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2021年4月

2021年4月30日 (金)

EUの新AI規則案と雇用労働問題@JILPTリサーチアイ

JILPTリサーチアイに、「EUの新AI規則案と雇用労働問題」を寄稿しました。

今や猫も杓子もAIでなければ夜も明けない有様で、AIが雇用に及ぼす影響についての議論は汗牛充棟ですが、そのAIと具体的な雇用管理上の労働法との関係については、あまり突っ込んで議論はされているようには見えません。先週EUが公表したばかりのこの規則案は、じっくり読めば読むほど、考えるネタを提供してくれます。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/060_210430.html

去る4月21日、EUの行政府たる欧州委員会は新たな立法提案として「人工知能に関する規則案」(COM(2021)206)[注1]を提案した。同提案は早速世界中で大反響を巻き起こしているが、本稿では必ずしも日本のマスコミ報道で焦点が当てられていない雇用労働関係の問題について紹介し、政労使の関係者に注意を促したい。

EUのAIに対する政策は過去数年にわたって着実に進められてきた。2018年4月にはAIに関するコミュニケーションでその姿勢を示し、同年12月にはAIに関する協調計画を策定した。2020年2月にはAI白書をとりまとめて一般協議に付した。同協議への各界の意見を踏まえて、今回AI規則案を提案するに至ったのである。EU法制において、規則は指令と異なり、加盟国の法律に転換する必要なく直接EU域内に適用される。適用対象はEU企業やEU市民に限られない。EU域内に関わりを持つ限り、日本企業も中国企業もすべて適用されるのである。

本規則案では、AIをそのリスクによって4段階に分けている。最も上位にあるのが基本的人権を侵害する可能性の高い「許容できないリスク」であり、潜在意識に働きかけるサブリミナル技術、政府が個人の信用力を格付けする「ソーシャルスコアリング」、そして法執行を目的とする公共空間での生体認証などが含まれる。これらは中国では政府が先頭に立って全面的に展開されているものであるが、EUはその価値観からこれらを拒否する姿勢を明確にしている。規則案の公表以来、世界中のマスコミが注目しているのもこれら最上位のリスクを有するAIに対する禁止規定である。

しかしながら、その次の「ハイリスク」に区分されているAI技術の中には、雇用労働問題に深く関わるものが含まれている。ハイリスクのAIは利用が可能であるが、本規則案に列挙されているさまざまな規制がかかってくるのである。まずは、本規則案附則別表Ⅲに列挙されているハイリスクAIのうち、雇用労働に関わるものを示そう。

3 教育訓練
(a) 自然人の教育訓練施設へのアクセスまたは割り当ての目的で用いられるAIシステム
(b) 教育訓練施設における受講生の評価及び受入のために広く用いられる試験への参加者の評価のために用いられるAIシステム
4 雇用、労働者管理及び自営へのアクセス
(a) 自然人の採用または選抜、とりわけ求人募集、応募のスクリーニングまたはフィルタリング、面接または試験の過程における応募者の評価、のために用いられるAIシステム
(b) 労働に関係した契約関係の昇進及び終了に関する意思決定、課業の配分、かかる関係にある者の成果と行動の監視及び評価に用いられるAIシステム

とりわけ4は、入口から出口まで雇用管理の全局面にわたってAIを用いて何らかの意思決定をすることが本規則の適用対象に入ってくることがわかるだろう。こういったハイリスクAIを用いる場合には、本規則案に規定されているさまざまな規制がかかってくるのである。まず、リスクマネジメントシステムを設定しなければならず(第9条)、データガバナンスを確立しなければならない(第10条)。設置前に技術的ドキュメンテーションを行い(第11条)、運用中は常に記録(ログ)がなされ(第12条)、ユーザーへの透明性と情報提供が求められ(第13条)、そして人間による監視(human oversight)が要求される(第14条)。これは、AIシステムが用いられている間ずっと自然人により監視されているべきということで、安全衛生や基本的人権へのリスクを最小限にするためのものである。

本規則案ではさらに、ハイリスクAIシステムのプロバイダーに対しても、クオリティマネジメントシステム(第17条)、技術的ドキュメンテーション(第19条)、適合性評価(第19条)、自動生成ログ(第20条)、是正措置(第21条)、通知義務(第22条)、当局への協力(第23条)が課せられており、また販売業者、輸入業者、利用者その他の第三者などの責任も規定されている。規定ぶりは詳細を究めており、ここではいちいち紹介しきれないが、関心のある向きは是非EUのホームページで規則案を一瞥していただきたい。

本規則案はもちろん、EUで経済活動している日本企業にとっては重要なものであるが、それだけではなく、急激に発展するAIに対してどのように対応すべきかを考える上で、日本の政労使の関係者にとってもきわめて示唆的な内容であろう。周知の通り、2019年8月、募集情報等提供事業であるリクナビを運営するリクルートキャリアが、募集企業に対し、募集に応募しようとする者の内定辞退の可能性を推定する情報を作成提供したと報じられ、厚生労働省が業界団体に対して注意喚起するという事件があった。これ自体は新卒一括採用という日本独自の雇用慣行がもたらしたものであるが、上記別表4の各号列記の雇用管理事項についても、すでにかなりの企業でAIの利用が進んでいると言われており[注2]、現時点ではなんら規制の網はかぶせられていない状況である。

これからのAI時代の労働法規制のあり方を考える上でも、今回のEU規則案は絶対に目が離せない内容である。今後、欧州議会での審議の状況も含めて、随時その進展を報告していきたい。

脚注
注1 Proposal for a Regulation laying down harmonised rules on artificial intelligence (Artificial Intelligence Act) | Shaping Europe's digital futurenew window

注2 その一端は、倉重公太朗編集代表『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政研究所)に描き出されている。

【GoTo書店!!わたしの一冊】第17回 十川陽一『人事の古代史―律令官人制からみた古代日本』

61npu1b1ql245x400 『労働新聞』に代わる代わる執筆している【GoTo書店!!わたしの一冊】ですが、また私の番が回ってきました.今回は十川陽一『人事の古代史―律令官人制からみた古代日本』という、一見古代史ファン向けの歴史本ですが、これが面白いんです。

https://www.rodo.co.jp/column/105168/

職能資格制は有史1000年

 人事といっても古代日本、律令制を導入して左大臣だの中納言だのとやっていた時代の人事の本だ。ところがこれがめっぽう面白い。歴史書としてもそうだが、人事労務管理の観点からも大変興味深いのだ。
 律令制以前の日本はウジ社会。要するに豪族たちの血縁原理でもって世の中が動いていたわけだが、諸般の事情で中国化せねばならなくなり、身の丈に合わない律令制というやたらに細かな法制度を導入することになった、というのは読者諸氏が高校日本史で勉強した通り。
 ところがその人事制度を見ていくと、本家の中華帝国とは一味違う仕組みになっているのだ。日本の律令制では、官人にまず位階を付与する。正一位から少初位下までの30段階のあれだ。これとは別に官職というのがある。大納言とか治部少輔とか出羽守とかのあれだ。そして、これくらいの位階ならこれくらいの官職というのが大体決まっている。大納言は正三位、治部少輔や出羽守は従五位という具合だ。ところが元になった唐の律令制ではそういう風になっていない。吏部尚書は正三品、御史大夫は従三品とか言っても、それは官職のランクにすぎない。ヒトについたランクではない。逆に言えば、日本ではまず人にランクをつけて、それからおもむろに官職を当てはめるのだ。
 あれ?どこかで聞いたような話だと思わないだろうか。そう、古代日本の律令制は職能資格制であるのに対して、中国の律令制は(そう言いたければ)ジョブ型なのだ。その結果何が起こるか。位階はあってもはめ込むべき官職のないあぶれ者が発生する。これを「散位(さんに)」と呼ぶ。仕事がないので散位寮というところに出仕させるのだが、六位以下では無給になる。正確に言うと、五位以上には位封など身分給があるが、六位以下は職務給だけなので、散位だと収入がなくなる。そこで、写経所でアルバイトをする。博物館に展示してあるあれだ。写経所は令外の官司(律令外の公的機関)であり、ある意味あぶれた官人のための公共事業という側面もあったようだ。これが出来高払いで、誤字脱字があると減給される。日本の課長になれない参事二級が「働かないおじさん」やっても基本給はもらえるのに比べると、なかなか厳しい世界だ。
 ちなみに、ジョブ型の中国では、「散位」はないが「散官」がある。中身のない官職なのだが、開府儀同三司とか驃騎大将軍とかやたらに偉そうな名前が付いている。思い出すのは前回紹介した『ブルシット・ジョブ』に出てきたブルシット・ジョブのジョブ・ディスクリプションを延々と作る人の話だ。
 時は流れ、イエ社会が諸般の事情で近代化せねばならなくなってからも、似たようなことが起こっているのは御承知の通り。まずヒトにランクをつけるというやり方は千年以上経っても変わらないようだ。「雇用問題は先祖返り」というのは、数年前に『HRmics』誌に連載した時のタイトルだが、千数百年前のデジャビュを演じていたとはさすがに知らなかった。

 

 

 

2021年4月28日 (水)

日本の高齢者雇用政策-高年齢者雇用安定法を中心に@『エルダー』2021年5月号

Image0_20210428134001 『エルダー』2021年5月号に「日本の高齢者雇用政策-高年齢者雇用安定法を中心に」を寄稿しました。

https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/

1 60歳定年の努力義務(1986年)まで
2 65歳継続雇用政策の始まり
3 65歳までの継続雇用政策と年齢差別禁止政策の交錯
4 70歳までの「就業確保措置」
5 ずっと裏道の外部労働市場政策

それは「最低賃金」じゃない@バイデンの大統領令

20210427ds34_p 昨日、アメリカのバイデン大統領が最低賃金を15ドル(1600円)に引き上げたと報じられていますが、

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021042701127 (最低賃金1600円に引き上げ 大統領令で3割超―米)

【ワシントン時事】米ホワイトハウスは27日、バイデン大統領が連邦最低賃金を現在の時給10.95ドル(約1200円)から3割超引き上げ、時給15ドル(約1600円)にする大統領令に署名すると明らかにした。政権が重視する所得格差の是正を目指し、労働者収入の底上げを図る。

いやこの見出しはミスリーディングでしょう。

記事の先の方ではちゃんと書かれていますが、

・・・連邦政府機関と契約する業者が対象。2022年1月30日以降の新規雇用について、最低時給15ドルを従業員に支払うよう求める。既存の雇用契約についても同年3月末までに義務付ける。

これはいわゆる公契約条例の連邦政府版であって、それを「連邦最低賃金」と呼ぶのは、まさにその名に値する公正労働基準法による連邦最低賃金(今なお7.25ドル、今年15ドルに引き上げる法案が提出されているが共和党が反対)と紛らわしいので、やめてほしいところです。

その大統領令はこちら

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/presidential-actions/2021/04/27/executive-order-on-increasing-the-minimum-wage-for-federal-contractors/(Executive Order on Increasing the Minimum Wage for Federal Contractors)

なお、本当の最低賃金については、アメリカ労働省の最低賃金のページを参照のこと。

https://www.dol.gov/general/topic/wages/minimumwage

 

 

 

 

 

 

本日はコロナ禍の国際労働者祈念日

Arton2435802d4c 例によって、日本の労働組合はスルーしていますが、本日は国際労働者祈念日(International Workers’ Memorial Day)です。

国際労連のサイトから

https://www.ituc-csi.org/international-workers-memorial-day-2021?lang=en

 As workers around the world who have lost their lives to workplace accidents and disease are commemorated on 28 April, trade unions are pressing two key demands to save lives.

世界中の職場の労働災害や職業病で命を失った労働者が4月28日に祈念される。・・・

2. COVID-19 must be classified as an occupational disease. This would provide enhanced protection for workers and enable access to compensation funds for families of workers who die or are infected with Covid-19 at work. Last year, global unions called on the ILO to list Covid-19 as an occupational disease and an initial ITUC survey of 58 countries shows that, so far, only 26 have taken this step. In some cases this coverage is restricted to workers in the health sector. 

新型コロナは職業病と類別されなければならない。・・・

 

 

2021年4月27日 (火)

メンバーシップ型社会のねじれたリカレント教育@『IDE現代の高等教育』2021年5月号

Image0_20210427121201 『IDE現代の高等教育』2021年5月号に「メンバーシップ型社会のねじれたリカレント教育」を寄稿しました。

https://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?n=13&category=001

特集は「リカレント教育の新局面」で、次のようなラインナップです。

リカレント教育の新局面 金子 元久
メンバーシップ型社会のねじれたリカレント教育 濱口桂一郎
大学院におけるリカレント教育 鈴木 久敏
産業界からみたリカレント教育 宮田 一雄
女性のためのリカレント教育 坂本 清恵
高知大学の地域連携 櫻井 克年
上智大学プロフェッショナル・スタディーズ 曄道 佳明
国際化サイバーセキュリティ学特別コースCySec  寺田 真敏
リカレント教育としての大学通信教育 高橋 陽一
大学・大学院が社会人学習者から選ばれる存在となるために 乾 喜一郎
大学におけるリカレント教育に関する制度整備の変遷等について 一色 潤貴
米国の成人教育の新たな潮流:マイクロクレデンシャル 溝上智惠子
フランスの成人教育の新局面  夏目 達也 

私のはタイトルからもわかるように、なぜ日本ではリカレント教育が本来の趣旨とは違うものになってしまうのかを、雇用システム論の観点から解きほぐしています。

 リカレント教育という言葉はもう半世紀以上の歴史を重ねているが、今日「人生100年時代」とか「第4次産業革命」という掛け声とともに再び政策の前面に出てきている。しかしながら、わたくしが「メンバーシップ型」と呼ぶ独特の雇用システムのもとでは、そのありようは長らくねじれたままであったし、今日においてもなおそのねじれの延長線上に論じられているように見える。本稿では、そのねじれのよってきたる所以を若干でも解きほぐしてみよう。
 
そもそも「リカレント教育」とは・・・
ジョブ型社会の「リカレント教育」
メンバーシップ型社会のOJTとその機能不全
職業能力評価制度の機能不全

・・・昨年来「ジョブ型」という言葉が異常に氾濫しているが、その内実はほとんど成果主義でしかなく、本気でジョブとスキルに基づく雇用制度に移行しようと考えている企業はほとんど見当たらない。その証拠に、ずぶの素人をOJTで鍛える新卒採用モデルに変化の兆しは全くなく、大学側もそういう企業行動を大前提に、ジョブのスキルなどよりも(潜在能力と意欲を最大限見せかける)シューカツのスキルに注力する「キャリア支援」に専念している。変わらぬメンバーシップ型社会におけるねじれたリカレント教育という立ち位置は、当分変わりそうもない 。

 

『日本労働研究雑誌』2021年5月号(No.730)

730_05 『日本労働研究雑誌』2021年5月号(No.730)は「教員の職場環境」が特集です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2021/05/index.html

特集:教員の職場環境

提言 教員の職場環境 広田照幸(日本大学教授)
解題 教員の職場環境 編集委員会
論文 教員の過剰労働の現状と今後の課題 大内裕和(中京大学教授)
公立学校教員の労働時間概念─労働基準法を潜脱する改正給特法の問題 髙橋哲(埼玉大学准教授)
組織開発による教員の長時間労働是正の取り組み─校長研修におけるチェンジエージェントの育成を通じて 町支大祐(帝京大学講師)・辻和洋(國學院大學特任助教)・中原淳(立教大学教授)・柳澤尚利(横浜市教育委員会主任指導主事)
学校は変われるか─職員室の内と外から教師の働き方を考える 内田良(名古屋大学准教授)
教員研修の現状と今後の職能開発の在り方 安藤知子(上越教育大学教授)
教員の人事考課に基づく昇給制度の運用と改定─ある自治体の労使交渉に着目して 岩月真也(同志社大学助教)
教員の職場環境の国際比較─OECD・TALISから見えてくるもの 杉浦健太郎(国立教育政策研究所総括研究官)
論文(投稿)公立小中学校教員の生活満足度を規定する要因 神林寿幸(明星大学教育学部常勤講師) 

このテーマではおなじみの顔ぶれもいればそうでない方もいますが、そのうち教員の人事考課と労使交渉を論じている岩月さんについて一言。いや、中身はこの要約のとおりなんですが、

本稿は人事考課に基づく昇給制度がいかに運用され,その制度がいかに改定されたのか,何が変わったのかを明らかにする。加えて,賃金・人事制度の変化を踏まえ,教員の働き方改革に対する論点を提示した。研究方法としては労使関係論の視点から,A県における人事考課に基づく昇給制度の運用と改定をめぐる2017年の労使交渉に焦点をあてた。2017年交渉の結果,組合側の要求が一部反映し,監督職層に対する5%の付与率が撤回されたとはいえ,改定された昇給制度は,従来は3号昇給であった教員を2号昇給とし,また従来は2号昇給であった教員を1号昇給とするルールへと変貌した。労働力取引の観点からみれば,日本の教員については賃金の個別的取引が主軸であるといえる。総じて,教員の世界においても,校長や教育委員会による人事考課が個々の教員の賃金に及ぼす影響力が増大し,組合側が一定程度は抑制しているとはいえ,日本の民間組織と同様に,賃金の個別化が漸進的に進んでいる。教員の働き方改革に対する論点として,①人事考課に基づく賃金のルールをいかに形成するかについての議論,②人事考課を土台とする教員の職務の無限定性の議論,③労使関係の役割,④労労関係の議論の必要性に言及した。最後に今後の研究課題として,賃金制度の裏側にある,仕事のルールの解明の必要性を提示した。

ここではその肩書きについて。目次やタイトル下には「同志社大学助教」とありますが、最後のプロフィール欄には「2021年4月より労働政策研究・研修機構研究員」とあるように、今月からJILPTに来ています。最終校正で直せなかったのでしょうか。

41cyh3aradl_sx348_bo1204203200_ ちなみに、岩月さんは昨年10月に『教員の報酬制度と労使関係――労働力取引の日米比較』(明石書店)を出しています。これはなかなかか読み応えのある本です。

 

 

 

 

2021年4月24日 (土)

労務屋さんに『団結と参加』を取り上げていただく

04021351_6066a2d0a83c9 先月刊行した『団結と参加』を、ようやく労務屋さんに取り上げていただきました。

https://roumuya.hatenablog.com/entry/2021/04/24/151722

実は数日前、都内某所で、財界や学界の皆様に、例によっていい加減なジョブ型論を叩くみたいな話をしに行ったところ、なんと労務屋さんがでんといらして、「久しぶりに会社に行って、山のような本と一緒に、本書を受け取ったので、そのうちブログに書きます」とのことでした。ここ数日、怒濤のごとく献呈本の紹介を書かれていて、ようやく拙著の番が回ってきたようです。

まあ、集団的労使関係の歴史なんて、自分でも今時人気のないテーマであることは重々承知ですが、でもこういうのは必要だよね、というつもりで書いておりますので、労務屋さんのこういう言葉は大変ありがたいエールとして身にしみます。

  某財閥系シンクタンクの研究会で若手からベテランまで多くの企業の人事担当者と調査を通じて交流・議論する機会があり、昨年は新卒一括採用と長期雇用のこれからみたいなテーマで活動したのですが、その中で痛感したのが集団的労使関係に対する関心の低さでした。財閥系の大企業ですから立派な労組があるわけですが、採用や個別人事をやっている人には存在感が薄いようです。労組自身が労働者代表制の導入を求めるような状況下で、それでも昨年は推定組織率が久々に上昇しています。私は繰り返し集団的な合意による規制のオプトアウトの拡大を主張してきていますが、その当事者はやはり実力行使の手段を持ち経営と緊張感をもって向き合える労働組合であるべきだろうと考えます。そうした中で、この本が、「オビ」にうたわれているように「世界の集団的労使関係の歴史を法的視点から改めて見直し、新たな捉え方、考え方を示唆する」ことに期待したいと思います。

ついでながら、上記その都内某所では、大学時代以来ほぼ40年ぶりに再会した方もいらして、懐かしい思いをいたしました。

もひとつついでながら、その都内某所に呼ばれる際には全然存じ上げなかったのですが、行ってみたら、私を呼んでジョブ型の話をさせろと提起されたのは本田由紀さんだったそうです。世の中広いようで狭いと感じた一日でありました。

 

2021年4月23日 (金)

佐々木亮『武器としての労働法』

51vlvcg3zul_sx338_bo1204203200_ 労働弁護士の佐々木亮さんから『会社に人生を振り回されない 武器としての労働法』(KADOKAWA)をお送りいただきました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000069/

人は生きていくためにお金を稼がなければなりません。
お金を稼ぐための方法は、「働くこと」です。

社員、契約社員、派遣、アルバイト、フリーランス……。

雇用形態が多岐にわたるなか、「働くこと」のトラブルもまた多岐にわたる時代になりました。
自分に原因があろうとなかろうと、問題に直面することもあるのです。
生活に直結するだけに、渦中にいるとそのストレスは日に日に大きくなります。
そして世の中では、「泣き寝入り」してしまう人が後を絶ちません。

本書は、そんな働く人のために「労働法」という名の武器を与えます。

トラブルを乗り切るために大切なのは、あなたの働き方を「深く知る」ことです。
よくあるトラブルを雇用形態ごとに紹介。そのさいの対処方法(解決策)を示します。

難しい法律用語をできるだけ避け、分かりやすさを重視した、いままでにない解説書です。

大事なところはゴチックにして、さらに黄色の傍線を引いているんですが、その箇所が1頁に何カ所も出てきて、正直目がちかちかします。

できるだけ何も知らない素人さん相手に、分かりやすく必要な情報がすっと入るように入るようにと工夫されていることは分かるのですが、ある程度分かってしまっている人には、やたらにしつこくうるさいほどにこれでもかこれでもかという感じの本に仕上がっています。

まあ、まさに上の書影のオビにあるように、「泣き寝入りしないための対処法」のイロハのイを語っているほんです。

そういう本なので、あまり中身に突っ込むのもどうかという気がしますが、冒頭の雇用形態の説明のところで、「正社員」を無期、フルタイム、直接雇用の3要素を満たしたものだといい、無期契約社員とか、フルタイムパートというのはあり得ないといっているのは、法律学と社会学をごっちゃにしている感があります。

それこそ「正社員」というのは法律上の概念でも何でもないので、3要素を満たしていても、つまり欧米のジョブ型社会であれば立派なレギュラー・ワーカーであっても、特殊日本的意味における「せいしゃいん」でないというのは現に存在するわけです。実のところ、正社員というのは身分概念であり、会社が「メンバー」と認めた者のことなので、無期でフルタイムで直接雇用であっても、会社の一員とは認めてやらないぞというのが、まさにその無期契約社員だのフルタイムパートといった、一見語義矛盾のような、しかし現実社会にれっきとして存在するひとびとであるわけですから。

そして、実を言えば、それは法律上の概念でもある。パート有期法にいう「通常の労働者」ってのは、その3要素を満たしていても、「当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる」のでない限り、通常の労働者扱いしてくれないわけです。これこそが特殊日本的意味における「せいしゃいん」の定義なのであってみれば、企業が好きなように人事異動で配転できて、それを拒否するような輩は懲戒解雇してもかまわないような「正社員」でない限り、無期であろうがフルタイムであろうが「せいしゃいん」扱いしてくれないわけですよ。

それは世界標準からすればおかしな雇用形態概念ではあるけれども、現実の日本ではそうなっているということはやはりちゃんと説明しておく必要はあると思います。

 

2021年4月21日 (水)

EUの賃金透明性指令案@『労基旬報』2021年4月25日号

『労基旬報』2021年4月25日号に「EUの賃金透明性指令案」を寄稿しました。

 去る3月4日、欧州委員会は「賃金透明性と施行機構を通じた男女同一価値労働原則の適用強化に関する指令案」(COM(2021)93)を提案しました。これはもちろん男女均等法制の一環ではありますが、企業に対して賃金透明性を要求するという点で賃金法制としても興味深いものがあり、もっぱら非正規労働との関係で同一労働同一賃金が論じられている日本に対しても何らかの示唆があるかもしれないという観点から、紹介しておきたいと思います。
 まず現行法の枠組ですが、EU運営条約第157条に男女同一労働/同一価値労働同一賃金原則が規定されており、これを受けて雇用及び職業における男女の機会均等及び均等待遇の原則の実施に関する指令(2006/54/EC)第4条に同一労働/同一価値労働に対する差別の禁止が規定されています。同指令の第4条第2項は「特に、賃金決定に職務評価制度が用いられている場合、男女同一の基準に基づき、性別に基づくあらゆる差別を排除するものでなければならない」と定めており、これが出発点になります。
 2014年3月には「透明性を通じた男女同一賃金原則の強化に関する欧州委員会勧告」(2014/124/EU)が発出され、次のような賃金透明性政策をとるよう促しています。すなわち、同一労働又は同一価値労働を行う被用者範疇ごとに男女別の賃金水準の情報を入手する権利、50人以上企業が定期的にこれら情報を提供する義務、250人以上企業が賃金監査(各被用者範疇の男女別割合と職務評価・分類システムの分析)を受ける義務などです。この勧告で「同一価値労働」とは、教育、職業、訓練の資格、技能、努力、責務、労務、課業の性質などの客観的な基準に基づいて評価、比較されるべきものとしています。また、ジェンダーバイアスのある賃金体系を見直し、性中立的な職務評価・分類システムを導入すべきとしています。
 こうした中で、2019年に欧州委員会の委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏はその「政治指針」の中で、最低賃金法制やプラットフォーム労働者の労働条件と並んで、「就任100日以内に拘束力ある賃金透明性措置の導入」を約束しました。100日どころか1年以上過ぎていますが、ようやく今回指令案の提出に至ったわけです。ところで、労働社会政策についてはEUレベル労使団体への2段階協議が義務づけられているはずだが、と思った人もいるかも知れません。男女平等の立法根拠は労使協議付きの第153条だけでなく、労使協議の付いていない第157条にもあり、近年はもっぱらこちらが使われています。賃金問題である以上、労使への協議も必要なのではないかと感じるところですが、女性担当部局は労使をあまり信用していないのかもしれません。代わりに、2019年1月から4月まで一般協議が行われています。ただ、欧州労連は同年10月に賃金透明性指令に関する決議を採択しています。
 今回の指令案は、まず第4条(同一労働及び同一価値労働)で、労働の価値を評価比較するために使用者が性中立的な職務評価・分類システムを含むツールや方法論を確立するよう求めています。これらは労働者が比較可能な状況にいるかを、教育、職業、訓練の資格、技能、努力及び責務、遂行される労務並びに関わる課業の性質を含む客観的な基準に基づいて判断するもので、直接間接に性別に基づく基準を含んではなりません。男女が同一価値労働かどうかの判断は同一使用者の下で同時に働いている場合に限らず、単一の源泉に基づく場合に拡大され、また現実に比較対象者がいなくても仮想的比較対象者との比較で足ります。職務評価・分類システムは性別に基づくいかなる差別も排除して作られなければなりません。
 第5条から第11条までが本指令案本体の賃金透明性に係る規定です。まず第5条(採用前の賃金透明性)は、応募者が当該ポストに帰せられる初任給又はその範囲についての情報を得る権利を規定し、これが欠員公告等により面接以前に応募者に提供されるべきとしています。興味深いのは同条第2項が、使用者が口頭でも書面でも前職での賃金を聞いてはならないと規定している点です。それによってわざと低くすることを防ごうというわけです。
 第6条は、賃金水準とキャリア展開の決定に用いる基準を使用者が労働者に容易にアクセスできるようにせよと規定しています。
 第7条(情報入手権)では、労働者が同一労働又は同一価値労働をする労働者範疇について男女別の賃金水準について情報を入手する権利を規定し、それは1年に1回又は労働者の要求に応じて提供すべきとしています。さらに労働者は同一賃金原則実施のために自らの賃金を公表することを妨げられないとしつつ、使用者は賃金情報を入手した労働者が他の目的に使わないよう求めることができるとしています。賃金情報も個人情報なので、その調整を図っているわけです。
 第8条(男女賃金格差の報告)では、250人以上企業に対して、
・全男女労働者間の賃金格差
・全男女労働者間の補足的又は変動的部分における賃金格差
・全男女労働者の賃金の中央値の格差
・全男女労働者の補足的又は変動的部分における賃金の中央値の格差
・補足的又は変動的部分を受け取っている男女労働者の比率
・賃金四分位ごとにおける男女労働者の比率
・通常の基本給及び補足的又は変動的部分ごとに労働者範疇についての男女労働者間の賃金格差
を毎年(できれば過去4年分も)ウェブサイト上等のユーザーフレンドリーな形で公表することを義務づけるとともに、労働者とその代表、労働監督官、均等機関が追加的なデータを求めたら提供し、賃金格差が客観的かつ性中立的な要素で正当化できない場合には修正するよう求めています。
 第9条(共同賃金評価)は、250人以上企業に対して、労働者代表と協力して、共同賃金評価を行うよう求めています。これは、いずれかの労働者範疇において男女労働者の平均賃金水準の格差が5%以上であり、それを客観的かつ性中立的要素によって正当化できない場合に行われます。具体的な共同賃金評価の内容は、
・各労働者範疇における男女労働者の比率の分析
・各労働者範疇ごとの男女労働者の賃金水準及び補足的又は変動的部分の平均値に関する詳細な情報
・各労働者範疇における男女労働者間の賃金水準格差の確認
・賃金水準におけるかかる格差の理由と(もしあれば)客観的かつ性中立的な正当事由
・客観的かつ性中立的要素によって正当化できない場合は、かかる格差を是正する措置
などです。
 2014年勧告では企業外部による賃金監査が求められていましたが、企業内部の共同賃金評価に変わっています。
 ヨーロッパの労働社会は基本的にジョブ型ですから、ここで言われていることは詰まるところ、男女が異なるジョブに就いていて、そのジョブの賃金水準が異なる場合に、その違いに客観的で性中立的な正当事由が必要だということです。これは、とりわけ伝統的に産業別労働協約によって各職種の賃金決定をしてきたヨーロッパ諸国にとっては、かなりの文化衝撃になる可能性があります。今後この指令案が採択され、実施されていくと、実際の賃金決定のメカニズムがどうなっていくのか、興味深いところです。

 

鶴光太郎『AIの経済学』

08537 鶴光太郎さんより新著『AIの経済学 「予測機能」をどう使いこなすか』(日本評論社)をお送りいただきました。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8537.html

AIは我々の仕事を奪うのか? それとも頼もしい味方なのか? AIが経済社会に与える影響と可能性を、身近な事例で平易に解説。

先日書評を書いたフレイの本のフレイとオズボーン論文以来、AIと雇用は世界で注目される論点ですが、本書は上の書影の帯にあるように、「過度な悲観論を超える」ことを訴えています。

下の目次にあるように、とても広範な分野に渡って見通しよく解説しており、物事を考える上でとても参考になります。

ただ、AIで職場の何がどう変わるのか?といった労働業界的な関心からすると、やや突っ込みが足りない気もしますが、まあ200ページ足らずで全体像を概観している本なので、それはまた別の本で、ということでしょう。

序章 なぜ、「AIの経済学」なのか

本書の問題意識
本書の目的
本書の概観

第1章 AIとは何か――機械学習(深層学習)が生んだ革新

第1節 AIの本質とは
第2節 AIの具体的な活用事例の分類
第3節 AIと他の新たなテクノロジーの比較


第2章 AIで雇用はどうなる――悲観論を排す

第1節 新たなテクノロジーは職を奪うのか
       ――これまでの常識とAIの非常識
第2節 AIの雇用への影響
       ――経済学はどこまで接近できているのか
第3節 AIと人間との補完的な関係の構築


第3章 AIでスキルが変わる――「AIコーチ」の役割

第1節 学校教育に革命を起こす「AIコーチ」
       ――AI活用型アダプティブ・ラーニング
第2節 スポーツにおける「AIコーチ」
第3節 棋士の棋力を高め、将棋ブームをけん引する将棋AI
第4節 ビジネスの現場で活躍する「AIコーチ」


第4章 AIで企業戦略・ビジネスが変わる
      ――「パーソナライゼーション」と
       「ダイナミック・プライシング」の衝撃

第1節 経済取引(売買)による利益とは何か
       ――価格差別戦略の重要性
第2節「パーソナライゼーション」が有効な分野・産業
       ――教育、医療、金融
第3節 ダイナミック・プライシング
       ――AI活用型価格差別戦略の本質と具体例


第5章 AIで産業が変わる
      ――農業・畜産業、建設業の大変身

第1節 AIで変わる農業
第2節 AIで変わる畜産業
第3節 AIで変わる建築・建設業


第6章 AIで公共政策が変わる
      ――政策の有効性向上への挑戦

第1節 データ駆動型政策立案(DDPM)に向けて
第2節 データ駆動型政策立案(DDPM)の事例
第3節 データ駆動型政策立案のターゲティング政策への応用


第7章 コロナ危機で奮闘するAI

第1節 新型コロナウイルス感染症に直接関連するAIの活用事例
第2節 社会統制に関わるAIの活用事例


終章 AIと人間が豊かな未来を築き、共存するために
     ――AIのための経済政策と求められるスキル・
     能力・人材育成とは

第1節 AIのための経済政策
       ――その普及と影響にどう対処すべきか
第2節 AIにできないこと
第3節 AI時代に必要なスキル・能力
第4節 AI時代の人材育成のあり方

おわりに

 

 

2021年4月18日 (日)

経済財政諮問会議がフリーランスのセーフティネットに言及

去る4月13日に開催された経済財政諮問会議において、ほんのちょびっとだけですが、フリーランスのセーフティネットにも言及がされたようです。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0413/agenda.html

議事要旨では、民間議員の柳川範之さんがこうちらりと触れているだけですが、

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0413/gijiyoushi.pdf

・・・さらに言えば、フリーランス等のセーフティネットの在り方の検討も必要。

これは、有識者議員提出資料「ヒューマンニューディールの実現に向けて」でも、たったこれだけですが、

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0413/shiryo_01-1.pdf

● 被用者保険の更なる適用拡大を着実に推進するとともに、フリーランス等のセーフティネットの在り方の検討に着手すべき。

これに付いている資料の方を見ると、こういうのが載っていて、

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0413/shiryo_01-2.pdf

Kei

あれ?どこかで見たような表だな、どこで見たんだろうと思っていたら、ちょうど1年前に自分の書いたコラムにつけた表でした。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/005.html(緊急コラム #005 自営業者への失業給付?─EUの試み)

 

麒麟も老いては・・・

Itotakashi 文春オンラインに伊藤隆氏のインタビュー(インタビュワー:辻田 真佐憲)が載っていて、あの(!)伊藤隆がこんなそこらのネトウヨじじいみたいなことばかり口走るようになったのか、といささか感慨深いものがありました。

https://bunshun.jp/articles/-/44645

というのも、彼の出世作ともいうべき伊藤隆『大正期「革新」派の成立』(塙書房、1978年)は、私にとっては近代日本史を理解する基本枠組みを与えてくれた本であり、実を言えば私の『日本の労働法政策』第1章で示している歴史観は、少なくともその戦前から戦中、戦争直後にかけての時代認識は、この本によるインスピレーションを元に、ミクロな一つ一つの事実を積み上げて作り上げたものだからです。

おそらく今の若い人にとって伊藤隆という名前は「つくる会」の右翼じいさんというくらいの印象しかないかもしれませんが、それこそ本当の意味で平板な思考停止型の左翼史観、戦前は暗黒で戦後民主化して万歳・・・みたいな脳みそ付いとんのかワレと言いたくなるような、ベタな左翼史観が全盛だった頃に、それを根っこからひっくり返すような歴史認識、「戦前の自由主義の時代に、それを乗り越えるべく右や左の「革新派」が登場し、それが社会主義的な戦時体制を作っていく」という歴史認識を提起したときには、ものすごいインパクトがあったのです。

そのインパクトは、実に半世紀近い後の今でも、私の近代日本労働法政策史の基本構造をなしています。労働政策の細かい一つ一つの事実を拾い上げれば挙げるほど、その認識が正鵠を得ていること、上っ面の表層的なイデオロギー的決めつけが何の意味もない戯言であることが、ますます浮かび上がってくるほどの、それほどの深みと射程を持った本なのですよ。

今の若い人にとっては、そういう歴史観はむしろ先日亡くなった坂野潤治さんの本を通じてなじみのあるものかもしれません。でも、伊藤氏が大正期革新派の本を書いた頃は、坂野さんは明治初期のことしかやってなくて、伊藤氏の本は隔絶していました。当時私はまだ教養学部の学生に過ぎなかったけれど、でも、そのときに受けたパラダイム転換が今日までずっと影響を及ぼしているのだと、改めて思ったのです。

その伊藤隆氏が、こういうことを垂れ流してしまうまでになったのか、というのは、もちろん専門分野が全く異なり、勝手に私淑していただけの私なんぞよりも、このインタビューで(それこそ耄碌した親が立派に成長した子供の悪口を言い立てるがごとく言われている)その近くにいた方々の方がよっぽど感じているのだろうなあ、と思うことしきりではありました。

 

2021年4月14日 (水)

小中学校は託児所の一種

Booklet01201221_20210414232101 昨年末に出た『新型コロナウイルスと労働政策の未来』の中で、

・・・今回のコロナ禍では、学校の休校の関係で、フリーランスの問題がどっと出てきたというのが非常に印象的でした。新型コロナウイルスが蔓延したということで、世界的に見ると割と早い2月末の段階で、安倍総理が、全国全ての学校、小学校、中学校、高等学校の臨時休校を要請します。そうすると、学校が休みになってしまうと、子供を抱えて働いている労働者にとっては、学校は一種の託児所なんですね。学校が託児所だというと、神聖な教育を馬鹿にするのかと文部科学省に怒られるかもしれませんが、学童期の子供を抱える労働者にとっては、かなりそういう性格があります。ということは、学校が休校してしまうと、子供の世話と会社の仕事の板挟みになってしまうわけで、何とかしなければなりません。ということで、さっそく厚生労働省雇用環境・均等局は、非常に素早くで小学校休業等対応助成金を設けるということを発表しました。

ここで文部科学省に忖度しつつも「学校は一種の託児所なんですね」と口走ったんですが、どうもまじめにそう考えている人が政府部内にいるようで、

https://this.kiji.is/754696019100647424(「こども庁」に義務教育移管も)

菅義偉首相が創設に意欲を示す「こども庁」を巡り、政府内で検討されている3案が13日、関係者への取材で判明した。このうち1案は、こども庁を内閣府に設置し、現在は文部科学省が所管する小学校、中学校の義務教育を移管するとしている。
 3案のうちの一つは、こども庁を独立した組織として内閣府に新設する。「就学前から義務教育段階まで一貫して一体的に推進する」としており、文科省から自治体への指導権限も移管する。 ・・・

どこまで本気の案なのかよくわかりませんが、義務教育の小中学校は、保育所、幼稚園、認定こども園と同じ託児所の一種であるということが日本政府の認識として表明されることになるのかもしれません。

 

 

 

水島治郎・米村千代・小林正弥編『公正社会のビジョン』

577171 水島治郎・米村千代・小林正弥編『公正社会のビジョン 学際的アプローチによる理論・思想・現状分析』(明石書店)を、編者のお一人の水島治郎さんよりお送りいただきました。

https://www.akashi.co.jp/book/b577171.html

政治への不満、ジェンダー間の不平等、雇用不安。絶望感と諦めが充満するなかで、それでも「公正な社会」を実現することは可能か。政治・経済・社会・法の諸側面を融合し討議を重ねてきたプロジェクトチームが、不公正な社会状況を打ち破る新たな秩序を提言。

冒頭の3章は、法哲学、政治哲学的な議論が続きますが、第5章の水島さんのはおなじみのポピュリズムの話だし、続く第6章の濱田さんのはおなじみの若者の話です。

とはいえ、水島さんは今回、ちょっと目先の変わった素材を持ち出してきています。それは、「置き去りにされた地域」の代表として、イギリスと日本の産炭地域を取り上げ、炭鉱が閉山して放り出された人々に対してどのような施策が講じられたか、その違いが詳しく描写されています。

この炭鉱離職者対策の問題は、実は高度成長期日本における数少ない「しんがり」型雇用政策として注目すべき点がいろいろあるんですね。この水島論文では、とりわけ旧雇用促進事業団が行った手厚い広域移動による再就職支援に着目しています。

かつて本ブログでもちらりとふれたことがありますが、こういう炭鉱離職者の広域移動のための公的住宅として作られた雇用促進住宅が、時間の経過とともにその機能が失われ、ムダの典型として猛攻撃を受けるようになっていくということ自体が、いろいろと考えさせる素材でもあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_97bd.html(雇用促進住宅の社会経済的文脈)

・・・もともと、雇用促進住宅は、移転就職を余儀なくされた炭鉱離職者向けの宿舎として始まり、その後高度成長期に労働力の広域移動政策が進められるとともに、それを住宅面から下支えするために建設されていったものです。その頃は、労働力流動化政策と一体となって、有意義な施策であったことは間違いないと思います。
ところが、70年代以降、地域政策の主軸はもっぱら就職口を地方に持ってくることとなり、地方で働き口がないから公的に広域移動を推進するという政策は消えてしまいました。これは、もちろん子供の数が減少し、なかなか親のいる地方を離れられなくなったといった社会事情も影響していますが、やはり政策思想として「国土の均衡ある発展」が中心となったことが大きいと思われます。大量の予算を、地方の働き口確保に持ってくることができたという政治状況もあったでしょう。こういう状況下では、雇用促進住宅というのは社会的に必要性が乏しいものとなり、そこに上記のような公務員が入居するというような事態も起こってきたのでしょう。
それが90年代に大きく激変し、地方に働き口がないにもかかわらず、公的な広域移動政策は為されないという状況が出現し、いわばその狭間を埋める形で、請負や派遣のビジネスが事実上の広域移動を民間主導でやるという事態が進みました。こういう請負派遣会社は、自分で民間アパートなどを確保し、宿舎としているのですが、その実態は必ずしも労働者住宅として適切とは言い難いものもあるようです。
このあたりについては、私はだいぶ前から政府として正々堂々と(もう地方での働き口はあんまり望みがないので)広域移動推進策にシフトしたらどうなのかと思い、そういうことを云ったりもしているんですが、未だに地域政策は生まれ育った地元で就職するという「地域雇用開発」でなければならないという思想が強くありすぎて、かえって適切なセーフティネットのないまま広域移動を黙認しているような状況になってしまっている気がします。
一連の特殊法人・独立行政法人叩きの一環として、雇用促進住宅も全部売却するということになり、それはもっとうまく活用できるんじゃないのかというようなことを口走ることすら唇が寒いような状況のようですが、実は経済社会の状況は、雇用促進住宅なんてものが要らなくなった70年代から90年代を経て大きく一回転し、再びこういう広域移動のセーフティネットが必要な時代になって来つつあるようにも思われます。
雇用促進住宅ネタは、例によって例の如き公務員叩きネタとして使うのがマスコミや政治家にとっては便利であることは確かでしょうが、もう少し深く突っ込むと、こういう地域政策の問題点を浮かび上がらせる面もあるのではないでしょうか。もちろん、その前に公務員に退去して貰う必要があるのは確かですが、 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/1546-b7d2.html(雇用促進住宅への入居1546件)

・・・まあ、見ての通りというわけですが、与野党の先生方がそろいもそろって、また左右のマスコミが声をそろえて、潰せ潰せの大合唱を繰り返した挙げ句、ご希望通り見事に廃止されることになった雇用・能力開発機構の、それでもなお機能としては残されることになった職業訓練機能とは違って、そんなもの要らないから完全に潰せということになった雇用促進住宅が、こともあろうにかくも人様のお役に立てるとは、どこかのおとぎ話みたいな話ですな。
まあ、潰せ潰せの方々は、全然反省の色はなさそうですが、まあそれはそういうものでしょう。
むしろここで考えるべきは、これまで企業の社宅に委ねていた労働住宅問題を、公的な社会政策として改めてどこまで対処すべきものと考えていくべきかという問題でしょう。現在、下のエントリーにもあるように、派遣切りされた人々に「寮付きの求人」を紹介するという対応をしているわけですが、今後それがどこまで期待できるかを考えると、あまり有望とは言えないと思われますし、本ブログで何回か述べてきたように、今後雇用機会の乏しい地域からの広域移動を公的政策としてある程度進めていくのであれば、まさに雇用促進住宅の機能がますます重要になるはずです。
もちろん、政策の本筋は、民間賃貸住宅に入居できるような住宅手当制度を、普遍的な社会手当として創設していくという方向だと思いますが、労働異動に対応して機動的に住宅を提供しうる仕組みは確保された方がいいと思われます。もちろん、その住宅は、入居者が必要もないのにいつまでも居座ることのないよう、「ちゃんと出て行っていただく機能」を備えておく必要はありますが。 

なお、参考までに、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-2042.html(労働「政策」は長期雇用を「強制」していない)

・・・総じて、経済学系の方々には、あたかも日本の労働政策が戦後一貫して終身雇用や年功賃金をひたすら「強制」してきたかのように思われている方がいるように感じられますが、そのかなりの部分は、年齢コーホートによる錯覚効果ではないかと思われます。自分が社会に出た頃に世の中で主流だった考え方は、実はその一つ前に時代にはそうではなかったにもかかわらず、あたかも太古の昔からそうだったように感じるものです。これは、それに対してプロであるかコントラであるかに関わらず、同じように見られる現象です。
むしろ、かつての労働政策は、大企業正社員型の雇用慣行からはずれた人々に焦点を当てたさまざまな政策を講じていたのですが、70年代以降、政策担当者自身の目線が日本型雇用慣行奨励型にシフトして行くにつれて、そもそもなぜそのような政策をしなければならないかについての信念が徐々に薄れていき、外からの攻撃に対しても脆くなっていったという面があるように思われます。企業内訓練の乏しい中小零細企業労働者のための公的な職業訓練機関や、企業福祉の乏しい中小企業労働者のための労働者福祉施設や、社宅の乏しい中小企業労働者のための雇用促進住宅等々です。こういった日本型雇用慣行を前提としないたぐいの労働政策が、日本型雇用慣行にどっぷりつかって育った人々によって、ムダだから潰せと攻撃され続けてきたことは、この歴史的展開の皮肉さをよく示しています。
大変皮肉なことですが、ある種の人々は「日本の労働政策が大企業正社員型雇用慣行を強制しているからけしからん」と批判するとともに、まさにこのような中小零細企業労働者向けの公的サービスをムダだと非難することにも熱心なように見えます。もちろん、彼らはそれが論理的に矛盾しているなどとはこれっぽっちも感じてはいないのでしょうけど。(いうまでもなく、これは安藤さんのような良質な労働経済学者のことではありません)

 

 

 

2021年4月12日 (月)

ガラスの天井、ガラスの床

こういう増田が話題のようですが、

https://anond.hatelabo.jp/20210411175131(男だったら絶対弱者男性だったと思うから女に産まれて良かった)

ガラスの天井とか言うけど、いや、そういうものも世の中にあることは知ってるし、それに阻まれて苦しんでいる友人も見てきたし、まあ、ガラスの天井を割ろうとするみなさんはさ、偉いと思うよ。
偉い偉い。
でも私はガラスの床の上に立っているド底辺女なので、まあ、ガラスを割られると困るわけ。 ・・・

この匿名増田女史の記述がどこまで事実を反映しているのかいないのかは分かりませんが、近現代の女性問題とはまさにこういう構造の構築と脱構築であったという歴史認識が、あれこれコメントしている皆様にきれいにないことにはいささか驚きました。

ここでの文脈とはちょっと違いますが、そもそもおっさんやにいちゃんはドツボにおとしてもいいけれども、かわいそうな「おんなこども」を保護してあげようという「ガラスの床」を一生懸命作ってきたのが近代史であり、それが女性の活躍を阻害する「ガラスの天井」でケシカラン代物だから壊してしまえ、ってのが現代史なのであってみれば、個々のエピソードのあれこれはともかくとして、総体的にはまさに女性の近現代史というのはこういうことだったわけでしょう。

 

 

2021年4月11日 (日)

宮本太郎『貧困・介護・育児の政治』

22844 宮本太郎『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ』(朝日選書)をお送りいただきました。

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22844

広がる生活不安をコロナ禍が追い打ち、やはり福祉政策こそ根本だ。今こそ、ベーシックアセットの保障へ。
政府や自治体の政策論議に深く関わりつつ、同時に批判的な視点も貫いてきた福祉政治論の第一人者が、貧困、介護、育児をめぐる生々しい政治に分け入り、そこでの対立点を明らかにしつつ、停滞から脱却する道筋を考える。

メインタイトルとサブタイトルがやや離れている感がありました。

メインタイトルの「貧困・介護・育児の政治」は、これはもうここ30年間の福祉政治を見事な切れ味で分析していて、宮本さん自身がまさにその題材の政治過程の真っただ中にいて政策の方向付けに力を尽くしてきたことを、かくも客観的に、三つの福祉政治のイデオロギーの複雑怪奇な絡み合いによって描き出せるのか!という感嘆すべき作品になっています。

三つの福祉政治のイデオロギーとは、例外状況の社会民主主義、磁力としての新自由主義、日常的現実としての保守主義ですが、これが決していわゆる政治イデオロギーの右とか左とかと一致せず、実に奇妙な絡み合い方をするところが面白いのですね。

90年代の細川連立から自社さ政権とか、2000年代から2010年代の自公政権末期から民主党政権時代という、例外的な政治的枠組みになったときに例外的に社会民主主義的な政策(介護保険とか子供子育て新システムとか)が提起され、増税する理屈の欲しい大蔵・財務省が例外的にそれを応援するという例外的な状況下で実現するが、そのとたんに政治地図の左右に広がる磁力として新自由主義が働きだし、じわじわと掘り崩されていく。そこで、やっぱり家族が面倒見ろという日常的現実としての保守主義がじわじわと広がっていくという、過去30年間に繰り返された日本的福祉政治のパタンを、ここまで見事に抉り出した分析はなかなか他で読めません。なんといっても、書いている宮本さん自身、とりわけ過去20年間はその政治過程の真っただ中にいた究極のインサイダーでありながら、それを異星人の如き眼差しで冷静に分析しているのですから。

この三つの力のうち、とりわけ日本の福祉政治を考えるうえで重要なのは、磁力としての新自由主義でしょう。日本の新自由主義というのは決して竹中平蔵みたいな典型的イデオローグによって引っ張られてきているわけではなく、とにかく増税を憎み、減税をほめたたえる左翼方面にも極めて根強い(例の社会党の北朝鮮無税化礼賛を想起せよ)思想が根っこにあるので、例外状況で社会民主主義的な政策が実現しても、すぐにそれを掘り崩す方向に力が働いていくのでしょうね。

特に、ここは宮本さんの卓見だと思いますが、もともと財政再建のために増税したい財務当局が、なかなか増税を正当化する理屈が見当たらない中で、例外的状況で表面化してきた社会民主主義的な政策に乗っかって、この福祉政策のために増税するんだよ、だから増税に賛成してね、という戦略的行動として、例外的に金のかかる福祉政策を推進する側に回る。まあ、本音のレベルでは限りなく同床異夢に近いんでしょうが、財政再建のための増税派と福祉政策のための増税派が手をつないで、そんなこと家族で面倒見ろという保守主義を抑えて新たな政策を実現するんですが、そのとたんにその連携が崩れ、日常的現実としての保守主義と磁力としての新自由主義がムダな福祉を削りにかかるというこのサイクル。

ここは、具体的な一つ一つの事例を踏まえて論じられているので、ぜひちゃんとこの本を読んでなるほどと得心してください。

サブタイトルの方は、正直言ってあまり説得されなかった、というか、ベーシックインカムやベーシックサービスのエッジの効いた、その分危なっかしい、しかしだから魅力的である議論に比べて、そのいうところのベーシックアセットのイメージが、最後まで読んでももわもわしていてなんだかよくわからないのです。

 

 

2021年4月10日 (土)

欧州議会の企業デューディリジェンスと企業アカウンタビリティに関する欧州委員会への勧告

ちょっと分野がずれるのでしばらく気が付かなかったんですが、先月の3月10日、欧州議会が企業デューディリジェンスと企業アカウンタビリティに関する欧州委員会への勧告をいう決議を採択していました。

https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2021-0073_EN.html

よく言うように、EUでは立法府たる欧州議会には立法提案権はなく、指令案を出せるのは行政府たる欧州委員会に限られます。なので、欧州議会が立法提案をしたければ、欧州委員会への勧告という形をとって、その中にこういう指令案を出せという文案をそのまま乗っけるというやり方になります。先日紹介したテレワークのつながらない権利に関する勧告も似たようなものですが、こちらは昨今注目を集めている企業のサプライチェーンに関する人権とか環境とかに関するデューディリジェンスとアカウンタビリティを義務付けようというもの。

とりわけここのところ、中国の新疆ウイグル自治区の強制労働問題をめぐって日本の企業も含めてものすごい議論が燃え上がっているのはご存じのとおりですが、それをEUの立法として確立しようという動きがあるのですね。

ためしに、上のリンク先の決議の全文に「human rights」という言葉が何回出てくるかと数えたら161回出てきました。

指令案(の案)第1条は、

Article 1

Subject matter and objective

1.  This Directive is aimed at ensuring that undertakings under its scope operating in the internal market fulfil their duty to respect human rights, the environment and good governance and do not cause or contribute to potential or actual adverse impacts on human rights, the environment and good governance through their own activities or those directly linked to their operations, products or services by a business relationship or in their value chains, and that they prevent and mitigate those adverse impacts.

本指令は、域内市場で操業する企業が人権、環境、善き統治を尊重し、それ自身の活動又は事業関係やバリューチェーンによってその創業、製品、サービスに直接リンクされた活動を通じて、人権、環境、善き統治に対して潜在的ないし現実的な悪影響をもたらし又は貢献することがなく、そのような悪影響を防止し緩和するその責務を完遂することを確保することを目的とする。

2.  This Directive lays down the value chain due diligence obligations of undertakings under its scope, namely to take all proportionate and commensurate measures and make efforts within their means to prevent adverse impacts on human rights, the environment and good governance from occurring in their value chains, and to properly address such adverse impacts when they occur. The exercise of due diligence requires undertakings to identify, assess, prevent, cease, mitigate, monitor, communicate, account for, address and remediate the potential and/or actual adverse impacts on human rights, the environment and good governance that their own activities and those of their value chains and business relationships may pose. By coordinating safeguards for the protection of human rights, the environment and good governance, those due diligence requirements are aimed at improving the functioning of the internal market.

本指令は、企業のバリューチェーンのデューディリジェンスの義務、すなわちそのバリューチェーンにおいて発生する人権、環境、善き統治への悪影響を防止し、起こった場合はかかる悪影響を適切に対処するべきあらゆる比例的な措置をとる義務を定める。デューディリジェンスの遂行は企業に対して、その活動及びバリューチェーンと事業関係がもたらす人権、環境、善き統治への潜在的又は現実的な悪影響を、明らかにし、評価し、防止し、止めさせ、緩和し、監視し、通信し、説明し、対処し、修復することを要求する。人権、環境、善き統治の保護のためのセーフガードを調整することにより、これらデューディリジェンスの要件は域内市場の機能の改善に資する。

3.  This Directive further aims to ensure that undertakings can be held accountable and liable in accordance with national law for the adverse impacts on human rights, the environment and good governance that they cause or to which they contribute in their value chain, and aims to ensure that victims have access to legal remedies.

本指令はさらに、企業がもたらし又はそのバリューチェーンにおいて貢献する人権、環境、善き統治への悪影響について国内法に従って説明責任を果たし製造責任を果たすことを確保することを目指し、その被害者が法的救済を得られるように確保することを目指す。

やや別分野とはいいながら、労働問題ともかかわってくる話でもあるので、その動向にも注意を向けておきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

2021年4月 8日 (木)

佐藤忍『日本の外国人労働者受け入れ政策』

570637 佐藤忍『日本の外国人労働者受け入れ政策 人材育成指向型』(ナカニシヤ出版)をお送りいただきました。

http://www.nakanishiya.co.jp/book/b570637.html

人材育成指向型による受け入れへと舵を切った日本の移民政策。その実態と変化を詳細に分析する。

いろいろと興味深い分析がされていますが、終章のこの一節には、なるほどと思いました。

・・・外国人労働者への在留資格は特定の活動に対して与えられている。就労すべき産業・業種・企業が特定されており、そして特定の仕事内容(職種)に従事することが予定されている。予定外の活動は違法である。つまり外国人労働者の働き方は、ジョブ型である。・・・・国際労働市場に置いて、「技能実習」「特定技能」「専門・技術職」はそれぞれ分断されていると同時に、能力の高低によって階層化され、緩やかに接続している。「活動に基づく在留資格」から定住や永住と言った「身分に基づく在留資格」へシフトすれば、働き方もメンバーシップ型へ移行しうる。日本の平均的な働き方がメンバーシップ型である限り、外国人労働者の受入れ拡大、すなわちジョブ型の働き方の浸透には限界が隠されていると言わなければならない。メンバーシップ型の国内労働市場は、外国人労働者の受入れ拡大に対する歯止めとなっているのである。・・・・

 

 

 

 

2021年4月 7日 (水)

大内伸哉『人事労働法』

564091 大内伸哉さんの『人事労働法 いかにして法の理念を企業に浸透させるか』(弘文堂)をお送りいただきました。

https://www.koubundou.co.jp/book/b564091.html

労働法の再設計を試みた画期的な教科書
 「おこなわれている」労働法のエッセンスを紹介することに加え、「あるべき」労働法を大胆に提示した斬新な教科書。
 裁判規範を重視した伝統的労働法とは違い、企業が人事管理において「労働者の納得を得るよう誠実に説明すべきである」という納得規範(行為規範)を軸とした「人事労働法」により労働法を再設計したチャレンジングな内容。
 実務上大きな役割を果たす就業規則を具体的にどう作成するかを示すことにより、法の理念が企業に浸透することを目指す。 

というわけで、教科書だということなんですが、大内節全開の大内労働法としか言いようのない独自のテキストブックです。大内さんには『労働法実務講義』という普通に使える割と普通の教科書もありますが、そういう制約を一切取り払って、大内節ですべて塗り固めた概説書を書くとこうなるという一種極北の書といえましょう。

同感する人と反感を抱く人とがくっきり分かれそうな本ですが、いずれにせよ物事深く考えるためのよすがとして有用な本であることは間違いありません。

個々の論点での賛否はさまざまでしょうが、裁判規範を重視し、出るところに出た時の理屈ばかりをこねくり回しがちなために、出るところに出ない圧倒的大部分のケースが視野から落ちこぼれてしまうという労働法学の偏りに対して異議を申し立てるという点については、とりわけ解雇などの個別紛争の労働局あっせん事例レベルのものを分析したことのある立場からすると、大変共感するところは大きいものがあります。

 

 

2021年4月 6日 (火)

医療法改正案と医師の働き方改革@WEB労政時報

WEB労政時報に「医療法改正案と医師の働き方改革」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 去る2月2日、政府は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。国会では3月18日から審議に入ったようです。この法案、タイトルだけでは労働法と関係ありそうに見えませんが、実はその中に医師の働き方改革に関わるいくつかの規定が入っています。法案要綱の改正の趣旨には、「医師の長時間労働等の状況に鑑み、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するため、医師の労働時間の短縮及び健康確保のための制度の創設・・・等の措置を講ずること」とあります。
 医師の働き方改革については、本連載の第127回(2019年4月12日)に「医師の不養生はいつまで続くか?」と題して・・・・

オーウェン・ハサリー『緊縮ノスタルジア』

9784909237484_600 オーウェン・ハサリー『緊縮ノスタルジア』(堀之内出版)をお送りいただきました。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784909237484

緊縮財政下の現代イギリスが、いかに第二次大戦期(=以前の緊縮時代)へのノスタルジアで覆われているのかを、デザイン、建築、食品、映画、音楽など幅広い視点から論じる。

正直、文脈が特殊イギリス的すぎて、たぶん訳者は「日本もそうだろ」的感覚で訳しているんだと思うのですが、だいぶ違うような。いや、確かにある種の保守感覚をくすぐるノスタルジアはあるにしても、それはイギリス的文脈での「緊縮ノスタルジア」じゃないだろうと。

むしろ、日本のリベサヨインテリのある種の緊縮ノスタルジアを論じた方が生産的かもしれないと思ったところです。

 

 

2021年4月 4日 (日)

浜村彰・石田眞・毛塚勝利編著『クラウドワークの進展と社会法の近未来』

Crowd 浜村彰・石田眞・毛塚勝利編著『クラウドワークの進展と社会法の近未来』(労働開発研究会)をお送りいただきました。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/9226/

近年、ますます拡大する個人請負・業務委託やフリーランス。とりわけ急速な進展を見せているのが、ネット上のプラットフォームを介したクラウドワークという働き方である。その実態を踏まえ法的課題を展望する。

本書は大きくいって、始めと終わりに大御所による総論が配置され、その間に若手による各国法制の報告と日本の実態調査報告が挟まっているという構造です。

基本的には2018年ごろに『季刊労働法』に連載されたものが元になっていますが、「あぁ、あれは読んだよ」と思ってはいけません。デジタル化の世界はドッグイヤー。クラウドだのプラットフォームだのの様相もわずか3年で大きく変わっているからです。これはとりわけ若手研究者たちによる各国の状況報告に顕著です。

どれも、(おそらく設定された刊行日との関係で締め切りぎりぎりまで事態の推移を追いかけながら書いたのだろうと思われますが)昨年末や今年初めの状況まで何とか盛り込もうとしています。

例えばドイツの後藤究さんは、クラウドワーカーの労働者性を逆転して認めた2020年12月の連邦労働裁判所判決を、判決文がまだ公開される前の速報記事に基づいて詳細に論じていますし、フランスの小林大祐さんはテイク・イート・イージー事件判決に加えて2020年のウーバー事件破毀院判決を詳細に紹介し、イギリスの滝原啓允さんについては彼はJILPT研究員なので政策論の動きはすでに聞いているのですが、アメリカの藤木貴史さんはカリフォルニア州のダイナメックス判決以来のてんやわんやをはじめ(自分では「アメリカ50州の動向をすべて分析したわけではない」と謙遜しながら)いろんな動向を見事に紹介していて、大変勉強になります。

『季刊労働法』で旧稿を読んだ人も、全然面目が変わっているので、ぜひ本書に目を通すべきです。

とりわけ、EUの井川志郎さんのは、この間の3年間に目まぐるしくいろんなことが立て続けに出され、全く新たな論文になっています。この分野は私も追いかけてきているところなので、井川さんが原稿を何回も書き直し書き加えてきていることが良くわかります。それでも一番最近の今年2月のプラットフォーム労働に関する労使団体への第1次協議に届かず、その直前までの欧州委の動きで原稿を確定しなければならなかったのは心残りかもしれません。

 

 

ほぼ年刊、川口美貴『労働法〔第5版〕』

Roudouhou5 川口美貴さんより1000ページを超えるテキスト『労働法〔第5版〕』(信山社)をお送りいただきました。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b10000028.html

って、確か去年も書いてなかったっけ。一昨年も、その前の年も・・・。

というわけで奥付けを確認すると、

2015年11月 第1版

2018年3月 第2版

2019年3月 第3版

2020年3月 第4版

2021年3月 第5版

と、第2版以来ほぼ年刊化していますね。糸井重里じゃないけれどタイトルに「ほぼ年刊」と入れたくなる頻度です。しかも1000ページを超える分厚さですからね。

というわけで、どこを突っ込もうかと考えたのですが、初版以来の本書の一つの特徴であるはじめの方で40ページ近くに亘って「労働法の形成と発展」というタイトルで労働法の歴史を叙述しているところに疑問を呈しておきたいと思います。

細目次ではこんな感じですが。

第2章 労働法の形成と発展
第1節 明治維新(1868年)からILO創立(1919年)まで
 1 労働法の前提となる近代的法基盤の整備
  (1) 所有権制度
  (2) 契約自由の原則と合意原則
 2 官営事業における労働法制の初期形成
  (1) 官営事業における労使関係
   ア 官吏と「雇員」「傭人」等
   イ 「使用者」と「労働者」の形成/1870(明治3)年
  (2) 「職工規則」「服務心得」/1872(明治5)年~
  (3) 労働関係法令の制定
   ア 災害扶助制度/1875(明治8)年
   イ 退職金制度/1876(明治9)年頃
  (4) 民営化に伴う労働条件承継と民営化後の就業規則制度
   ア 官営事業の組織と労働条件の承継
   イ 民営化後の職工採用時における労働条件決定
   ウ 民営企業における就業規則制度の確立/1890(明治23)年
   エ 就業規則制度の法制化/1890(明治23)年
 3 憲法、刑罰法規、一般民事法令による労働分野の規律
  (1) 結社の自由と労働組合の結成
   ア 大日本帝国憲法の規定/1889(明治22)年
   イ 労働組合の結成、団体交渉・労働協約/1904(明治37)年頃
  (2) 民法・民事訴訟法による雇用全般の規律
   ア 民事訴訟法による労働債権保護/1890(明治23)年
   イ 民法による雇用・請負・委任等の規律/1896(明治29)年
  (3) 組合結成・組合活動と刑罰法規
   ア 兇徒聚衆罪・騒擾罪/1880(明治13)年
   イ 治安警察法17条/1900(明治33)年
   ウ 運用実態
 4 産業分野別法令の中の労働関係条項
  (1) 船員労働法制/1879(明治12)年
   ア 海運事業の位置付けと労働関係法令
   イ 船員労働法制の特徴
  (2) 鉱夫に関する労働基準の設定/1890(明治23)年
   ア 鉱業条例による労働基準の法制化/1890(明治23)年
   イ 労働安全衛生に関する法規制の開始/1892(明治25)年
  (3) 工場職工に関する労働基準の設定/1911(明治44)年
   ア 工場法の内容と保護対象
   イ 施行令と施行規則による具体的規律
第2節 ILO創設(1919年)から終戦(1945年)まで
 1 ヴェルサイユ条約の批准、公布/1919(大正8)年
  (1) ILOの基本理念
  (2) ILOの創設
  (3) 日本の労働法制への影響
  (4) 内務省社会局の創設/1922(大正11)年
 2 職業紹介・健康保険制度の整備
  (1) 職業安定行政に関する法整備/1921(大正10)年
  (2) 健康保険制度の創設/1922(大正11)年
 3 労働組合の公認・規制と労働組合法案
  (1) 治安警察法17条の廃止/1926(大正15)年
  (2) 暴力行為等処罰ニ関スル法律の制定/1926(大正15)年
  (3) 労働争議調停法/1926(大正15)年
  (4) 労働組合法案の制定の動き
 4 労働基準の段階的引上げ
  (1) 児童労働の規制強化/1923(大正12)年
  (2) 労働時間規制の強化/1923(大正12)年~1939(昭和14)年
   ア ILO第1号条約/1919(大正8)年
   イ 保護職工の労働時間規制の強化/1923(大正12)年
   ウ 男性労働者に対する労働時間規制/1928(昭和3)年
  (3) 解雇予告制度/1926(大正15)年
  (4) 労働安全衛生に関する規則整備/1927(昭和2)年~
  (5) 女性の深夜労働規制の本格的実施/1928(昭和3)年
  (6) 工場法適用対象工場の拡大/1929(昭和4)年
  (7) 災害扶助対象の拡充と労災保険制度の創設/1931(昭和6)年
  (8) 商業労働者の労働時間規制/1938(昭和13)年
 5 戦時体制と労働法
  (1) 国家総動員法と関連法/1938(昭和13)年~
  (2) 厚生年金保険制度の発足/1941(昭和16)年
第3節 終戦(1945年)から現在まで
 1 終戦及び日本国憲法と労働法制等
  (1) 旧労働組合法の制定/1945(昭和20)年
  (2) 日本国憲法の制定/1946(昭和21)年
  (3) 労働基準法・職業安定法の制定/1947(昭和22)年
  (4) 労働保険・社会保険制度
 2 公務員の労働基本権の制限
  (1) 国家公務員法の制定/1947(昭和22)年
  (2) 政令201号/1948(昭和23)年
  (3) 公務員の労働基本権の制限/1948(昭和23)年~
 3 労働関係における人権保障
  (1) 自由と人格権保障
  (2) 国籍・信条・社会的身分を理由とする差別的取扱の禁止
  (3) 組合員等を理由とする不利益な取扱いの禁止
  (4) 性別を理由とする差別的取扱いの禁止
   ア 労基法の男女同一賃金原則
   イ 均等法による性差別禁止
  (5) 障害者の雇用保障と差別の禁止等
   ア 身体障害者雇用促進法
   イ 障害者の雇用の促進等に関する法律
  (6) 年齢と募集・採用における均等な機会
 4 労働基準
  (1) 労基法の制定と発展
   ア 労基法の制定/1947(昭和22)年
   イ 個別法の分離と制定
   ウ 労働時間法制の変遷
   エ 女性の就労制限の段階的緩和と撤廃/1985(昭和60)年~
  (2) 労働者災害補償保険法の制定と発展
   ア 労働者災害補償保険法の制定/1947(昭和22)年
   イ 長期療養者の生活保障と給付の充実/1955(昭和30)年~
   ウ 責任保険制度からの脱却/1965(昭和40)年
  (3) 賃金の支払の確保等に関する法律/1976(昭和51)年
  (4) 育介法の制定と発展/1991(平成3)年~
  (5) 次世代育成支援対策推進法/2003(平成15)年
  (6) 石綿による健康被害の救済に関する法律/2006(平成18)年
  (7) 過労死等防止対策推進法/2014(平成26)年
 5 労働契約
  (1) 民法改正/1947(昭和22)年
  (2) 労働契約法の制定/2007(平成19)年
  (3) 会社分割と労働契約承継法/2000(平成12)年
  (4) 非典型労働契約
   ア 労働者派遣と派遣労働契約
   イ パートタイム労働契約
   ウ 有期労働契約
   エ 職務に応じた待遇の確保
 6 集団的労使関係
  (1) 労働組合法
   ア 旧労組法の制定/1945(昭和20)年
   イ 現行労組法の制定/1949(昭和24)年
  (2) 労働関係調整法の制定/1946(昭和21)年
  (3) スト規制法の制定/1953(昭和28)年
 7 雇用保障・労働市場
  (1) 雇用の機会の確保
  (2) 雇用保険制度
  (3) 職業訓練・職業能力開発
  (4) 労働施策の基本方針
  (5) 高年齢者の雇用の促進
  (6) 求職者支援
  (7) 青少年の雇用促進
  (8) 女性の職業生活における活躍の推進
  (9) 外国人労働者の受入れと技能実習制度
 8 法的救済・紛争解決制度
  (1) 行政機関による救済制度
  (2) 裁判所における労働審判制度/2004(平成16)年
 9 民法改正(2017<平29>年)と労働法 

私自身の『日本の労働法政策』における独自の時代区分と違っているのは当然としても、戦後75年間を全部ひとまとめにして項目ごとに並べてしまうと、歴史叙述としての意味がなくなってしまうのではないかという気がします。第2部以降で項目ごとに詳しい叙述がされているのの単なる先出しになってしまっていて、その戦後75年間にどういう推移があったのか、それぞれの時代時代の特徴があるはずなのに、それが全部消えてしまっていて、せっかくこれだけの分量を歴史叙述に当てている意味が乏しいように思われました。

もう一つ、昨年版をいただいたときに、ワーカーズコレクティブ轍・東村山事件が早速載っていることを紹介しましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-ea214a.html

その関心の延長線上で、せっかくほぼ年刊化しているんだったら、昨年末に成立した労働者協同組合法における労働者性の問題についても一言何か書かれていたらよかったのに、と思いました。

この問題については、次の「労働法の立法学」で取り上げようと思っています。

 

 

2021年4月 2日 (金)

中村圭介『地域から変える』

563487 中村圭介『地域から変える』(旬報社)をお送りいただきました。

https://www.junposha.com/book/b563487.html

地域で働き、暮らす人々の生活改善にとって何が必要か!
「結束を強める」、「力を高める」、そして「社会を変える」という一筋の道を提起する。
~「静かな革命」を続ける7つの地域協議会の調査から見えてきたもの~ 

中村圭介さんの「地域」といえば、以前連合総研で調査され、教育文化協会から刊行された『地域を繋ぐ』が思い出されますが、本書はその続編という位置づけです。

第Ⅰ部 分析編

第1章 地域で顔を見せる運動と「静かな革命」
1 地域協議会の強化
2 地域を繋ぐ
3 地協に期待する機能
4 新たな調査
5 新たな方向性――地域から社会を変える
第2章 結束を強める
1 はじめに
2 地方連合会との連携
3 幹事会メンバー
4 加盟組織
5 組合員
6 まとめ
第3章 力を高める
1 はじめに
2 首長と議員
3 自治体
4 使用者団体
5 まとめ
第4章 地域から変える
1 はじめに
2 労働相談、生活相談と組織拡大
3 街頭宣伝行動
4 政策制度要請
5 まとめ
第5章 地域労働運動の可能性

第Ⅱ部 事例調査編
第1章 鶴岡田川地域協議会
第2章 外房地域協議会
第3章 中濃地域協議会
第4章 尾張中地域協議会
第5章 津地域協議会
第6章 福山地域協議会
第7章 京築田川地域協議会

 

 

 

「知的怠慢」への清涼剤として

昨日、エイプリルフールの日に、大内伸哉さんがブログ「アモリスタ・ウモリスタ」で、同一労働同一賃金という言葉をめぐるマスコミや専門家の「知的怠慢」を厳しく批判しています。

http://lavoroeamore.cocolog-nifty.com/amoristaumorista/2021/04/post-4d37f0.html

・・・ところで,「同一労働一賃金」は,いまだに「同じ仕事をすれば,同じ賃金がもらえる」という紹介の仕方を,ほとんどのマスメディアがしており,今回の産経新聞の記事も解説のところでは,その趣旨のことが書かれていました。しかし,そもそも日本の雇用社会で,そんなことが実現できるはずがないという疑問を,マスメディアの人はもたないのでしょうかね。そうした疑問をもたずに,法改正で「同じ仕事をすれば,同じ賃金がもらえる」ことになったという紹介の仕方をし続けるのは,知的怠慢と言うべきでしょう。・・・・

Image0_20210401085201_20210402084701 実は奇遇ですが、同じエイプリルフールの日に届いた倉重公太朗さん編著の『【日本版】同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて』(労働開発研究会)』の序章において、わたくしがまさにそこのところを鋭く問い詰めています。

・・・中小企業における施行(2021年4月)を目前にした現在、八つぁんよろしく「てぇへんだ、てぇへんだ」と「同一労働同一賃金」を煽り立てる書籍は書店にうずたかく積まれています。昨年の異様な「ジョブ型」の流行を見るまでもなく、薄っぺらな理解のまま流行語がもてはやされるのは世の常ではありますが、「【日本版】同一労働同一賃金」がいかなるものであり、そしていかなるものではないのかを、冷静に厳密に詳細に論じ尽くしていく本書をじっくり読んで、心を落ち着かせて下さい。

この書影の下の方の緑の帯状のところで、大御所の先生方が言われているのもその点なのでしょう(山口先生のシーザー云々はよく分かりませんが)。

「同一労働同一賃金」の本質を正しく喝破した上、判例・指針を正確に踏まえて企業実務を余すところなく指南する好著。東京大学名誉教授 菅野和夫

「日本版」の標題のとおりガイドラインのマジック的表現を判例分析などから、企業実務にわかりやすく解説。 安西法律事務所 弁護士 安西愈

「働き方改革」の視察にローマからシーザーがやってきた。一知半解は困るのでこの本を見せた。彼はたちどころに言った。「来た、見た、買った、すばらしい本だ」 上智大学名誉教授 山口浩一郎

「同一労働同一賃金」は法律を超えた広い視点からの検討が必要であり、法律家にとどまらず各分野の労働エキスパートが執筆する本書はこの課題に応える好著である。 学習院大学名誉教授 今野浩一郎

大内さんの指摘する「知的怠慢」への一服の清涼剤になるのではないでしょうか。

しかし倉重さん、ようこれだけ偉いひとのコメントもってきたなあ。

 

 

 

 

2021年4月 1日 (木)

【GoTo書店!!わたしの一冊】『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』

51iadqon5kl282x400 『労働新聞』に交替制で毎月寄稿している【GoTo書店!!わたしの一冊】ですが、今回は昨年話題を呼んだデヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』です。

https://www.rodo.co.jp/column/103943/

コロナ禍さなかの2020年7月に刊行され、その直後の9月に著者が急逝したこともあり、かなり評判を呼んだ本である。そこで列挙されている取り巻き(flunkies)、脅し屋(goons)、尻ぬぐい(duct tapers)、書類穴埋め人(box tickers)、タスクマスター(taskmasters)というブルシット・ジョブの5類型をみて、そうだそうだ、こいつらみんなクソだと、心中快哉を叫んだ人も少なくないだろう。とはいえ、すべてのブーメランは自分のもとに戻ってくる。・・・・・

最後のところで、ブルシットジョブにもジョブ・ディスクリプションのある海外と、そんなものなくてもいくらでも「働かないおじさん」が作れてしまう日本を対比しています。

 

 

倉重公太朗編著『【日本版】同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて』

Image0_20210401085201 倉重公太朗編著『【日本版】同一労働同一賃金の理論と企業対応のすべて』(労働開発研究会)が新年度の初日に届きました。

まだ版元のホームページには上がっていないようですが、これはなかなかいい本です。だって、私が序章を書いているんですから・・・というのは冗談ですが、上の写真では一見オビであるかのようにみえる下の方の緑色の帯状の推薦の言葉の欄には、菅野和夫、山口浩一郎、安西愈、今野浩一郎という大御所が名を連ねています。

山口先生曰く:

「働き方改革」の視察にローマからシーザーがやってきた。一知半解は困るのでこの本を見せた。彼はたちどころに言った。「来た、見た、買った、すばらしい本だ」

なんだかよく分かりませんが、カエサルも凄く褒めているようです。

序章「なぜ「日本版」同一労働同一賃金なのか」(JILPT研究所長濱口桂一郎氏)
第1章 日本版同一労働同一賃金とは(倉重)
第2章 最高裁7判例解説
第3章 基本給・賞与・退職金の理論と実務対応 (近衞弁護士、人事コンサル田代氏、JILPT山本陽大氏)
第4章 手当、その他労働条件の理論と実務対応(荒川・河本・池邊弁護士)
第5章 高年齢者雇用の理論と実務対応(JILPT藤本真氏、中山達夫弁護士)
第6章労働者派遣の実務(一般社団法人 日本生産技能労務協会 会長 青木秀登氏) 

(追記)

ようやく版元に紹介のページができたようですが、

https://www.roudou-kk.co.jp/books/book_list/9283/

書影と内容紹介だけじゃなく、なにやら不思議な写真もアップされているので、これは何かとよく目をこらしてみたら

225x300

倉重さんがせっせと本にサインしているところでした。

こちら、サイン入り数量限定版だそうです。

 

サプライチェーンと労働人権

たまたま『大原社会問題研究所雑誌』4月号をぱらぱら見ていたら、「第33回国際労働問題シンポジウム COVID-19危機からより良い仕事の未来へ――産業別の取組みと社会対話」という特集で、例によって政労使学の方々がいろいろとしゃべっているのですが、

https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/oz/contents/?id=2-001-0000069

【特集】第33回国際労働問題シンポジウム
COVID-19危機からより良い仕事の未来へ――産業別の取組みと社会対話
特集にあたって 藤原千沙
基調講演 COVID-19危機とILO 伊澤章
使用者(企業)の立場から 吉川美奈子
労働者(労働組合)の立場から 郷野晶子
政府の立場から 井内雅明
学識経験者の立場から 中村圭介 

このうち、使用者側を代表してできている吉川美奈子さんというのは、アシックスのCSR、サステナビリティを担当しておられる方なんですね。アシックスといえば、いままさに新疆ウイグル自治区の綿をめぐってもみくちゃになりつつあります。今はやりのSDGsですが、これまでは労働人権問題というと、東南アジアの縫製工場だとか、中国の半導体工場といったいわゆる苦汗工場、搾取工場の話だったわけですが、今回まさにアシックスが巻き込まれたように、ジェノサイド話にまで発展すると、今度はまさに国際政治の対立の真っただ中に放り込まれることになってきます。今まで思われているような生易しい話ではなくなってくる可能性がありますね。

 

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