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2021年3月

2021年3月31日 (水)

長谷川珠子・石﨑由希子・永野仁美・飯田高『現場からみる 障害者の雇用と就労』

557837 長谷川珠子・石﨑由希子・永野仁美・飯田高『現場からみる 障害者の雇用と就労』(弘文堂)をお送りいただきました。

https://www.koubundou.co.jp/book/b557837.html

 平成25年に障害者差別解消法の制定と障害者雇用促進法の改正がなされ、大きな期待とともに始まった新たな障害者雇用・就労政策。しかし法の理念は一夜にして、そして思い描いた通りに実現するわけではなく、そこには「現場」における関係者の様々な受け止めや試行錯誤がありました。
 そこで本書は、雇用率の引上げ、差別禁止・合理的配慮義務の導入、一般就労移行施策といったものが障害者雇用・就労の「現場」でどう受け止められ、かつどのような影響を与えたかに着目。特例子会社やA型事業所・B型事業所へのインタビュー・ヒアリングやアンケートに基づいた実地調査の結果をもとに実証的な分析を加え、今後の障害者雇用・就労をめぐる法制度がどのように発展していくべきかの展望を探ります。

労働法の女性3人と法社会学の男性一人のカルテットで、アンケート調査、インタビュー調査を行ってその結果を分析しているという、おそらくこのメンツからはやや予想外な本です。

第1章 なぜ「現場からみる」のか?:研究の背景
 第1節 本書における研究の背景
 第2節 障害者雇用・福祉的就労政策のあゆみ
 第3節 現行制度
第2章 現場はどうなっているか?:実態調査の実施
 第1節 調査概要
 第2節 質問票調査調査の集計結果
 第3節 インタビュー調査
 第4節 現場の声:質問表調査およびインタビューから
第3章 会社・事業所のあり方のモデル分析
 第1節 多様な運営方針の可視化
 第2節 各スコアを用いた分析と類型化
第4章 法と法以外のものの役割:現場からみえること
 第1節 法制度の影響
 第2節 ネットワークの役割
第5章 法と実務をつなぐ雇用・就労政策
 第1節 各制度の役割と機能
 第2節 障害者雇用・就労法制の将来像

福祉的就労についてはどうしてもうとくなるのですが、本書が言っている「悪しきA型」(雇用型福祉的就労)問題については、改めてその問題の複雑さが伝わってきました。

 

藤村博之編『考える力を高める キャリアデザイン入門』

L16576 藤村博之編『考える力を高める キャリアデザイン入門 -- なぜ大学で学ぶのか』(有斐閣)をお送りいただきました。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641165762

大学1年生向けに,働くことの社会的意味や大学の学びとのかかわりを説きながら,キャリアとキャリアデザインを解説。キャリア教育と専門教育を結びつけ,専門課程に意欲的に取り組むことも含めて,大学4年間を有意義に過ごすためのヒントが得られるテキスト。

第7章の「やりがいはどこで生まれるのか」では、ジョブ型、メンバーシップ型も出てきます。

・・・流行り言葉に惑わされないように、ジョブ型とメンバーシップ型雇用の本質について解説します。・・・

 

 

 

『団結と参加 労使関係法政策の近現代史』遂に刊行

Danketsusanka_20210331115301 拙著『団結と参加 労使関係法政策の近現代史』が遂に刊行されました。

ご注文はリンク先からお願いします。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/danketsusanka.html

世界の集団的労使関係法制の歴史をコンパクトにまとめた学術的テキスト

労働分野では個別労働関係に関わる研究が圧倒的な日本。しかし、世界に目を転じると、今なお集団的労使関係法制の存在感は大きく、その改定が政治的対立の焦点になっています。本書は世界の集団的労使関係の歴史を法的視点から改めて見直し、新たな捉え方、考え方を示唆する1冊です。 

どれくらいまでカバーしているのかを、細目次でもってご確認下さい。

序章 労使関係法政策の諸類型と日本法制の性格
1 集団的労使関係法政策の諸類型
2 日本の集団的労使関係法制の性格

第1章 イギリス
1 労働者規制法と職人規制法
2 救貧法制
3 団結禁止法
4 友愛組合
5 工場法
6 団結禁止法の撤廃とその修正
7 主従法
8 1871年労働組合法
9 1875年法
10 1906年労働争議法
11 1913年労働組合法
12 第一次大戦と職場委員
13 ホイットレー委員会
14 賃金委員会法
15 1927年労働争議及び労働組合法
16 強制仲裁制度
17 第二次大戦と合同生産委員会
18 コレクティブ・レッセフェール
19 ドノヴァン報告書
20 1971年労使関係法
21 70年代労働党の労使関係法政策
22 経営参加構想
23 サッチャー政権の労使関係法政策
24 メージャー政権の労使関係法政策
25 賃金政策の推移
26 ブレア政権の労使関係法政策
27 EU指令に基づく情報協議規則
28 2016年労働組合法とEU離脱

第2章 フランス
1 絶対王制下の同職組合とマニュファクチュール
2 フランス革命期の団結禁止政策
3 二月革命期の国立作業場
4 第二帝政の労使関係法政策
5 第三共和制の労使関係法政策
6 労働組合の発展と第一次大戦後の労使関係法政策
7 全国経済審議会
8 人民戦線内閣の労働立法
9 ヴィシー政府の労使関係法政策
10 コルポラティスム
11 終戦直後期の労使関係法政策
12 1950年労働協約法
13 労働者参加の推進
14 企業内組合権の確立
15 オルー法
16 オブリ法
17 フィヨン法
18 労働立法プロセス
19 2008年法
20 エル・コムリ法
21 マクロン・オルドナンス
22 企業協定の優越

第3章 ドイツ
1 ツンフト体制
2 営業の自由と団結禁止
3 三月革命と団結自由
4 第二帝政の労使関係法政策
5 共同決定制の生成
6 第一次大戦と城内平和
7 11月革命とワイマール共和国の労使関係法政策
8 事業所委員会の確立
9 紛争調整制度の確立
10 ナチスの労使関係法政策
11 西ドイツにおける労使関係法制の再建
12 共同決定制の開花
13 1972年事業所組織法改正
14 1976年共同決定法
15 シュレーダー政権の労使関係法政策
16 メルケル政権の労使関係法政策

(付節) 東ドイツ

第4章 ドイツ周辺諸国

第1節 オーストリア
1 団結禁止時代
2 三月革命と団結自由
3 第一次大戦とオーストリア革命
4 教権ファシズムとナチス支配
5 第二共和国

第2節 スイス
1 労働協約法制のパイオニア
2 被用者代表法制の成立

第3節 ベルギー
1 第一次大戦前の労使関係法政策
2 戦間期の労使関係法政策
3 第二次大戦後の労使関係法政策

第4節 オランダ
1 第二次大戦前の労使関係法政策
2 ドイツ占領体制とネオ・コーポラティズムの形成
3 労使協議制

第5章 北欧諸国

第1節 スウェーデン
1 12月の妥協と労働協約法
2 基本協約
3 企業協議会
4 1970年代の共同決定立法
5 労働者重役法と労働者基金構想

第2節 デンマーク

第3節 ノルウェー

第4節 フィンランド

第6章 南欧諸国

第1節 イタリア
1 労働運動の形成
2 国家の政策
3 工場評議会運動
4 ファシズムの労使関係法政策
5 戦後労使関係の枠組みと憲法
6 「熱い秋」と労働者憲章法
7 イタリア型ネオ・コーポラティズム
8 被用者代表制度の再確立
9 解雇規制の緩和

第2節 スペイン
1 王制期とプリモ・デ・リヴェラ体制
2 第二共和政の労使関係法政策
3 フランコ体制と労働憲章
4 戦後フランコ体制下の労使関係法政策
5 民主化後の労使関係法政策
6 解雇規制の緩和

第3節 ポルトガル

第4節 ギリシャ

第7章 東欧諸国

第1節 ポーランド
1 社会主義体制下の労使関係法政策
2 連帯運動以後の労使関係法政策
3 体制転換前後の労使関係法政策
4 体制転換後の労使関係法政策

第2節 チェコ(旧チェコスロバキア)
1 社会主義体制下の労使関係法政策
2 体制転換後の労使関係法政策

第3節 ハンガリー

第4節 (旧)ユーゴスラビア
1 社会主義体制の成立
2 労働者自主管理の展開
3 労働者自主管理の解体

第8章 ロシア(旧ソビエト)
1 帝政ロシアの労使関係法政策
2 ロシア二月革命
3 ロシア十月革命と戦時共産主義
4 ネップ時代の労使関係法政策
5 スターリン時代の労使関係法政策
6 非スターリン化時代の労使関係法政策
7 ペレストロイカの労使関係法政策
8 体制転換後のロシア労使関係法政策

第9章 アメリカ
1 労働差止命令とシャーマン法
2 クレイトン法
3 第一次大戦と全国戦時労働局
4 鉄道労働法制
5 福祉資本主義と被用者代表制
6 ノリス・ラガーディア法
7 全国産業復興法
8 ワグナー法
9 ニュー・ディール型労使関係の企業別的性質
10 第二次大戦と戦時労使関係
11 タフト・ハートレー法
12 ランドラム・グリフィン法
13 GM-UAW協約体制
14 労働法改善法案
15 ダンロップ委員会報告とチーム法案
16 被用者自由選択法案

第10章 その他のアメリカ諸国

第1節 カナダ
1 労働争議調査法
2 戦時立法
3 労働関係争議調査法
4 労働法典第5部

第2節 メキシコ
1 連邦労働法
2 2012年労働法改革
3 2019年労働法改革

第3節 ブラジル
1 統合労働法
2 2017年改定労働法

第11章 オセアニア

第1節 オーストラリア
1 強制仲裁制度の成立
2 強制仲裁制度の推移
3 企業レベル協定への法改正
4 職場関係法
5 労働選択法
6 公正労働法

第2節 ニュージーランド
1 強制仲裁制度の成立
2 労働党政権の改革
3 1991年雇用契約法
4 2000年雇用関係法

第12章 日本
1 治安警察法
2 労働組合法制定に向けた動きの始まり
3 労働委員会法案
4 戦前期の労働組合法案
5 労働争議調停法
6 産業報国会
7 1945年労働組合法
8 労働関係調整法
9 経営協議会
10 占領政策の転換
11 1949年の法改正
12 1952年の法改正
13 労使協議制
14 過半数代表制
15 公共部門の労働基本権問題
16 集団的労使関係システムをめぐる法政策論

(付節) 琉球

第13章 韓国
1 日本統治下の朝鮮
2 アメリカ軍政時代
3 李承晩政権の労使関係法政策
4 朴正熙政権の労使関係法政策
5 維新体制の労使関係法政策
6 全斗煥政権の労使関係法政策
7 民主化宣言と1987年改正
8 三禁問題の混迷
9 三禁問題と1997年改正
10 アジア通貨危機と1998年改正
11 2010年改正

第14章 中国

第1節 中華民国
1 清朝末期の労働争議禁圧政策
2 北京政府の労働争議禁圧政策
3 広東政府の労使関係法政策
4 国民政府(広東、武漢)の労使関係法政策
5 南京国民政府の労使関係法政策
6 日中戦争期の労使関係法政策
7 国共内戦期の労使関係法政策

第2節 中華人民共和国
1 建国期の労使関係法政策
2 社会主義化時代の労使関係法政策
3 大躍進と文化大革命
4 改革開放時代の労使関係法政策
5 1992年工会法
6 1993年労働争議処理条例
7 1994年労働法
8 2001年工会法
9 2007年労働契約法と労働紛争調停仲裁法

第3節 香港

第4節 台湾
1 国民政府による接収
2 台湾国民政府の労使関係法政策
3 戒厳令解除と改正労資争議処理法
4 労使関係法制大改正への道程
5 新工会法
6 新団体協約法
7 新労資争議処理法

第15章 その他のアジア諸国

第1節 フィリピン
1 弾圧の時代と黙認の時代
2 強制仲裁制度の時代
3 団体交渉制度の時代
4 任意仲裁・強制仲裁の枠内での団体交渉制度の時代
5 その後の推移

第2節 タイ
1 初期労働立法
2 1956年労働法
3 革命団布告第19号
4 革命団布告第103号
5 1975年労働関係法
6 弾圧と融和
7 その後の動向
8 労働関係法の改正問題

第3節 マレーシア
1 英領マラヤの労働組合令
2 独立マレーシアの労働組合法制
3 1971年改正
4 1980年改正
5 1989年改正

第4節 シンガポール
1 独立以前の労使関係法制
2 独立シンガポールの労使関係法制

第5節 インドネシア
1 独立からスカルノ時代
2 スハルト時代の法制
3 通貨危機とスハルト後の法制改革

第6節 ベトナム
1 ベトナム戦争と社会主義化の時代
2 ドイモイ時代の労使関係法制
3 労使関係法制の動向
4 2019年労働法改正

第7節 カンボジア

第8節 ラオス

第9節 ミャンマー(ビルマ)
1 植民地時代からクーデタまで
2 社会主義時代
3 民政移管後の労使関係法制

第10節 インド
1 1926年労働組合法
2 1947年の労働組合法改正と労働争議法
3 労使関係法制改正の試み
4 モディ政権の労働法改革

第11節 モンゴル

補章1 欧州連合(EU)
1 EU労働法の展開
2 リストラ関連指令
3 欧州会社法
4 欧州労使協議会指令
5 一般労使協議指令
6 労使の立法関与
7 労働基本権

補章2 国際労働機関(ILO)
1 ILOの創立
2 結社の自由と団結権
3 その他の労使関係に関わるILO条約等

 

 

 

自分の給料を自分で決めるのは勝手だが、いかなる意味でもジョブ型じゃない

いや別に、自分の給料を自分で決めるんだ、と吹き上がるのは勝手だし、好きなようにすればいいと思うけど、そいつはいかなる意味でもジョブ型じゃない。それをなんと呼ぼうが勝手だが、ジョブ型と呼ぶことだけは許されない。

だって、座る前に椅子に値札が付いているのが、つまりヒトじゃなくてジョブに値段が付いているのがジョブ型なんであって、その点は上澄み層の成果給であろうが下の層の固定価格制だろうが変わらない。

この値段(上層部は査定により変動あり)の椅子に座れるヒトはいますか?と募集して、わたしはできるぞと応募して、その値札付きの椅子に座るのが言葉の正確な意味におけるジョブに就くという意味での就職なんだから、自分の給料は自分で決めるとうそぶく人間は一番お呼びではない。

昨年来のジョブ型商売では、おおむねみんな、いかにジョブ型じゃないものばかりを持ち出してジョブ型ジョブ型と売り込もうとしてきたかしれないけれど、ここまでくるとほとんど冥王星並みだな。

2021年3月29日 (月)

御用組合の外部調達

昨年8月、東京都労委の興味深い救済却下決定に接して、こういうエントリを書きましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/08/post-50e58d.html(首都圏青年ユニオン連合会はまっとうな労働組合に非ず@東京都労委)

昨日、東京都労委はグランティア事件という不当労働行為救済申し立て事案について、却下するという決定を下しましたが、その理由を見ると、そもそも申し立て組合つまり首都圏青年ユニオン連合会はまっとうな労働組合じゃないと一刀両断されていて、私の知る限りこういうケースって初めてなんじゃないでしょうか。・・・

その少し後に、宮城県労委が下したある不当労働行為の救済命令の中に、その首都圏青年ユニオン連合会が登場していました。『別冊中央労働時報』117号に掲載されている佐田事件です。ここでは、中労委のHPに載っている概要を引用しますが、

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m12115.html

Y1会社は、平成29年9月26日の段階から共済組合と協調して行動しており、平成30年3月29日に、共済組合の代表で あり、また、Y1会社とアドバイザリー業務契約を締結しているC2会社代表取締役社長のC3氏を通じ、組合員に脱退届用紙を 配付するという行為を行い、A執行委員長を除くC1工場の全組合員が脱退届を提出するという状況を招いたことが認められる。 さらに、組合員がC4労働組合に加入したという形態を取ることによりユニオン・ショップ協定に基づく組合員の解雇を回避する ため、C3氏を介して組合員をC4労働組合に加入させようとしたと認められる。その後もY1会社は、C4労働組合と労働協約 を締結し、団結を維持するための組合の行為に対して抗議する文書を出すなど組合員の脱退を既成事実化するための活動を、共済 組合及びC4労働組合と協調して行っていることが認められる。よって、C3氏及び共済組合によりなされた一連の行為は、これ らの者がY1会社と無関係に行ったものではなく、組合の弱体化を目的としてY1会社と一体的に行われた行為と認められるか ら、Y1会社による労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。

この「C4労働組合」が、首都圏青年ユニオン連合会なんですね。

都労委の方では典型的な合同労組、コミュニティ・ユニオン的な行動をとる一方で、こちらではこれまた典型的な御用組合として大活躍しているようで、商売繁盛というところでしょうか。

しかし、御用組合というのは普通、自社の子飼いの中から作らせるものではないかと思うのですが、こちらはわざわざ首都圏から東北地方にまで出張しての外部調達、それもUAゼンセンの組合相手に御用組合をやろうというのですから、なかなか度胸があります。

こういうのを見ると、ほかでもいろいろと似たような商売をやっていそうで、日ごろあんまりきちんと見ない労委の命令を見ておいた方がよさそうです。

 

塩谷隆英『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』

9784785728519 塩谷隆英『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』を、執筆協力者の一人薦田隆成さんよりお送りいただきました。

https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=14162880

戦後日本の国土政策のプランナーである下河辺淳さんは、戦後史をあれこれ調べるといろんなところで名前にぶつかるのですが、労働社会政策とはほとんど重なるところがなく、あまり縁のない方という印象でした。

本書は下河辺さんの弟子筋の方々の研究会をもとに塩谷さんがまとめた下河辺さんの伝記ということで、いろいろと興味深いエピソードがたくさん載っています。

 

 

海老原嗣生『人事の組み立て』

283060_common_pc 海老原嗣生さんの『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)をお送りいただきました。

https://shop.nikkeibp.co.jp/front/commodity/0000/283060/

「はじめに」が「ジョブ型祭りに見る脱日本型失敗の本質」で、最後の「解説に代えて」が「日本的ジョブ型祭りへの鎮魂歌」というくらいに、昨年来の狂乱的なジョブ型祭りに徹底して突っ込んでる本です。

というわけで、わたしが言ってることとあまり変わりません。ていうか、物事の本質的とらえ方が一緒なので、各論でいくつか異論もありますが、まあそれは大したことない。

その「解説に代えて」によると、

・・・本書はまさに、中央大学大学院での授業をそのまま再現したに等しい内容だ。

とのことですが、ふむむ、わたくしが同じコースでおおまじめに日本の労働法政策を講じているというのに、こんなに楽しいことばかりしゃべっていたんですねえ。

ジョブ型がはやりもんだと目を付けた有象無象がここのところ怒涛の如くジョブ型本を出しまくってますが、まあ正直本書一冊読めば後はゴミ箱に放り込んでおいてかまわないでしょう。

 

 

 

2021年3月26日 (金)

『Japan Labor Issues』4月号

Jli_20210326090801 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』4月号がアップされました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2021/030-00.pdf

Trends Column
Working Hours under the COVID-19 Pandemic in Japan: Reviewing Changes by Situation Phase during and after the 2020 State of Emergency Declaration TAKAMI Tomohiro

Japan’s Employment System and Public Policy 2017-2022
Labor-management Relations in Japan Part I: Characteristics of the Collective Labor Relations System HAMAGUCHI Keiichiro

Special Feature on Research Papers (III)
The Necessity of Reduced Working Hours under the Re-familization of Elderly Care  IKEDA Shingou
Selection and Training of Women Officers in Japanese Labor Unions: Focusing on Enterprise Unions GOTO Kayo 

「トレンド」は高見具広さんのコロナ禍と労働時間の分析、延々連載している雇用システムは、今回から私の労使関係論、研究論文精選は池田心豪さんの介護の話と後藤加代さんの労組の女性役員の話です。

 

2021年3月25日 (木)

『POSSE』 vol.47

Hyoshi47 『POSSE』 vol.47をお送りいただきました。

http://www.npoposse.jp/magazine/no47.html

サービス経済化が進み、女性・非正規労働者は、その経済構造の主要部分に組み込まれている。コロナであらゆる仕事がストップしている状況でも、小売や物流、医療、福祉などの分野で働く労働者たちは「エッセンシャルワーカー」として社会的注目を集めた。ここで働いている労働者の多くが、女性であり、非正規雇用であった。

他方で、女性・非正規労働者の多くは、休業補償がなされず、「会社を守るために」と解雇・雇い止めされ、感染リスクに晒され続けている。

女性・非正規労働者の多くはコロナの下で「エッセンシャル」な存在だとされながら、相変わらず差別されつづけているのだ。第一特集では、コロナが明らかにした構造的な矛盾を様々な角度から分析し、今後の展望を探る。

第1特集は女性と非正規ですが、第2特集の外国人労働者が実にさまざまな視角から取り上げていて、大変有意義な記事になっています。

◆第一特集「非正規差別と働く女性たち」
コロナで顕在化した日本の女性差別をどう乗り越えるか――市場化される公共サービスとケアワーク、そこでの労働運動の役割 竹信三恵子(ジャーナリスト)×蓑輪明子(名城大学経済学部准教授)×今野晴貴(NPO法人POSSE 代表)
サービス経済化と女性の労働力化の問題点 蓑輪明子(名城大学経済学部准教授)
「女性の働き方・生活へのコロナ影響調査」最終報告①働く女性たちがコロナ禍で直面した多くの困難 青木耕太郎(総合サポートユニオン共同代表)
「女性の働き方・生活へのコロナ影響調査」最終報告②コロナによる生活困窮で追い詰められる女性たち 渡辺寛人(POSSE 事務局長・本誌編集長)
非正規差別の是正に向けた“職務評価”とパート有期法の活用――最高裁5判決を踏まえ、労働組合が取り組むべき課題は? 中村和雄(弁護士)×遠藤公嗣(明治大学教授)
コロナ禍で深刻化する「非正規差別」と闘うユニオン運動 本誌編集部
コロナ禍で変化する「貧困のかたち」と生活保護改革 今岡直之(POSSEスタッフ)

◆第二特集「生きる権利を! コロナ危機下の外国人労働者」
「移動の時代」が終わった先に何があるのか?――欧州・豪州の現状から未来を展望する 大石奈々(メルボルン大学准教授)×岡部みどり(上智大学教授)×五十嵐泰正(筑波大学准教授)
犯罪者にする入管法改正案 指宿昭一(弁護士)
「国産野菜」をつくる技能実習生――新型コロナが可視化した日本農業の構図 荻田航太郎(ブラックバイトユニオン共同代表)
コロナ禍で追い詰められる技能実習生――行政機関が加担する人権侵害の現実 本誌編集部の事例を通じて 本誌編集部
スタバは本当にSDGsを実践しているのか?――技能実習生の人権侵害と取引先企業の責任 本誌編集部
クルド難民の生存権獲得に向けて――相談会とその後の実践から見えた可能性 岩本菜々(POSSE外国人労働サポートセンターボランティア・大学生)
コロナ禍があぶり出した外国人技能実習生の労働問題――帰国もできず、不法滞在に追い込まれる実習生たち 北島あづさ(岐阜一般労働組合執行委員長)
アメリカ「ドリーマー」たちの工房ーー非正規滞在の若者による運動はどのように生存権と教育権を実現してきたか 山本健太朗(POSSEボランティア)

最初の鼎談で、大石さんが語るオーストラリアの「オーペア」労働者の話や、荻田さんの描く農業の実習生の姿、北島さんの語るカンボジア人実習生など、今号の読みどころはこの第2特集の方にあります。

ですが、ここではそのあとに出てくる青木耕太郎さんの真剣に皮肉に満ちた文章を紹介しておきたいと思います。

特別定額給付金は労働者の権利向上につながるか?――「恩恵」を求める運動は「権利」の行使を抑制する 青木耕太郎(総合サポートユニオン共同代表) 

ここで狂言回し役で出てくるのは、再度の10万円給付を求める野党議員。これに対し、「最終的には生活保護がある」と答えた菅首相に対して、蓮舫議員が「あんまりですよ、この答弁。生活保護に陥らせないためにするのが総理の仕事」と批判したことが、いかに危険な批判であるかを一つ一つ解きほぐすように解説していきます。

・・・蓮舫議員らは、特別定額給付金という「恩恵」に拘泥するあまり、生活保護という「権利」の価値を見失ってしまったのだ。・・・

そこから青木さんは、「権利」の不在のゆえに「恩恵」を求めてしまう日本社会の構造を論じていきます。問題の射程からすると、今号の中ではこの文章が一番でしょう。

 

 

 

 

 

木下武男『労働組合とは何か』

Kinoshita 木下武男さんの『労働組合とは何か』(岩波新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.iwanami.co.jp/book/b559580.html

日本では「古臭い」「役に立たない」といわれる労働組合。しかし世界を見渡せば、労働組合が現在進行形で世界を変えようとしている。この違いの原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことによる。社会を創る力を備えた労働組合とはどのようなものなのか。第一人者がその歴史と機能を解説する。

しかし、本書については、「ありがとうございます」で済ますわけには生きません。

「労働組合論という今どきあまり関心を持たれない」(あとがき)テーマを一般向けの新書で取り上げたという意味では、昨年の『働き方改革の世界史』を書いた私としては、おざなりではなく、疑問点をいくつも提起しておくべきだと考えるからです。

ジョブ型雇用の希薄な日本でジョブ型労使関係をどう論ずるのかという問題意識がほぼ類似しているからこそ、そこをきちんと指摘しておかなければなりません。

本書の構成は次のようになっています。

はじめに
第一章 歴史編1 ルーツを探る――「本当の労働組合」の源流は中世ギルドにある
 1 労働組合の遠祖・ギルドの原理
 2 中世市民社会と日本でのその不在
 3 職人組合から労働組合へ
第二章 歴史編2 「団結せよ、そして勤勉であれ」――職業別労働組合の時代
 1 近代市民社会の形成と論理
 2 初期労働組合の形成
 3 産業革命と労働者の階級形成
 4 職業別労働組合の確立
第三章 分析編1 労働組合の機能と方法
 1 労働組合とは何か
 2 労働組合と政党
第四章 歴史編3 よるべなき労働者たち――一般労働組合の時代
 1 新労働組合運動(ニュー・ユニオニズム)の台頭
 2 一般労働組合の基盤と組合政策
 3 労働組合の形態転換と労働政治
第五章 歴史編4 アメリカの経験――産業別労働組合への道
 1 労働運動の二つの潮流
 2 職業別組合の限界と産業別組合の挫折
 3 労働者の企業別分断と産業別組合の対抗
第六章 分析編2 いかにして社会を変えるのか――ユニオニズムの機能
 1 産業化の新しい段階と産業別労働組合
 2 労働組合機能の発展
 3 産業別組合組織と産業別統一闘争
第七章 歴史編5 日本の企業別労働組合――日本的労使関係の形成・衰退
 1 戦前第一期――「渡り職工」と横断的労働市場
 2 戦前第二期――戦前期労働運動の高揚と弾圧
 3 戦前第三期――日本的労使関係の戦前期形成
 4 戦後第一期――労働運動の高揚と日本的労使関係の形成(一九四五~六〇年)
 5 戦後第二期――企業主義的統合と労使協調の労働組合(一九六〇~七五年)
 6 戦後第三期――労働戦線統一と総評解散(一九七五~九〇年)
 7 戦後第四期――戦後労働運動の危機とユニオニズムの創造(一九九〇年~)
第八章 分析編3 日本でユニオニズムを創れるのか
 1 時代の転換と働く者の悲惨――雇用不安、貧困、過酷な労働
 2 日本における産業別労働組合の登場
 3 ユニオニズムの主役はどこにいるのか
 4 ユニオニズムの創り方
あとがき
参考文献 

第1章から第4章までは主としてイギリスを舞台に展開します。拙著ではウェッブ夫妻の本で説明したトレード型の「集合取引」の世界です。

第5章はアメリカに舞台を移します。ジョブ・コントロール・ユニオニズムの世界です。

しかし、話はそこで終わってはいないのです。

イギリスはその後、労働組合のコントロールの及ばないショップスチュワードの世界が展開し、それが政治問題になり、それがちょうど拙著ではアラン・フランダースの本で説明した辺りですが、その後サッチャーの手で労働組合に壊滅的な打撃が加えられ、労働組合による集団的決定の世界は非主流化してしまいました。今のイギリスはむしろノンユニオン型です。

アメリカはその後、ジョブコントロールユニオニズムが行き過ぎて、経営側の攻撃の前にどんどん縮小していきます。拙著ではブルーストーン親子の本で説明したところですが、今のアメリカもメインストリームはノンユニオンです。

そこのところが、本書は明示的に書かれていません。

敢えて言えば、半世紀前に書かれた労働運動史みたいです。当時の労働史研究では、なんといっても断然イギリス、次いでアメリカ、その余はおまけみたいな感じでしたからそれでいいでしょう。でも2021年に出す本でもそれでいいのかというのが最大の疑問です。

実は、以上の次の第6章の分析編では、現在の産業別組合の機能が説明されていますが、そこで登場するのはドイツです。いやそれはわかります。いま現在、産業別組合が業界団体と協約を結んでその職種別賃金が各企業に適用されるなどという仕組みが大々的に行われているのはドイツなど大陸ヨーロッパ諸国なのですから。でも、その歴史は歴史編にはほとんど登場しないのです。

ここに、私は本書の一つ目の問題点を見ます。半世紀前の英米労働史中心史観のままでは、現在の世界の労使関係状況を分析できないのではないかということです。そしてそれはもう一つの大きな論点につながります。

なぜドイツ始めとする大陸ヨーロッパ諸国は産業別労働条件決定システムを維持しているのか。人によっていろいろ議論はあると思いますが、まちがいなく事業所委員会などの企業内従業員代表制が企業内のことを担当してくれているから、安心して企業の事情に引きずられない産別決定が可能になっているのではないかと思うのです。この話が、本書では欠落しています。むしろ、従業員代表制がアメリカでは会社組合とされ禁じられてしまうがゆえに、安定した企業レベルと産業レベルの分業体制が構築できず、今日のノンユニオン型に陥ってしまったのではないか、ということを考えれば、これは極めて大きな問題です。

この世界の労使関係の歴史における認識のズレが、本書後半における日本の歴史にも現状分析にも影を落としているように見えます。議論の軸が大幅にずれているのです。

敢えて言えば、ジョブ型とメンバーシップ型の軸と、政治志向における左派と右派の軸が混交してしまって、分析が濁っているように見えます。終戦直後の生産管理闘争を遂行した極めて急進左派的な産別会議は、その実相においては産業報国会の嫡子であり、その後の産別民同を経て総評、連合に流れ込むメンバーシップ型の企業主義的労働運動の中心なのです。むしろ、戦前の企業外的運動を受け継ぐ総同盟の方がジョブ型に近い感覚を残していました。

このあたりは、先日遂に終刊してしまった『HRmics』に、沼田稲次郎の『現代の権利闘争』を引用しつつ論じたところであり、また昨年なくなった桝本純さんのオーラルヒストリーの中で彼が力説していたところでもありますが、ここでは前者から沼田の鮮烈な分析を引用しておきましょう。

「戦後日本において労使関係というもの、あるいは経営というものがどう考えられているかということ、これは法的意識の性格を規定する重要なファクターである。敗戦直後の支配的な規範意識を考えてみると、これにはたぶんに戦争中の事業一家、あるいは事業報国の意識が残っていたことは否定できないと思う。生産管理闘争というものを、あれくらい堂々とやれたのは極貧状態その他の経済的社会的条件の存在によるところにちがいないが、またおそらくは戦時中の事業報国の意識の残存であろうと思われる。事業体は国に奉仕すべきだという考えかた、これが敗戦後は生産再開のために事業体は奉仕すべきだという考え方になった。観念的には事業体の私的性格を否定して、産業報国とそれと不可分の“職域奉公”という戦時中の考え方が抽象的理念を変えただけで直接的意識として労働関係をとらえた。」
「すると、その経営をいままで指導していた者が、生産サボタージュのような状態をおこしたとすれば、これは当然、覇者交替だったわけで、組合執行部が、これを握って生産を軌道にのせるという発想になるのがナチュラルでなければならない。国民の懐いておった経営観というものがそういうものであった、経営というものは常に国家のために動いておらねばいけないものだ。しかるにかかわらず、経営者が生産サボをやって経営は動いておらない。これはけしからん。そこで組合は、われわれは国民のために工場を動かしているんだということになるから、生産管理闘争というものは、与論の支持を受けたわけでもあり、組合員自身が正当性意識をもって安心してやれたということにもなる。」
「たとえば組合専従制というもの、しかも組合専従者の給与は会社がまるまる負担する。組合が専従者を何人きめようが、これは従業員団であるところの組合が自主的にきめればいいわけである。また、ストライキといっても、労働市場へ帰って取り引きする関係としてよりも、むしろ職場の土俵のなかで使用者と理論闘争や権力の配分を争う紛争の状態と意識されやすい。経営体としてわれわれにいかほどの賃金を支払うべきであるかという問題をめぐって経営者と議論をして使用者の言い分を非難する-従業員としての生存権思想の下に-ということになる。課長以下皆組合に入っており、経営者と談判しても元気よくやれた。ときには、「お前らは戦争中うまいことやっていたじゃないか」というようなこともいったりして、経済的というよりもむしろ道義的な議論で押しまくった。団体交渉の果てにストライキに入ると、座り込んで一時的であれ、職場を占拠して組合の指導下においてみせる。そして、経営者も下手をすれば職場へ帰れないぞという気勢で戦ったということであろう。だから職場占拠を伴う争議行為というものは、一つの争議慣行として戦争直後は、だれもそれが不当だとは考えておらなかった。生産管理が違法だということさえなかなか承服できなかった。職場、そこはいままで自分が職域奉公していた場所なのだから、生産に従事していた者の大部分がすわり込んで何が悪いのか。出ていけなんていう経営者こそもってのほかだという発想になる。」

生産管理闘争をやるくらい急進的な企業主義的組合だからこそ、それが左右のベクトルを変えれば生産性向上運動に邁進する企業主義的組合にもなるという、このメカニズムこそが、戦後日本の労働運動史を理解するための鍵なのです。民間労組が協調化した後、なお左派運動をやっていた公的部門の労働運動も、国労にせよ全逓にせよみんなやたらに大きな企業別組合なのであって、なんらジョブ型ではなかったし、政治的に潰されると見事に民間型の企業主義的組合になったのも、政治的論評はともかくとして、労働組合としての本質はなんら変わっていないとしかいいようがないのです。

ここは、現代日本の労使関係を論ずる上でのキモになるところだと思うので、きちんと指摘しておくべきだと思います。

 

 

 

2021年3月24日 (水)

相澤美智子『労働・自由・尊厳』

559571 相澤美智子『労働・自由・尊厳 人間のための労働法を求めて』(岩波書店)をお送りいただきました。

https://www.iwanami.co.jp/book/b559571.html

労働とは何か。憲法の職業ないし勤労に関する人権は、日本国憲法の全体系においてどのような位置を占めているのか。国連憲章及び世界人権宣言において基本原理とされている「尊厳」概念は労働法とどのような関係に立っているのか――。フランス憲法史、ドイツ憲法史なども視野に入れながら、労働法の根本問題を考察。

ということなんですが、・・・・・うーん、正直、意味がよくわからない。序章で紹介されているヴィッキー・シュルツさんの論文、家事労働に賃金をというフェミニストやベーシックキャピタルを主張する「リベラル」に反論して、労働はそれ自体意味があるぞという、方向性としてはむしろ同意するところが多いけれども、よくある議論という感想しか湧いてこず、相澤さんが受けたという「衝撃と感動」がよくわからない。

そして第1部の労働論で、芝田進午の『人間性と人格の理論』を、もうこれ以上ないくらい持ち上げるのですが、この共産党直属のクラシカルなマルクス・レーニン主義者の議論のどこにそれほど感動できるのか、相澤さんが熱っぽく論じれば論じるほど置いてけぼりにされた感が募ります。結局、社会主義が崩壊したので共産主義への意向には賛成しかねるというのですが、じゃあ一体何なのという感が残ります。

せっかくお送りいただいておいて失礼なことばを並べるようですが、労働法学にどういう意味があるのかよくわからないという印象はぬぐえませんでした。

相澤さんの前著『雇用差別への法的挑戦』は、拙著『働く女子の運命』でもちらりと引用させていただいたりしており、結構興味深く読めたのですが、今回の本は正直波長が最初から合わないという感じでした。

 

 

高橋賢司・橋本陽子・本庄淳志『テキストブック労働法』

9784502366918_430 高橋賢司・橋本陽子・本庄淳志『テキストブック労働法』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-36691-8

雇用社会の変化を意識しつつ規制目的・内容が理解できる。法概念と判例法理の基本的な説明に加え、重要判例については概要・判旨を明示して事案に即した形で司法判断を解説。

300ページ弱のやや小ぶりのテキストブックですが、今日的課題にできるだけ触れようとしている雰囲気があちこちにあります。

冒頭、第1章の3の「雇用システムと労働法」(本庄さん執筆)で、ふつうにジョブ型、メンバーシップ型と出てきて、ふつうに正しい解説がされてます。これくらいがふつうになるといいですね。

 

 

2021年3月22日 (月)

EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議@『労基旬報』2021年3月25日号

『労基旬報』2021年3月25日号に「EUのプラットフォーム労働における労働条件に関する労使への第1次協議」を寄稿しました。

今大変注目を集めているプラットフォーム労働に対する労働条件規制にEuが今後どういう動きをしていくのか、ますます目が離せません。

 去る2021年2月24日、欧州委員会はEU運営条約第154条に基づくEUレベル労使団体への第1次協議を開始しました。今回のテーマは「プラットフォーム労働における労働条件に関する課題に対する可能な行動」です。今日世界的に大きな政策課題となっているプラットフォーム労働に、いよいよ正面から取り組み始めたことになります。今回はこの問題について、プラットフォーム労働が話題になる以前の政策の試みに遡ってEUレベルの政策動向を振り返り、今回の動きの今後の方向性を考えてみたいと思います。
 この問題の嚆矢は、1999年6月に、欧州委員会の委託を受けたシュピオ委員会が「EUにおける労働の変容と労働法の未来」に関する報告をまとめたことに遡ります。同報告書は、労働法の基本概念としての支配従属関係を再検討する必要があるとし、高度の労務指揮権と高水準の安定と福祉で特徴づけられるフォーディスト・モデルの労使関係が溶解し、ポスト・フォーディスト的労働形態が拡大する中で、かつてプレ・フォーディスト的状況に対して用いられた経済的従属性というメルクマールを改めて取り上げる必要があると論じました*1
 これを受けて欧州委員会が経済的従属労働者に関する政策を打ち出したのは、2000年6月、雇用関係の現代化に関するEUレベル労使団体への第1次協議で、テレワークと経済的従属労働者に関する施策を提起した時でした。しかしながらこの時には、概念があまりにも曖昧でスタンスの決めようがないと批判され、まず概念をはっきりさせ、どういう問題があるのか明らかにした上で再度協議し直せと、退けられてしまいました。なお、テレワークについては労使双方とも積極的な姿勢を示し、それに絞った第2次協議を経て労使団体間で交渉が行われ、2002年7月に初めての自律的協約としてテレワーク協約が締結されています。
 2002年10月にはペルーリによる「経済的従属/準従属雇用:法的、社会的、経済的側面」報告が、2004年5月にはシアラ委員会の「労働法の進化」報告が出されました。後者は、歴史的に労働法は商法からの自律性を強調してきたが、経済的従属労働においてはその境界が非常に曖昧になってきているという問題意識を示し、経済的に従属した個人的就業契約に対し尊厳や安全衛生といった一連の基本的権利を確立することを提起し、EU指令という形でその基準を明確化することを求めました。
 これらを受けて2006年11月、欧州委員会は「労働法現代化グリーンペーパー」を公表し、伝統的な被用者と自営業者の区別はもはや現実社会を十分に反映しなくなりつつあると述べ、経済的従属自営業者が行うサービスのための全ての個人的就業契約に一定の最低要件を導入することを示唆しました。しかしながら経営側は極めて消極的で、今回も何ら政策には結び付きませんでした。ここまでがいわば前史になります*2
 その後、世界的に経済のデジタル化が急速に進展し、プラットフォーム労働、クラウドワーク、ギグワークといったバズワードが飛び交うようになりました。そうした状況下で2010年代半ばから新たな政策への試みが始まります。
 まず注目すべきは欧州委員会の外郭団体であるEU生活労働条件改善財団(以下「EU労研機構」)が2015年3月に公表した「新たな就業形態」報告です。これはクラウドワークなど9種類の新たな就業形態を分析しています*3。これらを受けて2016年3月、欧州委員会は「欧州社会権基軸」について一般協議を開始しました。それに対する欧州議会の同年12月の決議は、近年拡大しているデジタル・プラットフォームの仲介による仕事や従属的自営業、さらにゼロ時間契約などのオンデマンド労働を念頭に、「あらゆる就業形態におけるディーセントな労働条件に関する枠組指令」を提案するよう求めました。
 これを受けて2017年4月、欧州委員会は書面通知指令の改正と「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」に関して、条約154条に基づく労使団体への第1次協議を開始しました*4。その後さらに、同年9月には前者についての、11月には後者についての第2次協議に進みました*5。そして同年12月には「透明で予見可能な労働条件指令案」を提案し、これには被用者の定義(プラットフォーム労働を含む)を含んでいましたが、2019年6月に成立した「透明で予見可能な労働条件指令」では被用者の定義規定は削除されていました*6。なお同指令はいわゆるゼロ時間契約に対する規制を盛り込んでおり、これは日本におけるシフト制アルバイトの問題に示唆するものがあります*7
 一方、同じ2019年6月には、労働政策サイドではなく経済政策サイドからの対応として、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則」が成立しています。同規則は、オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で(契約以前の段階も含め)容易に理解可能でアクセス可能なようにすべき(職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を含む)とか、オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了する場合、その理由を示すべきと規定しています*8
 2019年11月には「労働者と自営業者の社会保障アクセス勧告」が成立し、法的拘束力のない勧告ながら、自営業者にも労災保険・失業保険を含め社会保険を適用すべきと規定しました*9
 こうした流れの中で、遂に去る2021年2月24日に、欧州委員会がプラットフォーム労働者の労働条件について労使への第1次協議を開始したわけです。協議文書の大部分はこれまでの経緯の説明に充てられていますが、最後の数ページで「考えられる行動」が提示されています。今後、第2次協議を経て、「プラットフォーム労働者の労働条件指令」の制定に向かう可能性が高いだけに、その「考えられる行動」をじっくりと見ておきたいと思います。
 まず「プラットフォーム労働における就業上の地位の誤分類の是正」です。誤分類とは、本来労働者である者が自営業者に誤って分類されてしまうことですが、これを是正するために、反証可能な雇用の地位の推定と挙証責任の転換(つまり、利用者側が就業者が自営業者であると立証しない限り雇用労働者であると推定される)、デジタル労働プラットフォームに対する労働監督の強化、裁判外紛争解決手続きの整備が示されています。
 次に「万人に対する公正な労働条件の確保」です。プラットフォーム就業者が全て各タスクをを引き受ける前に報酬額と活動期間についての情報を得られるようにすることや、不公正な解雇やプラットフォームからの切断、適切に仕上げたタスクに対する報酬の不払いからの保護のほか、探索・待機時間への支払い、安全衛生のための就業時間の監視、災害防止なども提示されています。
 「プラットフォーム就業者の経済社会的リスクからの保護」としては、コロナ禍で自営業者や非典型労働者に失業給付や疾病給付へのアクセスが拡大された措置の恒常化やデジタル労働プラットフォームによる保険料負担の確保が示唆されています。
 「透明性、人間による監視と説明責任、個人情報保護規則の尊重に基づくプラットフォーム労働における自動化された意思決定へのアプローチの促進」としては、アルゴリズムによる管理意思決定に対し労働者が是正を求める仕組みや、潜在的に差別的でありうる意思決定のリスクを避けるため自動化された意思決定プロセスに人間による監視を組み込むことなどが上げられています。
 「団体交渉や集団的権利へのアクセス」としては、プラットフォーム就業者の組織化や情報提供・協議権などが論じられていますが、今まさに大問題となっているEU条約の競争法規制と団体交渉権の問題は、担当部局が異なることもあり取り上げられていません。なおこの問題については別途詳しく論じています*10
 「プラットフォーム労働と国境を越えた公正さの促進」としては、社会保障問題や裁判管轄権、適用法の問題が取り上げられています。
 「プラットフォーム労働者のキャリア開発や職能開発」としては、評判やデータのポータビリティ、訓練や技能向上への支援が挙げられています。
 今後の展開ですが、欧州労連(ETUC)がこの第1次協議の直前(2月9日)に出した「政治的ロードマップ」によると、3月下旬にETUCが第1次協議への回答文書をまとめ、4月~6月に第2次協議が行われ、2021年第4四半期には欧州委員会から何らかの提案(指令案?)がされる可能性があります。
 なお、欧州議会も2月9日に「プラットフォーム労働者の公正労働条件、権利及び社会保護に関する報告案」を公表しており、今後雇用社会問題委員会で討議され、6月中旬に意見をまとめる予定です。
 

*1濱口桂一郎「EU労働法思想の転換-アラン・シュピオ『雇用を超えて』を中心に-」『季刊労働法』197号(2001年)。
*2濱口桂一郎「EUにおける「経済的従属労働者」の法政策」『生活経済政策』2007年6月号。同「EUの労働法グリーンペーパーが提起する問題」『労働法律旬報』2007年1月合併号。
*3濱口桂一郎「EUの新たな就業形態」『労基旬報』2015年4月25日号。
*4濱口桂一郎「EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応」『労基旬報』2017年6月25日号。
*5濱口桂一郎「EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み」『労基旬報』2018年1月5日号。
*6濱口桂一郎「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」『季刊労働法』260号(2018年)。同「EU の透明で予見可能な労働条件指令」『労基旬報』2019年9月25日号。
*7濱口桂一郎「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」『労基旬報』2021年1月25日号。
*8濱口桂一郎「EUのプラットフォーム就業者保護規則案」『労基旬報』2018年6月25日号。
*9濱口桂一郎「自営業者への失業給付?-EUの試み」JILPT緊急コラム(2020年4月21日掲載。
*10濱口桂一郎「フリーランスと独占禁止法」『労基旬報』2021年1月5日号。同「フリーランスと団体交渉」『季刊労働法』272号(2021年)。

 

放送大学「雇用社会と法」PR動画

國武英生さんが来月から放送大学で「雇用社会と法」を担当されるということは、そのテキストをお送りいただいたときに紹介していますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2021/03/post-948760.html(國武英生『新訂 雇用社会と法』)

その放送大学のPR動画がyoutubeにアップされていたので、こちらで紹介しておきます。

水町勇一郎、道幸哲也、浅野高宏、開本英幸、濱口桂一郎といったメンツが顔を出しています。

 

 

 

 

 

 

 

2021年3月21日 (日)

木下秀雄・武井寛編著『雇用・生活の劣化と労働法・社会保障法』

08480 木下秀雄・武井寛編著『雇用・生活の劣化と労働法・社会保障法』(日本評論社)をお送りいただきました。龍谷大学のシリーズです。今回は副題に「コロナ禍を生き方・働き方の転機に」とあるように、コロナ禍をめぐっての論考となっています。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8480.html

コロナ禍で激変した社会・就労構造をめぐる問題を労働法と社会保障法の視点から解明し、人間らしい社会生活の仕組みを探究する。

私自身のものも含め、大体似たような領域を論じているんですが、その中でちょっと異色というか、ほかの雑誌特集や出版物では取り上げられていないトピックとして、濱畑さんによる大学非常勤講師をめぐる問題があります。

第4章 複数就業と労働・社会保障の課題ーー大学非常勤講師の働き方を中心に……濵畑芳和

複数就業といったときに、ある面からはハイエンドな仕事でありながら、他の面からはワーキングプアでもあるのが大学非常勤講師の世界でしょう。

とりわけ、一人で十いくつも掛け持ちしている専業非常勤講師は、一コマ幾らの安い報酬で、特に今回のコロナ禍では、大学ごとに異なるLMSに対応してオンライン授業をしなければならず、実際の労働時間が週100時間を超える状態すらあったようです。

いろんな意味で労働法や社会保障の矛盾が凝縮しているのですが、そもそも今の大学というビジネスモデルの矛盾が露呈しているのかもしれません。

 

 

 

櫻井純理編著『どうする日本の労働政策』

556538 櫻井純理編著『どうする日本の労働政策』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.minervashobo.co.jp/book/b556538.html

いわゆる正社員ではない「多様な働き方」の広がりは、経済的格差や貧困問題にもつらなる重大な社会的課題となっている。本書は、労働市場の周縁に置かれてきた「非正規」雇用者、女性、若者、外国人、中小企業従業員、フリーランスなどの労働者層に特に焦点を当てる。賃金・労働時間・労使関係などの基本的な政策を捉えたうえで、人々の生活と尊厳の支えとなる「まともな働き方」を展望し、必要な政策を提言する。

「いま社会政策に何ができるか」という3冊シリーズの一巻で、他の2冊は福祉政策と家族政策ということです。

初めの5章が、賃金、労働時間、労使関係といった基本枠組み別、後の10章はもう少し細かいトピック別という編成です。概ねこんなものかなというトピックが並ぶ中で、大変異色なのが本田一成さんの執筆になる第11章です。

第11章 「正社員主義」からの自由――労組「ローキョー」とは
 1 何が問題か/「労働者の宿命」を知ろう
 2 こう考えればいい/労組労供で賃金を引き上げる
 3 ここがポイント/労組労供の真価とは
 4 これから深めていくべきテーマ/自由労働者で行こう

推察するに、本書のこの辺りに本田さんを持ってきた編者の意図は、パート主婦層の問題を書いてもらおうとしたのではないかと推測するのですが、本田さんはあえてここにローキョーをもってきました。ローキョーはローキョーでも、労組労供、労働組合による労働者供給事業という、まあ日本社会全体の中では極めて微細な部分なんですが、ものすごく熱っぽく労組労供を論じています。

実は私自身、12年前の『新しい労働社会』で労組労供に触れたことがありますが、ほかにこのレベルのテキストブックで触れたものはおそらくないのではないかと思われ、大変異色な部分になっています。

あと、本書は編者の意向でしょうが、各章とも

 1 何が問題か
 2 こう考えればいい
 3 ここがポイント
 4 これから深めていくべきテーマ

という枠組みで書かれ、その冒頭にグラフィック・イントロダクションという図解が置かれていますが、これが章によってまさに図解になったり、グラフであったり、ポンチ絵であったり、必ずしも統一されていない感があります。

 

 

 

 

2021年3月20日 (土)

中身は基礎の基礎だが、タイトルがクソ

P1_20210320142401 海老原さんの顔が大写しになってデーンと出てきたので、早速読んでみましたが、いや中身は1から10まで全部その通り、というか昨年来私も口を酸っぱくしてあちこちで喋ってることとほとんど同じ。わかっている人がジョブ型を論じればみんなこうなるという典型。なんだけど・・・

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00271/031900002/

これは日経ビジネス編集部の責任だと思うのだけど、このタイトルはひどすぎる。課長であれ係長であれ、ジョブ型社会であればそれはマネージするという機能そのものであって、そのポストにふさわしいスキルを有するものをそこにはめ込むという以上のものではなく、いかなる意味でも年功でつけてあげる処遇なんかじゃないんだが、日本では管理職が事務職とか営業職と同じ並びの職種なんだと教えてあげるとみんながみんな、信じられないことを聞いたかのようにびっくりする。

そういうメンバーシップ型感覚にどっぷりつかって何の疑いも感じない愚か者におもねるように、7割は課長になれないなどということを言いつのってみせる手合いもいるわけだけど、海老原さんはそういう手合いとは全然違って、そもそもなれるだのなれないだということ自体がジョブ型じゃねえんだよと教え諭しているのに、このタイトルでは、まるで海老原さん自身が、そういうメンバーシップ感覚にどっぷりつかってジョブ型を説く一知半解の手合いであるかのように見えるではないか。

まあ、世の中の連中なんかみんなそんなレベルだから、こういうインチキなタイトルで釣れればいいと甘く見ているのかもしれないけれど、私だったらちょっと許せないですね。

なんなんだい、このタイトルは。

「ジョブ型雇用」導入すれば、係長にもなれない人が続出する

ってさ。

 

2021年3月19日 (金)

スペインのプラットフォーム労働政労使協約のポイントはアルゴリズム透明性

Anearanguiz 数日前にスペインでプラットフォーム労働に関する政労使協約が報じられていたのですが、正直、労働者性を認めたってのはもう何カ国でもある話なので、何が目新しいのかなと思っていたのですが、ソーシャル・ヨーロッパにこういう記事が載っていました。

https://www.socialeurope.eu/spains-platform-workers-win-algorithm-transparency

曰く、スペインのプラットフォーム労働者はアルゴリズム透明性を獲得する

このアネ・アランギスさんによると、今回の協約のポイントは二つあり、一つは労働者性ですが、画期的なのはアルゴリズム透明性だそうです。

This requires a modification of article 64 of the Workers’ Statute, on the right of workers to information, making it mandatory for platforms to inform workers’ legal representatives about the mathematical or algorithmic formula determining their working conditions.

Accordingly, digital platforms will have to make available to trade unions an algorithm, or any artificial intelligence of sorts, which may have an impact on such conditions—including individuals’ access to, and maintenance of, employment and their profiling. This right to information is granted to everyone working through a platform—not only ‘riders’—and thus the transparency requirement applies to all digital platforms equally. 

これは、労働者憲章法第64条の労働者の情報入手権を改正して、プラットフォーム企業が労働者の法的代表に彼らの労働条件を決定する数学的又はアルゴリズムの基準について情報提供することを義務づけるものである。

従って、デジタルプラットフォームは労働組合に対して、個人の雇用へのアクセスと維持並びにプロファイリングを含め、労働条件への影響を有するアルゴリズム又はいかなるその種の人工知能についても利用可能にしなければならない。この情報入手権は「ライダー」に限らずプラットフォームを通じて働くすべての人々に与えられ、それゆえこの透明性要件はすべてのプラットフォーム企業に等しく適用される。

ブラックボックスみたいなアルゴリズムの中の仕組みをプラットフォーム労働者に明かせというわけですね。

なるほど、これは興味深いです。

 

いま学ぶ!渋沢資本主義(4) 日本型「企業別労働組合」の源流@『週刊エコノミスト』

8_20210319145201 まだ紙媒体の方は届いていませんが、『週刊エコノミスト』3月30日号の広告が出てまして、そこに、私の小文も出ています。

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210330/se1/00m/020/021000c

76 連載 いま学ぶ!渋沢資本主義(4) 日本型「企業別労働組合」の源流  濱口 桂一郎

大河ドラマも始まり、世間で注目の渋沢栄一と労働問題との関わりは何か?

日本の労働法政策史の中で、渋沢は2カ所登場する。工場労働者の保護を目的にした「工場法」の制定と、労使協調のための研究調査をする「協調会」の設立である。前者は労働基準法の前身で、後者は労使協議制に関わる。・・・

 

 

 

 

2021年3月17日 (水)

川上淳之『「副業」の研究』

41utttw7al_sx327_bo1204203200_ 川上淳之さんより『「副業」の研究 多様性がもたらす影響と可能性』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766427332/

もう一つ仕事を持つ意味を探求する
単なる「サイドビジネス」的位置づけではなく、ワーキングプアの副業という課題、本業へのスキルアップ効果、非金銭的動機による副業の性格、幸福度や健康との関係まで、経済学的視点から多面的にアプローチした「新しい働き方」理解のための本格的な決定版!

川上さんは先日、『改革者』で拙著『働き方改革の世界史』を書評していただいておりますが、本書は川上さんがずっと取り組んでこられた副業の労働経済学研究のとりまとめです。

川上さんの副業研究は、2017年の労働関係論文優秀賞を受賞していまして、そのときに確か授賞式で語られたことが頭に残っていたのですが、それが本書でもあとがきに書かれています。

この本の執筆のきっかけになる副業研究のアイディアを思いついたのは、2011年の秋頃、霞ヶ関から上石神井に移動する西武新宿線の車内だった。当時の私は、三つの研究所と二つの非常勤講師を担当する、いわば副業だらけのクィンタプル・ワーカーであった。慌ただしく職場間移動する中で、私は次のようなことを考えた。

「自分は、午前中に進めていた企業の生産性に関する研究の方法を、午後の職場で進めている最低賃金の研究に適用することができている。このような形で研究ができるのは、自分が複数の仕事をしているからかもしれない」

もちろん、午前中の霞ヶ関とは経済産業研究所(RIETI)であり、午後の上石神井とは労働政策研究・研修機構(JILPT)ですね。そこで生産性と最低賃金の研究という見事なカップリングができたわけです。

とはいえ、この発想だけで研究が進められたわけではありません。川上さんのお母さんが、真剣な口調で

「世の中、そういう副業ばかりではないんじゃないの?」

といわれたことが、本書の研究のここかしこに現れています。

世の中には副業に関する本はごまんと出ていますが、この問題に関する本格的な経済学的研究としては初めての本じゃないでしょうか。

ただ、せっかくこれだけの本として出されただけに、校了直前まで最新の情報を書き込んでいただきたかった感はあります。

p241に

本章を執筆した2020年8月の時点では、この議論を踏まえて労働政策審議会において議論が続けられている。・・・・

と書かれているのですが、いや同月に議論は終わって、兼業・副業促進ガイドラインが改定され、翌9月から施行されているので、ちょっともったいない気がします。本書の出版は2021年3月なので、十分書き込む余裕はあったと思うのですが・・・。

 

 

 

珍しく極めてまっとうなコンサル系「ジョブ型」論

Rouseijihou 濱口は、メディアに載る「ジョブ型」を見る度に、「これは違うぞ、あれも違うぞ」とわめき続けているのではないかとご心配の皆さま。気分はそれに近いところもありますが、それでもたまに見るジョブ型論に、正真正銘極めてまっとうなものがあるととても嬉しくなります。

特に、コンサル系の方の文章に、ジョブ型の現場感覚溢れるまっとうな叙述を見ると、その同業者諸氏に「おまいら、まずこれ嫁」という気分になりますね。

どれがそれなのかと言いますと、紙媒体の『労政時報』の4009号、4010号に連載された三菱UFJリサーチ&コンサルティングの石黒太郎さんの「丁寧に考察するジョブ型雇用の人材マネジメント 〜経験者によるポイント解説〜」です。

https://www.rosei.jp/common/data/backnumber/pdf/4009.pdf

https://www.rosei.jp/common/data/backnumber/pdf/4010.pdf

この石黒さん、

筆者は、組織人事のコンサルタントにキャリアチェンジする以前、自動車関連日本企業の本社人事部から北米製造法人に海外駐在した経験を有する。ジョブ型雇用の現地労働社会において、3000名規模の従業員を擁する会社の人材マネジメントを統括することが筆者の駐在員としての役割だった。ジョブ型雇用を人事部門長の立場から実際に運用した当時の苦労から、日本企業にとってジョブ型雇用への移行は一筋縄ではいかない難題であることを肌身で感じており、ジョブ型雇用という言葉が安易かつ不適切に日本の経済界で独り歩きしている今の状況を強く憂いている。

という方で、本場のジョブ型を身にしみて体験した方であるだけに、流行に乗って一知半解をまき散らす向きとは断然違う的確な解説を繰り出していきます。

もちろん、それらはすべてジョブ型社会の常識なのですが、その常識が消え失せ、非常識なジョブ型論ばかりが跋扈する昨今、一服の清涼剤として、是非服用を勧めます。

 

2021年3月16日 (火)

『団結と参加 労使関係法政策の近現代史』が今月末刊行

Danketsusanka 今月末、JILPTより『団結と参加 労使関係法政策の近現代史』を刊行いたします。

https://www.jil.go.jp/publication/ippan/danketsusanka.html

世界の集団的労使関係法制の歴史をコンパクトにまとめた学術的テキスト

 労働分野では個別労働関係に関わる研究が圧倒的な日本。しかし、世界に目を転じると、今なお集団的労使関係法制の存在感は大きく、その改定が政治的対立の焦点になっています。本書は世界の集団的労使関係の歴史を法的視点から改めて見直し、新たな捉え方、考え方を示唆する1冊です。 

最新の情報まで盛り込んでいます。

序章 労使関係法政策の諸類型と日本法制の性格
第1章 イギリス
第2章 フランス
第3章 ドイツ
第4章 ドイツ周辺諸国
第5章 北欧諸国
第6章 南欧諸国
第7章 東欧諸国
第8章 ロシア(旧ソビエト)
第9章 アメリカ
第10章 その他のアメリカ諸国
第11章 オセアニア
第12章 日本
第13章 韓国
第14章 中国
第15章 その他のアジア諸国
補章1 欧州連合(EU)
補章2 国際労働機関(ILO) 

『季刊労働法』2021年春号(272号)

272_webscaled_20210316093301 というわけで、『季刊労働法』2021年春号(272号)が届きました。既にお知らせしたように今号の特集はフリーランスとクラウドです。

私は、労働法の立法学はお休みで、フリーランスの特集の方に、「フリーランスと団体交渉」を書いています。

私には珍しく、アメリカ、日本、EUを横断して、競争法と労働法の絡み合いを書きました。

はじめに
1 アメリカ反トラスト法と労働組合
2 日本の独占禁止法と労働組合
3 EUの競争法と労働組合
(1) EU競争法と労働組合
(2) FNV事件欧州司法裁判決
(3) ICTU事件欧州社会権委員会決定
(4) EU競争法の見直し
(5) OECDの動向
4 競争法によるフリーランス保護の落とし穴

なお、全体の目次は以下の通りです。

特集 新しいフリーランス保護を考える
労働形態の多様化と就労者の保護―労働者概念と独禁法規制 関西大学大学院法務研究科教授 川口 美貴
フリーランスと団体交渉 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎
全世代型社会保障検討会議フリーランスガイドライン案の意義と課題 小樽商科大学教授 國武 英生
建設業一人親方の「労働問題」の特殊性と偽装請負 岩手県立大学講師 柴田 徹平

第2特集 ドイツ・クラウドワーク調査報告
ドイツにおけるクラウドワーク・ビジネスと労働組合のクラウドワーク政策の現在―CS研究会ドイツ調査報告 労働法学研究者 毛塚 勝利
Testbirds社におけるテスト型クラウドソーシング 明治大学大学院 小林 大祐
テキスト・コンテンツ作成型プラットフォームの現状―Textbroker社へのヒアリングをもとに― 中央大学大学院 後藤 究
Jovoto社に対する訪独インタビュー調査の要旨と考察 帝京大学法学部助教 藤木貴史 山口大学准教授 井川 志郎 中央大学大学院 後藤 究
ドイツCSPFビジネスとクラウドワークをめぐる議論の現在―PF調査とカッセル大学研究者との意見交換をふまえて 労働法学研究者 毛塚 勝利

■特別企画■ 2018年労働者派遣法の課題
派遣労働者の「同一労働同一賃金」の課題―派遣先均等・均衡方式を中心にして― 法政大学教授 沼田 雅之
労働者派遣における同一労働同一賃金原則―とくに労使協定方式(派遣法30条の4)に関するドイツ法との比較― 学習院大学教授 橋本 陽子

■論説■
従業員代表制の常設化と労働組合機能(上)北海道大学名誉教授 道幸 哲也
雇用紛争の解決に関する司法システム:独英日の比較研究 グリニッジ大学名誉教授 スーザン・コービー 東京大学教授 山川 隆一
労働者の個人情報の収集・利用に係る同意概念―労働法と個人情報保護法の交錯― 同志社大学 国際取引・国際法務研究センター 研究員 岡村 優希

■アジアの労働法と労働問題 第44回■
最近の韓国労働法上の問題点―最近の「組合三法」改正を中心に― 韓国外国語大学校・法学専門大学院教授 李 鋌

■判例研究■
有期労働契約者に対する賞与・退職金の不支給とその不合理性判断 大阪医科薬科大学事件(最3小判令和2年10月13日労判1229号77頁)・メトロコマース事件(最3小判令和2年10月13日労判1229号90頁)の最高裁判決の検討 福岡大学教授 所 浩代
職場におけるヘイトスピーチとハラスメント フジ住宅事件(大阪地堺支判令和2年7月2日労判1227号38頁)専修大学教授 石田 信平

■重要労働判例解説■
インストラクター型の業務委託者の労働基準法上の労働者性 イヤシス事件・大阪地判令元・10・24労判1218号80頁 弁護士 松岡 太一郎
セクシュアルハラスメントによる精神障害の業務起因性国・札幌東労基署長(紀文フレッシュシステム)事件・札幌地判令2・3・13労判1221号29頁 東洋大学講師 田中 建一

このうち、今まで手薄だったので勉強の必要性を強く感じたのは、岡村優希さんの個人情報の論文です。山本陽大さんのドイツの労働4.0なんかでも、個人情報保護が五大トピックの一つに入っているくらいで重要な論点なんですが、どうしても日本では影が薄くなります。

 

 

 

2021年3月15日 (月)

佐野嘉秀『英国の人事管理・日本の人事管理』

41uc0v2yl_sx346_bo1204203200_ 佐野嘉秀さんより『英国の人事管理・日本の人事管理』(東京大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。大著です。

http://www.utp.or.jp/book/b553618.html

職務給の国イギリスと日本の仕事・賃金・人事管理は,どこまで近づいたか.名著『イギリスの工場・日本の工場』でのR.ドーアの見通しをもとに,日英の代表的な百貨店を舞台とする労働世界に分け入り,丹念な実態調査より浮かび上がる,雇用システムの収斂と多様性.

まさに、職務型のイギリスと職能型の日本の違いを、百貨店の売り場の人事管理の細かいところを目を皿のように調べた結果を300ページ以上のモノグラフにした本ですが、あえて乱暴にたった一言でまとめてしまうならば、

イギリスの職務型、日本の職能型はなんら変わっちゃいない。ドーアの予測に反して収斂はしていない。だけど、イギリスの職務給は、昔と違って上の方だけじゃなくて、下の方まで差のつく成果職務給になっている。そこが変化だ。日本は正規と非正規がきれいに分離していたのが、非正規も範囲は狭いが能力査定で右肩上がりのカーブを描くようになっている。いわば非正規も部分的に職能型化している。そこが変化だ。

ということになりましょうか。

逆に言えば、イギリスの職務主義はドーアが考えた以上に強固だったということかもしれませんし、日本の職能主義も、ジョブ型だなんだと言うわりに、非正規まで巻き込むくらい強固だったということかもしれません。

この発見が、百貨店というこれまであまり研究対象にされてこなかった業種の特性に関わるものであるのか、他の伝統的業種でも多かれ少なかれ似たような傾向が現われてきているのかというのは、読者が共通に抱く疑問だと思います。

一点、これは通読している最中、ずっと気になっていたのですが、employeeを「雇用者」と呼ぶのは、日本の戦後労働経済統計における悪しき慣習だと思っているので、毎ベージこの言葉が出てくる度に「いやいや、それは被用者でしょう」と独りごちていました。本来の日本語でも、「雇用者」は能動態であって、employerという意味の言葉のはずです。

 

 

2021年3月11日 (木)

令和2年度 冲永賞受賞の言葉

先日、拙著『日本の労働法政策』が労働問題リサーチセンターの沖永賞を受賞いたしましたが、その受賞の言葉が同センターのHPにアップされています。

https://cf1aa20d-0d32-40ae-9b9c-3853c57c6746.filesusr.com/ugd/98f445_35bf822cfbbf4c44bda0137deca921b9.pdf

立派な研究成果が並ぶ冲永賞の末席に大学院用の教科書が並んで良いものか、というのが受賞を聞いた正直な感想でしたが、労働法にも政策過程論が必要だという審査委員の先生方の意思が拙著を依代として下されたものと理解しております。ありがとうございました。

(参考)

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2004年4月、東京大学に公共政策大学院が設置され、その一科目として労働法政策の授業が置かれた。筆者は2018年度まで15年間この講義を担当してきた。さらに2012年度には法政大学大学院にも公共政策研究科が設置され、筆者は雇用労働政策研究の科目を担当して2018年度で7回目になる(政治学研究科、連帯社会インスティテュートと合同)。本書はこれら科目のために作成・配布してきた講義テキストの最新版である。
 2004年に授業を始めたときの当初テキストは『労働法政策』(ミネルヴァ書房)として刊行されているが、その後の法改正に次ぐ法改正を反映して講義テキストは毎年膨張を続けた。今回、働き方改革推進法が成立し、労働法制全般にわたって大幅な改正が行われたことを機に、労働政策研究・研修機構から一般刊行物として出版することとした。
 労働法の教科書は汗牛充棟であるが、それらはすべて法解釈学としての労働法である。もちろん法解釈学は極めて重要であるが、社会の設計図としての法という観点から見れば、法は単に解釈されるべきものとしてだけではなく、作られるべきもの、あるいは作り変えられるべきものとしても存在する。さまざまな社会問題に対して、既存の法をどのように適用して問題を解決するかという司法的アプローチに対して、既存の法をどう変えるか、あるいは新たな法を作るかという立法的アプローチが存在する。そして社会の変化が激しければ激しいほど、立法的アプローチの重要性は高まってゆく。
 本書の特色は労働立法の政策決定過程に焦点を当て、政労使という労働政策のプレイヤー間の対立と妥協のメカニズムを個別政策領域ごとに明らかにしていくところにある。いわば、完成品としての労働法ではなく、製造過程に着目した労働法の解説である。さまざまな労働法制がどのように形成されてきたのかという観点から労働法学の研究者や学生に、労働政策の政治過程分析の素材として政治学の研究者や学生に、そして歴史的視座に立って経済社会分析を行おうとする労働経済学や産業社会学の研究者や学生にも広く読んでいただきたいと思っている。
 この15年間で日本の労働法政策の姿はかなり変わった。とりわけ、当初テキストで将来像として描いていたいくつかの方向性が、今回の働き方改革推進法で実現に至った。たとえば、当初テキストでは労働時間法政策の章において「課題-法律上の時間外労働の上限の是非」という項を置き、「労働法政策として考えた場合に、今まで法律上の上限を設定してこなかったことの背景にある社会経済状況のどれだけがなお有効であり、どれだけが既に変わりつつあるのかを再考してみる必要はありそうである」と述べ、「ホワイトカラーの適用除外といった法政策が進展していくと、それ以外の通常の労働者の労働時間規制が本質的には同様に無制限であるということについても、再検討の必要が高まってくるであろう」と示唆していた。今回、時間外労働の法的上限規制が導入されたことは、その実現の第一歩と言える。また非正規労働についても、パートタイム、有期契約、派遣労働のそれぞれの節で、項を起こして均等待遇問題を「課題」として取り上げていた。これも今回、同一労働同一賃金というラベルの下で盛り込まれた。一方、労使協議制と労働者参加の章で「課題-労働者代表法制」として論じていた問題は、今日なお公的な法政策のアジェンダに載っていない。
 この15年間、東京大学と法政大学の大学院生諸氏との間で熱のこもった討議を経験できたことは、筆者の思考を豊かにするのに大いに役立った。本書にその成果の幾ばくかが反映されていれば幸いである。

 

2021年3月 9日 (火)

労働者協同組合法のアンビバレンツ@WEB労政時報

WEB労政時報に「労働者協同組合法のアンビバレンツ」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

昨年12月11日、労働者協同組合法という名の法律が議員立法として成立しました。自民党から共産党まで全会一致で採択されています。マスコミはそろって礼賛的な記事を書いています。しかし、この法律には労働法の根幹に関わるような要素が含まれており、そしてそれを拭い去ろうとして、かえってやや不自然な規定ぶりになっているところもあります。
そもそも本法は労働法と言っていいのかどうかも、いささか疑問がないわけではありません。それは、11年前の2010年に本法の原型である協同労働の協同組合法案が提出されようとしたときに、日本労働弁護団から厳しい批判がなされたためついに提出されるに至らず、今回法律の根幹に関わるような部分を大幅に修正してようやく国会提出、成立に至ったという経緯にも現われています。今回は、この新法が抱え込んだ労働法上の問題について考えてみたいと思います。・・・・

2021年3月 8日 (月)

上林陽治『非正規公務員のリアル』または素人万能の反ジョブ型主義の帰結

08481 上林陽治さんの『非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。上林さんのこのシリーズは日本評論社からだけでもこれで3冊目ですが、その舌鋒はますます鋭く、日本の公務員制度の矛盾を暴き出していきます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8481.html

本書の内容は何よりもこの目次を見れば一目瞭然です

第一部 非正規公務員のリアル
第1章 ハローワークで求職するハローワーク職員
     ーー笑えないブラックジョークに支配される現場
第2章 基幹化する非正規図書館員
第3章 就学援助を受けて教壇に立つ臨時教員ーー教室を覆う格差と貧困
第4章 死んでからも非正規という災害補償上の差別
第5章 エッセンシャルワーカーとしての非正規公務員
     ーーコロナ禍がさらす「市民を見殺しにする国家」の実像

第二部 自治体相談支援業務と非正規公務員
第6章 自治体相談支援業務と専門職の非正規公務員
第7章 非正規化する児童虐待相談対応ーージェネラリスト型人事の弊害
第8章 生活保護行政の非正規化がもたらすリスク
第9章 相談支援業務の専門職性に関するアナザーストーリー

第三部 欺瞞の地公法・自治法改正、失望と落胆の会計年度任用職員制度
第10章 深化する官製ワーキングプアーーとまらない非正規化、拡大する格差
第11章 隠蔽された絶望的格差ーー総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会」報告
第12章 欺瞞の地方公務員法・地方自治法改正
第13章 不安定雇用者による公共サービス提供の適法化
第14章 失望と落胆の会計年度任用職員制度

第四部 女性非正規公務員が置かれた状況
第15章 女性活躍推進法と女性非正規公務員が置かれた状況
第16章 女性を正規公務員で雇わない国家の末路

本書で描き出されるすべての事例で言えることであり、神林さん自身も明言していることですが、非正規公務員問題がかくも悲惨な状況になっている最大の原因は、本来終戦直後に純粋ジョブ型の制度設計で作られたはずの公務員制度が、それとは全く逆向きの、純粋メンバーシップ型でもって運営されてきてしまったことにあります。

冒頭のハローワークで、非正規相談員が一生懸命産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を取得してもあっさり切られる一方で、雇用の安定した正職員はそういう(厚生労働省自身が熱心に旗を振っている)職業資格に熱心でないというところにもその姿が見えますが、それが一番はっきりと現れているのは、次の図書館職員でしょう。

上林さん自身の小見出しをそのまま持ってくるだけで、何が起こっているのかがくっきりと浮かび上がってきます。

1 職務無限定=ジェネラリスト型人事運用の限界

2 図書館の臨時・非常勤職員、非正規労働者

3 急速に進む図書館の非正規化

4 専従職員の素人化、非正規の図書館員の基幹化

5 戦力化・基幹化する非世紀図書館員

雇用の安定した正規職員は素人で役に立たない。職場で中核的に働いている専門職はみんな不安定な非正規、というこの姿は、メンバーシップ型雇用の成れの果ての姿といってもいいでしょう。

もちろん、メンバーシップ型にはジョブ型よりもいい面があります。特に、ジョブのスキルのない若者に着目すれば、素人をとにかく正規で雇って、上司や先輩がビシバシ鍛えて一人前にしていくというモデルには大変メリットがあります。その素人が若者であり、いつまでも素人ではいけないと思って一生懸命スキルを身につけようと努力する限りにおいて。

ところが、この若者限定でメリットのある仕組みを、中高年になってもはや真面目に新しい職場の全てを勉強しようなどと思わず、次の人事異動で全然別の部署に回されるまでの間、非正規の専門家たちの上にちょこんと乗っかった素人として適当に過ごそうとしか思っていないような人々にまで適用するわけです。

ジョブ型の専門家主義の正反対としての素人万能の反ジョブ型主義が、ここにきてますます全面展開しているということなのかもしれません。

その最果てに何が待っているのか、そろそろ真面目に考えてみるべき時期が来ているのでしょう。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-a1a9.html(上林陽治『非正規公務員』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-c49f.html(上林陽治『非正規公務員という問題』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-afe0.html(上林陽治『非正規公務員の現在 深化する格差』)

なお、私がこの問題について論じたものとして。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/post-bd32.html(非正規公務員問題の原点@『地方公務員月報』12月号)

 

 

 

 

2021年3月 7日 (日)

JRA調教助手・厩務員は雇用されているけれど個人事業主だって?

ここ数年くらい、自分の判例評釈のトピックに労働者性に関わるものが多くなったような印象があり、改めて振り返ってみると、確かにそういう傾向がありますね。

http://hamachan.on.coocan.jp/hyoushaku.html

正確に言うと、ずっと昔20年近く前にちょびっとそういう事件を評釈した後、かなり長い間他のトピックが多かったんですが、2年前くらいからやたらに労働者性に関わる事件が増えています。

綾瀬シルバー人材センター事件(東京大学労働判例研究会2003年10月30日)

「研修生」契約は労働契約に該当するか?--ユーロピアノ事件(『ジュリスト』2004年5月1/15日号)

多重請負関係における「労働者性」と「使用者性」の齟齬--わいわいサービス事件(『ジュリスト』2018年9月号)

Worker Status of the Commercial Agent - The Bellco Case(『Japan Labor Issues』2019年5月号)(ベルコ事件(和文))

Worker Status of the Member of the Worker's Collective - The Worker's Collective Wadachi Higashi-Murayama Case(『Japan Labor Issues』2020年6月号)(企業組合ワーカーズ・コレクティブ轍・東村山事件(和文))

浅口市事件(東京大学労働判例研究会2020年6月12日)

岡地事件(東京大学労働判例研究会2020年11月6日)

Worker Status of the Member of the Troupe - The Air Studio Case(『Japan Labor Issues』2021年6月号)(エアースタジオ事件(和文))

労働者性については、最近、労働基準監督署における監督復命書や申告処理台帳の内容分析を報告書にまとめたところでもありますが、世の中にはいろんな分野にいろんな問題があるのだなあ、と感じます。

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2021/documents/0206.pdf

なんでこんなことを改めて思ったかというと、こんな記事があったからですが、

https://mainichi.jp/articles/20210306/k00/00m/040/096000c(JRA調教助手ら164人が持続化給付金不適切受給 調教師や騎手も)

日本中央競馬会(JRA)は6日、滋賀県栗東市と茨城県美浦村にある競走馬のトレーニングセンター(トレセン)で働く調教助手や調教師、騎手ら厩舎(きゅうしゃ)関係者165人が、新型コロナウイルス対策で中小事業者などを支援する国の持続化給付金を受給していたと発表した。総額は約1億9000万円に上り、制度の趣旨や目的から逸脱した不適切な受給者は164人。既に49人が返還。114人は返還手続き中で、残る1人は体調不良で休職中のため、今後対応する。副業の飲食業での減収を理由とした1人は返還手続きをしていない。 

・・・・・騎手や調教師は個人事業主に該当。調教師が雇用する調教助手や厩務員も給与や賞与以外に管理する馬がレースで獲得した賞金に伴う報酬を得ており、個人事業主となる。競走馬がレースで獲得した賞金のうち、調教師が10%、騎手と調教助手らは5%ずつの報酬を得る。管理する馬の強さや出走レース数によって金額は大きく変動するため、成績不振の月を選んで申請したとみられる。 

まあ、そもそも騎手や調教師が個人事業主ということでほんとにいいのか、という問題はあるわけですが、それよりも「調教師が雇用する調教助手や厩務員も給与や賞与以外に管理する馬がレースで獲得した賞金に伴う報酬を得ており、個人事業主となる」ってのが、やはり訳が分からない。

なんではっきり「雇用されている」調教助手や厩務員が、全く別の個人としての仕事でならともかく、まさに雇用されている当の仕事で馬が稼いだ賞金の分け前をもらったら個人事業主になるのか、持続化給付金がもらえる立場になんぞなりうるのか、その辺の理屈がさっぱりわからないのですが、そこのところを突っ込んでいる記事が管見の限り見当たらない。

この問題、実は昨年、郵便局員が持続化給付金をもらっているということが明るみになったときに、WEB労政時報でやや詳しく突っ込んで論じたことがあるのですが、

http://hamachan.on.coocan.jp/webrousei200623.html(税法上の労働者概念と事業者概念)

・・・・・一方で、両分野の労働者概念が異なることにより、労働法上は労働者としての地位を享受していながら、税法上は事業者としての利益を享受できてしまうという事態もあることが露呈しました。これはやや意外な方面から明らかになったのですが、日本郵便とかんぽ生命保険が6月、新型コロナとは直接関係がないのに給付金を申請した社員が計約120人いたと明らかにしたのです。これは、かんぽ生命の不正販売を受けた営業自粛による収入減を給付金で補おうとしたもので、両社は申請取り下げや給付金返還の手続きを促していると報じられました。
 両社も、報じるマスコミも疑問を持っていないようなのですが、まともな労働法の感覚を有する者であれば、日本郵便やかんぽ生命の社員、つまりれっきとした企業に雇用される雇用労働者であるはずの人が、なぜ中小企業や個人事業主が対象の持続化給付金を申請できるのかということに疑問を感じるはずです。
新聞報道によれば、郵便局員らは、給与所得とは別に、保険の販売成績に応じて支給される営業手当を事業所得として確定申告しているというのですが、れっきとした雇用労働者に支払われる「出来高払制その他の請負制」(労働基準法〔以下、労基法〕27条)の賃金である営業手当が、なにゆえに事業所得として確定申告できてしまうのかこそ、最大の疑問です。いうまでもなく、労基法27条の「請負制」は請負契約ではなくて雇用契約の賃金制度だというのは、労働法の初歩の初歩で教わることのはずですが、日本郵便ではそうなっていないようなのです。
とはいえ、天下の日本郵便がこれだけ堂々とやっているのですから、何か法的根拠があるはずです。所得税法の規定を見てみましょう。まず、事業所得と給与所得の定義です。・・・・・ 

税法上の労働者概念と労働法や社会保障法上の労働者概念とのこれほどまでの食い違いぶりは、やはり両分野の研究者がきちんと意見をぶつけ合う必要性があるように思われます。

 

 

 

2021年3月 5日 (金)

國武英生『新訂 雇用社会と法』

100000009003390376_10204_001 國武英生さんより『新訂 雇用社会と法』をお送りいただきました。これは放送大学の教科書で、来月4月7日から7月14日までの15回にわたって、BS231チャンネルで水曜日18時45分から19時30分に放送される予定だとのことです。

https://www.wakaba.ouj.ac.jp/kyoumu/syllabus/PU02060200211/initialize.do

雇用社会と法の役割
日本的雇用と労働条件決定
労働契約の成立
労働契約の基本原理
賃金の保護
長時間労働の是正と自律的な働き方
仕事と生活の調和
雇用平等と労働者の人権
労働者の安全・健康と労働災害
労働契約の終了
非正規雇用と待遇格差の是正
就業形態の多様化と労働市場

本書自体はもちろん國武さんが執筆された教科書ですが、放送の方には何回かゲストスピーカーが登場します。

そのラインナップを見ると、水町勇一郎、道幸哲也、浅野高宏、開本英幸、濱口桂一郎といったメンツが出てきていますね。

 

EUが賃金透明性指令案を提案

昨日(3月4日)、EUの欧州委員会が「賃金の透明性とその実施機構を通じた男女同一価値労働同一賃金原則の適用を強化する指令案」というのを公表しました。

https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/aid_development_cooperation_fundamental_rights/com-2021-93_en_0.pdf

男女同一賃金のコロラリーみたいな指令案ですが、中身をチラ見すると、例えば採用前の賃金透明性として、使用者は当該職位に帰せられる客観的で性中立的な基準による初任給水準とその幅を、空席公示や面接以前の段階で示せとか、応募者にそれまでの賃金額を聞いてはいけないとか、興味深い規定が含まれています。

近頃「透明性」って言葉が労働法の世界でも流行っていますが、これも研究の必要性がありそうです。

2021年3月 4日 (木)

【GoTo書店!!わたしの一冊】第9回:カール・B・フレイ『テクノロジーの世界経済史』

『労働新聞』で今年から始まった書評の連載、【GoTo書店!!わたしの一冊】第9回は、カール・B・フレイの『テクノロジーの世界経済史――ビル・ゲイツのパラドックス』です。

https://www.rodo.co.jp/column/102700/

M_rodo102700 2013年9月、オックスフォード大学のフレイとオズボーンは、アメリカでは今後労働力人口の47%が機械に代替されるという論文「雇用の未来」を発表し、世界中で話題を呼んだ。日本でも2017年に野村総研がJILPTの職業データを用いて、労働力人口の49%が自動化のリスクにさらされていると発表したことを覚えている人もいるだろう。近年、AIをはじめとする情報通信技術の急速な発展により雇用の行方がどうなるのか、多くの人々が熱心に論じているが、そのゴングを鳴らしたのがこの論文であった。

 その執筆者の一人であるカール・B・フレイが満を持して、技術革新と雇用の関係を歴史叙述として壮大に描き出したのが、邦訳で600頁を遥かに超える分厚い本書だ。話は産業革命前の幸福な「大停滞」の時代から始まり、18~19世紀の産業革命で生産性が急上昇し、同時にそれまでの職人たちが機械に仕事を奪われ労働者階級が悲惨な状況に陥った「大分岐」の時代を描き出したのち、20世紀の大量生産体制が確立し、労働者が豊かになり中産階級化した「大平等」の時代を経て、20世紀末からの「大反転」の時代に至る。

 この労働者階級の浮き沈みの歴史は、たとえばトマ・ピケティの『21世紀の資本』では、本来「資本収益率>経済成長率」ゆえに格差が拡大するのであり、20世紀は戦争と革命のお陰でそれが逆転しただけだとの説明になるのだが、フレイはこれを各時代の技術革新の性質によって説明する。「大分岐」の時代の新技術は「労働代替的」であった。つまり、新たな機械によってそれまでの熟練職人たちは仕事を追われ、無技能の女子供が雇用されたために、労働者階級は貧困に陥ったのだ。エンゲルスが『イギリスにおける労働者階級の状態』において怒りとともに描き出した世界である。ところが20世紀の自動車産業に典型的な大量生産体制における技術は「労働補完的」であった。つまり、成人男性の半熟練労働者が経済成長とともに拡大し、社会全体の所得分配も平等化したのだ。労働組合は自動化による生産性向上に協力し、その代わりに大幅賃上げを勝ち取った。マルクスの予言は嘲笑の対象となった。

 それが20世紀末から、コンピュータの登場とともに再び「労働代替的」な技術革新に反転した、というのがフレイの見立てである。この数十年間進んできたのは、かつて中産階級であったブルーカラーや事務職の没落であり、増えているのは上層の「シンボリック・アナリスト」と下層の対人サービス業なのだ。トランプ現象をはじめとするポピュリズムはそれに対する怒りの(ねじけた)噴出であろう。

 非常に長期的にみれば、現在の労働代替的技術による第2の大分岐の時代もやがて反転し、再び労働補完的な技術による第2の大平等の時代がやってくるのかもしれない。だがそれが何世代か先のことであるならば、今現在仕事を奪われつつある人々にとっては何の慰めにもならない。ケインズ曰く、「人は長期的にはみな死んでいる」のだから。

 

 

帰ってきた原典回帰最終回 沼田稲次郎『現代の権利闘争』@『HRmics』最終号

Image0_20210304095601 海老原さんと荻野さんがやってきた小さくともぴりりとした雑誌『HRmics』が遂に最終号を迎えてしまいました。

従って、『働き方改革の世界史』刊行後さらに続けて連載しようとしていた「帰ってきた原典回帰」も、2回目でいったん終了ということになります。

この記念すべき(?)最終回の栄誉に輝いたのは、これまた今ではほとんど忘れられた本です。かつて一世を風靡していた唯物史観労働法学の旗手沼田稲次郎の『現代の権利闘争』(1966年、労働旬報社)ですが、これを、終戦直後の生産管理闘争の本質を浮き彫りにする証言として読み解いていきます。

一見左翼的な言辞の裏にある濃厚な産業報国意識をたっぷりと味わっていただければ幸いです。

91qb9cfldzl ・・・・・こうして生み出された修正型日本的労使慣行は、1949年改正労組法が掲げる欧米型労使関係モデルと、産業報国会の延長線上に終戦直後確立した生産管理型労使関係モデルとの奇妙なアマルガムとなりました。ある一つの原理できちんと説明しようとしても説明しきれない日本的労使慣行の岩盤は、この時期の労使双方の暗黙の密約によって生み出されたというべきなのかもしれません。沼田は淡々とこう述べていきます(p239)。
「かなり権力的に行われた法の改正によって予想したとおりの労使関係に現実は必ずしもついてこないで、労働慣行によってうめられるべきギャップの存するのは避けがたかった。労組法は一応労使の立場ははっきり別のものだというけれども、組合が企業の枠を超えた組織になっておらない。従業員団の範囲を超えた労働者仲間の立場が現実の意識にのぼってこない。その上ドッジ・ラインで、企業の格差が出てきた。そして嵐のごとく企業整備がなされた。かかる現象のなかで、労働者が企業にしがみついたのは当然であろう。超企業的組織によって生活の基盤が支えられていないとすれば、労働者は企業第一主義、企業エゴイズムに傾くのもさけがたいことであり、使用者もそのような意識を利用した。」
 その結果残ったのは例えば在籍専従制度です。もちろん、労働組合法が明確に「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの」は労働組合ではないと定義している以上、組合専従者の給与を会社が負担するという慣行は(少なくとも表面からは)なくなりましたが、実態としては「やみ専従」がけっこう存在していました。また、組合費を会社が組合に代わって徴収してあげるチェック・オフ制度も、本来「むしろ奇異な慣行」なのに、「なんの不自然も意識されないで、むしろ当然のこととして」定着したのも、それが従業員団以外の何物でもなかったからでしょう。
 しかしさらに考えれば、もしそれが(自発的な団結体である労働組合ではなく)職場の共有を根拠とする従業員団であるならば、その専従者の人件費が会社の負担であり、その運営費が会社の負担であることになんのおかしさもないはずです。実際、ドイツやフランスなど大陸欧州諸国の従業員代表制度はそうなっています。ただ、それら従業員代表制度は労働組合ではなく、それゆえ団体交渉や労働争議をやる権限がないだけです。それらは産業レベルで結成されている労働組合の専権事項だからです。
 と考えると、企業別組合が(本来のあるべき労働組合像から乖離しているとしてやましさを抱えながら)堅持してきたこれら日本的労使慣行は、その主体が労働組合だということになっているがゆえに異常に見えるだけで、企業別組合とは産業報国会を受け継ぐ従業員団であって、コレクティブ・バーゲニングを行うトレード・ユニオンなんかではないと割り切れば、まったく正常な事態であったとも言えます。もちろん、組合自身が「企業別組合は労働組合に非ず」なんて言えるわけはないのですが。
 皮肉なのは、認識論的にはここまで企業別組合の実相を残酷なまでに抉り出している沼田が、実践論的にはその従業員団たる組合の権利闘争を懸命に唱道していることです。本書のタイトル自体がそのスタンスを示していますが、500ページを超える本書は(今回取り上げたごく僅かな歴史認識にかかる部分を除けば)、ほぼ全ての紙数を費やして、点検闘争、遵法闘争、保安闘争、抗議スト、協約・メモ化闘争等々、既に終戦直後の勢いを失って久しい企業別組合に対して、いちいち使用者側に因縁を付け、喧嘩をふっかけるようなたぐいの「闘争」を訴えています。
 確かに、トレード・ユニオンではない従業員団がその唯一の居場所たる職場で「闘争」をしようとすれば、(企業倒産の瀬戸際といった特殊な状況下でもない限り)こうした家庭争議的なチンケな闘争手段に走るしかないのでしょう。しかし、そんなことを繰り返せば繰り返すほど、そのいうところの「階級的」労働運動の勢力の縮小消滅に大きく貢献したことは間違いないと思われます。沼田らのプロレーバー労働法学とは、企業別組合がトレード・ユニオンらしい行動が取れず、従業員団でしかないことを(近代主義派労働法学と異なり)懸命に弁証しつつ、その従業員団に(西欧諸国の従業員代表制とは正反対に)職場闘争をけしかけるという矛盾に満ちた存在でした。
 しかしその結果生み出されたのは、企業を超えたコレクティブ・バーゲニングを遂行するトレード・ユニオンも存在しなければ、チンケな職場闘争を繰り返す「反逆型」従業員団もほとんど消滅し、争議などとは無縁のもっぱら労使協議に勤しむ(そこだけ見れば西欧の従業員代表と同様の)「忠誠型」従業員団だけによって構成される「片翼だけの労使関係」だったのです。
 もっともそれは、生産管理闘争華やかなりしころに既に見えていた姿だったのかもしれません。先に、「法学用語とマルクス用語がちゃんぽんになったアジビラ風の議論」と評した若き沼田稲次郎の『生産管理論』の一節のすぐ後は、こう続いていました。「このように生産管理は労働階級には武器を与え、資本家からはそれを奪うことになるが、さらに、これによって労働者は当面の争議における武器以上のものを体験する。それは職場における実践の統一性に基づいて、労働者に階級的共感を昂め、団結を強化する。しかも、技術者や事務職員と労働者との結集をも深めるのみならず、自らも亦工場の経営や各方面の技術を修得する動機を与える。」そう、終戦直後の生産管理闘争とは、ブルーカラーとホワイトカラーがともに「社員」としての自覚を持ち、企業経営や技術革新に必死で取り組んでいこうとする戦後日本的雇用システムの原点だったのです。

 

 

ジョブ型雇用の誤解@『企業会計』2021年4月号

502104_430 中央経済社の『企業会計』2021年4月号に「ジョブ型雇用の誤解」を寄稿しました。

https://www.biz-book.jp/isbn/502104

 昨今マスコミやネット上では「ジョブ型」という言葉が氾濫している。もともと、日本型雇用システムの特徴を、欧米やアジア諸国の「ジョブ型」と対比させて「メンバーシップ型」と名付けたのは私自身であるが、近年の「ジョブ型」の氾濫には眉をひそめざるを得ない。というのも、最近マスコミに溢れる「ジョブ型」論のほとんどは、一知半解で「ジョブ型」という言葉を振り回しているだけだからだ。ここではそのうち、特に目に余る二つのタイプを批判しておきたい。
 
Ⅰ 「成果で評価するのがジョブ型」は9割方ウソ
Ⅱ 「ジョブ型は解雇されやすくなる」は8割方ウソ
Ⅲ 「ジョブ型がこれからのあるべき姿」という誤解

2021年3月 3日 (水)

『季刊労働法』2021年春号(272号)はフリーランスとクラウドが特集

272_webscaled 労働開発研究会のHPに『季刊労働法』2021年春号(272号)の目次がアップされています。

https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/9180/

●コロナ禍におけるウーバーイーツの進展で、フリー就労者保護等についての検討は、より急務になった印象があります。今号では、非雇用労働者の保護、フリーランスと団交、一人親方問題、全世代型社会保障検討会議で進んでいるフリーランス保護ガイドライン案の意義などについて、特集で取り上げます。
●第2特集は上記特集とも関連しますが「ドイツ・クラウドワーク調査報告」です。当地のプラットフォーム、労働組合、研究者へのヒアリング結果を紹介します。 

第1特集がフリーランスで、第2特集がドイツのクラウドワークというわけで、どちらも雇用類似の働き方です。

第1特集のフリーランスのラインナップは次の通りで、

新しいフリーランス保護を考える
労働形態の多様化と就労者の保護―労働者概念と独禁法規制 関西大学大学院法務研究科教授 川口 美貴
フリーランスと団体交渉 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口 桂一郎
全世代型社会保障検討会議フリーランスガイドライン案の意義と課題 小樽商科大学教授 國武 英生
建設業一人親方の「労働問題」の特殊性と偽装請負 岩手県立大学講師 柴田 徹平 

そのうちの一篇「フリーランスと団体交渉」をわたくしが書いています。

第2特集は毛塚先生を中心としたドイツのクラウドワークで、

第2特集 ドイツ・クラウドワーク調査報告
ドイツにおけるクラウドワーク・ビジネスと労働組合のクラウドワーク政策の現在―CS研究会ドイツ調査報告 労働法学研究者 毛塚 勝利
Testbirds社におけるテスト型クラウドソーシング 明治大学大学院 小林 大祐
テキスト・コンテンツ作成型プラットフォームの現状―Textbroker社へのヒアリングをもとに― 中央大学大学院 後藤 究
Jovoto社に対する訪独インタビュー調査の要旨と考察 帝京大学法学部助教 藤木貴史 山口大学准教授 井川 志郎 中央大学大学院 後藤 究
ドイツCSPFビジネスとクラウドワークをめぐる議論の現在―PF調査とカッセル大学研究者との意見交換をふまえて 労働法学研究者 毛塚 勝利 

これもぜひ読んでみたくなるようなラインナップです。

その他の記事は以下の通りですが、

■特別企画■ 2018年労働者派遣法の課題
派遣労働者の「同一労働同一賃金」の課題―派遣先均等・均衡方式を中心にして― 法政大学教授 沼田 雅之
労働者派遣における同一労働同一賃金原則―とくに労使協定方式(派遣法30条の4)に関するドイツ法との比較― 学習院大学教授 橋本 陽子

■論説■
従業員代表制の常設化と労働組合機能(上)北海道大学名誉教授 道幸 哲也
雇用紛争の解決に関する司法システム:独英日の比較研究 グリニッジ大学名誉教授 スーザン・コービー 東京大学教授 山川 隆一
労働者の個人情報の収集・利用に係る同意概念―労働法と個人情報保護法の交錯― 同志社大学 国際取引・国際法務研究センター 研究員 岡村 優希

■アジアの労働法と労働問題 第44回■
最近の韓国労働法上の問題点―最近の「組合三法」改正を中心に― 韓国外国語大学校・法学専門大学院教授 李 鋌

■判例研究■
有期労働契約者に対する賞与・退職金の不支給とその不合理性判断 大阪医科薬科大学事件(最3小判令和2年10月13日労判1229号77頁)・メトロコマース事件(最3小判令和2年10月13日労判1229号90頁)の最高裁判決の検討 福岡大学教授 所 浩代
職場におけるヘイトスピーチとハラスメント フジ住宅事件(大阪地堺支判令和2年7月2日労判1227号38頁)専修大学教授 石田 信平

■重要労働判例解説■
インストラクター型の業務委託者の労働基準法上の労働者性 イヤシス事件・大阪地判令元・10・24労判1218号80頁 弁護士 松岡 太一郎
セクシュアルハラスメントによる精神障害の業務起因性国・札幌東労基署長(紀文フレッシュシステム)事件・札幌地判令2・3・13労判1221号29頁 東洋大学講師 田中 建一 

わたくしは特集の方に書いていますので、今回は「労働法の立法学」はお休みです。

 

 

 

 

 

 

 

 

沖永賞を受賞

本日、拙著『日本の労働法政策』が労働問題リサーチセンターの沖永賞を受賞いたしました。ご推薦いただいた皆様には心より感謝申し上げます。

https://www.lrc.gr.jp/recognize

なお、今年度の受賞図書は3冊です。

01_20210303201801 『外国人労働者と法 ー入管法政策と労働法政策ー 』
    (著者) 早川智津子 佐賀大学教授
    (発行所)信山社出版

11021851_5bdc1e379a12a_20210303201901 『日本の労働法政策』
    (著者)  濱口桂一郎 (独)労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
    (発行所) (独)労働政策研究・研修機構 

03 『戦争と社会的不平等 ―アジア・太平洋戦争の計量歴史社会学ー 』
    (著者)  渡邊勉 関西学院大学教授
    (発行所) ミネルヴァ書房 

 

 

 

 

2021年3月 1日 (月)

雑誌『改革者』3月号に書評

21hyoushi03gatsu 政策研究フォーラムの雑誌『改革者』3月号に『働き方改革の世界史』の書評が載りました。

http://www.seiken-forum.jp/publish/top.html

評者は東洋大学の川上淳之さんです。

「新書で読める上級労使関係史講義」と評していただいています。

・・・・・本書は、その議論の内容を毎回ゴンパースやパールマンなどの著書を紹介する形式をとるため、時として扱われる内容が多くなり、読者として読みにくいと感じられるかもしれない。著者たちは、その点を配慮してか、本書を語りかけるような口調の講義形式で記述するなど、配慮をしている。その点で、読みやすくなるように書かれてはいるが、講義のつかみにあたる雑談部分は若干行き過ぎている箇所があるようにも感じられた。本書は、その内容で十分興味深いものである。  各章の持つ意味を考えながら読むためには、そこで紹介される制度の参照点として、第五章の日本の労使関係を先に読み準備することも勧めたい。・・・・・ 

 

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