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2020年9月 6日 (日)

資本主義批判はご法度@中国

Merlin_176411571_e9f7257a15374b4ca06b1d1 ピケティといえば、本ブログでは例の「バラモン左翼」というバズワードで有名ですが、もちろん世間一般では山のようなコバンザメ本にまとわりつかれた世界的ベストセラー『21世紀の資本』で有名なロックスター・エコノミストです。

この表現、ニューヨークタイムスのこの記事にあったんですが、

https://www.nytimes.com/2020/08/31/world/europe/thomas-piketty-china.html?smtyp=cur&smid=tw-nytimes

With his in-depth critique of Western capitalism, detailed in a 700-page book that enjoyed record sales in 2014, France’s rock-star economist Thomas Piketty was well regarded by Chinese leaders.
That was until he turned his attention to China. 

マルクス主義を掲げている中国政府としては、資本主義批判の本は大変結構。ただしそれが中国以外の資本主義を批判している限りで。

彼の近著『資本とイデオロギー』は、そこを踏み越えてしまったようです

Mr. Piketty said Monday that his follow-up book, “Capital and Ideology,” which broadens his study of the rise of economic inequality to non-Western countries such as China and India, is unlikely to be published in mainland China because he refused requests from Chinese publishers to cut parts of it. 

そりゃ、いまやGDP世界第2位の共産一党独裁の資本主義国家を批判の対象にしないような資本主義論(をもてあそぶ寝ぼけたマルクス経済学者も日本には山のようにいますけど、それはともかく)なんか存在価値がないと私も思いますが、そこはやはり虎の尾を踏んづけてしまったようです。

“For the time being, there will be no book in China,” said Mr. Piketty, one of the most high-profile academics to stand up to China, calling the requests “ridiculous” and equating them with censorship. 

この記事にこういう反応をしている人もいたりしますが、

https://twitter.com/aucklandzwitsch/status/1300739512364982272

The Chinese Communist Party rushes to defend capitalism. ??????? 

中国共産党にとってマルクス主義は断固擁護すべき金科玉条でありつつ、同時に絶対に本気で信奉されたりしてはならないタブーでもあるという二律背反の板挟みを、これほどよく示している事態もないのかもしれません。

中国以外の(特にアメリカの)資本主義を口を極めて批判するのは大いに歓迎するけれども、こと中国の資本主義については一切の批判は許されないわけです。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/post-855b.html(中国共産党はマルクス主義がお嫌い?)

フィナンシャルタイムズに「北京大学がマルクス主義研究会の閉鎖を恫喝」(Peking University threatens to close down Marxism society)という興味深い記事を載せています。・・・副題に「学生たちは労働組合権を巡る争議を支援し続ける」(Students continue to back workers in dispute over trade union rights)とあるように、これは、マルクス主義をまじめに研究する学生たちが、元祖のマルクス先生の思想に忠実に、弾圧される労働者たちの労働組合運動を支援するのが、そのマルクス主義を掲げていることになっている中国共産党の幹部諸氏の逆鱗に触れてしまったということのようです。 

いやいや、確かに、マルクス主義は厭うべき外国思想の典型なのかもしれませんね。
いまさら皮肉なことに、というのも愚かな感もありますが、一方でわざわざドイツのトリーアに出かけて行って、マルクスの銅像をぶっ立てたりしているのを見ると、なかなか言葉を失う感もあったりします。 

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-0e60.html(中国共産党はマルクス主義がご禁制?)

マルクス・レーニン主義は中国共産党の憲章の中に明記されているが、江蘇省南京大学の一群の学生が最近大学当局にマルクス主義読書研究会を設立したいと申請したところ、理由なく遅延され、理由を問うたところ暴力的に追い散らされた。・・・マルクス主義読書研究会の設立を求めた学生の一人である南京大学学生の胡弘菲によれば、50日前に大学に登録を申請したが、南京大学の哲学部と共産主義青年団の南京大学委員会によって推薦された。ところが、最近1か月間申請した学生たちは平服の連中に後をつけられ、前日学生たちが大学当局の本部に行き、南京大学党委員会の胡金波書記に面会を求めたところ、突然一群の身分不明の者たちが現れ、彼らを襲撃し、多くの者が負傷した。準備したチラシとバナーはすべて破壊された。。・・・
いやいや、もはや現在の中国共産党にとっては、マルクス主義などという不逞の思想はご禁制あつかいなのかもしれません。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-ba65.html(中国にとってのマルクス主義-必修だけど禁制)

 共産党という名の政権党が支配する国の時代を担う若者たちに、その根本哲学を教えるという最も大事なはずの授業が、それをできるだけ教えたくないという気持ちがにじみ出るようなものであるのはなぜなのか?・・・

 本気で興味を持たせてしまうと、現在の他の資本主義国のどれよりも市場原理に制約が希薄な「社会主義市場経済」に対する批判的精神を醸成してしまうかもしれないから、わざとつまらなくつまらなく、だれもまじめにマルクス主義なんかに取り組もうと思わないようにしているんだろう、と。
5年前のこの川端さんの推測はおそらく正しいと思いますが、それだけの配慮をしていてもなお、そのこの上なくつまらないマルクス主義の授業にもかかわらず、本気でマルクス主義を勉強しようなどという不届きなことを考える不逞の輩が出てきて、共産党という名の資本家階級に搾取されているかわいそうな労働者を助けようなどという反革命的なことを考えるとんでもない若者が出てきてしまったりするから、世の中は権力者が思うように動くだけではないということなんでしょうか。

ご禁制にしたいほどの嫌な思想なのに、それを体制のもっとも根本的なイデオロギーとして奉っているふりをしなければならないのですから、中国共産党の思想担当者ほど心労の多い仕事はないように思われます。いまでもマルクス経済学は学生たちに必修科目として毎日教えられ続けているはずです。できるだけつまらなく、興味をこれっぽっちも惹かないように細心の注意を払いながら、一見まじめに伝えるべきことを伝えようとしているかのように教えなければならない。少なくとも私にはとても務まらないですね。 

こうしてみると、本心ではご禁制にしたいほど毛嫌いしている革命的なマルクスの思想を、共産党政権の正統性の根源たるご本尊として拝む屁理屈を作らなければならない党イデオロギー官僚のみなさんほど、脳みそを絞りに絞ってへとへとになる商売はこの世に外にはほとんどないように思われます。

まあ、時々、わざわざその中華ナショナリズムを断固として擁護してくれる奇特な日本人がいてくれるのがせめてもの慰めなのかもしれません。

(追記)

なんだか、ピケティが本気で社会主義の再興を提言しているから中国の気に入るかもと思ったけれど、とか呟いている人がいるみたいだけど、看板に掲げているだけのものを本気にされて現実との落差を指摘されることほど腹立たしいことはないのにね。割と単純な人なんだな。

https://twitter.com/hiyori13/status/1301847887819632641

(ついでに)

ついでに余計なことを言っておくと、ピケティがその資本主義批判の本の出版を断念した中国で、自分のマルクス礼賛本の翻訳が出たと自慢たらたらな、自分では反知性主義の反対だと思い込んでいるらしいおっさんがこちら。よっぽど、中国資本主義にとって無害な代物だと思われたんですね。それをまた恥じるどことか自慢してるんだから始末に負えない。ピケティの爪の垢を呑む気などはなからなさそうです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-855d.html

(中国左翼青年の台頭と官憲の弾圧)

そういう中国共産党が、わざわざ日本語から翻訳して読ませたがるのが内田樹氏の本だという笑劇。

 

https://twitter.com/levinassien/status/1082458518177763328

「若者よマルクスを読もう」の第3巻に翻訳オファーが来ました。またまた中国からです。たしかに「マルクスとアメリカ」というテーマで書かれた本、中国にはなさそうですものね。中国におけるマルクス研究のレフェランスに日本人の書いた本が加わるって、面白い話ですよね。

https://twitter.com/levinassien/status/1082461472708423680

僕の本、韓国語と中国語訳は20冊くらい出ているんですけれど、欧米語の翻訳書はゼロです(論文はいくつか訳されますけれど)。この非対称性は何を意味するのでしょう。東アジア限定的に共感度が高いテクストがありうるのでしょうか。あるとしたら、どういう条件を満たしたら、そうなるのか。うむむ。

そりゃ、いうまでもないでしょ。

 

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「共産党員および領導幹部への推薦図書」の帯をつけて平積みにされているのですから、よっぽど中国共産党のお気に入りなんですね。読んでも上に出てくるまじめな左翼青年のような社会への疑問を持つことはないと、太鼓判を押してもらっているわけです。よかったね。

 

 

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