佐々木亮『武器としての労働法』
労働弁護士の佐々木亮さんから『会社に人生を振り回されない 武器としての労働法』(KADOKAWA)をお送りいただきました。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000069/
人は生きていくためにお金を稼がなければなりません。
お金を稼ぐための方法は、「働くこと」です。
社員、契約社員、派遣、アルバイト、フリーランス……。
雇用形態が多岐にわたるなか、「働くこと」のトラブルもまた多岐にわたる時代になりました。
自分に原因があろうとなかろうと、問題に直面することもあるのです。
生活に直結するだけに、渦中にいるとそのストレスは日に日に大きくなります。
そして世の中では、「泣き寝入り」してしまう人が後を絶ちません。
本書は、そんな働く人のために「労働法」という名の武器を与えます。
トラブルを乗り切るために大切なのは、あなたの働き方を「深く知る」ことです。
よくあるトラブルを雇用形態ごとに紹介。そのさいの対処方法(解決策)を示します。
難しい法律用語をできるだけ避け、分かりやすさを重視した、いままでにない解説書です。
大事なところはゴチックにして、さらに黄色の傍線を引いているんですが、その箇所が1頁に何カ所も出てきて、正直目がちかちかします。
できるだけ何も知らない素人さん相手に、分かりやすく必要な情報がすっと入るように入るようにと工夫されていることは分かるのですが、ある程度分かってしまっている人には、やたらにしつこくうるさいほどにこれでもかこれでもかという感じの本に仕上がっています。
まあ、まさに上の書影のオビにあるように、「泣き寝入りしないための対処法」のイロハのイを語っているほんです。
そういう本なので、あまり中身に突っ込むのもどうかという気がしますが、冒頭の雇用形態の説明のところで、「正社員」を無期、フルタイム、直接雇用の3要素を満たしたものだといい、無期契約社員とか、フルタイムパートというのはあり得ないといっているのは、法律学と社会学をごっちゃにしている感があります。
それこそ「正社員」というのは法律上の概念でも何でもないので、3要素を満たしていても、つまり欧米のジョブ型社会であれば立派なレギュラー・ワーカーであっても、特殊日本的意味における「せいしゃいん」でないというのは現に存在するわけです。実のところ、正社員というのは身分概念であり、会社が「メンバー」と認めた者のことなので、無期でフルタイムで直接雇用であっても、会社の一員とは認めてやらないぞというのが、まさにその無期契約社員だのフルタイムパートといった、一見語義矛盾のような、しかし現実社会にれっきとして存在するひとびとであるわけですから。
そして、実を言えば、それは法律上の概念でもある。パート有期法にいう「通常の労働者」ってのは、その3要素を満たしていても、「当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる」のでない限り、通常の労働者扱いしてくれないわけです。これこそが特殊日本的意味における「せいしゃいん」の定義なのであってみれば、企業が好きなように人事異動で配転できて、それを拒否するような輩は懲戒解雇してもかまわないような「正社員」でない限り、無期であろうがフルタイムであろうが「せいしゃいん」扱いしてくれないわけですよ。
それは世界標準からすればおかしな雇用形態概念ではあるけれども、現実の日本ではそうなっているということはやはりちゃんと説明しておく必要はあると思います。
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