フォト
2021年3月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 二宮孝『企業経営を誤らない、「同一労働同一賃金」の具体的な進め方』 | トップページ | ジョン・マクドネル編『99%のための経済学』 »

2021年1月19日 (火)

シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?@『労基旬報』2021年1月25日号

『労基旬報』2021年1月25日号に「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」を寄稿しました。

 昨年初めからのコロナ禍に対する雇用政策でもっとも重視され、金額的にも大きかったのは雇用調整助成金であり、それを補う新たな休業支援金(新型コロナウイルス感染症対策有業支援金)ですが、その中でいままであまり注目されてこなかった問題が露呈してきました。それは、特に飲食店や対人サービス業といった今回コロナ禍の矢面に立たされた業界でよく見られる勤務慣行ですが、勤務日や勤務時間がその都度決められていくいわゆるシフト制のアルバイトです。勤務日や勤務時間が固定されている通常の勤務形態であれば、勤務するはずの日や時間帯に働かなくてもいいと言われれば、それが労基法26条の「休業」であり、雇用保険法施行規則102条の3の「休業」であることは明らかです。ですから使用者は休業手当を支払い、国は雇用調整助成金を支給する。さもなければ今回の新たな休業支援金を支給する、という話になるわけです。
 ところが、飲食店や対人サービス業におけるシフト制のアルバイトの場合、そもそも契約上で勤務日や勤務時間が決まっていません。多くの場合、店長がその都度シフト割を作成して、Aさんはこの日のこの時間帯、Bさんはこの日のこの時間帯、というのを決めていきます。ということは、あらかじめこの日のこの時間帯は必ず就業するというのは存在しないことになります。そうすると、勤務するはずの日や時間帯が存在しないのだから、労基法26条の「休業」は存在しないし、雇用調整助成金の支給対象たる「休業」も存在しないということになってしまいます。実際、今回のコロナ禍で、そのようなトラブルがかなり多く発生したようです。
 ここで同じ「シフト制」という言葉を使いながら異なる概念と区別しておく必要があります。鉄鋼を初めとする連続操業の事業所や、医療のように24時間対応が求められる事業所では、昔から昼夜二交替制とか、8時間3交替制といった勤務形態が見られます。しかしこれらの場合、所定労働時間は決まっていて、それをいくつかの時間帯に分散配置させるだけですし、そのシフト割のパターンもあらかじめ決まっています。ですから、例えばオイルショックで製鉄工場が休業したときに、そこで働く労働者に昼夜シフトが入らなくなればそれは当然労基法26条の「休業」であり、それをなんとかするために雇用調整給付金が作られたわけです。
 これに対し、今回のコロナ禍で露呈した飲食店や対人サービス業のシフト制アルバイトでは、そもそも所定労働時間という概念が成立しにくいように思われます。もちろん労働者である以上労基法は全面的に適用されるのですが、シフトをその都度入れていって、それが法定労働時間を超過しないように、あるいは超過してしまったら時間外手当を払うようにしなければならないということであって、逆にどの日のどの時間帯に就業するかは店長がシフト表を作るまでは何も決まっていない、というのが実態でしょう。それゆえに、店長がシフト表にある労働者のシフトを入れないことが直ちに「休業」とは認識されないのでしょう。
 こうしたシフト制アルバイトの問題に対しては、厚生労働省は文部科学省と共同で2015年から2016年にかけて、学生アルバイト、高校生アルバイトの問題という形で業界に対して要請を行っています。その時に問題意識にあったのは、採用時に合意した以上のシフトを入れられたとか、試験期間にシフトを入れられたなど、学業とアルバイトの適切な両立への影響の問題でした。シフト制アルバイトの労働時間の不確定性が労働時間過多の方向で問題化され、学生の本分である学業とアルバイトの適切な両立のためのシフト設定などの課題へ配慮することが求められたのです。
 ところが今回のコロナ禍で表出したのは、シフト制アルバイトの労働時間の不確定性が労働時間過少の方向に問題化されるという事態でした。具体的にどの日のどの時間帯かは全然決まっていないにしても、大体この期間には大体この程度の分量の勤務時間が入ってくるはずという不確定ながらもある程度確実性のある期待が、直前のシフト表作成時にシフトが入らないという形で裏切られても、それが労使双方に権利義務関係を発生させる「休業」にはならないという事態です。
 この問題は、日本では今回コロナ禍で初めて全面的に表出しましたが、実はヨーロッパ諸国では過去十年近くにわたって「ゼロ時間契約」として問題視されていたものとほぼ同じ問題です。ゼロ時間契約とは文字通り、雇用契約に所定労働時間は決められておらず、その都度呼び出しの形で就業するという雇用形態です。オンコール労働とか、オンデマンド労働という言い方もよくされますが、この「オンコール」という言葉も、いままで存在してきた(通常の所定労働時間外の)待機時間や呼び出し待機時間と言葉が重なるため、やや紛らわしいところがあります。ゼロ時間契約の問題は、呼び出されて働く時間以外に保証された労働時間が存在しないという点にあります。呼び出されない限り、呼び出しの電話やメールを待っている時間は非労働時間ですから、賃金は発生しません。といって、その時間帯に他で働いてしまうと、呼び出しに応じられなくなってしまいます。じりじりしながら呼び出しを待っていなければならないというのは労働者に対して不当ではないか、という問題意識から、近年欧州諸国ではこれに対する法的規制が行われるようになってきました。
 2019年6月に成立したEUの透明で予見可能な労働条件指令については、本誌『労基旬報』2019年9月25日号で紹介したところですが、この中でこのゼロ時間契約に対する一定の規制を試みています。
第4条 通知義務
1 加盟国は使用者が労働者に雇用関係の本質的な側面を通知するよう求められることを確保するものとする。
2 第1項にいう情報は少なくとも次のものを含むものとする。
(m) 労働パターンが完全に又は大部分が予見可能でない場合、使用者は労働者に以下を通知するものとする。
 (i) 作業日程が変動的であるという原則、最低保証賃金支払時間数及び最低保証時間を超えてなされた労働の報酬、
 (ii) 労働者が労働を求められる参照時間及び参照日、
 (iii) 労働者が作業割当の開始以前に受け取るべき最低事前告知期間、及びもしあれば第10条第3項にいう取消の最終期限、
第10条 最低限の労働予見可能性
1 加盟国は、労働者の作業日程が完全に又は大部分が予見可能でない場合、以下の条件をいずれも充足しない限り、労働者は使用者によって労働を求められることがないよう確保するものとする。
(a) 第4条第2項第(m)号第(ii)文にいう事前に決定された参照時間及び参照日の範囲内で労働が行われる場合、
(b) 第4条第2項第(m)号第(iii)文にいう国内法、労働協約又は慣行に従い定められた合理的な事前告知期間をおいて使用者が労働者に作業割当を通知する場合。
2 第1項に定める要件の一又はいずれも充足されない場合、労働者は不利益な結果をもたらすことなく作業割当を拒否する権利を有するものとする。
3 加盟国が使用者に補償を支払うことなく作業割当を取り消すことを許容する場合、加盟国は国内法、労働協約又は慣行に従い、労働者が既に合意した作業割当を使用者が一定の合理的な期限後に取り消した場合には労働者が補償を受ける権利を有することを確保するために必要な措置をとるものとする。
4 加盟国は、国内法、労働協約又は慣行に従い、本条の適用の態様を規定することができる。
第11条 オンデマンド契約への補完的な措置
 加盟国がオンデマンド又は類似の雇用契約の利用を許容する場合は、濫用を防止するために以下の一又はそれ以上の措置をとるものとする。
(a) オンデマンド又は類似の雇用契約の利用及び期間の制限、
(b) 一定期間内に労働した平均労働時間に基づき、最低限の賃金支払対象時間を伴う雇用契約の存在の反証可能な推定、
(c) 濫用の効果的な防止を確保するための他の同等の措置。
 加盟国はかかる措置を欧州委員会に通知するものとする。
 日本ではいままであまり注目されてきませんでしたが、今回のコロナ禍でいかに広い範囲にわたってこのシフト制アルバイトが広がっていたかが可視化されました。このEU指令による規制方法が直ちに日本のシフト制アルバイトに対する対策として有効であるかどうかは検討の余地がありますが、少なくとも政策の方向性を考える上での参考資料にはなると思われます。

 

« 二宮孝『企業経営を誤らない、「同一労働同一賃金」の具体的な進め方』 | トップページ | ジョン・マクドネル編『99%のための経済学』 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 二宮孝『企業経営を誤らない、「同一労働同一賃金」の具体的な進め方』 | トップページ | ジョン・マクドネル編『99%のための経済学』 »