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2020年7月

2020年7月31日 (金)

テレワークは今後も定着していくか?生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言@井上裕介

続けざまですが、JILPTホームページのリサーチアイに、井上裕介さんの「テレワークは今後も定着していくか?生産性の高いテレワーク実現に向けた方策提言」が載りました。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/042_200731.html

緊急事態宣言後、急速に拡大したテレワークですが、その解除後低下傾向も見られます。井上さんは、一昨年まで勤務していたOECDの資料なども引きながら、このように論じています。

企業にとっては、テレワークの導入によって生産性が低下するかどうかは死活問題となる。コロナ禍におけるテレワークの生産性に対して、個人の主観的な評価では肯定的・否定的に捉える結果が混在[注4]しており、客観的なデータはまだ確認できず、過去の先行研究でも評価は定まっていない。また企業にとっても、労働者にとっても労務管理・業務管理は課題となる。労働時間の管理方法として適切な技術導入がなされているか、また業務指示の時間が決まっていなければ長時間労働の要因ともなりかねず、適切な労務管理が求められる[注5]。また多くの調査が指摘するように、業務上のテレワークの課題として、社会の意思決定の仕方、書類の電子化、社内システムへのアクセスなどが挙げられており、全社的な業務見直し、システム導入が求められることとなる。

一方、労働者の多くは通勤負担の軽減からテレワークには肯定的な意見が多いが、家庭内の環境整備は必ずしも追い付いていない場合もあり、通勤費用の代わりにITシステム・光熱費等の支援といった新たな手当ても必要となるかも知れない[注6]。さらには、学校休業下での子供の面倒をみながら仕事をすることへの負担、生産性への低下が指摘されているように[注7]、テレワークを進めるための養育環境も検討に値する。

また、テレワークはある程度社内で仕事のカタチを習得した者にとってはそれほど問題にならないが、業務フロー、社内特有の文化、仕事のやり方などに熟知していない新人にとっては大きな負担となることが予想される。実際に人材育成への懸念を課題と挙げる企業も多い。また、革新的なアイデアを形作る際には、対面でのコミュニケーションが求められるとする研究もあるように、長期的な生産性への影響を考慮すれば、実際にはテレワークとともに、一定程度は職場において対面で仕事をする必要性もあり、両者がMixされた働き方が今後は求められるであろう。

こうした課題への対応策としてはOECDがまとめる政策集は参考になる(図2[注8]。多くの国々でWithコロナの時代でテレワークが進展する中、テレワークのデメリットを最小化し、メリットを最大限享受するための方策が打ち出されている。労務管理のベストプラクティス等の企業支援、ICTリテラシー醸成等の労働者のテレワーク可能性を広げる取り組み、さらにはright to disconnect含む法制度面での整備と言ったことも視野に入るであろう。

日本政府は骨太の方針において「新たな日常」構築の原動力となる集中的投資としてデジタルニューディールを打ち出し、テレワークを強力に推進することとしている。こうした取組み含め、労働市場のNew normalとは何か、骨太な政策展開がなされていくことを期待したい。

51uvkwsibsl_sx348_bo1204203200_ ちなみに、井上さんはOECD在勤時に自らも執筆した高齢者雇用に関する報告書「Working Better with Age: Japan 」の邦訳を自らして、明石書店から出版しています。こちらも、今後の日本の労働社会にとって大変重要なトピックですので、是非。

https://www.akashi.co.jp/book/b505966.html

急速な高齢化と労働力人口の減少に日本社会はどう対処すればよいのか。生涯現役社会の実現に向け、OECD調査研究が、高齢者の就労促進に向けた対策と、スキル開発や労働条件の改善等の働き方の「質」に着目した労働市場改革の必要性とその方策を提言する。

http://www.oecd.org/employment/working-better-with-age-japan-9789264201996-en.htm

G2g98d6d Currently, Japan has the highest old-age dependency ratio of all OECD countries, with a ratio in 2017 of over 50 persons aged 65 and above for every 100 persons aged 20 to 64. This ratio is projected to rise to 79 per hundred in 2050. The rapid population ageing in Japan is a major challenge for achieving further increases in living standards and ensuring the financial sustainability of public social expenditure. However, with the right policies in place, there is an opportunity to cope with this challenge by extending working lives and making better use of older workers' knowledge and skills. This report investigates policy issues and discusses actions to retain and incentivise the elderly to work more by further reforming retirement policies and seniority-wages, investing in skills to improve productivity and keeping up with labour market changes through training policy, and ensuring good working conditions for better health with tackling long-hours working culture.

 

 

 

低い申請者割合にとどまるコロナ困窮者支援事業@周燕飛

Zhou_y_20200731133701 周燕飛さんがコロナ関連のリサーチアイとして「低い申請者割合にとどまるコロナ困窮者支援事業」を書かれました。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/041_200731.html

5月末頃時点では、生活困窮者向けのコロナ支援事業に対する申請者割合は、生活破綻リスクの高い層においても、2割程度にとどまることが、JILPT調査によって明らかとなった。支援は必要な層に完全には届いていない可能性がある。

具体的な分析は是非リンク先に行ってじっくりと読んでいただきたいと思いますが、

最後の段落で周さんがこう述べているところは、やはり引用しておきたいと思います。

5月末頃の時点では、コロナ困窮者支援事業は、生活破綻リスクの高い階層においても申請者割合が2割程度に止まるなど、総じて利用が低調である。このままでは、喫緊の支援を必要とする人の中に、大規模な支援漏れが起こりかねない。異例な規模のコロナ対策費を積み上げた政府の努力が空振りに終わってしまう可能性がある。そのような事態を避けるためには、今一度、制度の実施面に改善の余地がないか、緊急再点検を行う必要がある。

必要な人が支援制度にアクセスできない理由として、「制度の存在を知らない」、「申請の仕方が分からない」、「申請書類を揃うことができなかった」等の理由がよく挙げられている。言い換えれば、「制度の周知」と「制度の申請手続き」のいずれか、または両方に問題が生じている可能性がある。

「制度の周知」を巡る問題点において、支援対象者に情報が届く手段の乏しさがしばしば指摘されている。コロナ禍で生活困窮に陥りそうな人々の特徴を洗い出し、彼(女)らの目に留まりやすいツールで支援情報を確実に届けることが重要である。一方、「制度の申請手続き」が原因で支援にアクセスできない人に対しては、無料の申請相談を提供したり、書類を準備する段階からの伴走型サービスを充実させるなどの対策が考えられる。また、事前申請の書類を申告制にして簡素化し、事後的に本格的審査を行う方法も検討に値する。虚偽申告に対してきちんとした罰則規定を事前に設ければ、不正受給を防ぎながらも必要な人に効率的な支援を行うことが可能となるのではなかろうか。

 

 

未来投資会議に神津連合会長

昨日(7月30日)、未来投資会議が拡充され、新たに8人が加わりました。コロナの顔となった尾身茂さんら医療関係のほかに、マスコミ的には山猫軒の三浦瑠麗さんが目立つところですが、本ブログからすると、やはりここでようやく連合の神津会長が入ったことに注目しておきたいと思います。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai42/sankou.pdf

政策決定が各省レベルから官邸レベルに上がっていき、三者構成の労政審の実質的権限が縮小していく中で、政府中枢の会議体に労働側の代表がいないことの問題点については、既に2009年の『新しい労働社会』の末尾でも触れていたところですが、その後も、民主党政権になっても政治家主導だと言って国家戦略局に突っ走り、ようやく末期になって労使の入った国家戦略会議をつくって議論を始めたとか、安倍政権になるとまたもや経済財政諮問会議も産業競争力会議も労働側のいないままに議論を進めるという形になり、ようやく働き方改革推進会議になって神津連合会長を一人入れるようになったけれども、その後はまたご無沙汰という状態でした。

今回はウィズコロナ、ポストコロナがテーマということで、その中の先頭に「新しい働き方」が出てくることもあり、労働側を入れようということになったのでしょうが、やはりこういうアドホックな形ではなく、すべての政策は労働者に関わりを持つのですから、恒常的に労働側の代表が入っていて叱るべきだと思います。

その拡充に係るペーパーには、こう書かれていて、

1.趣旨
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を通じ、これまでの、①一極・大都市集中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れ、距離が意味を持つ経済社会、②特定の場所で問題が起きれば全てのサプライチェーンが崩壊するような、短視眼で極限まで無駄がない経済社会、が問われている。
ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ社会の基本理念としては、
新しい働き方を定着させ(テレワーク・在宅勤務、時差出勤、兼業・副業等)、リモートワークにより地方創生を推進し、DXを進めることで、分散型居住を可能とする社会像
・・・・
の設計が求められている。
このため、例えば、
新しい働き方の定着と一極集中の是正
・・・・
といった項目について、今後、検討を行うため、未来投資会議を当分の間、拡充する。

兼業・副業がコロナにどうつながるのかはよく分かりませんが、少なくとも今後、テレワーク、在宅勤務、リモートワークといった問題が大きなトピックになることは間違いないので、その議論の行方をしっかりと見ていきたいと思います。

 

 

 

 

OJTサイクルが回らないと・・・

かつて日本型雇用が絶賛されていたとき、欧米はそのジョブができる人をそのジョブにつけるなどという不効率なことをやっているからだめなんだ、なにもわからない素人をいきなりぶちこんで、上司や先輩がびしばし鍛えてできるようにしていく我らがOJTこそが、もっとも効率的なやり方なんだ、という議論がはやっておりました。

が、そういうOJTサイクルがうまく回っておれば良いのですが、うまく回らないと、こういう事態も発生するようです。

https://twitter.com/100donata/status/1288814015565635585

Ibxi9apb_400x400 他課の部下が自課の業務のことなのに『よくわからないんですけどー』と言いながらやってきたら、頭抱えるけど、しゃーないなー、先輩に後で確認してね?と思えるけど。

他課の上司が、自課の業務のことなのに『よくわからないんだけどー』といいながやってきた、イラっとします。

いやいや、それ「イラっと」する程度の話じゃないような・・・。その「他課の上司」が素人では、誰がびしばし鍛えるの?

 

 

2020年7月29日 (水)

ちくま新書『働き方改革の世界史』の案内

まだ筑摩書房のサイトには全然出てきてませんが、なぜか版元ドットコムには顔を出したようです。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784480073310

ちくま新書1517
働き方改革の世界史
濱口桂一郎/海老原嗣生
発行:筑摩書房
新書判 256ページ
定価 840円+税
ISBN 9784480073310 
初版年月日2020年9月7日

国の繁栄も沈滞も働き方次第。団結権や労使協調、経営参加……など、労働運動や労使関係の理論はどう生まれたか。英米独仏と日本の理想と現実、試行錯誤の歴史。

まだ書影はありません。

労働者性ガイドライン

焦げすーもさんは最近やたらに労働者性に係る事案にばかりぶつかっているようですが、

https://twitter.com/yamachan_run/status/1269068433649364993

Ezyja34uwaa_qyf おい磯野、お前また労働者性に争いがある申告事案の担当だぞ。

https://twitter.com/yamachan_run/status/1273173285107359744

おい!また労働者性に争いがある申告じゃねーか!

https://twitter.com/yamachan_run/status/1277444044306608134

まーた労働者性じゃねーか

https://twitter.com/yamachan_run/status/1288319666834685952

まーた労働者性じゃねーか!

労働基準法上の労働者性と言えば35年前の労基研報告「労働者性の判断基準」しかない現状が少し変わるかもしれません。

去る7月17日に閣議決定された成長戦略実行計画に、

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2020.pdf

2.フリーランスの環境整備

 フリーランスについては、内閣官房において、関係省庁と連携し、本年2月から3月にかけて、一元的に実態を把握するための調査を実施した。その上で、当該調査結果に基づき、全世代型社会保障検討会議において、政策の方向性について検討し、以下の結論を得た。
 多様な働き方の拡大、ギグエコノミーの拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などの観点からも、個人がフリーランスを選択できる環境を整える必要がある。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、フリーランスとして働く人に大きな影響が生じており、発注のキャンセル等が発生する中、契約書面が交付されてい ないため、仕事がキャンセルになったことを証明できない、といった声もある。
 こうした状況も踏まえ、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、政府として一体的に、以下の保護ルールの整備を行う。

(1)実効性のあるガイドラインの策定

(現行法上「雇用」に該当する場合)
フリーランスとして業務を行っていても、(a)実質的に発注事業者の指揮監督下で仕事に従事しているか、(b)報酬の労務対償性があるか、(c)機械、器具の負担関係や報酬の額の観点から見て事業者性がないか、(d)専属性があるか、などを総合的に勘案して、現行法上「雇用」に該当する場合には、契約形態にかかわらず、独占禁止法等に加え、労働関係法令が適用されることを明確化する。

さらに、同じ日にやはり閣議決定された規制改革実施計画にも、

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/keikaku/200717/keikaku.pdf

(4)雇用類似の働き方(フリーランス等)に関する相談窓口充実等の環境整備

労働基準関係法令の適用対象となる労働者性の判断基準の周知

契約形式の如何を問わず、実質的に労働者性があると判断される者については労働基準法(昭和
22年法律第49号)等の労働基準関係法令が適用されるため、厚生労働省は、労働基準監督署等を通じ労働者性の判断基準を分かりやすく周知し、問題が認められる場合にはその是正を図る。

基本的に35年前の判断基準の考え方に沿いつつ、新たに策定するガイドラインで「わかりやすく」明確化するようです。

 

(追加)

焦げすーもさんのコメント

https://twitter.com/yamachan_run/status/1288608472196452353

労働者性といっても、uberやらIT請負のような先進的なものではなく、ネイルサロンやマッサージなど古典的な事案が多いんだよなあ。

そうね、さらにいうと、それこそ35年前からある伝統的な建設業の一人親方とかトラックの傭車運転士みたいなガテン系労働者性問題も多い。ネイルサロンとかマッサージとか、あるいはいまコロナ関係で話題の夜の街の濃厚接触系の接客業なんていうソフトなリアル接触系の労働者性問題は、むしろかつての労基研報告で想定していなかったタイプでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年7月28日 (火)

『Japan Labor Issues』8/9月号

Jli_20200728130401 JILPTの英文誌『Japan Labor Issues』8/9月号がアップされました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2020/025-00.pdf

巻頭は引き続きわたくしの「Student Part-timers as a Subject of Labor Policy 」です。その他、

Key topic: Obligating Efforts Concerning Measures to Secure Employment Opportunities up to the Age of 70: Revision of the Act on Stabilization of Employment of Elderly Persons, etc.

Research
Research notes: Development of the Input Data for the Occupational Information Network of Japan KAMAKURA Tetzushi, MATSUBARA Ayako, MATSUMOTO Shinsaku

Japan’s Employment System and Public Policy 2017-2022
Wages in Japan Part III: Wages and Forms of Employment NISHIMURA Itaru

 

 

「ジョブ型」を言い出したのは誰か?

こたつさんと焦げすーもさんが「ジョブ型」って言葉を言い出したのは誰か?をめぐって論争(?)しているようですが、

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287016917979394050

「ジョブ型」のフレーズを作ったのは木下武夫先生だと昔どっかで聞いたような。

https://twitter.com/yamachan_run/status/1287218971809214464

起源はよくわかりませんが、hamachan先生のネタ元は田中博秀氏という労働官僚のようですね。

https://twitter.com/ningensanka21/status/1287228009909379075

そういえばそういうのありましたね。木下先生のは「ジョブ型正社員」でしたかね。記憶が曖昧ですが、何かは木下先生だったと聞いた気がします。

まず、「木下武夫」→「木下武男」ね。人の名前は慎重に。

次に、私のネタ元は、これまでの日本の労働研究の総体です、キリッ。「就職型」と「就社型」とか、「職務型」と「所属型」とか、いろんな人がいろんな言い方をしてきたほぼ同じコンセプトに、「ジョブ型」と「メンバーシップ型」という新たなラベルをぺたりと貼り付けただけ。

田中博秀さんもその一人ですが、実はその中でも特にネタ元としての性格が強いのは、他の論者に比べて、新卒採用の局面に最も注目して、そこに日本型雇用の本質を見いだしているところでしょう。特に、労働法系の人はどうしても解雇の局面に一番本質を見いだそうとしがちですが、入口に一番着目した点が田中さんのポイントで、だから『若者と労働』では主として田中著を引用する形で論を進めたのです。

ですが、田中さんは「ジョブ型」なんて言葉は使っていません。

ciniiで「ジョブ型」を検索してみると、タイトルでは2010年2月の木下武男さんの「「年功賃金」は持続不可能 「ジョブ型賃金+福祉国家」で」(『エコノミスト』)が初出ですが、全文検索では(オペレーションズリサーチ系のものを別にすれば)2009年7月のやはり木下武男さんの「雇用をめぐる規制と規制緩和の対抗軸」(『季刊経済理論』)が最初のようです。ここでは既に「ジョブ型正社員」という言葉が登場しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/46/2/46_KJ00009409281/_pdf/-char/ja

とすると、やはり「ジョブ型」という言葉を最初に用いたのは木下武男さんということになりそうですが、実はそれより前の2008年4月のリクルートの『Works』に「三種の神器を統べるもの」というインタビュー記事が載ってて、これはciniiの全文検索では引っかかってこないのですが、リクルートワークス研究所のサイトに全文アップされていて、

https://www.works-i.com/works/item/w_087.pdf

このなかで「ジョブ契約」「メンバーシップ契約」という言い方をしています。

ただ、「ジョブ型正社員」という言い方自体は、私の場合2010年2月に『労基旬報』に寄稿した「ジョブ型正社員の構想」が初出ですので、木下さんよりはあとになります。

41zgbjhq23l_sx290_bo1204203200_ まあでも、これってたかが言葉尻の話であって、そもそも木下さんは1999年に出した『日本人の賃金』(平凡社新書)の中で、職務型賃金への移行を強く主張していますし、遡れば高度成長期にはそういう議論は山のようにあったものなので、どっちが先とかあととかあんまり意味のない議論です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020年7月27日 (月)

小林慶一郎/森川正之編著『コロナ危機の経済学』

Bk4532358612 小林慶一郎/森川正之編著『コロナ危機の経済学 提言と分析』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。素早いねえ、RIETIさんは。

https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/35861

〇第2次大戦以降、人類にとって最大の危機となった新型コロナ・ウイルス。感染ピークを越えてなお、中長期にわたる甚大な影響は避けられそうにない。それは、個人から、企業や政府、日本社会の姿まで大きく変容させる可能性もある。経済のV字回復はありうるのか。日本の産業・経済はどのような問題に直面するのか。長期戦に備えるために、個人、企業、政府は何をすべきなのか。経済研究者を中心に、コロナ危機の経済・産業・企業・個人への影響を分析。問題を掘り下げ、いち早く提言する。
〇コロナ危機に関連し、積極的に分析・提言を発信している経済産業研究所の森川正之所長と、この問題でいち早く経済学者の提言をまとめた小林慶一郎氏が共同編者となり、コロナ危機の今後を見通す上で役立つ分析・提言を行い、緊急出版する。

JILPTもコロナ禍を受けて雇用労働分野の研究をコラム等で発信してますが、RIETIはさすがに分野に限りがないようで、コロナウイルスの疫学問題そのものから始まって、医療体制、食糧安保、創薬、都市政策、果ては文明論まで、なんでもござれという感じで、その中には労働市場、労働時間、在宅勤務というトピックも入っています。いや別に縄張りをどうこう言うつもりはなく、中身がよければいいんですが。

特に、黒田祥子さんの「第16章 新型コロナウイルスと労働時間の二極化--エッセンシャル・ワーカーの過重労働と日本の働き方改革」は、とても重要な論点を取り上げていて、広く読まされるべき論文だと思います。

で、その次の、編者でもある森川さんの「第17章 コロナ危機と在宅勤務の生産性」なんですが、

いやその前に、この本の裏見返しには、森川さんの肩書が「経済産業研究所所長、一橋大学経済研究所教授」となっています。おお、RIETIの所長兼任で一橋の教授になられたんですね。おめでとうございます。というか、もしかして本書は、森川さんの就任祝い本だったりして。それはともかく、

今回のコロナ危機で、急遽強制的に在宅勤務が急増したことを受け、在宅勤務にかかわる諸問題が一気に議論の前面に出てきているのはご案内の通りであり、在宅勤務の生産性というのもその一つであるわけですが、この森川論文、RIETIの研究員を含む役職員に「オフィスで仕事をするときの生産性を100としたとき、在宅勤務の生産性を数字でいうとどの程度ですか」というシンプルな質問をした答えの分析なんですね。これ、同時期に在宅勤務体制になったJILPTの研究員らに同じ質問したら、多分主観と客観が全然食い違う結果になりそうな気がします。

ていうか、これはかつての文科系の大学教授なんかは典型的ですが、法律上裁量労働でも何でもない頃から、労働時間も出勤日も自主的裁量制みたいなもので、職場でも自宅でも研究するときには研究するし、しないときはしない、みたいな行動様式があって、職場にいようが自宅にいようが放し飼い状態で、今回の在宅勤務の影響を調べるには一番向いていない職種じゃないかという気がしますが。

あと、これはやや厳しい批判になりますが、八田達夫さんの「第3章 パンデミックにも対応できるセーフティネットの構築」は、労働に関する制度を正確に理解して論じようという姿勢が欠けているきらいがあり、本書の学問的水準に影響を与えているように思われます。

たとえば、第3章の冒頭から、

・・・例えば、今回の急激な経済失速に対して、会社都合による一時帰休(layoff)に対して、失業保険給付が支給されれば、従業員も会社も助かったであろう。失業保険給付は、迅速に支給されるからである。しかし米国と違って、日本では一時帰休に対して失業保険の支給は許されていない。

およそ労働法でも労働経済でも、きちんと法制度を踏まえて物事を論ずる人であれば、これを見て頭を抱えるでしょう。

そもそも、日本には(ヨーロッパと共通するところの多い)日本の労働法制があるので、世界的に極めて特殊なアメリカ法制だけを脳みそに入れて考えると大失敗します。日本語で「一時帰休」と呼ばれるものは、アメリカでlayoffと呼ばれる一時解雇とは異なり、労務の提供はないけれども雇用関係は継続しています。解雇ではなく休業なのです。したがって、雇用調整助成金ができるはるか以前の1950年代に、万やむを得ず理屈が立たないにもかかわらずあえて通達で法の趣旨に反する取扱いをしたことはあるものの(下記リンク先拙稿参照)、現在の法制度の下で、失業しておらず単に休業している人に「失業保険の支給が許されない」のはあまりにも当然です(厳密には、激甚災害法によって、失業していない休業者に失業給付の特例が認められていますが、コロナ禍は激甚災害ではないので、やるならそのための立法が必要です。これも下記リンク先拙稿参照)。こういう文章を書く前に、そもそも日本語の「一時帰休」はアメリカ英語の「layoff」と等置してほんとにいいんだろうかという疑問を自らに問いかけてみることも必要でしょう。少なくとも自分がその詳細をよく知らない分野の法制度に関しては。

その次のセンテンスも、それに輪をかけて意味不明です。

・・・次に、雇用調整助成金制度の使い勝手を改善すれば、企業は解雇することなく休業手当を支給できるという主張がある。しかし、保険料のしくみを今のままにして、この制度の使い勝手を良くすれば、保険財政は崩壊しうる。

実を言えば、雇用調整助成金よりも失業給付によるべきだという考え方は、一つの思想的ベクトルの方向性として十分あり得る議論だと思います。それは、仕事もないのに無理に休業させて、雇用関係が継続しているという格好だけつけて助成金を出すよりも、仕事がないならさっさと首を切って、堂々と失業者になって失業給付を出す方が望ましい、という価値判断であればあり得るということです。そういう議論であれば、八代尚宏さんが日経新聞の経済教室で展開しています。

https://r.nikkei.com/article/DGKKZO61772960R20C20A7KE8000(あるべき雇用政策(上)休業手当より失業給付 重視 八代尚宏・昭和女子大学副学長)

今回のコロナ危機では、2008年のリーマン・ショック時と比べ、失業者の増加が著しく抑制されていることが特徴だ。政府の自粛要請に基づくサービス業主体の中小企業の休業増加に対応して、従業員への休業手当を補助し、解雇を防ぐ雇用調整助成金が大幅に拡充された要因が大きい。・・・

私は、こういう外的ショックによる急激な労働需要縮小期には、アメリカという例外的な国を除き、日本も含め、ほぼすべてのヨーロッパ諸国が似たような雇用維持型の政策をとっていることからしても、そのような価値判断には同感できません。ただそういう議論も必要だと思うのは、日本ではややもすると、雇用維持政策が一時的な外的ショックに対するものにとどまらず、産業構造の転換による不可逆的な労働需要のシフトにまで使われる傾向があるからで、そういう「行き過ぎた雇用維持型政策」は見直していく必要があります。それは、とりわけ出口戦略のところで問題になってくる可能性があるので(もともと先行きがなかった企業が、コロナでますます厳しくなったのをどこまで助けるのかなど)、常に念頭に置いておく必要はあるでしょう。

ということを踏まえても、「保険料のしくみを今のままにして、この制度の使い勝手を良くすれば、保険財政は崩壊しうる」というのは意味不明です。いや、そもそも失業保険制度自体が、労働者全体に占める失業者の割合が一時的には高まっても、中期的にならせば一定の少数にとどまることを前提に設計されているので、長期的に大量失業が永続したらどのみち保険財政は崩壊するんですが、そういうことを言っているわけでもなさそうです。

そもそも失業給付の本体部分は健全でぴんぴんしているのに(そっちでやれと言っているのですから、そういう前提なのでしょう)、雇用保険財政の中の一部である雇用調整助成金だけが使い勝手を良くしたために崩壊してしまうというのは、ほとんど理解を絶するところがあります。実のところ、失業給付であれ、雇用調整助成金であれ、ほんとに払底するような状況になりかけたら、不要不急の給付を削って一般会計から持ってくるということになると思われますが、そういうことにならないようにするのが重要です。

それから、八田さんはさらりと言ってますが、やはり今回の一連の流れで、雇用調整助成金に限らず、政府の給付のしくみがまことに紙に手書きでハンコを押すという前デジタル時代のままであることの問題が露呈したことは、もっときちんと批判されてしかるべきでしょう。せっかく雇用保険システムに被保険者情報が全部入っているのに、それと切り離された形でアナログな紙ベースで助成金業務が行われているというようなことでいいのか、という問題提起はされてもいいはずです。

(参考)

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/002.html(緊急コラム 新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来)

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/010.html(緊急コラム 新型コロナ休業への公的直接給付をめぐって)

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/011.html(緊急コラム 新型コロナ休業支援金/給付金の諸問題)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワーケーション促進?

政府の観光戦略実行推進会議で、菅官房長官がワーケーションを促進すると語ったそうです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200727/k10012534331000.html

新型コロナウイルスの影響で観光需要が低迷するなか、菅官房長官は感染対策を行ったうえで「Go Toキャンペーン」の活用を呼びかけるとともに、観光や働き方の新たな形として休暇を楽しみながらテレワークで働く「ワーケーション」の普及に取り組む考えを示しました。・・・

また、旅行や働き方の新しいスタイルとして、リゾート地や温泉地などで余暇を楽しみながら、テレワークで仕事をする『ワーケーション』や、そうした地域に企業の拠点を設置する『サテライトオフィス』を普及させるため、ホテルなどで仕事ができるようWi-Fiの整備の支援に取り組む考えを示しました。・・・

とりあえず今日の観光戦略実行推進会議の資料を見ると、

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/kanko_kaigi_dai38/gijisidai.html

観光庁の資料に確かにワーケーションが出てきます。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/kanko_kaigi_dai38/siryou1.pdf

Go to トラベルキャンペーンの広報の中で、感染リスクの低減に資する休暇の分散化、ワーケーションなどの新しい旅行スタイルの普及を図る。

*ワーケーション … テレワークを活用し、リゾート地・温泉地等で余暇を楽しみつつ仕事を行う。

また、和歌山県の仁坂知事の資料は「和歌山県におけるワーケーションの取組について」と題して、和歌山県ワーケーションプロジェクトの取組を説明しています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/kanko_kaigi_dai38/siryou3-3.pdf

さらにJTBの高崎邦子氏は「日本版ワーケーション推進に向けて」という資料で、いろんなタイプを示しているんですが、どうも労働時間法制上の問題があるという認識が、皆様に余りなさそうなのが気になります。

Workation

 

(追記)

Gbcxmnhh_400x400 かぴばらさん呟いて曰く:

https://twitter.com/pandadnap9999/status/1287654950219034624

経営者「ワーケーションだから労働時間はノーカウント」

vs

労働者「ワーケーションだから休暇はノーカウント」

いやこれまじに冗談じゃないからね。

「休暇中に仕事を織り込んだ」ら、その時間は労働時間であるのか、労働時間じゃないのか、そのどちらでもあるのか、そのどちらでもないのか・・・・

『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年8・9月号

202008_09 一方、『ビジネス・レーバー・トレンド』2020年8・9月号は時宜に即して「新型コロナウイルスの働く人への影響」が特集です。

https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2020/08_09/index.html

 JILPT調査 ‘コロナショック’は、仕事や生活にどのような影響を及ぼしているのか――「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」結果より
インタビュー取材 「勤労者医療」を理念に人々の心のケアに努める――増加する新型コロナウイルス関連のメール相談に対応―― 横浜労災病院 山本晴義・勤労者メンタルヘルスセンター長に聞く
取材 新型コロナウイルス感染症が就業に与える影響と労組・団体の取り組み――看護 公務現業 郵政 公共交通 自動車 建設
BLM定例・特別調査 2020年1~3月期の業況実績と4~6月期の業況見通し――新型コロナウイルス感染症の影響とその対応
地域シンクタンク・モニター定例調査 2020年第1四半期(1~3月期)実績および第2四半期(4~6月期)の見通し――新型コロナウイルス感染症拡大がおよぼした影響と変化

ここではやはりエッセンシャルワーカーを組織する団体や労働組合の話が注目すべきでしょう。特に、「公務現業」は自治労現業評議会が清掃現場や保育給食、学校給食など、縁の下の力持ち的な職場の現状を詳しく伝えています。

・・・感染を防ぐことに加え、濃厚接触者についても「絶対に出さない」よう努力したという。濃厚接触者になれば、14日間は自宅待機命令が出される。それだけの期間、出勤できなくなってしまえば、感染でなくても職場への影響度は変わらないからだ。・・・

 

 

 

『日本労働研究雑誌』2020年8月号

1235195_p 『日本労働研究雑誌』2020年8月号は「学び直し」が特集です。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

提言 なぜ「学び直し」? 立田慶裕(神戸学院大学教授)
解題 学び直し 編集委員会
論文 「学び直し」に至る施策の変遷  岩崎久美子(放送大学教授)
社会人の学び直し──オンライン教育の実態と課題  向後千春(早稲田大学教授)
政策としての「リカレント教育」の意義と課題──「教育を受け直す権利」を足がかりとした制度設計にむけて 佐々木英和(宇都宮大学教授)
フランスにおける職業キャリア途上の職業訓練制度 鈴木俊晴(早稲田大学准教授)
リカレント教育の経済への影響 田中茉莉子(武蔵野大学准教授)
世界の変容の中での日本の学び直しの課題 本田由紀(東京大学教授) 

いくつか面白い論文がありますが、まずは「解題」を。書いているのは中島ゆりさんですが、実はかつて2010年と2011年にOECDの若者雇用の報告書(日本のと世界のと)を翻訳したときに、彼女の翻訳で私が監訳したことがあります。その彼女の解題に曰く、

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/08/pdf/002-003.pdf

・・・6 つのいずれの論文もこれまでの日本において「学び直し」があまり根付かなかったことを指摘すると同時に,「学び直し」の重要性を確認することとなった。国が推進する「学び直し」においては IT を活用した手段も検討されてきたが,奇しくも 2020 年,新型コロナの影響で社会全体のオンライン化が急速に進み,既存の社会のあり方が少なからず変容することとなった。本特集が,新時代の労働と学び,そして人生のあり方を考えるきっかけとなれば幸いである。

論文の中で、既存の概念に挑戦しようとしているのが佐々木英和さんの論文です。論文冒頭の要約よりも、中島ゆりさんによるエッジの効いた紹介の方がいいので、そちらを引用しておきます。

「教育」がもつイメージからリカレント教育政策の課題を分析したのが,佐々木論文「政策としての『リカレント教育』の意義と課題──『教育を受け直す権利』を足がかりとした制度設計にむけて」である。リカレント教育は教育政策と労働政策の交差点に位置させなければ政策としての実効性が担保できないが,日本ではその必要性と緊急性を認知しているにもかかわらず,現実は戦略性に乏しい職業訓練の域を出ないものと化し,十分に履行されないまま不発に終わってきたと指摘する。「教育」とは子どもを対象とするものとの思い込みがあるため,社会人は教育を受けさせられたり教育されたりする客体となることを嫌悪し,社会の側は社会人の学習は自己責任として社会的な条件整備をしてこなかった。「学び直す」という営みは,「学習し直す─学習活動を行い直す─教育を受け直す─教わり直す」といった構造で成り立っているが,法整備が進めば,実質的に国民に「教育され直す義務」が課される一方で,国民が「教育を受け直す権利」の主体であることが疎外される危険も生じると危惧する。

1459289_20200727141101 あと、書評は酒井正さんの『日本のセーフティネット格差』(梶谷真也さん)です。この本、わたしも『東洋経済』で書評したんですが、それに比べると本全体をまんべんなく取上げ適切に書評していますね。書評の在り方は、最近ネット上で話題になっていますが、飛んだ見当外れや身辺雑記は論外としても、その本の論点のうちどれだけを取上げて論じるべきかはいろんな考えがあるところだろうと思います。わたしはやはり、ある程度エッジを効かせた書評の方が面白いと思っています。

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23309

 

 

『2020年版日本の労働経済事情』

9784818519220_600 経団連出版の輪島忍さんより『2020年版日本の労働経済事情』をお送りいただきました。ありがとうございます。ここで、あれ?と思った方、そう長らく経団連出版の本をお送りいただいてきた讃井暢子さんが退職され、輪島さんが後任に就かれたのです。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pdf/work_200715.pdf

本書は、人事・労務全般に関する基本的な事項や、重要な労働法制の概要と改正の動向、わが国労働市場の動向などについて、1テーマ・1頁を基本に、図表を用いてわかりやすく簡潔に解説します。
人事・労務部門の初任担当者がはじめに学習する際に役立つことはもちろん、新任管理職など、業務等を通じて人事・労務に関心を持たれた方が基本的な事項を理解・確認する手引きとしてもご活用いただけます。

Ⅰ 労働市場の動向・雇用情勢・労働時間と賃金の概況
Ⅱ 労働法制
  労働基準法、労働契約法ほか
Ⅲ 人事・労務管理
Ⅳ 労使関係
Ⅴ 労働・社会保険
Ⅵ 国際労働関係

本書も毎年版お送りいただいていたものですが、今年版もしっかり充実しています。

Ⅲの人事・労務管理の最初には「日本型雇用システム」について(1)特徴と顕在化してきた課題と、(2)今後の方向性について、経団連の立場から過不足なく手際のいい説明がされています。

「顕在化してきた課題」とは、「職能給を中心とする賃金体系において、年功的な運用となりがちなため、ジョブ型雇用の活用や人材の流動性を妨げている面がある。加えて、画一的な人事育成施策や年功的な制度が、優秀な若年層や高度人材、海外人材の獲得を困難にしているほか、社外や海外への人材流出リスクの増大にもつながっていると指摘されている」ということであり、しかし日本型雇用システムには様々なメリットもあるので、「今後の方向性」は、「多くの企業で導入されている「メンバーシップ型社員」を中心に据えながら、「ジョブ型社員」が一層活躍できるよう複線型の制度を構築。拡充していくこと」だと言っています。それが「自社型雇用システム」だと。

 

 

 

2020年7月26日 (日)

父親出産休暇の義務化?

読売新聞が独自記事として、「「妻の出産直後」対象に…夫の産休創設へ、育休より給付金手厚く」を掲載しています。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200726-OYT1T50145/

政府は、男性の育児参加を促すため、妻の出産直後の夫を対象とした新たな休業制度を創設する方針を固めた。現在は母親にしか取得が認められていない産休制度の父親版と言える措置で、育児休業よりも休業中の給付金を手厚くし、家計の収入減を抑えることも検討している。政府は秋から制度設計に着手し、来年の通常国会に育児・介護休業法などの改正案を提出する方針だ。・・・

政府は9月にも、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会に諮り、休業期間の設定など具体的な制度設計に入る。男性の育休取得が進まない背景には、家計収入が減ることへの不安の声も多いことから、新制度での給付金の増額や、手続きの簡素化などについても協議する見通しだ。

これはやや唐突に出てきた感がありますが、実は一昨年の2018年3月、仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会の報告書でこういう風に書かれていたものです。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000200971.pdf

【ステップ1】 育児をしていない等当事者意識が低いと思われる男性が育児に関わるための方策

 なお、このような男性を「ゼロコミット男子」「育児レス男子」と呼称できるのではないかとの意見があった。
<育児に対する当事者意識を持つためのきっかけづくり>
○ 女性の産後休業期間に男性が休業等を取得することの呼びかけ 

約7割の育児をしない男性が、育児について当事者意識を持てるよう、まず第一歩として、女性の産後8週間における休暇、休業の取得奨励を国、企業がこれまで以上に一体的に取り組むべきである。
子どもが生まれた直後である女性の産後休業期間は、男性が以後「父親」として子どもと接していくための重要な期間であり、また、女性の健康面からも重要な期間である。育児、家事のための休業、休暇を取得した男性が産後8週間以内の時期に行ったこと19を見ると、約9割の男性が病院への付き添いや面会を行っており、この時期の男性に共通して求められる役割があることが明らかとなっている。
したがって、出産後8週間の期間について、男性による育児休業、配偶者出産休暇、失効年次有給休暇を活用した育児のための特別休暇又は年次有給休暇等を利用した育児のための休業、休暇を、いわゆる「男性産休」と銘打ち、女性の産休期間に育児に関わるための休業、休暇の取得を推し進めるべきである。
これにより、産後8週間は男性も一定期間休んで育児を行う期間であるとの社会全体の共通認識が生まれることが期待でき、「男性も女性も育児をしながら働く社会」の実現につながると考えられる。

これが出た時、すぐにも審議会にかけていくのかと思っていましたが、なぜか2年間寝かせて、この秋から動かしていくようです。政治的にどういう背景があってそういうことになっているのかよく分かりませんが、読売のスクープなので、政治家方面からのリークなのかもしれません。

ちなみに、EU指令ではこれはパタニティ・リーブという名で規定されています。

 

2020年7月25日 (土)

独り歩きする「ジョブ型」

こういうつぶやきが目に入りましたが、

https://twitter.com/545454takenaka/status/1286977954363273218

Rrdudh6_400x400 濱口桂一郎氏はジョブ型というフレーズを生み出したけれど、フレーズが一人歩きし出羽守や非労務プロパー等の各人の論を好きなように補強する世俗的すぎるワードになっている感がする。ジョブ型を解明すべく、私はアマゾンの奥地へと向かった。・・・・

まあ、独り歩きするのは「ジョブ型」だけじゃないですけどね。

なんにせよ、アマゾンの奥地に行っても怪魚には出会えてもジョブ型には遭遇できないような気が・・・・

2020年7月24日 (金)

米中イデオロギー闘争・・・しかし何のイデオロギーの?

おそらく物事を商売の取引でしか考えていないトランプ大統領自身はこういう展開に居心地の悪さすら感じているのではないかと思われますが、コロナウイルスをめぐるここまでの展開が共和党の基調低音たる反共イデオロギーを表面に噴出させており、支持率の低下する一方の大統領としてもそれに乗っかって威勢よくイデオロギー闘争の旗を振って見せなければ後がない状況の中で、米ソ冷戦期かと見まがうような強烈なイデオロギー闘争の台詞が次々に繰り出されてきていますね。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61895920U0A720C2000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61896140U0A720C2000000/?n_cid=DSREA001

Dsxmzo6189610024072020000001pn14 (中国共産党の)習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない。・・・

いま行動しなければ、中国共産党はいずれ我々の自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。1国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる。

志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。・・・

とはいえ、ここで正面から激突しているかに見えるイデオロギーとは一体何と何なのでしょうか?

いやまあ、アメリカ側は自由と民主主義だというわけですが、さて中国はこのイデオロギー闘争の挑戦に対して、いかなるイデオロギーで応えられるのか。このポンペオ演説ではそれは「共産主義」ということになっているわけですが、でも本気で共産主義(共産党の一党支配というだけの政治学的概念ではなく、元祖マルクス先生をちゃんと引用して語れるような経済社会理論上の概念として)を掲げて喧嘩なんてできるんでしょうかね。

これって、イデオロギー闘争として喧嘩を吹っ掛けるということそれ自体が、実はアメリカが仕掛けているトラップと理解すべきなんでしょう。ほれほれ、あんた共産党なんだろ、共産主義の理念でもって反論してみろよ、と。

共産党という名の一党支配国家資本主義がそれにうかつに答えると、お前のやっていることはなんだというとんでもない泥沼に足を取られるので、いかにこのイデオロギー闘争の殴り込みに対して、間違っても共産主義の話にはならないように、もっぱら偉大なる中華民族を復興したのはわれらの共産党というナショナリズムだけの話に抑え込みながら、しかもいかにもイデオロギー闘争を受けて立っているかのようにふるまわなければならないわけで、実は結構な難題なのではないかと思われるのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/post-855b.html(中国共産党はマルクス主義がお嫌い?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-0e60.html(中国共産党はマルクス主義がご禁制?)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-ba65.html(中国にとってのマルクス主義-必修だけど禁制)

 

 

 

 

 

職務記述書と職務経歴書は全然違うよ又はジョブ型が全然分かってない人ばかり騒いでいる件について

楠正憲さんがこうつぶやいていたのを見て、不思議に思い、

https://twitter.com/masanork/status/1286461662371831808

460540e9dadc7761ba39f1a43f3a25a4_400x400 あれ?職務経歴書って求職者ではなく会社がつくるもんだっけ→日立は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指している / “日立、富士通、資生堂…大企業ジョブ型導入で崩壊する新卒一括採用 | Business Insider Japan”

そのリンク先のをビジネスインサイダーを見てみると、確かに、

https://www.businessinsider.jp/post-215432

Ma5418w1280 日立の人事戦略の中核人物として、ジョブ型導入の指揮をとるCHRO(最高人事責任者)中畑英信氏は、Business Insider Japanの取材に対し、そう話す。
日立は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指している。背景にあるのが、ビジネスモデルの転換だ。 

日立の中畑CHROが「全社員の職務経歴書」と言っていることになっていますが、しかし、日経ビジネスの記事では、「全職種の職務記述書」です。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/052701214/

P1 「全職種のジョブディスクリプション(職務記述書)を2021年3月までに作成する」。日立製作所のCHRO(最高人事責任者)を務める中畑英信執行役専務は26日、いわゆる「ジョブ型」の人材管理への転換を加速する方針を示した。ジョブ型は、職務を明確にした上で最適な人材を採用・配置する手法で、欧米などで一般的だ。日本の多くの企業は職務を限定しないで人材を採用している。

いうまでもなく、ジョブ型っていうのは初めにジョブがあり、そこに人を当てはめるのですから、最初に作るべきはもちろん(どんな経歴の人がそこに来るかにかかわらず)当該そのジョブがいかなるジョブであるかを記述(ディスクライブ)したジョブ・ディスクリプションであって、その人が今までどんな仕事をしてきたかを記述した職務経歴書なんかではないわけです。

職務記述書なんかなくってもいいから、何はなくともまず当該その人間がいかなる人間であるかをわかるための職務経歴書が一番大事だというのは、ジョブ型とは正反対のメンバーシップ型の典型的な発想なんですけどね。それを、自分では主観的にジョブ型を喧伝するために書いているつもりの文章の中に、平然と持ち出してこれるその精神がすさまじいというか、なんというか。

っつうか、今ジョブ型、ジョブ型と、意味も分からず騒いでいる有象無象の方々が、いかにジョブ型という概念の基本のキのそのまたイロハのイの習わぬ経を読む門前の小僧ですらわかっていてしかるべきことを、すっぽりと脳みその中から抜け落としたままで、やれ「これからはジョブ型だぜい」と騒ぎまくっているかということが、いやというくらいよく分かるエピソードではありますな。

ざっとみて、いま「ジョブ型」で検索して出てくる記事の相当部分は、「なんだか今流行しているらしい」ってんでろくろく基本書も読まずにライターさんが適当に書き飛ばした文章だと思って間違いはないんでしょう。

まずは基本書を読んで雇用システムの基本概念をしっかり勉強するところから始めてもらいたいですな。

 

(追記)

ちなみに、楠さんなどごく少数を除き、上記ビジネスインサイダー記事に対してほとんど誰もなんの疑問を持たずに素直にツイートしている様子が、この話題に対する諸氏の理解の程度が浮き彫りになっていて、大変興味深いところです。つうか、これっぽっちも分かってねえくせに、お前らいっちょ前に「ジョブ型」とかほざくんじゃねえや。

https://twitter.com/search?q=https%3A%2F%2Fwww.businessinsider.jp%2Fpost-215432&src=typed_query

 

 

ジョブ型社会の最低賃金、メンバーシップ型社会の最低賃金

今年の最低賃金の引き上げ額を議論していた中央最低賃金審議会が、労使の対立が解けず、結局引き上げ額の目安を示さず、現状維持が適当という公益委員意見で決着したようです。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000651882.pdf

これは既にマスコミで報じられていますし、日商と連合がコメントを発表していて、この点に特に付け加えるべきことはないのですが、

https://www.jcci.or.jp/news/2020/0722203600.html

本日、地域別最低賃金額改定の目安に関する審議が結審し、「引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」という結果になった。新型コロナウイルスの影響により、未曽有の苦境にある中小企業・小規模事業者の実態を反映した適切な結論であり、これを評価する。・・・・

https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/article_detail.php?id=1111

中央最低賃金審議会・目安に関する小委員会(委員長:藤村博之法政大学大学院教授)は7月22日、「引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」とする公益委員見解を地方最低賃金審議会へ示すこととした。
 今回の目安審議においては、目安額の提示の是非とその根拠等が労使の主張の大きな隔たりとなった。最低賃金の引上げが雇用調整の契機となる事を懸念し、据え置き・凍結を主張する使用者側と、経済好循環の実現に向けて政労使でステップを踏んできた流れを維持・継続すべく有額にこだわる労働者側との間で、主張の隔たりが埋まることなく、結果として雇用維持を最優先し、「目安を示すことは困難」とされたことは、極めて遺憾であると言わざるを得ない。・・・・

でもね、普通労働政策について労使団体の意見というと、経団連と連合じゃないですか。なぜ最賃だと日商になるんだろう?

って、そんなの当り前じゃないか、経団連に入るような大企業は最低賃金なんかあんまり痛痒を感じない。日商に入るような中小企業が大変なんだよ、と。

ところが、なぜそうなんだろう、つまりなぜ最低賃金はもっぱら中小企業に影響し、大企業にはあんまり関係ないんだろう、って考えていくと、これは実は日本独特の雇用システムから来ているんですね。

日本以外のジョブ型社会では、賃金はジョブで決まる。大企業であろうが中小企業であろうが、高給ジョブは高給ジョブだし、低賃金ジョブは低賃金ジョブです。

まあ大体、低賃金ジョブってのは、今回のコロナで露呈したように、エッセンシャルワーカーとか言われて、感染のリスクにさらされながら、生身の体をさらさなければならないジョブであり、高給ジョブってのは、テレワークだリモートワークだのという安全な仕事のスタイルをやれるジョブなんですね。そして、アメリカなんかでは露骨に出るけど、後者はアングロサクソン系を中心としたホワイト人種が多く、前者は黒人やヒスパニックといった非白人系が多い。

ジョブ型社会ってのは、まさにジョブ格差社会なわけです。

日本はそうじゃない。といって、格差はないわけじゃない。格差の在り方が違う。それが、まさに最低賃金に対するコメント主体に現れているように、大企業と中小零細企業の格差であり、もひとつは大企業であっても正社員は高給で非正規労働者は低賃金という構造になっている。

重要なのは、これはいかなる意味でもジョブによる格差ではないということ。同じ仕事をしている人が大企業の正社員であるか中小企業の労働者であるか、非正規労働者であるかによって格差が生じる。

ということは、日本における最低賃金問題というのは、他のジョブ型社会におけるような意味での特定の低賃金ジョブをどうするかという問題に収まらないということです。

ジョブの如何を問わず、すべての中小零細企業、すべての非正規労働者に等しくかかわってくる問題なんですね。

その結果、大企業の集まりの経団連よりは中小零細企業の日商にとって切実であり、大企業の正社員組合である個々の企業別組合よりは、建前上すべての労働者の利益を代表しているはずのナショナルセンターにとってより重要な課題となるわけです。

 

2020年7月23日 (木)

リモートワークの変曲点@労働組合の視点

Christy_hoffmanremovebgpreview1250x250 例によってソーシャル・ヨーロッパの記事の紹介です。今回はサービス分野の労働組合のUNIグローバルユニオンのクリスティ・ホフマン事務局長と国際労連のシャラン・バロウ事務局長による「Remote working—an inflection point?」(リモートワーク-変曲点?)という文章。二人とも女性です。

https://www.socialeurope.eu/remote-working-an-inflection-point

コロナ禍でリモートワークが激増したという話の上で、

What does this mean for workers? Working from home can be desirable, indeed a life-saver for many, especially those facing long commutes alongside family responsibilities. It can help restore some work-life balance, so long as it is accompanied by the ‘right to disconnect’ at the end of a reasonable day.
The situation is however ripe for abuse. It is only ‘win-win’ when there are measures in place to ensure dignity, to preserve the employment relationship and to enable freedom of association.

これは労働者にとって何を意味するか?在宅勤務は望ましいものであり得る。確かに多くの者にとって、とりわけ家庭責任を持ちながら長距離通勤せねばならない者には命を救うものだ。まともな一日の終わりに「つながらない権利」があるならばワークライフバランスを回復することもできる。

Sharanburrow250x250 しかしながらこの状況は濫用の危険に満ちている。これが「ウィンウィン」となるのは、尊厳を確保し、雇用関係を維持し、結社の自由を可能とする限りにおいてである。

この「濫用」の意味がわかりにくいかもしれません。「雇用関係を維持」云々というのは、リモートワークを雇用ではなく請負にしてしまおうという「濫用」を言っているのです。

Unions must also guard against remote work becoming a pathway towards the informalisation and ‘Uberization’ of these workers. It is easy to imagine how the lines between ‘remote’ work and ‘platform’ work could blur, as work devolves into commercial contracts, such as ‘pay by project’ independent-contractor arrangements, or old-fashioned piece work easily outsourced to lower-cost destinations. 

組合はまたリモートワークがこれら労働者のインフォーマル化と「ウーバー化」への道とならないよう守らなければならない。労働が「プロジェクト払い」の独立自営業や容易に低コスト地域にアウトソースできる古典的な出来高払いのような商事契約に陥るならば、「リモート」ワークと「プラットフォーム」ワークの間の線引きがいかに曖昧になるかは容易に想像できる。

日本でテレワークの議論をするときには、もう始めから雇用型テレワークと自営型テレワークを分けて議論しますが、雇用型テレワークが出来高払い(成果主義の古典的形態)になればなるほど、実は自営型テレワークと区別がしにくくなるのは確かなんですね。

We are, truly, at a inflection point and, although there are many positives, there are plenty of red flags. Workers’ representatives must be at the tables of power—with employers, governments and international bodies—to negotiate the conditions of this transition. That is the only way to make sure that, as the workplace of the past is left behind, workers’ interests are not.

我々は確かに変曲点におり、そこには多くのメリットがあるが、同時に赤旗(危険信号)に満ちている。移行の条件を交渉するために、労働者の代表が使用者、政府、国際機関と交渉のテーブルにつかなければならない。過去の職場が過ぎ去っていく中で、労働者の利益までもが追いやられないようにするには、これが唯一の道である。

この危機感は、日本でももっともたれてもいいように思います。あまり認識している人はいないかもしれませんが、1985年の労働者性の判断基準に関する労働基準法研究会報告において、一般論の後で、具体例として論じられていたのは、傭車運転手と並んで在宅勤務者だったんですよ。

 

 

2020年7月22日 (水)

「家計調査報告(2020 年 5 月分)」にみる新型コロナウイルス感染症の影響@下島敦

JILPTで統計解析を担当している下島敦さんが、本日「「家計調査報告(2020 年 5 月分)」にみる新型コロナウイルス感染症の影響」をアップしています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/pt/docs/200722pt-report.pdf

これは、家計調査のこのグラフに着目した分析です。

C1901

見ての通り、対前年同月比で「実収入」や「可処分所得」が極端に増加(それぞれ 2020 年 5月の対前年同月増減率 9.8%、13.4%)した一方、「消費支出」は逆に大幅に減少(同-15.5%)しています。

この極めて特徴的な動きを理解するため、項目別の推移等により少し詳しく考察した結果です。いろいろと興味深い分析がされているので、是非リンク先に飛んで読んでみてください。

 

 

 

 

 

 

2020年7月21日 (火)

新たな休業支援金とその法的問題点@WEB労政時報

WEB労政時報に「新たな休業支援金とその法的問題点」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 2020年の年初から新型コロナウイルス感染症が世界的に急速に蔓延し、パンデミックとなりました。これに対する緊急対策が続々と打ち出される中で、労働政策においても注目すべき動きがいくつもありました。テレワークやフリーランスといった新時代的なトピックと並んで、あらためて注目を集めたのは、近年「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」というキャッチフレーズの下で、ややもすれば否定的な視線を向けられることの多かった雇用調整助成金であり、さらに休業労働者への直接給付です。

 そこで今回は、雇用調整助成金のコロナ危機への対応ぶりについて国際比較も含めて考察し、さらに新たな休業支援金についてその法的問題点も含めて考えてみたいと思います。・・・・

2020年7月19日 (日)

大内伸哉『デジタル変革後の「労働」と「法」』

9784539727614_600 大内伸哉『デジタル変革後の「労働」と「法」-真の働き方改革とは何か?- 』(日本法令)をお送りいただきました。ありがとうございます。れによって大内節全開の本です。

新型コロナウイルスの影響により、後世、「コロナ後」「コロナ前」と区分されるであろう大きな転換が、私たちの眼の前で起きています。一言でいえば、アナログ社会からデジタル社会への転換です。もちろん、この転換の動きは「コロナ前」から起きていたことではありますが、もう少し続くと思っていた助走期間は、コロナによって一挙に縮められてしまいました。
本書では、これから到来する「コロナ後」の世界――「21世紀型社会」について、これがどのような社会なのか、そこでは人々の労働はどのように位置づけられているのか、また法はそこでどのような役割を果たすのか、労働法学界の第一人者が模索しています。
未来の予測を単なる空想に終わらせないようにするため、未来の労働を考えるうえで重要と思われる歴史的な出来事・文献も逐次取り上げながら、新たな社会に生じる労働に関する法的課題を検討。そこでは、何が解決すべき課題であるかを示すと同時に、それをどのように解決すべきかという規制手法にも踏み込んでいます。読者の知的興奮をかき立てる、唯一無二の1冊が出来上がりました。 

大内さんの持論が後半に全面展開するのですが、むしろ本書の特色は、初めの第1篇で100ページ以上を費やして、そのための基礎的な議論を展開しているところでしょう。

序章 変わる企業と労働

第1編 20世紀型社会とは何か -産業資本主義の下での企業と労働-
第1章 資本主義と労働・法
第2章 企業はなぜ営利を追求するのか?
第3章 日本型雇用システムと日本型労働法

第2編 21世紀型社会の到来 -デジタル技術の時代-
第4章 デジタル技術が社会を変える
第5章 デジタル技術が働き方を変える

第3編 21世紀型社会の課題 -新たな規制をめざして-
第6章 デジタル技術が労働規制を変える
第7章 デジタル技術がもたらす新たな政策課題

終章 まとめにかえて -21世紀型社会と労働-

第1篇の第3章「日本型雇用システムと日本型労働法」はタイトルからわかる通り、拙著『日本の雇用と労働法』とほぼ同じ問題意識でほぼ同じ領域を、ほとんど同じ視角から論じていますが、それよりも本書の特色はそれに先行する2章にあります。

実はこの2章を読みながら、私は2004年の『労働法政策』の第1章として書いた「労働の文明史」を思いだしていました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/2004-b096.html

古代、中世を経て近代産業資本主義から20世紀システム、そして情報産業社会の21世紀システムの行方は?というその問題意識は、しかしその後私の中ではあまり展開することなく、一昨年『日本の労働法政策』を上梓するときには削除してしまったのですが、もしある程度ゆったりと時間をとれるのであれば、古今の歴史書を読み直してこの部分を書き直してみたいなという気持ちもないわけではありません。

なので、この2章については、私なりに同意するところも異論のあるところもいろいろあるのですが、きちんと展開するにはここ十数年にわたってインプットが足りないので、とりあえずそういう思いだけ書きつけておきたいと思います。

第2編、第3篇は、まさにデジタル時代に向けて労働が、労働法が大きく変わっていくというビジョンを展開している部分です。

おそらくここでも、総論のレベルではかなりの共通認識があるように思いますが、どこに注目するのかという点で、若干の違いがあるようにも感じました。

これは大内さんの本や論文を紹介する際に割と繰り返し述べてきたことのように思いますが、大内さんはどちらかというとデジタルハイエンドなマクロタスクを請け負ってこなしていく高度プロフェッショナルに着目して、労働法がそれに追いついていかないという危機感を示されるのですが、もちろんそれも重要なんですが、わたしはむしろ、大内さんが将来的には縮小し消えていくと楽観的に見ているデジタルローエンドなマイクロタスクをその都度請け負って日銭を稼ぐデジタル日雇型(ウーバーイーツなんかですな)のことも考えていきたいと思っています。

いずれにしても、本書を読んで改めてマクロ世界史的観点での考察を、十数年ぶりにもう一遍じっくりとやってみたいなという思いが湧いてきました。

 

 

2020年7月18日 (土)

梅崎修/松繁寿和/脇坂明『「仕事映画」に学ぶキャリアデザイン』

L16569 梅崎修/松繁寿和/脇坂明『「仕事映画」に学ぶキャリアデザイン』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641165694

昭和の名作から最近作,娯楽作から社会派まで,作品が映す仕事/雇用/経済を,労働経済学者ならではの観点で解説。フィクションの世界に実際のデータを照らし合わせることで,登場人物にとっての現実が私たちのリアルとして立ち上がる。想像力を養えるテキスト。

というわけで、この本、映画をネタに仕事の世界のあれこれを解説するという趣向で、実際に体験していない世界のことを映画という仮想現実を通じて理解させるというその工夫はなかなかよくできてます。

どういうテーマでどういう映画が取り上げられているかというと、

第1部 主人公たちの職業人生(キャリアデザイン)を見る
 第1章 自分を「売る」とは:新規学卒労働市場(何者)
 第2章 職業世界に入る若者たち:初期キャリア形成(プラダを着た悪魔)
 第3章 人材が支える企業競争力:現場主義の改善活動(スーパーの女/県庁の星)
 第4章 昇進をめぐる悩み:雇用システムの国際比較(ワーキング・ガール/9時から5時まで)
 第5章 仕事か,結婚か:ワークライフバランス(下町の太陽/男はつらいよ 寅次郎真実一路)
 第6章 流動化する社会を生き抜く:自己投資と転職(マイレージ,マイライフ)
 第7章 自分の会社をつくるという道:小規模企業の世界(洋菓子店コアンドル/ALWAYS三丁目の夕日)
 第8章 職業人生のラストランを飾る:人生100年時代の高齢者雇用(マイ・インターン)
第2部 映像に映し出された変動する社会
 第9章 産業化「離陸」時の企業現場:労働問題の構造(あゝ野麦峠)
 第10章 企業は誰のものなのか:企業とステークホルダー(プリティ・ウーマン/遥かなる走路)
 第11章 新しい雇用をどう生み出して地域を守るか:産業構造の大転換(フラガール/ブラス!)
 第12章 地方企業の生き残り戦略:地域経済の活性化(川の底からこんにちは)
 第13章 サラリーマンの今昔:高度成長期の階層移動(スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ)
 第14章 格差が生み出すもの:能力か,不平等か(天国と地獄)
 第15章 国境を越えた労働移動:外国人労働者・移民(この自由な世界で/やさしくキスをして) 

まず第1章は例の『何者』です。まさに日本独特の「入社」のありようを、(それこそ拙著『若者と労働』なんかよりはるかに雄弁に)物語ってくれる作品ですが、梅崎さんは日本の新卒採用をめぐる歴史を語るにも、さまざまな映画を繰り出していきます。

まず戦前編が小津安二郎の『大学は出たけれど』、高度成長期が加山雄三演ずる『フレッシュマン若大将』、バブル期は織田裕二主演の『就職戦線異状なし』、そしてその時代のもう一つの生き方で、後には氷河期世代の悲惨さの象徴となるある言葉を冠した能天気なリクルートの創刊5周年記念映画『フリーター』も。

そういえば、この『フリーター』って映画は拙著『若者と労働』で取り上げたんでした。

第3章の二つの映画は、本田一成さんの本を勧めても読まない人に、「パートの基幹化」ってどういうことかを理解させるのに一番いい特効薬でしょう。

そしてなによりも、やたらに一知半解の「ジョブ型」っちゅう言葉が乱舞している今現在、第4章のアメリカ映画は、本場の「ジョブ型社会」ってのがいかなるものであるのかを、私なんぞが百万回ブログで書くよりも、その社会のノンエリートホワイトカラー女性の眼差しから描き出すことにより、はるかに雄弁に訴えかけてくれるでしょうね。

てな具合で、いちいち各章ごとに紹介していきたいのですが、あとはぜひ皆様が直接本書を手に取ってじっくりと読んでみてください。

あと、本書には、仕事映画にかかわる仕事歌の歌詞が2つほど載っています。せっかくなので、それを聴いてみてください。まずは第5章に出てくる倍賞千恵子の「下町の太陽」。

そして、第13章の植木等の「スーダラ節」。

 

 

 

2020年7月17日 (金)

石山恒貴『日本企業のタレントマネジメント』

9784502354212_240 石山恒貴『日本企業のタレントマネジメント―適者開発日本型人事管理への変革』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.biz-book.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E2%80%95%E9%81%A9%E8%80%85%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9E%8B%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%A4%89%E9%9D%A9/isbn/978-4-502-35421-2

人事分野で注目されているタレントマネジメントとはどのようなもので、日本型人事管理に馴染むものなのか。体系的に整理し、事例研究などにより分析。今後の方向性を示す。

サブタイトルの「適者開発日本型人事管理」というのは、これまでの日本的な人事管理を「遅い選抜」「空白の石版」「キャリア形成としてのインフォーマルなOJT」「集権的な人事部門」の4要素からなる「適者生存日本型人事管理」と呼び、それに代わる新たな選択肢として提示しようというものです。

第1章 タレントマネジメントがなぜ注目されるのか
第2章 日本型人事管理とタレントマネジメント
第3章 タレントマネジメントとは何か,本書で何を明らかにするのか
第4章 STMが機能する条件とメカニズムの解明
―外資系企業と日本企業の比較事例研究―
第5章 タレントマネジメント施策に関する
集団的認知と個人的認知の効果の検討 第6章 事例研究1 サトーホールディングス
第7章 事例研究2 味の素
第8章 事例研究3 カゴメ
第9章 まとめにかえて
―タレントマネジメントと日本型人事管理の接続は可能か― 

この第2章のところで、拙著がかなり引用され、参照されております。

 

 

 

ロイター英文記事にも登場またはジョブ型社会の人に『ジョブ型』は通じない件

火曜日に和文記事「アングル:日立が進める「ジョブ型」雇用、日本での普及に懐疑的見方も」に私のコメントが載りましたが、その英文記事がアップされたようです。

https://jp.reuters.com/article/hitachi-idJPKCN24F16C

https://www.reuters.com/article/us-hitachi-pay/with-shift-toward-merit-based-pay-japans-hitachi-to-drop-old-ways-idUSKCN24H3CW

ただ、そもそも雇用労働とはジョブであり、それ以外の何物でもないのが当たり前であって、それに「型」なんていう限定がつくこと自体が想定外な(日本以外の)読者向けに「ジョブ型」なんていう言葉が使えるはずもなく、タイトルはこうなっています。

 With shift toward merit-based pay, Japan's Hitachi to drop old ways

このタイトルを見たら、普通のジョブ型社会の人々はみんな、日立は普通の査定のないフラットな職務給から業績査定のある成果主義的な職務給に移行するんだとしか思わないでしょう。だって、そうとしか読み取れないんですから。

ところが、そのつもりで読んでいくと、

・・・But first it will lay out job descriptions for its domestic workforce and use those as criteria for performance assessments that will eventually link to pay.

はぁ???

初めて職務記述書を作るって?まさか今までなかったの?

そしてますます訳が分からなくなるのは、その初めて作る職務記述書が、なぜか業績査定の基準だと。

いやいや、エグゼンプトとかは別にして、普通の労働者の職務記述書ってのは、「これだけはちゃんとやれ!そしてこれ以上余計なことはするな!」ってものであって、こういう記述を見ると頭がこんがらかるでしょう。

日本語でやっている分には通じたつもりになっているものが、英語に直すとごまかしがすべて露呈する、ってののいい実例ですね。

なぜかいま大音量でいわれている「ジョブ型」ってのは、要するに成果主義賃金にしたいという以上のことは含まれていないわけです。

というわけで、私のコメント部分はほぼそのままこう訳されています。

But Keiichiro Hamaguchi, research director general at the Japan Institute for Labour Policy and Training, said many manufacturers would be reluctant to adopt job descriptions for their blue-collar workers since it would tie them to a specific process though most can perform a wide range of tasks.

That flexibility on the factory floor has been a pillar of Japan Inc.

“Tech companies like Hitachi have been frontrunners in this because the manufacturing part of their business has already been sold or gone to contractors,” he said.

“But do Japanese automakers really want to introduce a system similar to General Motors or Chrysler for factory workers?”

 

 

 

 

 

 

2020年7月16日 (木)

『働き方改革の世界史』詳細目次(予定)

9月に刊行予定の濱口桂一郎・海老原嗣生『働き方改革の世界史』(仮題)(ちくま新書)の現時点での詳細な目次です。

序章 日本人が煙たがる「労働運動」というもの 
 
対岸の火事としての労働争議/日本の労働組合はガラパゴス的な形態をしている/協調的だが暴れ出すと手に負えない日本型の労働組合/社内調整のための仕組み/英米と欧州大陸国で異なる進化/片翼だけの労使関係の問題
 
第一章 トレードからジョブへ 
 
第1講 出発点は集合取引(コレクティブ・バーゲニング) 
シドニー&ベアトリス・ウェッブ、高野岩三郎監訳『産業民主制論』
【受講準備】会社を超えた広い連帯
【本講】労働思想の必読古典/失われた失業保険機能/集合取引とは、労働力を高く売ること/日本は生活給、イギリスは標準賃銀率/雇用の継続と日本型デフレ
 
第2講 「労働は商品じゃない」の本当の意味 
サミュエル・ゴンパーズ、S・ゴンパーズ自伝刊行会訳『サミュエル・ゴンパーズ自伝 七十年の生涯と労働運動(上巻・下巻)』
【受講準備】アメリカ労働総同盟の初代議長
【本講】アメリカ労働思想の古典と現代日本/労働組合主義から社会主義への反論/ネガティブな立法闘争/労働の大憲章/国防会議諮問委員会とILO
 
第3講 ジョブ型労働運動の哲学 
セリグ・パールマン、松井七郎訳『労働運動の理論』
【受講準備】ジョブ、ポスト、トレード
【本講】階級意識と仕事意識/ジョブ・コントロールの労働運動/先任権ルールと残業の考え方/現場労働者が作り上げ、決めていく/戦後日本との対比
 
復習ノート1 トレード型とジョブ型 
 
第二章 パートナーシップ型労使関係という奇跡 
 
第4講 共同決定というもう一つの産業民主主義 
フリッツ・ナフタリ編、山田高生訳『経済民主主義 ― 本質・方途・目標』
【受講準備】労使関係のパラダイム・チェンジ
【本講】現代ドイツの労働システムの始祖/ナフタリって何者?/経済民主主義の源流/労働関係の民主化/教育制度の民主化
 
第5講 労使は経営共同体のパートナーシップ 
ギード・フィッシャー、清水敏允訳『労使共同経営』
【受講準備】労使双方の努力で構築
【本講】いわゆるライン型資本主義/経営パートナーシャフト―生活の安定/公正賃金/共同体のメンバーとしての従業員/組織原則の違い/フィッシャー経営学とカトリシズム
 
第6講 カトリックの労働思想 
W・E・フォン・ケテラー、桜井健吾訳・解説『労働者問題とキリスト教』
【受講準備】社会問題に切り込んだ聖職者
【本講】キリスト教と労働問題/カール・マルクスの商売敵/新たなギルドの模索 /職人組合と生産協同組合/カトリシズムというモノサシ
 
復習ノート2 ドイツ型労働システムの根幹 
 
第三章 パートナーシップなき企業内労使関係の苦悩 
 
第7講 労使パートナーシップへの淡い夢 
G・D・H・コール、和田耕作訳『労働者 ― その新しい地位と役割』
【受講準備】イギリスの消耗
【本講】今こそ読み返すべき還暦本/企業内部での経営参加を志向/日本型新卒一括採用が理想/完全雇用が必須な理由/ドイツや日本で実現した理想
 
第8講 パートナーシップなきイギリスの職場 
アラン・フランダース、岡部実夫・石田磯次共訳『イギリスの団体交渉制 ― 改革への処方箋』
【受講準備】労使関係は人間の権利と尊厳の問題
【本講】イギリス労使関係が大転換するきっかけ/事業所レベル交渉の弊害/従業員を相手にせよ/集団から個人へ
 
第9講 ジョブ・コントロール型労使関係は崩壊の一途 
バリー&アーヴィング・ブルーストーン、岡本豊訳『対決に未来はない ― 従業員参加の経営革命』
【受講準備】精勤・勤勉な労働の回復
【本講】アメリカ労働運動の中枢からアメリカ的労使関係を批判/監督はごみを拾うな/製品の品質に関心を持つな/日本のやり方に学べ/純粋メンバーシップ型宣言/挑戦は法的に頓挫
 
第10講 メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、挫折 
サンフォード・ジャコービィ、内田一秀・中本和秀・鈴木良治・平尾武久・森杲訳『会社荘園制』
【受講準備】外界と隔絶された共同体
【本講】非主流派、少数企業の物語/福祉資本主義の崩壊からアメリカ型内部労働市場システムへ/日本型雇用に酷似/現場管理者の権力を削ぐ/コダックの協和主義/雇用と所得、どちらが重要か/コダックと富士フイルム
 
復習ノート3 ノンユニオンという帰結 
 
第11講 労働者自主管理という理想像の逆説 
エドモン・メール、佐藤敬治訳『自主管理への道』
【受講準備】仏の労使の距離感
【本講】労働運動の思想的分裂/労働者自主管理と企業内労使関係/労働者を責任ある俳優に/あべこべの世界
 
復習ノート4 自主管理思想の理想郷とは 
 
第四章 片翼だけの労使関係 
 
第12講 従業員組合のアンビバレンツとその帰結 
藤林敬三『労使関係と労使協議制』
【受講準備】争議の現場をよく知る研究者
【本講】労使関係は二元的である/日本と欧米、最大の違い/上部団体の存在意義/第二組合がなぜ生まれるのか/組合が左傾化する背景/不可避の雰囲気闘争/妥協機関としての労働委員会/身内の争いは激しさを増す/組合を去勢する労使協議制/藤林の予言通りになった日本の労働社会
 
復習ノート5 戦後日本のパラドックス 
 
第五章 労働思想ってそういうことだったのか対談 
 
コレクティブ・バーゲニングの真相/アメリカはなぜジョブ・コントロールを確立できたか?/立法重視で行くべきか、現場を重視すべきか?/ドイツ型パートナーシャフトは奇跡の産物/労使共同経営って、いったい何をするの?/欧米に見られる日本型雇用への憧憬/日本社会に労働者代表制は取り入れられるか?
 
あとがきに代えて マルクスが入っていない理由 

 

『POSSE』vol.45

9784906708840_600 『POSSE』vol.45をお送りいただきました。特集は「コロナ時代を生き抜く」なんですが、

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784906708840

◆特集「コロナ時代を生き抜く」
[座談会]コロナ危機で産業・労働・社会福祉はどうなるのか――リーマン・ショック、派遣村から10年間の社会変動を踏まえて
今野晴貴(NPO法人POSSE代表)×五十嵐泰正(筑波大学准教授)×渡辺寛人(本誌編集長、NPO法人POSSE事務局長)×岩橋誠(NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター)×青木耕太郎(総合サポートユニオン共同代表) ・・・

私が興味深く読んだのは、ミニ企画の「アニメ業界を変えるために」の方でした。

◆ミニ企画「アニメ業界を変えるために」
アニメ業界の崩壊を止めるために何をすべきか
松永伸太朗(長野大学助教)×ブラック企業ユニオン組合員
アニメ制作現場の労働問題をいかに解決していくか――東映動画労組が40年がかりで勝ち取った成果と今後
河内正行(動画労組副委員長)×沼子哲也×佐々木憲世 

松永さんは、最近アニメ労働社会学の本を出されて注目の研究者ですが、

「やりがい搾取」は労働者を馬鹿にした考え

だと言います。

あと、あの「なつぞら」のモデルになった東映動画の労働組合が40年かけてスタッフの雇用化を達成した話もとても面白です。

また、常見陽平さんはお得意のプロレス技で

スポーツとブラック企業 第7回
いまこそ、プロレスラーの働き方改革を――木村花さん逝去に寄せて
常見陽平(千葉商科大学国際教養学部准教授) 

こう語っています。

・・・今回の事件で可視化されたのは、プロレスラーはリング上では強そうだが、立場上、弱い存在であるということだ。「雇われない働き方」でありつつも、労働者性が極めて高く、指揮命令系統の下にありつつ、身体と心をすり減らして働く姿がそこにはある。・・・

 

 

 

 

 

JILPT「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」

JILPTの「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」の一次集計結果がアップされました。

https://www.jil.go.jp/press/documents/20200716.pdf

2月から5月にかけて企業の雇用調整が増加し、正社員の雇用調整は5割を超えるも、解雇、雇い止めは僅かにとどまる。また、在宅勤務(テレワーク)の実施が急速に拡大 

ここでは、世間で注目されているテレワークについて見ておきますと、

<在宅勤務(テレワーク)の実施率が、5月には約5割(48.1%)まで上昇。実施率には地域差、業種間の差がみられるとともに、企業規模が大きい方が高くなっている>(p5~7【図表3~6】)
事業の運営、社員の働く環境に関連した企業の実施項目をみると、「在宅勤務(テレワーク)の実施」が2月の 5.3%から、5月には約5割の 48.1%まで上昇している。5月は次いで、「営業の短縮(営業日の縮小)」(29.0%)、「営業の短縮(一日当たりの営業時間の短縮)」(27.2%)、「有給の特別休暇の付与(年次有給休暇は除く)」(25.7%)の順に高くなっており、1割近くの企業(9.3%)で「事業の休止」も行われている。5月の「在宅勤務(テレワーク)の実施」状況は、地域別には、南関東、近畿、北海道で、産業別には、情報通信業、その他、サービス業、卸売業で高くなっており、企業規模別には、100 人未満で 35.9%、100~299 人で58.5%、300 人以上で 81.4%と、規模が大きくなるほど実施割合が高くなっている。 

このうち業種別のテレワーク実施状況のグラフだけここにコピペしておきましょう。

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男性正社員はみんなエリートまがいの総合職

こういうツイートが目に入ったんですが、

https://twitter.com/TokyoSwing/status/1283376375877885952

親友が「総合職と一般職の比率を1:10くらいにして総合職の責任と報酬を3倍くらいにしたらいいのではないか」という案を述べていたが非常に面白いと思っている。いわゆるプロフェッショナル職/オペレーター職の思想が実は日本の雇用システムにも存在「は」している点は考えてみると気付かなかった

https://twitter.com/TokyoSwing/status/1283379556678643712

もし日本のメーカーが新卒の雇用を総合職/一般職比率を1:10くらいにし1年目1000万円位で優秀層は30代前半で部長(3-4000万円)、40前後で本部長クラス(5-8000万円)になる設計であればかなり良い人材は集まると思っている。難しいのはその人材を活用できる組織設計。特にトランジションは非常に難しそう

いや、だから、それが日本以外の普通のシステムなんですって。

もう10年以上前から言ってますように、

http://www.nitchmo.biz/hrmics_12/_SWF_Window.html

00top_hrmics_vol12  エリートの問題についても大きな違いがあります。アメリカではエグゼンプト(exempt)、フランスではカードル(cadresといいますが、残業代も出ない代わりに、難易度の高い仕事を任され、その分もらえる賃金も高い、ごく少数のエリート層が欧米企業には存在します。彼らは入社後に選別されてそうなるのではなく、多くは入社した時からその身分なのです。
 一方、「ふつうの人」は賃金が若い頃は上がりますが、10年程度で打ち止めとなり、そこからは仕事の中身に応じた賃金になります。出世の階段はもちろんありますが、日本より先が見えています。その代わりに、残業もほどほどで、休日は家族と一緒に過ごしたり、趣味に打ち込んだりといったワークライフバランスを重視した働き方が実現しています。
 日本は違います。男性大卒=将来の幹部候補として採用し育成します。10数年は給料の差もわずかしかつきませんし、管理職になるまで、すべての人に残業代が支払われます。誰もが部長や役員まで出世できるわけでもないのに、多く人が将来への希望を抱いて、「課長 島耕作」の主人公のように八面六臂に働き、働かされています。欧米ではごく少数の「エリート」と大多数の「ふつうの人」がいるのに対して、日本は「ふつうのエリート」しかいません。この実体は、ふつうの人に欧米のエリート並みの働きを要請されている、という感じでしょうか。

日本以外だったら、エグゼンプトとかカードルとかいって少数のエリートの働き方が、均等法以前なら男性正社員みんな、均等法以後は「総合職」という名で少しずつ女性も含めて、正社員みんなに適用されていて、それを不思議に思わないところに、日本の特徴があるわけです。

逆に言うと、かつての女性正社員、均等法以後は「一般職」と名付けられた働き方こそが、ジョブ型社会のごくごく普通のレギュラー・ワーカーの働き方なんですね。

 

2020年7月15日 (水)

神谷悠一・松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』

419rgj4cedl_sx304_bo1204203200_ 神谷悠一・松岡宗嗣『LGBTとハラスメント』(集英社新書)をお送りいただきました。

https://shinsho.shueisha.co.jp/#plan

いわゆる「パワーハラスメント防止法」が二〇一九年に成立し、あらゆる企業がLGBTに関するハラスメント対策をとり、プライバシー保護の対応を行うことが義務化された。
しかし、未だLGBTに関わる政治家の失言やネットでの炎上事例は後を絶たない。
本書では「よくある勘違い」を多くの実例をもとにパターン分けし、当事者との会話において必要な心構えを紹介。
また、職場における実務面での理解も促す構成となっている。
知っているようで知らない、LGBTの「新常識」がここにある。 

という本なんですが、労働法クラスタからすると、139ページあたりから記述されている地方公務員、国家公務員への適用関係と、SOGIハラがセクハラの一種とされているのか、パワハラの一種とされているのかが違っているという不整合のところが、微妙にに好奇心をそそります。

建設業の一人親方問題に関する検討会

GO TOキャンペーンで批判にさらされている国土交通省ですが、一方で地味ながら今日の雇用類似就業者問題に関わるこういう試みが始まっています。先月末に、建設業の一人親方問題に関する検討会がはじめられているのです。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000133.html

・・・一方、法定福利費等の労働関係諸経費の削減を意図して、技能者の個人事業主化(いわゆる一人親方化)が進む懸念や、労働基準法令規制強化の影響もあり、偽装請負の一人親方として従事する技能者も一定数存在するものと認識しています。
 このため、実効性のある施策・推進するため「建設業社会保険推進・処遇改善連絡協議会」の下に「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置し、職種ごとの一人親方の実態把握、規制逃れを目的とした一人親方化対策、その他一人親方の処遇改善対策等の諸課題について検討を行います。
 なお、本検討会は令和2年度内に中間取りまとめを行う予定です。

ほお、「規制逃れを目的とした一人親方化対策 」とな。まさに今日においても労働基準監督現場における労働者性問題の一丁目一番地にあるのが建設業の一人親方ですから、この行方は注目したいです。

なお資料はこちら

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001350874.pdf

構成員名簿はこちらですが、

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001350876.pdf

有識者として、水町勇一郎、川田琢之の二人が入っています。

 

 

 

 

 

 

 

ジョブ型とメンバーシップ型の能力開発費

私が作ったはずの「ジョブ型」という言葉があまりにも世間で乱舞しすぎて収拾がつかなくなりつつありますが、明らかに変な使い方もあれば、認識自体は正しいけれどもあまりにも価値判断が行き過ぎていたり、理解が浅すぎたりするのもあり、いちいち言うのもしんどい限りですが、一つ目についたのが日本企業の能力開発費の少なさの問題を取り上げたもので、ジョブ型とメンバーシップ型という概念をトータルに理解するのにいい切り口なので、ちょっと説明しておきたいと思います。

素材はこれ

https://biz-journal.jp/2020/07/post_167232.html(社員の能力開発費、日本企業は米企業の20分の1…社員教育に莫大な投資する外資系企業)

今まで、日本企業は社員の能力開発に、ほとんど投資をしてきませんでした。厚労省の「労働経済の分析」でも、「GDPに占める企業の能力開発費の割合」を国際的に比較してみると、日本はわずか0.1%で、米企業の2.0%の20分の1という低さ。これは、英独仏伊のヨーロッパ先進諸国の1.0~1.7%と比べても、10分の1以下です。
 また、日本では研修といっても、OJT(On-the-job Training)が中心で、実務的な仕事の進め方を学ぶだけ。人事研修のほうも、新入社員研修に代表されるような、ごく一般的な常識を学ぶものが多いのではないでしょうか。

このデータはよく使われるものですが、そもそもここでいう能力開発費というのは、日常業務とは別に、社内であれ社外であれわざわざ教育訓練として行われるものにかける費用のことです。それが日本企業は圧倒的に少ない、というのはその通り。

しかし、今から30年くらい前までの、日本的経営が競争力の源泉として褒め称えられていた時代には、そういう欧米のようなわざわざ教育訓練として別建てにするようなコストのかかる馬鹿なやり方ではなく、日常業務で上司や先輩が仕事のやり方をたたき込むOJTでやっているからこそ、日本が世界で一番競争力があるんだぜ、みたいな議論がいっぱいはやっていたんです。みんな忘れてしまったかも知れないけれど。

ジョブ型とは、初めにジョブがあり、そこにそのジョブをこなせるスキルのある人を当てはめる。それゆえ、社外で既にそのスキルを身につけた人を雇入れるか、そうでなければそのスキルを持たない社員に、そのスキルを身につけるような教育訓練を(社内ないし社外で)施し、そうやってそのジョブをこなせるスキルのある人にした上で、当該ジョブに当てはめるという仕組みになります。当然、その教育訓練にかかる費用は「能力開発費」として計上されます。

それに対してメンバーシップ型では、初めに人があり、その人にジョブを当てはめる。その際、その人が予め当該ジョブをこなせるスキルを持っているとは限らない、というよりむしろ、そんなスキルのない人にとにかく一定のスキルを要するジョブを当てはめるという(ジョブ型社会から見ればとんでもない無理ゲーの)やり方をします。

そうすると、初めは要するに素人が見よう見まねでやるわけですから、あまりうまくいかない。そこを、上司や先輩が時に優しく、時に厳しく「指導」しながら教えていくわけです。日常業務それ自体が教育訓練の機能を兼ねるというわけです。

兼ねているんだから教育訓練の費用がそれとして切り出されることはできません。ではコストがかかっていないかというと、見えない形でかかっています。

まず、初めは素人の見よう見まねなので、生産性が低くなります。出来の悪い成果しか出てこないのを、上司が「はい、駄目」「これも駄目」と何回も駄目出ししてようやくできるなんてことをやっていると、それは初めからスキルのある労働者に当該ジョブをやらせるのに比べれば見えないコストがかかっています。でも、そのコストを考えても、OJTの方がトータルにはコストは安くなると、少なくとも30年前までの日本人は思っていたのです。

それは一つには企業の年齢別人員構成の変化もあります。かつては、とりわけ高度成長期までは、日本企業の年齢別人員構成は圧倒的にピラミッド型でした。

そうすると、若くてぴちぴちした生きのいい労働力がいっぱい溢れていたわけです。

若いってことは、適応能力が高いってことです。iPS細胞みたいなものですね。

何もできないノースキルの若者を、いきなりスキルを要するジョブにぶち込んで、上司や先輩がびしばし厳しく指導すれば、あら不思議、しばらくすると何もできなかった若者がそれなりにこなせるようになり、一人前の成果を挙げるようになるのです。

わざわざ教育訓練として別建ての費用を計上しなくても、日常業務で初めの時期の若干の出来の悪さというコストを覚悟すれば、トータルでは安く結果を出せたのですね。ちなみに、上司や先輩の日常業務に埋め込まれた業務指導という名の事実上の教育訓練も、別に計上されることもなく、企業はその役職につきものの当然の役割として期待できました。

そういうすべてがうまく回っていたのが、年齢別人員構成が逆転し、若者が少なく、中高年が溢れるようになると、すべてがうまく回らなくなります。

若いってことは適応能力があるってことをひっくり返すと、中高年は適応能力が低くなります。

中高年をいきなり今までやったこともないジョブにぶち込んでも、なかなか、あるいはいつまで経ってもうまくできるようになりません。若者と違ってそれなりに自分はできると思っているものですから、そう素直に勉強しようとも思わなくなるし、上司や先輩がびしばしというのもやりにくい。下手にやるとパワハラになりかねません(ちなみに、なぜ日本ではいわゆる「いじめ/嫌がらせ」問題が「パワーハラスメント」という名で、上司の日常業務指導との区別が問題になるかというと、上述の構造があるからです)。

なので、若者と違って中高年はそう新しいジョブにぶち込めません。もちろん、労働法的には若かろうが中高年であろうが職務の限定はないのが正社員ですから、理屈の上ではぶち込めるけれども、実際には難しい、それゆえ、職務限定がないことが前提での解雇の難しさが(その限りではバランスが取れているにもかかわらず)、ぶち込めるけれどもぶち込めない厄介な中高年を排出したいという欲望を人事部サイドに掻き立てるわけです。

もう一つ、中高年が増えてくると、管理職も自分で働け、とプレイイング・マネージャーあるいはむしろマネージング・プレイヤー化が不可避になります。そうなると、昔みたいに出来の悪い部下の指導を丁寧にやっている暇はなくなります。かつての見えざる教育訓練は、限りなく放置プレイ化していきます。

そうなると、かつては表向きの教育訓練費は少ないけれども、じつは若い労働者本人のけなげな頑張りと、上司や先輩の(時にパワハラまがいの)厳しい業務指導の中に隠れていた、見えざる能力開発費用というものが、実際にも中身のすかすかのものになってしまっていました。

だからこそ、今、日本企業の能力開発コストの問題は重要なのです。しかし、それを表面づらの数字だけであれこれ論ずるのはあまりにも表層的だと言うことはお分かりでしょう。

「ジョブ型」「メンバーシップ型」という時ならぬはやり言葉を振り回す人々のせめて1割でも、これくらいの深みのある認識に基づいて発言してくれれば、もう少しまともな議論になるはずなんですが・・・・。

2020年7月14日 (火)

ロイターの「ジョブ型」記事に登場

いまやマスコミに「ジョブ型」の字を見ない日はないくらいですが、ロイター通信の「アングル:日立が進める「ジョブ型」雇用、日本での普及に懐疑的見方も」という記事に、わたくしもちらりと登場しています。

https://jp.reuters.com/article/hitachi-idJPKCN24F16C

 日立製作所(6501.T)は来春、各ポストの職務を明確にして最適な人材を充てる「ジョブ型」雇用を国内の全従業員約15万人を対象に導入する。日本企業で伝統的に採用されてきた一括採用・年功序列・終身雇用といった「メンバーシップ型」雇用からの大転換だ。新型コロナウイルスの影響による在宅勤務の広がりもあり、導入機運が高まる人事制度だが、日本の企業社会に根付いていくかは、懐疑的な見方もある。・・・・

という書き出しから始まって、日立の中畑最高人事責任者、同志社大学の太田肇さんのコメントが続き、最後に私が登場してこう喋っています。

・・・産業による違いもある。日本でジョブ型の呼称を広めたとされる労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策研究所の濱口桂一郎所長は、電機産業でジョブ型の取り組みが進んでいるのは、工場の構内請負化が進み、現場労働力の多くが直接雇用ではなく外部化しているからだと指摘する。
 欧米で典型的なジョブ型とされる工場作業員は、職務記述書に記された範囲に作業内容が限られ、企業側からすればむしろ日本型のシステムより硬直的とされる。自動車などの産業では、製造現場での正規従業員の比重は依然として大きい。濱口氏は「日本車メーカーが、GMやクライスラーのようなシステムを導入するだろうか」と指摘する。 

これ、日本で特にアメリカの労使関係を研究している人だったら、みんな似たような感想を漏らすと思います。

Student Part-timers as a Subject of Labor Policy

JILPTの英文ホームページの特設コロナサイトに私の緊急コラム「Student Part-timers as a Subject of Labor Policy」が先行アップされました。

https://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2020/025-01advanced.pdf

他のコラムやリンク(OECD、ILO,EU)等は、ここから入れます。

https://www.jil.go.jp/english/special/covid-19/index.html

 

新型コロナウイルスの流行と全面的ロックダウン ―私の体験と感想@鈴木宏昌

Suzuki_hiromasa JILPTのホームページに、鈴木宏昌さんの「新型コロナウイルスの流行と全面的ロックダウン ―私の体験と感想」というエッセイが掲載されています。これは、メールマガジン「オルタ広場」からの転載ですが、コロナ禍のもとでのフランスの生活の姿を活写していますので、是非ご一読を。

https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2020/07/france.html

フランスは、イタリア、スペイン、ベルギー、イギリスと並んで、欧州において新型コロナウイルスの被害がもっとも深刻だった国の一つで、死者の数は、6月11日現在約3万人に及ぶ。厳しい罰則付きの外出禁止(ロックダウン、都市封鎖)は実に2カ月を超え、ようやく経済活動が緩やかに回復し始めたばかりである。いまだに新型コロナウイルスへの恐怖があり、街で見かけるバスには乗客がほとんどいない。いつもは人でにぎわうレストランやカフェはほとんど閉まったままである。

今後、普段の生活が戻るにつれて、ロックダウンの経済・社会的な影響が出てくると思われるが、今のところフランスは、外出制限の緩和にほっとしているというのが正直なところだろう。本当に長いロックダウンと外出禁止だった。私の体験をもとに、ここ3カ月の新型コロナウイルスの感染状況と息苦しかった生活を振り返ってみたい。・・・・

 

2020年7月11日 (土)

『働き方改革の世界史』目次(予定)

9月に刊行予定の濱口桂一郎・海老原嗣生『働き方改革の世界史』(仮題)(ちくま新書)の現時点での目次です。

『働き方改革の世界史』(仮題)目次

序 章 日本人が煙たがる「労働運動」というもの

第一章 トレードからジョブへ-集合取引(コレクティブ・バーゲニング)の展開

第1講 出発点は集合取引(コレクティブ・バーゲニング)
シドニー&ベアトリス・ウェッブ、高野岩三郎監訳、『産業民主制論』

第2講 「労働は商品じゃない」の本当の意味
サミュエル・ゴンパーズ、S・ゴンパーズ自伝刊行会訳『サミュエル・ゴンパーズ自伝 七十年の生涯と労働運動(上巻・下巻)』

第3講 ジョブ型労働運動の哲学
セリグ・パールマン、松井七郎訳『労働運動の理論』

復習ノート① トレード型とジョブ型

第二章 パートナーシップ型労使関係という奇跡

第4講 共同決定というもう一つの産業民主主義
フリッツ・ナフタリ編、山田高生訳『経済民主主義――本質・方途・目標』

第5講 労使は経営共同体のパートナーシップ
ギード・フィッシャー、清水敏允訳『労使共同経営』

第6講 カトリックの労働思想
W・E・フォン・ケテラー、櫻井健吾訳・解説『労働者問題とキリスト教』

復習ノート② ドイツ型労働システムの根幹

第三章 パートナーシップなき企業内労使関係の苦悩

第7講 労使パートナーシップへの淡い夢
G・D・H・コール、和田耕作訳『労働者 その新しい地位と役割』

第8講 パートナーシップなきイギリスの職場
アラン・フランダース、岡部実夫・石田磯次共訳『イギリスの団体交渉制――改革への処方箋』

第9講 ジョブ・コントロール型労使関係は崩壊の一途
バリー&アーヴィング・ブルーストーン、岡本豊訳『対決に未来はない 従業員参加の経営革命』

第10講 メンバーシップ型アメリカ企業の雌伏、栄光、そして挫折
サンフォード・ジャコービィ、内田一秀・中本和秀・鈴木良治・平尾武久・森杲訳『会社荘園制』

復習ノート③ ノンユニオンという帰結

第11講 労働者自主管理という理想像の逆説
エドモン・メール、佐藤敬治訳『自主管理への道』

復習ノート④ 自主管理思想の理想郷とは

第四章 片翼だけの労使関係

第12講 従業員組合のアンビバレンツとその帰結
藤林敬三『労使関係と労使協議制』

復習ノート⑤ 戦後日本のパラドックス

第五章 労働思想ってそういうことだったのか対談

あとがきに代えて マルクスが入っていない理由

 

 

『情報労連REPORT』7月号に寄稿

2007_cover 『情報労連REPORT』7月号に「「新型コロナ緊急対策」と今後の労働政策-非常時の対応は平時に労働政策にどう影響するか」を寄稿しました。

http://ictj-report.joho.or.jp/2007/topics01.html

これは総論的に、いろんなことを詰め込んで概観していますので、より詳細はJILPTの緊急コラム等をご覧いただければと思いますが、ざっと一通り見るには手ごろではないかと思います。

雇用調整助成金の拡充

2020年度は働き方改革、賃金消滅時効、ハラスメント規制など数多くの労働政策課題とともに出発するはずでしたが、2020年初めから世界的に急速にまん延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で、労働政策面でも目まぐるしいような制度改正や創設が相次ぎました。その中には、今後の労働政策の行方を示唆するものも少なくありません。

まず、近年「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への転換」というキャッチフレーズの下で、ややもすれば否定的な視線を向けられることの多かった雇用調整助成金が一気に雇用政策のスポットライトを浴びました。知事の休業要請を受けた場合には助成率を10割としたり、日額上限を1万5000円に引き上げたりするなどの大幅な拡充に加え、被保険者期間6カ月以上という要件の撤廃や、雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成対象とした点が注目されます。

2008年のリーマン・ショック時には、多くの非正規労働者が雇用保険の対象とならないことが批判の的となり、それまでの1年以上の雇用見込みという要件が1カ月以上に緩和されました。しかし、それでもなお雇用保険非加入の非正規労働者は少なくありませんし、加入していても6カ月の被保険者期間を満たさないことも多いのです。緊急事態に対処するための雇用調整助成金が、金の出どころである雇用保険の事情に引きずられることによって、守られるべき非正規労働者の雇用が守られないとすれば、それは是正されるべきでしょう。しかしこれは、緊急事態が過ぎ去った後には元に戻せばいいのかという問いも提起します。

休業に国が直接給付へ

雇用調整助成金を巡っては、その申請手続きが煩雑で受給手続きが遅々として進まないことに批判が集まり、かなり思い切った手続きの簡素化が行われました。これは、リーマン・ショック時に利用された雇用調整助成金において、その後不正受給等の指摘が多くなされ、厳格な運用のために手続きが煩雑になった面もあります。とはいえ、同様の制度を持つ欧州諸国では4月末の時点で独仏とも利用者数が1000万人に達していたことを考えると、やはり仕組みにも問題がありそうです。

これに対し、日本弁護士連合会などから災害時のみなし失業制度の適用が求められましたが、政府はむしろ休業そのものに国が直接給付を行うという法改正を選択しました。これにより、雇用保険の雇用安定事業として休業手当を受け取れていない中小企業労働者に「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」が支給されるとともに、被保険者でない労働者にも同様の給付金が支給されます。

ここでも非正規労働者へのセーフティーネットの拡大という方向性が示されています。一方、本制度では、そもそも論として労働基準法第26条の休業手当支払い義務との関係が未整理のままで、緊急時の生活保障機能をどこがどれだけ担うべきなのかという本質的な問いが先送りされていると言わざるを得ません。

今回クローズアップされた問題としては、アルバイト学生への休業補償も注目されます。これは労働政策サイドではなく、教育政策サイドで「学びの継続のための『学生支援緊急給付金』」が創設されました。家庭から自立してアルバイト収入により学費等を賄っている学生等で、今回の新型コロナウイルス感染症拡大による影響で当該アルバイト収入が大幅に減少し、大学等での修学の継続が困難になっている者に、日本学生支援機構から10万〜20万円を支給するというものですが、アルバイト学生の社会的位置付けがかつてとは大きく変わってきていることを示しています。

リーマン・ショック後の2010年雇用保険法改正では、適用要件を週20時間以上かつ1カ月以上の雇用見込みと大きく拡大しましたが、昼間学生のアルバイトだけはそこから外したのです。10年前はまだ学生アルバイトを小遣い稼ぎとみる発想が強かったのですが、今やそれは時代遅れになりつつあるのです。

フリーランスへの対応

ここまではまだ、雇用労働者の中の非正規労働者への保障の拡大ですが、新型コロナウイルス緊急対策はさらにそれを超えてフリーランスなど非雇用労働者の保障も政策課題の舞台に引きずり出しました。安倍総理が3月から全国の小中高校を臨時休校としたことに伴い、厚生労働省は急きょ「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を創設したのですが、子どもを抱えて働いているのはフリーランス就業者も同じなのに、そちらが対象にならないのはおかしいではないかという議論が噴出したのです。

そこから瓢箪から駒のように、新型コロナウイルス対策という名目で、一気にフリーランス就業者のための休業補償として「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」が創設されることになりました。しかも、1日当たり4100円(定額)という金額が、雇用労働者の1日当たり8330円(上限)と比較して低すぎるのではないかという批判も起こりました(現在はそれぞれ7500円(定額)、1万5000円(上限))。

しかし、これは平時であれば極めて実現困難なものであったはずです。使用者の指揮命令下にあり、勤務時間中は労働義務を負っている雇用労働者向けの制度枠組みを、そうではないフリーランスの自営業者にどこまで応用することができるのかというそもそも論を、緊急対策ということで軽々と乗り越えてしまっているのです。

とはいえ、労働政策からのフリーランス対策はこれだけで、上記休業労働者への直接給付のフリーランス版という話はありませんし、そもそも雇用保険の失業給付の対象にはなりません。それは当たり前だと思うかも知れませんが、実は世界的には今、フリーランスへの失業給付という問題意識が高まりつつあるのです。EUでは2019年11月に、「労働者と自営業者の社会保障アクセス勧告」が成立し、自営業者にも失業給付や労災給付を行う国がかなりの数に上っています。日本でも労災保険には自営業者の特別加入という仕組みがあることを考えれば、理論的にはあり得ない話ではありません。もっとも、フリーランスの場合、そもそも休業と失業の間に明確な区分も付けがたいという問題があります。

税制上の課題

ちなみに、経済産業省所管の持続化給付金は、新型コロナウイルス感染症の影響により売上が前年同月比で50%以上減少している事業者に対し、法人は200万円、個人事業者は100万円給付するものであり、後者はフリーランス就業者に対する一種の休業手当と見ることもできます。ところが、フリーランス就業者は確定申告の際、事業所得ではなく給与所得ないし雑所得として申告することが多く、そのためにこの給付金がもらえないと問題になり、事業収入を給与所得や雑所得に計上しているフリーランスも対象に含めると梶山経産相が記者会見で述べる事態になりました。労働者性に関する判断基準が労働社会政策と租税政策で食い違っていることが、思わぬ形で露呈したと言えます。

この問題は、今回は事業者として持続化給付金の対象になるかという形で表れましたが、裏返して言えば、税務署から見て事業者ではなく労働者と判断されるような就業形態の者が、労働法や社会保障の適用上労働者ではないとされているために、雇用労働者向けのさまざまな保障から排除されていることの問題点でもあるのです。 

なお、今号にはコロナ禍に関する記事がたくさん載っていますが、常見陽平さんが(連載とは別に)「コロナ禍のテレワークの今とこれからー不自由で硬直的にならないために何が必要?」を書いています。

テレワークの功罪についてあれこれ論じる中で、最後のパラグラフで「「ジョブ型」への警戒」を露わにしています。曰く;

テレワークの導入拡大に伴って、経団連や日本経済新聞が「ジョブ型」への移行を盛んにアピールしていますが、労働組合としてはその裏の意図にも気付くべきです。そこにあるのは、仕事のモジュール化と解雇自由の世界観です。要するに、働く人を取り替え可能な部品化する懸念があります。

そもそも、経団連や日本経済新聞の言う「ジョブ型」を素直に信用してはいけません。「ジョブ型」には、働く側にジョブを選択する権利があり、今の日本のように会社が強大な人事権を握って、従業員をどこにでも異動させるようなことはできません。会社が強大な人事権を手放さないままの「ジョブ型」は、労働者の立場をますます弱くする可能性があります。

一方で、「無限定正社員」を中心とした「メンバーシップ型」雇用のままテレワークが導入されると、過度な一体感が重視された結果、労働強化になり得ることに注意が必要です。テレワークが広がる中、「仕事がモジュール化するからジョブ型になる」くらいの論理で働き方が語られることに強い違和感を覚えます。労働者の立場が弱いまま導入される「ジョブ型」に労働組合は警戒するべきです。

さらに仕事のモジュール化について言えば、そこには「一億総フリーランス化」という意図も見え隠れします。政府はこの間、「雇用によらない働き方」を促進してきました。そこにも労働組合は注意を向けるべきでしょう。

自由で柔軟な働き方の象徴として語られてきたフリーランスの働き方が、決してそうではないことが明らかになったのも、今回の教訓の一つだと思います。働く人たちの自由に働きたいというニーズと雇用の安定をどうマッチさせるのか。さらには、キャリア権をどう保障するのか。日本社会として世界にどのような働き方を示せるのかが問われています。テレワークそのものより、それを巡る日本社会の労使関係が問われていると言えるでしょう。 

これは二重三重にねじれているんですが、まず本来の「ジョブ型」は、ある意味で確かにあらかじめ定まった「ジョブ」に人をはめるという意味で「モジュール化」なんですが、その典型は(何回も言っていますが)アメリカ自動車産業のブルーカラー労働者であって、裁量労働制だの成果主義とは正反対なんですね。

ところがなぜか現在の日本で日経新聞の唱道する「ジョブ型」ってのは、そういうジョブ型の諸国のハイエンドの部分だけに着目して、(ある意味では「ジョブディスクリプション」が包括的で幅があるがゆえにそれが可能である)成果主義を取り出して、あたかもそれが「ジョブ型」なるもののすべてであるかのように宣伝する。

ただそれには理解できる面があって、日本はジョブ型諸国に比べるとはるかに広い範囲の労働者層に「査定」をするんですが、その「査定」の中身が、ジョブディスクリプションが不明確かつ不確定なため、能力考課、情意考課にならざるを得ず、それが本来業績査定すべき部分まで「いやあ、あいつは「できる」し、頑張っているし」でやっちゃうので、そこをどうにかしたいという気持ちがあるわけです。それはわかるのですが、言葉の間違った使い方を世に広めるようなやり方はやめてほしいですね。

それとはも一つ別の次元で、これはむしろ世界共通に進んでいる大きな変化として、「ジョブ」を超えた「タスク」レベルへの限りなくミクロなモジュール化という問題があり、今話題のフリーランスはむしろこちらなんですが、そこはこれまでの労働法や社会保障法ではなかなか追いついていかないところなので、世界的に議論が沸騰しかけているのです。

昨日アップした、自営業者の団体交渉権を認めよう、という話もその一環です。

 

2020年7月10日 (金)

生産性の向上には・・・適切な価格設定だ

本日の日経新聞で、「最低賃金 労使に聞く」として、日商の三村会頭と連合の神津会長が見解を述べてます。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61359800Z00C20A7EE8000/

 2020年度の最低賃金を巡る政労使の議論が本格的に始まる。第2次安倍政権のもとでは16年度から年3%ペースで引き上げが続いてきた。その流れが新型コロナウイルス禍で変わりつつある。経営者、労働組合それぞれの代表に考えを聞いた。・・・

もちろん、読まなくたって何を言っているかは全部想定通りですが、三村さんのインタビューの最後のあたりは、最低賃金引上げ反対というそのスタンスにもかかわらず、実は賃金を上げろという議論と同じ構造になっています。

Https___imgixproxyn8sjp_dsxmzo6135981009 --生産性の向上には何が必要ですか

「適切な価格設定だ。中小企業の労働生産性はバブル崩壊後に低下した。大企業に協力し、中小は納品価格を下げた。リーマンショック時も同様だった。景気が回復しても是正されていない。サプライチェーン全体で費用を分担する必要がある。」

このロジックには全面的に賛成です。生産性が低いというのは、要するに買い叩いているからだ、と。

ですが、このロジックは、主語だけを入れ替えれば、まったく同じ構造でこうもいえます。中小企業を労働者という労務提供者に、大企業を労働者が労務を納品する相手方たる経営者に置き換えれば、

--生産性の向上には何が必要ですか

「適切な労務価格設定だ。労働者の労働生産性はバブル崩壊後に低下した。経営者に協力し、労働者は労務の納品価格を下げた。リーマンショック時も同様だった。景気が回復しても是正されていない。労務のサプライチェーン全体で費用を分担する必要がある。」

ほとんどなんの違和感もないですね。

いやもちろん、大企業が中小企業を買い叩いているのに、中小企業がそこで働く労働者の納品価格だけを引き上げたら、

・・・廃業する中小企業が相当出てくる。・・・

と言いたいわけで、そこは筋は通っています。

 

 

 

 

 

 

自営業者の団体交渉権─EUとOECDの試み@JILPTリサーチアイ

JILPTのホームページのコラム「リサーチアイ」に、「自営業者の団体交渉権─EUとOECDの試み」を書きました。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/040_200710.html

 近年デジタル化の進展の中で、これまでの労働者性判断基準では労働者とは言い難いが、その実態は限りなく雇用労働者に近いいわゆる雇用類似の働き方が増大しつつある。クラウドワークとかプラットフォームワークと言われるそうした働き方の者については、労働者保護法や社会保障法の関係でどのような保護を与えるべきかについて、日本も含めた世界各国で熱心に議論が行われている。ところが、労働法の一つの柱である集団的労使関係システムについては、これをうかつに使うと競争法違反と非難される可能性が常にある。労働者なら団結として保護されるものが、自営業者なら談合として指弾されるという状況下で、この問題にどう取り組むべきかという大問題があるのだ。
 残念ながら日本ではこの問題に対する問題意識が低く、雇用類似の働き方に対する政府の対策としても、独占禁止法の優越的地位の濫用を用いようという動きが優勢である。もちろん、使えるものは使うという発想が悪いわけではないが、自営業者の保護に下手に独占禁止法を使うと、その独占禁止法が同時に自営業者の団結(談合)を厳しく禁止していることとの整合性が取りにくくなる恐れがあろう。国家権力が上から保護するのはいいけれども、自分たちで団結して守るのはけしからんというのでは、健全な社会システムの構築につながるまい。・・・・
 

2020年7月 9日 (木)

『OECD雇用見通し2020』

Oecd2020 『OECD雇用見通し2020』が発表されました。このご時世ですから、当然特集はコロナ危機ですが、

http://oecd.org/employment-outlook

http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/urgent-action-needed-to-stop-jobs-crisis-becoming-a-social-crisis-says-oecd-japanese-version.htm

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、2008年の金融危機より深刻な雇用危機が引き起こされています。
OECD諸国の失業率は、2020年4月に3.0ポイント上昇して過去10年で最高の8.5%に達しましたが、5月には8.4%へとわずかに下落しました。2020年2月の失業率はわずか5.2%でした。OECD諸国全体の失業者数は、5月は5450百万人に達しました。4月から5月にかけて変動が乏しいため、対照的な傾向となっています。一方で、アメリカでは、経済が再開しはじめ、一時解雇された多くの労働者が仕事に復帰した人々もいれば、一時解雇が永続的な解雇になってしまった人々もいます。他方で、多くの国々では失業率が上昇、またはリスクが固定化しています。 

新規の公的支援は規模と範囲の双方で過去最大ですが、特に、雇用主が雇用者の労働時間を短縮し働かなかった時間について資金援助を受けるという雇用保護制度を拡大するという方法が採られています。データが入手可能なOECD諸国では、合計労働時間は、現在の危機の最初の3か月間には2008年の世界金融危機の時最初の3か月よりも10倍も速いスピードで減少しています。 

低所得の人々が最も高いコストを支払わされています。ロックダウンの最中、所得が最も高い労働者は、平均で低所得の労働者より在宅勤務ができる可能性が50%高くなっていました。それと同時に、低所得労働者は高所得労働者より仕事が完全になくなる可能性が2倍高くなっていました。
女性の方が、危機の影響を最も受けている産業部門で不安定な仕事に就いている人の割合が不当に高いため、男性より大きな打撃を受けています。自営業者と臨時雇用またはパートタイム労働者は、特に雇用喪失と所得喪失の危機にさらされています。また、学校または大学を中退した若者も就職が難しく、潜在的所得に長期的な損害を受けるリスクを抱えています。 

さて、ここでもいわれている日本の雇用調整助成金類似の雇用維持スキームについて、各国の動向が書かれているんですが、見ていくと、36頁の「Job retention schemes are cushioning the impact on open unemployment in a number of OECD countries」(雇用維持スキームが多くのOECD諸国の公然たる失業のインパクトのクッションになっている)という項に、図1.8として「Participation in job retention schemes has been massive in some countries」(雇用維持スキームへの参加はいくつかの国で目立つ)が載っているんですが、

Oecd2020job

あれ?肝心の日本がないぞ。

雇用維持といえば日本だと、少なくとも日本の知識人諸氏は思ってきましたが、その日本のデータが載ってません。なんなんでしょ、このジャパン・パッシングは。

いやもちろん、その後ろの方の記述部分には、ドイツ等々と並んで日本のことも書かれているんですがね。

 

 

 

 

 

 

骨太方針の原案

昨日の経済財政諮問会議に、いわゆる骨太方針、経済財政運営と改革の基本方針2020の原案が出されたようです。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/agenda.html

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/shiryo_02.pdf

もちろん、いろんなことが書いてありますが、本ブログの関心は働き方にかかわるところです。

17ページの「①働き方改革」のところを見ると、

(3)新しい働き方・暮らし方
① 働き方改革
 働き方改革関連法29の着実な施行に取り組むとともに、感染症への対応として広まったテレワークがもたらした、新たな働き方やワーク・ライフ・バランスの取組の流れを後戻りさせることなく最大限活かし、従業員のやりがいを高めるためのフェーズⅡの働き方改革に向けて取組を加速させる。労働時間の管理方法のルール整備を通じた兼業・副業の促進など複線的な働き方や、育児や介護など一人一人の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を労働者が自由に選択できるような環境を整備し、RPAの活用を含む更なる生産性向上に向けた好循環を作り出す。あわせて、不本意非正規雇用の解消を図る。
 テレワークの定着・加速を図るため、新たなKPIを策定するとともに、中小企業への導入に向けて、専家による無料相談対応や全国的な導入支援体制の構築など各種支援策を推進する。さらに、事業場外みなし労働時間制度の適用要件に関する通知内容の明確化や関係ガイドラインの見直しなど、実態を踏まえた就業ルールの整備に取り組む
 テレワークの浸透に伴い、個人の職務の内容や責任の更なる明確化が求められている現下の状況を、業務等の遂行に必要な知識や能力を有するジョブ型正社員の更なる普及・促進に向けた格好の機会と捉え、必要な雇用ルールの明確化や各種支援に取り組む
 こうした中で、労働者が職務の範囲内で裁量的・自律的に業務を遂行でき、企業側においても、こうした働き方に即した、成果型の弾力的な労働時間管理や処遇ができるよう、裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う
  政府として一体的にフリーランスの適正な拡大を図るため、保護ルールの整備を行う。 

労働法制にかかわる部分を太字にしましたが、このうち今回のコロナ禍で注目され、(もちろん数年前から政策課題に上がっていたとはいえ)特に今回問題意識が盛り上がってきているのは、テレワークの関係での事業場外勤務ガイドラインの見直しと、フリーランスの保護ルールの整備でしょう。

このうちフリーランスについては、去る7月3日の未来投資会議に出された成長戦略実行計画案でも、かなり詳細な記述がされています。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai40/index.html

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai40/siryou1-1.pdf

2.フリーランスの環境整備
フリーランスについては、内閣官房において、関係省庁と連携し、本年2月から3月にかけて、一元的に実態を把握するための調査を実施した。その上で、当該調査結果に基づき、全世代型社会保障検討会議において、政策の方向性について検討し、以下の結論を得た。
フリーランスは、多様な働き方の拡大、ギグエコノミーの拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などの観点からも、その適正な拡大が不可欠である。
さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、フリーランスとして働く人に大きな影響が生じており、発注のキャンセル等が発生する中、契約書面が交付されていないため、仕事がキャンセルになったことを証明できない、といった声もある。
こうした状況も踏まえ、政府として一体的に、フリーランスの適正な拡大を図るため、以下の保護ルールの整備を行う。 

と、その後に書かれているのは主として公正取引委員会所管の独占禁止法による優越的地位の濫用を用いた保護なんですが、これは本ブログで何回か書いているように、独占禁止法、あるいは広く競争法は、フリーランスの団結に対して否定的に働く可能性が高く、フリーランス保護をそっちでばかりやるのはかなり問題があります。むしろ、最近はOECDあたりが先頭に立って、自営業者の団体交渉権を認めようというキャンペーンを張り出している状況なので、そういう方面の動きもきちんと追いかけておかないと、あらぬ方向にいきかねません。

それがしばらく続いた後に、やや唐突にこういう一節が出てきます。

(現行法上「雇用」に該当する場合)
フリーランスとして業務を行っていても、(a)実質的に発注事業者の指揮監督下で仕事に従事しているか、(b)報酬の労務対償性があるか、(c)機械、器具の負担関係や報酬の額の観点から見て事業者性がないか、(d)専属性があるか、などを総合的に勘案して、現行法上「雇用」に該当する場合には、契約形態にかかわらず、独占禁止法等に加え、労働関係法令が適用されることを明確化する。 

これは例の1985年の労働基準法研究会の労働者性判断基準ですが、判断要素自体はそういうことなんですが、もう少し現場で使いやすいように操作性の高いものにしていかないと、そもそもそれが「現行法上「雇用」に該当する場合」に該当するかどうかで頭を悩ますことになってしまいます。裁判所に行かないとわからないのでは(弁護士以外には)使い物にならないので、ここは検討が必要なところでしょう。

なおそのさらに後に、先日労政審労災保険部会で審議が始まった労災保険の特別加入のことも書かれています。

 (4)労働者災害補償保険等の更なる活用
フリーランスとして働く人の保護のため、労働者災害補償保険の更なる活用を図るための特別加入制度(※)の対象拡大等について検討する。また、フリーランスとして働く人も加入できる共済制度(小規模企業共済等)の更なる活用促進を図る。
併せて、フリーランスとして働く人のリモートワーク環境の整備を支援する。

 

 

 

2020年7月 7日 (火)

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の申請書

例の休業手当をもらえない労働者向けの直接給付の申請書等がようやく厚生労働省のHPにアップされました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html

労働者申請用の書類を見ると、

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000646843.pdf

労働者記入欄のほかに事業主記入欄というのもあって、

 労働者記入欄■1 の期間の休業に対し、一部でも休業手当を支払っていませんか。または支払う予定はありませんか。

というのに対して「支払っていない」にチェックを入れないといけなんですね。

事業主がこれを書き込んでくれない場合は、

●「事業主の協力を得られない」旨
●その背景となる事情(倒産、事業主と連絡がとれない等)
を記入して提出してください。
※その場合、拠点等の所在地を管轄する労働局より法律に基づき、当該事業所に連絡します。通常の審査よりお時間を要しますのでご了承ください。

とのことです。

 

2020年7月 6日 (月)

『新規開業白書2020年版』

Syuppan200706a-1 日本政策金融公庫から『新規開業白書2020年版』が刊行されました。


https://www.jfc.go.jp/n/findings/toshoj.html



総合研究所では、国民生活金融公庫総合研究所の時代から、新規開業実態調査に長年取り組んでおり、1992年度から『白書』としてその調査結果を毎年公表してきました。今回の白書では、2019年度に実施した調査の結果をもとに、多様化する新規開業者の働き方や意識に焦点を当てています。 



わたくしの「雇用類似の働き方に関する現状と課題」も収録されています。

緊急コラム「第2ステージに入った欧州各国の雇用対策」@天瀬光二

Amase_k_20200706162401 JILPTの新型コロナ緊急コラムの最新作に、天瀬光二さんの「第2ステージに入った欧州各国の雇用対策」がアップされました。イギリス、フランス、ドイツといった欧州主要国における雇用維持スキームの動向を詳しく解説しています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/017.html

新型コロナウイルス感染拡大により停止されていた経済活動を再開させる動きが各国で活発化している。世界は、緊急事態下の感染拡大阻止を最優先した第1ステージから、コロナの感染リスクと経済活動が共存する第2ステージに入ったように思われる。各国は、第1ステージにおいてとった政策をどのように修正して対応していこうとしているのだろうか。各国における最近の動きを紹介する。・・・・

 

 

2020年7月 5日 (日)

労働基準監督官も命がけ

全労働省労働組合の『季刊労働行政研究』45号が送られてきました。全文がPDFファイルでここにアップされています。

http://www.zenrodo.com/katsudo_event/images/no.45kantoku.pdf

特集は「過重労働の解消に向けた効果的な行政手法と法整備」で、政策的なことも書かれているんですが、やはり興味をそそられたのは、実際に臨検監督している監督官たちがこんな目に遭っているんだよというところです。「過重労働の解消に向けた効果的な行政手法と法整備」という項に出てくるんですが、まあ、事業主にとってあまり歓迎されざるお客様であるためでしょうか、かなり手荒なおもてなしを受けている実態もあるようです。

Zenroudou

・ガラスの灰皿(推定2kg以上)を机上に投げつけられ、椅子を
 頭上まで振り上げられた。
・胸や首などを平手打ちされた。
・水をかけられ、体当たりされた。
・「家を燃やすぞ」と脅された。
・包丁を持ちだされた。
・日本刀を抜かれ、威圧された。
・「海に沈める」と脅された。
・水をかけられた。
・対応中に「ぶっ殺す」と言われた。
・監禁され、「無事に帰れると思うなよ」と脅された。
・「監督署にガソリンをまく」と脅された。
・「夜道に気をつけたほうがいい」と脅された。
・工具を手に追いかけられ、殴られそうになった。
・スマホを没収され半監禁された。
・ストーブで是正勧告書を燃やされ、大きな不安を感じた。
・「探偵を雇って自宅を探してやる」「家族がいるだろう」などと脅
 された。
・ヘルメットの上からハンマーで殴られた。

ここでは複数監督を原則とせよ主張するとともに、抜き打ち監督の是非について両論併記的に書かれていますが、なかなか難しいところですね。

2020年7月 4日 (土)

脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント』

Eb5zq2avcaazoki 脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』(学習の友社)をお送りいただきました。

「Disguised Employment」とは偽装雇用。実態は雇用労働者なのに個人請負の自営業者であると偽装(disguise)している、というより、させられている人々のことです。

本書は、労働法学者の脇田さんの編著となっていますが、分量的に大部分はそうした個人請負という形で働いている人々の団体の活動家による実態報告集で、最後に脇田さんによる解説がついているという構成です。

ただ、ここに並んでいるさまざまな実態を、ひとしなみに「ディスガイズド・エンプロイメント」といえるかは疑問な面もあります。

おそらくこれらのうち、実態が雇用労働者とほとんど変わらず、まさにディスガイズというべきものとしては、丸八の営業社員や、スーパーホテルの支配人、美容師・理容師といった人々の例でしょう。

他方、すでに中小企業協同組合法による協同組合を作っている日本俳優連合などの場合、労働法上の労働者として認めろというよりは、フリーランスとしての性格を維持しつつ、特殊な雇用類似の働き方として、労働法のある部分を準用するような仕組みを求めているのでしょう。

さらに、最後の楽天ユニオンになると、プラットフォームの職業的ユーザーの保護という、今日世界的に大きな政策課題となっている問題の焦点であり、ディスガイズというよりも新たな次元の保護が必要という話になります。

その中間に、労働組合を作って交渉する権利を確立しようとする人々がいて、冒頭に出てくるウーバーイーツユニオンをはじめとして、団結して自分たちの権利を守るべき集団としての性格を持った人々です。

また、今回のコロナで露呈した問題として税法上の労働者概念(給与所得)と労働法・社会保障法上の労働者概念のずれがありますが(下記エントリ参照)、ヤマハ英語講師ユニオンでもこの問題が取り上げられています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-8b6d89.html(税法上の労働者性と事業者性)

今回の本はどちらかというとわりと新たなタイプの個人請負就業を取り上げています。実は現在でも労働基準監督署の窓口にやってくる労働者性事案の大部分は建設業の一人親方とか傭車運転手といった伝統的なタイプであり、今話題の夜の街の濃厚接触系のお店のホステスなんてのも多いんですが、そういう曖昧な働き方が広い分野にどんどん広がってきていることが、本書から窺われます。

本書の記述の中で注意を引いたのが、日本俳優連合の森崎めぐみさんの記述の最後のところで、2019年5月コペンハーゲンで、FIM国際音楽家連盟による初の国際フリーランス会議が催され、そこで「政府と雇用主は、フリーランスの音楽家に競争法(日本の独禁法に当たる)を適用しないことを明白にしなければならない」と声明したという部分です。

つい3日前に、EUの動きとしてこういうのを紹介したのですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-f154a7.html(EUは自営業者の団体交渉を容認するのか?)

EUでは、こういうフリーランスの団体による運動があって、遂に今回欧州委員会競争総局が動き出したのでしょうね。

2020年7月 3日 (金)

森戸英幸/小西康之『労働法トークライブ』

L24338 森戸英幸/小西康之『労働法トークライブ』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243385

日本の雇用社会,日本の労働法は,この先どうなっていくのでしょうか? 10のトピック・ケースについて,著者ふたりが真剣に(ときに面白く?)トークを繰り広げながら考えます。学生の皆さんも社会人の皆さんも,参加して一緒に考えてみませんか。

例によって森戸テイスト満載の表紙に、生のトークライブっぽい雰囲気の前説と、おちゃらけてる感が噴出してますが、中身は意外にまとも、というか(時々怒られることを気にしているらしい)菅野先生の本流から踏み外さないオーソドックスな労働法の議論が展開されています。セトリは次の通りですが、

01 採用の自由──あなたが欲しい
02 労働者性──基準はアンビバレント
03 性差別──just the way y’all are
04 障害者雇用──誰も皆ハンデを抱えている
05 高齢者雇用──私がジジババになっても
06 ハラスメント──「嫌なものは嫌!」と
07 過労死──はたらきつかれたね
08 解雇──リストラは突然に
09 正規・非正規の格差──このやるせないモヤモヤを
10 副業・兼業──もしもバイトができたなら 

この点、菅野理論をどんどん踏み出して/踏み越えて/踏み外して「思えば遠くへきたもんだ♫」という感の漂う大内さんとか水町さんとは対照的です。

さて、各章末にはSpecial Guestというコーナーがあるのですが、第1章の採用の自由では、いかにも日本的大企業の人事の人のいいそうなことを喋っているし、第2章の労働者性に至っては「元アイドルBさん」という人が出てきて、これって作っているんじゃないかと思ってしまいましたが、そのあとは福島大学の長谷川珠子さんとか清家前塾長とか、今津弁護士とか出てきて、あ!これ実在だったんだ!と。

でもね、「元アイドルBさん」という字面を見たら、思わず例の元アイドル(グループB)事件を思い出してしまいましたがな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/2877-864d.html(元アイドルほか(グループB)事件(東京地判平成28年7月7日))

・・・まあ、この事件自体、小学5年生の女の子にアイドルとして集団による歌唱・ダンスを中心としたライブ活動のほか、○○券を購入したファンとの交流活動(お散歩、コスプレ、プリクラ、ビンタ等)をやらせるといういささかいかがわしげな商売なんですが、それはともかく、労判の席上で渡辺章先生から思いがけない指摘を受けました。

・・・・ふむ、小学校5年生の女の子がアイドルグループとして歌ったり踊ったりすること自体が13歳未満の児童に認められる「映画の製作又は演劇の事業」には当てはまらず、労働基準法の事業分類ではそれと同類ではあるけれども、13歳未満の児童の労働が許されないその他の「興行の事業」なんじゃないか、という指摘です。・・・

・・・こういうアイドルの肉体そのものへの接近接触それ自体を営利の資源とするビジネスモデルというのは、いうまでもなく秋元康氏が作り上げたものですが、やはりその根底にいかがわしさが否定できないように思います。

ということで、あとはPOSSEのアイドル部長坂倉さんにバトンを渡した方がいいようです。

このケース、報告はしたものの、さすがにジュリストには載せなかったのですが、この渡辺先生の指摘はどこかで書いておいた方が良かったかなと思ったりもします。

 

 

と、芸能ネタで受けてみたんですが、これで良かったでしょうか?→三宅亜紗美@有斐閣さま

 

 

 


2020年7月 1日 (水)

EUは自営業者の団体交渉を容認するのか?

久しぶりに、EU労働法にかかわるすごく大事なトピックです。正確に言うと、EU労働法そのものというよりはEU競争法の適用、より正確に言うと適用除外にかかわる問題です。

いうまでもなく、労働者は団結権、団体交渉権を有し、労働組合はカルテルではないし、労働協約は不当な価格協定ではありませんが、それは労働者だと認められる限りであって、もし自営業者であればその団結は不当な談合とみなされます。

ところが、近年の情報通信技術の発達の中で、契約上は自営業者だがその実質は労働者のような就業者が増えているという話は繰り返されていますが、これが競争法当局に飛び火して、昨日(6月30日)、欧州委員会の競争当局が、そこんところを見直すプロセスを開始するというプレスリリースを出しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1237(Competition: The European Commission launches a process to address the issue of collective bargaining for the self-employed)

競争:欧州委員会は自営業者の団体交渉問題を扱うプロセスを開始する

 The European Commission is launching today a process to ensure that the EU competition rules do not stand in the way of collective bargaining for those who need it. The initiative seeks to ensure that working conditions can be improved through collective agreements not only for employees, but also for those self-employed who need protection.

欧州委員会は今日、団体交渉を必要とする人々にEU競争法が立ちふさがることのないように確保するプロセスを開始する。このイニシアティブは労働協約を通じた労働条件の改善が、被用者だけではなく、保護を必要とする自営業者にも確保されることを追求する。

というわけで、近年日本でも雇用類似の働き方という名称で議論されるようになってきた問題の、集団的労使関係システムというもう一つの問題領域が、EUでは正面から政策課題に上ってきたようです。

この問題、日本では周知のように、労基法上の労働者性よりも労組法上の労働者性の方が広いんだという、労働組合法解釈の問題として、一定の(あくまで一定のですが)解決が図られていますが、EU労組法というものを持たない(正確に言えば禁じられている)EUでは、これを競争法の解釈問題として解決を図らなければいけないのですね。

この問題をEU司法裁判所の判決を契機に論じた小論として、今から5年前に『労基旬報』に寄稿したものがあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/post-b4a9.html(EU法における労組法上の労働者性)

 日本では過去数年間、労組法上の労働者性の議論が沸騰し、2011年の最高裁判決で一応の決着がついた後もなお議論が続いています。しかし、そこで議論の素材となっているのはほとんどもっぱら不当労働行為事件であり、団体交渉の要求を正当な理由なく拒否する事業主に対して、団体交渉に応じよと命令することが出来るか否かというレベルの話に過ぎません。しかし、団体交渉拒否の不当労働行為制度を有している国は先進国でも少なく、そういう問題設定は多くの先進諸国では共有されているわけではありません。
 これに対し、契約上は自営業者である人々が労働組合を結成して団体交渉を要求したり、労働協約を締結したり、労働争議を実施することは、日本では独占禁止法に当たる競争法の領域ではまさに違法性が問われる問題であり、労組法上の労働者性が議論されるとしたら、それこそが議論の焦点になるべき問題です。日本ではあまり議論にならないこの問題について、EU法の領域では昨年12月に、興味深いEU司法裁判所の判決が出されています。
 オランダの情報メディア労連(FNV)は、雇用労働者だけでなくいわゆるフリーランスの独立サービス提供者も加盟しており、雇用労働者の賃金だけではなくフリーランサーの報酬(フィー)も労働協約で決めていました。これは、オランダ法の下では全く合法的です。というのは、オランダの労働協約法第1条は、
1 「労働協約」とは一又はそれ以上の使用者若しくは法人格を有する一又はそれ以上の使用者団体と、法人格を有する一又はそれ以上の労働者団体によって、主としてまたはもっぱら雇用契約において尊重されるべき雇用の条件を規定する協約を意味する。
2 労働協約は、特定役務の遂行の契約又は専門職業サービスの契約にも関わることが出来る。この場合、労働協約、使用者及び労働者に係る本法の規定は準用する。
と規定しています。雇用労働者でなくても団体交渉して労働協約で報酬を決めることができるのです。ところが一方、オランダにも競争法があり、その第6条第1項は、
 オランダ市場における競争の防止、制限又は歪みを目的とし又は結果とするような企業間の協定、企業の団体の決定及び企業間の共同行為は、禁止される。
とする一方、第16条は
 第6条第1項は、(a)労働協約法第1条1項の労働協約には適用しない。
とも規定しています。これだけを頭に置いてください。
 さて、FNVとオランダ音楽家ユニオンはオランダオーケストラ協会との間で労働協約を締結しましたが、それは雇われ楽団員だけでなく自営音楽家の最低報酬も決めていました。そこで登場したのがオランダ競争当局で、自営業者の労働協約は適用除外にならないという見解を示したのです。これを受けてオーケストラ協会は従前の協約を終了させ、自営業者については新たな協約の締結を拒否しました。カルテルだと摘発されてはたまりませんからね。これに怒ったFNVは裁判所に訴え、これがEU司法裁判所に持ち込まれたのです。というのも、オランダであれどこの国であれ、競争法はEU運営条約第101条第1項に明記されたEUの大原則で、競争制限的行為が合法か違法かはすべて最終的にはEUレベルで判断されることになっているからです。
 この事件(C-413/13)の判決は2014年12月4日に下されました。判決はまず、労働者の雇用・労働条件を改善するための労働協約がその性質上条約第101条第1項の適用対象とならないことを確認した上で、しかしながら、たとえ雇用労働者と全く同じ労務(本件でいえば楽器の演奏)を提供しているのであっても、サービス提供者は原則として同条同項にいうところの「企業」にあたると判示しました。労働者を代表する団体がその会員である自営業者のためにその名で交渉しているとしても、それは労働組合としての行為ではなく、企業の団体としての行為に当たるというのです。従って、本件労働協約は条約第101条第1項の適用を除外することは出来ない、というのが結論です。
 ただし、とここでEU司法裁は例外的な状況を示します。もしその自営業者が実際には偽装自営業者であるなら、話は別だと。そして、国内法で「自営業者」と分類されている者であっても、その者の独立性が名目的で、雇用関係を隠して偽装しているのであれば、EU法の適用において労働者と分類することを妨げるものではないと述べます。税制や行政上のために国内法で自営業者とされていても、その者が時間や空間、仕事内容の選択の自由において使用者の指揮命令下にあり、企業活動の不可欠な一部を為しているのであれば、EU法上の労働者としての地位に変わりはないのです。というわけで、EU司法裁はこの「自営音楽家」の労働者性を確認せよと、オランダの裁判所に事案を返しました。
 EU司法裁は条約や指令の解釈を明らかにするところであって、事実審ではないので、かれらオランダの自営音楽家たちの労働者性自体は本判決ではそれ以上議論されていません。しかし、オランダの労働協約法が「準用」されていた自営業者が、それだけでは、つまり偽装自営業者でない限りは、競争法の対象となることから逃れることが出来ないことを明らかにしたという意味で、本判決はかなり重要な意味を有するように思われます。
 日本では現在までのところ、労組法上の労働者性が問題となるのはもっぱら不当労働行為に関わる事案ばかりですが、日本ももちろん独占禁止法という立派な競争法を持ち、公正取引委員会という立派な競争当局を有しているのですから、いずれこうした問題が持ち上がってくることは避けられないのではないでしょうか。そのためにも、今のうちからこうした労働法と競争法の交錯に関わる領域をきちんと検討しておく必要があるように思われます。 

 

 

 

 

リサーチアイ「フルタイム労働を襲ったコロナショック」

Takami_t_20200701163801 引き続き、JILPTの高見具広さんがコロナにかかわってリサーチアイ「フルタイム労働を襲ったコロナショック─時短、在宅勤務と格差」をアップしています。これは先月JILPTが発表した個人調査の結果をもとに、労働時間への影響と在宅勤務における格差が拡大再生産されている姿を浮き彫りにしています。

https://www.jil.go.jp/researcheye/bn/039_200701.html

これはもうぜひリンク先の分析をじっくりと読んでその分析の切れ味を味わってほしいところですが、最後の方の一節だけ、引用しておきますと:

・・・・整理した表1をみると、高所得層ほど、在宅勤務への早期移行がなされ[注13]、労働時間変動が少なく、収入を維持していることがうかがえる。高所得層ほど、働く場所を柔軟に移行できたこともあって、働く時間の変動を最小限に抑え、収入低下も防いだという構図が見えてくる[注14]。逆に、低所得層ほど、コロナ禍の影響を強く受け、労働条件が変動(労働時間減少、収入低下)したと言うことができる。
もともとの所得階層が高いほど労働条件を維持することができ、所得階層が低いほど維持できない。極端に言うと、働く時間・場所の変動を媒介として「格差が再生産された」局面だったようにも読める。

おわりに

暴風が吹き荒れる中、それに対処する資源には厳然たる階層格差があり、それが格差増幅にも直につながりうるという、危機の時代がもつ恐ろしさを見せつける調査データである。労働政策のみならず、広く社会政策のあり方を考える際に顧みなければならない事実を提示している。 

 

緊急コラム「正規・非正規雇用とコロナショック」@高橋康二

Takahashi_k2020_20200701162401 JILPTのコロナ緊急コラム、続々とアップされています。昨日の中井雅之さんに続いて、今日は高橋康二さんがやはり労働力調査のデータを使って、正規、非正規という雇用形態別にどのようなインパクトを与えたのかを分析しています。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/016.html

最後近くのまとめのパラグラフだけ引用しますが、この記述のもとになる分析を、ぜひリンク先に跳んでみてください。

・・・・まとめると、次のようになる。第1に、非正規雇用について言うならば、コロナ禍の比較的早い時期に労働時間調整、人数調整がなされ、5月調査の時点では調整が一巡していたと見ることもできる。第2に、他方で、正規雇用については、5月調査においてようやく前年同月差の就業者数の減少が確認されたが、実数ベースでの減少幅は(4~5月にかけて)29万人と比較的小さく、大半の正規雇用者の雇用は守られていると言える。第3に、しかし、完全失業率の動向やその内訳の変化から推論するに、コロナショックの正規雇用への影響が少し遅れてやってきている可能性はある。第4に、それに加えて、5月調査の時点ではすでに緊急事態宣言が全国から解除されていたことを踏まえるならば、この時期における正規雇用者数の減少には、企業が雇用負担に持ちこたえられなくなったという側面だけでなく、業界・企業が「アフターコロナ」ないし「ポストコロナ」的な経営・営業体制に移行する中で生じているという側面もなくはないだろう。 

 

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