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2020年8月15日 (土)

低学歴を詐称することは懲戒解雇に値するが、高学歴を詐称することは雇止めにも値しない

この記事にこの上ない既視感が拭えなかったのですが、

https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20200814/2020009440.html(神戸市職員が学歴詐称で懲戒免職)

神戸市で24年にわたって勤務を続けてきた男性職員が、大学卒業の経歴を隠し、受験資格が高校卒業までとされる職員に採用されていたことがわかり、市は、この職員を懲戒免職の処分にしました。
処分を受けたのは、神戸市水道局に所属する48歳の男性職員です。
神戸市によりますと、この職員は、受験資格が高校卒業までとされる技術職員の試験を受けて平成8年に採用され、これまで24年にわたって勤務してきました。
しかし、この職員は実際は大学を卒業していて、ことしの3月に匿名の通報で経歴を偽っていたことがわかったということです。
このため、神戸市はこの職員を14日付けで懲戒免職の処分にしました。

同じ神戸市で、同じく大卒が高卒と学歴詐称して、同じように懲戒免職になった事件がありました。それを取り上げた本ブログのエントリが、開口一番「デジャビュ感溢れる」というくらい、この話題はデジャビュの塊なんですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-0f34.html(大は高を兼ねない)

こういう大変デジャビュ感溢れる記事がありました。

https://www.asahi.com/articles/ASLCV7TT1LCVPIHB02B.html(「大卒なのを高卒」と詐称 神戸市の男性職員を懲戒免職)

大卒なのを高卒と学歴詐称し、そのまま長年勤務していたなどとして、神戸市は26日、定年後に再任用されていた経済観光局の男性事務職員(63)を懲戒免職処分とし、発表した。・・・

112483労働法クラスタにとっては懐かしい判例があります。拙著『日本の雇用と労働法』の101ページのコラムから。

【コラム】学歴詐称

 採用に当たり学歴詐称が問題になることは洋の東西を問いません。ただし、欧米のジョブ型社会で学歴詐称といえば、低学歴者が高学歴を詐称することに決まっています。学歴とは高い資格を要するジョブに採用されるのに必要な職業能力を示すものとみなされているからです。日本でもそういう学歴詐称は少なくありません。しかしこれとは逆に、高学歴者が低学歴を詐称して採用されたことが問題になった事案というのは欧米ではあまり聞いたことがありません。
 新左翼運動で大学を中退した者が高卒と称してプレス工に応募し採用され、その後経歴詐称を理由に懲戒解雇された炭研精工事件(最一小判平3.9.19労判615-16)の原審(東京高判平3.2.20労判592-77)では、「雇用関係は労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係」であるから、使用者が「その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知する義務を負」い、「最終学歴は、・・・単に労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項」であるとして、懲戒解雇を認めています。大学中退は企業メンバーとしての資質を疑わせる重要な情報だということなのでしょう。
 これに対して中部共石油送事件(名古屋地決平5.5.20労経速1514-3)では、税理士資格や中央大学商学部卒業を詐称して採用された者の雇止めに対して、それによって「担当していた債務者の事務遂行に重大な障害を与えたことを認めるに足りる疎明資料がない」ので、「自己の経歴について虚偽を述べた事実があるとしても、それが解雇事由に該当するほど重大なものとは未だいえない」としています。低学歴を詐称することは懲戒解雇に値するが、高学歴を詐称することは雇止めにも値しないという発想は、欧米では理解しにくいでしょう。

まことに、日本型学歴社会というのは、「低学歴を詐称することは懲戒解雇に値するが、高学歴を詐称することは雇止めにも値しない」という、摩訶不思議な学歴社会なんですね。

今回の件で、

神戸市水道局は、「このような行為は公務員の信頼性を損なうものであり、大変申し訳ありません」とコメントしています。

というくらいだから、少なくとも神戸市にとっては、大卒のくせに高卒と学歴を下方に詐称するようなことは、懲戒免職という極刑に値するほど「公務員の信頼性を損なう」ことと考えられていることは間違いありません。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/09/post-3752.html

なんだか、大学中退すると言っている学生さんが話題のようですが、こういうのを見ていると、嗚呼、日本はほんとに学歴社会じゃないんだなあ、と感じます。

欧米ジョブ型社会では、基本的に学歴とは職業資格であり、その人間の職務遂行能力であると社会的に通用する数少ない指標です。なので、学歴で人を差別することがもっとも正当な差の付け方になります。

他の差の付け方がことごとく差別だと批判されるポリティカリーコレクトな世界にあって、ほとんど唯一何の疑いもなく堂々と人の扱いに差をつけられる根拠が、職業資格であり、職務遂行能力のまごうことなき指標たる学歴だからです。

みんなが多かれ少なかれ学歴そのものを直接の能力指標とは思っておらず、人間の能力ってものは学歴なんかじゃないんだよ、という言葉が半ば本音の言葉として語られ、そうはいってもメンバーとして受け入れるための足切りの道具としては使わざるを得ないねえ、と若干のやましさを感じながら呟くような、この日本社会とは全く逆です。

欧米での観点からすればあれもこれもやたらに差別的でありながらそれらに大変鈍感な日本人が、なぜか異常に差別だ差別だと数十年間批難し続けてきた学歴差別という奴が、欧米に行ってみたらこの世でもっとも正当な差の付け方であるという落差ほど、彼我の感覚の差を語るものはないでしょう。

そういう、人間力信仰社会たる日本社会のどろっとした感覚にどっぷりつかったまま、妙に新しがってかっこをつけようとすると、こういう実は日本社会の本音のある部分を局部的に取り出した歪んだ理想主義みたいな代物になり、それがそうはいってもその人間力というものをじっくりとつきあってわかるようになるために学歴という指標を使わないわけにはいかないんだよキミ、という日本社会の本音だけすっぽりと取り落としてしまうことになるわけです。

(追記)

ちなみに、よく知られていることですが、「大学中退」が、すなわち最終学歴高卒が、大卒よりも、況んや大学院卒なんかよりもずっとずっと高学歴として高く評価されている職場があります。

日本国外務省です。

日本国政府の中枢に、大学4年までちゃんと勉強してディプロマをもらった人よりも、外交官試験にさっさと合格したので大学3年で中退しためにディプロマを持たない人の方が、より優秀でより偉い人と見なされる組織が厳然として存在している(いた)ということにも、日本社会における『学歴』の意味が現れているのでしょう。

そして、それを見て、なるほど学歴なんか何の意味もないんだ、卒業するより中退した方が偉いんだと思って、自分の『能力』を証明する何もないままうかつに中退なんかすると、もちろん地獄が待ているわけですが。

 

 

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コメント

神戸市的には、
 
男女別に開催をしている(←しかし、何のため?)将棋リーグに
女性を詐称して登録していた男性棋士
 
みたいなものなんでしょうね

でも、大卒者というのは一般的には(高校を卒業せずに大検で入っている人を除けば)高卒者でもあるはずなので、相互排他的な男女とは違うはずなんですけどね。

大卒者が高卒資格の公務員試験を受けて合格して公務員になって働き続ける…というのはよくあることではないでしょうか。
私は国家公務員Ⅱ種で採用されましたが、同期のⅢ種に大卒ながらⅢ種で入ったというのがいましたよ。
もっとも詐称ではなくてみんなにはバレていたし、当時のⅢ種は年齢と「高卒相当」だったからOKだったのでしょうけれども。

この神戸市の事例は市民のタレコミによるものらしいですが、懲戒免職された職員はそれなりの働きはしてたはずで、20年前以上の詐称なんかチャラになるくらいの働きはしていたでしょうに。神戸市は随分非寛容な場所だな、と感じました。

なので、募集要項は正確には、「高卒、ただしそのうち大卒を除く」なんですね。

なるほど、今は高卒もしくは中等学校卒しか受験できないように改めていますね。
大卒は、というと「大学卒業見込み」となっていて、これは昔とそれほど変わっていませんが、これはちょっと微妙で留年決定で卒業できなくても大学中退すれば採用されるかもしれないよ・・・とも読めますね。

ただし、多くの省庁は多分留年決定したのでは採用を取り消します、と言うでしょう。
私の時も留年決まって結局入れなかった人がいました。

hamachan様は以前外務省については結果として中退になっても採用している、というエントリを上げてましたね。

上に追記しました

この職員が採用された時点において、現在のような、大卒者には採用試験受験資格が無いことが明記されていたかは時期的に微妙ですが、もしされていたのであれば、虚偽によるルール破りの採用によって、本来なら正当に採用されるはずであった人が一人採用されなくなっていた蓋然性が高いのですから、それを見過ごした神戸市が市民に対して謝罪をすることはおかしくないでしょう。現在になって辞めさせることがそれに釣り合うかは別問題としてありますが。

もちろん、「虚偽によるルール破り」であることは前提です。
ただ、同じくルール破りであっても、高卒が大卒を騙ることには極めて甘く、大卒が高卒を騙ることに著しく厳しいというのが、おそらく日本独特だろうな、というだけであって。

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