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2020年4月

2020年4月30日 (木)

緊急コラム「新型コロナ対策としての家賃補助の対象拡大」

JILPTのホームページに、新型コロナ関係の緊急コラムとして、「新型コロナ対策としての家賃補助の対象拡大」を掲載しました。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/006.html

 今回の新型コロナウイルス感染症に対しては、政府の各部門を挙げて様々な対策が講じられつつあり、その中には雇用労働政策の観点から興味深いものがいくつもあることは、4月14日付の本コラムに掲載した「新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来」でも紹介したところである。そこでは、雇用調整助成金の要件緩和と対象拡大、テレワークの推進と並んで、子どもの通う学校の休校に伴い親である労働者の休暇取得を支援するための小学校休業等対応助成金を取り上げ、そこにフリーランス労働対策の(意図せざる)出発を見出した。
 この、雇用労働者向けの政策のフリーランス就業者への拡大と類似のベクトルを持つ政策が、生活困窮者自立支援法に基づく生活困窮者住宅確保給付金の支給対象者の拡大である。・・・・・ 

・・・・・・

・・・・・その姿は狭義の労働社会政策の範囲を超えて見られる。これまで労働社会政策の範囲内ですらかなり抑制的であり慎重な姿勢が維持されてきた家賃補助という住宅政策が、今現在、事業者の家賃補助というこれまで考えられてこなかったような形を取り始めている。現時点ではなお与野党双方で検討されている段階であり、新聞報道による間接的な情報しかないが、与党側では売り上げが落ちた飲食店などが金融機関から借りる融資のうち、家賃や借地代に充てた分を国が助成金などで実質負担する仕組みを検討中であり(4月28日自民党岸田文雄政調会長)、野党側では同日新型コロナウイルスの影響で減収になった中小事業者への家賃を支援する法案(中小企業者等の事業用不動産に係る賃料相当額の支払猶予及びその負担軽減に関する法律案)を衆議院に提出した。最終的にどういう形に落ち着くかは未定だが、家賃補助という社会政策手法が雇用労働者やフリーランス就業者を超えて、中小事業者にも大きく拡大していくことは間違いない。まさに、社会に大きなショックを与える危機の時代こそが、政策の方向性や範囲を大きく変える時期になるという、政策研究の経験則が、今回も眼前で進行しつつあるようである。 

雇用調整助成金、社労士の連帯責任解除

日経の記事ですが、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58625030Z20C20A4PE8000/

厚生労働省は企業が支払う休業手当に国が資金支援する雇用調整助成金を巡り、企業の申請書類に偽りなどがあった場合に社会保険労務士にも連帯責任が課される規定を特例的に解除する方向で検討に入った。休業に追い込まれた外食・サービスなど小規模企業の多くは法定書類を作っておらず、罰則を恐れる社労士が二の足を踏み、申請の壁になっているためだ。・・・ 

緊急事態という錦の御旗は最強というわけですが、さてしかし、社会保険労務士の連帯責任は解除されても、当該助成金の受給自体は事後に不正かどうかは当然検査されるわけです。コロナが収まって世の中が平常になり、淡々と物事が動くようになったころに。

そして、その時に、つまりみんな2020年4月現在で世の中がどういう雰囲気だったかを忘れかけたころに、「こんなに不正受給があった!!けしからん」と、正義の味方諸氏が出てくることはほぼ予想されるわけです。

それは、

https://twitter.com/sawaji1965/status/1255097710559891457

「雇調金のさらなる拡充を」とか「もっと早くしろ」とか言うなら、終息後に、「雇調金を減らせ」とか「不正受給が〜」とか、言わないのですよね。与党も野党も。 

与党も野党もですが、何よりもマスコミが、ですね。そのころの、不正受給発覚を舌なめずりするように報ずる新聞の見出しが今から思い浮かびます。

2020年4月29日 (水)

新型コロナと風俗営業という象徴

今回の新型コロナウイルス感染症は、医療問題から経済問題、労働問題まで実に幅広い分野に大きなインパクトを与えていますが、その中で風俗営業というトピックが全く違う文脈で全く違う様相を呈しながら様々に語られていることが興味を引きます。それはあたかも風俗営業というそれ自体はそれほど大きくない産業分野がある意味で現代社会のある性格を象徴しているからではないかと思われるのです。

まずもって、コロナウイルスを蔓延させているのは濃厚接触している夜の街の風俗営業だという批判が登場し、警察が歌舞伎町で示威行進するてなこともありましたが、それはそういう面があるのだと思いますが、実は経済のサービス化というのは、もっともっと広い範囲で人と人との接触(どれだけ「濃厚」かは別として)それ自体を商品化することで拡大してきたのであれば、コロナショックが何よりも人と人とが接触する機会を稼ぎの元としている飲食店やサービス業といった基盤脆弱な日銭型産業分野を、当該接触機会を最大限自粛することによって直撃していることの象徴が風俗営業なのかもしれません。

一方、コロナショックを労働政策面から和らげようとして政府が繰り出した雇用助成金政策に対して、それが風俗営業従事者を排除しているのが職業差別だという批判が噴出しました。そしてその勢いに押された厚生労働省はそれまでの扱いをあっさりと放棄し、風俗営業従事者も支給対象に入れることとしたわけですが、このベクトルは風俗営業のみを卑賎視する偏見に対して、それもまた歴とした対人サービス産業であるという誇りを主張するものであったはずで、その背景にはやはり、風俗営業も他の対人サービス業も、人と人との接触それ自体を商品化する機会を稼ぎのもとにしていることに変わりはないではないか、そして現代社会はそれを経済拡大の手っ取り早い手段として使ってきているのではないかという自省的認識の広がりがあったのかもしれません。

ところが、ここにきて、某お笑い芸人がラジオ深夜番組で語ったとされる、コロナ不況で可愛い娘が風俗嬢になる云々というセリフが炎上しているらしいことを見ると、実は必ずしもそうではなかったのかもしれないなという感じもあります。そのセリフが政治的に正しいものではないことはたしかですが、本ブログのコメント欄に書き込まれたツイートにもあるように、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2019/04/post-5924c7.html#comment-117951899

> 不景気になると
> 岡村隆史「かわいい人が風俗嬢やります」
> 経営者「有能な若者が安い給料で働く」
> あんまり言ってること変わんねえよなこれ 

労働供給過剰によってより品質の高い労働力が低価格で供給されるという経済学的には全く同型的な市場メカニズムを語る言葉が、一方はソーシャルな立場からは全く正しいものではないにもかかわらず、多くの経済学者の口から平然と語られても全く問題にならない(どころか経済学的に正しいことを勇気をもって語ったとしてほめそやされる)のに、芸人の方は集中砲火を浴びるのは、やはりエコノミカリー・コレクトに対するポリティカリー・コレクトとソーシャリー・コレクトの存在態様の大きな格差を物語っているのかもしれません。

これら新型コロナウイルス感染症をめぐってさまざまに立ち現れた風俗営業をめぐる人々の思考のありようは、誰かがもっときちんと、そしてこれが一番大事ですが、どれか一つのアスペクトだけではなく、そのすべての側面を全部考慮に入れたうえで、突っ込んで考察してほしいなあ、と思います。そういうのがほんとの意味での社会学的考察ってやつなんじゃないのかな、なんてね。

(追記)

世の中、ちょっとした時期のずれで大きな差ができることがありますが、本日から申請を受け付け始めた経済産業省の持続化給付金は、中小法人向けの200万円コースも、個人事業主向けの100万円コースも、特定の風俗営業は対象から除外しています。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_chusho.pdf

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_kojin.pdf

不給付要件(給付対象外となる者)に該当しないこと
(1)風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する「性風俗関連特殊営業」、 当該営業に係る「接客業務受託営業」を行う事業者
(2)宗教上の組織若しくは団体
(3)(1)(2)に掲げる者のほか、給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する 

雇用助成金の時には、風俗営業だからと言って排除するのは職業差別だとあれほど騒いだ人々が、岡村発言の直後にはだれも文句を言わなくなってしまっているというあたりに、その時々の空気にいかに左右される我々の社会であるのかがくっきりと浮かび上がっているかのようです。

 

 

2020年4月28日 (火)

日経ビジネスに登場

日経ビジネスの「論点コロナ・エフェクト」というところに、私のインタビュー記事が出ています。インタビュワは白井咲貴さんです。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00152/042700007/ (労働政策研究所長「コロナ禍、雇われない働き方の議論を始めよう」)

—新型コロナウイルスの影響が長期化し、雇用環境も悪化しています。

濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長:今回の新型コロナウイルスの最大の特徴は、打撃を受けているセクターが、バーや飲食店など小規模で1カ月、お客が来なければ潰れてしまうようなところだということです。リーマン・ショックや、もっと言えばオイルショックのときとは対照的です。雇用調整助成金はオイルショックの頃にできましたが、鉄鋼など重厚長大型の産業の正社員を守ることを前提にした制度です。それゆえ、スピード感がない。
 だからといって、お金をポーンと出せば、モラルハザードになりうる。リーマン・ショックの後、会計検査院に雇用調整助成金の不正受給が指摘されたこともありました。雇用調整助成金以外の支援も必要です。
 ただ、注目すべき動きもありました。今回、雇用調整助成金の要件が緩和され、雇用保険の被保険者でなくても対象になったのです。これは、非正規労働者に対する保護の拡大と見ることができます。日本の伝統的な雇用システムは、正社員と非正規社員を別に扱ってきました。それがここ10数年間で見直されてきており、新型コロナウイルスが後押しする可能性があります。

—フリーランスなど、雇用されていない人の保障はどうすればいいのでしょうか。
・・・・・・

 

 

 

 

今日はコロナ禍のさなかの国際労働者祈念日

Arton2287594068 本ブログでは毎年、連合も全労連も祝ってくれない国際労働者祈念日(International Workers’ Memorial Day)を注意喚起しておりますが、今年も新型コロナウイルスで全世界の労働者が安全衛生上の危険に曝されながら働いているさなかに、改めて念押し的に注意喚起しておきます。国際労連(ITUC)のサイトから:

https://www.ituc-csi.org/28April2020?lang=en

April 28 is International Workers’ Memorial Day or Workers’ Mourning Day. This is the international day of remembrance and action for workers killed, disabled, injured or made unwell by their work. 

The focus this year is of course the global COVID-19 pandemic. While everyone is affected by the crisis, workers are on the front line.
“Healthcare workers in particular are risking their lives doing their job to take care of the sick. And there are people working in aged care and other facilities looking after the most vulnerable groups of people. But we also need transport and supermarket workers, providers of essential services and many others to keep the economy going. People should also thank these workers because if you can’t buy food, then you can’t keep your family sustained and healthy,” said Sharan Burrow, ITUC General Secretary.
International Workers’ Memorial Day 2020 will be held in support of all these courageous workers and in remembrance of the people who have died or become sick or injured while doing their job.
Social distancing and lockdown measures most likely mean that physical meetings and events will not be possible

4月28日は国際労働者祈念日または労働者追悼日である。これは、仕事で死んだり、障害を負ったり、傷ついたり、体調が悪化した労働者のための国際的な記憶と行動の日である。

今年の焦点はもちろんグローバルな新型コロナパンデミックだ。誰もがこの危機の影響を受けるが、労働者はその前線にいる。

「とりわけ、医療労働者は病人の世話というその仕事をすることによりその生命を危険に曝している。そして、もっとも脆弱な人々を面倒見る高齢者その他の施設で働く人々もいる。しかし我々は運輸労働者やスーパーマーケット労働者、経済が動くためのエッセンシャルサービスの提供者その他の多くの人々を必要としている。人々はまた、もし食物を買えなければ家族を健康に保つこともできないのだから、これら労働者に感謝すべきである」とITUCのシャラン・バロー事務局長は言った。

2020年国際労働者祈念日はこれら勇敢な労働者を支持し、その仕事を遂行して死んだり病気になったり傷ついた人々を記憶して行われる。・・・

 

シニア全共闘世代の雑誌

Joukyou 服部一郎さんから雑誌『情況』2020年春号が送られてきたのですが、いや正直言って、全共闘世代の全共闘世代のための雑誌ですな。全体からもう半世紀以上昔への追憶ばかりが漂ってくる。

服部さん曰く、

本号は白井聡氏の編集責任号ということで、白井聡氏と山本太郎、鳩山由紀夫、金子勝という大物3氏との対談が目玉となっております。

後は別に読む必要はないかと思います。単なるマニア向けの読み物です。

いやまあ、服部さんみたいな若い世代でこんなのを読むのは変わった「マニア」なんでしょうが、むしろ70代の老境に入った全共闘世代が若かりし頃を追憶するためのシニア雑誌といった方がいいような。

この「大物」インタビュイーの人選も、全共闘の活動家だった人々に、「好きな言論人」を聞いたらダントツで上がった名前だったそうで。要は全共闘爺さまたちの好きなメンツというわけです。確かに、シニアとマニア以外は読まないでしょうね。

なかでも山本太郎と金子勝は特に何も残らなかったですが、さすがに鳩山由紀夫氏に対しては、かつて東アジア共同体を唱えた政治家にいまの習近平政権をどう見るかという、なかなかスリリングな問を発しています。

・・・ここで、是非これは鳩山先生にお聞きしたいと思っているのは、習近平政権をどう見るかということなんですね。やっぱり、アメリカばっかり向いているという状況から、中国へもっと目を向けるという方向へ日本の国策の大元がシフトしなけりゃいけないのではないかということは、長年いろんな人が言ってきたことですけれども。

その一方で、この数年間で急速にある種の不安が広がってきているのは、中国の体制が、どうもちょっとおかしなことになっているんではないかと。例えば、学術の世界なんか見ててもですね、習近平政権になってから、それまでかなり自由にものを書いたり研究したりしていた中国の学者さんが、いまは体制を絶対に批判しないというような姿勢に転ずるとか。・・・

鳩山氏がどう答えているのか、あるいはむしろ答えていないのかは、(大きな本屋があまり開いていない現下の状況ではありますが)是非本屋さんの店頭で確認してみてください。

私の感想は、こういう問自体が、それこそアメリカ帝国主義ハンターイ、米帝に抗する中国社会主義を支援せよみたいな半世紀以上昔の認識枠組の延長線上にあるような。それ全部ひっくり返すような、たとえば最近鬱状態から回復してまたぞろ本を出し始めた與那覇潤さんに問を出させれば、全然違う聞き方になると思うんですが、まあそれはもはやシニア&マニア向け『情況』誌ではないのでしょう。

 

『情報労連REPORT』4月号

2004_cover 『情報労連REPORT』4月号は「雇用によらない働き方」が特集です。

http://ictj-report.joho.or.jp/special/

どこが問題?雇用によらない働き方

「雇用によらない働き方」と労働法 原 昌登 

請負労働者の権利行使 使用者とどう対峙するべきか 指宿 昭一

労働法改革の「Rebalancing」とは? 集団的労働関係法の見直しを考える 古川 陽二

日本の自営業の動向 若年層は独立よりも正社員志向 仲 修平

「ベルコモデル」の闇を追及 絶対に負けられない闘い 

業務委託を理由に団体交渉を拒否 De-self労組DQSジャパン支部の闘い 

ウーバーのドライバーは「労働者」か?世界で広がるライドシェアと規制強化の動き 浦田 誠

なぜ今、副業・兼業か ずれる政府の建前と現実 山崎 憲

副業・兼業と過重労働 掛け持ちしなくても生活できる労働条件が基本 川人 博

事業者間の交渉力格差をどうするか 請負側が知っておきたい法的ルールとは  菅 俊治

というわけで、さすが対馬さん、このテーマについてはこの人という人を集めています。

さて、この特集には含まれていませんが、おなじみ小林良暢さんのWATCHING経済が「コロナ恐慌と雇用保険格差 フリーランスへの支援差別はなぜ起こる」と、この問題に関わりのあるとトピックを取り上げています。

例の、学校の一斉休校時の支援金の話ですが、最後に

・・・こうした雇用保険制度の欠陥からくる雇用保険格差は、働く者はあまねく労働者とすれば、直ちに解決する。

と言われます。いやいや、「直ちに」って、そもそも雇用労働者であることを前提とする雇用保険に、雇用じゃないフリーランス、自営業者をどう入れ込むかという話は、そう簡単なものではないです。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/002.html (緊急コラム 新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来)

・・・雇用と非雇用の間には暗くて深い川が流れていて、そう簡単に飛び越えることはできないのである。・・・ 

しかし、先日JILPTの緊急コラムでも述べたように、

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/005.html (緊急コラム 自営業者への失業給付?─EUの試み)

・・・現在の日本ではなお、自営業者の失業給付という議論はほぼ全く存在していないが、新型コロナウイルス感染症を契機に沸き起こったフリーランスを含む自営業者への休業補償を求める声を、理論的に突き詰めて考えていくと、昨年末に成立したばかりのEU勧告の方向性と重なり合う部分もあるように思われる。

そこがいままさに世界的に焦点になってきているのも確かなんです。

私はアメリカにはまったく土地勘がないので、できれば知っている人に教えてほしいのですが(JILPTのアメリカ専門家だった山崎憲さんは、この4月から明治大学経営学部に行ってしまいました)、今回のコロナ対策として、アメリカ政府はフリーランスにも失業給付を出すことにしたようですし。

 

 

 

 

 

 

2020年4月27日 (月)

東京新聞(中日新聞)にも登場

Pk2020042702100075_size0 今朝の東京新聞(中日新聞)に、「働き方変革迫る新型コロナ 休み方 今こそ見直し」という平井一敏記者の記事が載っていて、その中に私も登場していくつか喋っています。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/202004/CK2020042702000160.html

ゴールデンウイーク(GW)が始まった。例年ならこの時期、多くの人が心を躍らせているはずだ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない今年は、外出を控えることが強く求められる。国や自治体の要請、経営が苦しい会社の都合などによって、働きたくても休まざるを得ない人も多い。そもそも「休み」とは何のためにあるのか。・・・・ 

・・・労働問題に詳しい労働政策研究・研修機構研究所長の浜口桂一郎さん(61)は「他の人が頑張っている中、自分だけが休むことに後ろめたさを感じるのだろう」と指摘。調和を重んじる日本人の精神文化に加え、休まないことを意欲の表れと見なす人事評価の慣習が背景にあるとみる。・・・・・ 

 

朝日澤路さんの雇調金解説に登場

Sawaji 今朝の朝日新聞に、澤路毅彦さんが「(記者解説)新型コロナ、休業対策 雇調金の交付、対応を急げ」を書かれていて、

https://www.asahi.com/articles/DA3S14456868.html

新型コロナウイルスの感染拡大が雇用に影を落とす中、政府が企業に活用を呼びかけているのが雇用調整助成金(雇調金)だ。企業が従業員を休ませて手当を支払った場合に、その一部を雇用保険から助成する。・・・ 

雇用調整助成金の成立から今までの紆余曲折をざっと解説しています。その中に、私もちらりと登場しています。

 

 

2020年4月25日 (土)

雇用調整助成金のさらなる拡充

新聞にちらちら出ていた雇用調整助成金のさらなる拡充の概要が、詳細の詰めを待たずに先行的に公表されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11041.html

https://www.mhlw.go.jp/content/11603000/000625165.pdf

中身は二つ。どちらも助成率の引き上げですが、一つ目は、賃金の60%を超えて休業手当を支給した部分について助成率を10/10にするというもので、60%部分の会社負担6%は残るので、トータルの助成率は94%になります。

二つ目は、例の休業要請するなら補償しろ論に対する別の球返しという意味合いになりますが、特措法に基づき休業要請を受けた事業主に対しては、そういう区分も抜きにしてとにかく10/10助成するというもの。これは100%助成ですね。

一方、報じられていた上限額の引き上げはここには含まれていません。

減らされた人数で、支給決定が遅いと殴られながら、とにかくなんとかやっているようです。ポエム書いてる暇はありませんね。

テレワークを遠隔監視労働にしていいのか?

K10012404611_2004241950_2004241957_01_03 昨日のNHKの記事にこういうのがあったのですが、

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200424/k10012404611000.html (テレワーク 働きぶりの“見える化” 導入広がる 新型コロナ)

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、テレワークを導入する企業が増える中、会社にいないため、働きぶりを直接、見ることができない社員の勤務時間や勤務状況を管理するシステムの導入が広がっています。 

・・・・この企業がテレワークを始める時に導入したのが、パソコンのクリック一つで勤務時間が管理できるシステムです。パソコンのデスクトップ上に、「着席」「退席」というボタンがあり、テレワークを行う社員が業務の開始時と終了時にそれぞれクリックするだけで、自動で日々の勤務時間を管理してくれます。

また、昼食などで休憩に入るときも、そのつど、「退席」と「着席」のボタンをクリックすることで、休憩時間も1秒単位で記録されます。

記録された内容はシステム上で管理され、会社の上司は、部下が今働いているのかどうかや、月の勤務時間がどれくらいになっているかを確認できます。

さらに、このシステムでは、社員が「着席」のボタンを押して仕事をしている間の、パソコンの画面がランダムに撮影され、上司に送信される仕組みもあります。いつ画面が撮影されるか社員には分かりません。

会社では、自宅で働く社員に一定の緊張感を持ってもらう効果があると考えています。また、上司は送信されてくる画面を見れば、部下が今どんな作業をしているか把握ができます。・・・・

いやこれ、ほんとにこういう「見える化」が望ましいものなのかそうでないのか、ちょっと立ち止まって考えたほうがいいのではないかと思いますよ。

確かに、つい昨日まで導入する気がなかったような企業が、新型コロナで急遽テレワークだというわけでやりだしたら、今まで職場でやっていたことを全くそのままやれるようにしたくなるのはよくわかりますが、そこでこういうパノプティコン型遠隔監視労働の形を作り上げてしまったら、せっかくテレワークが本来もたらしてくれたかもしれない大事なものを、生まれる前に踏みつぶしてしまうかもしれないという危惧の念も、少しは持ったほうがいいような気がします。

先日、新型コロナの関係で書いたコラムでも、テレワークに触れてこう述べたところですが、

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/002.html (緊急コラム 新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来)

今回は新型コロナウイルス感染症によって急激に問題意識が持ち上がったが、過去十数年にわたる情報通信技術の発展によって、今や世界的に「いつでもどこでも働ける」状況が広がりつつある。その中で、産業革命時代の労働者が工場に集中して一斉に労働するというスタイルを前提にした労働時間法制の在り方について再検討する必要性が各方面から提起されてきている。今後はむしろ、裁量労働制の見直しとも絡むが、業務の遂行手段と時間配分の決定等について使用者がいちいち指示しないことに着目する形で、テレワークに対する労働時間規制の在り方を見直していく必要があるように思われる。今回どこまでテレワークが拡大するかはまだ不明であるが、今回初めてテレワークを実践することによってさまざまな問題点が指摘され、その法制の在り方が見直されていくきっかけになれば望ましい。 

ここは、当面社員の仕事ぶりが「見えない」ことにイライラが募るかもしれませんが、テレワークという新たな働き方の可能性をできるだけ潰さないような慎重なやり方が必要だと思います。

2020年4月24日 (金)

フランスのコロナウイルス雇用対策

JILPTのHPに、海外情報収集協力員の藤本玲さんによる「部分的失業制度の特例措置で遡及支給も可能に」という情報がアップされました。

https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2020/04/france.html

Fujimoto_rei 新型コロナウイルス(Covid-19)の感染が拡大する中、2020年3月12日、マクロン大統領はフランス全土で、翌週から全ての学校を休校とするとともに、テレワークの推進を企業に強く求めることを表明した。同時に、経済への打撃を緩和するため、部分的失業制度などを積極的に活用し、雇用を維持する方針を表明した(注1)。3月14日にはフィリップ首相が感染拡大を抑制することを目的に、カフェやレストラン、映画館、食料品以外の商店などの翌日以降の営業禁止を発表した。3月15日の日曜日は、好天に恵まれたこともあり、カフェや商店が閉まる中、多くの市民が公園や河川敷等に集まった。政府は感染爆発を恐れ、フランス全土で3月16日の正午から少なくとも15日間、外出を禁止すること(テレワークが出来ない場合の通勤や食料品購入のための外出などは除く)を決定し、マクロン大統領が発表した(3月15日)。この外出禁止は、4月15日まで延長となり、その後、5月11日まで再延長となった。・・・・ 

現地在住の労働研究者による現地リポートです。これから他の諸国についても続々とアップされる予定です。

 

若手官僚二題:スレイブ厚労省vsポエム経産省

いや、タイトルの通りなんですが、

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000540524.pdf(厚生労働省改革若手チーム緊急提言)

厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったと ずっと思っている 

https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200422001/20200422001-1.pdf(経済産業省・官民若手イノベーション論ELPIS)

半年かけて、若手100人で30年後の未来を議論

いやまあ、いろんな議論をするのはいいことです。

でも、ただでさえ少ない人数の中からコロナ医療対策に人を応援に出し、残った数少ない人数で(たとえば労働関係でいえば)必死に雇用調整助成金の要件緩和を作り、通達し、しかし支給決定が全然少ないと新聞に叩かれ、言い訳させられている若手官僚から見れば、この時期に若手100人で30年後の未来を議論できる役所がすぐ隣にあるなんて、夢の国の話みたいに感じるでしょうね。

(追記)

この半ば冗談めかした記事を、峰崎直樹さんに『チャランケ通信』で取り上げていただいているんですが、そこではもう少しまじめに「経産省的なるもの」に対する批判がさく裂していて、二木立さんの言葉を引いて

・・・かつて霞が関では、旧通産省は「千三つ官庁(千の提案で三つ実現すればよい)、旧経済企画庁は「公家の館」と呼ばれていました。いずれも軽やかではあるが、詰めの甘い、アイディア倒れの官庁といったニュアンスです。・・・・

とか、いや確かに、詰めの甘さ、アイディア倒れの典型例が眼前に展開していますな。ちなみにトリビアですが、せんだみつおという芸人の名前は、この「千三つ」からきています。千三つ芸人というわけです。

で、私のこのエントリを引いて、こう慷慨されます。

・・・この両省の置かれている現実、どう見ても同じ日本国の中央省庁のこととは思えないほどのひどい格差がありすぎると思う。経済が成熟していて、エネルギーと中小企業対策ぐらいしかやることがなくなった省と、厚労省のように総定員法の下での定数不足のしわ寄せをまともにかぶりながら、国の予算の半分近くを占める年金・医療・介護・少子化・雇用といった国民生活に密着した仕事に追われている省の違いがあまりにも露骨に出ているわけだ。・・・・ 

まあ、まじめな言い方をすれば、国民にとって一番大事な仕事をしている役所がスレイブにあえぎ、一番そうじゃない役所がポエムを謳歌するというのは、やはりどこかが間違っているというべきなのでしょう。

 

 

 

 

2020年4月23日 (木)

神林龍『正規の世界 非正規の世界』に日本学士院賞

24820 新型コロナウイルスで埋め尽くされるような日々ですが、気が付くと神林龍さんの『正規の世界 非正規の世界』に日本学士院賞が授賞されていました。

https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2020/040601.html#003

Kambayashi_ryo 神林 龍氏は、戦前期から現代にいたる日本の労働経済の諸側面—職業紹介制度、長期雇用と年功賃金によって特徴づけられる日本型雇用制度、正規・非正規雇用問題、自営業衰退問題、賃金および業務(タスク)構成からみた二極化現象、解雇権濫用・就業規則変更問題、最低賃金制度・労働者派遣法問題等—を取上げ、通念にとらわれない斬新な考察を加えてきました。神林氏の『正規の世界・非正規の世界—現代日本労働経済学の基本問題』(慶應義塾大学出版会、2017年11月)は、それらの興味深い発見事実を1世紀にわたる歴史のなかにおき、それによって、現代日本の労働市場の全体像を提示し、今後どの方向へ変容してゆくかを描き出した大著です。なかでも、非正規雇用の増加を説明する要因が正規雇用からの脱落ではなく自営業の縮小であったことを実証し、賃金格差の検討に加えてタスク分析を導入して二極化現象の実態を明らかにしたこと、そして労使自治と第三者介入の対比を軸に労働経済の基調とその変容を描き出したことは斬新で、特筆に値します。

神林さんは一流の労働経済学者であるだけでなく、歴史への造詣も深く、本書にはそういう神林さんらしさが存分に表れています。本ブログでは、本書をお送りいただいたときと、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-9678.html

労働関係図書優秀賞を受賞されたときに、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-4ef7.html

コメントしています。

 

 

 

2020年4月21日 (火)

緊急コラム「自営業者への失業給付?─EUの試み」

JILPTのホームページに、新型コロナ関係の緊急コラムとして、「自営業者への失業給付?─EUの試み」を掲載しました。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/005.html

現在進行中の新型コロナウイルス感染症は経済の様々な部門に大きな影響を与えつつあるが、その中で特にホットな議論となっているのが、とりわけ感染クラスターの元となる危険性の高い飲食店やサービス業に対する自粛要請等による休業に対して補償すべきではないかという論点である。もちろん、そうした事業所で雇用されて働いている労働者に対しては、雇用を維持したうえでの雇用調整助成金から失業した場合の雇用保険の失業給付まで、さまざまな労働市場セーフティネットが設けられているが、彼らを雇う側の事業主、あるいは自ら経営しつつ労働する一人親方型の自営業者には、政策金融公庫等による融資のほか、今回のコロナ不況の中で、法人事業主には200万円、フリーランスなど個人事業主には100万円の持続化給付金が創設されつつあるとはいえ、雇用労働者のような完備したセーフティネットは存在しない。・・・・・ 

・・・・・・・

・・・・・現在の日本ではなお、自営業者の失業給付という議論はほぼ全く存在していないが、新型コロナウイルス感染症を契機に沸き起こったフリーランスを含む自営業者への休業補償を求める声を、理論的に突き詰めて考えていくと、昨年末に成立したばかりのEU勧告の方向性と重なり合う部分もあるように思われる。

 

外国人高度人材の虚実@WEB労政時報

労務行政研究所の「WEB労政時報」に、「外国人高度人材の虚実」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/login.php

 日本の外国人労働者政策は、過去30年にわたってフロントドアをほとんど閉ざしたまま、日系人2世・3世や研修生・技能実習生といったいわゆるサイドドアを広げることで対応してきたと指摘されています。そして、ようやく2018年入管法改正で導入された「特定技能」という在留資格によって、高度専門職でない一定の技能労働者の正面からの導入が始まったことは周知のとおりです。
 では、これまでも積極的に受け入れるという方針であった専門的・技術的分野の外国人労働者受け入れ政策はどこまでしっかりとしたものなのでしょうか。今回はその経緯を概観しておきましょう。・・・・・・・  

マルクスの労働思想(を取り上げない理由)@『労基旬報』2020年4月25日号

Karl_heinrich_marx 『労基旬報』2020年4月25日号に「マルクスの労働思想(を取り上げない理由)」を寄稿しました。

 わたしは株式会社ニッチモが刊行する人事関係の季刊誌『HRmics』に、2015年8月号(第22号)から「原典回帰」という連載をしています(まだ続いています)。第一回のウェッブ夫妻の『産業民主制論』から始まって、取り上げた本は既に英米独仏日5か国の12冊に及びます。ところで、この連載には、編集長の海老原嗣生さんのアイディアで「マルクスなんてワン・オブ・ゼム。労働イデオロギーの根源を探訪」という魅力的なサブタイトルがついていますが、これまでのところ、まだマルクスの本もマルクス主義の本も取り上げていません。正直言うと取り上げる気があまりしないのです。とはいえ、ワン・オブ・ゼムといいながらナン・オブ・ゼムではサブタイトルに反するではないかとか、もっとまじめに、マルクスこそ労働思想の最高峰なのに、それを無視するとは許し難い保守反動の書だ!と怒り心頭に発する人もいるかもしれません。
 そこで、マルクスの本を取り上げたく理由というまことに消極的な角度からのものではありますが、マルクスないしマルクス主義と労働運動という、(かつてであれば山のような本が積み上がっていたけれども)最近ではあまりきちんと論じられることのない領域について、ほんとにごくごく簡単に私の乏しい知識の範囲内のことをまとめておきたいと思います。
 ご承知のようにマルクスもエンゲルスもドイツ人ですが、ベルギーやフランスに亡命し、後半生はずっとイギリスで過ごしました。彼らの資本主義分析も労働論も、基本的には当時世界の最先進国であったイギリスの製造業がベースになっています。ただ、彼らが描き出した悲惨な工場労働者の姿は主として繊維産業のかわいそうな女子年少労働者が中心で、ウェッブ夫妻が描いた機械金属産業の熟練職人たちではありません。もちろんいずれも当時の労働の現実だったわけですが、少なくともトレード型のイギリス労働運動を生み出し発展させていったのは、マルクスが「労働貴族」と罵った彼らジャンタたちであったのは確かです。工場法や労働基準法がなぜ作られたのかを語るのであれば、エンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』やマルクスの『資本論第1巻』は必読文献でしょうが、労働組合法の起源を語るのには必ずしも適当ではないのです。
 こうして、イギリスやアメリカの労働運動にとってはマルクスは縁なき衆生に終わったのですが、マルクスやエンゲルスの祖国ドイツではさすがに彼らの思想が労働運動に大きな影響を与えました。ドイツはイギリスに比べ産業化は遅れており、渡り職人のヴァイトリングらがフランスに亡命して正義者同盟なんていうやたらに意識高い系の結社を作ったりしていました。マルクスらが入って共産主義者同盟と改名したこの結社の綱領として書かれたのが有名な『共産党宣言』です。ちなみに、戦後日本の新左翼界隈で流行った「ブント」ってのは、この共産主義者同盟の「同盟」からきています。
 その後ドイツの労働運動はプロイセン政府の支援を求めるラッサール派が主導権をとり、マルクスらはそれを猛烈に叩きます。その後ビスマルクによる社会主義弾圧を経て、マルクス主義者のカウツキーやベルンシュタインらが率いる社会民主党が発展していきますが、ここまでは労働運動は社会主義運動の陰に隠れていました。19世紀末になってようやくレギーン率いる自由労働組合が発展していきます。ベルンシュタインはウェッブ夫妻と付き合って修正主義を唱えましたが、カウツキーら正統派はマルクス主義に固執しました。しかし、第一次世界大戦が事態を大きく変えました。戦時中の「城内平和」で労働組合は積極的に戦争に協力し、その代わりに労使共同参加や企業内労働者委員会といったワイマール労働システムの端緒を手に入れたのです。
 実のところ、リープクネヒトやローザ・ルクセンブルクら急進派を除けば、社会民主党の大勢は(口先は別にして)修正主義にシフトしていたようです。1918年11月のドイツ革命では、前年起きたロシア革命でボルシェビキ(共産党)が唱えた「すべての権力をソビエトへ」に倣って「すべての権力をレーテへ」が唱えられました。ソビエトもレーテも労兵評議会という意味ですが、ここでは「レーテ」が急進派のシンボルだったのです。ところがエーベルトら社会民主党の指導部は軍部と連携して急進派の反乱を鎮圧し、議会制民主主義を維持します。これと並行して、中央労使団体間のシュティンネス・レギーン協定によって、ワイマール労働システムの大枠が合意され、順次法制化されていきます。
 ここで面白いのは、「ソビエト」のドイツ語版であり、ドイツ共産党のシンボルであった「レーテ」が、むしろ戦時中の城内平和で確立した企業内労働者委員会を受け継ぐ「ベトリープス・ラート」の「ラート」として(見事に換骨奪胎されて)受け継がれたことです(「レーテ」は「ラート」の複数形)。その後の社会民主党や労働組合はまさにナフタリ流の「経済民主主義」路線を歩んでいき、共産党とは敵対関係になりますが、その中核に革命期の「レーテ」という言葉が残っているのは皮肉です。逆に言えば、今日の社会民主党にもドイツ労働総同盟にも、その「レーテ」という言葉以外にはマルクス主義は残っておらず、思想的には絶縁しているのです。
 一方、その「ソビエト」の系譜はソ連で発展し、第二次大戦後は東欧諸国や中国などに広がり、先に述べたマルクス主義対非マルクス主義という二項対立図式が常識化します。しかし、共産圏では労働組合は共産党の下部組織に過ぎず、その自律性を唱えたトムスキーや李立三らは粛清されました。終戦直後にはいったん世界労連という形で統一しましたが、1949年には西側の労働組合が脱退して国際自由労連を結成し、二項対立図式を具現化しました。ちなみに、戦後ILOで結社の自由と団結権条約が金科玉条のように振り回されたのは、西側労働組合の共産圏に対するイデオロギー攻撃だったのです。共産圏には結社の自由も団結権もないではないかと。お前らは共産党の召使に過ぎず、ILOの三者構成原則に背く奴らだと。ところが戦後日本ではこれが、公共部門の労働基本権をめぐって(マルクス主義にシンパシーを抱く)総評系官公労が(反共主義の)保守政権を攻撃する手段として使われるというこれまた二重の皮肉がありました。
 もっとも、西側の有力組合でも戦後フランスのCGTは世界労連に残り、共産党と繋がっていました。しかしそのCGTも、ソ連崩壊後は世界労連から脱退し、2006年には(国際自由労連とキリスト教系の国際労連が合併してできた)国際労連に加盟しています。二項対立図式はほぼ完全に崩壊したといえます。もちろん今も世界にはマルクス・レーニン主義を掲げる共産主義労働組合というのは細々と存在していますが、論じるに足る存在としてはもはやほとんどないといっていいでしょう。
 というわけで、歴史の流れを本気で論じだすといっぱい語るべきことはありながら、では労働思想の古典として何か一冊マルクスの、あるいはマルクス主義の本を取り上げて講義するという気にはとてもならなかったのです。せっかく海老原さんが「マルクスなんてワン・オブ・ゼム」というサブタイトルをつけてくれたにもかかわらず、遂に一冊も取り上げるに至らなかったことの背後には、こういう複雑怪奇な事情があったわけです。
 しかし、こういうマルクス界隈の話というのは最近さっぱり人気がないため、かつてはある程度常識であったこういうことも、近年はちゃんと説明してくれる人も少なくなったので、こういうまことに意気上がらないつまらない話も意外に役立ったという人もいるかもしれません。もしそうなら、せめてもの慰めです。 

なお、ニッチモのHPはこちらです。ここで『原典回帰』はすべて読めます。

http://www.nitchmo.biz/index.html

 

 

2020年4月20日 (月)

新型コロナウィルス感染症対策-簡易型フェイスシールドの設計図の公開と作り方@小野晶子

Ono_a JILPT研究員の小野晶子さんが、緊急コラムの一環として、「新型コロナウィルス感染症対策-簡易型フェイスシールドの設計図の公開と作り方」を解説しています。この時期、とても重要な情報です。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/004.html

新型コロナウィルスの感染力はすさまじい。目の粘膜からも感染する。医療現場では、このウィルスを防御する装具が必須なのだが、今、その不足に直面している。
医療用のマスクは恒常的に不足しているが、それだけでなく使い捨て出来る割烹着スタイルのエプロン(防護服)、手袋、キャップ、シューズカバー、ゴーグル、フェイスシールドがない。杉並区のコロナ対策の基幹病院で勤める看護師の友人から不足の現状を聞かされた。
友人の病院ではフェイスシールドは1週間で1600枚必要という。横浜の病院に勤める方からも、フェイスシールドが手に入らず、A4ラミネートフィルムで手分けして1000枚作ったという情報を写真と共にもらった。・・・・ 

リンク先に、簡易型フェイスシールド設計図と作成手順がPDFファイルで載っています。フェイスシールドを装着した姿はこの通り。

Ono

 

2020年4月18日 (土)

日本人はまだ「休み方」を知らない@『Newsweek日本版』4/21号

0421thumb240xauto193103 新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出される中で発売された『Newasweek日本版』4/21号は、しかし「日本人が知らない休み方・休ませ方」を特集しています。

https://www.newsweekjapan.jp/magazine/271683.php

コロナ禍の在宅勤務が問う「働く」「休む」の境界線 なぜ日本人は休めない病なのか? 

労働 日本人はまだ「休み方」を知らない
日本企業の休み方
■富士通 幹部が率先して休みICTをフル活用
■ディスコ 「社内通貨」を使って主体的な休み方を実現
■ジャパネットたかた 新社長の経営改革で16連休を「強硬」実現
世界の休み方
ドイツ 厳格な法律と合意で有休取得100%
フランス バカンスこそが経済を回す
ノルウェー 便利で休めない社会より不便でも休める社会
中国 西欧を見て羨み日本よりはマシと慰める

その「日本人はまだ「休み方」を知らない」という記事の中に、小倉一哉さんや佐藤博樹さん、出口治明さんといった方々の後で、わたくしも顔を出しています。

・・・なぜ日本はなかなか変われないのか。その疑問を解くために、日本型雇用システムの歴史をひもとく。

安定した雇用と引き換えに

日本型雇用システムの特徴は「長期雇用」と「賃金の年功序列制」と言われる。しかし、労働政策研究・研修機構研究所長の濱口桂一郎は、一番大きいのは「雇用契約の性質」だと指摘する。・・・・・・

「タスク型」雇用の時代へ
・・・・・・ もっとも、就業規則や法律で定めれば全てが解決するわけでもない。私たちが新たに直面しているのは、ジョブ型でもメンバーシップ型でもない、新たな形の雇用社会だと濱口は警鐘を鳴らす。
「いま世界で起きているのは、『タスク型』雇用社会の出現」と、濱口は言う。「配車サービスのウーバーをはじめ、ジョブの中にある一つ一つのタスクを単発仕事(ギグ)として請け負う『ギグワーカー』が出てきたことで、これまでの安定したジョブ型の雇用も急速に壊れつつある」
 タスク型になれば、もはや休みも失業も、労災という概念もないというわけだ。世界は産業革命以前の時代に戻りつつある、という危機感を持っている専門家が多い。・・・・・  

執筆者の宇佐美さんの取材を受けたのは2月7日で、コロナはまだまだ武漢だけの話という雰囲気だったころです。それだけしっかりと取材を重ねた記事なんですが、ちょうどコロナの真っただ中にぶち当たってしまいました。でも考えてみれば、「休めない病」の問題は今現在のコロナ禍の中でこそきちんと考えてみるべきことなのでしょう。

 

 

2020年4月17日 (金)

周燕飛さんの緊急コラム「新型コロナで生活破綻のリスク群に支援を」

Zhou_y JILPTの周燕飛さん(『貧困専業主婦』の著者)が、新型コロナの緊急コラムの第3弾として「新型コロナで生活破綻のリスク群に支援を」を書いています。経済学系の研究者として労働社会問題に取り組んでいる周さんらしいエッセイです。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/003.html

百年に一度の大パンデミック
4分の1の現役世帯は失業や収入急減への備えが不十分
支援のターゲットをどう決めるか
個人向け無利子・無担保貸付の必要性 

ちなみに、冒頭に中国女性作家・方方の「武漢日記」からこういうエピグラフが

「時代の塵一粒が、一人一人の肩にかかると、その重みは山に匹敵する」 

 

2020年4月16日 (木)

日本看護協会という(本来的)トレード・ユニオン

Logo 日本看護協会が、加藤厚生労働大臣と西村特命担当大臣に「新型コロナウイルス感染症対応している看護職に対する危険手当の支給等について」要望をしています。

https://www.nurse.or.jp/up_pdf/20200415160616_f.pdf

現在、日本国内の複数の地域で感染経路が明らかでない新型コロナウイルス感染症 の患者が散発的に発生しており、国民・医療関係者が一体となって拡大防止に努めて おります。さらには、無症状者が別の疾患等で医療機関を受診することなどによって、 院内感染が生じ、医療従事者は、自身が感染する、自身が感染の媒介者になるかもし れない不安や恐怖を感じながら職務にあたっています。

なかでも看護職は24時間、 365日患者に関わっており、感染に対するりスクは 甚大です。

また新型コロナウイルス感染症に対応している医療機関の看護職は、「感染するから 保育を拒否される」「感染するからタクシーから乗車拒否される」などの謂れのない誹 誇中傷を受けています。

国難ともいわれる今般の状況において、自らの危険を顧みずに業務に従事している 看護職に、危険手当等を支給していただきますようお願いいたします。

具体的には、

【要望1】 下記の通り、新型コロナウイルスに感染した患者に対応した、又は対応する可能 性が高い看護職一人ひとりに対し、危険手当を支給されたい。

1.対象となる看護職

① 新型コロナウイルスに感染した患者又は感染した疑いのある患者に対応した 看護職及びその補助を行った看護職

2.支給方法 危険手当を大幅に増額し、対象看護職個人に支給すること

3.支給期間 日本国内で初めて新型コロナウイルス感染が確認された日から、新型コロナ ウイルスの蔓延がほぽ終息したとして別に定める日まで

【要望2】 要望1に記載した看護職が帰宅せずホテル等に宿泊した場合、当該看護職に対し1泊につき 15,000円を上限に宿泊費の補助(病院において費用を負担している場合 は医療機関に対して補助)を行っていただきたい。 

いうまでもなく、日本看護協会は医師会や弁護士会と同列の職能団体であり、労働組合ではありません。しかし、医師や弁護士が相当程度に開業医や開業弁護士の集まり(事業主団体)としての性格を有しているのに比べると、看護師は管理職にあるものも含め圧倒的に病院や診療所に雇用される被用者であり、事実上職種別労働組合的性格を強く持っているのでしょう。

こういう要望を出せるというところに、日本の企業別組合にはまねのできない、本来的トレード・ユニオンの性格を受け継ぐ職能団体としての強さがよく表れていると感じます。

 

2020年4月15日 (水)

『社会政策』第11巻第3号

498424 社会政策学会の『社会政策』第11巻第3号は、「一億総活躍社会」の現実を問うというのが特集で、いや個々の論文はなかなか面白かったりするんですが、肝心の「一億総活躍社会」との関りが(いや、一応説明はされているものの)なんだかぼけているという印象。その象徴が、仁田道夫さんの座長報告で、全体をとりまとめるどころか、各報告とは関係のない公共投資の話とふるさと納税の話に終始しています。

https://www.minervashobo.co.jp/book/b498424.html

これって、率直に言って、「一億総活躍」をテーマに選んだのが失敗だったということじゃないかという気がしますね。繰り返しますが、ここの論文はなかなか読みごたえがあって面白かったのです。ただ、全体像が像を結ばない。

【特集】「一億総活躍社会」の現実を問う
〈特集趣旨〉座長報告:「一億総活躍社会」の現実を問う(仁田道夫)
「一億総活躍」と身分制雇用システム(禹宗杬)
「一億総活躍社会」の背後で進む「外国人材の活用」:何が彼/彼女らの「活躍」を阻むのか?(鈴木江理子)
タクシー運転者を取り巻く様々な規制と「規制緩和」(中村優介)
日本の労働組合の変貌と現況(浅見和彦) 

あと、この号で興味をひかれたのは、梅崎修さんらによる家族賃金の論文です。人権争議と謳われた近江絹糸争議後の労使交渉で、労働側が男女異なる賃金制度を要求していたという話。まあ、拙著『働く女子の運命』の一つのテーマでもあるんですが、生活給原理から男女異なる扱いを当然視していたのは労働組合サイドであったということを実証しています。

【投稿論文】
「家族賃金」観念の形成過程:近江絹糸人権争議後の交渉を対象に(梅崎 修・南雲智映・島西智輝・下久保恵子) 

 

2020年4月14日 (火)

緊急コラム「新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来」

Hlogo JILPTのホームページに緊急コラムとして「新型コロナウイルス感染症と労働政策の未来」をアップしました。新型コロナ雇用対策のうちから注目すべき3つを取り出して、近年の労働政策の流れの中でどう評価すべきかを論じております。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/002.html

 2020年度は何層もの新たな労働政策の門出として出発するはずであった。いや、確かに、法制上はそのように始まった。2018年6月に成立した働き方改革推進法により、既に大企業には2019年4月から施行されていた長時間労働の規制が、2020年4月から中小零細企業にも適用された。同法のもう一つの柱である非正規労働者に対する同一労働同一賃金は、大企業と派遣事業については2020年4月から施行された。2017年5月に成立した民法(債権法)改正の施行日も2020年4月であり、これによる消滅時効の改正に合わせて、2020年3月末に駆け込みで成立した労働基準法第115条の改正(本則5年、附則で当分の間3年)も、同年4月から施行されている。さらに、2019年5月の労働施策総合推進法等の改正により、いわゆるパワーハラスメントに対する事業主の措置義務が、2020年6月から施行され、セクシュアルハラスメント等他のハラスメントへの規制も強化される。このように、労働政策上の大きなエポックになるはずであった2020年度は、しかしながら、2020年初めから世界的に急速に蔓延しパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症への緊急対策が続々と打ち出される中で始まることとなった。ほんの数か月前までは誰も想像していなかったであろう事態であり、現時点ではほぼ誰もその行き着く先を予想することもできない状況である。そうした中で労働政策の未来を論ずるのもなかなか難しいところがあるが、本稿では新型コロナウイルス感染症への緊急対策として打ち出されてきている政策を分析することを通じて、今後の労働政策の方向性を考えてみたい。

1 外的ショックに対する雇用維持型政策の再確認と修正 

2 テレワークの推進が問い直すもの 

3 小学校休業等対応助成金とフリーランス労働対策の(意図せざる)出発 

指宿昭一『使い捨て外国人』

03251739_5e7b18d4c7bfd 指宿昭一さんの『使い捨て外国人~人権なき移民国家、日本~』(朝陽会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.ak-law.org/news/2716/

なぜこんなに冷酷なことができるのか⁈
外国人労働者に対して-
 ひどいパワハラ、おぞましい性暴力、時給300円。
送り出し国での借金と、日本でのパスポートを取り上げで身動き取れなくする人質システム
日本に暮らす外国人に対して-
 入管の独断で突然の収容。家族と引き裂き強制送還。
収容者のハンストで死者も出た。
希望を奪う入管の“魂の殺人”の現実
外国人事件専門の弁護士、渾身の奮闘記。 

指宿さんがこの3年間『時の法令』に連載していた「現場報告:外国人労働者と人権」と「現場報告:入管と人権」を一冊にまとめて、最近の講演を巻頭に持ってきた、指宿さんの外国人労働者問題に関する活躍の全貌がわかりやすくまとめられた本です。

第1章 外国人労働者と人権
1 技能実習生の権利主張を阻む様々なシステム
2 送り出し国段階での中間搾取
3 現場から① 過酷! 技能実習生の賃金・労働条件
4 現場から② 外国人労働者と労災
5 現場から③ ハラスメントが多すぎる
6 現場から④ いつ辞めさせられるかわからない
7 現場から⑤ 人身取引⁈~騙されて約束と違う仕事に就かされた
8 現場から⑥ 技能実習生が恐れる「強制帰国」
9 外国人労働者受け入れ制度はどうあるべきか
10 外国人労働者の権利救済のためにすべきこと

第2章 入管政策と人権
1 入管収容の現場で~外国人には人権がない⁈
2 就労禁止! 再収容を恐れる仮放免者の生活
3 在留特別許可の難しさ
4 生まれも育ちも日本。でも在留資格がない!
5 現場から① 適法に在留することも出国もできない
~宙に浮いたスリランカ人
6 現場から② 不法就労を助長したとして永住者が退去強制
7 現場から③ 単身赴任が偽装結婚と見なされ、退去強制命令
8 現場から④ チャーター機による一斉強制送還
9 現場から⑤ 劣悪な被収容者の医療環境
10 被収容者・仮放免者はどう闘ってきたか

近々刊行される野川忍編『労働法制の改革と展望』(日本評論社)に、私は「日本の外国人労働者法政策-失われた30年」という小文を寄せておりますが、そのねじれた日本の外国人労働者政策の矛盾の表れの事件を一つ一つ拾い上げて、外国人労働者の権利確保のために活躍してきたことが、本書の各項目ごとによく浮き彫りになっています。

 

 

 

2020年4月12日 (日)

雇用調整助成金以前のエピソード

Royal タクシー会社のロイヤルリムジンが、新型コロナの影響による経営状況の悪化のため、グループ会社の従業員約600名を解雇することが話題を呼んでいます。

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200412-00172870/

POSSEの今野晴貴さんが解説していますが、実は法律上の解雇ではなく、合意退職の形をとっているようです。会社側が「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断した」「感染拡大の影響が終息すれば再雇用したい」などと説明していることに対して、そもそも再雇用を予約していれば雇用保険法上の事故である「失業」とは認められないので、失業給付を受けられないはずです。

11021851_5bdc1e379a12a_20200412225601 ただ、こういう工夫を思いつくこと自体はあり得る話ではあります。というか、実は雇用保険法以前の失業保険法時代、今から66年前の1954年に、似たようなやり方が認められたことがあるのです。これは、拙著『日本の労働法政策』の157ページにも書いたエピソードですが、本来失業保険法の趣旨に反する再雇用予約付きの一時帰休労働者に失業給付を支給したことがあります。

(2) 一時帰休労働者への給付
 これは法改正ではないが、雇用保険法への改正によって登場した雇用調整給付金の先駆とも見られるものであり、注目しておく必要がある。
 1954年7月、金融引締措置による企業整備が続発する中で、通達「一時帰休制度による失業保険の取扱について」(職発第409号)が発出され、事業経営が窮境にあり大量の失業者が発生するおそれがあるとき、労使間で3か月の一時帰休及びその後6か月の再雇用について労働協約又は労使協定で合意が確保される場合には、一時帰休率2割以下の限度で一時帰休労働者に失業保険金を支払うことを認めるものであった。
 再雇用が予定されているのであるから本来は失業には該当しないはずであるが、実際に大量失業者の発生をもたらすことになるよりも失業保険財政によって解雇を抑制する方が望ましいという考え方であり、ちょうど同じ1954年に小坂善太郎労相の新労働政策によって解雇制限法の制定が打ち出され、解雇に正当理由を要求し、大量解雇を許可制とする案が示されたのと軌を一にしている。

これは言うまでもなく、まだ雇用調整助成金ができるはるか前のエピソードであり、雇用調整助成金と同じ効果をもたらすためには、失業保険法の趣旨には目をつぶってもらってややインチキをするのもやむを得ないという判断に基づくものであったので、雇用調整助成金が既に存在し、しかも今回のコロナウイルスに対応して相当程度(もちろんまだいろいろと文句はあるでしょうが)要件や手続きが緩和されていることを考えれば、そっちを利用すればいいのにわざわざこんな紛らわしい、悪用されかねないやり方をルールをまげて認める余地はほとんどないといえるでしょう。

 

 

2020年4月 8日 (水)

川口美貴『労働法〔第4版〕』

507601 川口美貴さんより分厚いテキスト『労働法〔第4版〕』(信山社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b507601.html

あれ、昨年第3版をいただいたんじゃなかったっけ?実は本書、2015年に初版を出したのち、2018年に第2版、2019年に第3版、そして2020年に第4版と、ここのところほぼ毎年改訂という凄いペースです。他のテキスト類はほぼ2年に1回(それも結構ハイペースですが)なので、本の分厚さ(1200ページを超える)も考えると、川口さんのエネルギーも凄いものがあります。

最後の最後まで盛り込むべきことを盛り込もうとするその姿勢は、先月末に成立した労働基準法改正による賃金の消滅時効が2年から本則5年、附則で当分の間3年となることもちゃんと300ページに改正案の内容として記述されていることにも表れています。ちなみに、JILPTの労働関係法令集も、当該改正案による改正後の条文を載せておりますのでよろしく。

あと、今JILPTの英文誌JLIに評釈を掲載する予定にしている企業組合の組合員の労働者性が問題になったワーカーズコレクティブ轍・東村山事件も、本書の85ページで詳しく取り上げています。まあ、凄い人です。

 

『労働六法2020』

506339_20200408130601 『労働六法2020』(旬報社)をお送りいただきました。

http://www.junposha.com/book/b506339.html

Houkishu2020_20200408131101 わたくしにとっては、執筆者の一人としてぜひ売れてほしい本であるとともに、同じ携帯型労働法令集のライバルとしてJILPTの『労働関係法規集 2020年版』を出している側の人間としては、「いやできれば、こっちを使ってよ」と言いたくなるという、なかなか板挟みな関係ではあります。

ただ、JILPTの『労働関係法規集』が法律、政令、省令、告示までの、官報に載る法令の範囲にとどめているのに対し、『労働六法』は通達類もかなり載せていますし、判例も91個、そして国際労働法としてILO条約やEU指令等も載せています。

このうちEU指令については私が担当しているもので、今回は育児休業指令の代わりにワークライフバランス指令、そして新たに透明で予見可能な労働条件指令とEU法違反通報者保護指令の、計3個の指令を新たに載せています。

 

2020年4月 6日 (月)

萬井隆令さんの(ほかの方への)批判論文の注釈におけるわたくしへの言及について

萬井隆令さんより紀要の抜き刷りが送られてきました。わたくしは原則として、刊行物については本ブログ上でご紹介しておりますが、抜き刷りについては省略させていただいております。ただ、その中にわたくしに対する言及等があった場合には、それに対するコメントをすることがあります。

今回お送りいただいたのは、『立正法学論集』53巻2号の「論評:高橋賢司「労働者派遣法の法政策と解釈」」と、『龍谷法学』52巻4号の「労働者派遣と「常用代替防止」論」ですが、前者は表題通りもっぱら立正大学の高橋賢司さんを批判しているものなので、私にかかわりがあるのは後者です。

とはいえ、高梨昌、高橋賢司、本庄淳志、浜村彰といった方々がいずれも本文で面と向かって批判されているのに対して、わたくしは注27で

(27)濱口桂一郎氏は、派遣法の目的は「常用代替防止」である」(同「本当の意味での派遣労働者の保護とは何か」『情報労連REPORT』2012年11月号)とか「常用代替防止という日本独自の派遣法思想」(同「ようやく普通の法律になった労働者派遣法」)https://www.nippon.com/ja/currents/d00203/ )と述べられる。それが浜村氏の言う「政策原理」と同義なのかは、濱口氏は詳述されないのでわからない。

と、ついでのように言及されるだけです。

この言及がそもそも私の議論を批判するものなのか、そうではないのかすらよく分かりませんが、ただ、そこに示されているかつての私の文章をちらりとでも読めば、通常の法律学の論文なんかよりはるかにストレートに書いたつもりであり、それがどういう意味であるのかはあまりにも明白だと思われるので(浜村さんの議論と同じかどうかなどは別にして)、「詳述されないのでわからない」などという言われ方は如何なものかと感じた次第です。

どれくらい明白かつストレートに書いたのかは、注27でURLを明記いただいているニッポン・コムの文章の該当部分を読んでいただければわかると思いますので、引用しておきます。

https://www.nippon.com/ja/currents/d00203/ (ようやく普通の法律になった労働者派遣法)

 労働法研究者の多くがうすうす気付いているにもかかわらず、あえて言挙げしてこなかったことは、今までの日本の労働者派遣法が世界的に見て極めて異例な仕組みであったということである。先進諸国の派遣法は、派遣労働者を保護するための労働法である。当たり前ではないかと思うかもしれないが、日本の派遣法はそうではない。派遣という本質的に望ましくない働き方を抑制するために労働者派遣事業を規制することが目的の事業立法である。問題は、派遣という働き方が誰にとって望ましくないのか、である。
日本独自の「常用代替防止」という法目的
 派遣法制定時の政策文書に明確に書かれているように、「望ましくない」のは日本的雇用慣行の中にいる常用労働者(正社員)にとってであって、派遣という働き方をしている労働者にとってではない。それを象徴する言葉が派遣法の最大の法目的とされる「常用代替の防止」である。派遣という「望ましくない」連中が侵入してきて、われわれ常用労働者の雇用が代替されては困る、という発想である。
 ではどうしたら常用代替しないように仕組めるか。1985年に初めて労働者派遣法が制定された時のロジックは、新規学卒から定年退職までの終身雇用慣行の中にいないような労働者だけに派遣という働き方を認めるというものであった。それを法律上の理屈としては、専門的業務だから常用代替しない、特別な雇用管理だから常用代替しない、と言ったわけである。 
 しかし、その「専門的業務」の主たる中身は、派遣法制定当時は結婚退職することが多かったOLと呼ばれる事務職の女性たちが担う「事務的書記的労働」(法制定に尽力した労働経済学者、故高梨昌氏の言葉)であった。「ファイリング」という職業分類表にも登場しない「業務」が最大の派遣専門業務となったのは、法律と現実の間の論理的隙間を埋めるものであり、後には事務職なら最低限のスキルとなる「事務用機器操作」が専門業務としてその隙間を埋めた。
 このごまかしが世間で通用したのは、OLは新規学卒から結婚退職までの短期雇用という暗黙の了解の下に、派遣労働者でOLを代替することは常用代替ではないと認識されていたからであろう。男性正社員の終身雇用さえ維持できれば、OLがいくら派遣に代替されても構わなかった。その虚構を維持するためなら、高度な専門業務をやっている男性の派遣を「専門的業務でないから」といって禁止しながら、実際には補助的な事務を担う女性の派遣ばかりが「専門的業務」の名の下に増加しても、誰も文句を言わなかったのである。

 

2020年4月 4日 (土)

橋本陽子編『EU・ドイツの労働者概念と労働時間法』

507354 橋本陽子編『EU・ドイツの労働者概念と労働時間法』(信山社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b507354.html

日独から参集した第一線の執筆陣が、近年改めて議論が盛んな「労働者概念」と「労働時間法」の最新動向を考察する。 

「日独から参集」とありますが、昨年(2019年)9月に開かれた日独労働法シンポジウムに、ドイツのそうそうたる労働法学者たち5名が招かれた時の記録です。

◇日独労働法シンポジウム「労働者概念と労働時間法の最近の展開」の開催に当たって〔和田 肇〕
◆第Ⅰ章 本書の内容〔橋本陽子〕
◆第Ⅱ章 労働者か自営業者か―方法論と比較法―〔ロルフ・ヴァンク(桑村裕美子 訳)〕
◆第Ⅲ章 事業者としての地位と労働者保護との狭間に位置する個人自営業者〔フォルカー・リーブレ(後藤究 訳)〕
◆第Ⅳ章 有限会社の業務執行役員の法的地位:使用者、使用者類似の者または労働者?―ドイツ法およびEU法の観点からの検討〔カーステン・ハーゼ(橋本陽子 訳)〕
◆第Ⅴ章 労働者概念の最近の展開に寄せて〔皆川宏之〕
◆第Ⅵ章 デジタル化する労働の世界における労働時間法―現実と法の通用性の間で―〔リューディガー・クラウゼ(細谷越史 訳)〕
◆第Ⅶ章 架橋的パートタイム制の導入とパートタイム労働の権利の展開〔フランツ・ヨーゼフ・デュヴェル(緒方桂子 訳)〕
◆第Ⅷ章 日独の労働時間法とパート法―クラウゼ教授およびデュベル教授の見解へのコメント〔高橋賢司〕 

労働者概念と労働時間の二大トピックですが、やはりヴァンク教授をはじめとするドイツ流の緻密な労働者概念の追及は読んでいて面白いです。

German ちなみに、この中で2017年の民法典改正で挿入された労働者の定義規定(611a条)というのがでてきますが、それも含めた現代ドイツの労働法の条文は、つい先日アップされたばかりのJILPT資料シリーズNo.225「現代ドイツ労働法令集Ⅰ―個別的労働関係法―」に載っております。訳語は本書とはいささか違いますが。

第 2 編 債務関係法
第 8 章 個別的債務関係
第 8 節 役務提供契約(Dienstvertrag)及び類似の契約
 
第 1 款 役務提供契約
第 611a 条 労働契約(Arbeitsvertrag)
(1) 1 労働契約により、労働者は、他者のために、人的な従属のもと、指揮命令に服 しつつ、他人決定的な労働を給付することの義務を負う。2 指揮命令権は、職務の内容、 遂行、時間及び場所に関係するものでありうる。3 自らの職務及び労働時間を本質的に自 由に決定しえない者は、指揮命令に服している。4 ここでの人的従属性の程度は、その都 度の職務の特性にも従う。5 労働契約の存否の判断については、すべての事情を全体的に 考慮しなければならない。6 契約関係の実際上の遂行が、労働契約性を示している場合に は、契約の呼称は基準としないものとする。  
(2) 使用者は、約定された報酬を支払うことの義務を負う。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/225.html

山本陽大 労働政策研究・研修機構副主任研究員
井川志郎 山口大学経済学部准教授
植村新 京都女子大学法学部准教授
榊原嘉明 名古屋経済大学法学部准教授 

こちらもフルに使ってやっていただければ幸いです。

2020年4月 3日 (金)

新型コロナ対策に関する諸外国の動向@JILPT

JILPTのホームページに、新型コロナ対策に関する諸外国の動向がアップされました。

https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2020/document/focus20200403.pdf

Kaigai

 

 

『月刊連合』4月号

202004_cover_l 『月刊連合』4月号の表紙では、モナリザがマスクをして「無理せず休もう」と言っています。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

中身は、まず「3月6日は『36(サブロク)の日』36協定が働く人を守る」と題して、神津会長も入ったパネルディスカッション。

次は「「曖昧な雇用」の問題点が見えてきた!」と題して、フリーランスの問題点を摘出しています。総合政策推進局長の仁平章さんがこう述べているので、期待して待ちましょう。

・・・連合としての「曖昧な雇用」で働く就業者の法的保護に関する考え方について検討しており、近く考え方を取りまとめる予定だ。

表紙のマスク姿のモナリザの話題は、ようやく後の方の「若菜センセイに叱られる!?」に出てきます。「新型コロナウイルスの感染拡大と雇用不安」では、こう述べます。今号でいちばん読者に突き刺さる言葉かも知れません。

・・・社会は、組合員の雇用と労働条件を守る労組が、組合員以外の労働者のことをどう考えているのかを見ている。

 

 

 

 

 

アメリカが特殊なんです

新型コロナウイルスはいまやアジア欧米、世界中で猛威を振るっていますが、後から急激に感染が拡大したアメリカで一気に失業者が増えたのを見て、これがジョブ型雇用社会の現実か、という声もあるようです。

https://twitter.com/gelsy/status/1245820828366733313

ジョブ型雇用社会の現実 / “米国の新規失業保険申請グラフ、コロナウイルスで完全に壊れる : 市況かぶ全力2階建” 

ただこれ、同じジョブ型社会といってもアメリカとヨーロッパではだいぶ違います。いま必要な労働力だけを雇えばいいというアメリカに対して、ヨーロッパの特に大陸諸国は、職業意識は強いのでほかの関係ない仕事に配転するということには抵抗が強いですが、リーマンショックや今回のコロナショックのような一時的な急激な労働需要減少に対しては、将来回復するまで(当座仕事はなくても)雇用を維持するというのがむしろ当然と考えられています。そもそも、日本の雇用調整助成金(今回、解雇しない中小企業には9割給付になった)の原型は西ドイツの操業短縮手当であって、長期的に存在し続ける仕事が一時的に減少するのに対してやたらに解雇することには否定的な諸国が多いのです。

先日、JILPTの天瀬副所長のコラムにもあったように、これまでそういうスキームのなかったイギリスでも、ジョンソン政権下で新たに導入されています。いまやむしろアメリカの方が特殊と言っていいのでしょう。

https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/column/001.html

ちなみに、欧州労連が欧州労研に作らせたEU諸国の雇用調整助成金型のスキームの一覧表がこちらにあります。

https://www.etuc.org/sites/default/files/publication/file/2020-04/Covid_19%20Briefing%20Short%20Time%20Work%20Measures%2031%20March.pdf

ちなみに、ここにはその他の各国の施策表も載っており、この自営労働者対策も興味深いです。

https://www.etuc.org/sites/default/files/publication/file/2020-04/PF%20Covid-19%20Briefing%20self-employed%20workers%20%2BSC%20-%20FINALE.pdf

 

2020年4月 2日 (木)

『HRmics』35号は労使関係が特集

1_20200402201601 海老原さんのニッチモの『HRmics』35号は「あいまいな、日本の,労と使」というちょっと不思議なタイトルの特集です。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_35/_SWF_Window.html

1章 日本人が煙たがる「労働運動」をもう一度考える
§1.最低限知っておくべき2つの仕組み
§2.2つの仕組みはどのように形作られたのか?

2章 欧州でも満点とはいえない労使協議の仕組み
§1.労使協議デュアル・チャンネルの元祖が悩み深い状況に
§2.従業員代表制と代表的組合の仕組みが近年大きく変わる
§3.シングル・チャネルでも事足りる仕組みを構築

3章 変わるか? 日本の集団的労使関係
§1.日本における従業員代表制を巡る議論と歴史
§2.「2つの問題」を取り除く解 

今回の特集、もちろん大部分を執筆しているのは海老原さんですが、そこにいろいろと情報を注入しているのはJILPT軍団です。

1章の§2は海老原さんと私との対談ですし、2章はドイツの§1が久本憲夫さんと山本陽大さん、フランスの§2が細川良さん、スウェーデンの§3が西村純さんと、これは久本さんを除けばJILPT組で占めちゃってますな。

海老原さんがそうやって労使関係をいろいろと勉強した結果たどり着いた結論は何だったか。それは上記リンク先に書いてあります。

 

桝本純さんのこと

51x0hiqpril__sx350_bo1204203200_ 昨日、情況出版の服部一郎さんより送られた櫻井善行『企業福祉と日本的システム』を紹介しましたが、実はそれに同封して、服部さんも編集に加わっている雑誌『情況』2020年冬号もいただきました。

http://www.mosakusha.com/newitems/2020/01/_202057.html

特集は「ポピュリズムの時代」で、下記のように結構硬派な論文が並んでいますが、ここではそれが主眼ではありません。 

左翼ポピュリズムは、安倍政権へのオルタナティブとなりうるか-最近のイタリアの議論を参照して考える | 中村勝巳
右翼ポピュリズムの躍進-「左翼の衰退」と「非極右性」を中心として | 諏訪共平
中国革命の「群衆」-晋察冀軍区「抗敵劇社」を中心に | 丸川哲史
「ロペス・オブラドール政権」とポピュリズム | 山端伸英 

実は目次の左端の方に、「追悼 桝本純さんを偲んで」とか「桝本純さんを偲ぶ会への弔辞」といった文章が載っているんですね。

桝本さんは、ここではかつてのブントの理論的リーダーとして「偲」ばれているんですが、彼はその後労働組合ナショナルセンターの同盟のプロパー職員となり、その後連合に移り、連合総研の副所長もされていて、私との関係ではこの頃にかなり密接なおつきあいをさせていただいたんですね。

彼のおじいさんが第1回ILO総会に労働者代表として出席した桝本卯平であったということは、本ブログでも何回か取り上げてきた話題です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2020/02/post-570d52.html(桝本卯平@ILO第1回総会のその後)

・・・・ILO第1回総会における日本の労働者代表となった桝本卯平がその後どうなったかを知る人は少ないのではないでしょうか。実は彼は労働問題の論客となり、『労資解放論』などの著書もあるほか、持論の労働者自治生産を実行しようとしたりと、いろんな活動をしています。 

さらに、彼の娘である桝本セツがその世界では有名人です。左翼運動に飛び込み、妻子ある岡邦雄を「略奪愛」して子どもを産む。その姿は澤地久枝の『昭和史のおんな』(文春文庫)に描き出されています。
そうして生まれた子どもが、昨年亡くなった元連合総研副所長の桝本純さんであったということを、知る人はどれくらいいるでしょうか。旧同盟から連合に移った組合書記プロパーとしての彼を知る人は労働界隈には結構多いと思いますが、その血脈を語ることはほとんどなかったですから。
退職後、卯平じいさまのことを調べて本にしたいみたいなことも語っていましたが、かなわなかったようです。 

 

早川智津子『外国人労働者と法』

507605 早川智津子三の新著『外国人労働者と法― 入管法政策と労働法政策』(信山社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.shinzansha.co.jp/book/b507605.html

日本政府は、「移民・単純労働者は受け入れない」という入管法政策の方針転換の言明はさけつつ「外国人高度人材グリーンカード」を導入したり、介護・農業・建設分野などを「専門的技術分野」として外国人受入れを進めている。現状の受入れ準備には多くの懸念があるが、本書は、こうした激変する入管法政策に対し、外国人労働政策全体としてのあるべき姿を示そうと試みた労作。 

という惹句を見ると、かなり踏み込んだ議論をしているようにも見えますが、むしろ極めて丁寧に制度の細かいところを分析しており、政策提言的なところは相当に控えめです。それがむしろ早川さんの持ち味でもあるのでしょう。とりわけ、「入管法政策と労働法政策」なんていう話になると、私だったら(以前書いた論文等でも露呈しているように)法務省入管局と労働省の仁義なき権限争いの帰結として描き出すところですが、早川さんはそういう野蛮な記述はしません。淡々と制度の変遷を叙述していきます。

◇序 問題の所在

◆第1部◆ 外国人労働政策の視点

◆第1章 法政策の視点
◆第2章 入管法政策の手法
◆第3章 労働法政策の手法

◆第2部◆ 日本法の状況

◆第1章 入管法政策の展開

第1節 わが国の入管法政策
第2節 新たな動向の背景
第3節 高度人材ポイント制
第4節 日系人労働者
第5節 その他の受入れ状況
第6節 2018年入管法改正

◆第2章 労働法政策と外国人

第1節 労働法による保護
第2節 不法就労者の扱い
第3節 国籍差別をめぐる問題点
第4節 解雇及び雇止め
第5節 安全衛生・労災補償
第6節 その他の雇用管理をめぐる問題点
第7節 労働組合法
第8節 労働市場法
第9節 2018年入管法改正後の対応

◆第3章 外国人技能実習制度

第1節 技能実習制度の沿革
第2節 技能実習法の制定
第3節 技能実習生の賃金と処遇
第4節 技能実習と関係者の責任
第5節 研修生の労働者性をめぐる議論と裁判例
第6節 技能実習契約の性格と就労請求権
第7節 技能実習制度と労働市場法
第8節 技能実習生の雇用管理をめぐる問題点

◆第4章 日本法の課題

◆第3部◆ アメリカ法の検討

◆第1章 入管法政策⑴ 通常の労働証明制度
◆第2章 入管法政策⑵ 一時的労働証明制度
◆第3章 労働法政策⑴ 労働法の適用・不法就労問題
◆第4章 労働法政策⑵ 差別禁止
◆第5章 労働法政策⑶ 労災補償・失業保険
◆第6章 労働法政策⑷ 職業紹介
◆結びに アメリカ法の要約と日本法への示唆 

ちなみに、そういう野蛮な議論を読みたい人は、そろそろ刊行されるはずの野川忍編著『労働法制の改革と展望』(日本評論社)の第13章(日本の外国人労働者法政策――失われた30年)をみてください。ほぼ同じ対象を扱いながら、文体が実に違います。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784535524224

2020年4月 1日 (水)

櫻井善行『企業福祉と日本的システム』

Sakuraikigyofukushi 情況出版の服部一郎さんより、櫻井善行『企業福祉と日本的システム──トヨタと地域社会への21世紀的まなざし』(ロゴス)をお送りいただきました。

http://logos-ui.org/book/book-35.html

本書の特質は、おそらく恩師である十名直喜さんのこの推薦の辞が一番言い表しているのでしょう。

本書は、トヨタと西三河地域をモデルにして、幅広い視点から企業福祉の日本的な特徴と課題を分析した労作である。「企業福祉」研究を社会科学的な分析へと昇華させたところに、その真骨頂がある。
 企業と家族に福祉をゆだねるという日本型福祉を担ってきた「企業福祉」は、日本的な労使関係や働き方、深刻な階層間格差の一因にもなってきた。本書は、働き方、労使関係、企業内教育、地域社会など多様な視点から「企業福祉」を体系的に捉え、その光と影の両側面を浮かび上がらせている。さらに、混迷を増す企業福祉の未来像も提示する。企業内の施策にとどまらず、協働的な地域づくりの触媒として活かすべしとの政策提起は示唆に富む。
 西三河地域で暮らし働きつつ傾注してきた四半世紀にわたる研究成果が込められている。ご一読されその魅力と迫力に触れていただきたい。

人事労務管理論の世界では福利厚生はそれなりの重みのあるわき役ですが、本書はそれが愛知県の研究者を中心としたいわゆる批判的トヨタ研究の一環としてなされている点が特徴でしょう。

ただ、ではそれがすごく意味のある発見をもたらしているのかという点については、正直言ってあまり目の覚めるような思いをさせられなかった感はあります。例えばトヨタは日本型システムのもっとも典型とみるべきなのか、むしろ例外的なのかという点も、よく詰められていないよううな。

せっかくお送りいただいているので、なにかこれこそという点を見つけ出してほめるべきかもしれないのですが。

JILPT資料シリーズNo.223『過重負荷による労災認定事案の研究 その1』

新型コロナで世情騒然とする中、例によって年度末の駆け込みでJILPTの研究成果物が一気に20冊ばかりアップされました。

https://www.jil.go.jp/institute/list/index.html

Kaju とても全部は紹介できないし、人によって関心も異なると思いますので、ここでは研究手法という観点で注目すべき成果を一つ。それは、JILPT資料シリーズNo.223『過重負荷による労災認定事案の研究 その1』です。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/documents/223.pdf

本研究は、過労死・過労自殺等の業務上災害が、なぜ、どのようにして発生するのかを、労働や職場の視点、すなわち職務遂行や職場管理等の社会科学的視点から明らかにすることを目的とする。具体的には、労働時間の長さに着目しつつも、その背景には様々な、職場・業務の事情や物理的・心理的負荷が複雑に絡み合って、過労死・過労自殺等の過重労働が生じていると考えられるところ、個別事案における労働災害発生の主な要因を明らかにしようと試みるものである。

どこが注目すべきかというと、その研究手法です。

独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センターが保有する資料を基に調査研究を行った。下記研究担当者は、①上記資料を基に作成されたデータベースに依拠した定量的な労災認定事案全体の傾向把握、② 発症年代・職種、時間外労働時間数を考慮して一定の基準で抽出した脳・心臓疾患事案の事例分析、③若年層の精神障害事案(かつ生存事案)における記述内容の質的分析(業務負荷に関する被災者本人の問題認識と、職場の上司・同僚等の事実認識・評価を照らし合わせ、事案の経過における被災者の業務負荷や職場の状況についての把握と分析)を行った。(*なお、以下では、脳・心臓疾患事案を「脳心事案」と、精神障害事案を「精神事案」と表記する。)

この「労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センターが保有する資料」というのが何かというと、

過労死研究センターは、平成26 年に制定された過労死等防止対策推進法が定める調査研究事業(8 条)を背景に設置されたものであり、国から、過労死・過労自殺等の脳・心臓疾患、精神疾患に関する行政資料、つまり主として労働基準監督署において認定・判断が行われた資料(調査復命書等資料)を提供され、保有し、調査研究に活用している。 

つまり、労働基準監督署が個々の労災事案について作成した行政文書そのものなんですね。こういう、それ自体は一般に公開されない行政文書それ自体を分析の素材として行う研究としては、実は私がはじめてやった労働局のあっせん事案の分析が有名ですが、こっちは過労死・過労自殺にに係る労災認定事案を分析の対象とするというもので、過労死防止対策推進法に基づく研究成果であるという意味でも注目に値すると思います。

分析内容はここでいちいち書きませんので、リンク先を御覧下さい。池添さんと高見さんというJILPTきっての労働時間専門家による分析です。

あと、中身には立ち入りませんが、労働法・労使関係に関わる研究成果だけ羅列しておきます。

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/224.html (パワーハラスメントに関連する主な裁判例の分析)

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/225.html (現代ドイツ労働法令集Ⅰ―個別的労働関係法―)

https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/231.html (中国のプラットフォーム就労関連裁判例の整理と分析)

https://www.jil.go.jp/institute/discussion/2020/20-04.html (労働協約を通じた派遣労働者の賃金決定―スウェーデンの事例から)

 

 

 

 

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