日弁連会長はいかなる意味でも被用者ではないのになぜ厚生年金に入らないといけないのか?
この記事を見て、なんかおかしいなと思いませんでしたか?
https://www.sankei.com/affairs/news/200811/afr2008110023-n1.html(〈独自〉日弁連会長らも厚生年金未加入)
神奈川県弁護士会の会長が厚生年金の加入漏れを年金事務所に指摘された問題で、日本弁護士連合会(日弁連)の会長らも日弁連から報酬を受けながら、厚生年金に加入していないことが11日、日弁連への取材で分かった。厚生労働省は「法人から報酬を得ていれば社会保険に加入しなければならない」としており、日弁連は「対応を検討したい」としている。・・・
担当者によると、会長らは加入義務のある「使用されるもの」に該当しないと考えられていた上、自身の事務所の業務も続けており、任期中だけ厚生年金に入る対応はとらなかったとみられる。
厚労省年金局の担当者は「法人の代表でも、法人組織と使用関係があり労働の対価で報酬を得ていれば、厚生年金に加入する義務がある」と指摘。期間が限定的でも「免除する決まりはない」としている。・・・
常識で考えれば、年金保険は被用者用の厚生年金保険と非被用者用の国民年金からなる、ということのはずなんですが、そのどちらも現実は大きくねじ曲がっています。
その一つが、今や国民年金の4割以上がれっきとした被用者である非正規労働者であることですが、もう一つの原則からの乖離が、今回問題となっている、いかなる意味でも被用者ではない法人代表者の厚生年金加入です。
これって要するに、本来の被用者/非被用者の二分法を、島耕作モデルに沿ってねじ曲げているわけです。ヤング島耕作から始まって、係長島耕作、課長島耕作、部長島耕作までは雇われている被用者なので厚生年金保険、取締役島耕作、常務島耕作、専務島耕作、社長島耕作は雇う側の非被用者なので国民年金、でなければおかしいはずのところを、同じ出世街道の前の方と後の方だからということで、厚生年金に入れている。健康保険も同じです。
このやり方について、私は『年金保険の労働法政策』の中でこう述べましたが、
https://www.jil.go.jp/institute/rodo/2020/documents/013.pdf
労働法上は明確に「使用される者」である短時間労働者を労使折半で保険料を負担する社会保険から排除しておきながら、明確に「使用する者」である法人の代表者や業務執行者についてはその保険料の半分を法人の負担とすることを認めているこの運用には、非正規労働者は企業メンバーたる「社員」から排除しつつ、労働者たらざる企業経営者は企業メンバーたる「社員」に含めて考える戦後日本の会社共同体思想の強い影響が窺われます。
サラリーマン上がりの社長たちにとっては大変ありがたみのあるこの特例措置が、そもそも自営業者であって、その業界団体のトップに就いただけの人にまで適用されてしまうということから、こういうおかしな悲喜劇が生み出されてしまうわけですね。
つうか、そもそも論を少しも考えずに平べったくケシカランしか言えないのって情けなくないか。せめてこれくらい深みのあること言ってみたらどうかと思うけどね。
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