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2020年8月19日 (水)

介護職は専門職か技能職か?@『労基旬報』2020年8月25日号

『労基旬報』2020年8月25日号に「介護職は専門職か技能職か?」を寄稿しました。

 近年、介護労働力不足が大きな問題となっています。政府は介護労働力確保のため様々な対策を講じていますが、それが迷走する一つの原因に、介護職を職業の階層構造の中でどう位置付けるかという根本のところが必ずしも明確でないことがあるようにも思われます。一方には(旧厚生省以来の)介護職を専門職と位置づけようという考え方があり、他方には(旧労働省以来の)介護職を技能職と位置づける考え方があります。外国人介護労働力政策をめぐる錯綜も、この考え方の違いがいくつもの制度分立の原因になっているようです。そこで今回は、この二つの考え方の対立に注目しながら、介護労働力をめぐる政策の流れを概観したいとおもいます。
 1987年5月に成立した社会福祉士・介護福祉士法は、厚生省が介護労働力を医療労働力と同じような職業資格制の下に囲い込もうとした試みでした。同法において、「介護福祉士」は「専門的知識及び技術をもつて、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき入浴、排せつ、食事その他の介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと・・・を業とする者」と定義されています。介護の現場労働力でありつつ、その指導役でもあるという複雑な位置づけです。
 それゆえ、「専門的知識及び技術をもつて」と言いながら、資格取得に養成施設ルートのほかに実務経験ルート(試験)が設けられています。これは、制定時に家政婦団体からの反対があったためですが、名称独占はあっても業務独占ではないため、別に介護福祉士でなくても介護業務はフルに行えることとなり、専門職としての位置づけが不安定なままとなりました。
 一方労働行政では、1991年11月の介護労働に関する研究会報告が、現行の有料紹介所の家政婦をもとに労働者派遣システムの導入を示唆したのが最初です。もっともこの時は、介護労働安定センターによる支援を中心とした介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律の制定にとどまりました。その後、医療保険制度の改正で1996年3月から個人負担による病院付添いが廃止され、民営家政婦紹介所への求人が激減するという危機感の中で、1994年7月の介護労働研究会報告は、労働者派遣法の対象業務として「病院における介護の業務」を追加することを提起しました。しかし厚生省との調整がつかず、これは実現しませんでした。その後、厚生労働省の職業安定局は、家政婦紹介所の請負事業への進出を進める方向にかじを切りました。
 一方、社会・援護局は2006年から介護福祉士のあり方及びその養成プロセスの見直し等に関する検討会と社会保障審議会福祉部会で議論を進め、翌2007年12月に社会福祉士・介護福祉士法が改正されました。これにより、すべての者は一定の教育プロセスを経た後に国家試験を受験するという形で介護福祉士の資格取得方法を一元化されました。養成施設卒業者も国家試験を受験しなければならず、卒業者は当分准介護福祉士となります。一方3年実務経験者も新たに6か月の養成課程を経て国家試験を受験できることとなります。しかしその施行は、介護人材の量的確保への懸念から2回にわたって延期され、ようやく2017年度から5年間かけて漸進的に導入することとされました。
 しかし、2019年11月から福祉部会において、介護福祉士養成施設卒業者に対する国家試験の義務付けをさらに延期することについて議論がなされました、これは後述の外国人介護人材の受入れ政策で、2016年入管法改正で「介護」の在留資格が設けられましたが、介護福祉士養成施設に入学する外国人留学生の合格率が日本人学生より相当に低いことから、喫緊の課題である介護人材の確保に対応するために経過措置を延長すべきという意見と、質の高い人材養成と介護福祉士の地位向上のため予定通り義務化すべきという意見の賛否両論がぶつかりました。結局、2020年3月に改正法案が国会に提出され、同年6月に成立し、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務付けに係る経過措置がさらに5年間延長されました。
 
 こうした流れと並行して、不足する介護労働力を確保するために外国人介護労働者の受入れ政策が拡大してきています。日・インドネシア経済連携協定に基づき2008年度から、日・フィリピン経済連携協定に基づき2009年度から、日・ベトナム経済連携協定に基づく交換公文に基づき2014年度から、年度ごとに外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れを実施しています。これは建前上は「看護・介護分野の労働力不足への対応として行うものではなく、相手国からの強い要望に基づき交渉した結果、経済活動の連携の強化の観点から実施するもの」とされていますが、技能実習制度と同様、本気にする者はいません。
 彼らは介護福祉士候補者として入国し、特定活動の在留資格で、介護施設で3年間就労するか又は養成施設で2年間就学し、介護福祉士国家試験を受けて資格を取得し、以後介護福祉士として就労するというものですが、上述の通り、養成施設卒業者への国家試験義務付けは延期され続けています。
 一方、2014年6月に閣議決定された日本再興戦略改訂2014は、外国人技能実習制度の対象職種に介護分野を追加することと、介護福祉士資格等を取得した外国人留学生の卒業後の国内における就労を可能とする在留資格の拡充を打ち出しました。これを受けて社会・援護局は同年10月から外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会を開催し、翌2015年2月に中間まとめを行いました。そこでは、本国への技能移転という技能実習制度の建前に沿って技能実習制度に介護を職種追加するとともに、介護福祉士の国家資格取得を目的として養成施設に留学し介護福祉士資格を取得した者に新たに「介護」の在留資格を付与することとしています。
 この時期、外国人労働政策においては、法務省入国管理局と厚生労働省職業能力開発局共同で技能実習制度の見直し作業が進められており、2015年3月には単独法として技能実習法案が国会に提出され、翌2016年11月に技能実習法が制定されました。これの施行に合わせて、技能実習制度の対象職種に介護職種が追加されました。
 一方、技能実習法と束ねて国会に提出され、同時に成立した出入国管理法の改正により、同法の別表第1の2に新たに「本邦の公私の機関との契約に基づいて介護福祉士の資格を有する者が介護又は介護の指導を行う業務に従事する活動」として「介護」という在留資格が追加されました。この場合、まず「留学」の在留資格で入国し、養成施設で2年以上就学して介護福祉士の資格を取得し(上述の通り現時点ではまだ国家試験受験は義務付けられていません)、そこで「介護」の在留資格にスイッチして、介護福祉士として就労することになります。
 さらに、2018年2月の経済財政諮問会議で外国人労働政策を大きく見直す方針が打ち出され、同年6月に閣議決定された「骨太の方針」には、新たな労働を目的とする在留資格の創設が明記されました。その後同年11月には法務省が入管法改正案を国会に提出し、翌12月に成立しました。これにより、入管法別表第1の2に「特定技能」という新たな在留資格が設けられました。同月には特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針が閣議決定され、具体的な受入れ分野として、介護業を含む14業種が定められました。
 こうして現在では、外国人介護労働力として4種類の仕組みが設けられていることになります。EPAと「介護」の在留資格は介護福祉士という専門職としての位置づけに基づき、技能実習と特定技能における介護は技能職という位置づけです。そして、専門職であるはずの「介護」在留資格の現実との乖離が、国内法における介護福祉士の専門職としての位置づけを完遂することを困難ならしめているというまことに複雑怪奇な関係です。

 

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