テレワークは今後も定着していくか?生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言@井上裕介
続けざまですが、JILPTホームページのリサーチアイに、井上裕介さんの「テレワークは今後も定着していくか?生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言」が載りました。
https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/042_200731.html
緊急事態宣言後、急速に拡大したテレワークですが、その解除後低下傾向も見られます。井上さんは、一昨年まで勤務していたOECDの資料なども引きながら、このように論じています。
企業にとっては、テレワークの導入によって生産性が低下するかどうかは死活問題となる。コロナ禍におけるテレワークの生産性に対して、個人の主観的な評価では肯定的・否定的に捉える結果が混在[注4]しており、客観的なデータはまだ確認できず、過去の先行研究でも評価は定まっていない。また企業にとっても、労働者にとっても労務管理・業務管理は課題となる。労働時間の管理方法として適切な技術導入がなされているか、また業務指示の時間が決まっていなければ長時間労働の要因ともなりかねず、適切な労務管理が求められる[注5]。また多くの調査が指摘するように、業務上のテレワークの課題として、社会の意思決定の仕方、書類の電子化、社内システムへのアクセスなどが挙げられており、全社的な業務見直し、システム導入が求められることとなる。
一方、労働者の多くは通勤負担の軽減からテレワークには肯定的な意見が多いが、家庭内の環境整備は必ずしも追い付いていない場合もあり、通勤費用の代わりにITシステム・光熱費等の支援といった新たな手当ても必要となるかも知れない[注6]。さらには、学校休業下での子供の面倒をみながら仕事をすることへの負担、生産性への低下が指摘されているように[注7]、テレワークを進めるための養育環境も検討に値する。
また、テレワークはある程度社内で仕事のカタチを習得した者にとってはそれほど問題にならないが、業務フロー、社内特有の文化、仕事のやり方などに熟知していない新人にとっては大きな負担となることが予想される。実際に人材育成への懸念を課題と挙げる企業も多い。また、革新的なアイデアを形作る際には、対面でのコミュニケーションが求められるとする研究もあるように、長期的な生産性への影響を考慮すれば、実際にはテレワークとともに、一定程度は職場において対面で仕事をする必要性もあり、両者がMixされた働き方が今後は求められるであろう。
こうした課題への対応策としてはOECDがまとめる政策集は参考になる(図2)[注8]。多くの国々でWithコロナの時代でテレワークが進展する中、テレワークのデメリットを最小化し、メリットを最大限享受するための方策が打ち出されている。労務管理のベストプラクティス等の企業支援、ICTリテラシー醸成等の労働者のテレワーク可能性を広げる取り組み、さらにはright to disconnect含む法制度面での整備と言ったことも視野に入るであろう。
日本政府は骨太の方針において「新たな日常」構築の原動力となる集中的投資としてデジタルニューディールを打ち出し、テレワークを強力に推進することとしている。こうした取組み含め、労働市場のNew normalとは何か、骨太な政策展開がなされていくことを期待したい。
ちなみに、井上さんはOECD在勤時に自らも執筆した高齢者雇用に関する報告書「Working Better with Age: Japan 」の邦訳を自らして、明石書店から出版しています。こちらも、今後の日本の労働社会にとって大変重要なトピックですので、是非。
https://www.akashi.co.jp/book/b505966.html
急速な高齢化と労働力人口の減少に日本社会はどう対処すればよいのか。生涯現役社会の実現に向け、OECD調査研究が、高齢者の就労促進に向けた対策と、スキル開発や労働条件の改善等の働き方の「質」に着目した労働市場改革の必要性とその方策を提言する。
http://www.oecd.org/employment/working-better-with-age-japan-9789264201996-en.htm
Currently, Japan has the highest old-age dependency ratio of all OECD countries, with a ratio in 2017 of over 50 persons aged 65 and above for every 100 persons aged 20 to 64. This ratio is projected to rise to 79 per hundred in 2050. The rapid population ageing in Japan is a major challenge for achieving further increases in living standards and ensuring the financial sustainability of public social expenditure. However, with the right policies in place, there is an opportunity to cope with this challenge by extending working lives and making better use of older workers' knowledge and skills. This report investigates policy issues and discusses actions to retain and incentivise the elderly to work more by further reforming retirement policies and seniority-wages, investing in skills to improve productivity and keeping up with labour market changes through training policy, and ensuring good working conditions for better health with tackling long-hours working culture.
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