フォト
2020年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« NewsPicksにインタビュー記事「【直言】ジョブ型で実現する、「プロなら安心社会」」 | トップページ | 韓国プラットフォーム配達労働に関する画期的な協約@呉学殊 »

2020年10月21日 (水)

欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案@『労基旬報』2020年10月25日号

『労基旬報』2020年10月25日号に「欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案」を寄稿しました。

 過去数十年にわたって情報通信技術の急速な発展に伴い、世界中でテレワーク、モバイルワークといわれる事業場外勤務が徐々に拡大してきました。そこに2020年の年初から新型コロナウイルス感染症が急激に拡大し、パンデミックとなる中で、ロックダウンや緊急事態宣言の下、ステイホームの要請の中で事業活動を継続するために、在宅勤務が一気に拡大しました。こうして、日本も含め世界中で、テレワークが労働問題の一つの大きな焦点となっています。
 その中で、とりわけ欧州諸国で注目されているのが「つながらない権利」です。日本でも、フランスの法制の紹介は若干されていますが、その全貌はあまり紹介されていませんし、また現在EUレベルでもその立法化に向けた動きが始まったところでもあり、ここで紹介しておきたいと思います。まず、各国レベルの動きです。
 フランスでは、2013年の全国レベル労働協約に基づいて2016年に制定されたいわゆるエル・コムリ法により、従来から50人以上企業で義務的年次交渉事項とされてきた「男女間の職業的平等と労働生活の質」について、「労働者が、休息時間及び休暇、個人的生活及び家庭生活の尊重を確保するために、労働者のつながらない権利を完全に行使する方法、並びにデジタル機器の利用規制を企業が実施する方法」が交渉テーマに追加されました。「つながらない権利」は、仕事と家庭生活の両立を図るとともに、休息時間や休日を確保するために、デジタル機器の利用を規制する仕組みを設けなければなりません。「つながらない権利」の実施手続は企業協定又は使用者の策定する憲章で定められ、そこにはデジタル機器の合理的な利用について労働者や管理職に対する訓練、啓発も含まれます。つながらない権利を定める企業協約は2020年に1,231件に達しています。最もよく用いられているのは、所定時間外にアプリが起動されると使用者と労働者にそれを通知するソフトウェアであり、燃え尽き症候群を防止するためのワークライフバランスの必要性を警告し訓練するものです。もっと強烈なものとしては、所定時間外には回線を切断してしまうものもあります。
 イタリアでは、2017年の法律第81号により、使用者と個別労働者との合意によりスマートワーク(lavoro agile)を導入することが規定されました。これは仕事と家庭生活の両立に資するため、法と労働協約で定める労働時間上限の範囲内で、勤務場所と労働時間の制限なく事業所の内外で作業を遂行できます。使用者は幼児の母又は障害児の親の申出を優先しなければなりません。この個別合意は作業遂行方法、休息時間を定めるとともに、労働者が作業機器につながらないことを確保する技術的措置を定めることとされています。スマートワーカーは2019年には48万人でした。
 ベルギーでは、2018年の経済成長社会結束強化法により、安全衛生委員会の設置義務のある50人以上企業において、同委員会でデジタルコミュニケーション機器の利用とつながらない選択肢について交渉する権利を与えています。もっとも、厳密な意味でのつながらない「権利」を規定しているわけではありません。
 スペインでは、EU一般データ保護規則を国内法化するための2018年の個人データ保護とデジタル権利保障に関する組織法により、リモートワークや在宅勤務をする者に、つながらない権利、休息、休暇、休日、個人と家族のプライバシーの権利が規定されました。この権利の実施は労働協約又は企業と労働者代表との協定に委ねられ、使用者は労働者代表の意見を聞いて社内規程を策定しなければなりません。この規程は「つながらない権利」の実施方法、IT疲労を防止するための訓練と啓発を定めなければなりません。
 次に、こういった各国の動きを受けたEUレベルの動きです。ただし、行政府である欧州委員会は今のところ特段の動きはなく、立法府である欧州議会において、その立法化に向けた動きが見られます。ただここで注意しておかなければならないのは、EU運営条約では、立法提案をする権限は行政府である欧州委員会にのみあり、立法府である欧州議会にはないということです。欧州議会は欧州委員会が提案した指令案や規則案を審議して採択するかしないかをきめる権限があるだけです。ただ、立法提案自体の権限はなくとも、一般的に政策課題を審議し、決議をする権限は当然あるので、その決議の中で、欧州委員会に対してこういう立法提案をすべきだと求めるということは十分可能です。本稿で取り上げる欧州議会の立法提案というのも、条約上不可能な厳密な意味での立法提案ではなく、欧州委員会に対して指令案提出を勧告する決議の案といういささか間接的な性格のものとなります。とはいえ、そこにはそのまま指令案になるような形式の文書が付属されており、実質的には欧州議会の指令案の案の案とでもいうべきものになっています。
 これは、2020年7月28日付の「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に関する報告案」と題され、9月7日の雇用社会問題委員会に提出された文書です。付録でない本文には、ICTなどデジタル機器により労働者が時間、空間の制約なくいつでもつながることが可能になり、これが身体、精神の健康やワークライフバランスに悪影響を及ぼしうるので、つながらない権利をEU指令として制定することが必要だと主張しています。そのほかにもいろいろ書いていますが、ここではむしろ、付属文書の指令案の案自体をみておきましょう。以下に指令案の訳文を掲げます。

第1条 主題と適用範囲
1.本指令はICTを含めデジタル機器を作業目的に使用する労働者がつながらない権利を行使できるようにし、使用者が労働者のつながらない権利を尊重するよう確保するための最低要件を規定するものとする。これは官民の全産業及び、欧州司法裁判所による労働者性判断基準を満たす限り、オンデマンド労働者、間歇的労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者、訓練生及び実習生を含め、全労働者に適用される。
2.本指令は、第1項の目的のため、労働時間指令、透明で予見可能な労働条件指令及びワークラフバランス指令の特則を定め、補完する。
第2条 定義
 本指令において、以下の定義が適用される。
(1) 「つながらない(disconnect)」とは、労働時間外において、直接間接を問わず、デジタル機器を用いて作業関連活動又は通信に関与しないことをいう。
(2) 「労働時間」とは、労働時間指令第2条第1項に定める労働時間をいう。
第3条 つながらない権利
1.加盟国は、労働者がそのつながらない権利を行使するための手段を使用者が提供するよう確保するものとする。
2.加盟国は、使用者が客観的で信頼でき、アクセス可能な方法で個別の労働時間を記録するよう確保するものとする。いかなる労働者もいつでもその労働時間記録を要求し、入手することができるものとする。
3.加盟国は、使用者が公平で合法的かつ透明な方法でつながらない権利を実施するよう確保するものとする。
第4条 つながらない権利を実施する措置
1.加盟国は、労働者がそのつながらない権利を行使でき、使用者がその権利を実施することを確保するものとする。このため、加盟国は少なくとも以下の労働条件を定めるものとする。
(a) 作業関連のモニタリング又は監視機器を含め、労働目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
(b) 使用者が労働時間を記録する方法
(c) 心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価の内容及び頻度
(d) 労働者のつながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準
(e) 第(d)号の適用除外の場合、労働時間外に遂行された労働の補償の算定方法を決定する基準
(f) 作業内訓練を含め、本項にいう労働条件に関して使用者がとるべき意識啓発措置
 第1文第(d)号のいかなる適用除外も、不可抗力その他の緊急事態のような例外的状況においてのみ、かつ使用者が関係する各労働者に書面で、適用除外が必要なすべての場合に適用除外の必要性を実質的に説明する理由を提示することを条件として、提供されるものとする。
 加盟国は、第2項及び第3項にいう労使団体間の協約によるのでなければ、第1文第(d)号によるつながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外することを禁止するものとする。
 第1文第(e)号にいう労働時間外に遂行された労働の補償は、休暇又は金銭的補償の形で行うことができる。金銭的補償の場合、少なくとも労働者の通常の報酬と等価でなければならない。
2.加盟国は第1項にいう労働条件を定める労働協約を締結することを労使団体に委任することができる。
3.加盟国は第2項にいう選択肢を利用しない場合、第1項にいう労働条件が使用者企業のレベルにおける労使の間で協定されることを確保するものとする。
第5条 不利益取扱いからの保護
1.加盟国は、労働者がつながらない権利を行使したこと又は行使しようとしたことを理由とした差別、より不利益な取扱い、解雇又は他の不利益取扱いを使用者に禁止するように確保するものとする。
2.加盟国は、本指令に定める権利について使用者に不服をを申し立てたり、その遵守を目的とした手続きを行ったことから生じるいかなる不利益取扱い又は不利益な結果からも、労働者代表を含む労働者を保護するよう確保するものとする。
3.加盟国は、つながらない権利を行使し又は行使しようとしたことを理由として解雇されたと考える労働者が、裁判所又は他の権限ある機関に、かかる理由によって解雇されたと推定されるに足る事実を提出した場合には、当該解雇が他の理由に基づくものであることを立証すべきは使用者であることを確保するものとする。
4.第3項は加盟国がより労働者に有利な証拠法則を導入することを妨げない。
5.加盟国は事案の事実を認定するのが裁判所又は権限ある機関である手続に第3項を適用する必要はない。
6.第3項は、加盟国が別段の定めをしない限り、刑事手続には適用しない。
第6条 救済を受ける権利
1.加盟国は、そのつながらない権利が侵害された労働者が有効かつ公平な紛争解決及び本指令から生ずる権利の侵害の場合の救済を受ける権利にアクセスできるよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働組合又は他の労働者代表が、労働者のために又は支援するためにその同意の下に、本指令の遵守又はその実施を確保する目的で行政上又は司法上の手続に関与する権限を確保するものとする。
第7条 情報提供義務
 加盟国は、適用される労働協約の条項を規定する書面の通知を含め、つながらない権利に関する十分な情報を使用者が各労働者に適用するよう確保するものとする。かかる情報には少なくとも以下のものが含まれるものとする。
(a) 第4条第1項第(a)号にいう、作業関連のモニタリング又は監視機器を含め、労働目的のデジタル機器のスイッチを切る実際の仕組み
(b) 第4条第1項第(b)号にいう、使用者が労働時間を記録する方法
(c) 第4条第1項第(c)号にいう、心理社会的リスク評価を含め、つながらない権利に関わる使用者の安全衛生評価の内容及び頻度
(d) 第4条第1項第(d)号にいう、労働者のつながらない権利を実施する義務から使用者を適用除外する基準
(e) 第4条第1項第(e)号にいう、本条第(d)号の適用除外の場合、労働時間外に遂行された労働の補償の算定方法を決定する基準
(f) 第4条第1項第(f)号にいう、作業内訓練を含め、本項にいう労働条件に関して使用者がとるべき意識啓発措置
(g) 第5条に従い、不利益取扱いから労働者を保護する措置
(h) 第6条に従い、労働者の救済を受ける権利を実施する措置
第8条 罰則
 加盟国は、本指令に基づき採択された国内規定又は本指令の適用範囲にある権利に関し既に施行されている関連規定の違反に適用される刑罰に関する規則を規定し、それが実施されるよう必要なあらゆる措置をとるものとする。規定される罰則は、有効で比例的かつ抑止的なものとする。加盟国は(本指令の発効の2年後までに)当該罰則とその措置を欧州委員会に通知し、遅滞なくその実施的な改正を通知するものとする。
(以下略)

 前述したように、これは法的には権限ある機関の提案した指令案ではありません。立法提案権のない欧州議会が立法提案権のある欧州委員会に対してこういう立法提案をしたらどうかと「勧告」することを、その欧州議会の議員が欧州議会の委員会に提案しているという段階のものに過ぎません。とはいえ、コロナ禍でテレワークが急激に広がったヨーロッパにおいて、このつながらない権利というトピックが急速に議論の焦点になりつつあるという状況を考えると、その行方は注目に値します。日本でもテレワークに関する議論が沸騰することが予想される中、本指令案の勧告案を紹介する所以です。 

 

« NewsPicksにインタビュー記事「【直言】ジョブ型で実現する、「プロなら安心社会」」 | トップページ | 韓国プラットフォーム配達労働に関する画期的な協約@呉学殊 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« NewsPicksにインタビュー記事「【直言】ジョブ型で実現する、「プロなら安心社会」」 | トップページ | 韓国プラットフォーム配達労働に関する画期的な協約@呉学殊 »