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2020年6月18日 (木)

テレワークの推進が問い直すもの@『労基旬報』2020年6月25日号

『労基旬報』2020年6月25日号に「テレワークの推進が問い直すもの」を寄稿しました。

 2020年初めから世界的に急速に蔓延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で、同年2月末に政府がテレワークや時差出勤の推進を打ち出したことを受けて、同年3月にはテレワークを導入した中小企業事業主に対する特例的な時間外労働等改善助成金(テレワークコース)が設けられました。新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主に対し、テレワーク用通信機器の導入・運用等にかかる費用の1/2を補助するというものです。
 実は、テレワークの推進は既に過去何年にもわたって政府の政策課題であり続けてきました。とりわけ、2017年3月の『働き方改革実行計画』においては、「テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる」と賞賛したうえで、テレワークの利用者がいまだ極めて少なく、その普及を図っていくべきと述べています。これを受けて、厚生労働省は柔軟な働き方に関する検討会を開催し、その報告書に基づいて2018年2月に新たな「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を公表しました。しかしながら、日本企業における仕事の進め方のスタイルが、空間を共有して仲間意識を強める中で、必ずしも文字化されない様々な情報を共有する形でスムーズに行われるという傾向が強いこともあり、テレワークはなかなか普及していません。
 そのような状況の中に、突然飛び込んできたのが今回の新型コロナ感染症です。2020年2月末に新型コロナウイルス感染症対策本部で決定された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」では、「患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対して発熱等の風邪症状が見られる職員等への休暇取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける」とされ、加藤厚生労働大臣、梶山経済産業大臣、赤羽国土交通大臣が、日本経済団体連合会(中西会長)、日本商工会議所(三村会頭)、経済同友会(櫻田代表幹事)、日本労働組合総連合会(神津会長)に、感染拡大防止に向けた協力要請をした中に、「テレワークや時差通勤の活用推進」が盛り込まれました。
 しかしながら、4月初めに厚生労働省がLINEを通じて行った調査によると、仕事をテレワークにしているのはわずか5.6%に過ぎず、新型コロナウイルス感染症がやってきたからと言って、そう簡単にテレワークを導入できるような状況にはないという日本の職場の実態が改めて示されました。その雇用システム的背景は上述の通りですが、それとともに事業場外勤務に対する労働時間法制の適用の在り方をめぐる問題がテレワークの導入に対する制約になっている面もあるかもしれません。そこで、近年の動きをざっと概観しておきましょう。
 労働基準法には主として外勤の営業職を念頭に事業場外労働のみなし労働時間制が規定されていますが、1987年に出された解釈通達では無線やポケットベル等で随時使用者の指示を受けながら労働している場合にはみなし制の適用はないとしています。携帯電話もいわんやスマートフォンも存在しなかった時代の情報通信環境を前提にしたこの解釈が今日も生き続けているのです。
 上述の2018年2月の事業場外勤務ガイドラインでは、テレワークだからみなし制が適用できるわけではなく、情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと等の要件を充たす必要があります。それゆえテレワークでも原則は通常の労働時間制度を適用することとなり、そのうえで例えば中抜け時間を休憩時間として取り扱うとか時間単位の年休として取り扱うといった方法が提示されていますが、長時間労働の是正という問題意識が大きく横たわっている状況下で作られたということは踏まえても、やや過剰規制のきらいはぬぐえません。
 今回は新型コロナウイルス感染症によって急激に問題意識が持ち上がったわけですが、過去十数年にわたる情報通信技術の発展によって、今や世界的に「いつでもどこでも働ける」状況が広がりつつあります。その中で、産業革命時代の労働者が工場に集中して一斉に労働するというスタイルを前提にした労働時間法制の在り方について再検討する必要性が各方面から提起されてきています。今後はむしろ、裁量労働制の見直しとも絡みますが、業務の遂行手段と時間配分の決定等について使用者がいちいち指示しないことに着目する形で、テレワークに対する労働時間規制の在り方を見直していく必要があるように思われます。今回の新型コロナウイルス感染症によってどこまでテレワークが拡大するかはまだ不明ですが、今回初めてテレワークを実践することによってさまざまな問題点が指摘され、その法制の在り方が見直されていくきっかけになれば望ましいと思われます。 

 

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