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2020年6月14日 (日)

所得税法204条1項4号の「外交員」は従業員も含むのか!?

一昨日、素朴な疑問を感じて書いたエントリですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-92f73c.html(日本郵便社員が持続化給付金って?)

・・・いやだから、かんぽ不正が原因でコロナのせいじゃないだろというのはそうなんですが、それよりなにより、れっきとした雇用労働者に支払われる「出来高払制その他の請負制」(労働基準法27条)の賃金である営業手当が、なんで事業所得として確定申告できちゃうのかが、そもそも理解困難なんですが。
だったら、日本中で行われている出来高払いの賃金労働者はみんな税法上は労働者ではなく事業者になっちゃうんですかね。・・・ 

こういうおかしなことをやっているにも何か法的根拠があるはずだと思って、よく分からない迷宮のような租税法の世界に分け入ってみると、、どうも所得税法のこの規定が根拠のようです。各号列記の第4号なのですが、どんなものと並べられているかが分かるように全号引用します。

第四章 報酬、料金等に係る源泉徴収
第一節 報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収
(源泉徴収義務)
第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
三 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬
四 職業野球の選手、職業拳けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
五 映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)
六 キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金
七 役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの
八 広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの
2 前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない。
一 前項に規定する報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(次号において「給与等」という。)又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等に該当するもの
二 前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの
三 前項第六号に掲げる報酬又は料金のうち、同号に規定する施設の経営者(以下この条において「バー等の経営者」という。)以外の者から支払われるもの(バー等の経営者を通じて支払われるものを除く。)
3 第一項第六号に掲げる報酬又は料金のうちに、客からバー等の経営者を通じてホステス等に支払われるものがある場合には、当該報酬又は料金については、当該バー等の経営者を当該報酬又は料金に係る同項に規定する支払をする者とみなし、当該報酬又は料金をホステス等に交付した時にその支払があつたものとみなして、同項の規定を適用する。 

204号1項各号列記は、こうしてみるとすべて(雇用類似のものも含めて)契約としては雇用契約ではなく請負や委託契約で行われる独立非従属型労務供給契約ですね。その一つとして、労働法の労働者性をめぐる判例にもよく出てくる「集金人」や「検針人」とならんで「外交員」がでてきます。ということは、これはどう考えても、いわゆる生命保険のおばちゃんのような(少なくとも契約形式上は)非労働者である外交員を指すのであって、雇用される労働者が労働基準法で定義される「賃金」として受け取っているものは当たらないはずです。

実際、同条第2項には、ご丁寧に「前項に規定する報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等・・・・に該当するもの」は適用しないといっているんですから、営業手当が(労働基準法の規定通り賃金として)給与所得と判断されれば、営業手当を受け取る従業員たる外交員が、プロ野球選手やキャバレーのホステスと同列になることはないと思うんですが、おそらくどこかで、「外交員」と言えばみんなこの並びの外交員扱いするという、おかしな運用が固定化してしまったのでしょう。

私は租税法の世界はよく分からず、これ以上迷宮の中を解きほぐすことはできませんが、どこかで何か変なことが起こっていたことだけは間違いないようです。

(追記)

つか、国税庁が通達で、従業員でも外交員なら事業所得だって言ってるみたいですね。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/36/04.htm#a-02

204-22 外交員又は集金人がその地位に基づいて保険会社等から支払を受ける報酬又は料金については、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。
(1) その報酬又は料金がその職務を遂行するために必要な旅費とそれ以外の部分とに明らかに区分されている場合  法第9条第1項第4号《非課税所得》に掲げる金品に該当する部分は非課税とし、それ以外の部分は給与等とする。
(2) (1)以外の場合で、その報酬又は料金が、固定給(一定期間の募集成績等によって自動的にその額が定まるもの及び一定期間の募集成績等によって自動的に格付される資格に応じてその額が定めるものを除く。以下この項において同じ。)とそれ以外の部分とに明らかに区分されているとき。  固定給(固定給を基準として支給される臨時の給与を含む。)は給与等とし、それ以外の部分は法第204条第1項第4号に掲げる報酬又は料金とする。
(3) (1)及び(2)以外の場合  その報酬又は料金の支払の基因となる役務を提供するために要する旅費等の費用の額の多寡その他の事情を総合勘案し、給与等と認められるものについてはその総額を給与等とし、その他のものについてはその総額を法第204条第1項第4号に掲げる報酬又は料金とする。 

この通達を素直に見れば、会社の従業員である外交員でも、固定給とそれ以外の部分が区分されていれば、固定していない部分(つまり、労働基準法27条の「出来高払制その他の請負制 」による賃金部分)は給与所得ではなく事業所得になってしまいますね。

この国税庁の解釈は、私の眼には、所得税法204条の本来の趣旨を誤って解釈したものとしか思えませんが、まあでも税務署はこの通達に従って粛々とやっているだけなんでしょうし、日本郵便もその解釈に従って粛々とやっているだけなんでしょうね。

その結果、まったく雇用関係の存在しない完全歩合制の生命保険のおばちゃん向けに設けられたはずの規定が、日本一の大企業でそれなりの基本給を給与所得として受け取っている日本郵便の営業マンたちに適用されるという、非常にゆがんだ状況が作り出されてしまっていたということのようです。

 

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コメント

巷間で雇用類似と言われる請負をやったこともさせたこともありますが、
ハッキリ言って日本(のみならずほぼ全世界)の所得税制や保険料は労働者に不当に厳しいので
企業からしても労働者からしても高年収になればなるほど雇用という形態は百害あって一利なしです。

hamachanさんは業界では名の知れた雇用の専門家のようですが、税・社会保険料でこんなに不当に扱われているのに雇用という就労形式を当事者の意に反して押し付けていい理由を教えてほしい。

雇用労働者であることを理由として経費や節税を一切認めないとか、事業主負担を含めた健康保険料が同所得の自営業より有意に高いとか、厚生年金の会社負担含めた保険料が明白に元本割れしてるとか(年金専門家から見れば受け入れがたいだろうけど、今どき「会社負担分は会社の負担だ!」というのは情弱ぐらいだろ)

どう考えても財源を毟り取るという以外に正当化する根拠はないと思うんですが…


>労働基準法27条の「出来高払制その他の請負制 」による賃金部分)は給与所得ではなく事業所得になってしまいますね。
むしろ出来高払いを給与にするほうがおかしいと思うんですが・・・
成果物への支払だからどっからどう見ても請負やん。

>日本一の大企業でそれなりの基本給を給与所得として受け取っている日本郵便の営業マンたちに適用されるという、非常にゆがんだ状況
給与所得を受け取っていて事業所得もあるというのは普通に想定し得るし、支払い側が同じ企業であることを以て否定はできないですよ。

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