EU自営業者の団体交渉規則へのロードマップ
昨日、EUの競争当局は、いよいよ自営業者の団体交渉を認める立法に向けた動きを始めました。
昨日付で、「Inception impact assessment」(「端緒的影響評価」)を公表して、2月3日までの4週間にフィードバックを募っていて、今現在すでに3つほど投稿されていますね。
今後の日程表を見ると、2021年の第2四半期に「Public consultation」(一般協議)が予定されていて、その翌年の2022年の第2四半期に「Commission adoption」、欧州委員会による規則案の提出が予定されているようです。
何をやろうとしているかというと、一番端的には
This initiative aims to define EU competition law’s scope of application, to enable an improvement of working conditions through collective bargaining agreements – not only for employees, but also, under some circumstances, for the solo self-employed.
このイニシアティブは、EU競争法の適用範囲を、被用者だけではなく、一定の状況下で一人自営業者にも、労働協約を通じて労働条件を改善することを可能にするように定義することを目指す。
この動きについては、『労基旬報』2021年1月5日号に「フリーランスと独占禁止法」を寄稿して、やや詳しく解説していますので、お読みいただければと思います。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/12/post-17e8ca.html
・・・・・こうして、ここ数年来、EUでは自営業者の団体交渉権をめぐる議論が沸騰しています。これについても本紙2020年7月25日号でやや詳しく紹介しました。同年6月30日、EUの競争総局は、自営業者の団体交渉問題に取組むプロセスを開始したと発表しました。記者発表資料は、「EU競争法は団体交渉を必要とする者の道に立ちふさがらない。このイニシアティブは、労働協約を通じて労働条件を改善することが被用者だけではなく保護を要する自営業者にも確保されることを目指す」と述べ、既に始まっているデジタルサービス法の一般協議の、「自営個人とプラットフォーム」の項に意見を出すように求めています。これと並行して労働組合や経営団体とも協議を行うと述べています。
競争政策担当のマルグレーテ・ヴェステアー副委員長の言葉が、その問題意識を明瞭に示しています。曰く、「欧州委員会は、プラットフォーム労働者の労働条件の改善にコミットしている。それゆえ、団体交渉が必要な者がEU競争法に違反する恐れなくそれに参加できるようにするプロセスを開始したのだ。競争法は労働者が組合を結成するのを止めないが、近年の労働市場では「労働者」概念と「自営業者」概念は境界が曖昧になっている。多くの個人が自営業としての契約を受入れざるを得なくなりつつある。我々はそれゆえ、労働条件の改善のために団体交渉する必要のある人々に明確さを与える必要がある」と。
ここで共有されている問題意識とは、「労働者でないからといって、フリーランスに安易に競争法を適用するな!」というものです。競争法は集団的労使関係の敵であるという「常識」の上で議論が行われている欧州から見ると、労働側弁護士が競争法の適用を諸手を挙げて歓迎している日本の姿はいささか奇妙に見えます。
*1菅俊治「独禁法を使った労働運動の可能性」(『労働法律旬報』1913号)。
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