フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

« テレワークと繋がらない権利 | トップページ | 岸健二編『業界と職種がわかる本 ’22年版』 »

2020年6月 8日 (月)

なんで「ジョブ型」がこうねじれるんだろう?

もう毎日どこかで「ジョブ型」「メンバーシップ型」という字を目にしない日はなく、それこそ金子良事さんあたりから再三

http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-340.html

今の労働問題をどう考えるのか、という風に聞かれるときに、メンバーシップ型とジョブ型という考え方が今やもう、かなりデフォルトになって来たなというのが私の実感である。おそるべきhamachanの影響力。 

とからかわれそうですが、「リベサヨ」ほどではないにしても、世間での使われ方が妙な方にねじれていくのは、一応この言葉をこねくりあげたことになっている人間からすると、どうも居心地の悪さが半端ないところがあります。

今朝も日経新聞が一面トップでどどーんと、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60084930X00C20A6MM8000/(雇用制度、在宅前提に 「ジョブ型」や在宅専門の採用)

という記事を出し、そこにご丁寧に「ジョブ型」を解説しているんですが、

▼ジョブ型 職務内容を明確にした上で最適な人材を宛てる欧米型の雇用形態。終身雇用を前提に社員が様々なポストに就く日本のメンバーシップ型と異なり、ポストに必要な能力を記載した「職務定義書」(ジョブディスクリプション)を示し、労働時間ではなく成果で評価する。職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る。

まあ、前半はやや難はあるとはいえあまり間違ってはいませんが、後半がひどい。

まずなによりも、「職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る」ってなんだよ。

あのさ、「職務遂行能力」ってのは、日本的『能力主義管理』の中核概念であり、具体的な「職務(ジョブ)」から切り離された特殊日本的概念であり、それゆえに、企業を離れたら通用性のない企業内の格付にしか使えない「あいつはなんでもできる」でしかない概念だということは、拙著をちらりとでも読んでいたらわかっているはずのことですが、それをこうも見事に逆向きに使ってしまえる、ってことは、日経新聞のいうところの「ジョブ型」ってのは、実のところそういうものなのか、とため息を漏れさせるに十分です。

解雇自由なアメリカを除けば、ほかの諸国はなにがしか解雇に規制がありますが、解雇を正当化する理由が「ジョブ」の消失、あるいは当該具体的なジョブに係る能力不足であるのが「ジョブ型」であって、なんだかよくわからない「職務遂行能力」がでてくるのが「メンバーシップ型」なんですよ。

日本の解雇裁判の記録を見ると、「いやあ、こいつはどうしようもない奴で、社内のどの部局もこいつだけは引き取りたくないっていっているんです」という会社側の主張がいっぱい出てきますが、それくらい「ジョブ」が希薄で、その分「職務遂行能力」が大事なのが「メンバーシップ型」の日本なんですが、それが日経の解説ではかくも見事にひっくり返るのですから、正直なんと言っていいのか・・・。

も一つ、これも近頃やたらにこういうのが多いけど、「労働時間ではなく成果で評価する」ってのは、ジョブ型かメンバーシップ型かとは関係ないからね。

ジョブ型社会でも、上の方の経営管理的なジョブであればあるほど成果で評価されるし、下の方のクラーク的なジョブであれば決められたことをきちんとやることがジョブディスクリプションなのだから、時間で給料が決まるのは当たり前。

これは、雇用システム全般にわたる「ジョブ型」概念を、25年前の『新時代の日本的経営』の「高度専門能力活用型」の言い換えだと心得ているひとが犯しがちな間違いだけど、世界中どこでも、上の方になれば成果主義になるのは当たり前。

問題は、その「成果」ってなあに?ってところで、「ジョブ」が曖昧な日本では、その成果も曖昧にならざるを得ないので、わけのわからない「職務遂行能力」に基づく実のところは「人間力」評価を「成果」の「査定」にしちゃっているだけなわけで、それをどうにかしたいといっている舌の根も乾かないうちに、「職務遂行能力が足りないと判断されれば欧米では解雇もあり得る」だから、呆れて涙が出てくる。

 

 

« テレワークと繋がらない権利 | トップページ | 岸健二編『業界と職種がわかる本 ’22年版』 »

コメント

なぜって、それは… 結局メンバーシップ型にどっぷりと長年浸かっていらっしゃる日経記者始め多くの大企業正社員皆さまには、それとはいささか異なる摩訶不思議な世界たるジョブ型雇用の態様を理解想像することだに未だ叶わないからでしょう…。とはいえ、ジョブ型って何?って、分からないことを少しでも理解しておきたいと考える真面目な方に、あくまでも小職のわかる/できる範囲でのささやかな情報提供を僭越ながらこの場を借りて再びさせて下さいませ。(以下、全く場末で瀕死の拙ブログのエントリですが、今でも毎週100名強の日本人読者が世界各国から誰かしら読みに訪れて来て頂いているようで深謝しています。実際、せっかく社会貢献しようと真面目に書いたつもりですので、このテーマ〜ジョブ型vsメンバーシップ型雇用〜に多少なりとも興味ある方には、生意気ながらhamachan ブログの「別視点」からの補完材料としてご参照下さい…。)

https://lifeworkrowing.wordpress.com/2016/12/04/外資系企業の人事は、何をどう評価するのか?/

https://lifeworkrowing.wordpress.com/2016/06/21/外資系企業に「人事異動」はあるのか?/

この理解のねじれそのものがとても日本的なのでは、と思えます。メンバーシップ型=旧来の日本型雇用=終身雇用を前提に様々な職務に就き、大過なければ家族的な温情の中で順調に暮らしていける働き方、ジョブ型=旧来の日本型と違う雇用=割り当てられた職務をきちんとこなす働き方で、きちんとこなしたがゆえの成果が出ていなければ切られても当然の「ドライ」な働き方、というような理解になってしまっているんじゃないでしょうか。こういう理解の「ジョブ型」は、本来のヨーロッパの「ジョブ型」ではなくて、なぜか日経連が「新時代の日本的経営」で嬉々として提言していた「高度専門能力ナンチャラ」に、つまり、新しい日本型、というのにとても似ているような気がするのですが(もっとも25年も前の「新しい」で、四半世紀も前の話になりますが)、私の誤解?

さきほどの投稿、久しぶりにさっと斜め読みで最後まできちんと読まずに書いてしまったので、削除してください。
日本でこうねじれていきがちなのがなぜだろうと思っているので、ついつい、最初の部分だけさっと読んで適当な感想を書いてしまい、すみません。

いえ、「この理解のねじれそのものがとても日本的なのでは」という指摘自体がとても示唆的で、このコメントはぜひそのまま残したいと思います。

念のためですが、ここへきてようやく日経新聞のジョブ型に関する記事が真っ当な内容に変わってきたようで、一読者としてホッとしています。例えば、今日の朝刊掲載のドイツIT企業の「ジョブ型」取材記事ですが、事実にもとづきよく書けています。ただ、しいて難を言えば、記事内の「解雇云々」の描写は、『日本及びドイツ企業=長期雇用(解雇なし)、米国企業=短期雇用(解雇多し)』という、同記者のバーチャル脳内妄想(ステレオタイプ)が反映されているようで大変残念です。今後はこういう細かい所も、安易な通年や思い込みに頼らず、正確なデータと事実を踏まえた記事を書いていただきたいものです。

ーーーー
ジョブ型でも解雇と無縁 SAP、成長促すドイツ流 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62154980R30C20A7FFV000/

大手企業中心に、ジョブ型雇用の導入が広がっている。日本が目指すジョブ型は、解雇前提の米国流ではないと経団連などは指摘する。とすれば安易に社員を解雇しないドイツ流が近い。日本型雇用に代わる正社員のモデルになりうるのか。ドイツ系企業、SAPジャパン(東京・千代田)の取り組みから、実像と課題に迫る。

■「すべきことが明確 無駄なく働ける」
「会社の期待に応えられているのか。成長実感がなく、もやもやした気持ちでした」。SAPジャパン・エンタープライズ・ビジネス営業部の中島ゆきさん(33)は前職を振り返る。2011年に新卒で大手メーカーに入社。働きがいを求めて16年に転職した。

自社製品を顧客に売る役割に変化はない。ただSAPジャパンでは果たすべき役割が細かく示されている。販売戦略の立案、顧客を知るために収集・理解すべき情報、他部署との連携の取り方など。「職務が明確なので自分が会社に貢献できているか、何が足りず何をすべきか迷わない」 前職では残業が100時間超の月もあった。担当は決まっていたが、参加者が足りないからと担当外の会議に駆り出されたことも。今は遅くとも夜8時に退社する。「担当外の仕事は断れる。無駄なく働ける」

欧米で主流のジョブ型雇用。その要がジョブディスクリプション(職務定義書)だ。担当職務や責務、求められる能力や資格などを文書で示す。同社では約1500人の社員全員がジョブ型。A4で6ページほどの文書に基づき働く。

■全世界で約1100のジョブディスクリプション
利点は自律的に働けることだ。製造産業統括本部の部長、坂倉翔さん(37)は2月に育児休業を3週間取った。以前は夜11時まで働いていたが、父親になって改めた。午後6時に退社し、共働きの妻と育児を分担。ほぼ残業ゼロでも昨年部長に昇格した。「職務を果たしていればOK。仕事と生活が両立しやすい」

SAPは統合基幹業務システム(ERP)などを開発・販売するIT企業。本社はドイツで世界180カ国・地域に拠点を持つ。ドイツでは産業革命以降、ジョブ型を100年以上続けてきた歴史がある。以前はジョブ型を原則にしながらも適用は現地法人に任せていた。だが12年に人事制度を統一。ジョブディスクリプションも世界共通にしてジョブ型を徹底した。グループ社員は10万人超。人事制度がばらばらでは個々の実力が測れない。そこで役割と評価の基準をそろえた。全世界で約1100のジョブディスクリプションがあり、社員はいずれかに基づき働く。

報酬は各国の労働市場に準じて職種ごとに決める。外部と賃金水準を合わせて転職者を受け入れやすくする狙いだ。年功型賃金の日本企業と違い、年齢や社歴が同じでも希少価値の専門職は高収入を得る。

異動は公募制だ。世界のジョブディスクリプションを公開しているので、やりたい仕事があれば職務の内容や必要な能力、経験などを確認できる。足りない部分を補えば誰でも手を挙げられる。日本で採用され海外に転出した社員もいる。不可解な情実人事も起きない。キャリアアップは公平で努力次第。それが社員の成長意欲を高め、全体の生産性向上につながる。

■毎週面談し助言 2万通りの研修用意
ジョブ型を導入すれば社員が自律的に働くわけではない。職務を果たせるよう成長を促したり、職務ばかり優先してチームワークを乱したりしない工夫が必要だ。SAPも12年の完全移行後、これらの課題に直面し、手を打ってきた。

例えば評価システム「SAPトーク」。年1回の面談に代わり、17年に導入した。管理職が部下と最低四半期に1度面談し、(1)目標の進捗度(2)今後のキャリア希望(3)仕事上の悩み――を聞き取る。実際は毎週行う部署が多い。決算書の読み方や営業戦略の立て方、コミュニケーションスキルなどeラーニング研修を約2万用意し、面談でどれがいいか助言。能力や知識レベルに応じて受けられる。14年には社員同士が感謝を伝え合うシステムを導入。例えば職務外の仕事をこなしてくれた社員に「ありがとう」メッセージや報奨金(最高7万円)を送る。個々が自分の仕事や部署に閉じこもらず、助け合うムードを高める狙いだ。

ジョブ型には失職懸念が付きまとう。成果を出せなかったり担当業務がなくなったりしたらさようなら――。解雇のハードルが低い米国ではよくある光景だ。ただドイツは労使協調が基本にあり、ドライに社員を解雇しない。だからこそ会社は社員の能力を最大限引き出す努力が欠かせない。解雇をちらつかせて社員に貢献を無理強いしても、得られる果実は少ない。人事戦略特別顧問のアキレス美知子さんは「ジョブ型は不要な社員を選別する仕組みではない。いかにやる気を高めるか。その工夫があってこそ大きな成果に結び付く」と説明する。
〜〜〜

コロナ禍はジョブ型への変化を促した。上司の指示の下に働くメンバーシップ型はテレワークに適さないからだ。職務と責任が明確なジョブ型なら、いつどこであろうと社員は仕事に集中しやすい。コロナ禍を経て、日立製作所や資生堂、富士通などはジョブ型導入を表明した。経営環境の変化は著しく、生涯を1社に委ねる終身雇用はむしろ危険だ。専門性を培うジョブ型は、働く側にも利点がある。SAP流は解雇と切り離してジョブ型を実現できる道筋を示している。(編集委員 石塚由紀夫)


2002年秋、世は「成果主義」真っ盛りの時勢…。当時自分は某日系シンクタンク研究員として、人事コンサルの上司と同僚と共に欧州主要企業を訪問し、各社の「人事制度」をリサーチするという出張を経験しました。そこで一番印象に残っているのが、ドイツのシュトットガルトに本社をもつ世界的自動車部品メーカーの本社を訪れた時のことです。まさに「樹海」と呼ぶしかない、その360度視界全てが緑の絨毯に覆われた〜機動戦士ガンダムが黒い三連星のドムと戦った、まさにあの黒い森でしたね〜低層本社ビルの角部屋で、先方の人事部長と人事マネジャーと日独企業の人事制度についてディスカッションしたのです。もちろん、当時はまだメンバーシップ型とジョブ型という日本企業の雇用システムの特殊性を表現しうる概念フレームは全く知りません(そこに意識を向けることが出来ません)でしたので、ミーティングの議論では日独に「共通する点」〜例えば、技術者の長期勤続傾向や社内キャリアパスの充実、コンピテンシーと目標達成度評価という二軸での業績評価、10-12等級のグレード制度など〜ばかりに関心が向かい、同じ人事屋同志でマニアックな話の花が咲いたことを覚えています。実際、お互いの友好関係を築くためにも、相違点より共通点を話した方が気持ちいいですからね。でももし、今から同じ目的でリサーチ出張が許されるのであれば、どんな準備の上でどんな質問をしうるか?という面に思いを馳せてみると、きっと以下のような質問票となるかと…
◉ 会社都合のジョブローテーション(いわゆる人事異動)の有無あるいはその程度や頻度(ジョブ型であれば限りなくゼロ)
◉ジョブポスティングの運用実態。すなわち、自分の意思で社内キャリアパスを動いていく人の割合(メンバーシップ型であれば限りなくゼロ)
◉サラリーが職務グレードに連動するのか、あるいは個々のジョブタイトルに連動するのか(後者が純粋なジョブ型)
◉マネジャー人材の社内人材登用率(メンバーシップ型は高く、ジョブ型は低い)や女性マネジャー比率(多様性の確認)
◉離職率水準とその内訳(自己都合と会社都合の比率) 等々

ということで、当時、日本企業のメンバーシップ型という特徴をしっかりと理解できていれば、すなわち自分自身のアサンプションにより自覚的であったならば、ドイツの世界的自動車部品メーカーの方々に発する質問内容も関心も自ずと違ってきますし、お互いの(無邪気な)誤解も減ってきた筈です。もっとも、昨今のコロナ禍で世界的な移動が制限されてしまった今となってはプチ贅沢なビジネス出張でしたが。〜すると、20年前のニッポンを席巻したあの成果主義ブーム、現在の俄かジョブ型制度導入ブームの気運に「デジャブ」を覚えるのはきっと小職だけではないかと…。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« テレワークと繋がらない権利 | トップページ | 岸健二編『業界と職種がわかる本 ’22年版』 »