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« 石井知章 on 中国の非正規労働者 | トップページ | ジョブ型にすれば解決するのか?@『Works』161号 »

2020年8月 5日 (水)

ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?(再掲)

「ある外資系人事マン」さんが、「なんで「ジョブ型」がこうねじれるんだろう?」のコメントとして、昨日の日経の記事を引用していただいていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-a51574.html#comment-118210946

念のためですが、ここへきてようやく日経新聞のジョブ型に関する記事が真っ当な内容に変わってきたようで、一読者としてホッとしています。例えば、今日の朝刊掲載のドイツIT企業の「ジョブ型」取材記事ですが、事実にもとづきよく書けています。ただ、しいて難を言えば、記事内の「解雇云々」の描写は、『日本及びドイツ企業=長期雇用(解雇なし)、米国企業=短期雇用(解雇多し)』という、同記者のバーチャル脳内妄想(ステレオタイプ)が反映されているようで大変残念です。今後はこういう細かい所も、安易な通年や思い込みに頼らず、正確なデータと事実を踏まえた記事を書いていただきたいものです。

せっかくドイツの話を持ち出していただいたので、もう4年近く前のエントリではありますが、「ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?」というのをお蔵出しておきたいと思います。たぶんいまでもそっくりそのまま世間の啓蒙に使えそうな気がします。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-f672.html(ドイツはジョブ型かメンバーシップ型か?)

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こういう言い方をこの私がすると、「お前が言うか、お前が」という非難の声がどっと襲いかかってくるような気がしないでもないですが、でもやはり、こう言わなければなりません。

ジョブ型とか、メンバーシップ型とか、頭の整理のための概念なのだから、あんまりそれにとらわれてはいけませんよ、と。

いやもちろん、ごちゃごちゃした現実をわかりやすく認識するためには大変役に立ちます。

でも、ある国の社会のありようを100%どちらかに区別しきらなければいけないと思い込んでしまうと、かえってものごとの姿をゆがめてしまうことにもなりかねません。

どういうことかというと、大杉謙一さんのこんなツイートが目に入ってきたからなんですが。

https://twitter.com/osugi1967/status/803107321643548672


先日、ドイツ人を呼んでシンポをやったのですが、どうやら経営層の人材はジョブ型で、ブルーカラー層はメンバーシップ型ではないかという感触を持ちました。

https://twitter.com/osugi1967/status/803111417092018176


ありがとうございます。「ブルーカラーがメンバーシップ型」というのは、私の憶測が入っているのでこれから知己を頼って検証したいと思います。

https://twitter.com/osugi1967/status/803111838682464256


(続き) ドイツ以外のヨーロッパでは、ジョブ型ゆえに若者の失業率が高いことは有名で、ドイツは職業教育が充実しているのでこの問題が生じにくいのですが、「型」はともかく、ブルーカラーの転職率は低いようです。

https://twitter.com/osugi1967/status/803112429487935488


私は、日本の大学の多くを職業教育型に転換していくことには反対ではないのですが、実は肝心の学生がそれを望んでいないようにも感じています。なぜ人は功成り名を遂げると教育(大学)改革の話をしたがるのか(溜息)

えーと、どこから解きほぐしたら良いのかよくわからないのですが、まず「ジョブ型」という概念のもとである、契約で職務が限定されており、賃金はその職務について決まっているという点では、ドイツは間違いなく「ジョブ型」です。

特にブルーカラー労働者の場合、企業を超えた産業別労働協約で賃金が決定されており、それが各企業に原則としてそのまま適用されるという点では、他のヨーロッパ諸国に比べてもより「ジョブ型」でしょう。

しかし一方で、とかく日本では「メンバーシップ型」の徴表ととらえられがちな企業がそう簡単に解雇できないとか、仕事がなくなっても雇用を維持しようとするという面では、これまたおそらくヨーロッパ諸国の中でもかなりそういう傾向があるのも確かです。そもそも、日本の雇用調整助成金のもとは、ドイツの操業短縮手当であって、景気変動には雇用維持で対応という面では相当に「メンバーシップ型」の面があります。

とはいえ、では日本みたいにどんな仕事にでも平気で変えるかというと、「この仕事」というジョブ意識は極めて強くて、企業が勝手に職務を変更できるなどということはありません。そこは強固に「ジョブ型」です。

さらに、集団的労使関係を見ても、産業別労働組合が産業別労働協約を結び、産業別の労働条件を決定しているという点では、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても極めて典型的な「ジョブ型」である一方で、事業ごとに事業所委員会という労使協議システムを確立し、ある意味ではまさに日本の企業別組合がやっているような企業の中の労働関係の様々な調整を綿密にやっているという面は、これまた他のヨーロッパ諸国に比べても「メンバーシップ型」的な側面が強いという言い方もできます。そして、会社の監査役会に従業員代表がポストを占めるというかたちで、少なくとも法律上は日本よりもずっとメンバーシップ型になっていると言えないこともありません。

何が言いたいかというと、ある国の労働社会のありようというのはなかなかに複雑なもので、「ジョブ型」「メンバーシップ型」というようなある側面を切り取った切り口「だけ」で綺麗に説明し尽くせるというようなものではないということです。

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実を言うと、このあたりの消息を歴史的に解き明かしているのが、来月早々にも本屋さんに並ぶはずの、濱口・海老原『働き方改革の世界史』(ちくま新書)です。

 

 

 

 

 

 

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コメント

Hamachan先生、ドイツ雇用制度のアップデートありがとうございます。やはりどの国の制度も多面的に細かい所まで見ておかないといけませんね。来月発売のちくま新書を購入し、しっかり勉強させて頂きます〜

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