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2020年6月14日 (日)

日本型住宅システムと日本型雇用システムのシンクローー平山洋介『マイホームの彼方に』

9784480879097 平山洋介さんの『マイホームの彼方に─住宅政策の戦後史をどう読むか』(筑摩書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480879097/

戦後日本において、マイホームの購入を前提とする社会がどのように現れ、拡大し、どう変化したのか? 住宅政策の軌跡を辿り、住まいの未来を展望する。 

平山さんの本をお送りいただくのは実に11年ぶりです。以前の本は、『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書)で、ワーキング・プアと並んでハウジング・プアという言葉が交わされていたころで、それまで労働社会問題の視野から抜け落ちがちだった住宅問題がクローズアップされてきた頃でした。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-3fdd.html

今回の本は300ページを超えるハードカバーになったというだけではなく、戦後住宅政策の推移を大変緻密に、しかし本質的な筋道を的確につかみながら叙述し、今日の課題を摘出しています。

はじめに 大衆化から再階層化へ
第1章 住宅所有についての新たな問い
第2章 住宅システムの分岐/収束
第3章 持ち家の時代、その生成―終戦〜一九七〇年代初頭
第4章 もっと大量の持ち家建設を―一九七〇年代初頭〜一九九〇年代半ば
第5章 市場化する社会、その住宅システム―一九九〇年代半ば〜
第6章 成長後の社会の住宅事情
おわりに 新たな「約束」に向けて 

それを読みながら、実は私は奇妙なデジャビュを感じていました。奇妙なデジャビュ…。まるで自分が書いた本を読んでいるかのようなデジャビュです。

いやもちろんそんなことはあり得ません。そもそも、そこに書かれている戦後住宅政策のあれもこれも、私にとってはよく知らないことばかりなんですから。門外漢がよく知らない分野の専門書を読みながら感じるデジャビュとは何か?

それは、戦後住宅政策史の推移が、見事に戦後労働政策史の推移とシンクロしているからであり、戦後日本で確立した日本型住宅システムの歴史が、これまた日本型雇用システムの歴史と見事に対応しているからなんです。

ざっくり平山さんの戦後住宅史の時代区分を言うと、上の目次にもあるように、

1 終戦~1970年代初頭

2 1970年代初頭~1990年代半ば

3 1990年代半ば~

これが、内容的にもほぼ、わたくしの『日本の労働法政策』で提起している近代主義の時代、企業主義の時代、市場主義の時代に対応しているんですね。

大きく世界的に見れば、20世紀半ばから21世紀に向けて、ケインジアン福祉国家から新自由主義へという流れを共有しつつ、その間に(1970年代半ばから1990年代半ばにかけての約20年間)企業や家族という脱商品化メカニズムに依存する日本特殊な日本型雇用システム、日本型福祉社会を高く評価し、その方向に政策が極端に傾いた時代が挟まれたという点に日本の特徴がありますが、日本の住宅政策の歴史も全くそれとシンクロしているんです。

最初の時代、私の言う近代主義の時代は、少なくともその出発点では欧米と類似した三本柱による住宅供給が目指されました。三本柱とは、低所得者層のための公営住宅(公営住宅法)、中所得者層のための公的な賃貸住宅(日本住宅公団法)、そして持ち家取得のための低金利補助(住宅金融公庫法))です。しかし、上の目次にも表れているように、既にその途中から、特に高度成長期には公営住宅は停滞し、住宅公団は分譲に傾斜し、持ち家中心主義の傾向が強まりつつありました。

その持ち家中心主義が最も高まったのが、労働政策では企業主義の時代であり、社会保障政策では日本型福祉社会論が流行した1980年代を中心とする20年間で、低所得者向けの公営住宅は絶対的に縮小し、国の住宅政策は何が何でもできるだけ多くの人のために持ち家を推進するというものでした。

ところがその無理が90年代に次々に露呈し、持ち家至上主義から零れ落ちる人々が続々と出てくるようになっても、住宅政策の焦点は依然住宅取得にむけたもので、ただそれがますます市場化し、西欧諸国のような家賃補助という発想は出てくることなく、親元に子供がいつまでも同居するといった家族主義的なセーフティネットに依存している、というのが平山さんの批判の本筋です。

これ、かつてはバランスの取れた政策メニューだったのに、その後日本型雇用システム礼賛に大きく傾きすぎ、その結果できるだけ多くの人に望ましいはずの終身雇用を均霑するという政策が破綻して、市場主義的な政策に偏ってしまった労働政策と見事にシンクロしていますね。

というのが話の大筋ですが、いやこの本は300ページ余りとそれほど分厚い本ではないのですが、中身の充実ぶりがすさまじく、戦後住宅政策史のあれやこれやが一つ一つ考えさせるエピソードになっています。

 

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