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2020年6月13日 (土)

浅口市事件評釈@東大労判

御多分に漏れず、東大の労働判例研究会もリモート開催となっていますが、昨日は私の番が回ってきて、浅口市事件(岡山地倉敷支判平成30年10月31日)(判例時報2419号65頁)を評釈しました。

労働判例研究会                             2020/6/12                                    
市との労務参加契約の雇用契約該当性
浅口市事件(岡山地倉敷支判平成30年10月31日)
(判例時報2419号65頁)
 
Ⅰ 事実
1 当事者
X1:Yとの間の労務参加契約に基づき樹木伐採作業に従事していた者。
X2:X1の妻。
X3:X1の子。
Y(浅口市):地方公共団体。
A(補助参加人):X1と同じく労務参加契約に基づき樹木伐採作業に従事していた者。
 
2 事案の経過
・Y(合併前のZ町も含む)は公園整備事業にあたり、地元地区の意向を受けて地元地区が推薦した作業員に伐採等作業を依頼しており、平成23年度から作業者と労務参加契約を締結するようになった。
・X1はYとの間の労務参加契約に基づき樹木伐採作業に従事していた。労務参加契約には、参加期間、作業場所、作業時間、作業内容、対価(1日当たり6,550円)等が規定されていた。
・平成25年1月25日、X1と同じく労務参加契約に基づき樹木伐採作業に従事していたAが伐採した伐木がX1に衝突し、X1は頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫等の傷害を受け、高次脳機能障害、左下肢の運動障害及び顔面の醜状痕等の重度の後遺障害を負った。
・笠岡労働基準監督署長は、平成27年2月27日付で労災認定した。
 
Ⅱ 判旨
1 本件労務参加契約の法的性質
「本件労務参加契約は、第3条で作業時間が定められ、第5条において1日当たりの対価が定められており、報酬が出来高ではなく、時間に対する対価とされている。また、労務参加期間も1年間とある程度長期とわたっている(1条)。」
「本件労務参加契約においては、Yは、作業実施日や作業時間の変更を指示、連絡するものとされており(1条、3条2項)、作業員は、天候が作業に適さない場合、変更することはできたと解されるものの、基本的には、作業場所や作業時間の拘束性の程度はそれなりに高かったと考えられる。その関係からすると、作業員が業務を自由に断ることができたとも考え難いところである。」
「P2主任やP3管理人は、逐一細かい指示は行わないものの、作業は、P3管理人が作成した年間スケジュールに沿って行わなければならず、適宜、P3管理人から作業場所や作業内容の指示もなされており、作業員は、これに従った作業に従事することが義務づけられていたものと考えられる。そうすると、作業員は、基本的には、P3管理人の指揮命令を受けて作業していたと評価して差し支えない。」
「X1は、自己が所有するチェーンソーを使用しているものの、原則的には作業に必要な道具は、Yが用意するものとされていること、公園作業請求書の体裁からすると、本件労務参加契約は、作業員自らが作業することが想定されており、作業員が業務を再委託すること等が想定されているとは解されないことなどの事情を総合すると、本件労務参加契約の法的性質は、請負契約ではなく、雇用契約と解するのが相当である。」
2 Yの安全配慮義務違反
「本件労務参加契約の法的性質は、雇用契約なのであるから、Yは、本件労務参加契約の付随的義務として、信義則上安全配慮義務を負うものというべきである。」
「Yは作業員全員についてヘルメットや呼子などを用意しておらず、そのため、ヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化していることを容易に認識し得たにもかかわらず、なんら必要な指示、指導を行っていないというのであるから、Yには安全配慮義務違反があったと評価せざるを得ない。」
3 使用者責任の成否
「本件労務参加契約は雇用契約なのであるから、AとYとの間には、実質的な指揮監督関係があり、Yは、民法715条1項の「他人を使用する者」に該当する。」
「Yは、使用者責任に基づく損害賠償責任を免れない。」
4 過失相殺の成否
「過失相殺に関するYの主張は採用することができない。」
5 損害額(省略)
 
Ⅲ 評釈
1 労基法上の労働者性
 本件は、労災に関わって労基法上の労働者性が問題となった事案であり、その観点からは特段興味深い点はない。本件判決の判断は、1985年労働基準法研究会報告の示した判断基準に従い、仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所や勤務時間の拘束性の有無、代替性の有無、報酬の労務対償性等の判断要素について判断し、さらに補強要素として機械器具の負担関係にも言及するなど、標準的な判断をほぼ適切に行っており、問題が請負契約か雇用契約かという点に限られている限りは、特段本評釈において取り上げるだけの価値があるものとはいえないであろう。
 この点に関する限り、原告側被告側双方の本件当事者も、また岡山地裁倉敷支部の裁判官も、本件の問題領域の射程を請負契約か雇用契約かという点にのみ見ている点で変わりはないし、裁判例を掲載している『判例時報』の解説文も、問題をその点のみに見いだしている。
 
2 国・地方公共団体は雇用契約を結べるのか?
 ところが、本件当事者Yは地方公共団体である。地方公共団体ももちろんさまざまな契約を締結することができるが、雇用契約を締結することはできるのであろうか。実は、それはできないと断言した裁判例が存在する。武蔵野市事件(東京地判平成23.11.9労経速2132号3頁)である。これは、21回の任用更新により22年以上継続勤務していた非常勤職員が任用更新されなかったことに対し、公法上の任用関係であることを理由に私法上の雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用)を否定した事案であるが、その中で次のように述べている。
・・・しかし、国家公務員法が公務員任用の例外として外国人との「勤務の契約」を締結する余地を認めているのに対し(国家公務員法2条7項)、地公法は、このような規定を置かず、地方公共団体における全ての公務員を地方公務員であるとしている。この趣旨からすれば、地公法は、地方公共団体に勤務する者で、一般職にも特別職にも属さない者の存在を予定しておらず、雇用契約による勤務関係の成立を認めていないものと解するのが相当である。したがって、私法上の雇用契約による地方公務員の職を認めることはできないというべきである。
 ここで引用されている国家公務員法の関係規定は次のようなものである。この2条6項及び7項は1948年12月の改正によって盛り込まれたものである。
(一般職及び特別職)
第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
⑥ 政府は、一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払つてはならない。
⑦ 前項の規定は、政府又はその機関と外国人の間に、個人的基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。
 このように、少なくとも国については、一般職及び特別職の国家公務員以外に「その勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払」われる「勤務者」というのは(外国人以外には)存在し得ないことになっている。すなわち、国家公務員ではない者との間で雇用契約を締結するということも(外国人でない限り)できないはずである。そして、明文の規定はないものの、国家公務員法と地方公務員法における公務員概念自体に違いはないのであるから、国公法2条6項は地方公共団体にも類推適用され、地方公共団体は「一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給、給料その他の給与を支払つてはならない」はずである。
 ここから導き出されることは、地方公共団体は請負契約、委託契約その他いかなる契約を結ぶことも可能であるが、ただ雇用契約だけは締結することはできないということになる。なぜなら、民間部門であれば雇用契約に相当するような指揮監督下の労務提供関係は、公務員法の規制によってすべて一般職または特別職の公務員として任用しなければならないからである。国であれば上記2条7項により外国人に限り雇用契約を締結することができるが、地方公共団体の場合はその例外もない。
 なお、この規定の趣旨については、筑波大学(外国人教師)事件(東京地判平成11.5.25労働判例776号69頁)がこのように説示している。
 政府又はその機関が国家公務員法二条七項に基づいて外国人教師との間で締結した契約の法的性質について 大日本帝国憲法の下において国家事務に従事していた者としては官吏、雇員、傭人などがあり、雇員及び傭人は民法上の雇用関係を通じて国に雇用されていた者であるが、日本国憲法の下においてはこれらの区別をすべて撤廃した上で、国家公務員法二条六項は一般職又は特別職以外の勤務者を置かないこととしていること、ある者を一般職に就かせるには国家公務員法において定められた任用という方法(例えば、国家公務員法三五条、人事院規則八-一二第六条など)によることとされ、ある者を特別職に就かせるにはその特別職について定めた日本国憲法又は法律において定められた任命又は任用という方法(例えば、内閣総理大臣については日本国憲法六条一項で定められた任命という方法、人事官については国家公務員法五条一項で定められた任命という方法など)によることとされていて、一般職にしろ、特別職にしろ、民法上の雇用関係を通じて国に雇用されるという方法を採っていないことに照らせば、国家公務員法二条六項は民法上の雇用関係を通じて国に雇用される勤務者を置かないことを明らかにした規定であると解される。
 そうすると、国家公務員法二条七項は、その条文としての規定の仕方からすれば、同条六項の例外規定として設けられた規定であると考えられるから、国家公務員法は二条七項に定めた場合に限っては民法上の雇用関係を通じて国に雇用される勤務者を置くことを許したものと解される
 
3 契約性質決定による偽装個人請負契約が雇用契約であることの判明?
 このように、地方公共団体は自ら意図的に雇用契約を締結することはできないのであるが、本判決は労働者性に関する判断基準を用いることによって、その主観的意図としては労務参加契約という名の請負契約を締結したはずであったYが、客観的には雇用契約を締結していたことになるという筋道によって、結果的に雇用契約を締結することができる回路を付与したような形になっている。
 これは公務員法が想定していない帰結ではあるが、労働者性に関する判断基準を素直に解する限り回避することはできない理路である。なぜなら、公務員法が明示ないし黙示に禁止しているのは、雇用契約を雇用契約として締結することに限られるのであって、厳密に労働者性判断基準に照らせば雇用契約になりうる個人請負契約を締結することは自由であるし、それが結果的に雇用契約であることが判明したからといって、主観的に個人請負契約として締結された契約関係が無効になることもあり得まい。その意味では、法理的にはこれはもともと雇用契約であったものがその性質通りに判明したものではあるが、現実社会における存在態様からすれば、個人請負契約として締結されたものが労働者性判断基準という操作をくぐらせることによって雇用契約に転化したものと認識されることになろう。
 
4 労働者派遣法による直接雇用見なしの回避規定との比較
 このように、契約性質決定による雇用契約への「転化」に類似する事態は、既に労働者派遣法40条の6によるいわゆる直接雇用見なしにおいて存在している。職業安定法4条及び請負派遣告示37号により、契約形式は請負契約であっても実態が労働者供給契約又は労働者派遣契約であれば後者とみなされることを前提としつつ、「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受ける」者は、「その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」のである。労働者派遣の役務の提供を受ける者にとっては、自ら雇ったつもりは全くなくても直接雇用契約が創出されてしまうのである。
 ところが、この規定についてはわざわざ条文上で国と地方公共団体を適用除外しており、これらについては次の同法40条の7により、公務員諸法「に基づく採用その他の適切な措置を講じなければならない」とされている。国や地方公共団体が自ら意図しない形で雇用契約を締結してしまっていることにならないように、わざわざ見なし規定を排除して、任用という法的枠組みに収まるように措置しているわけである。
 しかし、同条によって回避しているのは申込み見なしによる雇用契約の自動締結であって、国や地方公共団体が形式的には請負契約で行わせた業務が労働者派遣契約であったと判断されれば、当該国や地方公共団体は当該労働者派遣の役務の提供を受ける者としての責任を負うことになるのは当然であり、それを回避することは不可能である(国(神戸刑務所・管理栄養士)事件(大阪高判平25.1.16労判1080号73頁)参照)。
 
5 本判決の含意
 以上から、地方公共団体が締結した個人請負契約がその実態に即して雇用契約であると判断されることを制度的に回避することは不可能であり、従って地方公共団体が個人請負契約を利用する限り、法律上存在しないことになっている公務員としての地位を有さず地方公共団体と雇用契約に基づいて労務を提供する者は常に生じうることになる。かかる存在が法理上存在可能であることは、国家公務員法上に外国人との雇用契約が明記されていることからも明らかであり、地方公務員法が想定していないからといって、法理上その存在を否定することもできない。
 本判決は、樹木伐採作業に従事する労務参加契約というやや特殊な地域性のある事案であったが、今後フリーランス等の雇用類似の働き方が増加し、国や地方公共団体においてもそうした人々を個人請負契約の形で活用することが増えるならば、その労働者性の判断を通じる形で、結果的に国や地方公共団体との雇用契約で就労する者が増加していく可能性もあり得る。これに対していかなる法政策的対応があり得るのか、検討をしておく必要もあるのではなかろうか。
 
6 外務省専門調査員の事例とその解決策
 なお、外務省の在外公館に勤務する専門調査員は、かつては雇用契約ではなく「委嘱」を受ける形であったが、在中国大使館の専門調査員が中朝国境地域で交通事故に遭い、国家公務員災害補償を求めた事案(東京地判平成25.9.30判例時報2211号113頁)において、「原告は、専門調査員として、在中国日本国大使館において、委嘱された調査・研究を行うとともに、館務の補助的業務や脱北者関連業務に従事していたことが認められるものの、専門調査員制度の内容・・・からして、〈2〉国の任命権者により任命されているとはいえないし、〈3〉原則として国から給与を受けているとも言い難いことから、国家公務員とは認められない」と判断されている。
 しかし、国家公務員ではないとしても、国が雇用する労働者ではありうるはずだが(現に、在外公館の現地職員は国公法2条7項に基づく雇用である)、同事件控訴審(平成26.11.13東京高判訟務月報60巻12号2572号)では「労働契約と認めることができない」とする。興味深いのは原告側が労働者性の傍証として挙げている事実である。事件発生後の平成22年9月以降、専門調査員制度が変わり、一般社団法人国際交流サービス協会が派遣元事業主として雇用して、各在外公館に派遣するという形になっている。この場合、専門調査員は国家公務員ではないが雇用契約に基づく労働者であり、業務上災害にあった場合は一般の労災保険の対象となる。ところが裁判所は「新制度下の専門調査員と旧制度下の専門調査員とはその法的性格を異にする」と一蹴している。外務省と浅口市とでは扱いが異なるようであるが、いずれにしても、労働者派遣という形式をとることで、公務員ではないが労働者であるという法的状況に一定の解決策をとったといえよう。 

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