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2021年3月22日 (月)

EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議@『労基旬報』2021年3月25日号

『労基旬報』2021年3月25日号に「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」を寄稿しました。

今大変注目を集めているプラットフォーム労働に対する労働条件規制にEuが今後どういう動きをしていくのか、ますます目が離せません。

 去る2021年2月24日、欧州委員会はEU運営条約第154条に基づくEUレベル労使団体への第1次協議を開始しました。今回のテーマは「プラットフォーム労働における労働条件に関する課題に対する可能な行動」です。今日世界的に大きな政策課題となっているプラットフォーム労働に、いよいよ正面から取り組み始めたことになります。今回はこの問題について、プラットフォーム労働が話題になる以前の政策の試みに遡ってEUレベルの政策動向を振り返り、今回の動きの今後の方向性を考えてみたいと思います。
 この問題の嚆矢は、1999年6月に、欧州委員会の委託を受けたシュピオ委員会が「EUにおける労働の変容と労働法の未来」に関する報告をまとめたことに遡ります。同報告書は、労働法の基本概念としての支配従属関係を再検討する必要があるとし、高度の労務指揮権と高水準の安定と福祉で特徴づけられるフォーディスト・モデルの労使関係が溶解し、ポスト・フォーディスト的労働形態が拡大する中で、かつてプレ・フォーディスト的状況に対して用いられた経済的従属性というメルクマールを改めて取り上げる必要があると論じました*1
 これを受けて欧州委員会が経済的従属労働者に関する政策を打ち出したのは、2000年6月、雇用関係の現代化に関するEUレベル労使団体への第1次協議で、テレワークと経済的従属労働者に関する施策を提起した時でした。しかしながらこの時には、概念があまりにも曖昧でスタンスの決めようがないと批判され、まず概念をはっきりさせ、どういう問題があるのか明らかにした上で再度協議し直せと、退けられてしまいました。なお、テレワークについては労使双方とも積極的な姿勢を示し、それに絞った第2次協議を経て労使団体間で交渉が行われ、2002年7月に初めての自律的協約としてテレワーク協約が締結されています。
 2002年10月にはペルーリによる「経済的従属/準従属雇用:法的、社会的、経済的側面」報告が、2004年5月にはシアラ委員会の「労働法の進化」報告が出されました。後者は、歴史的に労働法は商法からの自律性を強調してきたが、経済的従属労働においてはその境界が非常に曖昧になってきているという問題意識を示し、経済的に従属した個人的就業契約に対し尊厳や安全衛生といった一連の基本的権利を確立することを提起し、EU指令という形でその基準を明確化することを求めました。
 これらを受けて2006年11月、欧州委員会は「労働法現代化グリーンペーパー」を公表し、伝統的な被用者と自営業者の区別はもはや現実社会を十分に反映しなくなりつつあると述べ、経済的従属自営業者が行うサービスのための全ての個人的就業契約に一定の最低要件を導入することを示唆しました。しかしながら経営側は極めて消極的で、今回も何ら政策には結び付きませんでした。ここまでがいわば前史になります*2
 その後、世界的に経済のデジタル化が急速に進展し、プラットフォーム労働、クラウドワーク、ギグワークといったバズワードが飛び交うようになりました。そうした状況下で2010年代半ばから新たな政策への試みが始まります。
 まず注目すべきは欧州委員会の外郭団体であるEU生活労働条件改善財団(以下「EU労研機構」)が2015年3月に公表した「新たな就業形態」報告です。これはクラウドワークなど9種類の新たな就業形態を分析しています*3。これらを受けて2016年3月、欧州委員会は「欧州社会権基軸」について一般協議を開始しました。それに対する欧州議会の同年12月の決議は、近年拡大しているデジタル・プラットフォームの仲介による仕事や従属的自営業、さらにゼロ時間契約などのオンデマンド労働を念頭に、「あらゆる就業形態におけるディーセントな労働条件に関する枠組指令」を提案するよう求めました。
 これを受けて2017年4月、欧州委員会は書面通知指令の改正と「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」に関して、条約154条に基づく労使団体への第1次協議を開始しました*4。その後さらに、同年9月には前者についての、11月には後者についての第2次協議に進みました*5。そして同年12月には「透明で予見可能な労働条件指令案」を提案し、これには被用者の定義(プラットフォーム労働を含む)を含んでいましたが、2019年6月に成立した「透明で予見可能な労働条件指令」では被用者の定義規定は削除されていました*6。なお同指令はいわゆるゼロ時間契約に対する規制を盛り込んでおり、これは日本におけるシフト制アルバイトの問題に示唆するものがあります*7
 一方、同じ2019年6月には、労働政策サイドではなく経済政策サイドからの対応として、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則」が成立しています。同規則は、オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で(契約以前の段階も含め)容易に理解可能でアクセス可能なようにすべき(職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を含む)とか、オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了する場合、その理由を示すべきと規定しています*8
 2019年11月には「労働者と自営業者の社会保障アクセス勧告」が成立し、法的拘束力のない勧告ながら、自営業者にも労災保険・失業保険を含め社会保険を適用すべきと規定しました*9
 こうした流れの中で、遂に去る2021年2月24日に、欧州委員会がプラットフォーム労働者の労働条件について労使への第1次協議を開始したわけです。協議文書の大部分はこれまでの経緯の説明に充てられていますが、最後の数ページで「考えられる行動」が提示されています。今後、第2次協議を経て、「プラットフォーム労働者の労働条件指令」の制定に向かう可能性が高いだけに、その「考えられる行動」をじっくりと見ておきたいと思います。
 まず「プラットフォーム労働における就業上の地位の誤分類の是正」です。誤分類とは、本来労働者である者が自営業者に誤って分類されてしまうことですが、これを是正するために、反証可能な雇用の地位の推定と挙証責任の転換(つまり、利用者側が就業者が自営業者であると立証しない限り雇用労働者であると推定される)、デジタル労働プラットフォームに対する労働監督の強化、裁判外紛争解決手続きの整備が示されています。
 次に「万人に対する公正な労働条件の確保」です。プラットフォーム就業者が全て各タスクをを引き受ける前に報酬額と活動期間についての情報を得られるようにすることや、不公正な解雇やプラットフォームからの切断、適切に仕上げたタスクに対する報酬の不払いからの保護のほか、探索・待機時間への支払い、安全衛生のための就業時間の監視、災害防止なども提示されています。
 「プラットフォーム就業者の経済社会的リスクからの保護」としては、コロナ禍で自営業者や非典型労働者に失業給付や疾病給付へのアクセスが拡大された措置の恒常化やデジタル労働プラットフォームによる保険料負担の確保が示唆されています。
 「透明性、人間による監視と説明責任、個人情報保護規則の尊重に基づくプラットフォーム労働における自動化された意思決定へのアプローチの促進」としては、アルゴリズムによる管理意思決定に対し労働者が是正を求める仕組みや、潜在的に差別的でありうる意思決定のリスクを避けるため自動化された意思決定プロセスに人間による監視を組み込むことなどが上げられています。
 「団体交渉や集団的権利へのアクセス」としては、プラットフォーム就業者の組織化や情報提供・協議権などが論じられていますが、今まさに大問題となっているEU条約の競争法規制と団体交渉権の問題は、担当部局が異なることもあり取り上げられていません。なおこの問題については別途詳しく論じています*10
 「プラットフォーム労働と国境を越えた公正さの促進」としては、社会保障問題や裁判管轄権、適用法の問題が取り上げられています。
 「プラットフォーム労働者のキャリア開発や職能開発」としては、評判やデータのポータビリティ、訓練や技能向上への支援が挙げられています。
 今後の展開ですが、欧州労連(ETUC)がこの第1次協議の直前(2月9日)に出した「政治的ロードマップ」によると、3月下旬にETUCが第1次協議への回答文書をまとめ、4月~6月に第2次協議が行われ、2021年第4四半期には欧州委員会から何らかの提案(指令案?)がされる可能性があります。
 なお、欧州議会も2月9日に「プラットフォーム労働者の公正労働条件、権利及び社会保護に関する報告案」を公表しており、今後雇用社会問題委員会で討議され、6月中旬に意見をまとめる予定です。
 

*1濱口桂一郎「EU労働法思想の転換-アラン・シュピオ『雇用を超えて』を中心に-」『季刊労働法』197号(2001年)。
*2濱口桂一郎「EUにおける「経済的従属労働者」の法政策」『生活経済政策』2007年6月号。同「EUの労働法グリーンペーパーが提起する問題」『労働法律旬報』2007年1月合併号。
*3濱口桂一郎「EUの新たな就業形態」『労基旬報』2015年4月25日号。
*4濱口桂一郎「EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応」『労基旬報』2017年6月25日号。
*5濱口桂一郎「EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み」『労基旬報』2018年1月5日号。
*6濱口桂一郎「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」『季刊労働法』260号(2018年)。同「EU の透明で予見可能な労働条件指令」『労基旬報』2019年9月25日号。
*7濱口桂一郎「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」『労基旬報』2021年1月25日号。
*8濱口桂一郎「EUのプラットフォーム就業者保護規則案」『労基旬報』2018年6月25日号。
*9濱口桂一郎「自営業者への失業給付?-EUの試み」JILPT緊急コラム(2020年4月21日掲載。
*10濱口桂一郎「フリーランスと独占禁止法」『労基旬報』2021年1月5日号。同「フリーランスと団体交渉」『季刊労働法』272号(2021年)。

 

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