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2020年9月17日 (木)

テレワークとみなし労働時間制@『労基旬報』2020年9月25日

『労基旬報』2020年9月25日に「テレワークとみなし労働時間制」を寄稿しました。

 去る6月25日号で「テレワークの推進が問い直すもの」を寄稿し、コロナ禍でテレワークが注目を集める中、事業場外労働のみなし労働時間制の適用をめぐる問題に触れました。この問題は過去20年弱の経緯がやや複雑であり、あまり知られていない面もあるようなので、今回簡単に振り返っておきたいと思います。

 出発点は2004年3月の通達「情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の適用について」(平成16年3月5日基発第0305001号)です。これは京都労働局から稟伺のあった件についての回答ですが、①当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。②当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。③当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと、のいずれの要件をも満たす形態で行われる在宅勤務については、原則として、労働基準法第38条の2に規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されるとしています。ただし、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在することのないような措置が講じられていれば、労働時間を算定し難いとは言えず、事業場外労働に関するみなし労働時間制は適用されないとしています。

 またこの2004年在宅勤務通達と同じ日付で、「情報通信技術を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(基発第0305003号)が策定されていますが、そこでは在宅勤務について、事業主が労働者の私生活にむやみに介入すべきではない自宅で勤務が行われ、労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方であるため、一定の場合には、労働時間を算定し難い働き方として、事業場外労働のみなし労働時間制を適用することができるといいます。ここは実は極めて重要な論点です。事業場外労働のみなし労働時間制は、法律上「労働時間を算定し難い」ことが要件ですが、それはかつての外勤営業職におけるように、単に通信手段が限られているために技術的に労働時間を算定しがたいという場合だけに適用されるのではなく、技術的には労働時間を算定することは可能であったとしても、それが労働者の私生活にむやみに介入することになりかねないために、いわば社会的に労働時間を算定し難い、あるいはむしろむやみに私生活に介入して労働時間を算定すべきでない場合があるのだ、という価値判断を、やや黙示的に行っていると解されるからです。上記在宅勤務通達の但書の記述は、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在しないようにすれば算定し難いとは言えず、みなし制が適用できないといっていますが、逆に言えば勤務時間帯と日常生活時間帯が混在するようにしていれば算定し難いので、みなし制が適用できると言っているわけですから、技術水準によってではなく、仕組みの設計によってみなし労働時間制の適用の有無を操作することができると述べているにも等しいのです。

 さて、この在宅勤務通達が政策論議の焦点となったのが2007年、経済財政諮問会議に設けられた労働市場改革専門調査会(会長:八代尚宏)においてでした。同調査会では7月の第11回会合で厚生労働省労働基準局の担当官が出席し、在宅勤務通達への批判に答えています。このやりとりの結果、9月の同調査会第2次報告では厚生労働省担当官が答弁した内容に即して、その旨を通達に明記するよう求めています。細かな表現の違いはありますが、ここは2008年通達に盛り込まれました。同報告はさらに、「同じ事業所内で同一時間帯に働く労働者を使用者が管理することを前提とした労働基準法等の労働関係法令を在宅勤務にもそのまま適用しなければならないとすれば、多様な働き方の選択肢を拡大することができない」と通常の労働時間制度の適用に否定的な態度を示し、深夜労働や休日労働の規制が免れないことにとどまらず、そもそも論として「現行の事業場外労働に関する労働時間のみなし制度は、あくまでも労働時間の算定が困難であることを前提とした例外的な制度であり、仕事と生活時間の配分の決定等が大幅に労働者の裁量に委ねられている在宅勤務については「便法」の域を出ないものとなっており、こうした在宅勤務の特色に即したより柔軟な労働時間規制が求められる」と、労働時間法制の見直しを求めています。

 この第2次報告を受けて、第11回会合で約束した通達の趣旨明確化を実現するため、翌2008年7月に厚生労働省労働基準局は2004年在宅勤務通達を改正しました(平成20年7月28日基発第0728002号)。これにより、①「使用者の指示により常時」とは、労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断することが使用者から認められていない状態の意味であること、②「通信可能な状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて電子メール、電子掲示板等により随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者から具体的指示があった場合に労働者がそれに即応しなければならない状態(即ち、具体的な指示に備えて手待ち状態で待機しているか、又は待機しつつ実作業を行っている状態)の意味であり、これ以外の状態、例えば、単に回線が接続されているだけで労働者が情報通信機器から離れることが自由である場合等は「通信可能な状態」に当たらないものであること、③「具体的な指示に基づいて行われる」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないものであること、④自宅内に仕事を専用とする個室を設けているか否かにかかわらず、みなし労働時間制の適用要件に該当すれば、当該制度が適用されるものであることが示されました。さらに同時に発出された2008年ガイドラインでは、深夜業・休日労働につき、事前許可制・事後申告制をとっていて事前許可・事後申告なき場合は労働時間に該当しないと明言しています。これらは後述の2018年事業場外労働ガイドラインにも受け継がれています。

 これが大きく改正されるきっかけは2017年3月の働き方改革実行計画でした。その中で「雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援」という項目が立てられ、「近年、モバイル機器が普及し、自宅で働く形態だけでなく、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務といった新たな形態のテレワークが増加している」という「実態に合わせ、これまでは自宅での勤務に限定されていた雇用型テレワークのガイドラインを改定し、併せて、長時間労働を招かないよう、労働時間管理の仕方も整理する」とされたのです。その際、「育児や介護などで仕事を中抜けする場合の労働時間の取扱や、半日だけテレワークする際の移動時間の取扱方法が明らかにされていない。このため、企業がテレワークの導入に躊躇することがないよう、フレックスタイム制や通常の労働時間制度における中抜け時間や移動時間の取扱や、事業場外みなし労働時間制度を活用できる条件などを具体的に整理するなど、その活用方法について、働く実態に合わせて明確化する。また、長時間労働を防止するため、深夜労働の制限や深夜・休日のメール送付の抑制等の対策例を推奨する」ともされました。

 これを受けて2017年10月、厚生労働省に柔軟な働き方に関する検討会が設置され、6回にわたる検討の結果、同年12月に報告書をまとめました。これに基づき、翌2018年2月に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日基発0222第1号、雇均発0222第1号)が策定されました。このガイドラインは事業場外みなし労働時間制の適用にはやや消極的となり、通常の労働時間制度の適用をデフォルトとする考え方に傾いています。

 まず、在宅勤務に加えてサテライトオフィス勤務とモバイル勤務が対象に加えられています。これ自体は世界的なテレワークの進化に対応していますが、このことが2008年ガイドラインに存在したある認識を欠落させることになります。それは、テレワークが「業務に従事する場所が、労働者の私生活にむやみに介入すべきでない自宅である」点や「労働者の勤務時間帯と日常生活時間帯とが混在せざるを得ない働き方である」点です。これらは私生活の場所である自宅で勤務する在宅勤務の特徴であって、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務には当てはまりません。そのため、2008年ガイドラインにおいては、外勤営業職のように単に通信手段が限られているがゆえに労働時間が算定しがたいというだけではなく、技術的には算定可能であったとしても、それが労働者の私生活への介入になりかねないために、社会的に労働時間を算定し難いという観点から、事業場外労働のみなし労働時間制を適用するという考え方があったのに対して、2018年ガイドラインではそうした考慮はきれいさっぱり消え去ってしまっています。

 事業場外労働のみなし労働時間制を適用する場合の要件自体は、2008年ガイドラインに若干書き加えられている程度でほとんど変わってはいませんが、そもそも私生活への介入の回避という出発点の考慮が失われているため、なぜそのような細かな要件をつけて、情報通信技術だけからすれば十分労働時間が算定可能であるにもかかわらず、あえて即応義務の有無という社会的要件を加味することで算定困難ということにしてみなし労働時間制を適用できるようにしているのかが、却ってわかりにくくなっています。そして、私生活への介入回避のためにあえてみなし労働時間制を選択するという発想がなくなれば、通常の労働時間制を適用することがデフォルトルールとされるのは当然のことです。

 2008年ガイドラインと異なり、2018年ガイドラインの労働時間の項は「使用者は、原則として労働時間を適正に把握する等労働時間を適切に管理する責務を有している」という認識から始まります。そして、例外的なみなし労働時間制適用者等を除き、2017年労働時間把握ガイドラインに基づき適切に労働時間管理を行わなければならないと宣言します。ここでは、少なくとも原理的レベルにおいて、職場における勤務と事業場外勤務になんら差はありません。そして、私生活への介入の問題がありうる在宅勤務と、それが希薄なサテライトオフィス勤務やモバイル勤務との間にも、なんら差はつけられていません。等し並みに(私生活に介入してでも)労働時間を適正に把握せよという命題が適用されます。

 こうして、通常の労働時間制度を適用することが大前提とされるために、その下でテレワーク特有の事象にいかに対処するかが2018年ガイドラインでは特記されることになります。それがいわゆる中抜け時間と移動時間の扱いです。いずれも、事業場外みなし制の適用がデフォルトであった2008年ガイドラインでは取り上げられなかったトピックです。これらのうち、移動時間の扱いは私生活との関係は希薄で、情報通信技術の発達によって移動時間中にもいくらでも作業をすることができるようになったことへの対応として、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務といったテレワークに限らず、従来型の外勤営業職についても斉一的な扱いをすべきものでしょう。しかし、そちらはいかに情報通信技術が発達しても、依然として事業場外労働のみなし労働時間制が使われ続けています。平成31年就労条件総合調査によると、事業場外みなし労働時間制の採用企業は12.4%、適用労働者7.4%で、専門業務型裁量労働制のそれぞれ2.3%、1.3%、企画業務型裁量労働制のそれぞれ0.6%、0.4%を圧倒しています。また、通勤時間や出張旅行中に作業ができるというのも、今やおよそすべての通勤や出張をする労働者に言えることのはずです。これに対し、在宅勤務中の中抜け時間というのは私生活との関係で慎重な扱いが必要とも思われますが、休憩時間とか時間単位年休といったややもすると過剰介入とも思われるような対応を要求することとなっています。

 2018年ガイドラインでは、通常の労働時間制度をとらない場合でも、フレックスタイム制、裁量労働制といった制度の適用を従来デフォルトだった事業場外見なしと同列に並べています。ただ、フレックスタイムはあくまで始業・終業時刻を労働者に委ねるだけなので、2017年労働時間把握ガイドラインに基づく労働時間管理が必要であることには変わりはありませんし、裁量労働制は専門業務型と企画業務型に該当しなければ適用できないので、在宅勤務だから裁量労働制にできるわけではありません。つまり、在宅勤務における私生活への介入の危険性に着目した過度な労働時間把握に対して抑制的なスタンスというのは、形式的に2008年ガイドラインから受け継いだ事業場外みなし労働時間制の要件に残されているだけで、基本的な考え方としてはむしろ失われたと言っていいように思われます。

 また2018年ガイドラインは、通常の労働時間制度の適用を前提に「テレワークを行う労働者は、業務に従事した時間を日報等において記録し、使用者はそれをもって当該労働者に係る労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すことが望ましい」とした上で、2008年ガイドラインで(事業場外みなし制の適用を前提に)深夜労働、休日労働について示していた労働時間該当性の要件を、時間外労働についても拡大して記述しています。これは、労働市場改革専門調査会で主に深夜労働を念頭に厚生労働省担当官が答弁した内容がそのまま時間外労働一般に拡大される形で記述されていますが、そのため時間外労働一般に事前許可制や事後報告制が必要であるかのような印象を与えるものとなっています。職場で通常の労働時間が適用される場合には通常そのようなものは不要なので、テレワークについてのみ時間外労働が厳しく規制されるという印象を与えることは避けられません。

 さらに、その次の「長時間労働対策」の項では明示的に、テレワークでは「労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管理の程度が弱くなるおそれがあること等から、長時間労働を招くおそれがあることも指摘されている」という理由付けに基づき、次のような対策をとることを勧めています。「勧めています」というのは、日本語表現の上ではあくまでも「考えられる」とか「有効である」と言っているだけで、「求められる」とか「すべきである」と言っているわけではないのですが、ガイドラインをここまで読み進めてくると、あたかも強い勧奨を受けているかのような印象を与えることは避けられないからです。

① メール送付の抑制
 テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外、休日又は深夜に業務に係る指示や報告がメール送付されることが挙げられる。
 そのため、役職者等から時間外、休日又は深夜におけるメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。
② システムへのアクセス制限
 テレワークを行う際に、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスする形態をとる場合が多いが、深夜・休日はアクセスできないよう設定することで長時間労働を防ぐことが有効である。
③ テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等
 業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点からテレワークの制度を導入する場合、その趣旨を踏まえ、時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすることも有効である。この場合、テレワークを行う労働者に、テレワークの趣旨を十分理解させるとともに、テレワークを行う労働者に対する時間外・休日・深夜労働の原則禁止や使用者等による許可制とすること等を、就業規則等に明記しておくことや、時間外・休日労働に関する三六協定の締結の仕方を工夫することが有効である。
④ 長時間労働等を行う労働者への注意喚起
 テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・深夜労働が生じた労働者に対して、注意喚起を行うことが有効である。
 具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示するような方法がある。

 こうした労働時間規制色の強い2018年ガイドラインに対して、規制改革サイドから反発が出てくることになります。

 2016年9月に新発足した規制改革推進会議は、2019年3月から働き方の多様化に資するルール整備に関するタスクフォース(主査:八代尚宏)を開催し、3回にわたって副業・兼業とテレワークに関して議論を行い、同年6月の規制改革推進に関する第5次答申にその一部が盛り込まれました。このタスクフォースの議論を見ると、ある意味で2007年に経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会(これも八代氏が会長でした。)で提起されながらそのままになっていた問題が再度土俵に登ってきた感もあります。

 もっとも、第5次答申で直接求められているのは、①時間外・休日・深夜労働について、テレワーク労働者のニーズ調査を実施する、②同調査も踏まえつつ、2018年ガイドライン)で長時間労働対策として示されている手法において、所定労働時間内の労働を深夜に行うことまで原則禁止と誤解を与えかねない表現を見直す、という2点です。

 今回コロナ禍でテレワークが注目を浴びたこともあり、2020年8月、厚生労働省雇用環境・均等局は「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」(座長:守島基博)を設置して議論を開始したところであり、その検討課題としては、テレワークの際の労働時間管理の在り方、テレワークの際の作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルス、テレワークの対象者選定、その他労務管理上の課題が挙げられていますが、法政策上の課題としては上述のような経緯があることも知られておいていいと思われます。

 

 

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コメント

教育系法人で労働組合執行委員をしているものですが、寄稿文の掲載、誠に感謝いたします。私はテレワークに関するガイドラインはここ数年のものしか見ていなく、テレワークへのみなし労働時間制適用の要件については何とも言えない違和感を覚えていたのですが、今回のご指摘でそれが「私生活にむやみに介入すべきではない」という方針の痕跡とわかり、違和感が一気に氷解いたしました。また記事にお書きいただいたとおり、このような方針がかつてあったことは世の中に知られるべきと強く感じます。通知文書の詳細も記載いただいたので、今後の組合活動でも機会を見つけて資料として活用していきたいと思います。繰り返しとなりますが、寄稿文の掲載、誠にありがとうございました。

改めて見直したら、改行されていなかったので、整形しました。
すこしは読みやすくなったと思います。

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