この人の記事こそ、ジョブ型「狂」想曲だったんだが・・・
一時の訳の分からないインチキなジョブ型論に対する批判がかなり増えてきましたが、その中にこんな記事を見つけましたが、
https://www.businessinsider.jp/post-225369(「ジョブ型雇用」狂想曲に御用心、日本型雇用が諸悪の根元なわけでもない)
ジョブ型狂想曲に水をぶっかけるこの記事自体は冷静な記事ではあるんですが、でもこの記事の筆者が今年6月に書いたこの記事は、
https://www.businessinsider.jp/post-215432(日立、富士通、資生堂…大企業ジョブ型導入で崩壊する新卒一括採用)
その中の記述のあまりなあまりぶりに、思わずWEB労政時報で10月に書いた「誤解だらけの「ジョブ型」論」では、槍玉に挙げてしまったくらいだったんですが・・・。
https://www.rosei.jp/readers/article.php?entry_no=78921
今年1月に経団連が公表した『2020年版経営労働政策特別委員会報告』がかなり大々的に「ジョブ型」を打ち出した(と、少なくともそうマスコミに報道された)ことに加え、年初からのコロナ禍でテレワークが急増し、「テレワークがうまくいかないのはメンバーシップ型のせいだ、ジョブ型に転換すべきだ」という声が湧き上がってきたことから、マスコミやネット上では「ジョブ型」という言葉が氾濫している状態です。
もともと、日本型雇用システムの特徴を、欧米やアジア諸国の「ジョブ型」と対比させて「メンバーシップ型」と名付けたのは私自身なのですが、近年の「ジョブ型」の氾濫には、正直眉を顰(ひそ)顰(ひそ)めっぱなしの状態です。というのも、マスコミに溢れる「ジョブ型」論のほとんどは、一知半解で「ジョブ型」という言葉を振り回しているだけだからです。いや、一知半解どころか、そもそも「ジョブ型」とは何かというイロハのイすらわきまえていない、知ったかぶりの議論が横行しているのが現状です。その典型例をひどいものから見ていきましょう。
まず、「ビジネスインサイダー」というネットメディアに6月26日付で掲載された「日立、富士通、資生堂…大企業ジョブ型導入で崩壊する新卒一括採用」(滝川麻衣子)という記事です。「日立製作所、資生堂、富士通、KDDIなど名だたる日本企業が、職務を明確にして、年齢や年次を問わずに適切な人材を配置する『ジョブ型』への移行を加速させている。グローバルで人材獲得競争が激しさを増す中、グローバル基準のジョブ型に移行する企業が、今後も増えることは確実だ」という書き出しで始まるこの記事を読んでいくと、すぐにこういう一節にぶつかります。
「人事政策は事業そのものです。かつての電機メーカーから舵を切り、今の日立はグローバルで社会イノベーション事業を行うサービス事業会社。グローバルのマーケットを知っている必要がある。外国人、女性など人材の多様性こそが必要で、日本固有のメンバーシップ型を続けることは無理がありました」
日立の人事戦略の中核人物として、ジョブ型導入の指揮をとるCHRO(最高人事責任者)中畑英信氏は、Business Insider Japanの取材に対し、そう話す。
日立は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指している。背景にあるのが、ビジネスモデルの転換だ。
この中畑CHROの発言部分は正確なのでしょう。しかし、それを受けてすぐにこの記事の筆者が書いているのは、なぜか中畑氏が語ったであろうはずの「全職種の職務記述書を作成」ではなく、「全社員の職務経歴書を作成」というまったく正反対の言葉なのです。
「ジョブ型」とは何であり、何でないか、というイロハのイのそのまた入門の入門をほんの少しだけでも齧(かじ)齧(かじ)っていれば、ジョブ型とはヒトではなくジョブから出発するのであり、したがってまず作成すべきはそのジョブの中身を明示する職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)であって、いろんな仕事をぐるぐる回ってきたヒトの能力を暗示する職務経歴書なんかではあり得ない、というのは常識であるはずです。なのに、声高に「ジョブ型」の到来を叫ぶこの記事の筆者自身が、その一番根っこにあるべき常識が欠如しているという哀しいまでのアイロニーが滲み出ています。
驚くべきことに、この記事の筆者はそのすぐ後に「人に仕事を割り振るのではなく、仕事(ポジション)に見合った人材を登用するジョブ型では」云々と、大変まっとうなことを書いているのです。自分の書いているまっとうな記述の意味も実はよく分かっていないということなのでしょうか。 ・・・・
「全職種の職務記述書を作成」を「全社員の職務経歴書を作成」と書いてしまうような方に、いまさら「「ジョブ型雇用」狂想曲に御用心」とか言われてもねえ、というのが正直な感想ではあります。
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思うに、ある一時期世界中から絶賛された日本企業のいわゆる「三種の神器」の中の『内部昇進/年功序列(遅い昇進)』こそが、メンバーシップ型雇用システムを駆動させる最終防衛線なのかもしれません。別の言い方をすれば、その会社が真の言葉の意味での「ジョブ型」なのか或いはいま流行りの「なんちゃってジョブ型」なのか、その見極めポイントは会社の管理職や専門職の登用人事に如実に表れるかと。なぜなら真のジョブ型であればあくまでも「ジョブありき」の人材募集/採用/アサイン〜ときに「早い選抜」やなりふり構わぬ人材引き抜き〜を行う筈で外部から専門性の高い女性や外国人材を(内部人材を押さえて)採用せざるを得ず、その結果、人材の多様性が増さざるを得ない。すると、年次や派閥や合併前出身会社はたまた当人の「思い」やキャリアパスといった、「人重視/社員目線」のアサインメントさらには全社的な人事異動やローテーションといった人事慣行はそうでなくても同質集団たるメンバーシップ型の流儀そのものであり、ジョブ型の生命線である所の「そのジョブを遂行するに最適な経験/知識/スキルを持つ候補者を是々非々でアサインする」という流儀に反しますから。
件の職務記述書(JD)ですが…、ジョブ型雇用システムを西洋中世建築物で喩えればJDはレンガのブロックのようなもの。これが「人柱」(職務経歴書)で作られた経営組織となると想像するだけで空恐ろしい響きがしませんか。
投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月 5日 (土) 13時42分
真贋見極めポイントをもう一つ〜こちらの方がずっと簡単かも。
すなわち真のジョブ型企業であれば、そこで働く社員全員に「ジョブタイトル」が必ず与えられます。例えば人事の担当者レベルであれば、各人の担当エリア等に応じて採用コーディネーター、報酬/福利厚生アナリスト、人材開発スペシャリスト、人事ジェネラリスト、HRビジネスパートナーという具合です。一般的に会社組織では(言わずもがなですが…)各社員は自分の名刺やメール署名欄に会社で定められたフォントやフォーマットで必要な個人情報を過不足なく記載することが社内規程上全員に求められますが、それは通常「氏名、担当職務、所属組織、住所、電話/メール」でありそこに必ず担当職務名(ジョブタイトル)が含まれます。典型的メンバーシップ型の日本企業でよくあるのは組織下位の担当者レベルだと組織名までしか記載のない(つまりジョブタイトルのない)名刺/メール署名ですが、ジョブ型であればこうした一担当者であっても必ず全員に適切なジョブタイトルが与えられますので、念の為。別の言い方をすれば、実はコテコテのメンバーシップ型であっても担当者にジョブタイトルさえあれば外形上は立派にジョブ型組織に見えてしまう⁈のかもしれません、良し悪しは別として…。
投稿: ある外資系人事マン | 2020年12月 6日 (日) 06時40分