(明治23)年
   イ 民法による雇用・請負・委任等の規律/1896(明治29)年
  (3) 組合結成・組合活動と刑罰法規
   ア 兇徒聚衆罪・騒擾罪/1880(明治13)年
   イ 治安警察法17条/1900(明治33)年
   ウ 運用実態
 4 産業分野別法令の中の労働関係条項
  (1) 船員労働法制/1879(明治12)年
   ア 海運事業の位置付けと労働関係法令
   イ 船員労働法制の特徴
  (2) 鉱夫に関する労働基準の設定/1890(明治23)年
   ア 鉱業条例による労働基準の法制化/1890(明治23)年
   イ 労働安全衛生に関する法規制の開始/1892(明治25)年
  (3) 工場職工に関する労働基準の設定/1911(明治44)年
   ア 工場法の内容と保護対象
   イ 施行令と施行規則による具体的規律
第2節 ILO創設(1919年)から終戦(1945年)まで
 1 ヴェルサイユ条約の批准、公布/1919(大正8)年
  (1) ILOの基本理念
  (2) ILOの創設
  (3) 日本の労働法制への影響
  (4) 内務省社会局の創設/1922(大正11)年
 2 職業紹介・健康保険制度の整備
  (1) 職業安定行政に関する法整備/1921(大正10)年
  (2) 健康保険制度の創設/1922(大正11)年
 3 労働組合の公認・規制と労働組合法案
  (1) 治安警察法17条の廃止/1926(大正15)年
  (2) 暴力行為等処罰ニ関スル法律の制定/1926(大正15)年
  (3) 労働争議調停法/1926(大正15)年
  (4) 労働組合法案の制定の動き
 4 労働基準の段階的引上げ
  (1) 児童労働の規制強化/1923(大正12)年
  (2) 労働時間規制の強化/1923(大正12)年~1939(昭和14)年
   ア ILO第1号条約/1919(大正8)年
   イ 保護職工の労働時間規制の強化/1923(大正12)年
   ウ 男性労働者に対する労働時間規制/1928(昭和3)年
  (3) 解雇予告制度/1926(大正15)年
  (4) 労働安全衛生に関する規則整備/1927(昭和2)年~
  (5) 女性の深夜労働規制の本格的実施/1928(昭和3)年
  (6) 工場法適用対象工場の拡大/1929(昭和4)年
  (7) 災害扶助対象の拡充と労災保険制度の創設/1931(昭和6)年
  (8) 商業労働者の労働時間規制/1938(昭和13)年
 5 戦時体制と労働法
  (1) 国家総動員法と関連法/1938(昭和13)年~
  (2) 厚生年金保険制度の発足/1941(昭和16)年
第3節 終戦(1945年)から現在まで
 1 終戦及び日本国憲法と労働法制等
  (1) 旧労働組合法の制定/1945(昭和20)年
  (2) 日本国憲法の制定/1946(昭和21)年
  (3) 労働基準法・職業安定法の制定/1947(昭和22)年
  (4) 労働保険・社会保険制度
 2 公務員の労働基本権の制限
  (1) 国家公務員法の制定/1947(昭和22)年
  (2) 政令201号/1948(昭和23)年
  (3) 公務員の労働基本権の制限/1948(昭和23)年~
 3 労働関係における人権保障
  (1) 自由と人格権保障
  (2) 国籍・信条・社会的身分を理由とする差別的取扱の禁止
  (3) 組合員等を理由とする不利益な取扱いの禁止
  (4) 性別を理由とする差別的取扱いの禁止
   ア 労基法の男女同一賃金原則
   イ 均等法による性差別禁止
  (5) 障害者の雇用保障と差別の禁止等
   ア 身体障害者雇用促進法
   イ 障害者の雇用の促進等に関する法律
  (6) 年齢と募集・採用における均等な機会
 4 労働基準
  (1) 労基法の制定と発展
   ア 労基法の制定/1947(昭和22)年
   イ 個別法の分離と制定
   ウ 労働時間法制の変遷
   エ 女性の就労制限の段階的緩和と撤廃/1985(昭和60)年~
  (2) 労働者災害補償保険法の制定と発展
   ア 労働者災害補償保険法の制定/1947(昭和22)年
   イ 長期療養者の生活保障と給付の充実/1955(昭和30)年~
   ウ 責任保険制度からの脱却/1965(昭和40)年
  (3) 賃金の支払の確保等に関する法律/1976(昭和51)年
  (4) 育介法の制定と発展/1991(平成3)年~
  (5) 次世代育成支援対策推進法/2003(平成15)年
  (6) 石綿による健康被害の救済に関する法律/2006(平成18)年
  (7) 過労死等防止対策推進法/2014(平成26)年
 5 労働契約
  (1) 民法改正/1947(昭和22)年
  (2) 労働契約法の制定/2007(平成19)年
  (3) 会社分割と労働契約承継法/2000(平成12)年
  (4) 非典型労働契約
   ア 労働者派遣と派遣労働契約
   イ パートタイム労働契約
   ウ 有期労働契約
   エ 職務に応じた待遇の確保
 6 集団的労使関係
  (1) 労働組合法
   ア 旧労組法の制定/1945(昭和20)年
   イ 現行労組法の制定/1949(昭和24)年
  (2) 労働関係調整法の制定/1946(昭和21)年
  (3) スト規制法の制定/1953(昭和28)年
 7 雇用保障・労働市場
  (1) 雇用の機会の確保
  (2) 雇用保険制度
  (3) 職業訓練・職業能力開発
  (4) 労働施策の基本方針
  (5) 高年齢者の雇用の促進
  (6) 求職者支援
  (7) 青少年の雇用促進
  (8) 女性の職業生活における活躍の推進
  (9) 外国人労働者の受入れと技能実習制度
 8 法的救済・紛争解決制度
  (1) 行政機関による救済制度
  (2) 裁判所における労働審判制度/2004(平成16)年
 9 民法改正(2017<平29>年)と労働法 

私自身の『日本の労働法政策』における独自の時代区分と違っているのは当然としても、戦後75年間を全部ひとまとめにして項目ごとに並べてしまうと、歴史叙述としての意味がなくなってしまうのではないかという気がします。第2部以降で項目ごとに詳しい叙述がされているのの単なる先出しになってしまっていて、その戦後75年間にどういう推移があったのか、それぞれの時代時代の特徴があるはずなのに、それが全部消えてしまっていて、せっかくこれだけの分量を歴史叙述に当てている意味が乏しいように思われました。

もう一つ、昨年版をいただいたときに、ワーカーズコレクティブ轍・東村山事件が早速載っていることを紹介しましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-ea214a.html

その関心の延長線上で、せっかくほぼ年刊化しているんだったら、昨年末に成立した労働者協同組合法における労働者性の問題についても一言何か書かれていたらよかったのに、と思いました。

この問題については、次の「労働法の立法学」で取り上げようと思っています。

 

 

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