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2020年9月16日 (水)

『労災補償保険制度の比較法的研究』

Rosai 『労働政策研究報告書 No.205 労災補償保険制度の比較法的研究 ―ドイツ・フランス・アメリカ・イギリス法の現状からみた日本法の位置と課題』が刊行されました。

https://www.jil.go.jp/institute/reports/2020/0205.html

「働き方改革実行計画」(2017年3月)においては、雇用型テレワーク、非雇用型テレワーク(雇用契約によらない働き方)、兼業・副業といった「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が、柱の一つとして掲げられており、これらの働き方にかかる労災補償保険制度による保護の在り方は、現在ないし今後の我が国における重要な政策課題の一つとなっている。このような動向を背景に、本研究は、ドイツ・フランス・アメリカ・イギリスにおける労災補償保険法制の現状を詳細にフォローしつつ、日本との比較検討を行うことにより、同制度をめぐる日本法の国際的な位置と今後の検討課題と明らかにすることを目的とするものである。
なお、労災補償保険制度をめぐる国際比較研究については、労働政策研究・研修機構(JILPT)の前身である日本労働研究機構(JIL)の時代に刊行された、『調査研究報告書No.148・労災補償制度の国際比較研究』新しいウィンドウ(2002年)があるが、本研究は同報告書のup date版としての意義をも有するものである。

執筆者は以下の通りで、

山本 陽大 労働政策研究・研修機構 労使関係部門 副主任研究員
河野 奈月 明治学院大学 法学部 准教授
地神 亮佑 大阪大学 法学部 准教授
上田 達子 同志社大学 法学部 教授 

山本さんがドイツ法を書くとともに、かなり気合いの入った総括(30ページにも及ぶ)を書いています。これは独立の論文としても読み応えがありますよ。

主な事実発見

兼業・副業を行う労働者について労働災害等の保険事故が生じた場合、ドイツ・フランス・アメリカ(ミシガン州)においては、本業先と副業先の賃金額を合算した額を基礎として、労災保険給付(金銭給付)が算定される(賃金合算)。一方、イギリスにおいては、労災保険給付(障害年金)は、定額(均一)給付となっているため、このような賃金合算は問題とならない。
本研究で比較対象とした諸外国の労災補償保険制度においては、兼業・副業を行う労働者について、本業先と副業先双方での負荷を総合すれば、傷病等との因果関係を肯定できる場合に、これを固有の保険事故として労災保険給付の対象とするといった取り扱い(負荷合算)は、なされていない。
ドイツ・フランス・アメリカ(一部の州)・イギリスにおいては、職業疾病についてリストを作成しているが、かかるリスト中においては長時間労働等による脳・心臓疾患や心理的負担による精神疾患は採り入れられていない。
ドイツ・フランスにおいては、雇用型テレワーク中の傷病等がどのような場合に労働災害等として認められるかについて、近時、判例や立法によって、判断基準の明確化が一定程度図られてきている。
ドイツ・フランス・アメリカにおいては、事業主であっても、いかなる業種に従事しているかに関わらず、個人として労災補償保険制度へ任意加入することが可能となっている。従って、これらの国々においては、雇用契約によらない働き方をしている独立自営業者等についても、少なくとも自身で保険料を負担する限り、かかる任意加入により、同制度による保護を受けることが可能である。更に、フランスでは2016年以降、一定の要件を充たすデジタル・プラットフォームにより就労している独立自営業者が労災補償保険制度へ任意加入した場合、生じる保険料については当該プラットフォーム運営者の側が、これを負担すべき義務を負うこととなっている。

政策的インプリケーション

日本では従来、兼業・副業を行う労働者(複数事業労働者)にかかる労災保険給付(給付基礎日額)の算定に当たっては、賃金合算は原則として認められていなかったが、2020年3月の労災保険法改正によりこれを認めるための立法措置(新8条3項)が採られた。これによって、日本法は、この問題に関する国際標準に合致する形となったといえる。
そして、これに加えて、2020年3月の労災保険法改正では、複数事業労働者について負荷合算による労災認定(複数業務要因災害)を行うための立法措置(新7条1項2号等)も講じられている。この点は、諸外国とは異なり、脳・心臓疾患や心理的負担による精神疾患が従来から業務上の疾病(労働基準法施行規則別表第1の2第8号・9号)として認められており、またその認定に当たっては、行政上の認定基準によって、特に時間外労働時間数のような定量的な負荷の指標が重要な役割を果たしてきた日本特有の法制と評価することができる。
雇用型テレワークに関しては、ICTの進展や新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、テレワーカー人口の増大が予想されることから、テレワーク中の傷病等の労災認定について、従来のあるいは今後の認定事例の蓄積を踏まえ、ガイドライン化等の方法により判断基準の明確化を図ることが重要な課題となる。
独立自営業者等の雇用契約によらない働き方をしている者の労災補償保険制度による保護については、現行の特別加入制度の対象範囲の拡大を検討すべきであるとともに、現在の団体加入方式を維持することが妥当かという点についても、併せて検討する必要がある。
なお、上記のうち、特に1、2および4.で挙げた点について立法政策による対応が進むなかでは、いわゆる「労災保険の一人歩き」現象がいっそう顕著なものとなることから、労働基準法が定める使用者の災害補償責任が現代において持つ意義と労災補償保険制度の法的性格付けについても、改めて議論・検討する必要がある。

 

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