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2020年7月15日 (水)

ジョブ型とメンバーシップ型の能力開発費

私が作ったはずの「ジョブ型」という言葉があまりにも世間で乱舞しすぎて収拾がつかなくなりつつありますが、明らかに変な使い方もあれば、認識自体は正しいけれどもあまりにも価値判断が行き過ぎていたり、理解が浅すぎたりするのもあり、いちいち言うのもしんどい限りですが、一つ目についたのが日本企業の能力開発費の少なさの問題を取り上げたもので、ジョブ型とメンバーシップ型という概念をトータルに理解するのにいい切り口なので、ちょっと説明しておきたいと思います。

素材はこれ

https://biz-journal.jp/2020/07/post_167232.html(社員の能力開発費、日本企業は米企業の20分の1…社員教育に莫大な投資する外資系企業)

今まで、日本企業は社員の能力開発に、ほとんど投資をしてきませんでした。厚労省の「労働経済の分析」でも、「GDPに占める企業の能力開発費の割合」を国際的に比較してみると、日本はわずか0.1%で、米企業の2.0%の20分の1という低さ。これは、英独仏伊のヨーロッパ先進諸国の1.0~1.7%と比べても、10分の1以下です。
 また、日本では研修といっても、OJT(On-the-job Training)が中心で、実務的な仕事の進め方を学ぶだけ。人事研修のほうも、新入社員研修に代表されるような、ごく一般的な常識を学ぶものが多いのではないでしょうか。

このデータはよく使われるものですが、そもそもここでいう能力開発費というのは、日常業務とは別に、社内であれ社外であれわざわざ教育訓練として行われるものにかける費用のことです。それが日本企業は圧倒的に少ない、というのはその通り。

しかし、今から30年くらい前までの、日本的経営が競争力の源泉として褒め称えられていた時代には、そういう欧米のようなわざわざ教育訓練として別建てにするようなコストのかかる馬鹿なやり方ではなく、日常業務で上司や先輩が仕事のやり方をたたき込むOJTでやっているからこそ、日本が世界で一番競争力があるんだぜ、みたいな議論がいっぱいはやっていたんです。みんな忘れてしまったかも知れないけれど。

ジョブ型とは、初めにジョブがあり、そこにそのジョブをこなせるスキルのある人を当てはめる。それゆえ、社外で既にそのスキルを身につけた人を雇入れるか、そうでなければそのスキルを持たない社員に、そのスキルを身につけるような教育訓練を(社内ないし社外で)施し、そうやってそのジョブをこなせるスキルのある人にした上で、当該ジョブに当てはめるという仕組みになります。当然、その教育訓練にかかる費用は「能力開発費」として計上されます。

それに対してメンバーシップ型では、初めに人があり、その人にジョブを当てはめる。その際、その人が予め当該ジョブをこなせるスキルを持っているとは限らない、というよりむしろ、そんなスキルのない人にとにかく一定のスキルを要するジョブを当てはめるという(ジョブ型社会から見ればとんでもない無理ゲーの)やり方をします。

そうすると、初めは要するに素人が見よう見まねでやるわけですから、あまりうまくいかない。そこを、上司や先輩が時に優しく、時に厳しく「指導」しながら教えていくわけです。日常業務それ自体が教育訓練の機能を兼ねるというわけです。

兼ねているんだから教育訓練の費用がそれとして切り出されることはできません。ではコストがかかっていないかというと、見えない形でかかっています。

まず、初めは素人の見よう見まねなので、生産性が低くなります。出来の悪い成果しか出てこないのを、上司が「はい、駄目」「これも駄目」と何回も駄目出ししてようやくできるなんてことをやっていると、それは初めからスキルのある労働者に当該ジョブをやらせるのに比べれば見えないコストがかかっています。でも、そのコストを考えても、OJTの方がトータルにはコストは安くなると、少なくとも30年前までの日本人は思っていたのです。

それは一つには企業の年齢別人員構成の変化もあります。かつては、とりわけ高度成長期までは、日本企業の年齢別人員構成は圧倒的にピラミッド型でした。

そうすると、若くてぴちぴちした生きのいい労働力がいっぱい溢れていたわけです。

若いってことは、適応能力が高いってことです。iPS細胞みたいなものですね。

何もできないノースキルの若者を、いきなりスキルを要するジョブにぶち込んで、上司や先輩がびしばし厳しく指導すれば、あら不思議、しばらくすると何もできなかった若者がそれなりにこなせるようになり、一人前の成果を挙げるようになるのです。

わざわざ教育訓練として別建ての費用を計上しなくても、日常業務で初めの時期の若干の出来の悪さというコストを覚悟すれば、トータルでは安く結果を出せたのですね。ちなみに、上司や先輩の日常業務に埋め込まれた業務指導という名の事実上の教育訓練も、別に計上されることもなく、企業はその役職につきものの当然の役割として期待できました。

そういうすべてがうまく回っていたのが、年齢別人員構成が逆転し、若者が少なく、中高年が溢れるようになると、すべてがうまく回らなくなります。

若いってことは適応能力があるってことをひっくり返すと、中高年は適応能力が低くなります。

中高年をいきなり今までやったこともないジョブにぶち込んでも、なかなか、あるいはいつまで経ってもうまくできるようになりません。若者と違ってそれなりに自分はできると思っているものですから、そう素直に勉強しようとも思わなくなるし、上司や先輩がびしばしというのもやりにくい。下手にやるとパワハラになりかねません(ちなみに、なぜ日本ではいわゆる「いじめ/嫌がらせ」問題が「パワーハラスメント」という名で、上司の日常業務指導との区別が問題になるかというと、上述の構造があるからです)。

なので、若者と違って中高年はそう新しいジョブにぶち込めません。もちろん、労働法的には若かろうが中高年であろうが職務の限定はないのが正社員ですから、理屈の上ではぶち込めるけれども、実際には難しい、それゆえ、職務限定がないことが前提での解雇の難しさが(その限りではバランスが取れているにもかかわらず)、ぶち込めるけれどもぶち込めない厄介な中高年を排出したいという欲望を人事部サイドに掻き立てるわけです。

もう一つ、中高年が増えてくると、管理職も自分で働け、とプレイイング・マネージャーあるいはむしろマネージング・プレイヤー化が不可避になります。そうなると、昔みたいに出来の悪い部下の指導を丁寧にやっている暇はなくなります。かつての見えざる教育訓練は、限りなく放置プレイ化していきます。

そうなると、かつては表向きの教育訓練費は少ないけれども、じつは若い労働者本人のけなげな頑張りと、上司や先輩の(時にパワハラまがいの)厳しい業務指導の中に隠れていた、見えざる能力開発費用というものが、実際にも中身のすかすかのものになってしまっていました。

だからこそ、今、日本企業の能力開発コストの問題は重要なのです。しかし、それを表面づらの数字だけであれこれ論ずるのはあまりにも表層的だと言うことはお分かりでしょう。

「ジョブ型」「メンバーシップ型」という時ならぬはやり言葉を振り回す人々のせめて1割でも、これくらいの深みのある認識に基づいて発言してくれれば、もう少しまともな議論になるはずなんですが・・・・。

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コメント

確かにEducation Assistance Program という名前の教育費用補助制度が、どこの外資系(ジョブ型)企業でもベネフィットプログラムの中に必ずあります。もちろん費用上限額や対象プログラムの範囲はまちまちで、予算として一人年間30万円までとしたり、社員一人あたり生涯で100万円(学士授業料補助の場合)或いは200万円(修士授業料の場合)としたりと、補助範囲については英会話スクール代を認めたり認めなかったり、職務関連の技術トレーニングに限定するなど、運用はまさに千差万別ですね。もっとも日本の大手企業なら今までも人材開発部門が集合研修や階層別研修などで社員を一定のクラスターで(マスで捉えて、個人ではなく)実施されているかと。あと、かかった費用は会社と社員で折半(50/50負担)する企業もあってーこれは「能力開発はそもそも自己責任で行うものであり、一方でその結果は会社と社員双方で分かち合えるから」という会社のポリシーに基づきます〜私個人は会社が全て費用を抱えるよりもこっちの発想の方が好きですね。

メンバーシップ型日本企業では教育訓練は会社の命令で業務として業務時間内に行われ、賃金が支払われる。ジョブ型外資系企業では教育訓練は福利厚生として提供され、従業員がプライベートの時間を使って受ける。もちろん業務ではないので賃金は支払われないし、労働時間にもカウントされない。

単純に費用を比較するのは意味がないということではないでしょうか。

ちなみに日本企業にもプライベートでの教育訓練費用を補助する制度は、それなりの会社であればありますね。あまり利用されないというのが実状かと。教育訓練は業務でおこなうもの、という思い込みが従業員にもあるようで。

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