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2020年5月 4日 (月)

雇用保険のみなし失業はコロナに適用可能か?

Profile1392802212 POSSEの今野晴貴さんが、ヤフー個人で「休業補償の「次の一手」が見えてきた! 震災時に発動した「みなし失業」制度とは」という記事を書いています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200504-00176788/

その言うところは、雇用調整助成金はしょせん企業の善意を前提にしたものなので、労働者個人への給付という形が望ましい。そのための道具立ては、東日本大震災等で使われたみなし失業があるではないか、というものです。

実はその趣旨にはかなり同感するところがあります。雇用調整助成金はもともと1970年代のオイルショックに対して、その打撃を受けた輸出産業の鉄鋼とか造船といった重厚長大産業の救済を主たる目的として作られたもので、今批判されているやたらに手続きが煩雑だとか、手続きに時間がかかるとかも、そういうことがあまり問題ではない重厚長大の大企業に、その規模に応じた莫大な額を支払うような制度設計だったからなんですね。リーマンショックの時も、打撃を受けたのはやはり輸出型産業でしたが、今回のコロナショックはその正反対、人と人との接触それ自体を飯の種にするような第三次産業の中小零細企業が一番打撃を受けている。なので、雇用調整助成金の効きが悪いのは、そもそもそういう産業を想定して作られていなかったからなんでしょう。そこを、今懸命につぎはぎ細工で手当てしようとしているわけですが、どうしても元のそもそもの作り付けが、とりあえず目先の金がなくって困っている人を何とかするという発想になっていないので、なかなか期待するようにはならないわけです。

で、今野さんは、それなら企業経由の雇用調整助成金じゃなく、直接仕事がなくなって休業している労働者を失業者とみなして給付すればいいじゃないか、現にそういう制度があるんだから、というわけです。

いや確かに、そういう制度はあるんですが、それは雇用保険法上の制度ではなく、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律という法律における雇用保険法の特例措置として規定されているんです。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律

(雇用保険法による求職者給付の支給に関する特例)
第二十五条 激甚災害を受けた政令で定める地域にある雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第五条第一項に規定する適用事業に雇用されている労働者(同法第三十七条の二第一項に規定する高年齢被保険者、同法第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者及び同法第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者(第五項及び第七項において「高年齢被保険者等」という。)を除く。)が、当該事業の事業所が災害を受けたため、やむを得ず、事業を休止し、又は廃止したことにより休業するに至り、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、就労することができず、かつ、賃金を受けることができない状態にあるときは、同法の規定の適用については、失業しているものとみなして基本手当を支給することができる。ただし、災害の状況を考慮して、地域ごとに政令で定める日(以下この条において「指定期日」という。)までの間に限る。
2 前項の規定による基本手当の支給を受けるには、当該休業について厚生労働省令の定めるところにより厚生労働大臣の確認を受けなければならない。
3 前項の確認があつた場合における雇用保険法(第七条を除く。)の規定の適用については、その者は、当該休業の最初の日の前日において離職したものとみなす。この場合において、同法第十三条第二項中「該当する者(」とあるのは「該当する者又は激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第二十五条第三項の規定により離職したものとみなされた者(いずれも」と、同法第二十三条第二項中「受給資格者(」とあるのは「受給資格者又は激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律第二十五条第三項の規定により離職したものとみなされた者で第十三条第一項(同条第二項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定により基本手当の支給を受けることができる資格を有するもの(いずれも」とする。
4 第一項の規定による基本手当の支給については、雇用保険法第十条の三、第十五条、第二十一条、第三十条及び第三十一条の規定の適用について厚生労働省令で特別の定めをすることができる。
5 第一項に規定する政令で定める地域にある雇用保険法第五条第一項に規定する適用事業に雇用されている労働者で、同法第三十七条の二第一項に規定する高年齢被保険者又は同法第三十八条第一項に規定する短期雇用特例被保険者に該当するものについては、その者を高年齢被保険者等以外の被保険者とみなして、前各項の規定により基本手当を支給するものとする。この場合において、第一項の規定において適用される同法第十七条第四項第二号ニ中「三十歳未満」とあるのは「三十歳未満又は六十五歳以上」と、同法第二十二条第二項第一号中「四十五歳以上六十五歳未満」とあるのは「四十五歳以上」と、同法第二十三条第一項第一号中「六十歳以上六十五歳未満」とあるのは「六十歳以上」とする。
6 第二項の確認を受けた者(指定期日までの間において従前の事業主との雇用関係が終了した者を除く。)は、雇用保険法の規定の適用については、指定期日の翌日に従前の事業所に雇用されたものとみなす。ただし、指定期日までに従前の事業所に再び就業し、又は従前の事業主の他の事業所に就業するに至つた者は、就業の最初の日に雇用されたものとみなす。
7 第五項の規定により高年齢被保険者等以外の被保険者とみなされた者と従前の事業主との雇用関係が終了した場合(新たに雇用保険法の規定による受給資格、高年齢受給資格又は特例受給資格を取得した場合を除く。)には、その雇用関係が終了した日後におけるその者に関する同法第三章の規定の適用については、厚生労働省令で特別の定めをすることができる。
8 第二項の確認に関する処分については、雇用保険法第六章及び第八十一条の規定を準用する。 

コロナによる休業をこの法律でいう激甚災害と解釈するのは相当に無理があるので、やるとすればこれは緊急事態宣言の根拠法である新型インフルエンザ等対策特別措置法に、上記激甚災害法と同じような雇用保険の特例規定を設ける必要があると思います。

逆に言えば、立法府がさっさとそういう法改正をするのであれば、今野さんの言うことが実現可能ですが、行政府が勝手にコロナは激甚災害だといって

・・・コロナ危機が過去の大災害に匹敵する事態だということに疑いはない。激甚災害に指定するなどし、災害時と同様の措置を適用することによって、この危機的状況に対応していく必要があるのではないだろうか。 

というわけにはいかないと思います。

(追記)

念のため、法律条文上の定義規定を示しておきます。

激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律 

(趣旨)
第一条 この法律は、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)に規定する著しく激甚である災害が発生した場合における国の地方公共団体に対する特別の財政援助又は被災者に対する特別の助成措置について規定するものとする。 

災害対策基本法 

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 災害 暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいう。 

(激甚災害の応急措置及び災害復旧に関する経費の負担区分等)
第九十七条 政府は、著しく激甚である災害(以下「激甚災害」という。)が発生したときは、別に法律で定めるところにより、応急措置及び災害復旧が迅速かつ適切に行なわれるよう措置するとともに、激甚災害を受けた地方公共団体等の経費の負担の適正を図るため、又は被災者の災害復興の意欲を振作するため、必要な施策を講ずるものとする。 

災害対策基本法施行令 

(政令で定める原因)
第一条 災害対策基本法(以下「法」という。)第二条第一号の政令で定める原因は、放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故とする。 

うーむ、適切であるか否かを別にして言えば、この災害対策基本法施行令第1条に新型コロナウイルス感染症を書き加えれば、国会を経ずに閣議だけでやれないわけでもないかもしれませんね。ただ、法律政令に並んでいる事象がすべていかにもいわゆる「災害」であるのと、かなり性格が異なることは確かですが、まあそこは内閣法制局に無理を通していただくのかな。

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