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2020年5月20日 (水)

最新の労働者協同組合法案@『労基旬報』2020年5月25日号

『労基旬報』2020年5月25日号に「最新の労働者協同組合法案」を寄稿しました。

 今年に入ってから新型コロナウイルス感染症に振り回されている日本社会ですが、その中でも新たな労働政策の動きは水面下で少しずつ進んでいます。今回は10年前の2010年に一度議員立法として国会に提出される寸前にまで行きながら、労働組合サイドからの異論などで提出されずじまいになっていた労働者協同組合法案が、再度国会提出を目前にするまでに来ていることを紹介したいと思います。
 この運動はもともと失業対策事業の就労者団体である全日本自由労働組合(全日自労)が母体です。失業対策事業への新規流入がストップされ、終焉に向けて先細りになっていく中で、1970年代以来、失業者や中高年齢者の仕事作りを目指す中高年雇用福祉事業団の運動が起こりました。しかしそれはなお失対就労者の色彩の強い公的就労事業を求める運動に過ぎませんでした。
 しかしそのような運動に将来展望があるはずはなく、1980年代半ば以降特にヨーロッパ諸国における協同組合運動との交流を深める中で、労働者協同組合の形で運動を展開してきました。通称ワーカーズ・コープという名で活動しているこの団体が、近年その法制化を求めて運動を展開しているのです。
 そして上述したように2010年の通常国会に協同労働の協同組合法案が議員立法で提出される寸前まで進みましたが、労働法の適用問題などで労働組合サイドから異論が出たこともあり、結局提出されるに至りませんでした。
 この時、同年4月に衆議院法制局が作成した協同労働の協同組合法案の概要は次の通りです。協同労働の協同組合は、組合員が協同で出資し、経営事項の決定は組合員が協同で行い、組合員は協同で決定した就労規程に従い、組合事業従事者=組合員となります。許可制ではなく準則主義によって設立され、登記によって法人格を取得します。組合員の責任は出資額を限度とする有限責任です。
 労働法的に重要な点としては、協同労働の協同組合は就労規程を作成し、就労時間、休憩、休日及び休暇に関する事項と、従事した業務に対する報酬の基準その他組合事業の従事した程度に応じてする分配に関する事項について定めなければなりません。また労働基準監督署長は、就労規程で定める組合員の就労条件が、労働者の労働条件について労働基準法が定めている基準に達しない場合、その変更を命ずることができるとしています。しかし、労働基準法上の労働者ではないという大前提に変わりはありません。
 これに対し、役員を除く組合員は労災保険及び雇用保険の適用上労働者と見なされ、組合員の安全衛生については労働安全衛生法の規定を準用し、組合員が組合事業の従事したことによって受ける所得は、所得税法の適用上給与所得とされます。また、剰余金の分配の際、一定割合を就労創出等積立金として積み立てなければならないとしています。
 結局、組合事業への従事が労働者としての労働と何ら変わらないにもかかわらず、労働者性を原則としては否定している点が、労働組合サイドからは拒否反応をもたらし、議員立法としての提出にブレーキをかけたといえます。
 明確にこの法案を批判した文書としては、日本労働弁護団が2011年5月に公表した協同労働の協同組合法案に対する意見書がありますが、そこでは次のように厳しく批判していました。
・・・法案は、協同組合の業務に従事する組合員(以下、「業務従事組合員」という。)が労働者ではないという立場に立ち、労働諸法令の適用を原則として排除するものである点で、根本的な問題を有する。業務従事組合員は、協同組合に使用されて労働し、賃金を支払われる者であるから労働者である。労働者である業務従事組合員を労働者として扱わないこの法案が成立すれば、提案者の意思に関わらず、安価な労働力(チープレイバー)を使うために悪用される危険性がある。そして、労働諸法令の適用が排除され、チープレイバーを使うことができる協同組合とそれ以外の事業の間では、公正な競争が実現できなくなり、他の事業における労働者の賃金・労働条件を引き下げる事態がもたらされるであろう。また、業務従事組合員が賃金・労働条件の改善のために労働組合を結成し、団体交渉や争議権を行使することもできないなら、組合員は労働者として最も有効な問題の解決手段までも奪われることになる。・・・
 その後、法案をさらに練り直し、2020年になっていよいよ国会に提出しようというところまで来ていたようですが、そこに新型コロナウイルスが飛び込んできたという状況のようです。しかし、そのさなかでも去る4月に協同組合振興研究議員連盟の総会が開催され、今年2月段階で衆議院法制局が作成した労働者協同組合法案が配布されています。ここではその法案内容をざっと見ていきたいと思います。
 労働者協同組合の基本原理はそれほど変わっていません。第3条第1項に、①組合員が出資すること、②その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること、③組合員が組合の行う事業に従事すること、という3原則が示されています。また第8条には、総組合員の5分の4以上は組合の行う事業に従事しなければならず、また事業従事者の4分の3以上は組合員でなければならないという人数要件も規定されています。10年前の法案と最も違うのは、事業に従事する組合員の労働者性です。今回はこういう規定が設けられているのです。
(労働契約の締結等)
第二十条 組合は、その行う事業に従事する組合員(次に掲げる組合員を除く。)との間で、労働契約を締結しなければならない。
 一 組合の業務を執行し、又は理事の職務のみを行う組合員
 二 監事である組合員
2 第十四条又は第十五条第一項(第二号を除く。)の規定による組合員の脱退は、当該組合員と組合との間の労働契約を終了させるものと解してはならない。
(不利益取り扱いの禁止)
第二十一条 組合は組合員(組合員であったものを含む。)であって組合との間で労働契約を締結してその事業に従事するものが、議決権又は選挙権の行使、脱退その他の組合員の資格に基づく行為をしたことを理由として、解雇その他の労働関係上の不利益な取扱いをしてはならない。
 10年前に国会提出のネックとなった部分が、理事と監事以外の事業従事者は労働者協同組合と労働契約を締結する労働者という形で整理されています。そして労働契約に基づく関係は労働法の規律するところによることになるので、労働者協同組合の組合員であることと労働者協同組合に雇用される労働者であることとは一応別のこととなります。おそらく、出資者=経営者=労働者という三位一体の理想像からすると、相当の妥協を余儀なくされたのであろうと思われますが、逆に言えばそうしなければ今回再び国会提出目前の状態にまで持ってくることができなかったということなのでしょう。
 労働法上の労働者である以上、就業規則や労使協定、労働協約もそのまま適用されるので、この法案の総会に係る規定には、理事の総会への報告事項として次のようなものが並んでいます。
(総会への報告)
第六十六条・・・
2 理事は、次の各号に掲げる事由が生じたときは、当該各号に掲げる事項を、その事由が生じた日後最初に招集される総会に報告しなければならない。
 一 就業規則の作成 当該就業規則の内容
 二 就業規則の変更 当該変更の内容
 三 労働協約の締結 当該労働協約の内容
 四 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第四章に規定する協定の締結又は委員会の決議 当該協定又は当該決議の内容
 この第66条第2項第3号は、同じ労働者協同組合の組合員同士であっても、労働者である組合員がそれとは別の労働組合を結成し、労働者ではない理事側と団体交渉をして労働協約を締結することが前提されていることを明示しています。そうなると、労働者協同組合の組合員であるということは、普通の会社の「社員」であるというのと、少なくとも法制的にはそれほど違わないものになっているとみることもできましょう。
 この法案がこれからどうなっていくのか、新型コロナウイルス感染症にとりつかれた状態の現在は全く予想することはできませんが、世の中がある程度落ち着いてくれば国会提出という運びになる可能性は今回はかなり高いように思われます。法案の附則では、現在中小企業等協同組合法に定める企業組合や特定非営利活動促進法に基づくNPO法人として活動している事実上の労働者協同組合が、本法に基づく労働者協同組合に組織変更する手続きも詳細に定めており、かなり現実性がありそうです。
  

 

 

 

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