オワハラは日本型雇用の産物?
京都大学のホームページに研究成果として「就職活動終われハラスメントが日本的雇用に起因することを解明 -内資・年功序列・古い設立年の企業がオワハラをしやすい-」というのが載っています。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/200316_1.html
太郎丸博 文学研究科教授、水野幸輝 文学部生は、就職活動終われハラスメント(以下、オワハラ)の一因が、日本的雇用にあることを明らかにしました。
オワハラとは、企業が就職活動中の学生等に対して他社の選考を受けないよう要求することですが、職業選択の自由を脅かす行為として、政府、経団連、大学から批判されています。また、オワハラをしても学生は嘘をついて就職活動を続けることができるため、学生を自社に就職させる効果があるかも疑わしいものです。
本研究グループが、2019年に就職活動をした学生へのアンケート調査を通して、どのような企業がオワハラをしやすいのか調べたところ、外資系ではなく内資、年功序列があると思われ、昔に設立された歴史のある企業ほどオワハラをしやすい傾向があることがわかりました。この背景には、いわゆる日本的雇用があると考えられます。日本的雇用では企業を家族や地域共同体になぞらえ、長期的で親密な関係を求める傾向が強いと言われています。このような企業にとっては、自社以外の企業への就職を考えることは、そのような共同体の秩序を破壊するに等しい反逆行為といえます。そのため、オワハラは自社への忠誠を求める正当な行為と考えられているのではないか、と考えられます。
本研究成果は、2020年3月16日、17日に開催予定であった「第69回数理社会学会大会」に受理されました。
より詳しい論文はこれ:
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/200316_1/01.pdf
これ、中身ももちろん興味深いのですが、実質的には文学部生の研究発表を、指導教授がここまでリキ入れて宣伝しているというのが凄いです。ちなみに、太郎丸さんのコメントに曰く:
水野くんにやらせてみたら意外と面白い結果が出たので、記者のみなさんのご意見も伺ってみたいと思い、記者発表いたしました。就職活動は学生のその後の人生に大きな影響をおよぼす出会いの場ですし、企業にとっても自社と相性の良い優秀な人材を確保する上でとても重要ですが、それゆえにというべきか、各社がどのような採用活動を行っているのか、比較・検討した研究は少なく残念に思っておりました。
このネタ、ジャーナリスティックにも興味深いと思うのですが、取り上げたのは産経だけのようです。
https://special.sankei.com/a/society/article/20200306/0001.html
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コメント
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「内資、年功序列があると思われ、昔に設立された歴史のある企業」は老舗なのでプライドが高いから単純に内定辞退を無礼だと思って怒ったのでは?という疑問が湧くところではありますね。まあそれを「共同体の秩序を破壊するに等しい反逆行為」と解することもできますが、日本型雇用とのつながりをそこから短絡的に見出すのは無理があるような。
採用人数が少ない企業ほど予定枠を埋められないリスクを回避するためにオワハラを行うという採用人数仮説を棄却していますが、採用人数の内枠まで見ないと単純には棄却できないでしょう。総合職採用の枠で実際にはエリートとノンエリートを区別しながらも一括して採用しているのが現在の日本の大企業の実態のようですから、エリート枠は全体の採用人数のごく一部にすぎない。調査対象である京大生は当然エリート枠での採用になるでしょうから、辞退されれば厳選した少ないエリート枠を埋められなくなるので人事部がそれを回避しようとしたと解釈もできます。まあ新卒一括採用なのでそこで枠を埋めないと挽回できないという日本型雇用ならではの事情もあるでしょうが。逆に言えば通年採用の外資はいつでも挽回できるのでそもそも枠を埋めるという発想がなく、オワハラも少ないと解釈するほうが自然かもしれない。一括採用か通年採用かという条件で見たほうが適切なような。
なかなか発見的意義のある研究だと思いますが、採用政策の中身まで検証して組み合わせなければそれを十分に生かすことはできないでしょう。
投稿: 通りすがり2号 | 2020年3月20日 (金) 16時50分